1.はじめに
グラビア印刷機やラミネータ機でウェブ搬送上のトラブ ルが発生した場合は、勘と経験を頼りにした職人による現 場作業で何とか対応をしてきたのが実情である。トラブル の内容としては、①スリップによる擦り傷や蛇行、②搬送 途中でのシワ発生、③巻取部のシワや巻ズレ、がある。最 近はウェブハンドリング技術の研究が進んできていること から、理論を使ってトラブルの対応策を考えて欲しいとい う声もあるが、まだまだ理論だけで対応策が導き出せる所 にまでは至っていない。現状は、勘と経験で対応してきた 内容が理論的にも合っていたというのが確認できる程度で ある。しかしながら勘と経験の対応が理論的にも正しかっ たということが確認できれば、それ以降は自信を持って対 応できるようになるし、対応策の予測も可能となってくる。 簡単ではあるが当社が対応してきたトラブルの事例を示し、 その対応方法が理論的に見てどうなのかを説明する。2.トラブル対応で知っておきたいウェ
ブハンドリングの基礎理論
ウェブ搬送でのトラブルの多くはシワやスリップ(蛇行) である。トラブル対応を行う上で重要となってくるのが、ど うしてそのような現象が起きているのかを理解することで ある。そのためにはハンドリングの基本原理を知っておく 必要がある。最低限必要と考えるものを以下に記すが、こ れは参考書から抜粋したものであり、詳細は『ウェブハン ドリングの基礎理論と応用』1)『入門ウェブハンドリング』2) を参照されたい。 2.1 ウェブの直角方向進入性 搬送中のウェブは、ウェブとローラ間の摩擦力が十分な 大きさを保持しながら搬送されている限り、下流側のロー ラ軸に対して直角方向に進入する(図 1)。 2.2 径の大きい方へ移動 ローラ軸が平行であっても、ウェブとローラ間の摩擦力 が十分な大きさを保持しながら搬送されている限り、ウェ ブはローラ径の大きい方へ移動して行く(図 2)。 どちらの性質もウェブとローラ間に十分な摩擦力がある 場合であり、十分な摩擦力が確保されていないとウェブは (a)ローラ間が平行な場合 (b)ローラ間にミスアライメントのある場合 Uw Uw Uw Uw θ A A B B ※橋本 巨 著『ウェブハンドリングの基礎理論と応用』p.53より引用 図 1 直角方向進入性 ※橋本 巨 著『入門ウェブハンドリング』p.238より引用 図 2 径の大きい方へ移動欠陥対
策ケーススタディ
ウェ
ブハンドリング理
論によ
る
富士機械工業㈱ 技術部西村 高博
ウェブハンドリング理論の実機への展開
Part3
問い合わせ [email protected]12A-3 5校
剛性により直進しようとする。図 2 では径の大きい方では なく、径の小さい方へと滑り落ちて逆方向に曲がって行く 場合もあるので、注意が必要である。 2.3 シワの発生パターン せん断シワの発生パターンは図 3 になるが、この中で最 も多いのが(a)のローラのミスアライメントによるシワで ある。ローラ間で斜めに流れて行くシワであり、ローラの ミスアライメントを修正してやれば解消できることが多く、 割と簡単に対応が可能なシワでもある。対応が難しいのは 図 4 のトラッキングシワであり、特にローラの製作精度が 良いものでも発生するシワは厄介である。この場合はウェ ブ自体やウェブが置かれている状態に問題があることが多 く、それらが複合された形で発生するシワであることから 問題の解決を難しくしている。 2.4 ウェブ浮上量の計算とスリップ ローラ上のウェブは抱き込む空気によってローラ上から 浮上した状態となる。ウェブ浮上量は次式で表される。 h = 0.589R
(
————————6 η(Ur + Uw)T)
2/3 h は浮上量、R[m]はローラ半径、T[N/m]は入力側 のウェブ張力、η[Pa・s]は空気の粘度、Ur[m/s]はロー ラ周速度、Uw[m/s]はウェブ搬送速度 これを見ると、ウェブの速度が速く、張力が低く、ロー ラ径が大きくなれば浮上量が大きくなることが分かる。浮 上量が大きくなれば、ウェブとローラ間の摩擦力は低下し てウェブはスリップ(蛇行)しやすくなるが、ローラによ る強制力を受けにくくなるということでもある。3.実機でのトラブル事例
3.1 ウェブのスリップによる傷や蛇行 低速搬送時にウェブ速度に追従していたガイドローラが、 高速搬送時に追従しなくなって傷や蛇行の問題が発生する。 これはウェブとローラ間に空気を多く巻き込んで、ローラ からウェブが浮上した状態で搬送されるからである。ウェ ブハンドリング装置は生産性向上のために、薄いウェブを 高速で搬送する方向へと進む。ウェブ浮上量の計算式から も分かるように、速度が速く低張力になればウェブ浮上量 は大きくなる。低速かつ高張力で搬送することがスリップ 問題の解決策であると分かってはいるが、運転条件は変え られない場合が多い。そこで、スリップによる傷や蛇行の 問題に対しては、図 5 のようにガイドローラの表面を粗く したり、溝を掘ったりして対応してきた。張力や速度等の 運転条件ではなく、ローラの方を工夫することでウェブ浮 上量を下げてスリップの問題に対応してきた訳である。 ウェブ浮上量の計算式を見ると、ローラ径を小さくする と浮上量も小さくなることが分かる。ローラ径を小さくす (a)ローラBのミスアラインメント (d)テーパローラBとウェブとの間の 摩擦力が不十分 (b)弛んだウェブのローラBにおける 横方向移動 (e)ウェブへの外力(重力等)の作用 (c)テーパローラBとウェブとの間に 十分な摩擦力が存在 (f)ローラBのねじれ A B A B A B A B A B A B トラフ トラフ トラフ トラフ トラフ トラフ 折れシワ U w Uw Uw Uw Uw U w 弛み 外力 ※橋本 巨 著『入門ウェブハンドリング』p.85より引用 図 3 せん断シワの発生パターン (a)クラウンローラBとウェブの間に 十分な摩擦力が存在 (d)ローラA, B間でのウェブの中弛み (b)コンケーブローラBとウェブとの 間の摩擦力が不十分 (c)ローラBの負の湾曲 (e)上流側ローラAでの ウェブの拡張 A トラフ B Uw A B トラフ Uw A トラフ B Uw A B トラフ Uw A トラフ B Uw 折れシワ ※橋本 巨 著『入門ウェブハンドリング』p.85より引用 図 4 トラッキングシワの発生パターン ウェブハンドリング理論による欠陥対策ケーススタディ Part3 ウェブハンドリング理論による欠陥対策ケーススタディ12A-3 5校
ればスリップ防止策になる訳であるが、張力に見合った強 度のローラを設置しなければならないことから、現実的に はローラ径を極端に小さくしていくことは難しい。 3.2 ニップロール部でのシワ(張力低下によるシワ) 図 6 に示すのは、グラビア印刷機のアウトフィードロー ラ部である。ここではウェブの中央付近に波状のシワがよ く発生していた。このフィードローラにはニップローラが 付いて、印刷部の張力と巻取部の張力に分ける働きをして いる。通常はフィードローラより上流側の印刷部張力より も、下流側の巻取張力の方が低くなるように設定されてお り、その張力差が大きくなればなるほど、シワも沢山発生 していた。 このシワ問題に対しては、ローラの設置精度と製作精度 を疑ってみたが、どちらも問題はなかった。ウェブハンド リング理論を勉強する前であったことから、どうしてシワ が発生するのかが理解できず、具体的な対応策も出てこな かった。そこで仕方なく思い付く対策を手当たり次第、効 果があるかどうか試してみた。図 7 は、その試した内容を 示している。この中でシワ防止に効果があったのは、ロー ラ径を大きくすることと表面溝なしローラにすることで あった。 ウェブハンドリング理論の基礎を理解している現在は、 このシワの原因についても考察することができるように なっている(図 8)。シワのパターンとしてはトラッキング シワであることが分かるが、ローラの設置精度や製作精度 に問題がないことから、図 4 の(e)上流側ローラ A での 拡幅に似た状況である。フィードローラの上流側は張力が 高いことから、ウェブは長手方向に強く引っ張られて幅方 向には縮んでいるはずであり、逆にフィードローラの下流 側では張力が低いことから、幅方向に縮んでいたものが広 がろうとするはずである。それが下流側のローラで上手く 広がらなければシワになるものと推定した。シワの原因が これであれば効果のあった対策も理解ができる。大きなロー ラ径と表面溝なしローラであれば、ウェブとローラ間に空 気を抱き込んで滑りやすくなり、ウェブが幅方向に上手く 広がるようになるはずである。 確認項目には記さなかったが、以前は下流側ローラの表 面にアルマイト処理をしている時期もあった。それはシワ 対策ではなく別の理由で採用していた訳であるが、その時 期にシワの問題が発生していなかったことを考えると、ロー ラ表面が滑らかであることによってシワを上手く伸ばして いたのだと推定する。ローラの表面処理を変えていくこと もこのようなシワに対しては効果があることが分かる。 3.3 巻取部のシワ(巻き付け時) 巻取では巻き取った後の菊模様や巻ズレが大きな問題と なるが、巻き付け時に発生するシワも大きな問題である。 特に巻き始め部分でシワが発生してしまうと、その上に巻 き上げていくウェブにも影響を与え、シワが発生し続ける 表面梨地+溝加工 溝加工のみ 図 5 表面溝加工ローラ シワ発生 広い 狭い 中央部にシワ発生 拡幅できなかった場合 巻取張力(低い) 印刷張力(高い) 巻取へ ニップローラ アウトフィードローラ(駆動) ガイドローラ 図 8 シワ発生の概念図 シワ発生 図 6 フィードローラ後の波シワ 効果あり 効果なし 溝なし (e)ガイドローラ表面 変更 (c)ガイドローラ位置変更 (b)ニップローラ位置変更 (b)ニップローラ位置変更 (a)駆動ローラ径変更 巻取へ ニップローラ アウトフィードローラ (駆動ローラ) ガイドローラ 中央部に シワ発生 (d)ガイドローラ 径変更 大径 図 7 シワ対策確認項目 ウェブハンドリング理論による欠陥対策ケーススタディ ウェブハンドリング理論による欠陥対策ケーススタディ
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ことになる。そうなると巻取製品のかなりの部分を廃棄す ることになり、その損失は大きなものとなってくる。図 9 に示すのが、巻取軸に巻かれた時にウェブの中央付近に発 生するシワである。 この問題もシワの発生原因が分からなかったために、様々 な対応をして効果があったものを採用してきたというのが 実情である。具体的に効果があったものを列記する。 ①巻取装置自体の剛性向上 ②巻取手前ガイドローラと巻取軸の設置精度向上 ③巻取軸の回転精度向上(振れなく回転させる) ④巻取コアの強度を上げる(材質変更、コア径大) ⑤巻取コアの精度を上げる(円筒度、振れ) ⑥巻取ウェブをコアに最初から綺麗に巻き付かせる ⑦巻取手前ガイドローラから巻取軸までの距離をできる だけ短くする(巻取ニアロールの設置) ⑧巻取ニップローラ(=タッチローラ)の位置をウェブ が巻き込む位置から遠くする ⑨巻取ニップローラの強度を上げる ⑩巻取ニップローラを特殊形状(中凸や幅狭ローラ)に する ⑪巻取ニップローラを使わない(側板巻取) 以前は分からなかったこのシワの原因も、現在では考察 できるようになっている。図 10 を見ていただきたい。巻 取部も一般のローラ搬送部と同様に、上流のローラから下 流のローラにウェブは流れて行く。しかしながら大きく違 うのは、巻取は下流側ローラが金属製で強度のあるローラ ではなく、通常は紙や樹脂でできたコアである。ローラの 場合は搬送するウェブの張力に見合うだけの強度を持った ものを設計して取り付けるが、コアはどのような強度のも のが取り付けられるのか分からない。グラビア印刷機の場 合には、コアとして 3 インチ紙管が使用されることが多く、 金属製ローラと比較すると強度が相当弱いことは誰にでも 想像が付く。そして取り付けられたコアは巻取張力により 引っ張られて湾曲することになる。湾曲したコアに対して ウェブは直角方向に進入することから、ウェブが中央に寄 り、シワ発生パターンの図 4(c)通りのシワが発生するこ とになる。 巻取にはこれ以外にもシワを発生させる要因が多くある。 巻取コアの強度も重要であるが、精度の方も重要となって くる。ローラであれば精度良く機械加工したものを取り付 けているが、コアは製作精度が不明な上に、何度も使い回 して変形したものや傷付いたものも使われており、精度は どうなっているのか分からないのが実情である。さらにコ アのチャックされる部分が変形していれば、巻取軸側の回 転精度を上げていても巻取コアは精度良く回転してくれな い。また、巻取軸は巻取が進むにつれて重量が重くなり回 転軸部分が撓むことになる。左右均等に撓めばまだ良いが、 そうでないと巻取軸の据付精度を狂わせる原因となる。そ の上、巻取装置は連続した生産を行うために 2 軸で旋回で きる構造になっているため、旋回動作中のどの位置でも巻 取軸の据付精度を良好な状態に保つのは至難の業である。 巻取でのシワは巻取装置側だけでなく、巻き付けるウェ ブの側にも問題がある。図 11 に示すが、巻き取るウェブ に厚薄があると巻取自体の形状が変化してしまう。均一な 厚みのウェブで巻取自体が真円筒状になっていくのが巻取 の理想ではあるが、実際はウェブの厚薄(厚みムラや印刷柄) により真円筒状にはならず、発生パターンに示した通りの シワが発生してしまう。このように巻取軸は変動要素が多 シワ発生 図 9 巻き付け時のシワ コアの強度や 製作精度? 下流側 ローラ (=巻取コア) シワ発生 上流側 ローラ 【巻取部】 精度の良い 金属製ローラ 下流側 ローラ 上流側 ローラ 【一般ローラ部】 図 10 巻き付け時シワの原因(巻取部状況) ウェブや印刷、コーティング 状態によっては…… 下流側 ローラ (=巻取 原反) 上流側 ローラ 真円筒が 理想 図 11 巻取途中の状態 ウェブハンドリング理論による欠陥対策ケーススタディ Part3 ウェブハンドリング理論による欠陥対策ケーススタディ
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く非常に不安定なものであり、シワが発生するのも当然だ と言える。 ここで先程のシワに対して効果があったものを考察して みたい。①~⑥項はシワの原因で解説してきたように、下 流側ローラ(=巻取軸)の強度と精度を向上させる内容に なっている。 ⑦項の巻取ニアロールの設置についてはシワの原因の中 で解説していないが、巻取軸までの距離が短いとウェブの 剛性が上がり、ウェブがコアの中央に向かって曲がりにく くなるためである。巻き付け時のシワ対策としては特に効 果があるものになる。図 12 は巻取直前に配置したニアロー ラの有無を同条件で比較したものである。巻取軸までの距 離が短い方がシワは発生していないのが分かる。 巻取ニップローラ(=タッチローラ)は巻取に抱き込む 空気を排除して巻ズレを防止することを目的で設置してい る。そのため、ウェブが巻取に入り込む位置を押さえるの が一番効果的と考えるが、理論上は何処を押さえても空気 の排出効果は同じということになっている。しかしながら 現実は、図 13 に示すように、ニップローラが押さえる位 置をウェブが入り込む位置から遠くすると巻取は柔らかく なり、逆に近くすると固くなる。実際にはニップローラの 押さえる位置により巻取内部に含まれる空気の量は変わっ ているということである。⑧項のようにすれば空気を多く 含んで巻取上のウェブは滑りやすい状態となり、シワが発 生しにくくなるのである。ただし、空気を多く含むという ことは巻きズレを起こしやすくなるということでもあり、 シワ防止とは相反する関係にあることから注意が必要であ る。 ⑨項は図 14 に示すように、ニップローラの強度が十 分ある場合は、巻取も真円筒状に巻かれていきシワは発生 しない。しかしながらニップローラの強度が不足する場合 には、ローラが撓み巻取の中央部を押さえる力が弱くな る。そうなると下流側ローラである巻取は中凸状態となり、 図 4(a)の通りウェブは中央に寄ろうとしてシワが発生す る。ニップローラの径には制約があることも多く、径を単 純に大きくしていくことができない場合には、高剛性の材 料を使って撓みを防止する工夫も必要である。 ⑩項は巻取の形状変化を逆手に取ったものである。図 15 に示す通り、ニップローラを中凸状にすれば巻取は中凹形 状になる。そうすればウェブは径の大きい方へ曲げられて シワ発生 シワなし 短い 【ニアローラ使用時】 長い 【ニアローラ不使用時】 図 12 巻取ニアローラの有無 巻が固くなる (シワになりやすい) 巻が柔らかくなる (シワになりにくい) 巻取 巻取ニップローラ 図 13 巻取ニップローラ位置と巻状態 巻取が中凸になる 【強度が不足の場合】 【強度が十分な場合】 図 14 巻取ニップローラの強度 巻取が中凹になる 【中凸ニップローラの場合】 図 15 巻取ニップローラの特殊形状 ウェブハンドリング理論による欠陥対策ケーススタディ ウェブハンドリング理論による欠陥対策ケーススタディ
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シワを伸ばす方向になる。また巻取全体をニップしていな いことから、中央部以外の巻取内部に空気を含み、巻き付 けたウェブが滑りやすくなることもシワを出にくくしてい る要因である。 ⑪項は、確かに巻付け時のシワに対しては大きな効果が あるが、巻ズレが防止できなくなるという問題も含んでい る。このような場合には、巻取の両側に円板やローラ等を 設置して、巻ズレを防止するための追加対策が必要となっ てくる。