SDGs時代における地方創生
~誰が主役なのだろうか~
佐藤寛(アジア経済研究所) 2019/2/13 地域創生×SDGsセミナー ~「産官学民」の取り組み~ 於・長崎県美術館ホール1.アジェンダ2030
• 2015年9月国連で合意。2016年開始 • 正式名称は「我々の世界を変革する:持続 可能な開発のための2030アジェンダ」 • 17のゴール。169の目標(Targets) • 開発系のゴールはMDGs(2000-2015)の後 継。環境系のゴールは地球サミットの後継 • スローガンは「誰一人取り残さない」LeavingSDG=(S)すっごく、(D)大胆な、
ゆびきり(
G)げんまん
Transform という言葉
• 「我々の世界を改変する(Transform)」 • 地球環境を損なうことなく、先進国の人も途 上国の人も「それなりの生活」を続けられる ようにする、という大胆な目標の達成のため には日本人自身のライフスタイルの変革も 必要になる • これを「貧しい人のために我々の生活を犠 牲にする」と捉えるか、「我々と子孫のため に生活スタイルを変革する」と捉えるかで、2.SDGsは他人事ではない
• MDGs(ミレニアム開発目標:2001-2015) は「途上国のための貧困削減」が目的 • →SDGsは「地球全体の持続可能性」 • SDGsは先進国に住む私たちにとって「他 人事」ではないのよ! • 「先進国住民一人ひとりの主体的な取り組 みが求められる」と言われてもねえ・・・。 • 私たちが今の生活スタイルを続けることが 出来れば、そこそこ幸せなのでは? ≪‥でも、孫の世代は?≫上段の目標群(貧しい人のため)
• G1 地球上の全ての貧困をなくす • G2 飢餓をなくし、栄養のある食糧を確保し、 持続可能な農業を推進する • G3 全ての人の、全ての年齢層における、健 康と福祉を増進する • G4 包摂的で平等な教育機会を確保し、全て の人の生涯にわたる教育機会を促進する • G5 ジェンダー平等と、全ての女性と少女のエ ンパワーメントを達成する • G6 全ての人に水と衛生への持続可能なアク下段の目標群
=地球のため
・1992 UNCED (国連環境開発会議)リオデ ジャネイロ環境サミット「アジェンダ21」採択 ・2012 UNCSD(リオ+20) 国連持続的開発 会議→SDGsの原型に合意 G13 気候変動とその影響に対して速やかに 対応策を講じる G14 持続的開発のために、海と海洋資源 の保全と持続可能な利用を行なう G15 地上の生態系の保全、再生、持続可 能な利用を促進する。森林を持続的に管理 し、砂漠化と戦い、保全地域の荒廃を防ぎ、中段の目標群(
G7-12)
• G7 全ての人の手にエネルギーを • G8 全ての人に働き甲斐のある仕事を。包 摂的で持続可能な経済成長を • G9 包摂的で持続可能な産業化と耐性の あるインフラを • G10 国内・国際的な格差是正を • G11 包摂的で安全で耐性があり持続可能 な住まいと都市を • G12 持続可能な生産と消費のあり方をアジェンダ
2030
中段の目標は誰のため?
• 貧困削減・援助と地球環境以外の多様な中 段 ☚実はここが日本の一般国民、市民に とって重要なのでは? • 日本国内の問題とも密接に関連 =地方創生につながるヒント群→地方自治 体のためのエントリーポイントとなりうる • 途上国問題ではない、地球環境保全だけの 問題ではない 日本の中小企業にとっても 密接なつながりを見出しうる目標群注目ポイント
:ゴール8と12
• SDGsは政府(安倍政権)の肝いり、経団連 も取り組み本格化→企業活動はこれから好 むと好まざるとにかかわらずSDGsを意識し なければならなくなる • その中でも ゴール8「ディーセントワークと経済成長」、 ゴール12「責任ある生産と消費」については 、すべての業界(製造、物流、小売り)が注意 を払うべき課題であると同時に、公的部門 の関与も求められる分野ではないか3.SDGsの主役は誰だ?
• 政府、地方自治体 • 多国籍企業 • 投資家 • 社会的起業家 • 中小企業 • 市民社会 • 消費者、納税者 • 教育機関、研究機関(大学等)3-1.政府の役割
• 日本国政府(安倍首相自ら合意)→内閣府SDGs推 進本部(2015/5/20全閣僚)→半年に一回開催だが ようやく本腰(2018/11)「アクションプラン2019」 • 「旗振り」しても、予算がつかなければ各省庁は動 かない=主役にはなれない • 日本のアクター(公的機関、企業、CSO、投資家、 消費者)のソーシャルビジネスへの取り組みに対し て、政府に期待されるもの • CSRからソーシャルビジネスへの「孵化器」 • 企業の持つ資源と時間が限られている時に、公的 支援によって資源を追加(補助金)し、実証実験の 機会(時間)を与える • 制度的インセンティブ、国際的に土俵をならす( Level playing field)、罰則規定の明確化3-2.企業の役割(大企業)
• ダボス会議に出るような多国籍企業は SDGsにコミットして当然 • 経営戦略として取り組む • 日本でも国連グローバルコンパクトに加盟 している大企業は取り組みを強化 • SDG Compass:SDGsの企業行動指 =SDGsをどう活用するかの方法論中心3-3.投資家の役割
社会的責任投資(SRI) • 倫理性・社会性のある企業に選別的に投資す る社会的責任投資(SRI)という概念も生まれ、 それを背景にした実際のポートフォリオが実現 している。 • ESG(環境・社会・カバナンス)指標を基準とし た投資先選別 • 年金機構もESG投資開始→地銀の役割 • これは、もともとグラミン銀行のようなマイクロ ファイナンスに限られていた「社会的投資」の裾 野を広げる役割を果たしている。 • 大和証券の「ワクチン債」、社会的投資機関の 誕生(ミュージック・セキュリティーズ、アルン)、 社会的企業家のクラウドファンディング3-4.社会起業家の役割
• 社会的企業と社会事業(公共、非営利のニ ュアンス)は違う? • 社会的+商活動、企業、起業、金儲け • 公共的、道徳的、公益的、利他的、など「経 済」ではない、「貨幣価値」では測れないもの をとりあえず「社会的」と名付けている • ソーシャルビジネスとは=社会的課題の存 在を意識し、その解決に向けた貢献を、市社会起業家
/ソーシャルビジネス
社会課題解決型ビジネス
• 途上国の社会課題を、ビジネスを通じて解 決する
• BOPビジネス、インクルーシブビジネス
3-5.中小企業の役割
• 大企業のCSR部門はSDGsに取り組めるが、 中小企業にはそんな「余裕」はない? • SDGsの二本柱「環境」と「開発」のうち、「環境 」については、日本の中小企業も消費者も投 資家も理解しやすい→中小企業も取り組むイ ンセンティブあり • 「開発」については、まだ一部の消費者、投資 家にしか理解されていない→企業への圧力も ない • 中小企業の「国際化」にはさまざまなハードル がある・・・・・しかし世界の趨勢は「開発とビジ ネス」の相互接近3-6.市民社会の役割
• ①地球環境系の市民団体は一定の発言力(環 境系のシンクタンクも存在感) • ②途上国開発系の市民団体はMDGs時代か ら啓発活動に従事。しかし企業との接点は小さ い(医療系は企業・NGO連携が盛ん) • フェアトレード団体は徐々に認知される。ただし 、大企業との連携はこれから。 • ③「国内問題」関連の市民団体はSDGsに関し て政府とも企業とも接点が無かった a)外国人労働者問題(人権問題)中小企業の「自分ゴト」の理由
• →
社会課題なんて取り組む余裕は
ない
•
援助や
CSR
には興味がない
•
自社が生き残っていけるかどうかが
最大の関心事
•
そんな会社も「社会課題」に取り組む
べき理由がある
→
サプライチェーン・マネジメント
4.サプライチェーン・マネジメント
• 2015G7エルマウ・サミット(→2019大阪) 先進国企業は、自らの商品・サービスのサ プライチェーンの全体に倫理的な責任を持 つべきである=責任あるサプライチェーン(倫 理的サプライチェーン、持続可能なサプライ チェーン) • 環境破壊しない、人権侵害しない、貧困層 搾取しない、社会的弱者差別をしない・・・ • 遵守しないことのビジネスリスクはますますと グローバル・バリューチェーン 加工 原材料 生産 調達 流通 消費者 途上国 先進国
サプライチェーンと倫理的リスク
SDGsとサプライチェーン
• 企業のCSR活動も単に「慈善的」なもので なく、サプライチーェンの視点から調達の川 上から川下まで見通さなければならない(持 続可能なサプライチェーンマネジメント) • 多国籍企業は非常に長いサプライチェーン を持つことになるので、途上国における企 業の活動が与える社会的インパクトが大き なものになる可能性がある5.「責任ある生産と消費」
• 省エネ店舗の実験 • レジ袋対策→不徹底 • 食料廃棄削減への試み(恵方巻き問題) • とりあえずCSR=弱者への慈善活動、植 林など • 小売りに専念している間はまだよいが、プ ライベートブランドが増えると「生産者の責 任」が加わり「サプライチェーンマネジメント 」が命取りになる可能性 • CSRでお茶を濁すことではごまかせない倫理的消費者運動
• 「責任ある生産」を要求する消費者 • スウェットショップ批判(縫製工場)、児童労 働批判(カカオ、サッカーボール)、劣悪な労 働環境(有害廃棄物リサイクル)、危険労働 (鉱山労働)、奴隷労働(漁船、家事使用人)、 環境汚染(養殖、染料) • 消費者ボイコットによるブランドイメージの 低下が怖い大企業が下請けにフェアな労 働を要求する(レバレッジ効果)消費者ボイコットの圧力
• バナナ、コーヒーについては「living wage」、 チョコレートやサッカーボールでは「児童労 働」に焦点を当てた倫理的消費 • カカオ生産に児童労働が存在することがわ かれば、ヨーロッパの消費者は「ボイコット」 する可能性があるので、チョコレートメーカー は「児童労働のない」カカオを選択的に利用 することになる。 • キャドバリーのデイリーミルク、ネスレのキッ トカットキャドバリーの社とネ スレ社。100% フェア トレードカカオ使用。 児童労働フリーのカカ オ原料。市場を巡る競 争によって、「児童労 働」禁止、「環境配 慮」などの活動が推進 される原動力となる例
フェアトレード合戦
日本企業の対応
• パームオイルとキットカット グリーンピース のネスレ批判→サラヤ、富士製油、花王 • ブラッドダイヤモンド(キンバリープロセス)、 シエラレオネ、コンゴ周辺国からのダイヤで ないことを証明しなければ販売・流通不可 • レアメタル(T3G)も同様。日本の電子・電機 業界は「サプライチェーン・マネジメント」対策 に追われる。 • 現代英国奴隷法(2015) カカオ農園の児童 労働、鉱山労働、漁業、水産加工などの過企業の途上国対応圧力
• 倫理的消費者の存在は、多国籍企業に対し て単なるフィランソロピー(企業としての慈善 的活動)CSR(企業の社会的責任)以上の 取り組みを促す。 • 途上国の開発効果・貧困削減効果を目指し たビジネス取り組みへの圧力→フェアトレー ド、BOPビジネスに着手する推進力6.日本の消費者の想像力の限界
• 倫理的貿易の原点としての反奴隷貿易 日本ではこの原点を共有していない • 「食の安全」「消費者の安全」にはセンシティ ブだが、途上国の他者への想像力は乏しい • 日本と欧米の消費者のチョコレートをめぐる 倫理感度の違い=反奴隷貿易キャンペーン の苦い過去に基づくキャドバリーの「児童労 働フリーカカオ」への取り組み→消費者に訴 求 • 日本ではボイコットは共感を呼びにくい→「チ ョコレボ」の「バイコット」倫理的消費と日本社会
• 日本の消費者運動は現時点では「環境」 「オーガニック」に力点があり、ようやく「フェ アトレード」が根付き始めた段階である→企 業への圧力は小さい • グローバルに展開する日本の企業はすでに 欧米でこうした「倫理的消費者」の攻撃対象 となるリスクを抱えている。 • ラナプラザ崩壊事件(バングラデシュ)はこ の流れを加速させている日本の「エシカル消費」
• ファッションに敏感な消費者との親和性 • フェアトレードの中心購買層は「独身/30代/ 都市在住/女性」 • チョコレート、ファッション、ジュエリーなどで 注目を集めやすい • ACE(児童労働対策・チョコレート)岩附由香 • Inheels(セクシーなエシカルファッション)岡田有加 • ダイヤモンドフォーピース(紛争鉱物)村上千恵 • HASUNA エシカルジュエリー(紛争鉱物)白木夏子 • マザーハウス(ジュート・革バック)山口絵里子エシカルファッション
• 新宿伊勢丹エシカルファッションウィーク
7.日本企業に油断はないか?
• 社是にうたっているから大丈夫 「本業すなわち世界の福利厚生」 →三方良し(売り手、買い手、世間) • ただし、この「三方良し」説明に安住できる のは日本国内のみ • 事業の「目的」にとどまらず「やり方」に「倫 理性」を装備することが求められる →「倫理的貿易」「倫理的投資」 • 批判されることに慣れていない日本企業 まだ、「防御」「無視」の段階にいるのでは?日本企業もターゲットになり得る
• これまで、ボイコットの対象は欧米の多国籍 企業であった。しかし、日本企業がグローバ ルマーケットに展開すれば(特に欧米市場に 売り込もうとすれば)当然消費者運動のター ゲットになり得る • グリーンピースは、「森に優しい企業ランキ ング」で特定の日本企業を “問題のあるパ ーム油”を扱っていると批判 • パレスチナ問題に連動して、占領地で生産 している機器を販売する量販店店頭で連続企業にとっての
SDGs
• 「SDGsの本質は経済成長戦略」 という解釈→これは企業にとって 都合の良い解釈 • ゴール8のロゴ訳「働きがいも経済成長も」 →やっぱり経済成長がいなとパイの分配もできな いし」というこれまでの理解が上書きされた印象を 与える→この解釈は不適切• これはTransforming Our World というSDGsの 精神と完全に矛盾する
• これまでの経済成長の在り方では、持続不可能」 というのがSDGsの前提となった世界の合意であ