Jap. J.
Edu. Soc. Psychol.,
X, 2 (1971)
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集 団 規 模 の 大 い さが 集 団 の リー ダー シ ップ 機 能
及 び 成 員 の 帰 属 意 識,モ
ラ ー ル に
及 ぼ す 効 果 に 関 す る研 究******
九 州 大 学 三 隅 二 不 二 黒 川 正 流**** 1. 問 題 集 団 の 大 い さが増 大 す る こ とは,集 団成 員 数 の 増 加 を意 味す るの で あ るが,成 員 数 が 増 大 す るほ ど,一 般 に は,集 団 の 目標 志 向 性 と集 団 の 自己保 存 志 向 性 が拡 散 的 にな るで あ ろ う。 小 集 団 の場 合 は, 集 団 成員間 に 何 らか の意 見 の一 致 や,共 通 の 目標 志 向性 が存 在 した と して も,集 団規 模 の拡 大 は,集 団 に お け る制 御 機 能 が 補強 され る こ とが ない な らば,か か る意見 の一 致 性 が くず れ,各 成 員 間 の全 体 と して の対 面 的親 密 さが うす れ,各 個 ば らば らに な るか,下 位 集 団へ 分 裂 して い くか,と もか く,集 団規 模 の拡 大 は,集 団 と して の 統一 性 を弱 め,集 団 が分 裂 と崩 壊 へ 向 う傾 向 を強 め るで あ ろ う。 か か る傾 向 を こ こで群 集 化傾 向 と称 す る。 しか し,何 らか の程 度 に お い て組 織 され た 集 団 に おい て は,そ の集 団規 模 の拡 大 に よ って,目 標 達 成 へ の志 向性 が減 退 した り,自 己保 存 性 が危 機 に さ らされ て くれ ば,そ れ を補 償 す るよ うな フ ィー ド バ ッ ク作 用 が生 じる で あ ろ う。集 団 にお け る リー ダ ー シ ッ プ機 能 は,集 団 のか か る制御 機 能 を代 表 す る もの と して考 察 す る こ とが で きよ う。 す な わ ち,何 らか の組 織 され た集 団 では,集 団 規 模 が 拡 大 し て も,リ ー ダ ー シ ップ機能 が補 強 され る こ とに よ って,減 退 した,あ るい は 目標 か ら外 れた 集 団機 能 が補 整 な い し強 化 され る こ とに な る であ ろ う。 さ て,集 団 に お け る制 御 機能 を考 察 す るに あ た って,こ こで リー ダー シ ップP機 能 とM機 能 の特 性 比 較 を試 み て お こ う。 P機 能 は,認 知 的,方 法 的,手 段 的,知 識 的 で あ るが,こ れ に対 して,M機 能 は,相 対 比 較 と し て,よ り情 緒 的,受 容 的,表 現 的,直 接 的 で あ る。Pの 方 が,伝 達 可 能性,抽 象 性,普 遍 性 が,M機 能 よ り優 れ て い る。 従 って,集 団 規 模 が拡 大 して,コ ミュニ ケ ー シ ョン等 の不 足 が 生 じた場 合,Pの 方 が,Mよ り も相 対 的 に,よ り容 易 に 補 強 で きる こ とが 予想 され る。M機 能 は,対 面 的 な 直 接 対話 可 能 な 集 団 で は,容 易 に 補 強 可能 であ って も,集 団 の 大 い さが拡 大 して,そ の 対 面性 が欠 落 す るに つ れ て,M機 能 の補 強 が,Pに 比 較 して よ り困難 に な る。 もちろん,メ ッセ ー ジや手 紙 に よ って,M機 能 を 補 強 す るな ど,い ろい ろの 方 策 は あ る。 しか し,対 面 性 が 欠落 した状 況 で は,感 情 的 な もの は,知 的 な もの ほ どそ の伝 達 が容 易 で はな い こ とは明 らか で あ ろ う。 か くして,集 団 規模 が拡 大 して くれ ば,M* A study of the effect of the work group size upon the leadership functions of the group, members' alligance, and morale.
** 本 研 究 の 一 部 は,第34回 日 本 心 理 学 会 に お い て 報 告 され た 。 黒 川,三 隅,リ ー ダ ー シ ッ プ 類 型 の 認 知 に お よ ば す 集 団 規 模 の 影 響 。 *** 本 研 究 を ま と め る に 当 り,御 協 力 い た だ い た 集 団 力 学 研 究 所 の 関 文 恭,篠 原 弘 章 両 研 究 員,な ら び に 調 査 を 実 施 さ せ て い た だ い たFS社,DNT社 の 方 々 に 心 か ら 感 謝 の 意 を 表 し ま す 。 **** 本 論 は 黒 川 に よ っ て ま と め ら れ た もの に,三 隅 が 仮 説 の 提 示 そ の 他 若 干 の 補 筆 を 加 え た もの で あ る。 91
170 教 育 ・社 会 心 理 学研 究 第10巻 第2号 機 能 の欠 落 が 生 じ,し か も リー ダー シ ップM機 能 の 補 強 が 困難 に な る状 況 が 生 じか ね な い で あ ろ う。 さ て,こ の よ うに集 団 規 模 の 拡 大 が著 し くな り,そ の た め に集 団 に お け る フ ィー ドバ ック作 用 が 著 し く強 化 され ざ るを え な い状 況 に お い て は,P機 能 よ り も,M機 能 の補 強 が よ り困 難 にな るで あ ろ う。 その 結 果 と して,集 団 の 目標達 成 と集 団 過 程 維 持 の た め に,特 定 の成 員 が,そ の 他 の 成 員 に 対 し て命 令 し,指 示 す る こ とに よ って集 団 が行 動 し,各 成 員 が,そ の命 令 と指 示 に服 従 す る よ うな フ ィー ドバ ック機 能形 態 の強 化 が 生 じ る もの と考 察 され よ う。 か か る フ ィー ドバ ック機 能形 態 を極 限 的 に 表 現 した もの を,軍 隊化 傾 向 と称 して み よ う。 か か る軍 隊 化傾 向 に お け る集 団 の 自己 保 存 志 向 性 は,そ の他 の諸 条 件 が 一 定 な らば,強 制 され た 服 従 に も とづい て い る もの で あ る。 かか る強 制 的 服従 は,部 下 に と って は欲 求 阻 止 を生 じ,M的 リー ダ ー シ ップ要 因 は過 小 な もの と して認 知 され る こ とに な るだ ろ う。 従 って,リ ー ダー シ ッ プmの 増 加 と い う結 果 を生 じる で あ ろ う。 しか し,か か る強 制 的服 従 が,価 値 象 徴 や イデ オ ロギ ー に よ って 合理 化 さ れ,そ の 合理 化 に よ って,強 制 的服 従 に よ って 生 起 す る と予 想 され る部 下 の 心理 的 抵 抗,欲 求 不 満 が抑 制 され る こ とが考 察 され る。 集 団規 模 の 拡 大 が,軍 隊 化 傾 向 を生 じる とい う場 合 は,集 団の 統 制 の た めに,物 理 的強 制 力 な どの 権 力 を背 景 とす る統 制 を含 ん で い るの で あ るが,集 団 の統 一 性 と同 質 性 を保 持 す るた め に,祖 国 の た め,神 の た め とい った価 値 象 徴 や イデ オ ロギ ーが あ れ ば,た とえ集 団 規 模 が 拡 大 して も,著 しい部 下 の欲 求 不 満 を生 じる こ とな く集 団 の 自己 保 存 性 志 向 が維 持 され る可 能 性 は あ りうる こ とで あ ろ う。 か か る場 合 には,必 ず し も リー ダー シ ップM得 点 の著 しい低 下 現 象 を生 じな い か もしれ な い。 しか し, こ こで述 べ て い る諸 命 題 は,こ れ らの価 値 的,理 念 的要 因が 著 しい 影 響 力 を もた な い状 況 を前 提 と し て い る。 さて,前 述 した よ うに,集 団 の フ ィー ドバ ッ ク機 能 が極 め て弱 い場 合 は,街 頭 の群 集 の ご と く,集 団 の 目標 達 成 機 能 も著 し く低 下 し,集 団 そ れ 自体 の 維持 も困難 に な るで あ ろ う。 か くして,集団規 模 の拡 大 は,集 団 の極 限 的 な機 能 形 態 と して,群 集 化傾 向 と軍 隊化傾 向 を含 ん で い る もの と して考 察 さ れ るで あ ろ う。 本 研 究 は,ま ず 第1に この 命 題 を リー ダ ー シ ッ プPM論 との 関 連 に お い て 実 証 し よ う と し た もの で あ る 。 さ て,上 述 の 命 題 をP機 能 に そ く し て 考 察 す れ ば,つ ぎ の よ う に 述 べ る こ と が で き よ う。 (1) 集 団 規 模 の 拡 大 は,群 集 化 傾 向 を生 じ る の で,リ ー ダ ー シ ッ プPが 増 加 す る で あ ろ う 。 (2) 集 団 規 模 の 拡 大 は,軍 隊 化 傾 向 を 生 じ る の で,リ ー ダ ー シ ッ プPが 増 加 す る で あ ろ う。 つ ぎ にM機 能 に そ く して 考 察 す れ ば,群 集 化,軍 隊 化 の 両 傾 向 に お い てMが 減 少,即 ち,mの 増 加 が 生 じ る こ と に な る だ ろ う。 か くて 次 の よ う に 述 べ る こ と が で き よ う。 (3) 集 団 規 模 の 拡 大 は,群 集 化 傾 向 を生 じ る の で,リ ー ダ ー シ ッ プmが 増 加 す る で あ ろ う 。 (4) 集 団 規 模 の 拡 大 は,軍 隊 化 傾 向 を生 じ る の で,リ ー ダ ー シ ッ プmが 増 加 す る で あ ろ う。 さ て,上 述 の(1), (2), (3), (4)の命 題 をPとMの 統 合 型 と し て 述 べ る な ら ば,次 の よ う に な る 。 集 団規模 の 拡 大 は,Pm型 かpm型 か,あ る い は そ の 二 つ の類 型 の 増 加 を 生 じ,Mp型 かPM型 か あ る い は そ の 二 つ 類 型 の 減 少 を 生 じ る で あ ろ う。 さ て 本 研 究 は,第IIと して 集 団 規 模 と帰 属 意 識"モ ラ ー ル"と の 関 係 に つ い て 分 析 を試 み た 。 II 方 法 〈 被 調 査 者〉 調 査 は,二 つ の 企業 体,即 ち,某 製 鉄 所(FS社 と略 称)及 び某 化 学工 場(DNT社 と
三隅・黒 川: 集 団 規 の大 い さが 集団 の リーダ ー シ ップ機 能 及 び成員 の 帰 属 意識 、 モ ラー ル に及 ぼ す効 果 に関す る研 究 171 略 称)に 対 して行 な われ た。FS社 の 場 合 は,調 査 対 象 が一 般 工 員(非 監 督 的 従 業 員)4, 418名(全 従 業員 の約80%)で あ る。彼 らは,業 務,生 産 管 理,技 術 管 理,製 銑,製 鋼,熱 延,冷 延,動 力,工 務 の 9部 に所 属 す る。 そ して 各部 は,工 場 長(又 は課 長),掛 長,作 業 長,工 長 の職 制(命 令 系 統)か らな る。 工 員 の作 業 内容 は,直 接製 造 か ら計 器 監 視 業 務,運 転,工 作,保 全,倉 庫 業 務 等 で あ り,肉 体 的作 業 も,軽 作 業 か ら重 作 業 に わ た る。DNT社 の場 合 は,調 査 対 象 が 一般 工 員538名 お よび一 般 事 務 職 員831名(い ず れ も非 監 督 的 従業 員,該 当全 在籍 者 の98%)で あ る。彼 らは,製 品 別 に4つ の事 業 部 と,本 社,営 業 本 部,生 産 本部,技 術 本 部 に所 属 す る。 各 部 は部長,課 長,係 長,主 任,チ ー フの 職 制 か らな る。 事 務 職 員 の 第 一 線 監 督者 は主 任,工 員 の第 一線 監 督 者 は チー フで あ る。 〈 調 査 手 続 〉 調 査 は,質 問紙 法 に よ って,職 場 ご とに集 団 面 接 に よ って実 施 した 。調 査 員 は,九 州 大学 の大 学 院 生 で あ った 。 調査 期 日は,FS社 は昭 和44年5月,DNT社 は 昭 和45年11月 で あ った。 こ こで 分析 した 資料 は,一 般工 員 の意 見,態 度 に 関 す る質 問 項 目の応 答 結 果 と,一 般 従 業 員 が 直 属 上 司 で あ る工 長(FS),チ ー フ また は主 任(DNT)の リー ダー シ ップ を評定 した結 果 で あ る。換 言 す れ ば,部 下 評 定 の 結 果 で あ る。 そ の 質 問 項 目 の 特 性 と項 目 数 に つ い て 次 に 列 挙 し て み よ う*。 1. 職 場 の チ ー ム ワ ー ク に 関 す る 項 目 (FS 5項 目,DNT 5項 目) 2. 一 般 的 モ ラ ー ル に 関 す る 項 目 (FS 2項 目,DNT 5項 目) 3. 第 一 線 監 督 者,即 ち工 長,チ ー フ の 監 督 行 動 に 関 す る 項 目 (FS, P項 目10, M項 目10, DNT, P項 目12, M項 目12) 4. 会 社 帰 属 意 識 に 関 す る項 目 (FS 6項 目,DNTな し) 5. 組 合 帰 属 意 識 に 関 す る 項 目 (FS 6項 目, DNTな し) 6. 職 場 の 会 合 に 関 す る 項 目 (FS 6項 目, DNT 5項 目) III 結 果 1 第 一線 監 督 者 の監 督 行 動 類 型 と職 場集 団 規 模 さて,第1線 監 督 者 のPM評 定 は 一般 従業 員 に よ る評 定 に よ るが,FS社 で は 評 定 され た工 長 が698名 で あ り,DNT社 で は 評 定 され た チ ー フお よ び主 任 が305 名 で あ った。 Table 1-1 職 場 集 団規 模 の 大 い さ と第 一 線 監 督行 動 類型(FS社) * 各 質 問項 目 の 内容 に 関 して は,本 論 文 末尾 に概 略 を付 記 した。 な お,DNT社 にお いて は 集 団力 学 研 究 所作 成 の 積 極 的 精 神 健 康度 調 査 票 を用 い た。
172 教育 ・社 会 心 理 学研 究 第10巻 第2号 Table 1-2 職場 集 団 規 模 の 大 い さ と第 一線 監 督 行動 類 型(DNT社) 第1線 監 督 者 の 下 に お け る部 下 の人 数 は,Table 1-1, Table 1-2に 示 す ご と くで あ る。 そ の範 囲 はFS社 の 場 合 は1 名 の 部下 を もつ工 長 か ら33名 の部 下 を も つ工 長 に わ た り,DNT社 の場 合 は19名 の部 下 を もつ チ ー フに わ た って い る。 但 し,DNT社 の場 合 は,部 下1名 の チ ー フ また は主 任 は分 析 の対 象 か ら除 外 した。 第1線 監 督 者 の リー ダ ー シ ップPとM の得 点 は,一 般 従 業 員 が 各 自の 直 属 上 司 につ いて 評 定 した 結 果 で 算 出 され た 。 即 ち,当 該 上 司 に対 す る部 下 従 業 員全 員 に よ る評 価 点 の 平 均 点 を もって,監 督 行 動 得 点 と した。つ ぎに,こ の 監 督 行 動 得 点P とMの 得 点 を強 と弱 に わ けた が,そ の 分 岐 点 は,調 査 対 象 と したFS社 お よ びDN T社 の そ れ ぞれ に つ い て,第1線 監 督 者 全 員 のPとMの 平 均 値 を求 め,そ の 平 均 値 よ り も特 定 の 監 督 者 の 得 点 が 大 で あ れ ば強,平 均 値 以 下 で あ れ ば 弱 と した 。 従 って第1線 監 督 者(FS社 は工 長,DNT社 は チ ー フ また は主 任)の 監 督 行 動 得 点 がPとMと もに 第1 線監 督 者 全 体 の平 均 値 以 上 で あ れ ばPM型,と もに平 均 値 以 下 で あ れ ばpm型,P得 点 が 平 均 値 以 上,M得 点 が 平均 値 以 下 であ れ ばP型,P得 点 が 平 均 値 以下 でM得 点 が 平 均 値 以 上 で あ れ ばM型 と し て,す べ て の第1線 監 督 者 が4種 の タイ プに類 別 され た。 Table 1-1, Table 1-2は,職 場 集 団 の 規 模 と第1線 監 督者 の監 督 行 動 類 型 の 関 係 を示 した もの で あ る。 職 場 集 団 の規 模 の大 い さは,部 下 の人 数 であ る。FS社 の場 合,Table 1-1に よれ ば,部 下1 名 の工 長 が76名,部 下2名 の工 長 が58名,部 下3名 の 工 長 が62名 等 々 とな る。 職 場 集 団 の 数 は,工 長 の 人 数 と同 じで あ り698集 団 で あ るが,そ の うちPM型 は208集 団 で全 体 の29.8%で あ り,P型 が119 集 団 で17.1%, M型 が163集 団 で23.4%,そ して182集 団 がpm型 で26.1%で あ った。 DNT社 の場 合 は,Table 1-2に よれ ば,職 場集 団計305の うち,PM型 が107集 団35.1%, P型 が50集 団16.4%, M型 が65集 団21.3%,そ してpm型 が83集 団27.2%で あ った 。 Table 1-1, Table 1-2の 右 端 欄 は,当 該 規 模 に 達 しな い職 場 集 団 を累 計 した群 と,当 該 規 模 を含 む そ れ 以上 の規 模 の 職 場集 団 を累 計 した群 に つ い て,第1線 監 督 者 の 監 督 行 動 類 型 の 両 群 間 の 分 布 の 差 を検定 したχχ2の値 を示 す もの で あ る。 統 計 的 検 定 の 結果 に よれ ば,FS社 の 場 合,部 下 人 数3名 以下 の職 場 集 団 と部 下 人 数4名 以 上 の職 場 集 団 との間 に,危 険率5%以 下 で監 督 類 型 の 分 布 に 有 意 差 が み られ,以 下 同 様 に して部 下 人 数10名 以 下 の 職 場 集 団 と11名 以上 の職 場 集 団 の間 に危 険 率1%以 下 で有 意 差 が み られ る。 そ して,部 下 人 数3名 か ら10名 まで の 間 に お い て は,ど の規 模 を基 準 に して大 規 模 集 団 と小 規 模 集 団 に 分 割 して も,工 長 の 監 督行 動 類 型 の 分布 に統 計 的有 意 差 が み られ る の で あ る。 一 方,DNT社 の場 合(Table 1-2)は,部 下 人 数4名 以 下 と5名 以 上 の 職 場 集 団 の 間 と,部 下 人 数5名 以 下 と6名 以 上 の職 場 集 団 の 間 に それ ぞ れ危 険率5%以 下 で監 督 行 動 類 型 の 分 布 に 有 意 差 が
三隅・ 黒 川: 集 団 規 の大 い さが集 団の リーダ ー シ ップ機 能及び 成 員の帰属意識、 モラールに及ぼす効果に関する研究 173 み ら れ た 。 さ て,Table 1-1に も とつ い て,職 場 集 団 規 模 ご と に 監 督 行 動 類 型 の 百 分 比 を 図 示 した もの が Fig. 1-1で あ る 。Fig. 1-1で は ,便 宜 上,職 場 集 団 規 模1∼2名,3∼4名 ,5∼6名,7∼8 名 ,9∼10名,11∼12名 お よ び13名 以 上 の7通 りに 分 類 し た。 Table 1-1お よ びFig. 1-1に よ れ ば,P型 とM型 の 監 督行動 類 型 に 対 し て 職 場 規模の 著 しい 影 響 が 認 め られ る。PM型 の 工 長 は ,職場 規 模 の 大 小 に か か わ らず,ほ ぼ30%前 後 の 割 合見 出 さ れ ,職 場 規 模 が13名 を 越 え る と わ ず か に 減 少 す る 。pm型 の 工 長 は 職 場 規 模10名 ま で は ほ ぼ25%前 後 で あ り・ 規 模11名 以 上 の 職 場 で わ ず か に 増 加 す る 。 しか し,PM型 とpm型 は 双 方 と も全 体 と し て 職 場 集 団 規 模 の 大 小 と一 義 的 な 関 係 は 見 出 さ れ ず,統 計 的 に 有 意 な 分 布 の 偏 り も見 出 さ れ な か っ た 。 つ ぎにP型 と認 知 さ れ た工 長 の 割 合 は,集 団規 模 の増 大 に比 例 して 単 調 に増 加 す る 傾 向 が み られ る。 また,M型 の工 長 は集 団 規 模 が7名 を越 え る と急 激 に減 少 す る傾 向 が見 出 され た 。 一 方,DNT社 に つ い て は,Table 1-2に も とづ い て 監 督 行 動 類 型 の 百 分 比 を 図 示 し た の がFig. 1-2 で あ る。Table 1-2お よ びFig. 1-2に よ れ ば,PM型 とpm型 の 監 督 行 動類 型 に対 す る職場 規 模 の影 響 が 認 め られ る。 す な わ ち,職 場 規 模3名 を越 え る と,PM型 の 第1線 監 督 者 の 割 合 が職 場 規 模 と反 比 例 的 に 減 少 す る。 ま た,pm型 は規 模7名 の ところ で一 時 的 に や や減 少 す るが ,全 体 と して職 場 規 模 が3名 を越 え る と職 場 規 模 の増 大 と と もに割 合 が 増大 す る。 つ ぎにP型 の監 督 者 の 割 合 は職 場 規 模 が7名 を越 え る とや や 増 大 す る。M型 の 監 督者 の割 合 は ,全 体的に職場規模 の大小 と一義的な関 係 を認 め られ な か った。 以上,FS社 とDNT社 の 結果 を要 約 す る とつ ぎの 通 りであ る。 す な わ ち,職 場集 団の 規 模 が拡 大 す る に つ れ て,第1線 監 督 者 の う ち, Fig. 1-1職 場 規 模別 に みた 第一 線 監 督 行動 類 型 分 布(FS社) Fig 1-2職場規模別に みた第一線 監 督 行動 類 型 分布 95
174 教 育 ・社 会 心 理 学研 究 第10巻 第2号 1) FS社 で はPM型 の 占 め る割 合 は ほ ぼ一 定 で あ るが,DNT社 で はPM型 の 占 め る割 合 は 規 模3名 を越 え る と単調 に減 少 す る。 2) FS社 で はP型 の監 督 者 の 割 合 は 正比 例 的 に増 大 す るが,DNT社 で はP型 の監 督 者 の割 合 は, 規 模 が7名 を越 え る とや や増 大 す る。 3) FS社 で はM型 の 占 め る割 合 は,集 団規 模 が7名 以 上 に な る と急 激 に 減少 す る が,DNT社 で はM型 の 占 め る割 合 は,ほ ぼ一 定 で あ る。 4) FS社 で はpm型 の監 督 者 の 割 合 は規 模11名 以 上 に な る とわ ず か に増 加 す るが,職 場 集 団 の 規 模 の大 い さが 影 響 を与 えた とい う証 拠 は 見 出 され な い。 一 方,DNT社 で はpm型 の監 督 者 の 割 合 は, 一 般 的 に増 大 す る。 そ して,監 督 行 動 の4類 型 の分 布 は, 5) FS社 で は小 規 模 集 団(4名 以 下)と 大 規 模 集 団(5名 以 上)に 区 分 す る と,前 者 はM型 が 多 くP型 が 少 な い が,後 者 はP型 が多 くM型 が少 な い。 統 計 的 に有 意 な 分 布 の差 が 認 め られ る。DNT 社 で は小 規 模 集 団 に はPM型 が多 くpm型 が少 ない が,大 規 模 集 団 に はpm型 が 多 くPM型 が 少 な い 。両 者 の 間 に統 計 的 に有 意 な 分布 の差 が認 め られ る。 Fig. 2-1 (FS社) Fig. 2-2 (DNT社) 職 場 規 模 別 に み た 第 一 線 監 督 行 動 類 型 の 分 布
三隅・黒 川: 集 団 規 の 大 い さが 集 団 の リー ダ ー シ ップ機 能 及 び成員 の帰 属 意 識 、 モ ラ ール に及 ぼ す効 果 に関 す る研 究 175 以 上 の分 析結 果 か ら,職 場 集 団 の 規模 の大 い さがPM式 リー ダー シッ プ の4類 型 の 分布 に何 らか の影 響 を与 え る こ とが明 らか で あ るが,し か し,4類 型 の そ れ ぞれ に対 す る集 団 規 模 の 影 響 の しか た は,FS社 とDNT社 の 間 に 相違 が あ る。 そ こで,Fig. 1-1お よ びFig. 1-2の 結 果 を仮説 に照 ら して 吟 味 す る た めに,PM型 とM型,P 型 とpm型 を そ れ ぞれ ま とめて,Fig. 2-1お よびFig. 2-2の よ うに再 整 理 した。 そ の結 果,FS, DNT両 社 に お い て共 通 にm要 因 が増 大 し,M要 因 が減 少 す る結果 を見 出 した。 す な わ ち,リ ー ダ ー シ ップ タ イ プ として はm要 因 を含 むPm型 とpm型 の 監 督者 の割 合 が 職 場 集 団 規 模 の 拡 大 に つ れ て 上 昇 し,一 方,M要 因 を含 むPM型 とMp型 が相 対 的 に低 下 す る明 らか な傾 向 が 見 出 され た(Fig. 2-1)。DNT社 に おい て は,職 場集 団規 模 が3名 を越 え る と,FS社 と同様 の傾 向 が 見 出 され た(Fig. 2-2)。 な お,FS社698集 団,DNT社305集 団 を,そ れ ぞれ 部 下4名 以下 の職 場 集 団(小 規 模 群)と,部 下5名 か ら8名 まで の職 場 集 団(中 規 模群)と,部 下9名 以 上 の職 場 集 団 (大 規模 群)と に三 分 類 し,そ れ ぞ れ の群 に お け る第1線 監 督 者 の監 督 行 動 類型 の平 均 点 をFig. 3-1 お よ びFig. 3-2に 示 した。 方 法 の 項 で 述 べ た よ うに,FS社 の場 合 とDNT社 の場 合 は,監 督 行 動 に関 す る項 目の 下 位 項 目数 が 異 な る の で,両 社 の 絶 対 得 点 を直 接 比 較 す る こ とはで きな い の で あ るが, 相 対 的 に つ ぎの よ うに 考 察 で きる。 す な わ ち,FS社 に お い て は,職 場 集 団規 模 の大 い さが 拡 大 す る に つ れ てP得 点 が上 昇 し,M得 点 が 低 下 した。 この こ とはMか らPへ とい う,い わ ゆ る軍 隊 化 傾 向 が 生 じた こ とを裏 づ け る もの と解 釈 され る。 一方,DNT社 に お い て は,職 場 集 団 規 模 の拡 大 につ れて, PM→中 程 度 のP→pmと い う傾 向,す な わ ち,ま ずM得 点 が 大 幅 に低 下 し,つ ぎにP得 点 が 低 下 し てpmに 至 る傾 向 が うか が わ れ る。 この こ とは,い わゆ る群 集 化傾 向 が生 じた もの と考 察 され る。 Fig. 34 (FS社) Fig. 3-2 (DNT社) 各 職 場 規 模 群 に お け る 第 一 線 監 督 行 動 類 型 の 認 知 得 点 2 職 場 集 団成 員 の個 人 別 リー ダー シ ップ認 知 傾 向 と職 場 集 団 規模 第1線 監 督 者 の 監督 行 動 類 型 は,前 述 の よ うに それ ぞ れ の監 督者 が指 揮 す る部 下 の認 知 評 定 点 の 平 均 点 に よ って 求 め た。 した が って,PM型 の監 督 者 の下 に も彼 をPM型 と認 知 す る部 下 ば か りで な く,P型,M型,あ る い はpm型 と認 知 す る者 も存在 す る わ けで あ る。FS社 に つ い て は被 調 査 者 の個 別 資料 を分 析 す る こ とが で きた ので,上 司 の リー ダー シ ップ類 型 を職 場集 団 の平 均 値 で求 め るの で は な く,集 団 成 員 の 上司 に対 す る リー ダー シ ップ タ イプの 認知 を成 員 個 人 別 に求 めて 集 計 した の が 97
176 教育 ・社 会 心理 学 研 究 第10巻 第2号 Fig. 4職 場 集 団 の 規模 と上 司 に対 す る成 員 の リーダ ー シ ップ認 知 類 型(%)(FS社) Fig. 4で あ る。 こ こで も,認 知 され た リ ー ダ ー シ ップ類 型 の選 別 は 上 司 のP機 能 お よ びM機 能 に対 す る被 調査 者 全 員 の 評 定 点 の 平 均 を基 準 に して 行 な った。 す な わ ち,あ る成 員 のP機 能 に対 す る評 定 点 が32点 以 上,M機 能 に対 す る評 定 点 が34点 以 上 で あ れ ばPM型,P評 定31点 以 下,M評 定33点 以 下 で あれ ばpm型,P評 定 が32点 以 上 でM評 定 が33点 以 下 で あれ ばP型,P評 定 が31点 以 下 でM評 定 が34点 以 上 で あ れ ばM型 と した。 小 規 模 群 とは 部 下4名 以 下 の 職 場集 団,中 規 模 群 とは部 下5名 以 上8名 以下,大 規 模 群 とは 部 下9名 以 上 の 職 場 集 団 に 所属 す る もの の合 計 で あ る。 Fig. 4に 示 した結 果 は上 述 した よ うに個 人 別 平 均 値 を基 準 と した もの で あ るが,集 団 別平 均 値 を基 準 と したFig. 1-1お よびFig. 2-1に 示 した結 果 と同 様 な傾 向 を示 す こ とが 実 証 され た。Fig. 4に よ れ ば,自 分 の 上 司 をPM型 と して 認知 す る成 員 は,職 場 集 団 規 模 の 大小 に か か わ らず 全 成 員 の30%程 度 存在 す る。 また,pm型 と認知 す る成 員 は26%程 度 存 在 す る。 と ころ が,自 分 の上 司 をP型 と認 知 す る成員 は集 団 規 模 の拡 大 に つ れ て増 加 し,逆 に上 司 をM型 と認知 す る成 員 は集 団 規 模 の拡 大 に つれ て 減 少 す る。 小 規模 群,中 規模 群,大 規 模 群 の三 群 間 に,成 員 が 認知 した リー ダー シ ップ類 型 分 布 に 関す る統 計 的有 意 差(χχ2=22.33, df=3, p<.001)が 見 出 され た。 3 職 場集 団規 模 と帰 属 意 識 企 業 集 団 の 成 員 が,会 社 と労 働組 合 の双 方 に対 して 信 頼感 また は好 感 を示 す,い わゆ る二 重 帰 属 意 識(dual alligence)の 存 在 は,Purcell (1953)や 尾 高(1953, 1965)ら に よ って 明 らか に され て い るが,こ の よ うな帰 属 意 識 に対 して,所 属 す る職 場 集 団 の 規模 が何 らか の 影 響 を及 ぼ す で あ ろ うか。 本研 究 で はFS社 に お い て,尾 高 らが 用 い た質 問項 目に 準 じた質 問 項 目に よ って,帰 属 意 識 を調 査 した*。 その 結 果 は,会 社 帰 属 意 識 得 点 の平 均 が17.51,組 合 帰 属 意 識 得点 の 平均 が15.18で あ り,組合 帰 属 得 点 に くらべ て 会 社 帰属 得点 の平 均 が 高 か った。 つ ま り,FS社 に お い て は全 体 的 に組 合 に対 し て 非 好 意 的 な傾 向が 認 め られ た の で あ る。 会 社 帰属 得点,組 合 帰 属 得 点 と も,個 人 が と り得 る得 点 範 囲 は6点 か ら30点 ま で で あ る。 そ こで,個 人 得 点 が17点 か ら19点 まで の 者 を中 得 点 群,16点 以 下 を低 得 点 群,20点 以 上 の 者 を高 得 点 群 と して被 調 査 者 全 員4, 418名 の 得 点 分布 を整 理 して み る と,Table 2 の ご と くで あ る。 Table 2に よれ ば,得 点 の 分布 に明 らか に偏 りが み られ る。 そ こで,本節 で はつ ぎの よ うな 方 法 を用 い,相 対 的 な 得 点分 布 を も とに 分 析 を 行 な った。 す な わ ち,会 社 帰 属 得 点,組 合 帰属 得 点 の そ れ ぞれ に つ い て,平 均 点 に標 準偏 差 の 1/2を 加 減 した点 を基 準 点 と して,高 得 点,中 得 点,低 得 点 を分 類 した 。 そ の基 準 点 をの べ る Table 2 FS社 にお け る会社 お よ び組 合帰 属 得 点 の分 布(%) N=4,418 * DNT社 では 調 査 を行 なわ なか っ た。 98
三隅 ・黒 川: 集団 規 の大 い さが 集 団 の リー ダー シ ップ機 能 及 び成 員 の帰 属 意 識 、 モ ラ ール に及 ぼ す効 果 に 関 す る研 究 177 な ら ば,会 社 帰 属 得 点 に つ い て は 高 得 点 群 は20点 以 上 ,中 得 点 群 は19点 以 下16点 以 上,低 得 点 群 は15 点 以 下 で あ る 。 そ して 高 得 点 群 はP (Proの 頭 文 字),中 得 点 群 はN (Neutralの 頭 文 字),低 得 点 群 はC (Conの 頭 文 字)の 記 号 を 符 した 。 ま た 組 合 帰 属 得 点 に つ い て も,18点 以 上 をP',17点 以 下13点 以 上 をN',12点 以 下 をC'と し て,各 人 の 帰 属 意 識 得 点 を た と え ばPP', CN'の よ うに あ ら わ し た 。 と こ ろ で,企 業 体 従 業 員 の 二 重 帰 属 意 識 に は,直 属 上 司 の リー ダ ー シ ッ プ が 影 響 を 及 ぼ す こ とが 塩 塚 等 の 研 究(1965)で 明 らか に な っ て い る が,本 研 究 のFS社 に つ い て も,部 下 認 知 に よ る第1線 監 督 者 の リ ー ダ ー シ ッ プ タ イ プ と 帰 属 意 識 の 関 係 を 分 析 し て み る と,Fig. 5に 示 す 結 果 が 得 られ た 。 Fig. 5.直 属 上司 の 監 督 行動 認 知類 型 と二重 帰 属意 識(FS社) Fig. 5の グ ラ フの 上 段 は会 社 に対 す る帰 属 意 識 の高 い者 と低 い 者 の 百分 率,中 段 は 同 じ く組 合 帰 属 意識 の得 点 分 布,下 段 は会 社 と組 合 の 双方 に対 す る高度 の帰 属意 識 保 有 者 お よ び低 度 の 帰属 意 識 保 有 者 の 分布 を リー ダ ー シ ップ タ イプ ご とに示 した もの で あ り,グ ラ フ中央 の数 字 は,そ れ ぞれ の リー ダ ー シ ッ プ タ イ プ ご との平 均 点 を示 した もので あ る。 高 得 点群 とそ れ以 外 の群 につ い て ,リ ーダーシッ プ タイ プ間 の 分 布 の差 をχχ2によ って両 側 検 定 した と ころ,会 社 帰 属 得 点 に つ いて はPM (p<.01)> M (p<.05)>Pの 順 で 高 得点 群 の 比 率 が有 意 に高 く,Pとpmの 間 に はp<.10でPが やや 高 い 傾 向 が認 め られ た 。 同 様 に組 合 帰 属 得 点 に つ い ては,高 得 点 群 はP型 に く らべ てM型 に 有意 に 多 く(p <.05),PM型 とM型,お よ びP型 とpm型 の 間 で は そ れ ぞれ 前者 に高 得 点群 が 多 い とい う傾 向(p< .10)が 認 め られ た。 以 上 の 結 果 か ら,直 属 上 司の 監督 行 動 類 型 を どの よ うに 部下 成 員 が 認知 す る かに よ って,会 社 と組 合 に対 す るい わ ゆ る帰 属意 識 が 何 らか の影 響 を受 ける こ とが 考 察 され る。 さて,職 場 集 団 規 模 が 会社 と組 合 に対 す る成 員 の 帰属 意 識 に 与 え る影 響 の有 無 を吟 味 す る こ とに し よ う。 職 場 集 団 規 模 ご とに帰 属 意 識 の 高得 点 群,中 得 点 群,低 得点 群 の 比率 を示 した もの がFig. 6 で あ る。 Fig. 4お よ びFig. 5に 示 した結 果 か ら,職 場集 団 規 模 が拡 大 す れ ば,上 司 の監 督 行 動 類型 をP 型 また はpm型 と認 知 す る成 員 の比 率 が 増 大 し,P型 また はpm型 の成 員 の比 率 が 増 大 す れ ば,会 99
178 教育 ・社会心理学研究 第10巻 第2号 Fig. 6. 職場 集 団規 模 と会 社 お よ び組 合 に対 す る帰属 意 識 との関 係 社 お よび組 合 に対 して 高 い帰 属 得 点 を示 す もの の比 率 が 低下 す る こ とが 予想 され た の で あ る が,Fig. 6に よれ ば,会 社,組 合,お よ び双 方 に対 す る帰 属 意識 の い ず れ に も職 場 集 団 規 模 の 影 響 を見 出 す こ とが で きな か った。 この 事実 は,職 場 集 団規 模 の拡 大 が 会 社 と組 合 に対 す る帰 属 意 識 を高 めた もの と して 解釈 す る こ とが で き る。 この 点 に つ い て は一 般 的 考 察 の と ころ で も う一 度 ふ れ る こ とに す る。 4 職 場集 団規 模 が い わ ゆ る モ ラ ール に 及 ぼ す影 響 Table 3は,職 場 集 団 の規 模 と,チ ー ム ワー ク得 点,モ ラ ール 得点,お よ び集 団 会 合 に 対 す る満 足 度 得 点 との 関係 を示 した もの で あ る。DNT社 に関 す る資料 は,集 団 の平 均 点 か ら逆 算 した もの で あ る た め,規 模 別 に,全 体 の 平均 点 以 下 の集 団平 均 点 を示 す 集 団 と,全 体 平 均 以 下 の 集 団 平 均 点 を示 す 集 団 に わ けた。 その 結 果 はFig. 7に 示 す 如 くで あ る。 Fig. 7. 職場 集 団規 模 とモ ラ ール要 因 の関 係(集 団 数)(DNT社) 100
三 隅 ・黒 川: 員の帰属意識、モラールに及ぼす効果に関する研究集団 規 の大 い きが集 団 のリーグー シップ機能及び 成 179 Table 3 職場 集 団規 模 別 モ ラー ル諸 変数 平 均 点 の差 と検定 ール 得点 はFS社 の場 合,チ ー ム ワー ク得 点 お よび モ ラ ,小 規 模 群 が 中規 模 群 お よ び大 規模 群 に くらべ て 有 意 に 高 か った。 ま たDNT社 の 場合,Fig. 7に 示 した通 り,部 下 人 数4名 以 下 の職 場 集 団205集 団 の う ち118集 団57.5%の モ ラール 得 点 が全 社 平 均 点 を上 回 り,部 下 人 数5 名 以 上 の100集 団 に つ い て は45集 団 の み が 全社 平 均 点 以 上 で あ った。χχ2によ る片 側 検定 の結 果,危 険率5%以 下 で有 意 な差 が 認 め られ た。 しか し,チ ー ム ワー ク得 点 につ い て は,小 規 模 集 団 と中 ・大 規模 集 団 の間 に 統 計 的 に有 意 な差 を見 出 す こ とは で きなか った。 IV. 一 般 的 考 察 第Iの 仮 説 は 本研 究 の デ ー ターに よ って一 応 実 証 さ れ た もの と して考 察 され よ う。 た だFS 社 では 軍 隊 化傾 向 が 生 じ,DNT社 で は群 集 化 傾 向 が 生 じた こ とは,い か な る発 生 条件 の相 違 に も とづ くか は現 在 の と ころ 明 らか で ない 。 一 つ の解 釈 と して,FS社 は 職場 集 団 の 目標 が 明確 な生 産中 心 の ブル ー カ ラー の職 場 で あ り ,DNT社 はFS社 ほ ど 目標 性 が 明瞭 で な い ホ ワイ トカ ラー が相 対 的 に 多 い職 場 で あ る。 かか る職 場 集 団特 性 の 相違 が,FS社 で は 目標達 成 へ の フ ィー ドバ ック強 化 と して 軍 隊 化傾 向 を誘発 し,DNT社 で は 目標 が よ りあ い まい な た めに放 任 タイ プの リー ダー シ ップ を生 じ易 く,群 集 化傾 向を生みだ したのではな か ろ うか。 さて,集 団 規 模 の 拡 大 は,軍 隊 化 傾 向 か,も し くは,群 集 化 傾 向 を生 じる こ とが,本 研 究 の中 心 仮 説 で あ る。 軍 隊 化 傾 向 は,リ ー ダ ー シ ップP要 因 の 増大 とM要 因 の低 下 を生 じ,群 集 化 傾 向 は リー ダ ー シ ップPとM両 要 因 の低 下 を生 じ る こ とが 実 証 され た 。 その い つ れの 傾 向 が支 配 的 に な るか は,集 団 規 模 の 拡 大 に と もな う集 団 の もつ フ ィー ドバ ッ ク機 能 特 性差 に依 存 す るで あ ろ う とい う こ とが ,本 研 究 の 資 料 か ら示 唆 され た とい え よ う。 さて,軍 隊化 傾 向 はPmタ イプ の リー ダー シ ップの 強 化 とな り,群 集 化 傾 向 はpmタ イ プの リー ダー シ ップ の増 大 とな る。 わ れ わ れの 従 来 の 調査 研 究*に よれ ば この両 タイ プ と も,PM型 とM型 に 比 較 す れ ば,モ ラー ル は 相対 的 に低 い こ とが実 証 され て い る。 本 研 究 の結 果 で も,そ の こ とが実 証 さ れ た。 この 事 実 は,本 研 究 の中 心 仮 説 の妥 当性 を さ らに強 め る もの と して 考 察 され よ う。 ただ,集 団 規 模 の拡 大 に もか か わ らず,会 社 と組 合 に対 す る帰 属 意 識 に変 化 が 見 出 され な い の はい か な る原 因 に もとづ くの で あ ろ うか。 先 づ 帰 属 意 識 と リ ー ダ ー シ ップ との 関 係 に つ い て の 考 察 か ら は じ め よ う。 従 来 の 研 究 に よ って も, 帰 属 意 識 と リー ダ ー シ ップ タ イプ との 相 関 は実 証 されて きた が,本 研 究 に よ って もPM型 の 下 で二 重 帰 属 意 識PP'タ イ プ の比 率 が 最 も高 く,pm型 の下 で最 も弱 くCC'タ イ プの比 率 が 最 大 とな って い る。 * 三 隅 他,1970参 照 。 101
180 教育 ・社会心理学研究 第10巻 第2号 ま た,M型 の下 で はPM型 の場 合 につ いでPP'タ イ プが 高 く,P型 の下 で はpm型 の 場 合 に つ い でCC'タ イ プの比 率 が高 い。 これ らの 事実 は,集 団 成 員 の帰 属 意 識 が リー ダー シ ップ タイ プ と関 連 が あ る こ とを示 して い る。 と す れ ば,集 団規 模 の 拡 大 に と もな って,い か な る理 由 で リー ダ ー シ ッ プ タ イプ が変 化 す るに もかか わ らず,帰 属 意 識 に変 化 が生 な じい ので あ ろ うか。 わ れ わ れ は こ こで も う一 つ の要 因 の実 在 を仮 定 せ ざ るを得 な い の で あ る。 つ ま り,帰 属 意 識 は,集 団規 模 の拡 大 に と もな って 正 比例 的 に増 加 す る こ と。 しか もその 増加 の比 率 は,リ ー ダ ー シ ップの軍 隊化 傾 向 比 率 ない し群集 化傾 向比 率 とほ ぼ反 比 例 して い る とい う仮 定 で あ る。 集 団 規 模 の拡 大 に よ って,集 団成 員 の その集 団 に対 す る安 定 感 が 増 加 し,集 団成 員 の 自尊意 識 の充 足 感 が昂 揚 し,そ の こ とが帰 属 意 識 を増 大 させ た もの と も解 釈 で きよ う。 た しか に,集 団規 模 の拡 大 が軍 隊 化 傾 向 と群 集 化 傾 向 を促 進 す る こ とが実 証 さ れ たの で あ るが,現 実 の 多 くの集 団 は,集 団 規 模 の拡 大 で必 ず し も極 端 な軍 隊 化 も極 端 な群 集 化 も生 じて い な い 。 従 って 現実 の集 団 に お い て は,軍 隊 化,群 集 化 を極 限 化 しない よ うな さま ざま な諸 要 因 が働 いて い る もの と考 察 で きる。 そ の極 限 化 抑 制 の一 つ と して,集 団規 模 の拡 大 に と もな う帰 属 意識 の増 加 現 象 が 存 在 す るの で は な い だ ろ うか 。 た だ し,こ の解 釈 は もっ と此 後 実 証 して み な けれ ば な らない 。 V. 要 約 本研 究 は,「 集 団 規模 の拡 大 は群 集 化 傾 向 と軍隊 化 傾 向 を生 じ る」 とい う仮 説 を,リ ー ダ ー シ ップ PM論 との関 連 に お いて 実 証 し,あ わせ て集 団 規 模 と帰 属意 識 お よ び モ ラー ル との 関係 を分 析 す る こ とを 目的 と した。 某製 鉄 所 一 般 工 員4,418名(698集 団)お よび某 化学 工 場 一 般 従 業 員1,369名(305集 団)に 対 して, 質 問 紙 に よ る面 接 調 査 を実 施 した。 結 果 を要 約 す れ ば つ ぎの通 りで あ る。 (1) リー ダ ー シ ップM機 能 につ い て い え ば,職 場 集 団 規 模 の 拡 大 に つ れ て,一 般 にM機 能 の強 いPM 型 も し くはM型 の 第1線 監 督 者 が 減少 し,M機 能 の 弱 いP型 も し くはpm型 の第1線 監 督 者 が 増 加 す る傾 向 が認 め られ た 。 (2) リー ダ ー シ ップP機 能 につ い てい え ば,強 いM機 能 が伴 わ ない な らば,職 場集 団規 模 の拡 大 に つ れ て,一 般 に リー ダー シ ップPお よびPが 増 加 し,あ るい は少 な く と も減 少 す る こ とは な い こ とが 実 証 され た。 (3) 以 上 の結 果 か ら,職 場集 団 規 模 の 拡大 に つ れ て,軍 隊 化傾 向 か,あ るい は群 集 化傾 向 が生 じる こ とが 考 察 され た。 (4) 会 社 も し くは 組 合,お よ び その 両方 に対 して高 い 帰 属 意識 得点 を示 す もの の 比 率 は,上 司 の リ ー ダ ー シ ップ類 型 をPM型 と認 知 す る成 員 の中 で最 も高 く,以 下M型,P型,pm型 と認知 す る成 員 の 順 に そ の比 率 が 低 下 し,会 社 も し くは組 合,お よ び その 両方 に対 して低 い 帰 属 意 識 得 点 を示 す も の の割 合 は,上 司 をpm型 と認 知 す る成 員 の中 で 最 も高 く,以 下P型,M型,PM型 と認知 す る成 員 の順 に そ の比 率 が低 下 す る こ とが見 出 され た 。 (5) 上 記(4)の結 果 に もか か わ らず,職 場 集 団 規模 の大 い さ は,会 社 と組 合,お よ び その 両 方 に 対 す る成員 の帰 属 意 識 の 強 さに有 意 な影 響 を与 え る とい う証 拠 は見 出 され なか った 。 (6) 上 記(4), (5)の結 果 か ら,職 場 集 団規 模 の 拡 大 が 会社 と組 合 に対 す る帰 属 意識 を相 対 的 に高 め る 傾 向 を もつ とい う仮 説 が 暗 示 され た。 102
三 隅 ・黒 川: 集 団 規 の大 い さが集 団 の リー ダ ー シ ップ員 の 帰 属意 識 、 モ ラール に及 ぼ す 効果 に関す る研 究幾能及び成 181 (7) 職 場 集 団 規 模 の拡 大 につ れ て,一 般 に モ ラ ール(チ ー ム ワ ー ク得 点 を含 む)が 低 下 す る傾 向 が 認 め られ た。 この こ とは,リ ー ダー シ ップ の変 化 に よ る軍 隊 化 傾 向 お よ び群 集 化傾 向 のい ず れ も,い わ ゆ る職 場 の モ ラー ル を犠 牲 に して成 立 す る こ とを裏 付 け る もの と解 釈 され た。 付 記 FS社 で 用 い た質 問項 目の 内容 は以 下 の通 りで あ り,い ずれ も5段 階尺度 である。 1 職場 の チ ー ム ワー クに 関 す る項 目 1-1 あ なた の 職 場 は チ ー ム ワ ー クが とれて い る と思 い ます か 。 1-2 あ なた は 今 の職 場 の一 員 で あ る こ とに誇 りを感 じます か 。 1-3 あ なた は 今 の職 場 の 一員 で い た い と思 い ます か。 1-4 あ なた の職 場 で は仕 事 の上 でお 互 いに助 け合 って い る と思 い ます か 。 1-5 あ な た の職 場 の 人 々は,あ な たが もって い る仕 事 上 の 問題 を どの 程 度 理解 して い る と思 い ます か 。 2 一般 的 モ ラール に 関 す る項 目 2-1 あな た は現 在 の 自分 の 仕事 に満 足 で す か。 2-2 あ なた は 自分 の担 当す る仕 事 に誇 りを感 じます か 。 3 会社 帰 属 意 識 に 関す る項 目 3-1 あ なた の給 料 は,同 業 他社 の人 た ち と く らべ て よ い方 だ と思 い ます か。 3-2 あ なた が た の意 見 や 希望 は会 社 の経 営 の 中 に と り入 れ られて い る と思 い ます か 。 3-3 あ な た はい まの会 社 の や り方 を ど う思 い ます か 。 3-4 会 社 の幹 部 の 人 た ち を一 般 に信 頼 で きる と思 い ます か。 3-5 会 社 の 最 近 の 生産 状 況 は,同 業 他 社 と くらべ て ど う思 い ます か 。 3-6 あ な た は この 会社 に入 って よか った と思 い ます か 。 4 組 合帰 属 意 識 に関 す る項 目 4-1 組 合 は給 料 や 労働 条 件 の 改善 に役 立 って い る と思 い ます か 。 4-2 あ な た方 の 意 見 や希 望 が組 合活 動 に と り入 れ られ て い る と思 い ます か 。 4-3 い ろ い ろ考 えて い まの 組 合 の あ り方 に満 足 です か。 4-4 組 合 の執 行 部 の人 た ち を一 般 に信 頼 で き る と思 い ますか 。 4-5 組 合 の 最 近 の活 動 状 況 は 同業 他 社 の組 合 と くらべて 活 発 な方 だ と思 い ます か 。 4-6 全 体 と して み て あ な た の組 合 は よ い組 合 だ と思 い ます か。 引 用 文 献 三 隅二 不二 他1970組 織 に お け る リーダ ー シップ の研 究,年 報 社会 心 理学,11, 63∼90. 尾高 邦 雄1953産 業 にお け る人 間 関係 の科 学,有 斐 閣 尾 高 邦 雄1965日 本 の 経 営 中央 公 論社 Purcell, T.V. 1959私 は こ う思 う一 ア メ リカ労 働 組 合員 の 意見,時 事通 信 社 塩 塚 喜 信1965組 織 体 に お け る リー ダ ー シ ップ と帰属 意 識 に関 す る実 証 的 研究,九 州 大 学 教育 学 部 卒業 論 文 (46. 3. 15.受 付) 103