1.脳のシミュレーションとは
同じ機能でも,その実現方法,あるいは実装方法は, ハードウェアの特性に依存するので,(生体組織で構成 される)脳の動作原理を理解することが,必ずしも人工 知能を(計算機上に)構築することの前提知識にはなら ない.しかし,知能を実装したシステムの一つとして脳 を理解することは,知能を理解し,構築するための一つ の手掛かりとなる可能性はある. 脳研究では,あくまで脳の動作原理の理解を目的と している.この「理解」をもう少し具体的にいえば,脳 の構成要素であるニューロンと呼ばれる神経細胞や, ニューロン間の信号伝達を仲介するシナプスといった 生体組織のハードウェア特性に立脚した動作原理を理 解する必要があることを意味する.したがって,この ような目的をもって脳のシミュレーションを行う場合, ニューロンやシナプスをモデル化する際には,それらの 生物学的詳細を,どの程度実際に取り入れるかはともか く,考慮する必要がある.ニューロンの数理モデルには, McCullohと Pitts により提案され,ニューラルネット ワークに採用されている,ニューロンの取り得る状態を アクティブな状態と静止状態の 2 状態のみで記述する最 も簡潔なモデルから,後述するように,細胞の複雑な形 態特徴や細胞内の局所的な応答特性の違いまでを記述す る詳細なモデルも存在する.後者のモデルに取り入れら れたような生物学的詳細がどの程度本質的かは現時点で はわからないが,このような詳細が脳の動作原理におい て重要な役割を担っている可能性もあるため,始めから 無視するわけにはいかない. 本稿では,簡単ではあるが,脳のシミュレーション を行うのに必要となる脳神経系の信号伝達方法やシミュ レーションの対象となる現象について述べ,ニューロン やシナプスの代表的なモデルや,代表的なシミュレー ション環境を紹介する.2.脳の構成要素と信号伝達
ここでは,脳の基本構成要素と,それらの間の信号伝 達の仕組みについて紹介する. 2・1 脳 の 構 成 要 素 脳を構成する主要な細胞は,ニューロンとグリア細胞 である.ニューロンは,ヒトの大脳皮質では約 150 億個, 小脳では 1 000 億個以上存在すると見積もられており, 活動電位,または神経スパイク(単にスパイクともいう) と呼ばれる電気信号を生成する.そして,この電気信号 がニューロン間で互いにやり取りされることによりさま ざまな脳機能を実現していると考えられている.一方, グリア細胞は,正確な見積りは定かでないが,ニューロ ンよりはるかに多く存在している(典型的な見積りでは, ニューロン数の 10 倍).グリア細胞には,いくつかの代 表的な種類があり,その役割は種類によりさまざまであ るが,一言でいえば,ニューロンの電気的活動を支援し ている.そのため,脳のシミュレーションといえば,脳 機能に直接関係があるニューロンの電気的活動をシミュ レーションすることを意味し,グリア細胞についてはシ ミュレーションの対象とはされない場合が多い.しかし, 近年,グリア細胞も情報処理における重要な現象,例え ば,脳の重要な機能の一つである学習の素過程と考えら れるシナプス可塑性と呼ばれる現象,に関与しているこ とが明らかになりつつある.今後はグリア細胞もその対 象とされるようになることも考えられるが,ここでは, 従来からの方針を踏襲し,ニューロンにより生成される 電気的信号の伝達のシミュレーションに焦点を絞る(図1). 2・2 ニューロンの信号伝達 § 1 ニューロンの形態と信号伝達 ニューロンは,脳部位や種類により実際の形態はさま ざまであるが,共通する形態的特徴として,複数の突起 をもっている.一般に,核が存在する細胞体と呼ばれる 部位と,軸索と樹状突起と呼ばれる 2 種類の異なる突起脳のシミュレーションを始めるために
Introduction to Brain Simulation
北野 勝則
立命館大学情報理工学部知能情報学科Katsunori Kitano Department of Human and Computer Intelligence, Ritsumeikan University. [email protected], http://cns.ci.ritsumei.ac.jp/~kitano/
Keywords:
brain, neuron, synapse, computational model, simulation. 「脳神経系シミュレーション」により構成される.樹状突起は,通常 1 から数本細胞体 から伸び,末端に向かうにつれ多数枝分かれし,樹木の ような構造をとる.この突起は,他のニューロンで生成 された神経スパイクを入力として受け取る,いわばアン テナのような役割を担う.樹状突起の各部位で電流とし て受け取られた神経スパイクは,樹状構造の分岐点を遡 る度に統合されながら,細胞体に伝達される.細胞体で は,複数の樹状突起から伝達された入力電流が統合され る.後述するように,この細胞体で統合された電流が, この細胞において神経スパイクを生成するか否かを決定 する.もう 1 種類の突起である軸索は,細胞体(正確には, 軸索の付け根にあたる軸索起始部)で生成された神経ス パイクを他のニューロンに伝達する役割を担う.軸索は, 細胞体から 1 本だけ伸びるが,途中で枝分かれし,その 末端で多数のニューロンに接触する.樹状突起や軸索の 分枝構造,突起の長さや太さが電気的特性を特徴付ける ため,こうした形態的特徴も単一ニューロンにおける信 号伝達特性の個性を生み出すと考えられている. § 2 ニューロンの電気的特性:膜電位 ニューロンも細胞の一種であるから,細胞膜が細胞を 内外に隔てている.細胞膜は脂質で構成されており,帯 電した分子=イオンを透過させないので,細胞膜はコン デンサの性質をもつ.細胞外の電位を基準とした場合の 細胞内の電位を膜電位と呼び,ニューロンの電気的状態 を表す.細胞膜上には,イオンチャネルと呼ばれる膜タ ンパク質が存在し,これによりイオンが膜を透過できる. 多くのイオンチャネルは,選択性,特定の種類のイオン のみを透過させる性質をもつ.また,透過させやすさを 表す伝導性は,常に一定ではなく,ニューロンの膜電位 や特定物質の濃度に依存し,アクティブに変化する.一 般に,一つのニューロンの細胞膜上には,10 種類以上 もの異なる種類のイオンチャネルが存在し,それぞれ透 過するイオンやアクティブな特性が異なる.イオンチャ ネルを介した細胞膜を透過するイオンの流出入=膜電流 により,膜電位が変動する. § 3 ニューロンの電気的特性:活動電位 膜電位は,他のニューロンからの入力電流がなけれ ば,−70 ∼−60 mV 付近の静止膜電位に滞在する.入 力電流を受けると,その強さに応じて膜電位が変動する. 入力電流が十分に強い正の電流であり,膜電位が−50 mV付近にあるしきい値に達すると,膜電位は急速に上 昇し,正の電位に達した後,静止膜電位付近に下降する (この間,約 1 ミリ秒).このようなパルス状の電位変化 が,活動電位,もしくは神経スパイクと呼ばれ,ニュー ロンの出力とみなされている.活動電位は,しきい値さ え超えれば,いつもほぼ同じ波形のパルスとして生成さ れる.したがって,膜電位がしきい値に達するかどうか が活動電位に生成については重要であり,これを全か無 の法則と呼ぶ.この活動電位生成の特性をどう扱うかは, ニューロンのモデル化にとっても重要な点となる.また, 活動電位生成直後の数ミリ秒間は,入力を与えられても 応答できない不応期と呼ばれる期間があり,ニューロン の信号伝達頻度の上限を定める. 2・3 シナプスの信号伝達 生成された活動電位は軸索を伝搬し,軸索終末に形成 されたシナプスに到達する.シナプスは,ニューロン間 の信号伝達を担う微小な構造であり,一つのニューロン につき,数千∼数万ものシナプスが存在すると見積られ ている.シナプスは,信号送り手のニューロン(シナプ ス前細胞)の軸索終末上のシナプス前終末と信号受け手 のニューロン(シナプス後細胞)の樹状突起上のシナプ ス後終末で構成される.前終末と後終末には隙間があり, 電流を直接伝達できない.前終末に到達した活動電位は, 一連の化学反応の後,前終末内の神経伝達物質の放出を 引き起こす.隙間に放たれた神経伝達物質が,後終末上 の受容体に結合すると,同じ後終末上のイオンチャネル が開き,これによりイオンが流入する.このイオン電流 のことをシナプス電流といい,シナプス後細胞の膜電位 を変化させる.このようにシナプス前細胞で発生した活 動電位が,シナプスにおいては化学的な過程により伝達 され,シナプス後細胞で再び電位に変換される.こうし たシナプスを化学シナプスと呼ぶことがある. シナプスには大きく 2 種類,シナプス後細胞の膜電 位を上昇させる興奮性シナプスと,膜電位の上昇を抑制 する抑制性シナプスが存在する.興奮性シナプスは,興 奮性の神経伝達物質をもつシナプス前細胞に,抑制性シ ナプスは,抑制性の神経伝達物質をもつシナプス前細胞 により形成される.シナプス後細胞のシナプス後終末上 の受容体はどんな神経伝達物質でも結合できるわけでな く,特定の物質のみ結合する.すなわち,興奮性・抑制 性シナプスは,それぞれ特定の神経伝達物質と受容体の 組合せをもつ.ただし,シナプス前細胞が興奮性か抑制 性のどちらか一方の神経伝達物質しかもたないのに対 図 1 ニューロンおよびシナプスの模式図. 他のニューロンからの入力は,シナプス後電位として細胞 体へと伝達される(オレンジ).細胞体で活動電位が生成さ れれば,軸索を経て末端のシナプスに伝達される(マゼン タ).シナプスでは,シナプス前細胞の活動電位が神経伝達 物質の放出(紫)に変換され,さらに,シナプス後細胞の シナプス後電位へと変換され伝達される
し,シナプス後細胞には,興奮性の受容体と抑制性の受 容体の両方が発現するので,興奮・抑制両方の入力を受 けることができる.
3.ニューロンおよびシナプスの数理モデル
前章で紹介したニューロンおよびシナプスの信号伝達 の仕組みを踏まえた代表的なモデルを紹介する. 3・1 ニューロンのモデル 先に述べたように,実際のニューロンは,空間的な広 がり,しかも複雑な樹状構造をもち,その膜電位の挙動 は,多くの種類のイオン電流により非常に複雑である. リアルなニューロンモデルを構築するのは,非常に大き な自由度を必要とするので,計算機の処理速度が飛躍的 に向上したとはいえ,実質不可能である.モデル化とい う作業は,本質をできるだけ残しつつ,自由度を減らし 簡略化することが肝要であるから,その本質を何とする かによりモデル化の方針が変わる.そこで,脳という情 報処理システムの基本素子であるニューロンは,基本素 子としてどのように情報を表現しているかが重要となる が,実は,いまだに明らかになっていない.以下では, この点について代表的な立場とそのモデルを紹介する. § 1 発火率モデル 大脳皮質の一次運動野や一次視覚野などの外界に近い 脳領域のニューロンは,一つ一つの活動電位ではなく, 活動電位(スパイク)の頻度(発火頻度,あるいは発火率) が,運動や呈示刺激の物理パラメータ(運動の強さや光 刺激の角度など)と高い相関を示すので,これが情報を 表現していると古くから考えられていた.この考え方で は,膜電位の変動や一つ一つのスパイクのタイミングそ のものは重要でなく,よりマクロな量である発火頻度が ニューロンの状態を表すと考える.つまり,ニューロン の状態は膜電位でなく,発火率 r で表されるとする. 発火率は,入力 I に対し,しきい値を越える強さに対 しては増加するとする.I が時間によらない定数である とき,r=F(I;θ)と書ける.ここで関数 F()は,I <θ のときは 0,それ以外は非負の値をとる関数とする.入 力 I が,他のニューロンからのシナプス入力で与えられ る場合について考える.一つのシナプス前細胞からのシ ナプス入力 Iiは,シナプス前細胞の発火率 uiとそのシ ナプス前細胞からのシナプスの強度 wiの積で定められ るとする,すなわち,Ii=wiui.入力の総和は, I= Ii= wiui= i i wu (1) と書ける.発火率 u が時間によらなければ,ニューロン の発火率は = r F(wu;θ) となる.もし,関数 F()を I θのときに 1 をとるよう に定めれば,これは McCulloch-Pitts の形式ニューロン となる [McCulloch 43].実際には,出力発火率は I の強 さに対し単調に増加し,入力発火率 u も時間変動する. また,出力発火率が,入力の変動に即座に追随できず, 時定数τr(時間変化のスケールを表す)で追随するなら, rに関する微分方程式 τr dr dt=- +r F(wu;θ) (2) で表すことができる. 発火率ニューロンモデルが,相互結合型神経回路を形 成する場合,i 番目のニューロンの発火率 riは τr dri dt=- +ri F(wr;θ) (3) と表せる.ここで,w は j から i へのシナプス結合強度 wijを表す行列である. § 2 積分発火モデル 複数細胞の活動を同時に記録できるようになると,異 なるニューロン間のスパイクの時間差,スパイクタイミ ングそのものが機能的な意味をもち得ると考えられるよ うになった.発火率モデルでは,こうした視点の問題を 扱うことができないため,スパイクのタイミングやしき い値下膜電位の変動を記述するモデルが必要となる.こ うしたスパイクの生成を扱うモデルを発火率モデルと区 別し,スパイキングニューロンモデルと呼ぶことがある. スパイクの生成はイオンチャネルの働きによるもので あるが,前章で述べたように,しきい値を超えた後のス パイク波形はいつも同じである.スパイク生成を採用し つつ簡略にモデル化するには,スパイク生成中の挙動の 記述は省略し,スパイク生成前後の膜電位の挙動を記述 すればよい.膜電位は,細胞膜によるコンデンサの性質 と,細胞膜を透過するイオン電流により定められる.電 気容量の時間変化は電流となるから,膜電位 V は, Cm dV dt=- + Im I (4) に従う.Cmは細胞膜の電気容量(膜容量),Imは膜電流, Iは入力電流である.Imは,本来はさまざまなイオンチャ ネルを透過するイオン電流を表す.しかしここでは,上 式で記述した膜電位の変化は,静止膜電位からしきい値 図 2 積分発火モデルの挙動. 入力を 100 ∼ 600 ミリ秒の間に与えた場合の膜電位の変化 を示している.しきい値(点線)に到達するとスパイク生 成し,リセットされる.しきい値より上のスパイクはわか りやすくするために表示の範囲とし,この範囲で活性化するイオンチャネルが少 ないことを考慮すると,膜電流は時間によらない受動的 なリーク電流のみとすることができる.すなわち, Im=g(V-EL L) (5) となる.ここで gLはリーク電流の伝導性(抵抗の逆数), ELは反転電位を表す.リーク電流の伝導性は,細胞膜 上にはわずかにイオンを透過させるチャネルが常に存在 することから生じる.反転電位は,細胞内外の電位差と 濃度差により,内向きと外向きの電流が釣り合う電位を 表す(平衡電位ともいう).式(5)を(4)に代入すると, ( ) Cm dV dt =-gL V-EL +I (6) となる.もし入力 I がなければ(I=0),V は ELへ減衰 するので,この場合,ELが静止膜電位に一致する.式(6) が膜電位の挙動を記述する方程式となるが,これを解い ただけではスパイクの生成は起こらない.式(6)に従っ て V がしきい値(Ethとする)に到達したとき,スパイ クが生成されたとみなし,直ちに V をしきい値下にある リセット電位(Eresetとする)にリセットする(図 2 参照). このように式(6)と,スパイク生成についての手続き を合わせたモデルを積分発火モデル(integrate-and-fire モデル)という [Stein 65].式(6)の場合,リーク電流 を含むので,leaky integrate-and-fire モデルと呼ぶこと もある.しきい値に達する十分に強い入力が与えられる と,それを積分して V は上昇し,しきい値 Ethに達する と,スパイクを生成=発火(したとみなし),Eresetにリセッ トされ,再び式(6)に従う,というモデルである. § 3 Hodgkin-Huxely モデル Hodgkinと Huxley はヤリイカの巨大軸索を使い,活 動電位生成に関わるイオンチャネルのアクティブな伝導 性についての方程式を導いた [Hodgkin 52].活動電位の 生成には,2 種類のイオンチャネル,K+チャネルと Na+ チャネル,が関わっており,式(4)にこれらを含めた Im=g(V-EL L)+IK+INa
とするのがこのモデルである.それぞれがどのように記 述できるかを紹介する. K+は,細胞外より細胞内に多く存在するため,反転 電位 EKは,静止膜電位より低い値(−90 ∼−70 mV) になる.膜電位が静止膜電位より高い電位をとるときに, K+チャネルがイオンを透過させた場合,内から外へイ オンの移動,すなわち,外向きのイオン電流が生じ,そ の結果,膜電位は下がる(図 3). イオンチャネルの透過性の変化は,実際にはタンパク 質の構造変化によるものであるが,扉の開閉の例えで現 象論的に記述することができる.K+チャネルには直列 に並んだ独立な四つの扉があり,それぞれが開いた状態 の確率を n とし(0 n 1),ゲート変数と呼ぶ.四つ とも完全に開いた状態をとるとき(n=1),伝導性が最 大になるが,この最大の伝導性を gKとすると,K+チャ ネルの伝導性は gKn4と表せる.したがって,K+チャネ ルで生じる膜電流は, ( ) IK=gKn 4 V-EK (7) となる. nは,膜電位に依存して開状態と閉状態を確率的に遷 移する.開状態の確率は n であるから,閉状態の確率は 1−n となり,閉状態から開状態への遷移の割合をα(V),n 開状態から閉状態への遷移の割合をβ(V)とすると,nn の時間変化は, ( )( ) = dn dt αnV 1-n -β( )n V (8) となる.αn(V)とβ(V)は膜電位の関数であり,実験n 的に求められるものである.これらより,K+チャネルは, 膜電位が上昇すると伝導性が上昇して外向き電流が強く なり,その結果として膜電位を下降させる. Na+は,細胞内より細胞外に多く存在するため,反転 電位 ENaは,正の膜電位(∼ 50 mV)になり,膜電位を 上昇させる内向きのイオン電流が生じる. Na+チャネルには,膜電位依存性が正反対の 2 種類の 扉が存在する.ゲート変数 m で表されるタイプは,K+ チャネルの n と同様の依存性を示す.ゲート変数 h は, 正反対,つまり,膜電位が上昇すると開確率が減少し, 膜電位が下降すると開確率が増加する.Na+チャネルの 最大の伝導性を gNaとすると,直列に並んだ三つの独立 な m ゲートと一つの h ゲートが存在するので,Na+チャ ネルの伝導性は gNam3hと表せる.Na+チャネルを透過 するイオン電流は, ( E ) INa=gNam 3 h V- Na (9) となる.m と h は,式(8)と同様のダイナミクスに従う が,活性化関数α(V)と不活性化関数β(V)がそれぞれ 異なる. Na+チャネルの伝導性は,膜電位が静止膜電位から上 図 3 K+イオンチャネルを流れる K+電流. 静止膜電位付近に膜電位がある場合の電位勾配による流れ と濃度勾配による流れの関係を表す.濃度勾配による流れ のほうが強いので,結果的に細胞内から細胞外へ電流が生 じる.膜電位がこれより下がると電位勾配の力が強くなり, 二つの力がつり合う膜電位を反転電位(もしくは平衡電位) と呼ぶ
昇する過程で,次のような挙動を示す.静止膜電位付近 では,m ゲートは閉じているが,h ゲートは開いている. 膜電位が上昇すると,反応の速い m ゲートが開き始め るが,反応の遅い h ゲートはしばらく開いた状態である. さらに上昇すると,h ゲートは閉じ始める.このように, mゲートと h ゲートが同時に開く状態が一時的に存在す るため,Na+イオン電流は一過性のものとなる.この一 過性の内向き電流が膜電位を上昇させ,活動電位発生に おける膜電位上昇の役割を担っている. 式(4)において,膜電流 Imをリーク電流,K+電流, Na+電流の和とし,式(8)で表されるゲート変数 n,m, hのダイナミクスを合わせたものが Hodgkin-Huxley 方 程式 ( ) ( ) ( ) - CmdV dt=-gL V-EL -gKn 4 V-EK -gNam 3 h V-ENa +I dm dt =(V)m (1 m)-(V)mm dh dt= h h)-(V)hh dn dt= n n)-(V)nn α β - (V)(1 α β - (V)(1 α β (10) となる.この方程式を解くことにより,積分発火モデル のようなスパイク生成の手続きを導入しなくとも,スパ イク生成時の膜電位挙動も得ることができる(図 4). 実際のニューロンには,ここで述べた K+チャネル や Na+チャネル以外にも,透過するイオンの種類やア クティブな特性の異なるチャネルが数多くある.しか し,主要なものはいずれも K+チャネルのような持続型 であるか,Na+チャネルのような一過性型に分類でき る.つまり,個々の特性の詳細(例えば,α(V)やβ(V) な ど ) は 異 な っ て も, モ デ ル の 定 式 化 は Hodgkin-Huxleyモデルの K+チャネルや Na+チャネルと同じ である.モデルそのものでなく,この定式化のことを Hodgkin-Huxleyの定式化と呼ぶ. § 4 マルチコンパートメントモデル これまで紹介したモデルは,ニューロンの膜電位は細 胞内の至る所一様であると仮定していたが,一般的には, 同一ニューロン内でも,部位が異なれば,膜電位が異な る.また,遠位の樹状突起で受け取るシナプス入力と近 位樹状突起のそれとは細胞体に伝達されたときの膜電位 上昇の影響度が異なることや,イオンチャネルの分布は 樹状突起上一様ではなく,遠位と近位で異なる場合が多 い.こうした電気的特性の空間的な非一様性が,第一次 視覚野における方位選択性のような特定入力に対する応 答の選択性などの単一細胞レベルでの情報処理に寄与し ていると考えられている. 空間的広がりを考慮し,膜電位が時間 t だけでなく部 位 x の関数 V(t, x)とすると,膜電位を記述する方程式 は偏微分方程式となる.もし,膜電流を受動的なリーク 電流のみとすると,ケーブル方程式と呼ばれる方程式が 得られる [Rall 62].ニューロンの膜応答特性で重要なの はアクティブな伝導性であるが,これを膜電流として取 り入れると,その強い非線形性のために,偏微分方程式 を解くことが難しい.そこで,空間方向を連続的でなく, 離散的に扱うことで簡略化して形態的特徴を考慮したマ ルチコンパートメントモデルが用いられる [Rall 67]. マルチコンパートメントモデルでは,樹状突起や軸索 を軸に沿って複数に分割し,分割された一つの区間を円 筒で表す(図 5).この一つ一つの円筒をコンパートメ ントと呼ぶ.一つのコンパートメントは円筒であるから, ある程度の長さをもつが,コンパートメント内では膜電 位は一様と仮定する.コンパートメントごとに一つの膜 電位を定めるので,一つのニューロンは,コンパートメ ント数を N とすると,同数の膜電位変数 V1,V2,…, VN(と各ゲート変数)で表現される.k 番目のコンパー トメントの膜電位を Vkとすると,膜電位の時間変化は, 式(4)の右辺の膜を透過する電流と隣り合うコンパー トメント間の電位差で生じる軸方向の電流で表される. Cm dVk dt =-Im k+I- gk, k+1(Vk-Vk+1)-gk, k-1(Vk-Vk-1) (11) ここで,右辺第 3 項はコンパートメント k と k+1 の 間で生じる電流を表し,gk, k+1はその伝導性を表す.コ ンパートメント k の半径を ak,長さを lkとする.単位 長さ単位断面積当たりの軸抵抗を raとすると,コンパー トメント k の中心から k+1 側の端点までの軸抵抗は, ralk(2/ πak2)となる.コンパートメント k と k+1 の中 心間の抵抗 Rk, k+1は,直列であるから,Rk, k+1= ralk/ (2πak2)+ralk +1(2/ πak+12)と求まるので,伝導性はそ の逆数となるので, (12) gk, k+1= 2π ra lk ak2+ lk+1 ak2+1 となる. 図 4 Hodgkin-Huxley モデルのスパイク生成. 50∼ 10 ミリ秒間入力を与えたときの膜電位(上)と各ゲー ト変数(下)の時間変化を表す
以上の代表的なニューロンモデルは,時間軸方向・空 間軸方向の計算量の観点から,図 6 のようにまとめられ る.それぞれのモデルは一長一短があり,本章の最初で 述べたようにモデル化の観点が異なるので,対象とする 問題にふさわしいモデルを選択することが肝要である. 3・2 シナプスのモデル シナプスでは,シナプス前細胞における活動電位生成 とそれによる神経伝達物質の放出,放出された神経伝達 物質によるシナプス後細胞上のチャネルの活性化により 信号が伝達される.したがって,この過程は,シナプス 前終末における神経伝達の放出とシナプス後終末におけ る神経伝達物質の受容体への結合によるイオンチャネル 開閉の二つの過程に集約できる.前者は,シナプス前細 胞の活動電位により引き起こされる化学反応によるもの であるが,この過程は非常に速いため,放出の有無をパ ルス状のイベントとして簡略化することができる.後者 は,Hodgkin-Huxley モデルのゲート変数と同様に,開 状態と閉状態の 2 状態間遷移のモデルで記述できる.た だし,閉状態から開状態の遷移は膜電位に依存するので はなく,神経伝達物質の濃度に依存する.また,受容体 に結合した伝達物質が一定の割合で乖離するので,開状 態から閉状態への遷移の割合は定数とする.したがっ て,シナプス後終末状のイオンチャネルの開状態の確率 ssynは, dssyn dt =α T(1-ssyn)-β ssyn (13) に従う [Destexhe 98].ここで,α,βは定数である.T は, 神経伝達物質の濃度を表す変数である.神経伝達物質の 放出がパルス状であり,濃度が 2 値的に変化すると仮定 すると,T は 2 値変数で表せる.この場合,シナプス前 細胞がスパイクを生成したときとその直後(1 ミリ秒く らい)は T=1,それ以外を T=0 とする.シナプス後 細胞に生じるシナプス電流 Isynは,最大伝導性を gsyn, 反転電位を Esynとすると,
Isyn=-gsynssyn(V-Esyn) (14)
と表せる.興奮性シナプスの場合,Esyn=0 mV であり, チャネルが開くと内向きの電流が生じる.抑制性シナプ スの場合は,Esyn=−80 ∼−70 mV と静止膜電位より 少し負の電位となり,外向きの電流が生じる. これを用いるとスパイキングニューロンがシナプスで 結合された神経回路のモデルをつくることができる.N 個のニューロンがあり,i 番目のニューロンの膜電位を Viとする.シナプス前細胞を j とし,シナプス後細胞を i とするシナプス結合の最大伝導性を gsynij ,開確率を ssynij とする.この神経回路の状態を表す変数 Vi,ssynij は, Cm dVi dt =-Im i+I syn i =-I m i- g syn ij ssynij(V i-Esyn) j=1 N dssyn ij dt =αT(1-sj syn ij )-β ssyn ij (15) と書ける.Tjは,ニューロン j がスパイクしたかどうか を表す 2 値変数である. 3・3 シナプス可塑性のモデル 脳の重要な機能の一つとして学習があげられる.学習 後には,その痕跡として,脳に物質的変化が起こるはず である.シナプスの伝導性(前節における gsyn)の変化 であるシナプス可塑性が,その有力なものであり,記憶 や学習の素過程として考えられている.ニューラルネッ トワークにおける誤差逆伝搬法のような学習アルゴリズ ムという点でいうと,小脳におけるパーセプトロン学習 や,大脳基底核における強化学習が示唆されているが [銅谷 07],それ以外では,どのように学習をしているか についてはわかっていない.小脳や大脳基底核において も,スパイキングニューロンの回路に対するトップダウ ン的な学習アルゴリズムについては,まだ研究の真っ只 中である.しかし,シナプス可塑性そのものについては, これまで多くの研究があり,また,モデル化の対象となっ ている.脳シミュレーションにおける学習は,シナプス 可塑性に基づくボトムアップ的なアプローチで行われる ことが多い.ゆえに,以下では,シナプス可塑性につい 図 5 マルチコンパートメントモデルの模式図. ニューロンの樹状突起あるいは軸索(上段)を円筒状の区 画=コンパートメントで近似(中段).各コンパートメント 内は一つの電位をとり,コンパートメントの中心で表す. 軸に沿った信号伝達は,等価な電気回路(下段)により表 すことができる 図 6 計算量から見た各モデルの複雑さ. 発火率モデル(rate モデル),積分発火モデル(IF モデル), Hodigkin-Huxleyモデル(HH モデル),マルチコンパート メントモデルの関係を表す
になり,これをスパイク時間依存シナプス可塑性,もし くは略して STDP(Spike-Timing-Dependent synaptic Plasticity)と呼ぶ [Markram 97].前細胞のスパイクが 後細胞のスパイクに先行して起こるとき,つまり入力・ 出力スパイクに因果性が認められるとき,該当するシナ プスは増強される.逆の順序,つまり因果性が成り立た ない場合は,減弱される.この現象も数理モデル化が可 能であり,スパイキングニューロンモデルを用いてシ ミュレーションを行う場合,STDP をシナプス可塑性の モデルとして採用されることが多い [Song 00].
4.シミュレーション環境
上に紹介したようなモデルを用いた脳のシミュレー ションを行うには,モデルが常微分方程式の形で記述さ れているので,基本的には微分方程式を数値的に解けば よい.単一ニューロンレベルでの機能を調べるためのマ ルチコンパートメントモデルを用いたシミュレーション であれ,積分発火モデルあるいは Hodgkin-Huxley モ デルのニューロンで構成される神経回路モデルのシミュ レーションであれ,多変数の連立微分方程式を解くこと になる.よって,特別なシミュレーションツールを使わ ずとも,ルンゲ・クッタ法などの数値解法を C/C++な どで実装し,実行すればよい.しかし,神経系のシミュ レーションには,それに特化した標準的なツールがいく つかある.使用方法を習得する必要があるものの,数値 計算技法についてはあまり気にせず,モデルの本質的な ところ,集中できる利点がある.また標準的なツール用 のソースコードは,公開されているものも多くあり,先 行研究で行われたシミュレーションのコードが提供され ていれば,ダウンロードしてすぐに追試ができることも ある.このように,専用ツールを使う利点も大きい.こ こでは代表的なものを簡単に紹介する. 4・1 NEURON NEURON(http://www.neuron.yale.edu/ neuron/)は,当初は複雑な形態をマルチコンパートメ ントモデルでモデル化した単一ニューロンのシミュレー ションを行うツールとして開発された.しかし,今では, そうしたニューロンモデルをシナプスで結合させたネッ トワークをシミュレーションすることも可能となってい る.可視化ツールも豊富にあり,計算を実行中にリアル タイムで結果を表示することも可能である.また,最も 用いられているシミュレーション環境なので,資料も豊 富にあり(日本語はあまりないが),海外では講習会も 頻繁に行われている.このシミュレータでは,独自の言 語が使用されている.形態情報やシミュレーションの実 行を記述するためのスクリプト言語 hoc と,チャネルダ イナミクスを記述する NMODL である.最近のバージョ ンでは,前者は python でもプログラミングが可能となっ て簡単に紹介する. § 1 Hebb(ヘブ)の学習仮説 心理学者の D. O. Hebb は,学習により脳に起こる変 化に対する仮説を唱えた [Hebb 49].その主な箇所の要 約は「ニューロン A の発火がニューロン B の発火をさ せると二つのニューロンの結合が強まる」というもので ある.発表された 1949 年当時は仮説に過ぎないもので あったが,その後のさまざまな実験による検証の結果, この仮説が現在でも学習の基礎として考えられている. 記憶や学習の結果は,一つのニューロンの応答特性の変 化でなく,神経細胞集団の活動パターンの変化によりも たらされると考えられている.しかし,個々のシナプス に起こる変化は,シナプス前細胞(先の要約における ニューロン A)とシナプス後細胞(ニューロン B)にの み依存し,シナプス可塑性を決定する因子は局所的なも ののみであることが重要な点である. § 2 ヘブ学習の定式化 ヘブの学習仮説は,ヘブ学習則としてさまざまな ニューラルネットワークに取り入れられているのは周知 のとおりである.最も基本的なヘブ則では,発火率表現 の場合,シナプス結合強度 w の変化量を τw dw dt =-w+ru (16) と表す.ここで,τwはシナプス結合強度の時間変化の 時定数である.シナプス前細胞,後細胞ともに正の値を とるときのみ,dw/dt > 0 となる.r と u はシナプス後 細胞と前細胞の発火率であり,0 もしくは正の値しか取 れないため,この学習則では,シナプスが増強する場合 しか表現できない.実際には,シナプス可塑性には,シ ナプスが増強する場合と減弱する場合がある.実験結果 から,シナプス前細胞からの入力の結果,シナプス後細 胞で高頻度の発火が起こる場合は増強,低頻度の発火の 場合は減弱となることが知られている.この両方の場合 を組み入れた学習則として BCM(Bienenstock, Cooper, Munro)ルール dt τwdw =-w+r(r-θM)u (17) が提案された [Bienenstock 82].入力 u がある場合に, rがθMより小さければ減弱,大きければ増強となる.θM は増強・減弱を決定するしきい値であるが,学習を安定 化させるため,r に依存して変化させるため,変動しき い値と呼ばれる. シナプス可塑性の初期の実験では,ニューロンの情報 表現が発火率であると考えられていた背景もあり,シナ プス可塑性の決定因子も発火率との関係で調べられてい た.スパイクのタイミングが情報表現としての可能性を もつことが検討されるようになり,シナプス可塑性もス パイクタイミングとの関係で調べられるようになった. その結果,シナプス前細胞のスパイク時刻と後細胞のス パイク時刻に依存して増強・減弱が起こることが明らかている.この環境の強みは,やはりマルチコンパートメ ントモデルのシミュレーションにあり,GUI により細胞 形態のモデル化が可能である.また老舗の一つであるの で,この環境を用いたモデル研究が多く,実際のニュー ロン形態を再構成したモデルのソースコードが利用可能 である.Windows,Mac OS,Linux 用のインストールパッ ケージが用意されている. 4・2 GENESIS
GENESIS(GEneral NEural SImulation System, http://genesis-sim.org)も老舗シミュレーショ ン環境の一つで,マルチコンパートメントモデルの単一 ニューロンレベルから,それらがシナプスで結合した神 経回路レベルのシミュレーションを実行することができ る.加えて,この環境の強みは,細胞下レベルの生化学 反応のシミュレーションにある.例えば,シナプス可塑 性は,シナプス前細胞と後細胞の活動パターンに依存し て増強・減弱が起こるが,そうした変化の背景には,細 胞内に存在するさまざまな酵素の生化学反応がある.こ うした細胞下レベルから神経回路レベルまでの多階層に わたるシミュレーションを可能とする.この環境も独自 のスクリプト言語 SLI(Script Language Interpreter) によりプログラミングを行う.また,NEURON と同様 に,数多くの先行研究のモデルのソースコードが提供さ れている.Linux と MacOS に対応したシミュレーショ ン環境のソースコードが用意されている.Windows は, cygwin上で実行可能. 4・3 NEST
NEST(The NEural Simulation Tool, http:// www.nest-simulator.org)は,比較的新しいシミュ レーション環境で,積分発火モデルや Hodgkin-Huxley モデルなどのスパイキングニューロンモデルで構成さ れる神経回路モデルのシミュレーションを目的として いる.ニューロンモデルは,あまり複雑な形態は扱わ ず,シングルコンパートメントモデルを中心としてい る(コンパートメント数の少ないマルチコンパートメン トモデルも用意されてはいる).抑制シナプスモデルや スパイク時間依存シナプス可塑性モデルなど比較的最新 のモデルも用意されているのが特徴である.また,大規 模神経回路モデル(∼数千から数万ニューロン)のシ ミュレーションを実行できるように,並列計算処理など の数値計算処理に強みをもつ.シミュレーション実行は python,または独自のスクリプト言語 SLI(Simulation Language Interpreter,GENESIS のものとは異なる) によるプログラミングで行う.Linux,Mac OS,いくつ かの UNIX に対応したソースコードが用意されている. 4・4 その他汎用ツール 上記以外では,MATLAB(http://jp.mathworks. com),微分方程式の数値計算用ツールであるXPP(http:// www.math.pitt.edu/~bard/xpp/xpp.html) などが よく使われている.
5.最 後 に
ここで述べた代表的なニューロン・シナプスのモデル の導出は,スペースの都合で簡潔にしか記していない. より詳細な背景や導出過程に興味があれば,専門的な資 料を参考されたい [Dayan 05, 銅谷 07, 深井 09, Koch 98, Koch 04, 宮川 13]. 2年前にアメリカで BRAIN initiative が発表され,脳 研究に対する研究振興の機運が再び高まっている.一方, ヨーロッパ版の BRAIN initiative である Human BrainProjectでは,ヒト全脳のシミュレーションを目指すプ ロジェクトが立ち上がり,最近の実験データの蓄積を利 用し,脳を構成論的に理解する動きも活発になっている. ニューロンの複雑さを考えれば,全脳レベルはもちろん, 局所回路レベルでも非常に大規模なシミュレーションと なる.これを効率良く行うには,シミュレーション技術 を始めとする多様な専門知識が必要となると思われる. また,現状,ボトムアップ的にモデルを構築するのみで あるが,今後,計算理論,アルゴリズムといったトップ ダウンの視点も重要となるはずである.かつて,脳を理 解するために提案されたニューラルネットワークが,今 は人工知能の一つの分野となっているように,人工知能 分野の知見が脳研究にフィードバックされることも大い に期待される.本稿が,こうした研究に興味をお持ちの 方にとって,きっかけとなれば幸いである.
◇ 参 考 文 献 ◇
[Bienenstock 82] Bienenstock, E. L., Cooper, L. N. and Munro, P. W.: Theory for the development of neuron selectivity: Orientation specificity and binocular interaction in visual cortex, J. Neuroscience, Vol. 2, pp. 32-48(1982)
[Dayan 05] Dayan, P. and Abbott, L. F.: Theoretical Neuroscience, The MIT Press(2005)
[Destexhe 98] Destexhe, A., Mainen, Z. F. and Sejnowski, T. J.: Kinetic models of synaptic transmission, Koch, C. and Segev, I.(Eds.), Methods in Neural Modeling, pp.1-25, Cambridge, MIT(1998)
[銅谷 07] 銅谷賢治:計算神経科学への招待,サイエンス社(2007) [深井 09] 深井朋樹(編):脳の計算論(シリーズ脳科学 1),東京
大学出版会(2009)
[Hebb 49] Hebb, D. O.: The Organization of Behavior: A Neuropsychological Theory, New York, Wiley(1949)
[Hodgkin 52] Hodgkin, A. L. and Huxley, A. F.: A quantitative description of membrane current and its application to conduction and excitation in nerve, J. Physiology, Vol. 117, pp. 500-544(1952)
[Koch 98] Koch, C. and Segev, I.(eds.): Methods in Neuronal Modeling, The MIT Press(1998)
[Koch 04] Koch, C.: Biophysics of Computation, Oxford University Press, USA(2004)
[Markram 97] Markram, H., Lubke, J., Frotscher, M. and Sakmann, B.: Regulation of synaptic efficacy by coincidence
of postsynaptic APs and EPSPs, Science, Vol. 275, pp. 213-215 (1997)
[McCulloch 43] McCulloch, W. S. and Pitts, W.: A logical calculus of the ideas immanent in nervous activity, The Bulletin of Mathematical Biophysics, Vol. 5, pp. 115-133(1943)
[宮川 13] 宮川博義,井上雅司:ニューロンの生物物理,第 2 版, 丸善出版(2013)
[Rall 62] Rall, W.: Electrophysiology of a dendritic neuron model, Biophysical Journal, Vol. 2, pp. 145-167(1962)
[Rall 67] Rall, W.: Distinguishing theoretical synaptic potentials computed for different soma-dendritic distributions of synaptic input, J. Neurophysiology, Vol. 30, pp. 1138-1168 (1967)
[Song 00] Song, S., Miller, K. D. and Abbott, L. F.: Competitive Hebbian learning through spike-timing-dependent synaptic plasticity, Nature Neuroscience, Vol. 3, pp. 919-926(2000) [Stein 65] Stein, R. B.: A theoretical analysis of neuronal
variability, Biophysical Journal, Vol. 5, pp. 173-194(1965) 2015年 2 月 1 日 受理