Shinso YOKOTA, Nobuo YOSHIZAWA
1
東京農工大学大学院連合農学研究科 1
Graduate School of Agricultural Science, Tokyo University of Agriculture and Technology 2
宇都宮大学農学部 〒 321-8505 宇都宮市峰町 350 2
Faculty of Agriculture, Utsunomiya University, Utsunomiya 321-8505, Japan
要 旨 本研究では,スギ間伐材より作製したスギチップの水質浄化用のろ材としての適性を評価し た。水質浄化実験は,ろ材(スギ間伐材チップ及び対照としてゼオライト粒)単体もしくは微 生物(活性汚泥もしくは土壌微生物)を賦活させたろ材及び好気条件の人工汚水 10L(187.5mg/ Lグルコース,73mg/L 硝酸カリウム及び 2.3mg/L リン酸二水素カリウム)を用いて 16 日間行 った。水質浄化実験中,4 日毎に試料を採取し,COD,全窒素及び全リン量を測定した。また, ろ材の容積の違いが水質浄化能に与える影響を評価するため,2 種の異なるろ材容積(150 及 び 450cm3)により人工汚水を浄化した。ろ材に微生物を賦活させた場合,スギ間伐材チップ はゼオライト粒とほとんど同じ水質浄化能を示した。また,微生物を賦活させたろ材を用いた 試験において,試験開始後一日以内に COD,全窒素及び全リンの値が急激に減少し,その後, 全窒素及び全リン量は増加する傾向が認められた。一方,汚水中に継続的にグルコースを添加 した場合,全窒素及び全リン量が継続的に減少する傾向が認められた。以上のことから,スギ 間伐材チップに微生物を賦活することにより,汚水処理が行える可能性が示唆された。 キーワード:スギ間伐材,水質浄化,COD,全窒素,全リン Summary
The object of this study is to evaluate water purification ability of wood chips as filtration materials. Wood chips were prepared from thinned sugi (Cryptomeria japonica) logs. Total 10 L of artificial waste water which contained 187.5 mg/L glucose, 73 mg/l potassium nitrate, and 2.3 mg/L potassium phosphate monohydrate, was purifi ed by fi ltration materials (sugi chips or zeolite grain as control) with or without microorganisms from activated sludge or soil under aeration for 16 days. Amounts of chemical oxygen demand (COD), total nitrogen (TN), and total phosphorous (TP) were determined at intervals of 4 days. In addition, two different volumes of fi ltration materials (sugi chips: 150 and 450 cm3) were also used to examine the effect of fi ltration material volume on water purifi cation ability. Sugi chips activated with microorganisms showed almost the same water purifi cation ability as that of zeolite grain activated with microorganisms. The COD, TN, and TP were rapidly decreased within one day after initiating the experiment, and then TN and TP was gradually increased. On the other hand, decrease of TN and TP was observed when glucose was added successively to the artifi cial waste water. These results suggest that water purifi cation could be performed by sugi chips activated with microorganisms.
Key words: Sugi (Cryptomeria japonica) thinned log, water purification, COD, total nitrogen, total
が限られているため,多くが未利用のまま林内に放置 されている。そのため,水質浄化において,スギ材(主 に間伐材)をチップ化してろ材として利用できれば, 林業の採算性の向上にも繋がると考えられる。 微生物は,汚濁物質を生分解するので,水質浄化に おいて大きな役割を占めている。通常,微生物を用い た排水処理には,活性汚泥法及び生物膜法がある2,15) 。 活性汚泥法は,ろ材を使用せず,主に好気及び嫌気槽 において,微生物による汚濁物質の生分解だけで水質 浄化を行う処理法である。この処理法は,処理に使用 する微生物量が多いため,処理中の水質は不安定で, 汚泥発生量が多く,維持管理コストが高い等の欠点が 挙げられる。しかしながら,集中型の大規模な排水処 理施設としては最適なため,人口 1,000 人以上の都市 部等に普及している。一方,生物膜法は,先に述べた ろ材を用い,微生物による汚濁物質の生分解及びろ材 による吸着により,水質浄化を行う処理法である。こ の処理法は,活性汚泥法と比較して,微生物量が少な いため,処理水質は安定し,汚泥発生量が少なく,維 持管理コストが低いという長所がある。しかしなが ら,活性汚泥法に比べ処理能力が低いため,小規模な 排水処理施設として,人口 1,000 人以下の郊外等の過 疎地域に限定して普及している14)。これらのことから, 生物膜法による排水処理施設は,中山間地域における, 低コストでコンパクトな処理施設として有用であると 考えられる。 本研究では,ろ材にスギ間伐材チップを用いた低コ ストな生活排水処理システムの確立を目的とし,ろ材 単体による水質浄化能及び微生物で賦活させたろ材を 用いた生物膜法による水質浄化能を評価した。 2. 材料と方法 2.1 ろ材及び人工汚水の調製 本実験には,スギ間伐材チップ及びゼオライトをろ 材として使用した。スギ間伐材チップの材料として, 栃木県内から採取した 22 年生スギ間伐材を使用し, 樹皮を除去後,心材及び辺材を区別せずにチップ化し た。チップ化したスギ及び粉砕したゼオライト粒は, ふるい(4.75㎜× 4.75㎜)を用いて粉末状のものを除 去し,105℃で3日間乾燥し,全乾状態とした。スギ 間伐材チップ及びゼオライト粒の寸法は,長さ約1∼ 2㎝,直径約 0.5 ∼1㎝であった。 道水により,10 倍に希釈した人工汚水 10L を用いて 培養を開始し,1週間後に2倍希釈になるように,一 日ごとに人工汚水の割合を増加させた。培養は,水温 30℃及び曝気(1.5 ∼ 2.0L/min)条件下で行い,水温 調節には,サーモスタット付ヒーター(コンパクトス リムオートヒータ 100,ジェックス),曝気にはエア ポンプ(ニューラング GX500N2,ジェックス)をそ れぞれ用いた。 ろ材の賦活は,9L の人工汚水に1L の馴養させた 活性汚泥または土壌微生物を加え,そこへスギ間伐 材チップ及びゼオライト粒の各ろ材を浸漬し,水温 30℃恒温及び曝気(1.5 ∼ 2.0L/min)条件下で1週間 処理することにより行った。 2.3 水質浄化試験 本 研 究 に お い て 行 っ た 水 質 浄 化 試 験 の 条 件 を, Table1に示す。試験区 A-D は,ろ材単体の浄化能を 試験するために,ろ材の種類(スギ間伐材チップ及び ゼオライト)と量(150 及び 450㎤)をそれぞれ変化 させた。E 及び F では,スギ間伐材チップから溶出す る COD,全窒素及び全リンを測定するために,蒸留 水中に異なる量(150 及び 450㎤)のスギ間伐材チッ プを入れ,各水質指標を測定した。G-J の試験区では, 微生物により賦活したろ材の浄化能を試験するため に,賦活に用いた微生物の種類(活性汚泥及び土壌微 生物),ろ材の種類(スギ間伐材チップ及びゼオライト) 及び量(150 及び 450㎤)を変化させた。 試験装置の概略を Fig. 1に示す。試験水槽には,容 量約 20L(縦 30㎝,横 20㎝,深さ 30㎝)のポリエチ レン製タンクを用い,その底部に,各ろ材を入れたポ
Table 1. Combinations of filtration materials, type of sample, and microorganisms.
Treatment Filtration material
Volume of filtration
material (cm3) Sample Microorganism
A − − artificial waste water − B sugi chip 150 artificial waste water − C sugi chip 450 artificial waste water − D zeolite 150 artificial waste water − E sugi chip 150 distilled water − F sugi chip 450 distilled water − G sugi chip 150 artificial waste water activated sludge H sugi chip 450 artificial waste water activated sludge I sugi chip 150 artificial waste water soil microorganisms J zeolite 150 artificial waste water activated sludge
リエチレン製の容器,そしてエアポンプと繋げた気泡 拡散用の石(縦 15㎝×横 1.5㎝×高さ 1.5㎝)を取り 付けた。水質浄化試験は,人工汚水または蒸留水 10L を用い,水温 30℃恒温及び曝気(1.5 ∼ 2.0L/min)条 件下で 16 日間行い,その後,人工汚水または蒸留水 を全て入れ替え,再度 16 日間水質浄化試験した。水 質測定用試料は,4日毎に 50mL 採水した。なお,試 験区 G-J における,人工汚水入れ替え後の2回目の試 験では,微生物の活性を維持させるために,4日毎の 試料採水後に,栄養源としてグルコース 1.875g(COD 値 200mg/L)を添加した。 2.4 各水質指標の測定 各水質指標は,採水した試料を3回測定し,その平 均値を各水質指標の測定値とした。 2.4.1 二クロム酸カリウム法による COD の測定 2.3 において採水した試料2mL を,COD 試薬バイ アル(高レンジ,0-1,500mg/L COD,HACH)に加え,ヒー トブロック(MG-2000,EYELA)を用いて 150℃で2 時間加熱した。その後,室温で 30 分間冷却し,多項 目迅速水質分析計(DR/890,HACH)を用いて COD 値を測定した。 2.4.2 紫外線吸光光度法による全窒素量の測定 全窒素量の測定は,並木らの方法11)に従って測定 した。まず,5倍に希釈した試料 50mL に,40mg/mL 水酸化ナトリウム及び 30mg/mL ペルオキソ二硫酸カ リウムを含む水酸化ナトリウム - ペルオキソ二硫酸カ リウム混合溶液 10mL を加えた。これを,オートクレー ブ(BS-325,TOMY)内で 120℃,30 分間加熱した後, 水冷した。この溶液の上澄みを,濃塩酸により pH2-3 に調整した後,波長 220nm における吸光度を分光光 度計(UV-2100,島津製作所)を用いて測定した。 2.4.3 ペルオキソ二硫酸カリウム分解法による全リ ン量の測定 全リン量は,並木ら11) の方法に従って測定した。 2倍に希釈した試料 50mL に,40mg/mL ペルオキソ 二硫酸カリウム溶液 10mL を加えた。これを,オート クレーブ内で 120℃,30 分間加熱した後,水冷した。 この溶液の上澄み液 25mL に,モリブデン酸アンモニ
Fig.1. Experimental apparatus for water purifi cation.
Fig.2. Changes of chemical oxygen demand (COD) and the amounts of total nitrogen (TN) and total phosphorous (TP) by using different types of fi ltration materials. Note: Artificial waste water was replaced at the 2nd cycle of
treatment.
Symbols: closed diamond, treatment A; open circle, treatment B; open triangle, treatment C; open square, D.
ウム溶液(2.88M 硫酸,100mg/mL アミド硫酸アンモ ニウム,12mg/mL 七モリブデン酸六アンモニウム四 水和物,0.48mg/mL ビス [(+)- タルトラト ] 二アンチ モン (III) 酸カリウム三水和物)及びアスコルビン酸 溶液(72mg/mL L(+)- アスコルビン酸)を,体積比5: 1で混合したモリブデン酸アンモニウム - アスコルビ ン酸混合溶液2mL を加え,常温で約 15 分間放置し た後,波長 710nm における吸光度を分光光度計を用 いて測定した。 3. 結果と考察 3.1 ろ材単体による水質浄化能 Fig. 2に,ろ材単体を用いた時の,COD,全窒素量 及び全リン量の変化を示す。ろ材を使用していない試 験区 A において,各数値は,ほとんど低下しなかっ たが,ろ材を使用した試験区 B-D では,試験区 C の 試験 1 回目における COD を除けば,各数値において 明らかな低下が認められた。COD,全窒素及び全リ ンを水質指標とした時の,スギ間伐材チップの水質浄 化能は,ゼオライト粒よりも劣ったが,容積をゼオラ イト粒の3倍まで増加させると,ゼオライト粒と同等 もしくは,それ以上の浄化能を持つ傾向を示した。ま た,スギ間伐材チップ及びゼオライト粒共に,COD 及び全窒素に対する除去能力は,試験1回目と比較し
る影響を調査した。 スギ間伐材チップ由来の溶出物に起因する COD, 全窒素量及び全リン量の変化を Fig. 3に示す。これ らの水質指標の中で,COD が4日目までに大幅な増 加を示した。特に,試験区 F においては,試験1回目 の4日目に,298mg/L を示し,人工汚水の初期 COD さえ上回る結果となった。一方,蒸留水入れ替え後の 試験2回目における COD は,試験1回目の約1/ 3 まで減少した。これらのことから,試験区 C の試験 1回目において COD が4日目に増加し,その後も大 幅な減少を示さなかった原因として,スギ間伐材チッ プ由来の溶出物が考えられる。 微生物を保持していないろ材単体による水質浄化 スギ間伐材チップをろ材として用いた場合,スギ間 伐材チップからの溶出物により人工汚水は褐色に変化 し,容積を増加すると更に濃色化した。本研究では, 人工汚水の色度及び透視度を測定しなかったが,今後, これらの水質指標についても測定する必要がある。 3.2 微生物で賦活させたろ材による水質浄化能 Fig. 4に,微生物を賦活させたろ材を用いて行った 浄化試験における,COD,全窒素量及び全リン量の 変化を示す。試験1回目における COD,全窒素及び
Fig.3. Changes of chemical oxygen demand (COD) and the amounts of total nitrogen (TN) and total phosphorous (TP) due to organic compounds derived from sugi chips. Note: Distilled water was replaced at the 2nd cycle of treatment. Symbols: open circle: treatment E; open triangle, treatment F.
Fig.4. Changes of chemical oxygen demand (COD) and the amounts of total nitrogen (TN) and total phosphorous (TP) by using different types of fi ltration materials activated with microorganisms.
Note: Artificial waste water was replaced at the 2nd cycle of treatment. In the 2nd cycle, 1.875 g glucose (corresponding to 200 mg/L COD) was added every 4 days.
Symbols: open circle, treatment G; open diamond, treatment H ; open triangle, treatment I; open square, treatment J.
及び全リンは,試験1回目とは対照的に4日目以降の 増加は認められず,全窒素においては継続的に減少し た。 生物膜法において,窒素及びリンの除去は,主に微 生物による脱窒及び脱リンによりもたらされることが 知られている1,9)。脱窒は,生物膜内部の嫌気条件下 において,脱窒細菌が行う硝酸呼吸によって窒素ガス まで還元され,空気中に放出されることによる生じる。 また,脱リンは,ポリリン酸蓄積菌が,好気条件下で リンをポリリン酸として体内に取り込むことである 1,9) 。どちらの場合も,微生物の活動を利用しているた め,微生物の栄養源である有機物が不足した状況であ る試験1回目においては,その働きが低下し,グルコー スを定期的に添加した試験2回目においては,継続的 な脱窒及び脱リンが生じたと考えられる。 従って,微生物の栄養源としてグルコース等の有機 日及び2日目に各水質指標を測定した(Fig. 5)。そ の結果,COD,全窒素及び全リンは,いずれも6時 間後で急激に低下し,1日後には,ほぼ一定の値となっ た。このことから,24 時間等の短期間で汚水の入れ 替えを行えば,より大量の汚水を浄化処理出来ること が示唆された。 4. 結論 本研究では,スギ間伐材チップの人口汚水に対する, ろ材としての有用性及び基本的な水質浄化性能の評価 を行った。得られた結果は次のとおりである。 1)ろ材単体だけでも,ある程度の浄化能が認められ たが,微生物で賦活させることによって,より浄化 能が向上した。 2)スギ間伐材チップとゼオライト粒とを同じ容積で 比較すると,ろ材単体の場合はゼオライトの方が浄 化能は高いが,スギ間伐材チップの場合,微生物で 賦活させることによって,ゼオライトと同等の浄化 能を得ることができた。 3)微生物で賦活させたろ材を用いる場合は,有機物 を確保できれば,窒素,リンの同時除去が可能であ ることが示唆された。 4)試験4日目までの測定の結果より,一日以内に COD,全窒素及び全リンの各値が急激に減少する ことから,短期間で汚水を入れ替えることにより, 効果的な汚水処理が可能であることが示唆された。 今後の課題として,し尿等を考慮した人工汚水また は家庭排水での実用試験,低水温時における微生物の 浄化能力試験,さらに,ろ材としての能力持続期間の 試験を行い,実用化に向けた,さらなる検討の必要が ある。 5. 謝辞 本研究を遂行するにあたり,御指導,御助言を頂い た宇都宮大学工学部准教授 酒井保蔵先生,農学部准 教授 松井宏之先生に厚く御礼申し上げます。 引用文献 1) 福田文治:初歩から学ぶ水処理技術,工業調査会, 東京,pp195(1999) 2) 江 耀宗,柳田友隆,三谷知世:カラム実験を 用いた硫酸第一鉄混合・加熱処理火山灰土壌に
よる水中のリン除去.水環境学会誌,28,p327-Fig.5. Changes of chemical oxygen demand (COD) and the amounts of total nitrogen (TN) and total phosphorous (TP) by using treatment H for 4 days.
Note: COD, TN, and TP were determined after 6 hours, 12 hours, 1 day, 2 days, and 4 days, respectively.