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実地指導者が新人助産師の分娩期における気づきと解釈を促進する教育

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Academic year: 2021

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実地指導者が新人助産師の分娩期における

気づきと解釈を促進する教育

Education for novice midwives to promote noticing

and interpreting data occurring during delivery

山 本 真 実(Mami YAMAMOTO)

*1

片 岡 弥恵子(Yaeko KATAOKA)

*2 抄  録 目 的 本研究の目的は,分娩期における臨床判断の場面において,実地指導者は新人助産師に対してどの ように気づきを促し,解釈の統合を促進するのかについて,実地指導者の視点から明らかにすることで ある。 対象と方法 本研究は参加観察法,半構成的面接法を用いた質的記述的研究である。関東圏内の病院の指導者,新 人助産師8組を対象とした。データ収集方法は,指導者が新人助産師に教育を行った場面に絞り,参加 観察を行った後,それぞれ個別に半構成的面接法を用いてインタビューを行った。分析は,参加観察か ら得られた教育の場面状況と参加観察後のインタビューを統合して内容分析を行った。 結 果 分析の結果,4つの気づき,解釈を促進する教育場面を抽出した。抽出された場面テーマは,気づき を促す場面として【好機を逃さず活用する】【五感で感じ取る感覚を教える】【自ら気づくよう促す】,解 釈を促進する場面は【発問を用いて推論を引き出す】であった。 結 論 刻々と変化する分娩期において,指導者は,好機を逃さず,新人助産師がその場で五感を用いて感じ 取れるようにし,自ら気づくように促していた。そして,発問を用いて思考するように導いていた。指 導者は,新人助産師の気づきや解釈を促進するために,教えるのに適したタイミングを見極め,その場 で五感を用いて感じ取ることや発問を用いて思考を促すようにかかわることが効果的であると示唆され た。 キーワード:臨床判断,教育,気づき,解釈,実地指導者,新人助産師 2018年11月8日受付 2019年5月5日採用 2019年6月30日公開

*1聖路加国際大学大学院博士後期課程(St. Luke's International University, Graduate School of Nursing Science, Doctoral Program) *2聖路加国際大学(St. Luke's International University)

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Abstract Purpose

The purpose of this study was to explore practicum instructors' actions for and perceptions of how they promoted noticing and interpreting data for novice midwives in relationship to clinical judgment during women's deliveries. Methods

This was a qualitative, descriptive study using participant observation and semi-structured interview with eight pairs of practicum instructors and novice midwives in three hospitals from the Kanto region. Participant observation focused on the scene where the practicum instructors educated novice midwives. After participant observation, prac-ticum instructors were individually interviewed using the semi-structured interview. Data source triangulation from the participant observation educational scenes and the interviews were content analyzed and integrated.

Results

We extracted four educational scenes to promote noticing and interpreting data. The theme of educational scenes promoting noticing were to: (1) utilize without missing opportunities; (2) teach how to notice using the five senses, and (3) encourage their independent noticing. The theme of educational scenes promoting interpreting data was to use questions to promote reasoning skills.

Conclusion

The practicum instructors used every opportunity to encourage the novice midwives to notice the pregnant women's status using their five senses and to independently notice the pregnant women's changing status with deliv-ery. Then, they promoted novice midwives thinking using skillful questioning. In order to promote noticing and in-terpreting data of novice midwives, it was suggested that the practicum instructors should be able to consider the timing suitable for teaching, educate novice midwives to use their five senses to feel the status of pregnant women and to encourage them to expand their thinking and interpreting data through skillful questioning.

Key words: clinical judgment, education, noticing, interpreting, practicum instructor, novice midwife

Ⅰ.緒   言

1.本研究の学術的背景 近年,高齢出産の増加により,ハイリスク妊産婦が 増加し,ケアの担い手である助産師に求められる専門 性も高まっている。しかし,臨床現場で必要とされる 臨床実践能力と,教育課程で修得した能力とが大きく 乖離することによって,新人職員の職場適応への困難 と早期離職が問題とされ,臨床実践能力を高めるため の新卒助産師の教育が求められている現状である(日 本看護協会,2012)。 保健師助産師看護師法第 3 条において,助産師は, 正常妊娠・分娩に関する業務を助産師の責任と判断の もと,行うことができると示されており,助産師の専 門性の一つとして,分娩期の診断とケアは重要なもの であると言える。そして分娩期は,妊娠・分娩・産褥 期の中で,最も産婦と胎児の両方の生命に関わる時期 であり,助産学実習,卒業後の臨床教育において重要 視されている。ハイリスク妊産婦の増加により,助産 師が,産婦を受け持った際に観察する視点は多岐にわ たる。そのため,助産師には,多くの情報をもとに産 婦の状況を判断することが求められている。しかし, 新人看護師は,手がかりとなる情報量も少なく,重要 な情報に気づくことや的確な判断することができない (藤内他,2005;藤内他,2008;宮武,2003)。また, Lasater, et al.(2015)も,臨床経験 1 年未満の看護師 は,臨床経験1年以上の看護師に比べ,臨床判断モデ ルの気づきの様相が少ないと報告している。つまり, より質の高い助産ケアを提供するために,助産師の臨 床判断能力の向上を促す教育が必要であると言える。 Tanner(2006)は,約 200 本の文献レビューを行っ た後,看護過程では看護師の臨床判断プロセスを説 明できないと指摘し,臨床において活用できる看護過 程とは異なる臨床判断モデルを開発した。この臨床判 断モデルのプロセスには,気づき(Noticing),解釈 (Interpreting),反応(Responding),省察(Reflection) の4つの様相があり,看護師の気づきと解釈は,推論 パターンを思いつく誘因となり,適切な行動の決定を 支援する。 Tanner(2006)の臨床判断モデルは,近年,臨床判 断に関する研究および臨床において,広く活用されて いる。Cappelletti, et al.(2014)は,Tanner(2006)の 報告後に看護における臨床判断と臨床推論に関するシ ステマティックレビューを行い,臨床推論・臨床判断

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能力を向上させるためのよりよい教育戦略はまだな く,Tanner のモデルを支持する見解を述べている。 国内では,1990 年代以降から臨床判断の思考過程・ 特徴,看護師の経験年数による臨床判断形成過程につ いての研究が,行われ始めた。しかし,刻々と変わり ゆく臨床の場において,臨床判断をリアルタイムに観 察した研究は,極めて少ない現状である(藤内他, 2005)。実地指導者は,新人助産師の臨床判断を聞き, 臨床判断についての情報が不足している点,情報の統 合ができていない点について,新人助産師の気づき, 解釈を深めることができるように関わることが必要で ある。 そこで本研究は,分娩期における臨床判断の場面に おいて,実地指導者は新人助産師に対してどのように 気づきを促し,解釈の統合を促進するのかについて, 実地指導者の視点から明らかにすることを目的とした。 2.用語の操作的定義 Tanner(2006)の臨床判断モデルを参考に以下のよ うに定義した。 気づき(Noticing):産婦が置かれている状況を知覚的 に把握すること 解釈(Interpreting):行動(ケア)を決定するために産 婦の状況理解を深めること 臨床判断:産婦の置かれている状況を把握,理解し, 状況に適したケアを決定,実行すること,そして,ケ アに対する産婦の反応からケアを振り返ること

Ⅱ.研 究 方 法

1.研究参加者 本研究の研究参加者は,指導者と指導者が教育を行 う新人助産師8組である。指導者の条件は,①分娩室 (LDR)に勤務している,②助産師としての臨床経験 が 6 年以上である(アドバンス助産師(クリニカルラ ダーレベルIII)の指標をもとに設定した(日本看護協 会,2013)。),③臨床での学生もしくは新人への教育 経験が3年以上であることとした。新人助産師の条件 は,①臨床での分娩介助経験数が 10 例未満である, ②分娩室(LDR)に勤務している,③産科病棟での看 護師経験がないこととした。新人助産師は,産科病棟 での看護師経験がある場合は,産科病棟での看護師経 験がない場合に比べ,状況を把握することができ,気 づきや解釈の統合を促す場面が少ないのではないかと 考え,産科病棟での看護師経験がないということを条 件に加えた。 2.データ収集方法 デ ー タ 収 集 期 間 は 2017 年 8 月~10 月 で あ っ た。 データ収集は,実地指導者と新人助産師の参加観察を 行った後に,それぞれ個別に半構成的面接法を用いた インタビューを行った。 1)参加観察 参加観察は,日勤帯に,指導者と新人助産師による 分娩期の臨床判断場面に焦点をあて,行った。そし て,新人助産師が受け持つ産婦から研究に対する同意 が得られた場合のみ,分娩室(LDR)の中の教育場面 と分娩状況について観察を行った。観察中の出来事は 記憶が薄れないように,その場でメモに残した。観察 終了後に時間経過に沿ってフィールドノートを作成 し,指導者と新人助産師の教育場面について,詳細に 記録した。 2)インタビュー インタビューは,指導者と新人助産師に参加観察で 捉えた教育の全場面について,インタビューガイドを もとにそれぞれ個別に,半構成的面接法を用いて 行った。指導者,新人助産師が,教育場面を思い出せ るように一場面ごとに説明した。指導者には,場面ご とに指導者が行った教育について,新人助産師には, 指導者から受けた教育について,考えたこと,思った ことをそれぞれ自由に話していただいた。そして,さ らに教育場面を具体化することができるように,研究 参加者の語りを深く尋ねていった。インタビューは, 研究参加者の事象に対する記憶が薄れないようにする ために,参加観察後 48 時間以内に実施した。インタ ビュー内容は研究参加者の承諾を得て録音した。さら に深くインタビュー内容を掘り下げたい点があった研 究参加者には,連絡を取り,内容の確認を行った。 3.データ分析方法 本研究は参加観察法,半構成的面接法を用いた質的 記述的研究である。分析は,グレッグ他(2016)の内 容分析を参考に,参加観察から得られた教育の場面状 況とインタビュー内容を統合して行った。 まず,指導者,新人助産師のインタビュー内容の逐 語録を作成した。次に,参加観察場面の記述と指導 者,新人助産師の逐語録を反芻して読み込み,指導者 が,新人助産師に対して気づきを促し,解釈の統合を

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促進している場面を抽出した。そして,抽出した場面 において,指導者が,新人助産師に気づきや解釈を促 した教育プロセスを時系列に沿って内容分析を行い, 抽出した場面テーマを導き出した。教育の受け手であ る新人助産師の反応については,場面テーマのプロセ スごとに抽出し,記述した。データ収集・分析は,助 産学領域のエキスパートにスーパービジョンを受け, 真実性と信憑性の確保に努めた。 4.倫理的配慮 本研究は,文部科学省・厚生労働省「人を対象とす る医学系研究に関する倫理指針」をもとに,倫理的配 慮を行った。次の項目について,研究参加者に口頭と 文書で説明し,同意を得た。1)研究参加者の人権を 尊重し,研究参加者に害が被らないようにする,2) 研究参加については参加者の自由意思を尊重する,3) 研究参加途中の辞退も可能である,4)インタビュー は研究参加者の身体状況を配慮する,5)データは, 研究者が厳重に管理し,個人が特定されないように ID番号を用いて取り扱う。また,新人助産師が受け 持つ産婦は,産婦から承諾が得られた場合のみ,研究 参加者とした。本研究は聖路加国際大学倫理委員会の 承認を得た後に実施した。(承認番号:17-A034)

Ⅲ.結   果

1.研究参加者の背景 指導者,新人助産師の背景は,表1, 2に示す。本研 究は,指導者に焦点をあてた研究であるため,新人助 産師の重複については特に制限をしなかった。指導者 と新人助産師の組み合わせがわかるように,同じアル ファベットを使用し,指導者はアルファベットの大文 字で,指導者が教育を行った新人助産師はアルファ ベットの小文字で記す(A指導者が教育した新人助産 師はa)。新人助産師e, fとg, hは重複している。 指導者は,全員がアドバンス助産師の認証を受けて いた。新人助産師2名は,産科病棟以外での看護師経 験があり,経験年数は共に2年であった。産婦からの 同意が得られた E~H の 4 事例は,分娩室内でも観察 を行った。研究協力施設は,3施設であり,全て地域 もしくは総合周産期母子医療センターであった。 2.気づき,解釈を促進する教育 分析の結果,新人助産師の気づき,解釈を促進す るために指導者が行った 4 つの教育場面を抽出した (表3)。抽出した場面テーマは,気づきを促す場面と して【好機を逃さず活用する】,【五感で感じ取る感覚 を教える】,【自ら気づくよう促す】,解釈を促進する 場面は【発問を用いて推論を引き出す】であった。【好 機を逃さず活用する】と【自ら気づくよう促す】は,G 指導者のみに,【五感で感じ取る感覚を教える】は,E と G 指導者に観察された。【発問を用いて推論を引き 出す】は,H指導者に2場面観察された。 場面テーマを【 】で,場面の中での教育プロセス を< >で,実地指導者の語りは“ ”を用いて斜体で, 新人助産師の語りは「 」を用いて斜体で示した。研究 者が文脈から確認し,語りがわかりやすいように内容 を補足したところは( )で示した。 表1 実地指導者の背景 実地 指導者 年齢 教育課程助産師 経験年数(年)助産師 関する研修受講実習指導者に 経験年数(年)新人教育 A 30代後半 大学 11 有 6 B 30代後半 大学 12 有 7 C 30代前半 専攻科 10 無 7 D 40代前半 専攻科 9 無 5 E 40代前半 大学 12 無 5 F 40代前半 専門学校 14 有 9 G 50代前半 専門学校 26 有 25 H 40代前半 専攻科 17 有 15 表2 新人助産師の背景 新人 助産師 年齢 教育課程助産師 助産師経験年数(年目) 助産師免許取得後の分娩介助数 a 20代前半 大学 2 5 b 20代前半 大学 2 8 c 20代前半 短期大学 1 2 d 20代前半 専攻科 1 5 e, f 20代後半 大学 2 0 g, h 20代後半 大学 2 0 表3 気づき,解釈を促進する教育 教育の分類 場面テーマ 教育プロセス 気づきを促す 教育 好機を逃さず活用する 1.変化が目で見える好機を逃さ ない 2.その場で同じ現象を見て,共 有する 五感で感じ取る感覚を 教える 1.触診する適時性を見極める 2.触診するように誘導する 自ら気づくよう促す 1.まずは実践する様子を見守る 2.説明せずに正しい触診方法を 見せる 解釈を促進する 教育 発問を用いて推論を引き出す プロセスなし

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1)【好機を逃さず活用する】 (1)【好機を逃さず活用する】場面 参加観察場面 :内診するために産婦が仰臥位になっ た場面 ベッドに横になっている産婦が,急にお尻が痛いと 言い始めた。内診のために,G指導者とg新人助産師 が,産婦を右側臥位から仰臥位にした。G 指導者は, まず元々かかっていたタオルケットと服を,順に子宮 底が見える位置までそっと捲り上げた。タオルケット と服を取り除くと,産婦は痩身であるため腹部の形状 がはっきりと見える。g新人助産師が,内診しようと した時に陣痛が来た。G 指導者は,“お腹がこじんま りと下に向かっているのには着目しておく。”とg新人 助産師に伝えた。g新人助産師は「はい」とはっきり返 事をし,産婦の腹部に視線を移した。 G指導者の語り “朝からの流れでお腹の形,硬さ,柔らかさ,その 変化を掴んでほしかった。(略)一緒に同じ現象を見て おかなければその共有というのは言葉だけでは伝えづ らい。伝えづらいというか伝わらないので,見ておい てほしかった。” g新人助産師の語り 「触診だけじゃなくて,実際にお腹が動いてきてい るのって見えるんだなと思った。(お腹の)形を見て, 今どの辺に(胎児が)いるのかなとかいうのも,こう 情報として,自分で見ても得られるのかなと。(児頭) 先進部ばかり意識していたような気がしていて,肩は どこにあって,身体はどこにあってというのを今まで 全然意識して見ていなかったなと思ったので,確かに 赤ちゃんがこうやって動いているから,外からも見れ たんだなと思った。」 (2)【好機を逃さず活用する】場の様相 【好機を逃さず活用する】は,2つの気づきを促すプ ロセス<変化が目で見える好機を逃さない>,<その 場で同じ現象を見て,共有する>から構成されていた。 助産師は,産婦の心身の変化を多面的かつ詳細に観 察し,刻々と変化する分娩進行状況を的確に判断して いる。産婦の心身の変化には,新人助産師にはわから ない,または見つけにくいが,臨床的には重要なもの が多くある。指導者は,臨床場面の中で【好機を逃さ ず活用する】ことで,見つけにくい産婦の変化に対す る新人助産師の気づきを促していた。 ①プロセス1<変化が目で見える好機を逃さない> G指導者は,【好機を逃さず活用する】ために,ま ず<変化が目で見える好機を逃さない>ようにしてい た。これは,新人助産師が,発見することが難しい変 化を目で見る,手で触れることにより,五感で捉えら れることができるよう,指導者が,数少ない好機を逃 さず,活用することである。この場面は G 指導者が, g新人助産師に対し,分娩進行に伴う腹部(子宮)の形 状の変化を捉えられるような場を作り,その場で見せ て,言葉で教える場面であった。G 指導者は,g新人 助産師に“朝からの流れでお腹の形,硬さ,柔らかさ, その変化を掴んでほしい”という思いがあり,g 新人 助産師の受け持ち産婦が痩身体型で,腹部(子宮)の 形状の変化を視覚的に捉えやすいことをすでに認識し ていた。そして,内診の場面で産婦は仰臥位になるた め,産婦の腹部全体を視覚的に捉えられる。これら2 つの好条件が重なった時が,g新人助産師にとって産 婦の腹部の変化を目で捉える絶好の機会であったた め,G指導者はこの好機を逃さず活用した。 ②プロセス2<その場で同じ現象を見て,共有する> 次に,指導者は<その場で同じ現象を見て,共有す る>ということをしていた。これは,新人助産師が, 目の前で起こっている現象を見ることで,指導者と同 じ現象を共有することである。この場面で G 指導者 は,内診する時にタオルケットと服を下半身が見える ように取り除かなければ,内診できないということを 利用した。そして,G指導者は,産婦が不自然,不快 に思わないように内診するという一連の流れの中で, 腹部全体を観察しやすいようにタオルケットと服を 子宮底が見える位置まで捲り上げた。G 指導者は, “一緒に同じ現象を見ておかなければその共有という のは言葉だけでは伝えづらい。伝えづらいというか伝 わらないので,見ておいてほしかった。”と語り,g新 人助産師に腹部の形状の変化に着目するように伝えて いた。それに対して,g 新人助産師は「触診だけじゃ なくて,実際にお腹が動いてきているのって見えるん だなと思った。」と語り,目の前で起こっている産婦 の変化を捉え,G指導者と現象を共有していた。 そして,g新人助産師は,「(児頭)先進部ばかり意識 していたような気がしていて,肩はどこにあって,身 体はどこにあってというのを今まで全然意識して見て いなかったなと思ったので,確かに赤ちゃんがこう やって動いているから,外からも見れたんだなと 思った。」と語り,これまで腹部を意識して見ていな かったことに気づき,腹部の形状を観察することは, 産婦の変化を捉えるための重要な観察ポイントである

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と察知していた。 2)【五感で感じ取る感覚を教える】 (1)【五感で感じ取る感覚を教える】場面 参加観察場面1 :歩行中に陣痛が来た時に肛門圧迫 をする場面 産婦がトイレから出てきた時,E指導者が,産婦に “ちょっと歩く?”と声をかけた。産婦が,歩いてみま すとやや疲れた表情で返答した。そして,産婦,E指 導者,e新人助産師の3人でLDRの前の廊下を歩きに 行った。歩いている最中に陣痛が来た。E 指導者が, 産婦の腰をさすりながら“立ち止まって,手すり持っ ていいよ。”と声をかけ,産婦は,苦悶様表情で立ち止 まり,手すりを握った。E指導者がまず,産痛が和ら ぐように産婦が腰を回すのをサポートした。そして, E指導者がe新人助産師の手を産婦の腰に持っていき, e新人助産師が産婦の腰回しをサポートした。次に, E指導者が,e 新人助産師の手をそっと産婦の臀部 (肛門部分)に持っていった。このとき e 新人助産師 は,驚いた様子であった。陣痛が治まった後,産婦, E指導者,e新人助産師はLDRに戻った。LDRで産婦 に陣痛が来た時,e新人助産師は自発的に産婦の臀部 (肛門部分)を押さえていた。 E指導者の語り “私のイメージでは 7cm でステーションはまだ高 かったですけど,結構歩いて動くことでお産が進む人 も結構いて,そういうときって自然に張ってくる(陣痛 が来る)と腹圧がかかったりする人もいるので,お尻の 圧を感じられるかどうかを私はだいたい見るんです。” e新人助産師の語り 「あの時,肛門圧迫をするっていうのは私の中では 考えがなくて。歩き出す前はお尻が押されるとか肛門 圧迫感があるということを私は把握していなくて。普 通に歩いて腰をこう動かしてとかだったので,あそこ (産婦の肛門部分に手を持っていかれた時)は,ハッ としたというか自分の中ではあれみたいな感じでし た。(E 指導者に手を産婦の肛門部分に持って行かれ て,肛門圧迫をするタイミングは)ここなんだ,ここ でするんだという感じでした。お部屋に戻ってからも また肛門圧迫をしていたので,肛門圧迫感とかこう やって触って,もし来るんだったらそれも一つの判断 要素になるし。」 参加観察場面2 :レオポルド触診法を実施する場面 朝の申し送り後に,G 指導者,g 新人助産師,第一 子のお産に立ち合った助産師の3人で,産婦の部屋を 訪室し,産婦と産婦の叔母に挨拶した。産婦は,分娩 監視装置が付けられている状態で,ベッドにあぐらを かいて座っていた。和やかな雰囲気の中,4人で笑い ながら 10 分ほど話をしていた。話の途中で児心音が 取 れ な く な っ た。 G 指 導 者 が, す ぐ に ト ラ ン ス デューサーの位置を直した。その後,胎児の胎位胎向 を確認するために,G指導者が“触診してみようか”と g新人助産師にレオポルド触診法を促した。g 新人助 産師は,産婦に「赤ちゃんの体勢を見るためにお腹を 触らせてください。」と声をかけた。そして,分娩監 視装置のトランスデューサーを固定している2本のベ ルトをつけたまま,産婦の腹部に触れて,レオポルド 触診法の第 1 段から第 4 段の全段階を手早く行った。 G指導者は,g新人助産師がレオポルド触診法を行っ ている様子を何も言わず,じっと見ていた。 g新人助産師がレオポルド触診法を終えた後,G指 導者は,産婦に“もう一度お腹を触らせてくださいね” と声をかけ,トランスデューサーを固定している2本 のベルトを外し,黙ったままレオポルド触診法を正確 な方法で行った。g 新人助産師は,G 指導者がレオポ ルド触診法を行う様子を注視していた。 G指導者の語り “引き継がれた内容だけではなくて自分の手で確認 するということをしてほしかった。そして,その感覚 と自分が勤務している,最初,中間,終わりと経過の 流れを自分でつかむ,変化をつかむためには話で聞く だけではなくて自分の身体で感じてほしかった。” g新人助産師の語り 「触診は,今のタイミングでいいんだと思った。(触 診しようというのは)頭にはあったけど,そのタイミ ングがいつだったらいいのかとか,どんなふうに組み 込まれたらいいのかというのが,具体的にイメージで きていなかった。」 (2)【五感で感じ取る感覚を教える】場の様相 【五感で感じ取る感覚を教える】は,2つの気づきを 促すプロセス<触診する適時性を見極める>,<触診 するように誘導する>から構成されていた。 産婦の状態は,時間経過とともに刻々と変化してい く。分娩期は,意識して見なければ見逃してしまった り,手で触れなければ捉えられなかったりする小さな 変化がある。手で触れ,産婦の情報を収集するという ことは,助産領域の特殊性である。そこで指導者は, 新人助産師に対し【五感で感じ取る感覚を教える】と いうことをしていた。

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①プロセス1<触診する適時性を見極める> 指導者は,新人助産師に【五感で感じ取る感覚を教 える】ために,まず指導者自身が,<触診する適時性 を見極める>ことをしていた。<触診する適時性を見 極める>とは,指導者自身が,産婦の状態や変化を捉 えるために触診することが重要であると判断したり, 触診するべき時期を見極めたりすることである。 参加観察場面 1 は,トイレ後の歩行時に E 指導者 が,e 新人助産師の手を産婦の臀部(肛門部分)に 持って行き,肛門圧迫を行った場面であった。E指導 者は,トイレ後の歩行中,陣痛が来た時に産婦が苦悶 表情を見せたこと,“結構歩いて動くことでお産が進 む人も結構いて,そういうときって自然に張ってくる (陣痛が来る)と腹圧がかかったりする人もいるので, お尻の圧を感じられるかどうかを私はだいたい見るん です。”というこれまでの経験から,今,この時が肛門 抵抗があるかを触診により確認し,分娩が進行してき ているかを判断するタイミングだと考えた。 参加観察場面2は,産婦が分娩監視装置を付けてい る最中に,児心音が拾えなくなった時を利用し,G指 導者が,g新人助産師にレオポルド触診法をするよう に促した場面であった。G 指導者は,g 新人助産師に 対して“経過の流れを自分でつかむ,変化をつかむた めには話で聞くだけではなくて自分の身体で感じてほ しい”という思いがあった。この場面においても,G 指導者は,児心音が取れなくなった時が,レオポルド 触診法を行うタイミングであるとレオポルド触診法を 行う適時性を瞬時に見極めていた。 ②プロセス2<触診するように誘導する> 指導者は,触診する適時性を見極めた後,新人助産 師に<触診するように誘導する>ということをしてい た。<触診するように誘導する>とは,新人助産師に 実際にその場で産婦を触診するように促すことである。 参加観察場面 1 では,E 指導者は,さりげなく e 新 人助産師の手をそっと産婦の臀部(肛門部分)に持っ て行った。e新人助産師は,触診を行うことで肛門抵 抗の有無を手で感じ取っていた。e新人助産師は,「あ の時,肛門圧迫をするっていうのは私の中では考えが なくて。」と語り,手で肛門部分を圧迫することを考 えていなかった。そのため,e 新人助産師は,E 指導 者に手を産婦の臀部(肛門部分)に持って行かれた時, 「あそこはハッとしたというか自分の中ではあれみた いな感じでした。」と驚きながらも,「(E指導者に手を 産婦の臀部(肛門部分)に持って行かれて,肛門圧迫 をするタイミングは)ここなんだ,ここでするんだ。」 と気づいていた。 LDRに戻った後もe新人助産師は,陣痛発作時に自 発的に産婦の肛門抵抗の変化を確認していた。e新人 助産師は,「お部屋に戻ってからもまた肛門圧迫をし ていたので,肛門圧迫感とかこうやって触って,もし 来るんだったらそれも一つの判断要素になるし。」と 語り,手で肛門圧迫をすることで分娩進行を判断する ための観察ポイントを捉えることができるという,触 診の必要性を認識していた。 参加観察場面2でも同様に,G指導者は,“触診して みようか”と g 新人助産師にレオポルド触診法をする ように誘導していた。g新人助産師は「(触診しようと いうのは)頭にはあったけど,そのタイミングがいつ だったらいいのかとか,どんなふうに組み込まれたら いいのかというのが,具体的にイメージできていな かった」ため,G 指導者のかかわりにより,「触診は, 今のタイミングでいいんだ」と捉えることができてい た。 3)【自ら気づくよう促す】 (1)【自ら気づくよう促す】場面 参加観察場面 :【五感で感じ取る感覚を教える】参加 観察場面の記述を参照 G指導者の語り “レオポルド触診法は,本来であれば学生時代に学 んでいることなので,モニターが付いていたらできな い,外して正確に見てほしいという気持ちがありまし た。でも,それも最初から1から10まで教えるのでは なくて,新人さんはどのように教わって,何も言わな いで(レオポルド触診法を)してもらったら,どんな ふうにやるのかなとこれもまた探りながらですね。彼 女はどこまで理解しているかなと探りながら。助産技 術によってはお母さんに迷惑をかけてしまうような間 違った内診方法とか,間違った採血とか,侵襲度の高 いものはそういったことはしないんですけど,モニ ターを外す外さないくらいのお母さんにあまり迷惑を かけないことはやってもらって,本当はこうですよと 後からこう(レオポルド触診法を)やってみるという ふうにして示したかった。” g新人助産師の語り 「モニター(分娩監視装置)を一回外して,形からま ず見るという,技術の根本的なところを見せても らった気がします。私が最初に(レオポルド触診法 を)やって,そのあと指導者さんがやってくださった

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んですけど,触り方と見る位置,触る位置,自分が やった(触診した)後に見て,こういうふうにやるん だな,自分は直前にこうやっていたなと思いながら見 ていました。これ(指導者のやり方)がいいんだなと 思いつつ,見ました。」 (2)【自ら気づくよう促す】場の様相 【自ら気づくよう促す】は,2つの気づきを促すプロ セス<まずは実践する様子を見守る>,<説明せずに 正しい触診方法を見せる>から構成されていた。 助産師は,保健師助産師看護師学校養成所指定規則 において,助産学生時の臨地実習で約 10 例の分娩介 助を行うことと示されている。新人助産師は,助産学 実習における触診や内診の経験数は少なく,実習で全 ての技術を正しく実践できるようになることは非常に 難しい。指導者は,新人助産師に指導者との触診技術 のやり方の違いを見せることで,【自ら気づくよう促 す】ということをしていた。 まず,気づきを促す前段階として,G 指導者は,g 新人助産師のレオポルド触診法を実践する様子を見る ことで,g 新人助産師の触診技術を探っていた。G指 導者は,“最初から1から10まで教えるのではなくて, 新人さんはどのように教わって,何も言わないで(レ オポルド触診法を)してもらったら,どんなふうにや るのかなとこれもまた探りながらですね。彼女はどこ まで理解しているかなと探りながら。”と語り,現時点 でのg新人助産師のレオポルド触診法の技術レベルを 把握していた。 ①プロセス1<まずは実践する様子を見守る> G指導者は,g新人助産師に【自ら気づくよう促す】 ために,<まずは実践する様子を見守る>ということ をしていた。 G指導者は,g新人助産師の触診している様子を見 ながら,“レオポルド触診法は,本来であれば学生時 代に学んでいる”ため,何も言わずに g 新人助産師が 触診し終えるのを見ていた。 また,G指導者は,常に産婦への侵襲度を念頭に置 き,臨床での新人教育に携わっていた。G 指導者は, “助産技術によってはお母さんに迷惑をかけてしまう ような間違った内診方法とか,間違った採血とか,侵 襲度の高いものはそういったことはしないんですけ ど,モニターを外す外さないくらいのお母さんにあま り迷惑をかけないことはやってもらう”と語り,新人 助産師が助産技術を実践する時には,まず,指導者が 産婦の状態,産婦への侵襲度,産婦と新人助産師との 関係性を見極めていた。そして,産婦への侵襲,苦痛 がない時,新人助産師に実践できる助産技術を行って もらっていた。 ②プロセス2<説明せずに正しい触診方法を見せる> 次に,指導者は<説明せずに正しい触診方法を見せ る>ということをしていた。これは,指導者が新人助 産師の技術が正しくないと判断した場合に,適切な方 法を口頭で伝えるのではなく,実践し示すことで,新 人助産師が脳裏に現象を印象付けることができるよう にすることである。 助産師は,正しい手技でレオポルド触診法ができな いと,児の胎位胎向を正しく把握することはできな い。この場面では,G 指導者は,g新人助産師が分娩 監視装置のベルトを外さないでレオポルド触診法を 行った様子を見て,“レオポルド触診法は,モニター が付いていたらできない,外して正確に見てほしいと いう気持ちがあった”。そこで,G指導者は,g新人助 産師が自分のレオポルド触診法が正しくないというこ とに気づくにはどうしたらいいか考えた。言葉で指摘 するだけでは,g新人助産師に与えるインパクトは小 さい。あえて先に,g新人助産師にレオポルド触診法 の全段階を実践してもらい,後から説明はせずに,G 指導者が,分娩監視装置のベルトを外し,レオポルド 触診法を行う様子を示すことで,g新人助産師にレオ ポルド触診法の実践方法の違いを印象付けた。 g新人助産師は,自分が行ったレオポルド触診法と 比較し,「モニター(分娩監視装置)を一回外して,形 からまず見るという,技術の根本的なところを見せて もらった気がします。(指導者が実践した)触り方と見 る位置,触る位置を自分が(触診した)やった後に見 て,こういうふうにやるんだな,自分は直前にこう やっていたな。」と語り,自分自身が分娩監視装置を 外さずにレオポルド触診法を行っていたことに,視覚 的に気づいていた。また,g新人助産師は,「これ(指 導者のやり方)がいいんだなと思いつつ,見ました。」 と語り,自分が行ったレオポルド触診法では児の胎位 胎向を正しく捉えることができないと感じていた。 4)【発問を用いて推論を引き出す】 (1)【発問を用いて推論を引き出す】場面 参加観察場面1 :朝の申し送り後,H指導者がh新人 助産師に産婦のリスクについて尋ねる場面 産婦は,初産婦であり,前日に前期破水で入院して いた。しかし,朝の時点で陣痛は発来していなかった ため,8時から分娩誘発が開始となった。朝の内診所

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見は子宮口閉鎖,児頭下降度-3 であった。産婦は, 子宮体部の腹壁側正中に5cm大の子宮筋腫を合併して いた。6 日前の妊婦健診時点での児の推定体重は, 4200gであった。 朝の申し送り後,H指導者とh新人助産師が,ナー スステーションの椅子に横並びに座っていた。H指導 者が,h 新人助産師の方を見ながら,産婦について “今日はどんなリスクがある人?”と尋ねた。h新人助 産師が,即座に H 指導者の方に身体を向けて,「前期 破水していて,今日で丸 24 時間経過するので,感染 徴候,羊水の色を見ていきます。」と答えた。続けて, H指導者が,“他に感染徴候で観察していくところ は?”とh新人助産師に尋ねたところ,「熱,バイタル, 児心音が頻脈になっていないか,羊混があるかどう か。」と答えた。それに対して,H指導者が,“お母さ ん採血しているよね?”と h 新人助産師に尋ねたとこ ろ,「あっ,WBC」と思い出したようにすぐ返答した。 このあと,“感染に対するケアとしてできることは何 がある?”など感染予防ケアに関する質問を続けた。 感染徴候についての話が終わり,H指導者が,h 新 人助産師の方に身体を45度ほど向け,“破水以外で他 には(どんなリスクがある)?”と尋ねた。h新人助産 師は,「子宮筋腫を合併しているので,お産後に(子 宮)収縮不良で弛緩出血を起こすリスクがある。」と即 座にはっきりとした口調で返答した。 H指導者の語り “妊 婦 さ ん は 前 期 破 水 を し て い た, 推 定 体 重 が 4200gと大きかった,5cm大の筋腫があるというのが リスクかなと思った。それをちゃんと踏まえて,部屋 に入った時に観察項目がわかっていればいいかなと 思ったので,リスクだけじゃなく,リスクを判定する 観察項目がわかっているのかを最初に確認しておきた いと思いました。それから,観察項目が足りないなと 思ったので,さらに聞きました。観察項目で採血は必 須だから,採血をしていることを新人さんは引き継ぎ で受けていたからその値には注目してほしいなと思い ました。” h新人助産師の語り 「前期破水が元々主訴で来ている方で,24時間経っ ているから感染が危ないかなと思っていました。破水 の方は,次の日の朝に採血があるというのを採血結果 も必要じゃないと言われた時に思い出しました。そう いえば採血があったんだと思って。(子宮筋腫のこと については)以前,病棟のお昼のカンファレンスで, 子宮筋腫の痛み,変性痛の人のことが話題になり,子 宮筋腫のリスクとしてはどういうことがあるのか,今 日の指導者さんが聞いていて,そこでは全然わからな かったけど,先輩が答えているのを聞いたり,本を見 たりしていたので,筋腫に対してはちょっと引き出し ができていました。」 参加観察場面2 :肩甲難産についての知識を尋ねる 場面 H指導者は,h 新人助産師に対して,“推定体重 4200gからどんなことが考えられる?”と尋ねた。h新 人助産師は,「肩甲難産のリスク,傷のリスク」と返答 した。次に,H指導者は,h新人助産師に“肩甲難産に あたったらどうする?”と尋ねた。h 新人助産師は, 「マクロバーツですか?」と H 指導者に問いかけるよ うに返答した。H指導者は,“マクロバーツだよね”と h新人助産師の答えを肯定するように返答した。 H指導者の語り “まず肩甲難産のことをどの程度理解できているの か,もしも分娩に至るとしたら一緒に介助に入るわけ で,それは知っておいてほしいなと思った。臨床の場 で質問されてわからない場合,それを全て教えられ ちゃうと,あっ,そっかと耳学問で終わられては困る からきちんとわからないということを自覚して学習に 結び付けてほしいなという意図がありました。” h新人助産師の語り 「マクロバーツで出てきやすいようにする,骨盤を 広げるというのはあったと思ったんですけど,危険だ からあまりやらないとかもちらっと聞いたことが あって。実際に肩甲難産に入ったことがないので,そ ういう時ってどうするのかなと思いつつ,やっぱりマ クロバーツ取るのかなと思って。」 (2)【発問を用いて推論を引き出す】場の様相 新人助産師は,産婦の状態を判断する時に,学生時 代に獲得した知識や技術を用いて,収集した情報から 臨床判断を行う。しかし,新人助産師は,学生時代に ハイリスクの産婦を受け持つことが少なく,ハイリス クの産婦の見方についての知識は十分ではない。ま た,助産師は,常に産婦の全てのリスクを念頭に置 き,産婦のケアにあたる必要があるが,新人助産師 は,産婦の情報を漏らさず把握すること自体が難し く,まして産婦の全てのリスクを把握することは,さ らに困難を極める。そこで,指導者は,新人助産師に 対して【発問を用いて推論を引き出す】ことを行い, 産婦の置かれている状況理解を促していた。

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参加観察場面1は,H指導者が,朝の申し送り後す ぐに,h新人助産師に申し送りの情報から,受け持ち 産婦のリスクをどのように捉えたか尋ねた場面で あった。H指導者は,h新人助産師が産婦のリスクや “リスクを判定する観察項目がわかっているのかを確 認したい”と思い,“今日はどんなリスクがある人?” と発問した。そして,H 指導者は,h新人助産師の感 染徴候に関する観察項目の返答から“観察項目が足り ない”と思い,“他に感染徴候で観察していくところ は?,お母さん採血しているよね?”と尋ねた。H 指 導者は,h新人助産師に感染予防に関するケアについ て,“感染に対するケアとしてできることは何があ る?”と発問し,感染予防のケアを理解しているか, もしくはどのようなケアをする必要があるかについて 思考を促していた。また,h新人助産師が挙げた産婦 のリスクは,感染のリスクのみであった。そこで,H 指導者は,h 新人助産師に感染以外のリスクについ て,“他にどんなリスクがある”と発問することで,h 新人助産師が自ら考え,産婦のリスクについての理解 を深められるよう促していた。 h新人助産師は,H指導者から“お母さん採血してい るよね?”と尋ねられた時に,「そういえば採血があっ たんだ」と感染徴候を判断する項目であるの一つであ る白血球の値を見る必要があると思い出していた。そ して,h新人助産師は,H指導者から“破水以外で他に は(どんなリスクがある)?”と産婦に考えられるリ スクを発問された時,「子宮筋腫を合併しているので, お産後に(子宮)収縮不良で弛緩出血を起こすリスク がある。」と答えていた。この返答が出てきた理由と して,h 新人助産師は,「以前,病棟のお昼のカン ファレンスで子宮筋腫の変性痛の人のことが話題にな り,子宮筋腫のリスクとしてはどういうことがある か,今日の指導者さんが聞いていて,そこでは全然わ からなかったけど,先輩が答えているのを聞いたり, 本を見たりしていたので,筋腫に対してはちょっと引 き出しができていた。」と語り,以前にカンファレン スで子宮筋腫のリスクについて話し合ったことを思い 出し,今回の産婦に応用し,考えていた。 参加観察場面 2 は,朝の申し送り後,H 指導者が h 新人助産師に産婦のリスクについて尋ねる場面に続 き,肩甲難産についての知識を尋ねる場面であった。 この場面においても,参加観察場面1と同様に,H指 導者は,h 新人助産師が肩甲難産について“どの程度 理解できているのか”と思い,“推定体重4200gからど んなことが考えられる?”,“肩甲難産にあたったらど うする?”と h 新人助産師に発問することで,耳学問 で終わらないように産婦の状況理解を促していた。h 新人助産師は,「実際に肩甲難産に入ったことがない ので,そういう時ってどうするのかなと思いつつ, やっぱりマクロバーツ取るのかな」と迷いながらもこ れまでの経験や知識をもとに,肩甲難産時の対処方法 を考えていた。

Ⅳ.考   察

1.好機を逃さず活用する 新人助産師に教える時,指導者が教えるために適し たタイミングを見極めたり,教える場を作ったりする ことは,新人助産師の効果的な学びにつながるきっか けとなる。本研究において,指導者は,【好機を逃さ ず活用する】ために<変化が目で見える好機を逃さな い>,【五感で感じ取る感覚を教える】ために<触診す る適時性を見極める>ということをしていた。 Benner, et al.(1999/2005)は,卓越した臨床実践で は臨床場面の展開に応じた調和とタイミングが求めら れると述べている。特に分娩期は,刻々と産婦の状況 が変化していくという特殊性があり,助産師には,こ の変化を適切に捉えることが求められる。新人助産師 の指導にあたる経験のある助産師は,状況を直観的に 把握,判断し,適切な介入のタイミングを逃さない (Benner, 2001/2005)。しかし,経験が浅い新人助産師 にとって,分娩は毎回が未知なる経験であり,タイミ ングを見極めることは非常に難しい。指導者は,産婦 の<変化が目で見える好機を逃さない>ことや<触診 する適時性を見極める>ことで,新人助産師の学びの 場を創り出していた。そして,新人助産師を臨床の場 での気づきへと導いていた。新人助産師は,産婦の変 化を捉えるために起点となる産婦の状態を捉えられな ければ,たとえ変化があったとしてもその変化に気づ くことができない。そのため,指導者の教えるタイミ ングの見極めは,新人助産師が効果的な学びをするこ とができるかどうかを大きく左右すると推察される。 また,分娩期は,分娩経過に従い学習環境も刻々と 変化するため,指導者が,新人助産師にその場面でし か伝えられないことを的確に伝えたり,それぞれの学 習段階や個別的な強み,弱みを熟知した上で対応した りすることは,学習効果に大きな影響を与える(大崎 他,2014)。指導者は,刻々と変化していく状況の中

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でも,新人助産師にどのように気づきを促すべきかを 瞬時に判断し,臨床において学びの場を逃さず活用す ることが必要である。 2.五感で感じ取る感覚を教える 助産師は,その場で,産婦の状態を感じ取ること で,産婦や胎児の状態を把握し,判断する。本研究に おいて,指導者は,【好機を逃さず活用する】ため に<その場で同じ現象を見て,共有する>,【五感で 感じ取る感覚を教える】ために<触診するように誘導 する>,【自ら気づくよう促す】ために<説明せずに正 しい触診方法を見せる>ということにより,新人助産 師が現象を五感で感じ取ることができるようにしてい た。 視覚,聴覚,触覚などの五感で感じ取ることは, Tanner(2006)の臨床判断モデルの気づきと解釈に分 類される。状況を把握する「気づき」と行動を決定す るために状況理解を深める「解釈」は,簡単に識別で きるものではなく,臨床判断プロセスにおいて密接に 関連し合っている。 刻々と変化していく分娩期において,五感を使い感 じ取ることは,その瞬間の胎児の身体の向き・位置, 陣痛間隔や陣痛発作の強弱などを把握し,分娩進行を 判断するために必要不可欠である。助産師は,身体に 現れる変化を読み取り,分娩進行を判断している (Cheyne, et al., 2006)。助産領域においては,視覚, 聴覚,触覚などの五感を用いて分娩進行を判断するこ とが重要であり,助産師は,自分自身の身体感覚を 判断の道具として活用している(落合他,2015;渡邊 他,2010;渡邉他,2010)。特に経験のある助産師は, 五感を用いて産婦の生理的反応,何気ない動作,誰も が見逃しがちなしぐさなどのわずかな変化から,判断 の根拠を導いている(笹川他,2016;渡邊他,2010; 渡邊他,2010)。これは,本研究において,指導者が, 新人助産師に対して<その場で同じ現象を見て,共有 する>,<触診するように誘導する>ことにより,新 人助産師が,情報収集手段として五感を用いたり,五 感を通して産婦の状態を判断したりできるようにして いたことと一致する。分娩期において,助産師が五感 で産婦の状態を感じ取ることは,臨床判断する際の重 要な判断材料の一つとなると言える。よって,助産師 には五感で感じ取る能力が必要であり,新人助産師が この能力を洗練していくことができるようにかかわる ことが指導者には求められると推察する。 3.発問を用いて推論を引き出すようにかかわる 本研究では,【発問を用いて推論を引き出す】こと で,新人助産師自身に思考することを促していた。臨 床教育者は,学生に発問することで思考することを促 し,知識を活用する必要性を認識できるように導く。 そして,学生が,患者の全体像を把握できるように, 臨床教育者は,患者の状態の脈絡を見るように指導す る(Benner, et al., 2010/2011)。新人助産師は,発問さ れた時にその場で考え,答えを出す。そして,発問さ れることにより,自分の持っているありとあらゆる知 識やこれまでの経験をもとに,産婦についての情報を 結び付け,状況判断しようと試みる(宮武,2003)。 これらのことより,指導者は,新人助産師に思考する ことを癖付けるために,新人助産師の能力に応じ, 様々な角度から産婦の状態に対する気づきを促す発問 をすることで,新人助産師の思考を促すことができる と言える。よって,指導者は,新人助産師の臨床判 断能力の向上を導くために,発問を用いて思考や推論 を引き出すようにかかわることが必要であると考え る。 研究の限界と今後の課題 本研究は,研究対象者が指導者,新人助産師8組と 少なく,協力施設は関東圏内の地域もしくは総合周産 期母子医療センターの3施設と限られている。これら の施設は,ハイリスク妊産婦が多いことやフォロー体 制の違いにより,観察の視点や管理も多岐にわたり, 教育に差異がある可能性が考えられる。また,参加観 察は,産婦の状態などの事由から,分娩室(LDR)内 で直接,教育場面を観察できなかった事例もあったた め,教育場面の抽出に偏りがある可能性がある。今後 の課題として,新人助産師の気づきを促さなかったか かわりについても分析し,新人助産師の臨床判断を促 す教育方法についてのプログラム開発を行っていくこ とが必要である。

Ⅴ.結   論

指導者は,分娩期における新人助産師の気づきや解 釈の統合を促進するために,【好機を逃さず活用す る】,【五感で感じ取る感覚を教える】,【自ら気づくよ う促す】,【発問を用いて推論を引き出す】というかか わりをしていた。新人助産師に教育する際,指導者 は,教えるのに適したタイミングを見極め,その場

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で,五感で感じ取ることや発問を用いて思考を促すよ うにかかわることが効果的であると示唆された。 謝 辞 本研究にご協力いただいた研究参加者の皆様,研究 協力施設の皆様に深く感謝申し上げます。 本研究は,2017 年度聖路加国際大学大学院の修士 論文の一部を加筆修正したものであり,平成 29 年度 聖路加国際大学青木奨学金と岡村育英会奨学金の援助 を受けて実施しました。 利益相反 本論文に関する利益相反事項はない。 文 献 Benner, P.(2001)/井部俊子監訳(2005).ベナー看護論新 訳版 初心者から達人へ(pp11-32).東京:医学書院. Benner, P., Sutphen, M., Leonard, V., & Day, L.(2010)/

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Benner, P., Hooper-Kyriakidis, P., & Stannard, D.(1999)/ 井上智子(2005).ベナー看護ケアの臨床知 行動し つつ考えること(pp36-86).東京:医学書院. Cappelletti, A., Engel, J. K., & Prentice, D. (2014).

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