未来のコンピュータ好きを育てる: 9.全国アンケート調査で見る情報科教育の現状
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(2) 特集 未来のコンピュータ好きを育てる. 「重要であると考えているか」 , 「指導する自信があるか」 という観点で質問を行った.. 【「情報の科学的な理解・問題解決」について】. (17)の「コンピュータによる計測・制御」を授業で教え ているという教員の割合は低く,それが指導内容に含ま. ●教えている内容と重要性の認識 「授業で教えている」 と 「重要性の認識」 に対する回答の 傾向は,全体として正の相関が認められた.このことか ら,担当している科目によって教員の回答の傾向が異な ると考えられる.紙面の関係で詳細なデータについては 報告書 (pp.40-42)を参照していただくこととし,ここ 1). では各カテゴリの傾向について述べる.. れる情報 B を担当している教員についても 30%に満たな い.重要性の認識についても,情報 B を担当する教員の. 55%近く,情報 A・B を担当する教員の 70%近くが「それ. ほど重要とは思っていない」と答えている.また, (16)の 「アルゴリズムとプログラミング」および(18)の「モデル化 とシミュレーション」も情報 B の指導内容になっているが, 情報 B を担当する教員の半数が「それほど重要とは思って. いない」と答えている.さらに, (19)の「問題解決」につい. 【 「情報活用のための基本操作」・「アプリケーション ソフトの基本操作」について】. ては,担当している科目によらず 30%の教員が「それほど 重要とは思っていない」と答えている.これらの理由につ. (1)∼(4)については,担当科目によらず「教えてい. いてはさらに詳細な調査を行う必要があるが, 「情報の科. る」と「重要である」の両方について 80%以上が肯定的な. 学的な理解」にかかわる内容の指導が不十分であり,重要. 回答をした.よく使うアプリケーションソフト(ワープ. 性についてもあまり認識されていない現状がある.. ロ,表計算,プレゼンテーション) の操作は, 「情報科の 指導にとって必須の内容」 と考えられているようである.. 9. 【「情報社会と情報に関わるモラル」について】. ただし,情報 B・C の担当者は,情報 A の担当者と比. このカテゴリの(20)∼(24)の項目は,担当する科目. 系の授業にそれほど積極的でないことが推測される.. るいは「一部教えている」と回答した.また, (22)∼(24). べて積極的な割合が低く,これら 2 科目の担当者は操作. によらず,いずれも 90%以上の教員が「教えている」あ. 一方, (6)∼(8) の音声処理ソフトや動画処理ソフト. についても,担当する科目によらず 80% 近くの教員が. については,70%以上の教員が 「教えていない」 あるいは. 「きわめて重要」と回答している.これは,情報モラル教. 「それほど重要とは思わない」 と回答している.教科書に. 育や情報安全教育が我が国における喫緊の課題であると. は「情報のディジタル化」 の内容が存在するが,ソフトウ. いう,文部科学省および教育委員会の方針が影響してい. ェアを使わなくても指導を行えていると考えられる.. るものと考えられる.. また, (5) のデータベースソフトによる情報検索につい ては,それが指導内容に含まれる情報 B を担当する教員. ●内容を指導する自信について. の半数が 「教えていない」 ,40%が 「それほど重要とは思わ. 「指導する自信」の有無を現職の教員に質問することに. ない」と回答しており,情報 A・B を担当する教員は,60. ついては議論が必要だが,「情報」で指導する内容の特殊. %以上が 「教えていない」 ,50%近くが 「それほど重要とは. 性(情報化の進展にともない常に新しい知識が必要にな. 思わない」 と回答している.教えている割合の低さは,校. る等),教員免許を取得した経緯(免許認定講習会で取得. 内のパソコンへのデータベースソフトのインストール環. した例の多いこと等)を考えると,現状把握が必要であ. 境の整備などに関係している可能性があり,重要性の認. ると判断しこの質問を設定した.. 識度合いが低いことについては,指導に要する時間の制. 「教えている」と「自信がある」のギャップ,あるいは. 約や教員の指導力の問題などが理由であると考えられる.. 「重要であると認識」と「自信がある」のギャップは項目に よってさまざまであり,傾向を一言で述べることは難し. 【 「情報の表現・発信・伝達」について】 (9)∼(12)の Web ページ制作,電子メールによるコ. ミュニケーション,文書作成,プレゼンテーションにつ いては,担当する科目によらず, 「教えている」あるいは. い.ここで注目すべきは,教えている割合も重要と考え ている割合も高いのに,指導する自信があると回答する 割合が低いという項目であり,カテゴリ V の(20) , (22) ,. (23),(24)がそれに該当する(図 -1).. 「重要である」 ということについての割合が高い.ただし,. これらの項目は,社会あるいは学校の要請により「き. Web ページ制作については,それが指導内容に含まれる. わめて重要」と認識し,実際に授業でも「教えている」と. 情報 C の担当者に比べて,情報 A・B 担当者の積極的な. 回答しているものの,適切に教えられている「自信」 があ. 回答の割合は低い.いずれにせよ,情報の表現・発信・. るとは限らないことを示している.. 伝達は情報活用の基礎となる能力であり,情報科教員は. 情報セキュリティ技術やネットワーク犯罪など情報安. 指導をしており重要性も高いと考えていることが分かる.. 全にかかわるテーマ,著作権などを含む法制度の問題,. 1006. 情報処理 Vol.50 No.10 Oct. 2009.
(3) 全国アンケート調査で見る情報科教育の現状. 必須 チェック. 他者の権利と法制度 情報社会における コミュニケーション. 計測・制御の基礎. プログラミングの 基礎 マルチメディアの 基本操作 画像編集ソフトの 基本操作 検索の Web 基本操作 プレゼンソフトの 基本操作 表計算ソフトの 基本操作. 図 -1 「教えている」と「きわめて重要」に対して「自信がある」の回 答数が少ない項目(n=1938). ワープロソフトの 基本操作. 教えている きわめて重要 自信がある. キー入力. 機器の発達と情報化が 社会に及ぼす影響. コンピュータの 基本操作. 情報社会における 安全性. 図 -2 高校入学時の生徒に必須であるスキル(n=1938). 社会の情報化が及ぼす影響,コミュニケーションの問題 などは,教科書だけで指導することは容易ではない面が あり,教材やカリキュラム等も含めてその指導法につい て検討していく必要がある. ●高校入学時に求めるスキルについて 高校入学時の生徒にどのようなスキルを「必須」と考 えているかについて,中学校「技術・家庭」の技術分野 の学習内容を基に作った 10 個の項目について調査した. 図 -2 に結果を示す.この際,これらのスキルが必須で あるか否かという質問と同時に,入学時の生徒に対して. 全体 (n=1938) 普通科・総合学科 . (n=1611) 専門学科 (n=327) 「情報」だけ担当している 「情報」以外も兼任している 不明・無回答. 図 -3 専任と兼担の割合. その有無をチェックしているか否かについても質問した が,ほぼ同様の傾向であった. これを見ると,コンピュータの基本操作やキー入力,. 数が少ないという問題がある.実際,情報科教員を採用. 日常的に使うアプリケーションソフトの基本操作などは. する教育委員会はほとんどなく,採用しても他教科の免. 必須と考えているが,プログラミングの基礎,計測・制. 許を取得していることが条件になっていることが多い.. 御の基礎などについては必須とはとらえていないことが. そして,情報科でどの科目を選択履修するかが生徒の意. 分かる. 【 「情報の科学的な理解・問題解決」 について】の. 志ではなく学校の都合で決められており,実質的に 1 校. 結果と合わせると,これらの内容が生徒にとって必要で あると考えられていないことが推測される.新学習指導. に 1 科目しか開講されていないという事情がある.結果. として,情報科の教員が「情報」の授業のみで他教科と同. 要領では,中学校 「技術・家庭」 の 「情報に関する技術」で. 等の持ち時間を確保することができず,やむを得ず他教. はこれらの部分が必修化され,高校 「情報の科学」 でも関. 科との兼担を余儀なくされている.. 連項目が指導されることから,今後は教員の意識を含め,. 複数の教科を担当した場合には,自ずとホームグラウン. この傾向を変えることが必要になる.. ドの教科に軸足が置かれることになり,情報科への注力 の度合いが低くなる傾向がある.仮に情報科専任が配置. ●専任と兼担の割合. された場合でも,複数の専任教員が配置されるケースは. 教員がどのような立場で授業を行っているかを探る調査. 稀で,校内では必然的に少数派になってしまう現状もあ. を行った.結果を図 -3 に示す.これより,情報科のみを. る.この状況は今後教育委員会が解決すべきことと考える.. 担当している教員(以下,専任)は,他の教科と兼任してい る教員 (以下,兼担) に比べて圧倒的に少ないことが分かる. 普通科および総合科では 75% の教員が兼担であり,. 高校情報教員によるワークショップ. 専門学科においては 90% 以上の教員が兼担である.教. 教科「情報」に関する現場の工夫や,改善すべき課題は,. 科「情報」 を学科の専門科目で代替している専門学科は別. アンケートだけでは見出しにくい.(財)コンピュータ教. として,普通科の 8 割近くの教員が兼担で 「情報」 を実施. 育開発センターの人的ネットワークを利用して全国から. している.この背景には,公立学校の情報科の教員採用. 26 名の現場の先生に集まっていただきワークショップ 情報処理 Vol.50 No.10 Oct. 2009. 1007. 9.
(4) 特集 未来のコンピュータ好きを育てる. を実施した.. 出すことは難しかった.さまざまな工夫や提案があり,. 情報科教育の諸問題や改善方法を見出すには,教員配. これらを集約して情報共有できるような仕組みがあれば,. 置,校務における情報科の役割,科目選択と授業内容,. 情報教育の充実につながるのではないかと考えられる.. 評価,情報科が目指す生徒の能力観・学力観等幅広いテ ーマが考えられる.1 日のワークショップでこれらすべ ての問題について検討することは不可能であるため,今. 9. 今後の課題と展望. 回は「高等学校等の情報教育の充実に向けて」 というテー. 今回のアンケート調査およびワークショップから,情. マで,事例紹介や意見交換を通して問題点や改善の方向. 報科の現状が明らかにされた.アプリケーションソフト. を考えることにした.. については,ソフトが校内のパソコンにインストールさ. ワークショップは平成 20 年 3 月 1 日に都内で開催さ. れていない,指導に時間がかかるなどの課題があり,特. れた.会場ではアンケートの途中集計結果も紹介され,. にデータベースソフトはほとんど活用されていないこと. これをふまえた発言も多数あった.全国で情報科の教育. が分かった.また,新学習指導要領では「情報社会に参. に熱心に取り組まれている先生方の事例発表や意見交換. 画する態度」や「情報の科学的な理解」を柱に科目の内容. であるため,参加者にとって大変有意義なものであった.. が改善されているが,その中で重視されている項目に関. 参加してくれた先生方から報告された授業に関しては,. して,情報モラル教育や情報安全教育に関する知識や自. 先生ごとのさまざまな工夫があり,26 人 26 色ともいえ. 信の不足,科学的な理解に関する指導が積極的に行われ. る面があった.普通科と専門学科,総合学科といった校. ていないといった問題が見受けられた.さらに,コンピ. 種の違いによっても,授業内容や方法に違いが見られた.. ュータによる計測・制御,アルゴリズムとプログラミン. 情報科で学習する内容として問題視されやすい「アプ. グ,モデル化とシミュレーションなどの指導が必ずしも. リケーションソフトの基本操作」についての議論も行わ. 十分ではなく,中学校の新学習指導要領の内容との接続. れた.普通科の 7 割程度の学校で履修されている情報 A. 性においても今後検討していく必要がある.. では,学習指導要領にもアプリケーションソフトを取り. 教員に関しては,情報科の専任教員の不足が指導内容. 扱うよう記載されている.また,情報科の目標として他. に悪い影響を与えていることと,これに関連して,教員. 教科との連携もうたわれ,基本的なスキルを身につけさ. のスキルの質が保たれていない可能性があること,そし. せるよう求められている.アンケートの結果からも「情. て,それを補うための研修会やコミュニティが不十分で. 報科の指導にとって必須の内容」と読み取れる.商業科. あることなどの問題が明らかになった.. などでは,即戦力として使える力として Word,Excel,. 今回の調査とワークショップを通して,高校における. 普通科や総合学科などでは,これらのソフトをツールと. の 6 年の間に,多くの情報科教員が自分なりに工夫して,. PowerPoint を必須として教えているという意見もあった.. 情報教育の現状と課題が明らかになった.しかし,こ. して考え,取り扱う内容そのものに目を向けさせる授業. 自分が学んだ経験のない教科の充実に努めていることも. を行っているという意見があった.アプリケーションソ. 事実である.今後は,できるだけ多くの教員が情報科教. フトを授業の中で取り扱うが,使い方に対して時間をか. 育に関する情報を共有することが重要であり,その仕組. けるようなことはなく,ソフトを利用して表現する内容. み作りと具体的な活動を展開する必要があると考える.. についての学習に重点が置いて授業を構成しているとい う意見が数多く聞かれた. アルゴリズムやプログラミングの学習については,さ まざまな工夫が行われているが,すべての生徒が学ぶの. 参考文献 1)(財)コンピュータ教育開発センター:高等学校等における情報教育 の実態に関する調査(2009). http://www.cec.or.jp/ict/hsjoho.html (平成 21 年 8 月 2 日受付). に適切な課題や授業展開に苦慮している意見もあった. 必履修教科としてすべての生徒が学ぶ情報科について, 学齢や学力に合わせた授業内容,指導方法についての研 究がまだ十分でなく,模索が続いていることが理解でき た.「情報の科学的な理解」に重点を置く「情報 B」を履修. する学校が少ないのも,アルゴリズムやプログラミング に対する 「指導法」 が広まっていないことが原因であると 考えられる. ワークショップ全般では情報科や情報教育にかかわる 問題について幅広く取り扱われたため,1 つの結論を見. 1008. 情報処理 Vol.50 No.10 Oct. 2009. 小泉力一 [email protected]. 立教大学,同大学院卒業.1977 年に入都.都立高校教諭,都総合技 術教育センター専門教育主事等を経て 2005 年より尚美学園大学,同 大学院教授.2008 年より文部科学省参与. 佐藤義弘 [email protected]. 1987 年東京学芸大学卒業. 1988 年都立多摩工業高等学校数学科教諭. 2000 年現職講習会により情報科教諭免許取得.2003 年都立府中西高 等学校に情報科教諭として着任.2008 年より都立東大和高等学校..
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