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EU およびユーロ圏の持続可能性に関する考察(PDF:542KB)

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EU およびユーロ圏の持続可能性に関する考察

日本大学経済学部専任講師  橋  本  英  俊 目次 Ⅰ 問題意識と研究目的 Ⅱ EU 加盟国における為替制度選択  1.国際金融のトリレンマと為替制度選択  2.変動為替相場制度と固定為替相場制度の EU への適用可能性 Ⅲ EU における共通通貨導入の合理性  1.固定為替相場制度と通貨同盟の違いおよびユーロ導入の意義  2.最適通貨圏の理論とユーロに残された課題 Ⅳ EU およびユーロ圏の持続可能性  1.国際経済の政治的トリレンマと経済統合の政治的パラドクス  2.EU およびユーロ圏の持続可能性に関する政策的インプリケーション Ⅴ 総括

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Ⅰ 問題意識と研究目的 2016 年6月 23 日に実施された国民投票により,イギリスが EU からの離脱を選択したことは,研究 者をはじめ市場関係者や政策担当者に大きな衝撃を与えた.何故ならば,イギリスの EU 離脱の判断が 他の加盟国に波及し,所謂ドミノ式に離脱を誘い,EU 自体が崩壊するのではないかと危惧されたから である.確かに,今日もなお経済および政治統合の深化を続ける EU,および 2017 年1月時点におい て 19 か国で導入されている共通通貨ユーロの存在は,歴史的に見ても類を見ない大規模な社会実験と 言える.従って今回の投票結果のもたらす具体的な影響力の及ぶ範囲を見極めることは困難であり,そ の意味においては,中長期に渡り持続可能性のある「不確実性」そのものが,EU 経済や世界経済を翻 弄していると言っても過言ではない. その一方で,イギリスの EU からの離脱が決定されて半年ほどたった現在では,他の加盟国が雪崩を 打ってこれに追随するのではないかという,パニックに近い恐怖心は一旦後退したように見られる.し かし,2009 年に顕在化したギリシャの債務危機に端を発する南欧諸国の債務問題や,深刻化する難民 問題に加えて示された今回の判断は,EU およびユーロ圏の持続可能性というテーマが,今後もなお検 討すべき重要な課題であることを我々に投げかけている.更に本問題の本質は,EU およびユーロ圏の 安定性のみに関わるものではない.言うなれば,第二次世界大戦の終結後から,特にブレトンウッズ体 制の崩壊以降,積極的に推し進められてきた広義での「グローバリゼーション」と「民主政治」,およ び「国民国家」の関係が改めて問い直されている問題であるとも言うことができる. 以上を問題意識として,本稿では基礎的な視点に立ち返り議論を整理するとともに,EU およびユー ロ圏を取り巻く「不確実性」の分析を通じて,今後のこの地域における持続可能性について検討するこ とを研究目的とする.分析にあたっては,先ず改めて多くの小国を含み構成される EU での望ましい為 替制度や,共通通貨を導入することの経済学的な意義について確認する.その上で,政治的な側面も考 慮に入れた分析を取り入れることにより,EU およびユーロ圏の持続可能性について政策的なインプリ ケーションを導く.研究結果からは,この地域を覆い,また今後の国際経済環境に影響を与えうる「不 確実性」についての理解がより深まることが期待される. 次節以降の構成は以下の通り.先ず第2節では,為替制度選択の視点から域内貿易比率が高く,且つ 小国を多く含む EU 加盟国において,どのような為替制度を採用することが望ましいのか確認する.続 く第3節では,通貨同盟と固定為替相場制度を比較することで,共通通貨ユーロ導入の合理性について 検討を加える.第4節では,政治的な視点を取り入れ,EU における「グローバリゼーション」と「民 主政治」,および「国民国家」の関係について分析を行い,この地域の「不確実性」の本質を明らかに する.その上で,今後の持続可能性について政策的なインプリケーションを導き,第5節において議論 を総括する. Ⅱ EU 加盟国における為替制度選択 1.国際金融のトリレンマと為替制度選択 先ず,ある国にとって望ましい為替制度を検討する際によく用いられるのが,「国際金融のトリレンマ」 や「オープンエコノミーにおけるトリレンマ」として知られる概念である.このトリレンマは例えば図

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1のように示され,三角形の各辺には,それぞれ代表的な為替制度が記されている.また各頂点には, どの代表的な為替制度を採用したとしても,実現されるべき3つの目標が配されている.その上でこの 図は,いかなる代表的な為替制度を採用しようとも,達成できる目標はその両隣にある2つの目標まで であり,各為替制度の反対側の頂点にある目標は放棄せざるを得ないということを表している. 図1 国際金融のトリレンマ 出典:筆者作成 ここで,トリレンマの例として,変動為替相場制度と固定為替相場制度(厳格な固定為替相場制度: ハードペッグ)を比較する.変動為替相場制度を採用した場合には,為替レートは市場における需要と 供給により決定される.このため,中央銀行が外国為替市場に介入して外国通貨と自国通貨を交換する 義務が生じない.従って,貨幣供給量をコントロールすることによる金融政策を,自国の経済目標のた めに用いることができる.また,国際的に自由な資本移動も妨げることはない.しかし当然,為替レー トが市場で決定されるため,その水準は必ずしも安定せず,時には大きく変動することもあり得る. これに対して,固定為替相場制度を採用すると,中央銀行は平価を維持するために,自国通貨と外国 通貨とを固定レートで無制限に交換する義務を負う.このため,持ち込まれた外国通貨を自国通貨に交 換した場合,自国の貨幣供給量がその分増加することになる.また逆に自国通貨を外国通貨に交換した 場合には,自国の貨幣供給量が減少してしまう.つまり,予め定められた固定レートを維持するために, 裁量的な金融政策が制約されることになる.制約の程度は固定性の強度に依存し,最終的に IMF の分 類上,最も固定性の高い固定為替相場制度と位置付けられる通貨同盟を採用した場合には,金融政策の 独立性が完全に放棄される.但し,固定為替相場制度の下でも国際間の自由な資本移動を妨げるもので はなく,予め定められた平価によって為替レートが固定されるため,その水準は安定化される. このように,変動為替相場制度や固定為替相場制度,資本移動規制の何れを採用したとしても必ず制 約を受ける目標があり,各国は自国の発展段階や経済環境に応じて,為替制度を選択することが求めら れる.前述のとおり,変動為替相場制度と固定為替相場制度を対比した場合,制約の程度は固定性の高 さに依存し,実際には変動為替相場制度とハードペッグの間に,為替レートの伸縮性に応じた幾つかの 中間的な為替制度も存在する.それらの制度では,変動為替相場制度と固定為替相場制度両者の特徴を

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併せ持つことになり,こうした中間的な為替制度を採用することもできる. それでは,中間的な為替制度を含め各国はそれぞれの経済環境に応じて,どのような為替制度を採用 することが望ましいのだろうか.Fischer (2001)をはじめとして,中間的な為替制度は変動幅や為替レー トを変更する際の基準等について市場の信認を得ることができず,結局は通貨危機を招くため,持続可 能な為替制度は自由変動為替相場制度かハードペッグという「両極の解」に収斂するという議論もある. 一方では,Frankel(1999)のように,それぞれの国について望ましい為替制度はその時々の経済環境 に依存し,中間的な為替制度を選択する余地もあるという意見も存在する.また,Williamson(2001) のように,アジア通貨危機に見舞われた東南アジア諸国を念頭に,中間的な為替制度として経済関係の 深い複数国の通貨に自国通貨を固定するバスケット制と,為替レートの変動幅に余裕を持たせるバンド 制,経済政策に応じてある基準を参照しながら為替レートを変更させるクロール制の性質を併せ持った BBC(Basket, Band, Crawl )制が望ましいという主張もなされている.これらの他にも,通貨危機が度々 発生した 1990 年代中盤以降,通貨危機に見舞われることなく持続可能な為替制度の在り方について, 多くの議論が積み重ねられてきた.これらの議論に対して本稿では,続く第2項において,ヨーロッパ 大陸の国々を念頭に,経済成長を促す観点から,為替レートの変動を許容する制度と,固定性の高い為 替制度のどちらがより望ましいのかについて検討を加える. 2.変動為替相場制度と固定為替相場制度の EU への適用可能性 第1項で示された通り,代表的な為替制度である変動為替相場制度や固定為替相場制度,若しくは資 本移動規制の何れを採用しても,実現すべき3つの目標を達成することはできない.この国際金融のト リレンマを EU へ当てはめてみると,先ず市場統合が進展する環境下において資本移動規制を選択する ことは現実的ではない.従って為替制度選択は実質的に変動為替相場制度と固定為替相場制度との間で の選択となる.そこで,以下では EU 加盟国を想定し,より為替レートの変動を許容する制度とより固 定性の高い制度のどちらが,この地域に適した為替制度であるかについて検討を行う. 改めて固定為替相場制度のメリットについて述べるならば,それは為替レートの水準を安定化できる ことにあり,この点は EU 加盟国のような国にとっては,特に重要な点であると考えられる.何故なら ヨーロッパ大陸の国々では,歴史的に域内貿易比率が高く,その傾向は 1987 年の単一欧州議定書の発 効や 1993 年のマーストリヒト条約による EU 発足,また 1999 年のユーロ導入を経て今日まで強化され, 域内の分業化が進展しているからである.実際に図2で示されるように,2015 年時点でイギリスを除 いた全ての国で貿易額の 50%以上が域内貿易によって占められており,当然このような経済構造下で は,為替レートの水準はより安定している方が貿易やクロスボーダー投資に関する計画を立てやすく, 加盟国の経済発展に寄与する可能性が高いと考えられる. これに対して,変動為替相場制度のメリットは,金融政策の独立性を担保することができることであ り,この点について制約を受けることが,固定為替相場制度のデメリットとなっていた.変動為替相場 制度を採用することによって,前述のとおり金融政策を国内の経済目標のために発動することが可能に なり,景気後退局面では緩和政策を,また過熱期には抑制策を裁量的に実行することができる. 一方で,マンデル・フレミングモデルが示すように,変動為替相場制度の下では,中央銀行の金融政 策や外国為替市場への介入を通じて為替レートが変動することにより,マーシャル・ラーナー条件が満 たされていることを前提に,貿易サービス収支が変化し,最終的に国民所得の水準に影響を与えること が知られている.特に,金融緩和政策や外国為替市場での自国通貨売り外国通貨買いの介入を行った場

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合には,自国通貨が外国通貨に対して減価するため,貿易サービス収支が黒字化し,国民所得を増大さ せる効果を持つことなる. では,以上のような変動為替相場制度を採用した場合に得られるメリットを,EU 加盟国のような域 内貿易比率の高い国でも果たして享受することが可能であるのかという点について考えてみる.もし可 能であれば,これらの国々でも固定為替相場制度の利点を踏まえてもなお,より為替レートの変動を許 容する為替制度の採用を検討する余地が生まれる.しかし,もしそうしたメリットが得られないか,若 しくは得られたとしても固定為替相場制度から得られるそれを下回るのであれば,より固定的な為替制 度を採用することによる合理性が認められることになる. この点を明らかにするために,EU 加盟国のような国が,自国の輸出競争力を強化する目的で自国通 貨を切り下げた場合における,国民所得に与える影響について検討する.前述のとおり,金融緩和政策 や外国為替市場での市場介入によって自国通貨の価値が低下すると,自国からの輸出財は外国通貨建で より安価となるため,他の条件が一定であれば当初の目的どおり自国の輸出競争力を高めることができ る.しかしその反面,輸出財を生産するための原材料を輸入に依存した場合,自国通貨が減価すること により輸入原材料価格が上昇する.その結果一般物価を上昇させるため,その分実質為替レートが増価 してしまう.従って,自国通貨を減価させたとしても,自国の輸出環境は好転しない可能性があり,原 材料を輸入に依存する程度が高ければ高いほどこの傾向は強まることになる.このように,EU 加盟国 のような特徴を持つ国においては,変動為替相場制度を採用するよりも,より固定性の高い為替制度を 採用した方が得られるメリットが大きくなる.先に述べたように,今日に至るまで域内分業が進み経済 統合が進展してきた過程を鑑みれば,これらの地域では,今後も長期的に安定的な為替制度が志向され る可能性が高いと考えることができる. 図2 EU28 カ国における EU 域内および域外貿易の比率(2015) (単位:%) 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 EU-2 8 United Kingdo m Greec e Ital y Irelan d Malt a German y Netherland s Spai n France Sweden Lithuania Bulgaria Denmar

k

Finland Belgium Cypru

s Slovenia Croati a Austri a Portuga l Polan d Latvia Romania Luxembour g Estonia Hungar y Czech Republic Slovaki a 㹃㹓ᇦእ 㹃㹓ᇦෆ 出典:Eurostat より筆者作成

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Ⅲ EU における共通通貨導入の合理性 1.固定為替相場制度と通貨同盟の違いおよびユーロ導入の意義 第2節では,国際金融のトリレンマを念頭に置いて,主に代表的な為替制度である変動為替相場制度 と固定為替相場制度を比較し,EU 加盟国のような国において両者の内,何れがより適しているのかと いう点について検討を行った.その結果,固定為替相場制度を採用する方が,変動為替相場制度を採用 するよりも得られるメリットが大きくなる可能性があることが示された. そうした一方で EU 加盟国では,2017 年1月時点において 19 か国で共通通貨ユーロが導入され,共 通通貨圏が形成されている.複数の国の間で同じ通貨を用いることは,為替制度上は通貨同盟と分類さ れ,最も固定性の高い固定為替相場制度と位置付けられる.しかし,相手国の通貨に自国の通貨価値を 平価で固定する固定為替相場制度と,自国の法定通貨を廃した上で共通通貨を導入する通貨同盟とでは, その性質に関して考慮すべき大きな違いが存在する.そこで以下では,固定為替相場制度を超えて,こ の地域において通貨同盟を構築する意義について検討を行う. 図3に表されているように,EU28 カ国における GDP はアメリカのそれを上回り,ユーロ圏 19 カ国 で見ても市場規模は日本に比べてもはるかに大きく,この地域において巨大な単一市場が形成されてい ることが確認される.当然 EU28 カ国中には,ユーロを導入していない国も存在するものの,以下に述 べるように,一般的には統一された市場から加盟国が最大限の恩恵を受けるためには,通貨同盟を形成 することに意義があると考えられる.他方,強固で厳格な固定為替相場制度という意味では,通貨同盟 とともに同じくハードペッグに分類されるカレンシーボード制の採用も検討に値するかもしれない.し かしこの場合あくまでも通貨が異なるため,通貨危機の発生や,コストは大きくとも為替制度をより伸 縮的な制度に変更する可能性が存在する.このため,同じハードペッグであっても,カレンシーボード 制を採用した場合には十分な市場の信認を得ることはできない.この点について,共通通貨を導入した 図3 EU28 カ国およびユーロ圏 19 カ国の GDP 推移

(単位:10 億 PPS(Purchasing Power Standard))

0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000 14,000 16,000 EU28࢝ᅜ ࣮ࣘࣟᅪ19࢝ᅜ ᪥ᮏ ࢔࣓ࣜ࢝ 出典:Eurostat より筆者作成

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場合には,謂わば自国通貨の価値を相手国通貨のそれに恒久的に固定することになるため,域内ではも はや通貨危機が発生する可能性が排除される.また,域内でのクロスボーダー取引においては,通貨交 換に伴うコストが消滅するため,この地域の経済活動をより活性化することができる.加えて,特に経 済規模の小さい国では,通貨が異なることによる金利プレミアムが解消されるため,国内金利が低下す るとともに投資が活発化し,経済成長が促されることになる. 更に「通貨の機能」という観点からは,共通通貨を導入することで,一般的に貨幣が有するとされる 3つの機能である「価値表示機能」や「交換手段としての機能」,および「価値保蔵手段としての機能」 が高まると考えられる.例えば,それまで個別の通貨を採用していた国の間で共通通貨を導入すること により,以前ではそれぞれの通貨建で表示されていた財の価値が統一化された尺度で示されるようにな るため,より利便性が高まる.また両国の財を通貨交換なしに共通通貨を介して取引できるようになる ため,当然交換手段としての機能も高まる.従って,そのような通貨は保有資産としての魅力も増すた め,価値保蔵手段としての機能も高まるこになる.実際に 1999 年にユーロが導入されてから今日に至 るまで,ユーロ加盟国は発足当初の 11 か国から 19 か国までに増加し,今日もユーロ導入を希望する国 が存在することは,自国通貨に比べて共通通貨であるユーロの通貨としての価値が相対的に高いことの 証左であろうと考えることができる. 2.最適通貨圏の理論とユーロに残された課題 第1項で述べたように,ユーロ圏において共通通貨を導入することは,通貨に対する市場の信頼を高 め,経済成長を促すことに貢献する.実際に通貨としての価値も 2000 年代中盤にかけて上昇傾向を示 し続けてきた.しかし一方で,2009 年に発生したギリシャの債務危機に端を発する南欧諸国の債務問 題は,複数の国で共通した通貨を用いることの残された課題についても同時に顕在化させた.本項では 以上の点について,最適通貨圏の理論を用いて議論の整理を試みる. 最適通貨圏の理論において,複数の国で共通通貨を導入するとの合理性が認められるためには,加盟 国の間で非対称的なショックが発生した際に,もはや為替による調整によらずに代替的な手段でショッ クを吸収できるかどうかが問われることになる.ここで,仮にA国とB国という二つの国が存在するこ とを仮定して,これらの条件を整理する. 先ず,A国とB国で共に生産される同質の財について,A国で需要が低下し,B国で需要が増加する といった非対称的なショックが発生したケースを考える.この場合,こうしたショックを吸収するため には,両国間で貿易が開放されていることが最適通貨圏の条件の1つとなる.何故なら需要の減少した A国から需要の増加したB国に財を輸出することにより,A国では非自発的失業を,またB国ではイン フレ圧力を解消することができるため,その結果,両国に発生した非対称的なショックを吸収すること が可能となるからである. しかし,貿易が開放されただけでは吸収することのできないショックも存在する.例えば,何らかし らの原因で,A国で生産された財からB国で生産された財に需要が移ってしまうケースが該当し,この 場合には両国において賃金や物価の伸縮性があるかどうかが最適通貨圏の条件となる.賃金や物価が伸 縮的であれば,需要の低下したA国においては賃金が低下しこれに伴い物価も低下するため,為替によ る調整に依らずともA国の財が相対的に割安になることからB国への輸出が増加し,非対称的なショッ クを吸収することができる. 但し,貿易が開放され賃金や物価が伸縮的であったとしても,両国の間で生産性格差が生じ,A国に

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おいて非自発的な失業が増加するような場合には非対称的なショックは解消されない.この場合には, 生産性が低下し失業が発生したA国から,相対的に生産性が高く労働需要が高まっているB国への,自 由な労働移動が求められることになる.更に以上の条件に加えて,一般的にA国において景気が後退し, B国において景気が過熱するといった非対称的なショックが発生した場合には,B国からA国に財政移 転が可能であることも最適通貨圏の条件の一つになる. この様に,共通通貨を導入する国が最適通貨圏であるためには,貿易が開放され,賃金や物価が伸縮 的であるとともに,労働移動が自由化され,且つ財政移転が可能であることが条件であると整理するこ とができる.その上で,これらの条件をユーロ圏に当てはめ,南欧諸国の財政問題が明らかにしたユー ロ圏に残された課題を検討してみると,先ず,この地域において貿易が解放されていることは前述のと おりである.しかし一方,一般的には必ずしもショックの発生に対して物価が十分に伸縮的であるとは 限らず,労働移動についても制度上は自由な移動が担保されていたとしても,言語や文化の異なる国の 間でショックの程度に応じスムーズに対応できる保証はない.しかもスムーズな労働移動が実現したと しても,最終的には相対的に生産性の低い国が高い国にキャッチアップしない限り,労働力の減少によ る経済の縮小という問題が別に残ることになる.従ってこのような環境下では,共通通貨を導入する国 の間で機動的な財政移転が可能であるかどうかが非対称的なショックを吸収する上で,重要な最適通貨 圏の条件になると言える.しかし,南欧諸国の債務問題により顕在化したユーロ圏に残された深刻な課 題が,正にこの財政移転の可能性であった.先に述べた通り,ユーロ圏において加盟国は金融政策の独 立性を放棄し,ユーロ圏の金融政策は ECB が一元的に決定しているものの,財政主権については現在 もなお各国に残されたままとなっている.そのため,非対称的なショックを速やかに解消する目的で機 動的な財政移転を実行することができず,このことがギリシャをはじめとする南欧諸国の問題が長期化 する一因ともなっている.従って,第1項で述べた通り,共通通貨ユーロの導入に意義が認められると しても,通貨としてその機能を一層高め,持続可能で安定的な通貨としてあり続けるためには,財政統 合をはじめとしてより一層の政策面での統合が求められることになり,今後も規制環境やルールの統一 化に努めてゆく必要があると指摘される. Ⅳ EU およびユーロ圏の持続可能性 1.国際経済の政治的トリレンマと経済統合の政治的パラドクス 以上,これまでの議論を通じて主に為替制度に焦点を当て,EU およびユーロ圏に加盟する国を念頭 に置き,これらの国における望ましい為替制度のあり方について検討を重ねてきた.その結果,変動為 替相場制度に比べて固定為替相場制度が,また固定為替相場制度に対しては,共通通貨を導入し通貨同 盟を構築することの合理性が確認された.また一方では,ギリシャの債務危機の発生によりユーロに残 された課題も明らかとなったが,第3節において,共通通貨の機能をより高めるためにも財政をはじめ とする,より一層の政策面での統合が求められることが併せて指摘された. しかし当然のことながら,ユーロ圏を構成する国は小国だけではなく,ドイツやフランスと言った経 済規模の大きい国も含まれ,こうした国では,通貨同盟を含む固定為替相場制度を選択したメリットに 比べて,変動為替相場制度を選択した方がもたらされるメリットがより大きくなる可能性もある.また 共通通貨を導入せずとも,EU 加盟国であり続けるためには,為替制度以外でも通商や司法,外交,安 全保障に至るまで,それぞれの国が国民国家として持つ主権に制限を受け続けなければならい.そのた

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め,イギリスの EU 離脱の判断によって顕在化したように,国民の間で EU に参加し続けることのメリッ トが十分でないと感じられた場合には,国内において反 EU 感情が高まり,結果的に国民投票などの行 動を通じて離脱の判断が下されることになる.近年のように,南欧諸国の債務問題が未だ収束せず,ま た難民問題が深刻化する状況においては,今後もなおイギリスのような経済規模の大きい国や,債務危 機の危機対応により緊縮政策を余儀なくされる国を中心として,EU やユーロ圏からの離脱を選択する 可能性が存在する.このように,統一化された市場を形成することの意義が認められるとしても,EU およびユーロ圏の持続可能性が将来に渡り危ぶまれることはないとは言い切れない.現実にも持続可能 性を否定する議論も散見される.そこで以下では,政治的な観点も取り入れこの地域を取り巻く「不確 実性」の本質に迫るべく,その解明を試みる.具体的にはハーバード大学のダニ・ロドリック(Dani Rodorik)教授の 2012 年の著書で主張された,「世界経済の政治的トリレンマ(The Political Trilemma of the World Economy) 」という概念を応用して分析を行う.

世界経済の政治的トリレンマについては,以下図4のように表される.三角形のそれぞれの頂点には 国家が追求すべき3つの理想であるグローバリゼーション,民主政治,そして国民国家が掲げられてい るが,このトリレンマの概念は,そのうちの2つまでしか満たされないことが示されている1) 図4 世界経済の政治的トリレンマ 出典:Rodrik (2012, p.201)より筆者作成 実現可能な理想の組み合わせは,図4に示されているように以下3通り存在する.1つ目はグローバ リゼーションと国民国家の追求である.このケースおいては,それぞれの国は国際的な貿易取引の自由 化や完全な資本移動など,世界で共通化されたルールに則った経済取引を実現するためだけに法制度等 を整備することが求められる.従って,各国の経済および社会構造を反映した国民による民主的な意思 決定は放棄されることになる.2つ目の組み合わせはグローバリゼーションと民主政治の追求である. この場合には各国での民主的な手続きは担保される.その上で,規制やルールに関する決定は超国家機 1)  ダ ニ・ ロ ド リ ッ ク 教 授 の 著 書 で は, 現 代 の 追 求 す べ き 理 想 と し て「 ハ イ パ ー グ ロ ー バ リ ゼ ー シ ョ ン

(Hyperglobalization)」,「民主政治(Democratic politics)」,「国民国家(Nation state)」の3つが掲げられているが, 本稿においては,主に EU 域内の経済政治統合について議論する目的から,「ハイパーグローバリゼーション」を「グ ローバリゼーション」に置き換えている.

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関に委ねられるため,国民国家として各国が有する国家主権は放棄される.3つ目の組み合わせは国民 国家と民主政治の追求である.この場合には,各国についてそれぞれの文化や経済および社会構造を反 映し民主的に規制やルールが定まる.また,国民国家としての国家主権も担保される.しかし,国毎の 法規制が同質化する保証はないため,グローバリゼーションの追及は放棄される. ここで,以上に述べたトリレンマを用いて EU およびユーロ圏を取り巻く「不確実性」の本質につい て検討を加える.先ず世界経済全体で見れば,EU は加盟国が国民国家としての主権の制約を受けなが ら,謂わば「超国家的なガバナンス」の下に運営されている.そこで,これを1つの共同体と見做せば, 世界経済の中で3つ目の理想の組み合わせである民主政治と国民国家(EU 全体として)を追求してい ると考えることができる(図5参照).一方で,EU 域内だけを取り出して焦点を当ててみると,歴史 的な経緯を踏まえれば図6に示されているように2つ目の理想の組み合わせであるグローバリゼーショ ンと民主政治を追求してきたと評価される.しかしその結果,ユーロ圏では特に金融政策をはじめとし て,財政政策にも厳しい制約が課されると同時に,他の国においても通商や司法,外交や安全保障に至 るまで国家主権が制限されることになる.すると,EU 域内全体では2つ目の理想の組み合わせである グローバリゼーションと民主政治の組み合わせを追求しながら市場統合を進めてきた一方,他方では, 域内での法規制が統一化されるに従い,本来各国の文化や経済条件,社会事情に応じてこれら法規制を 民主的に定める余地が限られてゆくことになる.この結果,最終的には地域全体に行き渡る「グローバ リゼーション」を前提としたルールが各国に適用され,硬直化されることから,もはやその後は民主的 な意思決定を反映させることが難しくなる.つまり事後的には,域内において図7に示されるとおり, 1番目の理想の組み合わせであるグローバリゼーションと国民国家の追求との間に大きな差がなくなる ことになる. 図5 世界経済全体での EU の位置づけ 出典:筆者作成

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このように,域内での統合プロセスが民主的に進展する一方,ある段階まで統合が深化すると,超国 家機関が一元的に意思決定を担おうと,若しくは国民国家として各国政府が統一市場の維持を目的に国 家運営を行おうと,両者の間の実質的な差異は縮小して行き,民主的な意思決定が反映されなくなるよ うに見えることが確認される.以下ではこのような現象を指して「経済統合の政治的パラドクス」と呼 ぶこととする.実際に,南欧諸国の債務危機や難民問題,イギリスの EU 離脱に刺激されることにより このパラドクスが顕在化し,3番目の理想の組み合わせである国民国家と民主政治を求める反 EU 的な 行動が表出したのではないかと見ることができる.言い換えれば,「平時」にはグローバリゼーション と民主政治を追求することにより得られる恩恵がパラドクスの存在を隠し,社会制度を安定化させる. しかし一旦加盟国間で非対称的なショックが発生すると,パラドクスが顕在化し統一化された制度が 却って足枷と感じられるようになり,自国の事情を反映した民意が生かされないという国民の不満が表 図7 経済統合の政治的パラドクス 出典:筆者作成 図6 EU 域内での統合過程 出典:筆者作成

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面化する.片や各国の政策担当者や行政当局は,域内での共通ルールを前提とした統一市場へのアクセ ス維持を最優先の目標として行動してしまう.このように,こうした国民感情と各国当局の姿勢との間 でのギャップが深まることにより,反 EU 的な動きが発生する可能性が指摘される. 2.EU およびユーロ圏の持続可能性に関する政策的インプリケーション 本項では,経済統合の政治的パラドクスを克服し,EU およびユーロ圏を持続可能ならしめるための 政策的なインプリケーションについて検討する.先ずこれまで議論してきたように,EU では単一市場 が形成され,多くの国では固定的な為替制度(可能な国では共通通貨)を導入することによって,EU 全体の経済成長を高めてきた.また単一市場を形成するためには,当然加盟国の間で為替制度や金融財 政政策を除いても,通商政策や司法制度等で共通した制度設計を行う必要があるとともに,政治共同体 としては,外交や安全保障面でも国家主権が制約を受けることになる.すると,先に述べたように,現 在では第1の理想の組み合わせであるグローバリゼーションと国民国家の追求と,第2の組み合わせで あるグローバリゼーションと民主政治の追求との間に差異がなくなってゆくように感じられることにな る.しかし,ここで重要なのは,少なくともこれまでの統合過程が民主的に進められてきたことにある. 従って,各国政府がこの点を国民に十分周知することが,経済統合の政治的パラドクスを克服するため に最も基本的で重要な点であると指摘することができる.以上の議論を踏まえ展望すれば,今後もこの 地域においては,長期的な視点に立てば,グローバリゼーションと民主政治を追求しながら経済政治統 合を進めて行くことが求められると考えられる. その一方で,こうした統合過程の先には「アメリカ合衆国」のような「ヨーロッパ合衆国」の形成が 想起されるが,その道のりは相当遠く解決されなければならない問題が多く残されていることは言うま でもない.そこで以下では,今後の EU およびユーロ圏の持続可能性に焦点を当て,非対称的なショッ クの発生時に短期および長期の両面からどのような政策的パスを描くことができるのか検討を加える. 非対称的なショックが発生した場合には,いくら加盟国の国民が EU を形成することの長期的なメ リットを理解していたとしても,3つ目の理想である民主政治と国民国家の組み合わせを希求する行動 が表れる.そこで平時より,長期的には先に述べた2つ目の理想の組み合わせであるグローバリゼーショ ンと民主政治を追求することの重要性を周知した上で,短期的には一旦3つ目の組み合わせである国民 国家と民主政治の追求に配慮した対応が求められる可能性が指摘できる.何故ならば,反 EU 的な行動 に対して硬直的な対応を続けたままではパラドクスが示す通り,民主政治が等閑にされているという不 満が解消されず,何かしらの調整が行われなければ,国民投票などの手続きを経て,EU 離脱を選択す る国が現れ,他国がそれに追随することにより,最終的には EU およびユーロ圏が崩壊してしまうため である. 但し,短期的に3つ目の組み合わせである国民国家と民主政治の追求に配慮した対応をとることに関 して,実務的な提案を行うことは本稿で扱うことのできる領域を超えたものになる.しかしそれでも, これまでの議論を通じて,各国の事情に配慮した調整を「国民への情報共有」と「客観性」を意識して 行うことの重要性を確認することができる.前者の必要性については,パラドクスの顕在化により失わ れたと感じられている民主的な意思決定を担保するためである.また後者については,個別の国の事情 を勘案して調整を加えた折に,他の加盟国の国民から「不平等」であると認識されることにより,むし ろ反 EU 的な動きを助長させないため求められる. 以上,経済統合の政治的パラドクスに対する短期的な政策対応について述べたものの,現実的にこう

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した点を踏まえた政策を実行することは容易ではない.しかし前述のとおり,硬直的な対応に終始する ばかりでは,パラドクスを克服することはできず,EU およびユーロ圏を持続可能ならしめることはで きない.本稿の議論から導かれるように,現在の EU の統合過程を巡る本質的な問題点は,それぞれの 国家の理想として,長い期間を掛けて EU 域内における「グローバリゼーション」と「民主政治」を追 求してきたにもかかわらず,ある段階まで統合が進むと,民意が政策決定に反映されていないように国 民が感じてしまうことにある.今後もヨーロッパにおける統合過程の中では,今回のようなパラドクス を顕在化させるような非対称的なショックが度々発生することが想定される.その時に,短期的な混乱 による衝撃によって EU およびユーロ圏が解体してしまわぬように,衝撃を吸収するバッファーとして の「知恵」が必要になるのである.本稿で指摘された政策的インプリケーションは実務的具体性に欠け るものではある.しかし,非対称的なショックが発生した折には,個別の国の事情を勘案して調整を加 え,またその折には出来るだけ客観的な視点を貫くことに留意し,経済政治統合の意義を各加盟国の国 民にきめ細かく説明し,情報を共有することこそが重要であることを,実際の政策対応でも考慮される べき点として挙げることができる.加えて,EU 経済が統一市場を形成することで,今日まで成長を続 け来た一方で,成長の果実が一体誰に配分されているのかという点にも焦点が当てられるべきかも知れ ない.「格差の拡大」は近年の国際的な共通課題となっているが,EU おいても長期的に経済政治統合 を進めて行くためには,この地域の社会保障制度の拡充も残された課題として指摘することができる. その上で,最終的には図8に示されるように,長期的にはこの地域で「グローバリゼーション」と「民 主政治」が追求される姿に立ち戻ることが,EU およびユーロ圏の持続可能性を高めるために特に重要 であると言うことができるのである. 図8 非対称的ショック発生時の短期的および長期的政治統合パス 出典:筆者作成

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Ⅴ 総括 本稿においては,近年の南欧諸国の債務問題や難民問題,またイギリスの EU 離脱の判断を受けて深 まる「不確実性」により懸念される,EU およびユーロ圏の持続可能性について評価することを研究目 的として議論を重ねてきた.議論に当たっては,先ずこの地域における為替制度を考慮するとともに, 共通通貨導入の基本的な意義について確認した.前者については第2節において,EU を構成する国の 一般的な特徴を踏まえ,この地域の国々に相応しい為替制度について検討を行った.具体的には「国際 金融のトリレンマ」より,変動為替相場制度と固定為替相場制度の特徴を比較した上で,結果的に「小 国」が多くまた域内貿易比率の高い EU の国々においては,固定為替相場制度から得られる便益が相対 的により大きくなり得ることが指摘された.また後者については第3節において,共通通貨を導入し通 貨同盟を形成することにより,域内での通貨危機の可能性が排除されるとともに取引費用が軽減され, 為替変動リスクがなくなることから,この地域の経済発展を促す可能性があることが示された. 一方,本稿の分析において特徴的であったのが,Rodorik(2012)によって提唱された「世界経済の 政治的トリレンマ」を応用し,現在の EU およびユーロ圏を取り巻く「不確実性」の本質についての解 明を試みたことであった.具体的には,国家が追求する3つの理想が並び立たないというトリレンマで の主張を踏まえた上で,EU およびユーロ圏に属する国がどのような過程を辿り,今日に至ったのか分 析した.分析結果より EU においては,国家が追求すべき3つの理想である「グローバリゼーション」 と「民主政治」,「国民国家」のうち,「グローバリゼーション」と「民主政治」を希求しながら第二次 世界大戦後より,長い時間をかけて経済政治統合が進められてきたことが確認された.しかし同時にそ の一方では,域内での「グローバリゼーション」が深化するに伴い,加盟国の政策担当者や行政当局に とっては,地域における統一市場へのアクセス維持が最優先の目標となるため,加盟国間で非対称的な ショックが発生した場合に,国民が民意を国政に反映できていないと感じる不満が表出することが明ら かとなった.本稿ではこの現象を「経済統合の政治的パラドクス」と呼ぶことにし,このパラドクスの 存在こそが,現在の EU およびユーロ圏を覆う「不確実性」の源泉となっている可能性があることを指 摘した. その上で本稿では,非対称的なショックが加盟国間で発生した場合の,短期および長期的な視点から の政策的なインプリケーションについても述べられている.導かれたインプリケーションは,抽象的な 提言に留まるという課題を残すものの,それでも尚,考慮すべき点が指摘されている.先ず長期的な視 点からは,統一市場に参加することによる便益が大きくなることを国民にきめ細かく周知しながら,「グ ローバリゼーション」と「民主政治」を追求し続けること意識し,政策運営を行って行くことの重要性 が挙げられる.同時に短期的な視点からは,最終的に EU およびユーロ圏が崩壊してしまわぬように, 一旦国民国家と民主政治の追求に配慮した対応が求められ,その折には国民と情報を密に共有し,出来 るだけ客観的な視点を貫くことに留意する必要があることが指摘された.またこれらに加え,長期的に 安定した経済政治統合を進めて行く上では,社会保障制度等を拡充し,「格差の拡大」に配慮すること も合わせて考えていかなければならない課題として言及された. 以上のように本稿では,この地域において為替制度や共通通貨導入の意義という基礎的条件を確認し た上で,政治的な側面に焦点を当てることによって,現在の EU およびユーロ圏を覆う「不確実性」の 本質を見極めるべく議論を重ねてきた.本稿の議論から導き出された「経済統合の政治的パラドクス」は,

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EU およびユーロ圏のみならず,現在の世界経済を見渡す上でも応用可能な概念であろうと考えられる. 第二次世界大戦以降,特にブレトンウッズ体制の崩壊から今日に至るまで,世界経済の統合が進み,貿 易が多角化され,資本移動は各国で進む金融自由化と情報通信技術の発達を背景として,加速度的に活 発化してきている.同時にタックスヘイブンの問題により国際的な徴税制度への調和の必要性が指摘さ れていることを併せ考えれば,世界全体で一般的な意味での「グローバリゼーション」は,今後も進展 し続ける不可逆的な趨勢であるともいえる.しかしその一方では,国や地域,また世界レベルと言った 様々な階層において,非対称的なショックが発生する事態が増加して行くことも予想される.その場合 には,本稿で示された「経済統合の政治的パラドクス」の概念が問題の所在を明らかにするための一助 になるのではないかと期待される. 参考文献

Fischer, Stanley (2001), “Exchange Rate Regimes: Is the Bipolar View Correct?,” Journal of Economic Perspectives, 15 (2), pp. 3-24.

Frankel, Jeffrey A., (1999), “No Single Currency Regime Is Right for All Countries or at All Times,” NBER WORKING

PAPER SERIES, 7338.

Rodorik, Dani (2012), The Globalization Paradox, Democracy and the Future of the World Economy, W. W. Norton & Company. 〔柴山桂太 , 大川良文訳(2013)『グローバリゼーション・パラドクス』,白水社〕

Williamson, John (2001), “The Case for a Basket, Band and Crawl (BBC) Regime for East Asia,” in Future Directions

for Monetary Policies in East Asia, a Conference sponsored by the Reserve bank of Australia.

インターネット資料 Eurostat(http://ec.europa.eu/eurostat)

参照

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