Copyright 近畿作物・育種研究会(The Society of Crop Science and Breeding in Kinki, Japan) 39
緒 言
国内で作付けされている製粉用小麦品種の主な用途は日 本めん用であり,日本めん用小麦需要の約 60%を供給し ている.一方,国内で使用されている小麦の用途としては パン用が 24%と最も多いが,その自給率は 2.6%と極めて 低いことから,食料自給率向上のためには製パン適性の高 い国産小麦の生産拡大が重要である.このため,近年パン 用小麦の品種が育成されつつある(小柳ら 2011).兵庫県 においてもパン用小麦品種である九州沖縄農業研究セン ターで育成された‘ミナミノカオリ’が産地品種銘柄とし, 実需者と結びついた生産が行われ始めている.しかし,製 パン適性との相関が高いタンパク質含有率が低く,かつ変 動が大きいため実需者から品質の安定化が求められてい る. ‘ミナミノカオリ’は,西日本に適した品種であるため, 中国地域以西において本品種の子実タンパク質含有率を高 めるための栽培法の研究(竹内ら 2006,土谷・下山 2011, 岩淵ら 2011)は多いが,近畿地方における知見は少ない. なお,関東以北での知見(高山ら 2004)は,パン用の他品 種についてのものである. そこで,本試験では,外国産小麦と同程度のパン適性の 目標値として子実タンパク質含有率 13%を確保でき,倒 伏させない施肥法として,稈の伸長が停止し,穂数が確定 する出穂 10 日後追肥について検討するとともに,子実タ ンパク質含有率との関係が深いとされる葉色値との関係も 併せて検討した.材料および方法
兵庫県立農林水産技術総合センター内(兵庫県加西市) の圃場において,‘ミナミノカオリ’を供試し,2009 ∼ 2011年(播種年,以下同じ)の 3 年間実施した.播種様 式は,畦幅 300cm,播幅 30cm の条播,播種量は 10g/ m2 とした. 施肥体系は,10a 当たり窒素成分で,基肥 6kg(窒素・ リン酸・加里を 16%含む),追肥(本葉 6 葉期頃 ’09 年 1 月 20 日,’10 年 1 月 21 日,’11 年 1 月 17 日施用)2kg(窒 素 18%・加里 16%含む),穂肥(’09 年 2 月 23 日,’10 年 3月 10 日,’11 年 3 月 12 日施用)3kg(窒素 18%・加里 16%含む)を共通とし,試験区として硫安(窒素 21%を 含む)を用いて出穂 10 日後(開花期 ’09 年 4 月 21 日,’10 年 5 月 1 日,’11 年 5 月 3 日)に無施用,10a 当たり窒素 成分で 3kg および 6kg の 3 段階で追肥を行った.試験区 は 1 区 9m2の 2 反復とした. 調査項目は,出穂期,成熟期,稈長,穂長,茎数,穂数, 追肥前と追肥施用 10 日後の葉色値,子実重,千粒重,容 積重,外観品質,子実タンパク質含有率とした.葉色値は, 葉中窒素測定装置(サタケ社製 CCN5000)を用いて測定し, また,子実タンパク質含有率は原麦を近赤外分光光度計 (BUCHI 製 NIRLab N−200)を用いて測定した.結果および考察
出穂 10 日後追肥により葉色値の低下が抑制され,6kg 施用区では追肥前と同程度に維持された(第 1 表).追肥 前の葉色値と追肥後 10 日の葉色値の差と子実タンパク質 含有率との間に有意な負の相関が認められ,y =−7.3529x + 13.126(r2= 0.873,n = 9,1%水準で有意,y は子実パン用小麦‘ミナミノカオリ’における出穂 10 日後追肥の子実
タンパク質含有率への影響
宮脇武弘
1)・松本純一
2)・小河拓也
3)・岩井正志
1) 1)兵庫県立農林水産技術総合センター農業技術センター (〒 679 − 0198 兵庫県加西市別府町南ノ岡甲 1533) 2)兵庫県農林水産技術総合センター原種農場(〒 671 − 2412 兵庫県姫路市安富町名坂 51) 3)兵庫県立農林水産技術総合センター北部農業技術センター (〒 669 − 5254 兵庫県朝来市和田山町安井 123) 要旨:パン用小麦‘ミナミノカオリ’の子実タンパク質含有率を高めるため,施肥法として出穂 10 日後追 肥の影響について検討した.その結果,子実タンパク質含有率は追肥量の増加に伴って向上し,10a 当たり 窒素成分で 6kg 施用することにより,パン用小麦として適性が高いとされる子実タンパク質含有率 13%を 達成できた.しかし,追肥量の増加に伴い,外観品質が劣化するという課題は残された. キーワード:パン用小麦,子実タンパク質含有率,出穂 10 日後追肥 2013年 6 月 4 日受理 連絡責任者:宮脇武弘([email protected]) 作物研究 58:39 − 41(2013)論 文
40 タンパク質含有率,x は追肥前の葉色値と追肥後 10 日の 葉色値の差)の回帰式が得られた(第 1 図).このことから, 追肥により葉色値を低下させないことが子実タンパク質含 有率を高めるのに重要であると考えられた. 施肥量による成熟期,稈長,穂長には差は認められなかっ た(第 2 表).また,3 月中下旬の茎数,穂数については, 年次間では有意な差が見られるものの施肥量による差は見 られなかった(第 2 表).子実重,容積重,千粒重ついては, 年次間で有意な差が見られた(第 2 表).また,子実重, 容積重,千粒重は,追肥量の増加に伴い大きくなる傾向は みられるものの,有意差は認められなった(第 2 表).3 月中下旬の茎数,穂数の差について,年次によって生育パ ターンが違うと推察されたが,穂数と収量との有意な相関 は認められなかった.子実重について,Cassman ら(1992) は開花期の窒素追肥は子実収量を高めるとしているが,本 試験では高山ら(2004)と同様に子実収量に有意差が認め られない結果となった. 出穂 10 日後の窒素追肥量と子実タンパク質含有率との 間に有意な正の相関が認められ(第 2 図),無施用区では 9.7%,3kg 施用区では 11.9%,6kg 施用区では 13.2%と向 上した(第 2 表).これらの関係から y = 0.5833x + 9.9056 (n = 9,r2= 0.8367,1%水準で有意,y は子実タンパク 質含有率,x は出穂 10 日後の窒素追肥量)の回帰式が得 られ,出穂 10 日後追肥による子実タンパク質含有率の増 加程度は,窒素量 1kg/ 10a 当たり約 0.6%となった.こ れは高山ら(2004),竹内ら(2006)の結果とも同様であっ た.外観品質は出穂 10 日後追肥量の増加に伴い劣化した. 以上の結果より,出穂 10 日後追肥を 6kg/ 10a 施用す ることにより葉色値の低下が少なくなり,子実タンパク質 含有率は向上することが確認できた.また,葉色値の変化 から子実タンパク質含有率を推定できることが示唆され た.しかし,3 年間の平均値では,パン用小麦の子実タン 作物研究 58 号(2013) 第 1 表 出穂 10 日後追肥量に伴う葉色値の変化 第 1 図 追肥前と追肥 10 日後の葉色値の差と子実タンパ ク質含有率の関係. 第 2 表 出穂 10 日後追肥量とそれに伴う生育、収量および品質(2009 年度∼ 2011 年度)
41 パク質含有率の基準値である 11.5 ∼ 14.0%を満たしたも のの,年次によっては目標値の 13.0%を下回る場合もあっ たこと,また追肥量の増加に伴い,外観品質・検査等級が 劣化したことから,今後,葉色値の活用法とともに適正な 追肥量についてのさらなる検討が必要であると考えられ る.
引用文献
小柳敦史・渡邊好昭 編(2011)栽培体系 3,麦類の栽培 利用,日本作物学会「栽培大系」編集委員会監修,朝倉 書店,東京.13. 岩淵哲也・松江勇次・松中仁(2011)パン用コムギ品種「ミ ナミノカオリ」の子実タンパク質含有率の変動要因.日 作紀.80(4):403 − 407. 高山敏之・長嶺 敬・石川直幸・田谷省三(2004)コムギ における出穂 10 日後追肥の効果.日作紀 73(2):157 − 162. 土谷大輔・下山伸幸(2011)硬質小麦品種「ミナミノカオ リ」の栽培法が収量に及ぼす影響.日作九支報 77:31 − 34. 竹内 実・近乗偉夫・吉良知彦(2006)醤油醸造用硬質コ ムギの高タンパク質化へ向けた施肥法について.日作九 支報 72:25 − 28.Cassman, K. G., D. Cbryant, A. Efulton, and L. Jackson (1992) Nitrogen supply effect on partitioning of dry matter and nitrogen to grain of irrigated wheat. Crop Sci. 32 : 1251− 1258.
パン用小麦‘ミナミノカオリ’における出穂 10 日後追肥の子実タンパク質含有率への影響
第 2 図 追肥量と子実タンパク質含有率の関係.
The effect of nitrogen fertilization 10 days after heading in the bread wheat cultivar
‘Minaminokaori’
Takehiro Miyawaki1), Jun-ichi Matstumoto2), Takuya Ogawa3) and Masashi Iwai1) 1)Hyogo Prefectual Technology Center for Agriculture, Forestry and Fishers
(1533 Minamino-oka, Befu, Kasai, Hyogo 679 − 0198, Japan)
2)Hyogo Prefectural Technology Center for Agriculture, Forestry and Fishers, Stock Seed Farm
(51 Nasaka, Yasutomi, Himeji, Hyogo 671 − 2412, Japan)
3)Hyogo Prefectural Technology Center for Agriculture, Forestry and Fishers, Hokubu Agricultural Technology Institute
(123 Yasui, Wadayama, Asago, Hyogo 669 − 5254, Japan)
Summary: We investigated the effect of nitrogen topdressing 10 days after heading as fertilization method for increasing the grain protein content of the bread wheat cultivar‘Minaminokaori’. Grain protein content was improved by increasing the amount of topdressing. We were able to achieve 13% grain protein content, which indicated a high aptitude as bread wheat, by 6Nkg/10a fertilization.
Key words: Bread Wheat Cultivar,Grain protein content,Nitrogen topdressing
Journal of Crop Research 58 : 39− 41(2013) Correspondence : Takehiro Miyawaki([email protected])