分布定数回路
これまで示した回路の解析において,電圧や電流は時間のみに依存し,それらの観測位置には無関係であると考 えてきた.しかし,電圧や電流の時間的な変動が速くなると,たとえ導線上の電圧や電流であっても,導線上の位置 によって値が異なってくる.これまでの回路のように,電圧や電流が時間のみに依存していると近似することのでき る回路を集中定数回路と呼び,電圧や電流が時間と位置の両方に依存すると考えなければならない回路を分布定数 回路と呼ぶ.ここでは,分布定数回路の解析手法について述べる.1
分布定数線路と電信方程式
分布定数回路として取り扱わなければならない例として,図1に示す同軸ケーブルや平行ケーブルなどがある.こ れらのように,2本の長い導体からなる素子を特に分布定数線路と呼ぶ.以下では,分布定数線路を表す記号として, 図2を用いることにする.2r
d
2r
d
(a)
(b)
(c)
d
l
図 1: 分布定数回路の例V
(0,t)
I
(0,t)
I
(l,t)
l
V
(l,t)
図2: 分布定数回路の記号V
inV
(x,t)
I
(x,t)
I
(x+Ǽx,t)
V
(x+Ǽx,t)
x
+Ǽx
x
0
図3: 分布定数線路 まず,分布定数線路が電圧源Vinによって駆動されている図3について考える.電圧源Vinから距離xだけ離れた位 置での分布定数線路の電位差をV (x, t),同じ位置での分布定数線路を流れる電流をI(x, t)とする.ただし,V (x, t) とI(x, t)は電圧源Vinからの距離xおよび時間tの関数である. 図3の分布定数線路の微少区間について考えると,図4に示すように,1本の導線には電圧降下をもたらすインダ クタンス∆Lと抵抗∆Rが存在し,また,2本の導線間には電流の漏れを生じさせる容量∆C とコンダクタス∆G が存在すると考えることができる.そこで,単位長さ当たりのインダクタンスと抵抗,容量,コンダクタンスをそれ ぞれL0,R0,C0,G0 1とし,これらを用いて信号源からの距離がxである位置から微少な距離∆xだけ離れた位置 での電圧V (x + ∆x, t)および電流I(x + ∆x, t)を求めてみる. 1L 0の単位は[H]ではなく[H/m],R0の単位は[Ω]ではなく[Ω/m],C0の単位は[F]ではなく[F/m],G0の単位は[S]ではなく[S/m] である.ΔL
ΔR
ΔG
ΔC
Δx
図4: 分布定数線路の微少区間 ∆xは十分短いので,xとx + ∆xの間を流れる電流がI(x, t)であると考え,xとx + ∆xの間のインダクタンス ∆Lと抵抗∆RがそれぞれL0∆x,R0∆x となることから,位置x + ∆xにおける電圧V (x + ∆x, t)は,L0∆xと R0∆xによる電圧降下を考慮すると V (x + ∆x, t) = V (x, t)− R0∆xI(x, t)− L0∆x∂I(x, t) ∂t (1) と表される.一方,電流についても,∆xが十分短いことから,xとx + ∆xの間の電圧をV (x, t)であると考え,x とx + ∆xの間の容量∆CがC0∆xであり,コンダクタンス∆GがG0∆xであることから,電流I(x + ∆x, t)は I(x + ∆x, t) = I(x, t)− − (2) となる. また,電圧V (x + ∆x, t)と電流I(x + ∆x, t)は,電圧V (x, t)と電流I(x, t)の距離方向の変化の割合∂V (x, t)/∂x と∂I(x, t)/∂xを用いても表すことができ,それぞれ V (x + ∆x, t) = V (x, t) + (3)I(x + ∆x, t) = I(x, t) +∂I(x, t)
∂x ∆x (4) となる.式(1)と式(3),並びに式(2)と式(4)の比較から −R0I(x, t)− L0∂I(x, t) ∂t = (5) −G0V (x, t)− C0∂V (x, t) ∂t = (6) が得られる.ここで,式(5)の両辺をxについて,また,式(6)の両辺をtについて偏微分すると −R0∂I(x, t) ∂x − L0 ∂2I(x, t) ∂x∂t = ∂2V (x, t) ∂x2 (7) −G0∂V (x, t) ∂t − C0 ∂2V (x, t) ∂t2 = ∂2I(x, t) ∂t∂x (8) となる.xに関する偏微分とtに関する偏微分の順序を入れ替えても同じであることから ∂2I(x, t) ∂x∂t = ∂2I(x, t) ∂t∂x (9) が成り立つ.このことを考慮して,式(6)と式(8)を式(7)に代入すると ∂2V (x, t) ∂x2 = R0G0V (x, t) + (L0G0+ C0R0) ∂V (x, t) ∂t + L0C0 ∂2V (x, t) ∂t2 (10)
が得られる. 同様の手順により,電流I(x, t)についても ∂2I(x, t) ∂x2 = R0G0I(x, t) + (L0G0+ C0R0) ∂I(x, t) ∂t + L0C0 ∂2I(x, t) ∂t2 (11) という式が導かれる.これらの式はともに電信方程式と呼ばれている. [例題1] R0= 1 Ω/m,G0 = 1 S/m,L0 = 1 H/m,C0 = 1 F/mのとき,式(10)を求めてみる.ただし,電圧V (x, t)は V (x, t) = f (x)ejωt (12) と表されるものとし,f (x)は距離xのみの関数であり,x = 0のときf (x) = 1,x→ ∞のときf (x) = 0とする. 式(12)を式(10)に代入すると ∂2f (x) ∂x2 e
jωt= f (x)ejωt+ 2jωf (x)ejωt− ω2f (x)ejωt (13)
となる.この式の両辺をf (x)ejωtで割ると 1 f (x) ∂2f (x) ∂x2 = 1 + 2jω− ω 2 = (1− jω)2 (14) が得られる.この式は距離xの微分方程式であるので,f (x)が f (x) = Ae−(1−jω)x+ Be(1−jω)x (15) であることがわかる.ただし,AとBは定数である. x → ∞のときf (x) = 0であるので定数Bは零でなければならない.次に,x = 0のときf (x) = 1であるので, A = 1であることがわかる.したがって,電圧V (x, t)は V (x, t) = e−(1−jω)xejωt= e−xejω(t+x) (16) となる.
2
分布定数線路の周波数特性
ここでは,電信方程式を基に,入力Vin(t)として振幅が1の複素正弦波ejωtを加えて分布定数線路の周波数特性 について調べる.分布定数回路も線形時不変回路の一種であるから,複素正弦波ejωtを加えると,定常状態では導 線上の任意の位置において同じ周波数の複素正弦波が現れる.したがって,V (x, t)とI(x, t)を V (x, t) = V (x)ejωt (17) I(x, t) = I(x)ejωt (18) と表すことができる.ただし,V (x)やI(x)は信号源からの距離xの関数であり,時間tを含まない.式(17)を式 (10)に代入すると ∂2V (x) ∂x2 ={ }V (x) (19) というV (x)に関する微分方程式が得られる.V (x)について,式(19)を解くと V (x) = Vie−γx+ Vreγx (20)が得られる.ただし,ViやVrは分布定数線路の端子対における電圧や電流によって定まる定数である.また,γは γ =√(R0+ jωL0)(G0+ jωC0) (21) であり,伝搬定数と呼ばれている.V (x, t)は,式(17)と式(20)から V (x, t) = Vie−γx+jωt+ Vreγx+jωt (22) となる.さらに,この式と式(18)を式(5)に代入すると −(R0+ jωL0)I(x)ejωt=−γVie−γx+jωt+ γVreγx+jωt (23) が得られ,この式を整理すると,I(x)が I(x) = Iie−γx− Ireγx (24) となる.ただし,IiとIrは Ii = Vi Z0 (25) Ir= Vr Z0 (26) である.また,Z0は Z0 = (27) であり,特性インピーダンスと呼ばれている.さらに,式(18)と式(24)から,I(x, t)が I(x, t) = Iie−γx+jωt− Ireγx+jωt (28) であることがわかる. 次に,比較的解析が簡単な分布定数線路の長さが無限の場合について,式(22)や式(28)がどのようになるか考え てみよう.分布定数線路の長さが無限の場合,VrやIrが零でないと,V (x, t)やI(x, t)も無限大の大きさとなる.し かし,電圧や電流が無限に大きくなることはあり得ないので,VrやIrは零であることがわかる.Vr = 0を式(22) と式(28)に代入すると V (x, t) = Vie−γx+jωt (29) I(x, t) = Iie−γx+jωt (30) が得られる.γは一般に複素数であり, γ = α + jβ (31) と表すことができる.αとβを用いて,式(29)と式(30)を書き換えると V (x, t) = Vie−αxej(ωt−βx) (32) I(x, t) = Iie−αxej(ωt−βx) (33)
となる.式(32)や式(33)は複素正弦波を加えて得られた結果であるから,実際に正弦波を加えて観測される波形は その実部となる.αやβは一般にはjωの関数であるため,Vie−αxe−j(βx−ωt)の実部を求めることは難しい.しかし, 分布定数線路を表すパラメータL0とR0,C0,G0の間に R0 L0 = G0 C0 (34) が成り立つと,αとβは α = (35) β = ω (36) となる.すなわち,αは定数となり,βはωに比例する.式(34)の条件が成り立つとして,Vie−αxe−j(βx−ωt)の実部 を求めると
Re[Vie−αxej(ωt−βx)] = Vie−αxcos(ωt− βx) = Vie−αxcos{ω(t −
√ L0C0x)} (37) となる.これをt = 0とt = ∆tのときについて図示すると,図5が得られる.
x
V
(x,t)
Ǽx
t
=0
t
=Ǽt
0
図5: 入力信号の伝達 αは定数であるから,e−αxは信号周波数によらず,距離xに応じて信号が減衰する割合を表す.このため,αは 減衰定数と呼ばれている.一方,βxは信号源からの距離に応じた位相の偏差を表しているので,βを位相定数と呼 ぶ.さらにcos{ω(t −√L0C0x)}は,式(37)から,入力信号が の時間だけ遅れて伝わることを表してい る.以上から,式(34)を満足するとき,入力の正弦波の大きさは減衰はするが,形は歪まずに伝わる2.このことか ら,式(34)を無歪み条件と呼び,式(34)を満足する分布定数線路を無歪み線路と呼ぶ.また,R0とG0が零の場合, α = 0となり,信号は減衰せずに伝わる.このことから,R0 = 0かつG0= 0の分布定数線路を無損失線路と呼ぶ. 図5において,Vie−αxcos(βx− ωt)は∆t秒の間にx軸の正の方向へ∆xだけ偏差したと考えることもできる.こ のように,Vie−γx+jωtがx軸の正の方向へ進む信号と解釈できることから,式(22)の右辺第1項を電圧入射波ある いは単に入射波と呼ぶ.入射波は∆t秒の間に∆xだけ進むので vp = ∆x ∆t (38) という速度でx軸の正方向へ進んでいる.速度vpを位相速度と呼ぶ.図5において,∆xは∆t秒後のピークの位置 であるから β∆x− ω∆t = 0 (39) 2入力信号をf 1(t),出力信号をf2(t)としたとき,任意のtについてf2(t) = Kf1(t− τ)が成り立つとき,無歪みであるという.ただし, Kやτは角周波数ωに無関係な実定数である.式(34)を満足する場合,Kとτ はそれぞれK = e−√R0G0,τ =√L 0C0となる.が成り立つ.このことから,vpが vp = ω β = 1 √ L0C0 (40) であることがわかる. 一方,式(22)の右辺第2項は負の位相速度を持ち,x軸の負の方向へ進む信号と考えることができる.そこで,式 (22)の右辺第2項は電圧反射波あるいは単に反射波と呼ばれている.同様に,式(28)の右辺第1項を電流入射波, 右辺第2項を電流反射波と呼ぶ.
x
V
(x,t
0)
t
=t
00
Ȣ
図6: 入射波の伝達 次に,簡単のため無損失線路を用いて,時刻t = t0における無損失線路上の電圧について考えてみる.式(37)か ら,無損失線路上の電圧V (x, t0)は V (x, t0) = Vicos{ω(t0− βx)} (41) と表され,図6に示すように正弦波状に変化している.ただし,β =√L0C0である.正弦関数や余弦関数は周期2π の周期関数であるので,1周期分の距離を表すλは λ = 2π β (42) であることがわかる.このλを波長は呼ばれている. [例題2] 図1(a)に示す,軸の半径がr,外径がdの同軸ケーブルの単位長さ当たりのインダクタンスと単位長さ当たりの 容量は L0 = µ0 2πln d 2r (43) C0= 2πϵ0 ln d 2r (44) となり,また,図1(b)に示す,導体の半径がr,導体間の距離がdの平行ケーブルでは L0 = µ0 π cosh d 2r (45) C0= πϵ0cosh d 2r (46) となることが知られている.ここで,µ0は真空の透磁率であり,µ0 = (1/36π)× 10−9 H/mである.また,ϵ0は真 空の誘電率であり,ϵ0= 107/(4πc20) F/mである.ただし,c0は真空中の光の速さ(3.0× 108 m/s)である.同軸ケーブルと平行ケーブルでは,単位長さ当たりの抵抗R0と単位長さ当たりのコンダクタンスG0は無視する ことできるものとして,それぞれの位相速度を求めてみる.同軸ケーブルと平行ケーブルともに,L0とC0の積は L0C0= µ0ϵ0 (47) となる.位相速度vpは1/L0C0であるから vp = 1 µ0ϵ0 = c0 (48) が得られ,位相速度が光速に等しいことがわかる. [問1]同軸ケーブルを伝わる信号の周波数が1 GHzのとき,波長λを求めよ.
3
分布定数線路を含む回路の正弦波励振定常応答
ここでは,分布定数線路と抵抗などの素子を組み合わせて実現した回路の正弦波励振定常応答について考えてみ る.また,解析を簡単にするため,分布定数線路は無歪み,無損失であると仮定する.V
(0)
V
(l)
I
(0)
I
(l)
l
Z
01
1’
2
2’
図7: 分布定数線路のFパラメータ3.1
分布定数線路の F パラメータ
図7に示す,特性インピーダンスがZ0,長さがlの分布定数線路のFパラメータを求める.正弦波励振定常応答 の場合,線路上に現れる信号の周波数はすべて同じであるので,信号周波数を考える必要はなく,分布定数線路の電 圧と電流は,距離xのみの関数である式(20)と式(24)によって表されると考えてよい.ただし,分布定数線路は無 歪み,無損失であると仮定しているので,γはjβに置き換えられる. 図7のV (0)とI(0)は,式(20)と式(24)から V (0) = Vi+ Vr (49) I(0) = Vi Z0 − Vr Z0 (50) となる.同様に,V (l)とI(l)は,式(20)と式(24)にx = lを代入することにより V (l) = Vie−jβl+ Vrejβl (51) I(l) = Vi Z0e −jβl− Vr Z0e jβl (52) となる.ここでは,式(51)と式(52)を合わせてを無損失分布定数線路の基礎方程式と呼ぶことにする.これらの式において,関数exとe−xは双曲線関数cosh xとsinh xを用いて ex= cosh x sinh x (53) e−x= cosh x sinh x (54) と表すことができることから,式(51)と式(52)を V (l) = (Vi+ Vr) cosh(jβl)− (Vi− Vr) sinh(jβl) (55) I(l) =−Vi+ Vr Z0 sinh(jβl) + Vi− Vr Z0 cosh(jβl) (56) と書き換えることができる.これらの式に式(49)と式(50)を代入すると V (l) I(l) =
V (0) cosh(jβl)− Z0I(0) sinh(jβl) −V (0)
Z0 sinh(jβl) + I(0) cosh(jβl) = cosh(jβl) −Z0sinh(jβl) − 1 Z0 sinh(jβl) cosh(jβl) V (0) I(0) (57)
が得られる.さらに,cosh2x− sinh2x = 1であることを利用して,この式をV (0)とI(0)について解くと V (0) I(0) = 1cosh(jβl) Z0sinh(jβl) Z0 sinh(jβl) cosh(jβl) V (l) I(l) (58) となり,分布定数線路のFパラメータが得られる. β = ω√L0C0であることから,分布定数線路のFパラメータのA要素とD要素はjωの偶関数,B要素とC要 素はjωの奇関数であることがわかる.さらに,AD− BC = 1であることから,分布定数線路のFパラメータはリ アクタンス回路のそれと同じ性質を持っており,電力を消費しない. [問2]分布定数線路のFパラメータについてAD− BC = 1が成り立つことを確かめよ.
R
V
(0)
V
(l)
I
(0)
I
(l)
l
Z
0 図8: 分布定数線路と抵抗からなる回路3.2
抵抗が接続された分布定数線路の駆動点イミタンス
図8は,特性インピーダンスがZ0,長さがlの分布定数線路の片端に抵抗が接続された回路である.図8の回路 の駆動点インピーダンスZin= V (0)/I(0)は,式(58)から Zin= V (0) I(0) = Z0 cosh(jβl)V (0) + Z0sinh(jβl)I(0) sinh(jβl)V (0) + Z0cosh(jβl)I(0) (59) となる.また,図8において,V (l)とI(l)の間には V (l) = I(l) (60)が成り立つ.この式を式(59)に代入すると,Zinは Zin= Z0 R cosh(jβl) + Z0sinh(jβl) R sinh(jβl) + Z0cosh(jβl) (61) となる. ZinはRの値により,様々なインピーダンスに変化する.まず,Rが特性インピーダンスに等しい場合,R = Z0 であるので,Zinは Zin|R=Z0 = Z0 = R (62) となることがわかる. 次に,抵抗Rが接続されている端子が短絡されている場合と開放されている場合について考える.すなわち,R = 0 とR =∞の場合,Zinはそれぞれ Zin|R=0= Z0 sinh(jβl) cosh(jβl) = Z0tanh(jβl) = Z0p (63) Zin|R=∞= Z0 cosh(jβl) sinh(jβl) = Z0 tanh(jβl) = Z0 p (64) となる.ただし,pは p = tanh(jβl) = j tan(βl) (65) である. Z0は分布定数線路の単位長さ当たりのインダクタンスL0と容量C0で定まる定数であるから,式(63)と式(64) は,複素変数pに比例するインピーダンスと反比例するインピーダンスを表している.インダクタンスと容量が複 素変数sに比例するインピーダンスと反比例するインピーダンスであることと対比すると,式(63)は複素変数pを 用いた領域でのインダクタンス,式(64)は複素変数pを用いた領域での容量と考えることができる.
V
inR
2V
(0)
V
(l)
I
(0)
I
(l)
l
Z
0R
11
1’
2
2’
図9: 分布定数線路における電力伝送 [問3]図8において,R = 50 Ω,Z0 = 100 Ω,l = 3λ/4のとき,Zinを求めよ.ただし,λは波長である.3.3
反射係数と透過係数
ここでは,図9に示すように,分布定数線路を介して電力を伝送する場合について考える.端子対1-1’を送端,端 子対2-2’を受端と呼ぶ.式(20)より,送端における入射波はViであり,反射波はVrである.これらの比を送端反 射係数と呼ぶ.また,受端における入射波はVie−jβlであり,反射波はVrejβlである.これらの比を受端反射係数と 呼ぶ.送端反射係数をΓS,受端反射係数をΓLとする.送端において Vi+ Vr= V (0) (66)Vi− Vr= Z0I(0) (67) が成り立つので,ΓSは ΓS = Vr Vi = V (0)− Z0I(0) V (0) + Z0I(0) = Z11− Z0 Z11+ Z0 (68) となる.ただし,Z11は Z11= V (0) I(0) (69) であり,式(61)において,RをR2で置き換えたときのZinである.一方,受端では,式(60)が成り立っている.式 (60)に V (l) = Vie−jβl+ Vrejβl (70) I(l) = 1 Z0 (Vie−jβl− Vrejβl) (71) を代入すると (R2 Z0 − 1)Vie −jβl =(R2 Z0 + 1)Vre jβl (72) という関係を得る.この関係式を用いると,受端反射係数ΓLは ΓL= Vrejβl Vie−jβl = R2− Z0 R2+ Z0 (73) となる. Z11= Z0となると,送端反射係数ΓS= 0となり,送端で反射波が零となる.Z11は式(61)のRをR2に置き換え たときのZinである.したがって,R2 = Z0のとき,分布定数線路と抵抗R2からなる回路は単なる抵抗となるため, 全く反射が起きないことがわかる.一方,R2 = Z0のとき,受端でも反射は起きず,受端反射係数ΓLも となる. また,電源Vinから抵抗R2へ供給する電力を最大とするためには,Z11が抵抗R1と等しくなければならない.
3.4
定在波
ここでは,図9の分布定数線路の電圧V (x, t)を求めてみる.式(22)から V (x, t) = Vie−jβx+jωt+ Vrejβx+jωt (74) となる.ただし,ここでは無歪み,無損失線路を仮定しているので,γ = jβという関係を用いている.次に,式(73) からVrejβlが Vrejβl = ΓLVie−jβl (75) と表されるので,式(74)は V (x, t) = Vie−jβx+jωt+ ΓLViejβx+jωt = Vie−jβle−jβ(x−l)+jωt+ ΓLVie−jβlejβ(x−l)+jωt (76) と書き換えることができる.右辺第1項は分布定数線路を左から右に進行する成分を表し,右辺第2項は右から左に 進行する成分を表している.さらに,右辺第1項を Vie−jβle−jβ(x−l)+jωt= (1− ΓL)Vie−jβle−jβ(x−l)+jωt+ ΓLVie−jβle−jβ(x−l)+jωt (77)と二つの成分に分けて考えると,右辺第1項はx = lにおいて,抵抗R2に吸収される成分を表している.この式の
右辺第2項と式(76)の右辺第2項を加え,β = ω√L0C0を代入し,実部を取ると Vstand = Re[ΓLVie−jβle−jβ(x−l)+jωt+ΓLVie−jβlejβ(x−l)+jωt] = 2ΓLVicos{ω
√ L0C0(x−l)} cos{ω(t−√L0C0l)} (78) となり,振幅が2|ΓLVicos{ω √ L0C0(x− l)}|で,位置xから右にも左にも進行しない成分を表していることがわか る.この右にも左にも進行しない成分を定在波と呼ぶ3. 以上をまとめると,分布定数線路の位置xにおいて実際に観測される電圧Vreal(x, t)は抵抗R2に吸収される成分 と定在波の和で表され Vreal(x, t) = (1− ΓL)Vicos ω(t− √ L0C0x) + 2ΓLVicos{ω √ L0C0(x− l)} cos{ω(t −√L0C0l)} (79) となる. 最後に定在波比を求めてみる.定在波比とはx = 0からx = lまでの範囲におけるVreal(x, t)の振幅の最大値Vmax
と最小値Vminの比である.そこで,VmaxとVminを求めることにする.式(76)の実部が実際の分布線路上の位置x
での電圧となるので式(76)の実部を求めると
Re[Vie−jβx+jωt+ ΓLViejβx+jωt] = Vicos(ωt− βx) + ΓLVicos(ωt + βx) (80)
となる.ここで,cos(x1+ x2) = cos x1cos x2− sin x1sin x2並びにsin(x1+ x2) = sin x1cos x2+ cos x1sin x2とい
う関係を用いると
Vicos(ωt− βx) + ΓLVicos(ωt + βx) = Vi(cos ωt cos βx + sin ωt sin βx) + ΓLVi(cos ωt cos βx− sin ωt sin βx)
= Vi(1 + ΓL) cos βx cos ωt + Vi(1− ΓL) sin βx sin ωt = Vi
√
(1 + ΓL)2cos2βx + (1− ΓL)2sin2βx sin(ωt + θ)
= Vi √ 1 + 2 cos 2βx + Γ2 Lsin(ωt + θ) (81) となる.ただし,θは θ = tan−1 (1 + ΓL) cos βx (1− ΓL) sin βx (82) である.式(81)においてcos 2βxは位置xによって−1から1の範囲の値を取り得るので Vmax = Vi( ) (83) Vmin = Vi( ) (84) となることがわかる.したがって,定在波比ρは ρ = Vmax Vmin = 1 +|ΓL| 1− |ΓL| (85) である. 3ここでは,無歪み,無損失分布定数線路を考えているので, Z0= √ L0/C0であり,ΓLは実数である.