Keysight Technologies
移動体デバイスのバッテリー寿命を
最適化するための
10
のヒント
はじめに
携帯可能で、複数の機能が組み込まれた電子デバイスの数が増えるにつれて、バッテリーの動作時間 が製品差別化と顧客満足度を左右する重要な要因となります。ここに掲載されている10
の技術概要 では、移動体デバイス(スマートフォン、タブレット、携帯ラジオ、ポータブルプリンター、無線セ ンサ、インスリン注入ポンプなど)のバッテリー寿命を最大化するための重要なヒントを紹介します。目次
バッテリー動作時間を最適化するための電流波形の解析 3 測定確度の向上による、省電力モードにおけるバッテリー動作時間の拡大 5 バッテリー動作時間を迅速に最適化するための分布プロファイルの解析 8 より現実的な移動体デバイステストのためのバッテリーエミュレーション 11 バッテリーの容量/エネルギー定格の検証の簡素化 14 実使用負荷条件でのバッテリーの容量/エネルギーの検証の簡素化 17 移動体デバイスのランダウンテストによるバッテリー性能の現実的な評価 20 バッテリー性能と信頼性の最適化のための充電管理の検証 23 バッテリー動作時間に関する移動体デバイスのサブ回路の最適化 26 実環境下でのバッテリー動作時間の検証 29 本資料に掲載されている技術概要 31ヒント
1
:
バッテリー動作時間を
最適化するための
電流ドレイン波形の解析
バッテリーの動作時間を最適化するには、移動体デバイスの動作の詳細な解析が重要です。 単純にバッテリー動作時間を検証する場合、移動体デバイスをブラックボックスとして扱って動 作時間を直接測定するか、電流を長時間測定して記載されているバッテリーのアンペア時容量に 基づいて動作時間を推定することができます。ほとんどのコンフォーマンステストでは、バッテ リー動作時間のみを検証します。 しかし、バッテリー動作時間を最適化するには通常、バッテリー動作時間の検証だけでなく、デ ザインチームによるさまざまなテスト手法を用いた詳細な解析が必要です。デバイス/サブ回路 /バッテリーを、個別にあるいは組み合わせてテスト/評価する必要があります。バッテリー電 流を詳細に評価することにより、デバイスの動作を詳細に解析し、データに基づいて、動作時間 を最適化するための条件を得ることができます。 電流ドレインを、高速、高分解能でデジタイジングすることで、バッテリー動作時間を 最適化するための詳細な解析を行うことができます。 さまざまなデジタイジング手法がありますが、制限のあるものもあります。 – 電流プローブとオシロスコープにより、高速波形デジタイジングが行えますが、ダイナミッ クレンジが制限されていて、精度が低く、ノイズの影響を受け、有用性が制限されます。 – 高速サンプリングデータ収集システムと高精度の電流シャントを使用すると、電流プローブ とオシロスコープを使用するよりも、高い確度と広いレンジが得られます。ただし、移動体 デバイスに過度に影響を与えないように、電流シャントの許容最大電圧降下を小さく抑える 必要がありますが、シャントの電圧降下を小さく抑えると、測定ダイナミックレンジと確度 が制限されます。 – 特殊なDC電源を、高速デジタイジングが可能でダイナミックレンジが広い測定システムに組 み込むことにより、外部シャント抵抗を使用した場合に生じる電圧降下の問題がない状態で、 移動体デバイスの電流を高い精度で評価することができます。デバイスの電流波形による詳細な解析例:
例として、図1.1に、Keysight N6781Aソース/メジャメントユニットと14585Aソフトウェアを
使用して携帯電話の発呼中に測定した電流波形を示します。N6781Aは、移動体デバイスに電力を 供給し、nA∼Aの範囲において195 kSa/s以上のデジタイジングレートで電流ドレインを測定で きるように特化された、バッテリーエミュレーター兼DC電源です。これにより、最大20 Wの電力 供給とデバイス測定が可能です。広いダイナミック測定レンジと高速デジタイジングにより、バッ テリー動作時間を最適化するための詳細な解析を迅速に行うことができます。N6785AはN6781A と同じ機能を備え、最大80 Wの大電力デバイスに対応できます。 携帯電話の動作に関して、以下のことが分かります。 – アイドル電流のベースレベル値 – アイドル持続時間 – アイドル時間中の電流ドレイン値とアクティビティーの持続時間 – 送信電流の値とRFパワーアンプの電力付加効率(PAE) – 送信電流の持続時間 – その他 電流波形を適切に測定することにより詳細な解析が可能になり、バッテリー動作時間を最適化し て優れたバッテリー寿命を実現できます。 図1.1:N6705B DC電源/アナライザメインフレームに搭載されたN6781A SMUに14585Aソフトウェアを接続して 測定したGPRSスマートフォンのアクティブモードにおける電流波形の詳細表示。 電流パルスの送信 電流パルスの受信 アイドル電流
ヒント
2
:
測定確度の向上による、
省電力モードにおける
バッテリー動作時間の拡大
移動無線機の省電力動作モード時の電流波形の評価は、バッテリーの動作時間を 最適化するために不可欠です。 携帯電話など多くの移動体デバイスにはハイパワー・アクティブ・モードがありますが、ほとん どの時間、待機モードまたは類似の省電力モードで動作しています。無線センサなどのデバイス の中には、省電力動作モードしかないものもあります。消費電力はごく微量に思えますが、デバ イスは省電力モードで長時間動作しているため、バッテリー容量の大部分、場合によってはすべ てが省電力モードで消費されることになります。 省電力動作モードにおける電流のパルス特性を測定し、デバイスのバッテリー動作時間を最適化 するために、これまでにない測定性能が必要になります。 移動無線機は省電力動作モードでは、ほとんどの時間、低電力のスリープ状態ですが、周期的に ウェークアップし、一時的に、高電力のアクティブ状態になって基地局と送受信を行います。そ の結果、電流はパルス動作になり、以下の特性を持っています。 – コンマ数秒から数十秒の長い周期 – コンマ数パーセントから数パーセントの非常に小さなデューティーサイクル –100以上の非常に高いクレストファクター ベーススリープ電流とパルス送信電流が全体の平均の大部分を占めることが多いため、最大値と 最小値およびその間の電流をすべて高い精度で測定することが必要です。従来のテスト機器にとって、省電力動作モードにおける電流波形の高精度測定が課題になってい ます。テスト機器(デジタイジングデータ収集機器など)が十分に長い時間測定を積分できる場合 でも、固定レンジ(通常>1 A)では十分なダイナミックレンジが得られないために、パルス電流の ピークとスリープ電流のベースラインの両方(通常<10 mA)を高い精度で測定できず、バッテリー 動作時間を予測して最適化できる精度の高い測定値が得られないことがあります。ピークが高い 一方で平均値が低いために、必要な測定レンジにおける測定器のオフセット誤差が平均値と同程 度になる場合も多く、許容できない大きな測定誤差の原因になります。測定のいくつかの側面で 改善策がとられることもありますが、その結果として大きなマイナス面が伴います。 省電力モードにおける電流測定の例: 省電力動作の例を考えます。以下の電流パルス特性を持つ無線温度トランスミッターがあります。 – 周期:4 s – デューティーサイクル:0.17 % – クレストファクター:400 図2.1. 14585AソフトウェアとN6781Aの固定レンジで測定した、無線温度トランスミッターの電流波形。 パワーレベルが20 W未満なので、温度トランスミッターの電源供給や電流波形の測定にKeysight N6781A DCソース/メジャメントユニットを使用しました。N6781Aは移動無線機の電流波形を 測定できる高速デジタイザを内蔵しています。図2.1に示すように、最初は、N6781Aを100 mA の測定レンジに固定して電流波形を測定しました。これは従来のテスト機器に相当する設定です。 N6781Aはこれとは別に、自動的にシームレスな測定レンジ(SMR)を切り替える革新的な測定シス テムを搭載しており、移動体デバイスの数nAから数Aの電流を195 kSa/s以上で連続的にデジタイ ズできます。このため、非常に広いダイナミックレンジで高精度の測定を実現できます。図2.2に、 N6781Aのシームレスな測定レンジの切り替えをオンにして捕捉した結果を示します。 送信などの動作のパルス(最大21 mA、スケール範囲外) スリープ電流のベース
図2.2. 14585AソフトウェアとN6781Aのシームレスな測定レンジ切り替えによって測定した、無線温度トランスミッターの電流 波形。 以下のように測定値が向上し、より詳細な解析が行えました。 – スリープ電流のベース測定の誤差は115 %から1.15 %に97倍向上 – 全平均電流測定の誤差は18.9 %から0.245 %に77倍向上 – ノイズフロアは47 μAppから10 μAppに5倍向上 – 高速デジタイジングによりスリープ動作をより詳細に解析可能 – 高速デジタイジングにより送信動作をより詳細に解析可能 – 高速デジタイジング機能と広いダイナミック測定レンジにより、省電力動作モードを詳細に 解析して、移動無線機のバッテリー動作時間を最適化することができます。 送信などの動作のパルス(最大21 mA、スケール範囲外) スリープ電流のベース
ヒント
3
:
バッテリー動作時間を
迅速に最適化するための
分布プロファイルの解析
バッテリーの動作時間を最適化する際、デザイン変更が移動無線機の長時間の電流波形に 与える影響を容易に視覚化/定量化する方法が必要です。 ユーザーの使い方、移動無線機のネットワーク環境、移動無線機自身の複雑な構造が原因で、移動 無線機のさまざまなサブ回路のふるまいは、時間的にランダムです。サブ回路やその動作に対応し てバッテリーの電流も、ランダムに時間変化します。このため、デザイン変更によって、バッテリー 動作時間の最適化がどの程度改善されたのかを評価するためには、電流波形を十分に長い時間ロギ ングしてランダムな変化を平均化して除去することが必要です。最終的に、デザイン変更の前後の 平均電流の差が、変更によるものですが、バッテリー動作時間を最適化するには、デザイン変更の 影響をより詳細に解析する必要があります。期待した改善が得られたのかどうかを確認したり、移 動無線機内のサブ回路や動作のうち、影響を受けたものをなんらかの方法で特定する必要がありま す。方法の1つとして、データログを手動でスクロールし、さまざまなサブ回路やその動作に関連 のあるバースト電流のレベルや持続時間を評価する方法があります。 この方法は有用ですが、以下の欠点もあります。 – 非常に時間がかかります。 – 長時間のランダムな測定のため、多くの値を評価する必要があります。 – 数時間に及ぶデータログ内に、ms単位の動作継続時間が非常に多くあるので、間違った結果 を導き出しやすくなります。 移動無線機の電流波形の長時間ロギングが必要な一方で、データログの詳細を目視で調査して定量 化するという方法は不確かです。このため、バッテリーの動作時間を最適化する際に、長時間の電 流波形ログを迅速かつ効果的に解析できる別の方法が必要となります。確率分布関数プロファイルの解析により、デザイン変更によって生じた長時間の電流変化を 迅速/簡潔に視覚化/定量化ができます。 移動無線機のデザイン変更による影響を迅速/簡潔に視覚化/定量化するための効果的な方法と して、長時間の電流確率分布関数(PDF)プロファイルを解析する方法があります。PDFは、時間に 伴ってサンプリングされた電流のプロットを、所定の電流レベルの相対発生頻度に対してプロッ トしたもので、その合計は100 %となります。PDFのフォーマットとしてヒストグラムがよく知ら れています。しかし、長時間の電流ドレインを迅速に視覚化/解析して、デザイン変更の影響の 定量化を行うには、相補累積分布関数(CCDF)が特に有用です。 CCDFの概要 – 累積分布関数(CDF)=∫PDF(曲線の下の部分の面積=1または100 %) – 相補累積分布関数(CCDF)=1−CDF CDFプロファイルでは確率が0 %から100 %に変化するのに対し、CCDFプロファイルは100 %か ら0 %に変化します。図3.1のCCDFプロファイルは、Keysight N6781A DCソース/メジャメント ユニットと14585A制御/解析ソフトウェアを使用して、携帯電話の待機動作時における長時間の 電流波形をロギングして測定/表示したものです。14585Aソフトウェアを組み合わせれば、この 測定はN6785Aでも可能です。X軸は電流値、Y軸はその相対発生頻度です。プロファイルにおけ る水平方向のシフトは電流値の変化、垂直方向のシフトは全体に占める時間の変化を表します。こ れらのシフトを使用すれば、デザイン変更によって生じる長時間の電流変化について詳細を迅速 に解析/定量化して、バッテリー動作時間を最適化することができます。 図3.1. 14585Aソフトウェアで測定した、携帯電話の待機電流のCCDFプロファイル。 電流値の変化 全体に占める時間の 変化
携帯電話の待機動作時の省電力量を解析するためのCCDFプロファイルの評価例を次に示します。 待機中のバッテリー動作時間を延ばすために、多くの携帯電話では不連続受信(DRX)動作を採用し ています。連続受信動作と比べ、節約できる総電力量は、非アクティブ期間中のスリープ電流レ ベルや受信動作時間の長さに、特に依存します。 省電力効果を評価するために、N6781A DCソース/メジャメントユニットと14585Aソフトウェ アを使用して、携帯電話の長時間の電流波形を連続および不連続のRX待機動作でロギングしまし た。図3.2のように14585Aソフトウェアを使用して両方の動作の電流波形をCCDFプロファイルで 表示すれば、省電力の詳細を容易に確認し解析することができます。N6785Aでもこの測定を実行 できます。 2つのプロファイル間の垂直方向のシフトと水平方向のシフトを定量化することにより、以下のこ とが分かります。 –128 mAにおけるRX動作の2.8 %の垂直シフトは、18 %の省電力に相当します。 – アイドル電流の11.9 mAの水平シフトは、55 %の省電力に相当します。 – ベースバンド動作を低減することで、残りの27 %の省電力を実現できます。 – 省電力の合計は85.5 %でした。 このように、バッテリーの動作時間を最適化する際に、分布プロファイルを使用すれば、デザイ ン変更によって生じるサブ回路や関連する動作への詳細な影響を、迅速かつ容易に視覚化/特定 化/定量化することができます。これは、従来の方法では、時間がかかる困難な作業です。 図3.2. 14585Aソフトウェアで測定したCCDFプロファイルによる、携帯電話の待機省電力動作の詳細な解析。 不連続RX 連続RX
ヒント
4
:
より現実的な移動体
デバイステストのための
バッテリーエミュレーション
バッテリーの動作時間を最適化する際、テストに利用するDC電源にはバッテリーを使用した場合 と同等の結果を得るための振る舞いが要求されます。 バッテリーは、極めて非理想的なエネルギー源です。バッテリーは、移動体デバイスの影響を受け、 電流が変化します。移動体デバイスのバッテリー動作時間を最適化する場合には、精度よく電流 変化を把握することが極めて重要です。移動体デバイスにDC電源から電力を供給する場合、バッ テリーを使用した場合と同等の電流のふるまいになるようにバッテリーの特性を考慮する必要が あります。 汎用DC電源から電力を供給した場合、通常、移動体デバイスの電流ドレインは、実際のバッテリー を使用した場合の電流ドレインとは異なります。 図4.1に、GSM携帯電話にバッテリーから電力を供給した場合の電流パルスと電圧応答を示します。 図からわかるように、バッテリーの直列出力インピーダンスが大きいので、出力電圧は移動体デ バイスの電流に比例して降下します。多くの移動無線機は、バッテリー特性に合わせて補償動作 を行います。 バッテリーの応答特性: – バッテリー電圧は電流に比例して降下します – バッテリー抵抗は150 mΩです 図4.1. バッテリーによるGSM携帯電話への電力供給バッテリー電圧
バッテリー電流
汎用DC電源は、フィードバック(リモートセンシング)を使用して出力を一定の電圧することで、 出力インピーダンスがゼロの理想電圧源として働くように設計されています。バッテリーとは異 なり、電圧が負荷電流に比例して降下することはありません。また、フィードバックレギュレーショ ンの応答時間は有限です。このため、負荷状態と無負荷状態の間に過渡的な電圧降下やオーバー シュートが発生します。過渡電圧降下が著しいと、移動体デバイスが、バッテリー電圧が低いと 判断して、シャットダウンが発生する可能性があります。このように、汎用DC電源はバッテリー と同様の動作はしません。図4.2に示す測定は、図4.1と同じ測定を、バッテリーの代わりに汎用 DC電源を使用して行ったものです。電圧応答は大きく異なり、電流はバッテリーを使用した場合 より10 %増加しました。 汎用DC電源の応答特性: – 電圧応答はバッテリーとは異なります – 結果として流れる電流は、バッテリーより10 %増加します 図4.2. 汎用DC電源によるGSM携帯電話への電力供給
汎用
DC
電源電圧
汎用
DC
電源電流
リンギング 低速セトリングバッテリーエミュレーターDC電源(BE-SMU)から電力を供給した場合、移動体デバイスの 電流ドレインは、実際のバッテリーを使用した場合と同等になります。 移動体デバイスの電力供給に特化したDC電源には、以下のようなバッテリーエミュレーション機 能があります。 – 通常のソース機能の他、バッテリーの充電電流をエミュレートするための電流シンク機能 – バッテリーのインピーダンスをエミュレートするためのプログラマブル直列出力抵抗 – 電圧降下/オーバーシュートを最小限に抑え、バッテリーのダイナミック電圧応答を高い精 度でエミュレートできる超高の速負荷過渡応答特性 図4.3に示す測定は、図4.1と同じ測定を、バッテリーの代わりにバッテリーエミュレーション機
能を備えたKeysight N6781A SMUを使用して行ったものです。N6781Aの直列出力抵抗は、バッ テリーの150 mΩ値に合わせて設定しました。電圧応答と、それに伴う電流変動は、バッテリー を使用した場合と同等でした。 DC電源を使用して移動体デバイスに電力を供給する場合は、電流ドレインを評価する際に、バッ テリーの特性を無視することはできません。デバイスのバッテリー動作時間を最適化する場合、 結果として得られる電流変動は、バッテリーを使用した場合と同等である必要があります。汎用 DC電源はバッテリーのように動作しないので、通常は、電流変動の測定結果が大きく異なります。 バッテリーエミュレーション機能を備えたDC電源を使用すれば、バッテリーを使用した場合と同 等の、より精度の高い結果が得られます。N6781AとN6785Aは両方とも、プログラマブル出力抵 抗を備えています。 バッテリーエミュレーターSMUの応答特性 – バッテリーエミュレーターSMUの出力抵抗は、150 mΩに設定 – バッテリーと同等の電圧/電流
図4.3: Keysight N6781Aバッテリーエミュレーター SMUによるGSM携帯電話への電力供給
BE-SMU
電圧
ヒント
5
:
バッテリーの容量/
エネルギー定格の検証の
簡素化
移動体デバイスの動作時間を決定する際は、バッテリーの容量/エネルギーの定格の検証が 重要です。 バッテリーの容量/エネルギー定格を検証しないでメーカーのデータシートだけに基づいてデバ イスの動作時間を決定すると、不正確な結果が得られることがあります。記載されている容量は 通常、理想的な条件にて、バッテリーから得られる最大電流容量です。実環境動作では、その容 量は通常少なくなります。 バッテリー容量は、アンペア時(Ah)またはミリアンペア時(mAh)の単位でバッテリーが保有する電 流容量を仕様として明示しています。これは、ワット時(Wh)単位のバッテリーのエネルギー定格 とは別のものです。エネルギー定格は、製品のバッテリー容量(Ah)と記載されている公称電圧(V) の積で決まります。移動体デバイスの動作時間では、バッテリーが実際に保有するエネルギー量が、 バッテリー容量よりも重要な要素になるので、バッテリー容量と公称電圧を検証することが重要 です。 温度や経時劣化も、バッテリーから得られる電流容量に影響を与えるので、移動体デバイスの動 作時間を決める場合にはこれらの要素も考慮する必要があります。記載されているバッテリーの容量/エネルギー定格を検証する場合は、条件を高い精度で制御し、 高精度な電圧/電流ロギングを行う必要があります。 充電条件(充電式バッテリーの場合)や放電条件が少し変わるだけでも、バッテリーから得られる 容量やエネルギーが大幅に変わる場合があります。このため、適切な結果を得るためには、あら ゆる条件を精密に再現し制御することが重要になります。重要な条件の1つに放電レートがありま す。これは通常、定格容量Ahに対して特定の比をもつ定電流の放電条件を記載したものです。放 電レートが高くなるとバッテリーが供給できる容量やエネルギーが小さくなります。例えばCレー トが0.3Cの場合、理論的にはバッテリーのフル放電に3.33時間かかります。2 Ahのバッテリーでは、 Cレートが0.3Cの場合、0.6 Aの定電流放電になります。実際のバッテリーランダウン電圧プロファ イルが少し異なる結果になるのと同様に、測定されたエネルギー定格が、記載されている公称電 圧から求めたエネルギー定格と異なる場合もあることを考慮しておく必要があります。バッテリー の容量やエネルギー定格を決定する場合は、テスト条件を精密に制御しながら、バッテリーの電 流と電圧の両方を正確にロギングすることにより、高い精度で一貫性のある結果を得ることがで きます。 バッテリー放電時の定電流負荷動作 14585Aソフトウェアが動作するPC PC インタフェース N6781A/ N6785A チャネル1 N6705B DC電源/ アナライザ・ メインフレーム 電流 時間 携帯電話の バッテリー バッテリー 電流ドレイン 図5.1. 定電流負荷を使用してバッテリーを一定のCレートで放電した場合 バッテリーの容量/エネルギー定格の検証例: 図5.1に示すセットアップを使用して、充電式携帯電話のリチウムイオンバッテリーを一定のCレー トで放電しました。Keysight N6781A/N6785Aソース/メジャメントユニットの2象限機能は、 精密な高性能電子負荷としても高精度DC電源としても使用できます。Keysight 14585Aソフト ウェアを一緒に使用することで、容量/エネルギーの定格を検証するために、3.0 Vのカットオフ 電圧で0.3 A定電流放電を行いながら長時間データのロギングを実施するセットアップと結果表示 を、簡単に行うことができました。図5.2は、バッテリーの容量/エネルギー定格の検証結果です。 測定マーカーをデータログの開始ポイントとカットオフ電圧ポイントに置くことにより、バッテ リーが879 mAh/3.32 Whを供給したことが分かります。これらの値は、バッテリーのデータシー トに記載されている1 Ah/3.6 Whの定格よりも大幅に低い値です。次に、この違いの原因を特定し、 バッテリーからさらに電流を得ることができるかどうかを評価する手順が必要です。上述のよう に、バッテリーの容量/エネルギー定格は、実際にバッテリーから得られる量とは異なるので、 製品の動作時間を決定する場合は、それぞれを検証することが大切です。
図5.2. 14585Aソフトウェアを使用したバッテリー容量/エネルギーの測定。この例では、N6781Aを使用しました。 電圧、1 V/div
電流、0.2 A/div
ヒント
6
:
実使用負荷条件での
バッテリーの容量/
エネルギーの検証の簡易化
移動体デバイスのバッテリーの動作時間を決定する際は、バッテリーの容量/エネルギーを 動的な実使用負荷条件で検証することが重要です。 記載されているバッテリーの容量/エネルギー定格をメーカーのデータシートの条件に基づいて 検証した後、実際の使用条件を反映した動的な負荷条件で定格を検証する必要もあります。定電 流放電レートが高くなるとバッテリーの容量/エネルギーが低下するのと同様に、動的放電電流 のピークパルスが高くなると、平均値が同程度の定電流放電と比べて、容量/エネルギーが低下し、 バッテリー動作時間が短くなります。許容可能なピークパルス放電の総量は、バッテリーのデザ インに大きく依存します。このため、移動無線機のバッテリー動作時間を最適化する作業の中で、 バッテリー容量を実際の使用条件を反映した動的負荷条件で評価して検証する必要があります。実使用負荷条件でのバッテリーの容量/エネルギーの検証では、動的な実使用負荷条件を 確実に再現し、高い精度で電圧/電流をロギングすることが必要です。 静的な充放電と同様に、動的な負荷条件が少し変わるだけでも、バッテリーの容量/エネルギー が大幅に変化する場合があります。バッテリーのふるまいが非線形に時間変化することで、容量 /エネルギーも変化しますが、これは、動的負荷の違いによるものです。したがって、放電につ いて、高い精度で動的負荷プロファイルを行う必要があります。実際の移動体デバイスを使用す れば、最も現実的な動的負荷プロファイルが得られますが、欠点もあります。多くの場合、必要 な条件を忠実に作成してデバイスに目的の動作をさせることは困難であり、これを繰り返し実行 すると条件に大きなばらつきが生じることがあります。繰り返し実行するためのソリューション として、デバイスの動的な電流ドレインを十分な時間捕捉した後、これを再生し、電子負荷を使っ て動作を再現してバッテリーを放電する方法があります。 実使用負荷条件の記録と再生による、バッテリーの容量/エネルギー定格の検証例 図6.1に示すセットアップを使用して、最初にGPRSスマートフォンに電力を供給し、アクティブ モードの電流変動プロファイルを捕捉しました。次に捕捉したプロファイルを長時間再生して、 動的な電流負荷で動作を再現し、バッテリーを放電しました。Keysight N6781Aソース/メジャ メントユニットは、2象限動作を備え、高性能なDC電源としても電子負荷としても利用できるので、 本アプリケーションにおいて、記録と再生の両方に対応できます。N6785A SMUも同様に使用でき、 最大8 Aの大電力のデバイスに対応できます。最大の利点は、パワー供給時に出力電流プロファイ ルをデジタイズして、負荷として動作する際に、そのプロファイルを動的な任意波形として入力 できることです。N6705B DC電源/アナライザメインフレームと14585Aソフトウェアを使用す れば、この作業をさらに簡易化することができます。 図6.1. デバイスの電流変動を記録して再生することにより、バッテリーを放電 電流変動の記録 電流変動の再生 14585Aソフトウェアが 動作するPC 14585Aソフトウェアが 動作するPC PC インタフェース PC インタフェース N6781A/ N6785A チャネル1 N6781A/ N6785A チャネル1 バッテリー 電流ドレイン バッテリー 電流ドレイン 電 流 電 流 時間 時間 RF接続 8960シリーズ 無線通信 テスト・セット 携帯電話の バッテリー N6705B DC電源/ アナライザ・ メインフレーム N6705B DC電源/ アナライザ・ メインフレーム
次に、充電式リチウムイオンバッテリーの定格(1 Ah、3.6 Wh)を検証しました。図6.2は検証結 果です。携帯電話で捕捉した2 A(ピーク)、0.3 A(平均)の電流プロファイルを再生することで 0.856 Ahの容量および3.22 Whのエネルギーが得られましたが、これは、0.3 Aの定電流放電によっ て得られた0.879 Ahおよび3.32 Whよりもわずかに低くなりました。バッテリーのパルス性能は、 目的の実使用条件に十分に適しています。ピーク放電レートがより高い場合や、エネルギー密度 が高い、多くの1次(非充電式)バッテリーでは、この影響がより顕著になります。このように、実 使用負荷条件でのバッテリーの検証は、移動体デバイスの動作時間を決定する際の重要な要素で あることが分かります。 図6.2. 実使用パルスド負荷条件でのバッテリー容量の測定 電圧 2 V/div 電流 1 A/div 電力 5 W/div
ヒント
7
:
移動体デバイスのランダウン
テストによるバッテリー性能
の現実的な評価
バッテリーを搭載した移動体デバイスのランダウンテストを実行することで、バッテリーの 動作時間を最適化するための、詳細な解析を行うことができます。 動作時間を決定/最適化する場合には、移動体デバイスとバッテリーを個別にテストすることが 重要ですが、バッテリーは理想的な電圧源ではなく、その特性はホストとなる移動体デバイスの 消費電力と相互作用します。この相互依存性のために、デバイスにバッテリーを搭載した状態で システムとしてランダウンテストを実行した場合にだけ得られる有用な解析情報が多くあります。 これらの解析情報によって、以下が可能になります。 – 最も現実的な性能と動作時間を取得して基準値として利用し、他の方法から得られる結果と 比較したり相関させたりすることができます。 – 実使用条件でのバッテリーの容量/エネルギーを、バッテリーメーカーの定格と比較して評 価し、差がある場合には原因を究明することができます。 – 移動体デバイスで、バッテリー低下時のシャットダウンとバッテリーフル充電完了(バッテ リーが充電式の場合)のしきい値を検証して、バッテリーを十分に活用しているかどうか確か めることができます。 このように、デバイス及び搭載されたバッテリーのランダウンテストは、バッテリーの動作時間 を最適化する際に、一連の手法を補完する重要な手法です。バッテリーのランダウンテストでは、測定システムによる測定への影響を最小限に抑えた状態で、 高精度かつ高速な電圧/電流ロギングを行うことが必要です。 図7.1に、従来のバッテリーのランダウンテストセットアップを示します。詳細な解析情報が多く 得られる電流の高速デジタイジングが特に重要です。50 kSa/sのサンプリングレートは、無線機 のバッテリー電流パルス信号をロギングする際に設定する最初の設定値として最適です。また、 一部の携帯電話の規格にも推奨されているサンプリングレートです。 移動無線機の電流パルスは、一般に、ピークが高く、デューティーサイクルが短く、平均値が小 さいため、有意な結果を得るためには、広いダイナミックレンジを全て使用して、高精度な測定 を実現することも重要です。被試験デバイスの動作モードによって、クレストファクターが数百 倍になることもあります。パワーレベルの異なる複数のモードに切り替えながらテストを行う場 合には、電流の測定スパンはさらに広がります。クレストファクターが高いために測定システム のダイナミックレンジを使い尽くしてしまい、確度が制限されることもあります。テスト結果に 影響を与えないように電流シャントのピーク電圧降下を50 mV未満に抑える必要がある場合、こ の問題はさらに深刻になります。適切な結果を得るためには、測定システムが十分な利得/ダイ ナミックレンジ/確度を備えていることが不可欠です。従来の測定システムでは通常これらの要 件を満たすことができません。 バッテリーの電圧を電流と同時にロギングするための、第2の独立した測定チャネルも必要です。 以上を組み合わせて、バッテリーのランダウンテストを行うことで、移動体デバイスの動作時間 の解析/最適化に必要な知見を得ることができます。 図7.1. 従来のバッテリーのランダウンテストのセットアップ DUTの バッテリー 放電電流 シャント データ 出力 差動アンプ マルチプレクサ 利得増幅器 ADコンバータ データ収集機器 長時間 データロギング用 PC
図7.2. Keysight N6781A/N6785Aソース/メジャメントユニットを使用した、バッテリーのラ ンダウンテストのセットアップ バッテリーのランダウンテストの例: 図7.2に示すように、Keysight N6781A 2象限ソース/メジャメントユ ニットを使用して、バッテリーのランダウン時の電圧/電流をロギング し、GPRSスマートフォンのバッテリーのランダウンテストを実行しま した。N6781Aのさまざまな独自機能と優れた性能によって、バッテリー のランダウンテストに最適な高い確度と詳細な解析を実現できます。 N6785A SMUも同様に使用可能で、最大8 Aの大電力のデバイスに対応 できます。 – バッテリー電圧ロギング用の独立したDVM入力を備えています。 – 真に「負担電圧ゼロ」シャントなので、従来のシャントの電圧降下 の問題がありません。 – シームレスな測定レンジ切り替えにより、一回の連続ロギング測定 でnAからAまでの信号の電流測定を高い精度で行うことができ、従 来の固定レンジの測定システムで問題になっていたダイナミックレ ンジや確度の制限がなくなります。 – 最大20.48 μsのロギング分解能(基本サンプリング分解能は5.12 μs) により、ほぼすべてのパルス信号を高い精度で測定できます。 図7.3に、Keysight 14585A制御/解析ソフトウェアを使用して捕捉した バッテリーのランダウンテストの結果を示します。 開始ポイントとシャットダウンポイントに測定マーカーを配置すること により、以下のことが分かります。 – 平均電流は0.233 A、ピーク電流は1.29 Aでした。 – バッテリーの電流容量は843 mAh、エネルギーは3.19 Whでした。 – 携帯電話は、3時間38分動作した後、バッテリー電圧が3.44 Vまで 低下して、シャットダウンしました。 これらの結果から以下のことが分かります。 – 供給電力は、バッテリーに記載されている容量を16 %下回っていま した。 – バッテリーの放電停止電圧は、ターゲット値よりも高い値でした。 この例から分かるように、バッテリーのランダウンテストで、このテス ト特有の有用な結果を得ることができ、移動無線機のバッテリー動作時 間を最適化するための他のテスト手法を補完することができます。 図7.3. バッテリーのランダウンテスト結果 DUTの バッテリー バッテリー電流ドレイン 負担電圧ゼロ電流計 N6781A/N6785Aソース/メジャメント・ユニット 電圧測定用補助入力 電圧 0.5 V/div 24分/div 電流 1 A/div 電力 5 W/div
ヒント
8
:
バッテリー性能と信頼性の
最適化のための充電管理の
検証
移動体デバイスのバッテリー充電管理機能を検証することは、バッテリー性能全体を総合的に 最適化するために重要です。 充電式バッテリーを使用するデバイスの場合、充電量の管理が、短期的および長期的なバッテリー 性能に影響を与えます。さまざまなバッテリー性能特性を総合的に最適化して、確実にデザイン 目標を達成するために、バッテリーの充電プロファイルと充電完了を検証する作業は重要で、次 のような検証項目があります。 – 充電時間 – バッテリーの寿命と安全性 – バッテリー性能に起因する保証クレーム – 動作時間 – 障害条件の管理 以上すべての要素が重要ですが、多くの場合、デバイスによってそれぞれ重視される要素が異な ります。例えば、バッテリーが内蔵されていて簡単に交換できない、タブレット、MP3プレーヤー、 無線ハンドセットでは内蔵バッテリーの寿命がより重視されます。移動体デバイスのバッテリーの充電管理機能の検証では、測定に影響を与えない測定器を 使用して高精度かつ高速な電圧/電流ロギングを行うことが必要です。 図8.1は、デバイスのバッテリー充電プロファイルを評価するための、汎用測定器をベースにした セットアップを示しています。2個の同時測定チャネルが必要で、1つは充電電流のロギング用、 もう1つはバッテリー電圧のロギング用として使われます。2つのチャネルの組み合わせにより、 充電のプロファイルと管理についての重要な知見が得られます。 リチウムイオン電池は、サイズ、質量、エネルギー密度の点で優れているため充電池を使用する ほぼすべての移動体デバイスで採用されています。充電時の電圧レベル(フロート電圧)は、高い 精度を必要とします。フロート電圧がわずか10 mVまたは0.25 %異なるだけで、充電量の差の% 値が最大10倍になることもあります。誤差が50∼100 mVになると、過充電によって安全上の問 題が生じる場合もあります。したがって、充電性能に影響を与えないようにするために、データ 収集機器の電圧測定誤差だけでなく、電流シャントのインピーダンスやそれによる電圧降下も無 視できる程小さい必要があります。また、より高度な充電管理の方法が採用されるにつれ、さま ざまな動的信号を印加しながら、充電中のバッテリーの特性を求める必要があります。 優れたダイナミック測定性能と高精度のDC測定が必要ですが、現在市販されているデータ収集機 器の性能では限界があり、要求に応えることができません。 図8.1. 従来のバッテリー充電プロファイル測定のテストセットアップ DUTの バッテリー 充電電流 シャント AC アダプタ DC出力 データ収集機器 長時間 データロギング用 PC データ 出力 差動アンプ マルチプレクサ 利得増幅器 ADコンバータ
図8.2. Keysight N6781A/N6785Aソース/メジャメントユニットを使用した、バッテリー充電 プロファイルのテストセットアップ バッテリー充電プロファイルテストの例: Keysight N6781Aソ ー ス / メ ジ ャ メ ン ト ユ ニ ッ ト を ベ ー ス と し た、 GPRSスマートフォンのバッテリー充電プロファイルの測定セットアッ プを図8.2に示します。N6781Aは、バッテリー駆動製品の評価専用の機 能を備え、さまざまな独自の利点があります。N6785A SMUも使用でき、 最大8 Aの大電力のデバイスに対応できます、 – 負担電圧ゼロ電流計により電圧降下がないため、精度の高い結果を 得ることができます。 – 内蔵の補助電圧測定機能を使ってバッテリーの充電電圧を同時にロ ギングできます。 – シームレスな測定レンジ切り替えにより、広いダイナミックレンジ で精度の高い測定結果を得ることができます。 – 広い測定帯域幅と高速デジタイジングにより、動的動作を詳細に捕 捉できます。 – データ・ロギング・モードにより、高速デジタイジングを長時間実 行できます。 図8.3に、Keysight 14585Aソフトウェアを使用して捕捉したバッテリー 充電プロファイルの測定結果を示します。 図3から、以下のことが分かります。 – 充電は7時間にわたって行われました。 – 最小と最大のエンベロープトレースで描かれているように、充電電 流はDCではなく高速なパルスでした(高速測定デジタイジングによ り視覚化)。 従来のリチウムイオン電池で採用されている固定の定電流(CC)/定電圧 (CV)充電プロファイルとは異なり、バッテリーが目的のフロート電圧 (4.199 V)に達した後は、電流を次第に低下させながらフル充電しています。 これらの結果から以下のことが分かります。 – 高速充電は重要ではありません。むしろ、夜間にバッテリーをフル 充電するための低速充電が適しています。 – 最終的な充電フロート電圧は、寿命と充電量のバランスをとるため に最適な条件に近いものと考えられます。 この例から分かるように、バッテリーの充電プロファイルテストによる 検証により、移動無線機のバッテリー寿命を最適化するための有用な結 果を得ることができ、他のテスト手法を補完することができます。 図8.3. バッテリー充電プロファイル測定のテスト結果 DUTの バッテリー バッテリー充電電流 負担電圧ゼロ電流計 N6781A/N6785Aソース/メジャメント・ユニット 電圧測定用補助入力 AC アダプタ DC出力 電圧 1 V/div 42分/div 電流 0.5 A/div 電力 2 W/div
ヒント
9
:
バッテリー動作時間に関する
移動体デバイスのサブ回路の
最適化
移動体デバイスのバッテリーの動作時間を最適化するために、サブ回路の消費電力と制御を測定、 解析します。 バッテリー動作時間の最適化のために移動体デバイスの全消費電力を測定/解析することが必要 ですが、同様に、デバイスのサブ回路の測定/解析も必要です。多くの場合、サブ回路を全消費 電力と関連付けて測定/解析することにより、さらに詳細にこれらの関係を理解することができ ます。 移動体デバイスのサブ回路の測定/解析の例: – ディスプレイのコントラスト/カラー制御と、照明電力との関係 –VFS(周波数可変システム)を使用するときの、ベースバンドマイクロコントローラーの動 作状態/クロックレートと、ベースバンドマイクロコントローラーの電圧/電流との関係 – ダイナミック電圧制御の使用も考慮した、RF送信電力と、RFパワーアンプの電流/電圧との 関係 – 特定の動作のために適切なタイミングで行われる、個別のサブ回路への電力供給 ほぼすべてのサブ回路は、PMU(電力管理ユニット)から電力が供給されます。PMUは各サブ回路 ごとに、別々のバイアス電圧を供給するので、サブ回路を個別にオン/オフしたり、必要に応じ て各電力を調整したりすることができます。この電力調整機能があるため、テスト中も、外部DC 電源を使ってサブ回路に直接電力を供給するのではなく、サブ回路に供給されている電圧/電流 を個別に測定することが、通常、必要になります。サブ回路の消費電力を測定するには、サブ回路の動作に影響を与えない高性能な測定ロギングを 行うことが必要です。 図9.1は、従来のデータ収集機器を使用してバッテリー入力とサブ回路の電圧/電流を測定するた めの代表的なセットアップを示しています。電流の高速デジタイジングは、動作に関する詳細な 解析をするために重要です。また、代表的な移動体デバイスとそのサブ回路は広く動的な動作レ ンジを持ち、電流パルスのピークが高いため、意味ある結果を得るためには広いダイナミックレ ンジを全て使用して高い精度で測定をすることも重要です。個別のサブ回路は最小電流がさらに 小さい場合もあるため、デバイス全体で必要とするダイナミック測定レンジよりも、さらに広い ダイナミック測定レンジが必要です。電流ドレインのレンジが広いために測定システムのダイナ ミックレンジを使い尽くしてしまい、確度が制限されることもあります。サブ回路やテスト結果 に影響を与えないように電流シャントのピーク電圧降下を50 mV未満に抑える必要がある場合、 問題はさらに深刻になります。適切な結果を得るには、測定システムが十分な利得/ダイナミッ クレンジ/確度を備えていることが不可欠です。従来のデータ収集機器では通常これらの要件を 満たすことができません。 バッテリーとサブ回路の電圧を、電流と同時にロギングするために、追加の独立した測定チャネ ルの追加も必要です。以上を組み合わせることにより、移動体デバイスのバッテリー入力、サブ 回路と、PMU制御動作の測定/解析に必要な知見を得ることができます。 図9.1. 従来のバッテリー入力とサブ回路電源のテストセットアップ バッテリー または DC電源 DUT電流 シャント サブ回路1 サブ回路2 サブ回路n シャント データ収集機器 被試験移動体 デバイス 長時間 データ・ ロギング用PC データ 出力 差動アンプ マルチプレクサ 利得増幅器 ADコンバータ
図9.2. Keysight N6781A/N6785Aソース/メジャメントユニットを使用したバッテリー入力と サブ回路のパワーテストのセットアップ GPSデバイスのバッテリー入力とRFアンプのパワーの評価 図9.2に示すように、2台のKeysight N6781A 2象限ソース/メジャメン トユニットを使用して、GPSのバッテリー入力とRFアンプサブ回路の電 圧と電流を評価しました。N6781Aのさまざまな独自機能と優れた性能 によって、このテストに最適な高い確度と詳細な解析を実現できます。 N6785A SMUも同様に使用可能で、最大8 Aの大電力のデバイスに対応 できます。 – バッテリー・エミュレーション・ソース機能により、実際の入力パ ワー特性とより精度の高い結果を取得できます。 –「負担電圧ゼロ」シャント動作モードにより、従来のシャントの電圧 降下の問題がなくなります(シャントは低バイアス電圧で駆動され るサブ回路の電流を測定するために使用します)。 – サブ回路のバイアス電圧をロギングするための独立したDVM入力が 提供されます。 – シームレスな測定レンジ切り替えにより、1回の連続ロギング測定 でμA以下からAレベルまでの信号の電流測定を高い精度で行うこと ができ、従来の固定レンジの測定システムで問題になっていたダイ ナミックレンジや確度の制限がなくなります。 – 高速かつ高分解能の波形捕捉機能とデータロギング機能により、ほ ぼすべてのパルス信号を高い精度で測定できます。 GPSデバイスのバッテリー入力のパワー需要とRFアンプのターンオンタ イミングも評価しました。電力を節約するには、PMUは必要な場合にのみ サブ回路に電力を供給する必要があります。図9.3に、Keysight 14585A制 御/解析ソフトウェアを使用して捕捉したテスト結果を示します。以下 のことがわかります。 – バッテリー入力では平均電流は0.290 Aで、ピーク電流は0.822 Aで した。 – PMUは、必要な動作ポイントで要求に応じてRFアンプに電力を供 給しました。 このように、サブ回路と全消費電力を組み合わせて評価することにより、 移動体デバイスのバッテリー動作時間を最適化するための重要な結果が 得られます。 図9.3. GPSデバイスのバッテリー入力とサブ回路のパワーテストの結果 DUT電流 N6705B DC電源/アナライザ・メインフレーム
N6781A/N6785A SMU No.1 N6781A/N6785A SMU No.2
サブ回路1 サブ回路2 サブ回路n 補助入力 DVM バッテリー・ エミュレータ 補助入力 DVM 負担電圧ゼロ 電流計 被試験移動体 デバイス RF増幅器の電流 10 mA/div バッテリー入力電圧 1 V/div バッテリー入力電流 500 mA/div RF増幅器の電圧 1 V/div PMUがRF増幅器に電力を供給 時間20 s/div
ヒント
10
:
実環境下でのバッテリー動作
時間の検証
バッテリーの動作時間を検証する場合、移動体デバイスの実際の動作に基づいた現実的なユーザー プロファイルを使用する必要があります。 基本的な通話時間テストと待機時間テストでは、現実的なバッテリー動作時間を検証することは できません。今日の高性能移動体デバイスには、革新的なデータベース型アプリケーションが内 蔵されていて、それらのアプリケーションの多くが同時に動作します。このため、バッテリー動 作時間は短くなっています。バッテリーの動作時間は、移動体デバイスの実際の動作に影響を与 えるユーザープロファイルによって検証する必要があります。携帯電話サービスプロバイダと業 界標準のコンプライアンステストは、この方向に動いています。バッテリー動作時間の検証に現 実的なユーザープロファイルを用いることにより、デバイスはプロファイルに応じて動作します。 表10.1に、いくつかの現実的なユーザープロファイルの例を示します。 表10.1. 現実的なユーザープロファイルの例 10代 母親 PCデータユーザー ビジネスユーザー 祖父母 データの ダウンロード 10 % 10 % 70 % 20 % 5 % データの アップロード 0 % 0 % 20 % 5 % 0 % コンテンツタイプ http、UDPストリーミング http ftp、http、UDP、 ストリーミング ftp 、http、UDP、 ストリーミング http 音声の使用 20 % 80 % 0 % 40 % 90 % モデムの使用 0 % 0 % 100 % 10 % 0 % SMSの使用 60 % 20 % 0 % 20 % 5 % MMSの使用 10 % 0 % 0 % 5 % 0 % 電子メール 5 % 5 % 10 % 50 % 0 % セルモビリティー レンジ: −95∼−30 dBm 発生頻度: 50 % レンジ: −105∼−30 dBm 発生頻度:70 % レンジ: −85∼−30 dBm 発生頻度:15 % レンジ: −105∼−30 dBm 発生頻度:70 % レンジ: −95∼−30 dBm 発生頻度:50 % ハンドオーバー 40 % 70 % 15 % 70 % 50 % バックライト 40 % 70 % 15 % 70 % 50 % 注記:同時アクティビティー。すべてのユーザープロファイルが同じイベントシーケンスであるとは限りませんバッテリー動作時間を実環境下で検証するには、ユーザーアクティビティーとネットワーク条件 の現実的なエミュレーションが不可欠です。 バッテリードレインは、単に個々のアクティビティーを重み付けして電流の総和を求めたもので はありません。ユーザーアクティビティーとネットワーク条件は、同時かつシーケンシャルに発 生します。バッテリー動作時間の検証で現実的な結果を得るためには、ユーザーアクティビティー とネットワーク条件を比較できるように、テストシステムでエミュレートする必要があります。 統計的なバラツキを考慮するには、このようなアクティビティーと条件を、バッテリーの出力電 流と併せて、適切な期間、記録する必要があります。また、再現性を確保するためには、できる だけ簡単な操作で、必要な時に必要な場所で迅速かつ日常的にテストを実行できるように、自動 化する必要があります。新しい要件や更新された要件に対応するためには、テストを簡単に変更 できる柔軟性も必要です。 このようなテストシステムを構成するには、相当な量の機器、ソフトウェア、開発作業、ドキュ メントが必要です。Keysight N5972Aインタラクティブ・ファンクション・テスト(IFT)ソフトウェ アと、8960またはE6621A無線通信テストセットを組み合わせ、これに、14585A制御/解析ソフ トウェアとN6781A/N6785Aソース/メジャメントユニット、または、14565Bデバイス特性評価 ソフトウェアと66319D移動体向けDC電源のどちらかを追加して使用すれば、このような作業を 大幅に簡素化できます。図10.1に、代表的なセットアップを示します。N5972Aソフトウェアを使 用して現実的なユーザープロファイルをエミュレートすれば、複数動作と条件を簡単に設定して、 同時かつ連続的に実行できます。N5972Aは、デバイスのバッテリー出力を動作やネットワーク条 件と一緒に記録できるように、14565B/14585Aソフトウェアと各DC電源を設定します。N5972A を対話モードで使用すれば、プログラミングコードを自動的に生成して、スクリプトエディター に出力することもできます。コードは拡張できるので、自動テストの開発が短期間でできます。 図10.1. キーサイト・テクノロジーのインタラクティブ・ファンクション・テスト(IFT)プラットフォームソリューション インターネット ルータ DC 電源 USB データ接続 サーバ: ・ FTPサーバ ・ UDPサーバ ・ Apache ・ 現在はMMS/SMSサーバ クライアント: ・ 対話型ファンクションテスト(N5972A) ・ ワイヤレス・プロトコル・アドバイザ ・ バッテリードレインの捕捉/解析(14565Bまたは14585A) ・ セキュリティキー ・ モデムドライバー パワー・スプリッタ E6621A PXT(左図の8960の 代わりにLTEデバイステスト用 機器として使用可能) N6781A/N6785A SMUとN6705B DC電源/アナライザ (左図の66319/21 PSUの代わりに 使用可能。高性能バージョン)
現実的なユーザープロファイルに基づいた代表的なコンプライアンステストの結果。 表10.1に示した10代、母親、PCデータユーザーの各プロファイルに対して図10.1のテストプラッ トフォームを使用して、携帯電話のバッテリー電流ドレインの長時間テストのセットアップを行 い、実行しました。比較のために、通話時間と待機時間のバッテリー電流ドレインも測定しました。 ユーザープロファイルによってバッテリーの動作時間にかなりの違いがあり、通話/待機時のバッ テリー電流ドレインのテスト結果だけでは正確に評価できないものもあることがわかります。 表10.2:バッテリー電流ドレイン 10代 母親 PCデータユーザー 通話時 待機時 平均電流(mA) 389 318 238 343 55 ピーク電流(mA) 555 819 842 671 656 ピーク電流(mA) 2.57 3.14 4.20 2.92 18.2 高性能移動体デバイスは、通話/待機動作だけでなく、さまざまな最新アプリケーションで使用 されます。このため、バッテリーの動作時間は短くなっています。バッテリーの動作時間がによっ て、顧客満足度が大幅に低下しないようには、デバイスに期待される現実的なユーザープロファ イルに基づいたテストが不可欠です。
本資料に掲載されている技術概要
カタログ番号
『バッテリー動作時間を最適化するための電流ドレイン波形の解析』 5990-9261JAJP 『測定確度の向上による、省電力モードのバッテリー動作時間の拡大』 5990-9262JAJP 『バッテリー動作時間を迅速に最適化するための分布プロファイルの解析』 5990-9263JAJP 『より現実的な移動体デバイステストのためのバッテリーエミュレーション』 5990-9651JAJP 『バッテリーの容量/エネルギー定格の検証の簡素化』 5990-9264JAJP 『実使用負荷条件でのバッテリーの容量/エネルギーの検証の簡素化』 5990-9265JAJP 『移動体デバイスのランダウンテストによる、バッテリー性能の現実的な評価』 5990-9266JAJP 『最適バッテリー性能と信頼性のための充電管理の検証』 5990-9267JAJP 『バッテリー動作時間拡大のための移動体デバイスのサブ回路の最適化』 5990-9268JAJP 『実環境下でのバッテリー動作時間の検証』 5990-9900JAJPmyKeysight
www.keysight.co.jp/find/mykeysight
ご使用製品の管理に必要な情報を即座に手に入れることができます。 www.keysight.com/go/quality
Keysight Technologies, Inc. DEKRA Certified ISO 9001:2008 Quality Management System 契約販売店 www.keysight.co.jp/find/channelpartners キーサイト契約販売店からもご購入頂けます。 お気軽にお問い合わせください。 Keysight Infoline www.keysight.com/find/service 測定器を効率よく管理するためのオンラインサービスです。無料登録により、 保有製品リストや修理・校正の作業履歴、校正証明書などをオンラインで確認 できます。 www.keysight.co.jp/find/N6781A www.keysight.co.jp/find/N6785A © Keysight Technologies, 2012 - 2015 Published in Japan, June 5, 2015 5991-0160JAJP 0000-00DEP www.keysight.co.jp 受付時間 9:00-18:00 (土・日・祭日を除く) contact_japan