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障害分野に関する国際協力への日本の取り組み

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(1)障害分野に関する国際協力への日本の取り組み. 論 説. 障害分野に関する国際協力への日本の取り組み 島野 涼子 はじめに 2012 年 10 月 29 日から 11 月 2 日まで、韓国の仁川において国連アジア太平 洋経済社会委員会(以下、 「ESCAP」という)ハイレベル政府間会合が行わ れ、2013 年より始まる「新しいアジア太平洋障害者の十年(以下、 「新十年」 という) 」が採択された。この新十年は、1993 年から 2002 年まで行われた「ア ジア太平洋障害者の十年」 、それに引き続き 2003 年から 2012 年まで行われた 「第 2 次アジア太平洋障害者の十年」に続く「第 3 次」の十年ではなく、2006 年 12 月 に 国連 で 採択 さ れ た 障害者権利条約 1) (Convention on the Rights of Persons with Disabilities; 以下、 「権利条約」という)を実施していく、 「新し い十年」として位置づけられている。 日本政府は、これまでと同様に新十年を推進する ESCAP を継続して支援す る方針を打ち出している。それに加えて日本政府は、日本の権利条約批准とい う大きな課題を有している。権利条約はこれまで国連で採択された他の人権条 約には記載がなかった、国際協力を個別の条文として明記した(第 32 条)特 徴がある。しかし、障害者基本法改正前までは障害関連法において国際協力を 明記した法律はなく、ODA(政府開発援助)大綱に間接的に障害者が含まれ ているに過ぎず、明確に「障害分野への配慮」や「障害者への支援」という文 411.

(2) 横浜国際経済法学第 21 巻第 3 号(2013 年 3 月). 言はない。日本政府が権利条約の批准に向けて国内法を整備するに当たって、 当然に権利条約第 32 条に実行力を持たせるために、障害関連法に国際協力に 対する姿勢を明記する必要がある。しかし、先に述べたように、障害分野にお いて国際協力は焦点が当たりづらい分野であり、さらに国際協力においても障 害分野は焦点の当たりづらい課題である。 そこで本稿では、権利条約の批准に向けた日本の取り組みの中で、国際協力 がどのように取り上げられているのかの現状及び課題を明らかにすることを目 的とする。. 1.世界及びアジア太平洋地域の動き 1981 年の国連「国際障害者年」を皮切りに、国際的に障害者に対する権利 保護の機運が高まっていった。さらに国連は 1983 年から 1992 年までの 10 年 間を「国連・障害者の十年」とし、国際障害者年で掲げた「完全参加と平等」 というスローガンのもと、様々な取り組みが行われた。国連・障害者の十年 は、先進国で障害問題に対する法整備が行われるようになるといった一定の 成果は上げられたものの、財政の厳しい途上国においては十分な成果は挙げ られなかったかったため、1993 年以降の延長は行われないことになった(久 野編 2004:56) 。そのため、アジア太平洋地域では ESCAP が中心となり、独 自に 1993 年から 2002 年までの 10 年間の取り組みとして「アジア太平洋障害 者の十年」を採択した。さらに 2002 年 5 月の ESCAP 総会において、引き続 き 2003 年から 2012 年までの十年を「第 2 次アジア太平洋障害者の十年」と することが採択された。同年 10 月に滋賀県大津市で開催された最終年ハイレ ベル政府間会合において、第 2 次十年の行動計画となる「アジア太平洋障害 者のための、インクルーシブで、バリアフリーな、かつ権利に基づく社会に 向けた行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク(Biwako Millennium Framework for Action: Towards an Inclusive, Barrier-Free and Rights-Based 412.

(3) 障害分野に関する国際協力への日本の取り組み. Society for Person with Disabilities in Asia and the Pacific: 以下、 「BMF」と いう) 」が採択された。BMF は「障害者のためのインクルーシブでバリアフ リーな、かつ権利に基づく社会を達成するために、地域内各国政府や関係者に よる行動のための地域的宣言を提言する地域行動計画」である。また、BMF は「障害分野問題の関心がミレニアム開発目標及び関連の目標を達成する努力 と不可分になるよう、それらの目標を明確に盛り込んでいる」とされている (UNESCAP2002:1-27) 。 第 2 次アジア太平洋障害者の十年の中間年に当たる 2007 年には、タイのバ ンコクでハイレベル政府間会合が開かれ、前半 5 年間を振り返り、状況の変化 や新たな課題を考慮した第 2 次アジア太平洋障害者の十年の後半 5 年間(2008 年~ 2012 年)の実施促進のための行動指針である「びわこプラス 5」が採択 された。BMF には 9 つの原則 2)が掲げられており、行動の優先領域として、 ①障害者の自助団体及び家族・親の団体、②女性障害者、③早期発見・早期対 処と教育、④訓練及び自営を含む雇用、⑤各種施設・公共交通機関へのアクセ ス、⑥情報、通信及び支援技術を含む情報通信へのアクセス、⑦能力構築、社 会保障と持続的生計プログラムによる貧困の緩和、の 7 つが挙げられている。 しかし、第 2 次アジア太平洋障害者の十年は、第 1 次のそれに比べて非常に印 象が薄いと言われている。その理由としては、権利条約の策定と採択、批准に 向けた国内法整備といった点に注目が集まり、第 2 次十年のへの関心が薄れて いったことが挙げられる。加えて、BMF の 7 つの優先領域が政府レベルで十 分に浸透しなかったこと、そして国連のミレニアム開発目標との整合性も不明 確であったことも理由であるといえよう。 2012 年には第 2 次アジア太平洋障害者の十年も最終年を迎えたが、第 2 次 アジア太平洋障害者の十年の目標である「インクルーシブでバリアフリーな社 会」の達成には程遠い状況であるため、ESCAP やアジア地域の障害当事者団 体では、権利条約の実行を目的とした 「新たな十年」 の実施に向けて取り組み を進めた。2010 年 10 月 19 日から 21 日の 3 日間、タイ・バンコクで ESCAP 413.

(4) 横浜国際経済法学第 21 巻第 3 号(2013 年 3 月). 社会開発委員会第 2 会期が開催され、権利条約を広くアジア太平洋地域内で普 及するために 「Make the Right Real(権利の実現を) 」 というスローガンのもと、 2013 年からのアジア太平洋地域における次の十年の実施を盛り込んだ報告書 を ESCAP 総会に提出した(長谷川 2012:58) 。さらに 2012 年 10 月 29 日から 11 月 2 日まで、韓国・仁川で ESCAP 第 2 次アジア太平洋障害者の十年実施 状況の最終評価ハイレベル政府間会合が開かれた。その最終日には「アジア太. 平洋地域における障害者の 『権利を実現させる』ためのインチョン戦略草案(最 終版) 」が採択された。同草案は、 2013 年 4 月又は 5 月に開催される ESCAP 総会で承認を得て、実施されることになる (松井 2012:12-13) 。この ESCAP のハイレベル会合に合わせて、3 つの国際的な障害団体が同じ韓国・仁川で会 議を開催していることからも、新十年実施の重要性がうかがわれる。. 2.権利条約採択後の日本の動き -障がい者制度改革推進会議 2006 年 12 月に国連で採択された権利条約は、批准する国の数が伸び、国 際的にその実施が進展している。2013 年 2 月時点で、条約の批准は 127 カ国、 署名は 155 カ国、選択議定書の批准は 76 カ国、署名は 90 カ国に上る 3)。アジ ア太平洋地域は、他の地域と比較して ESCAP が早くから指揮をとってアジア 太平洋障害者の十年を始めとして障害分野の施策を行ってきたことから、国に よって差はあるものの、障害分野に対する取り組みが活発になりつつある。そ のためアジア太平洋地域の多くの国が権利条約を批准している。アジア太平洋 地域 50 の国と地域の中で、2013 年 1 月現在 27 カ国が批准している。 日本は 2007 年 9 月 28 日に署名したが、批准には未だ至っていない。日本政 府は 2009 年 3 月に批准する意向であったが、国内法の整備が不十分であると 考えた障害者団体の働きかけによって、批准は見送られた。障害者団体が早期 の批准に反対した理由としては、これまで日本が批准してきた人権条約であ る「女子差別撤廃条約」及び「子どもの権利条約」は批准されたものの、その 414.

(5) 障害分野に関する国際協力への日本の取り組み. (出典:内閣府2012:3). 図 1:障害者制度改革の推進体制. 後国内法が整備されることはなく、日本国内でほとんど効力がないに等しいと いう状況を踏まえたものである。国連の中で三度も条約策定が見送られ、やっ と採択された 「障害者権利条約」 を上記 2 つの人権条約と同様な効力のない状 態にするわけにはいかないため、障害者団体は 「国内法の整備をせずしての批 准」 に断固反対したのである。その後、同年 8 月に歴史的な政権交代で民主党 政権となり、これまでの政策決定とは異なる障害当事者及びその関係者が主体 となって議論し、障害者政策の提言を進めていくことを目的とした障がい者制 度改革推進会議(以下、 「推進会議」という)が開かれることになった。 政権交代後の 2009 年 12 月 8 日の閣議決定により、 「障がい者制度改革推進 415.

(6) 横浜国際経済法学第 21 巻第 3 号(2013 年 3 月). 本部(以下、 「推進本部」という) 」が設置された。推進本部は、権利条約の締 結に必要な国内法の整備を始めとする我が国の障害者制度の集中的な改革を行 うため、内閣に設置された。構成員は、本部長である内閣総理大臣の下、すべ ての国務大臣となっている 4)。推進本部設立の目的には、 「障害者権利条約の 締結に必要な国内法の整備」が掲げられており、障害者差別禁止法や虐待防止 法、モニタリング機関、インクルーシブ教育への転換、そして民主党公約の中 で廃止が明言されている「障害者自立支援法」に代わる「総合福祉法」など、 「当面 5 年間を改革の集中期間」として検討が進められた。そして、これらの 課題の検討の場として、障害当事者、学識経験者らで構成される「推進会議」 を設置し、障害当事者を中心に政策立案に当たることになった 5)。推進会議の 構成員は 25 名で、障害当事者及びその家族が大半を占めた。構成員の障害当 事者の中に精神障害や知的障害のある人も含められたことは、これまでに例の ない大きな特徴である。さらに、推進会議の事務局的役割を果たすことになる 「障がい者制度改革推進室」の室長には障害当事者が選出された。2010 年 1 月 12 日を皮切りに、推進会議は 2012 年 3 月 12 日まで 38 回の会議が重ねられた。 第 2 回から第 7 回までは、障害者基本法を始めとする障害関連法、及び教育や 医療などの様々なテーマが取り上げられた。第 8 回目は関係団体のヒアリング を行い、第 9 回から第 11 回までは関係省庁ヒアリングが行われた。そしてこ こまでの議論を踏まえて、構成員による第一次意見の取りまとめが第 12 回か ら第 15 回会議の中で行われた。 その後、第二次意見への取りまとめに向けて、第 16 回は司法へのアクセス、 虐待防止、障害のある女性などのテーマを取り上げて有識者へのヒアリングが 行われた。第 17 回は文部科学省や教育関係団体との意見交換が行われた。そ して第 18 回では今後の方向性が話し合われ、第 19 回から 31 回は障害者基本 法(以下、 「基本法」という)の抜本改正に向けて議論が行われた。基本法は 2011 年 7 月 29 日に参議院で障害者基本法改正案が可決・成立し、同年 8 月 5 日に改正された。それに伴って、改正された基本法の中で①障がい者基本計画 416.

(7) 障害分野に関する国際協力への日本の取り組み. の実施状況の監視、及び②必要に応じた関係大臣等への勧告等、を行う機関と して「障害者政策委員会(以下、 「政策委員会」という) 」の設置が義務付けら れることになったため、第 38 回の会議をもって、障がい者制度改革推進会議 は終了した。なお、引き継がれた政策委員会のメンバーは定員いっぱいの 30 名で、そのうちの過半数となる 16 名が障害当事者・障害者団体関係者となっ た。大枠として推進会議のメンバーが基本となっており、新たに今回から障害 種別として難病と発達障害が追加された。. 3.障がい者制度改革推進会議での国際協力に関する議論 国際協力について焦点を当てると、第 2 回から 7 回までの様々なテーマの中 に国際協力は取り上げられず、第 7 回目の会議の冒頭で 25 名中 6 名の構成員 から、「国際協力についても推進会議内で取り上げられるべきである」 との要 望書が提出された 6)。その理由としては、推進会議は権利条約批准に向けた国 内法整備が設立の目的であるが、その権利条約は国際協力に関する個別の条 文を初めて備えた人権条約である(第 32 条国際協力)ため、国際協力におい てもどのように取り組んでいくか話し合われる必要がある。さらに 2003 年か ら開始されている第 2 次アジア太平洋障害者の十年が 2012 年に終了するため、 ESCAP で 2013 年以降の新十年についての話し合いが行われる直前であった ため、推進会議で今後の国際的な方向性を示しておく必要があった。その要望 書の提出の甲斐があって、第 11 回目の関係省庁ヒアリングでは外務省のヒア リングが行われた(日本の ODA の実施機関である JICA の担当者もヒアリン グ対象として同席した) 。外務省側には、事前に質問を提出しておき、会議当 日に改めて口頭での質問を行った。その主な内容は、 「障害分野の国際協力の 法的根拠の明確化」である。以下、外務省の回答として提出された資料から、 質問を抜粋する 7)。. 障害者基本法を含め、わが国の障害関連法には国際協力に関する明文の規定 417.

(8) 横浜国際経済法学第 21 巻第 3 号(2013 年 3 月). はない。ただ、障害者基本法に基づく障害者基本計画(2003~2012 年度)及び 同計画に基づく重点施策実施 5 か年計画には「国際協力」が含まれており、 「第 2 次アジア太平洋障害者の十年(2003 ~ 2012 年) 」の行動計画としての「びわ こミレニアムフレームワーク(BMF) 」および行動指針としての「びわこプラ スファイブ」などを踏まえた内容となってはいる。しかし、障害者の権利条約 第 32 条に定められる障害者施策に関する国際協力を恒常的な取り組みと して いくためには、時限的な計画等のみでは不十分であり、法律に明文化すべきと の意見について、どう考えるか。 この質問に対しての外務省の回答は、 「ODA(政府開発援助)大綱の中で、 社会的弱者を含めた『公平性の確保』が重点課題としてあげられているため、 当然障害者への考慮がされており、権利条約第 32 条に対応出来る」というも のであった。ODA 大綱については、上記に出た「公平性確保」や「人間の安 全保障」の中に、当然に障害者も含まれていることは誰もが認識していた。し かし、当たり前に含まれているはずだが、実際の国際協力では未だ無意識に障 害者が排除されているという現実があるため、その改善策を講じる必要があ るのではないかという意図をもって意見を求めていたが、その回答は得られな かった。 さらに、アジア太平洋地域では第 2 次アジア太平洋の十年の実施期間が残り 1 年弱となっている時期で、2013 年からの十年の取り組みについての話し合い が行われる直前であったため、日本政府の基本的なスタンスについての質問が 出された。ODA 予算が年々削減されている中で、ESCAP への資金も減額さ れていた。資金の削減と平行して、日本政府の貢献度も減少しているという印 象が強いため、新十年では積極的な関与が求められるが、外務省や JICA への ヒアリングから出てきた回答は抽象的なものがほとんどで、推進会議側が必要 としていた回答は得られなかったに等しいといえよう。 その後の第 12 回から第 14 回の推進会議において、「障害者制度改革の推進 のための基本的な方向(第一次意見) 」 をまとめた。この第一次意見では、11 418.

(9) 障害分野に関する国際協力への日本の取り組み. 項目ある「個別分野における基本方向と今後の進め方」の一つとして国際協力 が挙げられ、①「政府開発援助が障害者の地位向上とバリアフリー化に資する ものとなるよう、ODA 大綱において障害者を明確に位置付けることを含め、 必要な措置を講ずる」こと、そして②現行のアジア太平洋障害者の十年以降、 ESCAP を中心とした、アジアにおける障害分野の国際協力に積極的に貢献す ること、の 2 点を求めた 8)。2010 年 6 月 7 日に発表されたこの第一次意見は、 同年 6 月 29 日に推進会議議長より、当時の菅直人総理大臣に提出され、その 後閣議決定された。 第 16 回以降は、第二次意見の取りまとめに向けての議論、さらに基本法の抜 本改正へ向けて、基本総則や各則の部分について議論された。基本法では、内 閣府の法令担当がたたき台を作成した段階で、総則部分に「国際的協調」が新 設の条文として出された。条文の内容は、男女共同参画社会基本法にも国際的. 表 1 障害者基本法条文と第二次意見の比較 障害者基本法の条文. 推進会議の第二次意見. (国際的協調) (国際的協調) 第一条に規定する社会の実現9)は、 そのた 障害者に関する施策は、 障害者の尊厳の めの施策が国際社会における取組と密接な 尊重及び権利の確保に資する観 関係を有していることに鑑み、 国際的協調 点から、 国際的協調の下に行われなければ の下に図られなければならない。 ならないこと。 (国際協力) (国際協力) 国は、 障害者の自立及び社会参加の支援等 ・ 障害分野における国際協力に必要な取組 のための施策を国際的協調の下に推進する を行うこと。 ため、 外国政府、 国際機関又は関係団体等 ・障害分野における国際協力は、外国政府、 との情報の交換その他必要な施策を講ずる 国際機関又は障害者の組織を含む民間団体 ように努めるものとする。 との連携により行うこと。 ・障害分野における国際協力について、そ の取組の担い手及び受益者として障害者が 参加できるように、 国際協力事業全般のバ リアフリーの促進とともに、 合理的配慮の 提供を確保すること。 (出典)筆者作成 419.

(10) 横浜国際経済法学第 21 巻第 3 号(2013 年 3 月). 協調の規定があるため、その参考とされた。第 21 回の会議で総則の新設として 出され、さらに第 23 回では各則の新設として「国際協力」が提案された。総則 と各則の双方に条文で明記されることは非常に画期的である。しかし、形の上 では国際協力が入ったように見えるが、国際的な相互協力を明記しているに過 ぎず、開発協力が障害者に取ってインクルーシブでアクセシブルな形になると いう意味とは異なるといえよう。 なお政策委員会では、基本計画の政府案作成に当たって意見具申をまとめて 提出するため、小委員会が設置された。小委員会は 6 つ設置 10)され、国際協 力は防災及び防犯と共に第 6 委員会で議論されることになった 11)。. 4.障害者分野の国際協力の課題 今回の改正障害者基本法では、特に各則の国際協力は推進会議が意図してい た内容とは異なるものであったが、やはり総則と各則に国際協力が新設された という事実は非常に画期的であったといえよう。それは、初めて障害関連法に 国際協力が条文として明記されたからである。先に外務省のヒアリングの際に 示されたように、障害分野の国際協力は、ODA 大綱の中の「公平性の確保」 という言葉に含まれるに過ぎず、明確に示されていなかったため、不可視化さ れてきている。推進会議の議論においても、国際協力について発言するのは一 定の人のみで、他の分野と比較しても重要度、さらに認知度が低い。教育や保 健などの分野と比較しても、日本に住む障害者が生きていく上で必須の分野で はないことが推察できる。しかし、障害者が目指しているインクルーシブ社会 の理念というのは、権利条約からの流れを見ても、日本の国内だけでは達成で きない国際的な協調及び協力の下で進めていくべきであろう。さらに、一般的 な国際協力や国際開発が障害者にとってインクルーシブという形になれば、障 害者に特化した国際協力以外の他の課題のプロジェクトにおいても、権利条約 の実施という側面で非常に有効になるだろう。 420.

(11) 障害分野に関する国際協力への日本の取り組み. 障害分野の国際協力が、日本国内のインクルーシブ社会を達成するためにも、 また途上国にいる障害者をエンパワーし、国際的にインクルーシブ社会の実現 していくためにも、必要であるということを理解してもらうことが最大の課題 である。障害者基本法で国際協力について記されたことをきっかけとして、3 年後の改正に向けて、今後も国際協力・国際開発の場で地道な取り組みが必要 になっていくであろう。そのためにも障害当事者団体を含め、日本政府が開発 協力の議論をする際には、わかりやすい数値目標などの指標を設定し、国際的 な議論を牽引していくことが必要である。. おわりに 日本は 2013 年 1 月現在、未だ権利条約を批准していないが、実効性のある 形(国内法を整備)にしてから批准する予定である。 「とりあえず批准をする」 という国が多いが、実際は国内法の整備がされていないことがほとんどで、権 利条約の実行の準備は整っていない。その中で、日本は当事者である障害者が 実効性のない状態での批准を拒否し、批准に向けた国内法の整備を主体的に進 めていることは、これまでに例がなく、賞賛すべきことであろう。担当省庁と の駆け引きの中で、満点といえる法律が出来るとは考えづらいが、一歩ずつ前 に進んでいると言えよう。障害分野の国際協力においては、基本法に国際協調 及び国際協力が示されたものの、今後の開発協力の政策などに影響力がある内 容ではない印象である。途上国に対する支援の内容が、誰にでも裨益するユニ バーサル・デザインで、インクルーシブとなる枠組みやプロセスを構築してい く必要があろう。ODA 大綱で記されている「公平性の確保」や「人間の安全 保障」の中に、障害者の問題を組み入れ、最終的には誰も不可視化されない、 すべての人が裨益を受ける国際協力が実施出来るようになることが望まれる。 最後となったが、筆者が博士課程においていわゆる「障害と開発」をテーマ に論文を執筆する際に多くの方の支えがあったことは言うまでもない。そして 421.

(12) 横浜国際経済法学第 21 巻第 3 号(2013 年 3 月). 最後の最後まで、ご自身の専門分野ではなかったにも関わらず、論文指導を続 けて下さった池田龍彦教授に感謝の意を表したい。 1)障害者権利条約は、前文、本文 50 ケ条及び末文から成る。なお、この条約と同時に採 択された、個人通報制度等に関する「障害者の権利に関する条約選択議定書(Optional Protocol to the Convention on the Rights of Persons with Disabilities) 」は、前文、本文 18 ケ条及び末文から成る。 2) (1)教育、保健、情報・通信、訓練、雇用、社会サービス及びその他の分野における、障 害者に対する機会均等や平等な扱いに関する法律を制定及び/または施行する。右法制、 政策は、男女の性別、遠隔地、農村地域であることを問わず、あらゆる種類の障害者を 対象とする。それらは、権利に基づくものであり、インクルーシブで、分野横断的なア プローチを促進すべきである。   (2)全ての新たな、及び既存の法律、政策、事業及びスキームに、障害者の側面(disability dimensions)を取り込む。   (3)障害者、またはその団体が効果的に参加し代表することによって、障害に関する政策 の策定、その実施にあたっての調整、及び実施状況のモニタリングを行うため、障害に 関する国内の調整委員会を設立し、または強化する。   (4)女性障害者の発展と、彼女等がジェンダーの主流化のイニシアティブへの参加だけで はなく、障害者の自助団体へ参加することに重点をおきつつ、障害者と障害者団体の発 展を支援し、障害に関する国の政策決定過程に、彼等を含める。   (5)障害者を、特に貧困緩和、初等教育、ジェンダー、若年層の雇用の分野で、 「ミレニ アム開発目標」を達成する取り組みの不可欠な部分に据える。   (6)政策立案と計画実施のために、国の障害に関する統計資料の収集・分析能力を高める。   (7)0-4 歳の障害児のための教育、保健及びリハビリテーション、社会サービスを含むあ らゆる分野における、障害に対する早期対処に関する政策を採用する。   (8)障害原因の予防、リハビリテーション、障害者の機会均等を図る上で、地域に依拠し た取り組みを強化する。   (9)社会基盤とサービスの開発において、特に農村・都市開発、住環境、交通と通信の分 野において、経済効率を考慮した全市民のためのユニバーサル・デザインやインクルー シブ・デザインの概念を取り入れる。 3)http://www.un.org/disabilities/countries.asp?navid=12&pid=166(2013 年 1 月 14 日閲覧) 4)http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/kaikaku/kaikaku.html(2013 年 1 月 13 日閲覧) 422.

(13) 障害分野に関する国際協力への日本の取り組み. 5)http://www.dpi-japan.org/problem/kaikaku-about.html(2013 年 1 月 13 日閲覧) 6)第 7 回 障 害 者 制 度 改 革 推 進 会 議 議 事 録 参 照。http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/ kaikaku/s_kaigi/k_7/gijiroku.html (2013 年 1 月 13 日閲覧) 7)第 11 回障 が い 者制度改革推進会議 の 外務省提出資料 http://www8.cao.go.jp/shougai/ suishin/kaikaku/s_kaigi/k_11/pdf/s1.pdf(2013 年 1 月 14 日閲覧) 8)http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/kaikaku/s_kaigi/k_14/pdf/s1.pdf( 2013 年 1 月 14 日閲覧) 9)実現すべき社会とは、以下障害者基本法第一条にある通り。  第一条  この法律は、全ての国民が、障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享 有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのっとり、全ての国 民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いな がら共生する社会を実現するため、障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策に 関し、基本原則を定め、及び国、地方公共団体等の責務を明らかにするとともに、障害 者の自立及び社会参加の支援等のための施策の基本となる事項を定めること等により、 障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策を総合的かつ計画的に推進することを 目的とする。 10)小委員会は、基本法の条文に沿って網羅的に検討をするため、6 つに分けた。各小委員 会の議論する課題は以下の通り。第 1 小委員会は、教育(16 条)と文化的諸条件の整備 等(25 条) 。第 2 小委員会 は、年金(15 条) 、職業相談等(18 条) 、雇用促進(19 条) 、 経済的負担の軽減(24 条) 。第 3 小委員会は、消費者としての障害者の保護(27 条) 、選 挙等における配慮(28 条) 、司法手続きにおける配慮(29 条) 。第 4 小委員会は、医療・ 介護(14 条) 、療育(17 条) 、相談等(23 条) 、障害の原因となる傷病の予防に関する基 本施策(31 条) 、第 5 小委員会は、住宅の確保・公共的施設のバリアフリー化(21 条) 、 情報の利用におけるバリアフリー化等(22 条) 、 そして第 6 小委員会は、 防災及び防犯(26 条) 、国際協力(30 条) 。 11)http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/seisaku_iinkai/index.html( 2013 年 1 月 13 日 閲 覧). 参考文献 川島聡、長瀬修仮訳(2007) 『障害のある人の権利に関する条約』 久野研二、中西由起子(2004) 『リハビリテーション国際協力入門』㈱三輪書店 423.

(14) 横浜国際経済法学第 21 巻第 3 号(2013 年 3 月). 内閣府編(2012) 『平成 24 年度版 障害者白書』 中西由起子(2012) 「第 1 次アジア太平洋障害者の十年から始まる新十年への流れ-成立と 第 1 次十年の評価を中心に」 『ノーマライゼーション』12 月号 長瀬修(2008) 「障害者の権利条約における障害と開発・国際協力」森壮也編『障害と開発 ―途上国の障害当事者と社会―』アジア経済研究所 長瀬修、東俊裕、川島聡(2012) 『増補改訂 障害者の権利条約と日本-概要と展望』 長谷川涼子(2011) 『援助効果向上へのキャパシティ・ディべロップメントの有効性-障害 女性のエンパワーメントの視点から』 松井亮輔(2012) 「インチョン戦略-策定の経緯と主な概要」 『ノーマライゼーション』12 月 号 森壮也編(2008) 『障害と開発 ―途上国の障害当事者と社会―』アジア経済研究所 UNESCAP( 2009 )Disability at a Glance 2009: a Profile of 36 Countries and Areas in Asia and the Pacific, United Nations Publication. UNESCAP(2012)Disability at a Glance 2012: STRENGTHENING THE EVIDENCE BASE IN ASIA AND THE PACIFIC, United Nations Publication. United Nations(2006)Convention on the Rights of Persons with Disabilities and Optional Protocol.. 424.

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