【 論
文 】
牛ふん尿のメタン発酵における食品廃棄物投入の効果
中 久 保
亮 * ・ 石 田 哲 也 ** ・ 松 田 從 三 * ・ 近江谷 和 彦 *
【要 旨】 食品廃棄物が牛ふん尿のメタン発酵に及ぼす影響を三大栄養成分別に調べるために,たんぱ く質,炭水化物,脂質をそれぞれ主成分としたプロテイン,パン粉,バターを牛ふん尿とともに有効容 積 6 L の発酵槽に投入し,水理学的平均滞留日数 30 日の中温連続メタン発酵実験を行った。発酵性能 の低下が発生しない食品廃棄物の限界 VS 負荷は,パン粉 2.2 gVS/L・day,バター 2.4 gVS/L・day, プロテイン 0.8 gVS/L・day であった。食品廃棄物の投入 VS あたり平均メタンガス発生量はバターが 最も大きく 0.82 L/gVS,次いでパン粉 0.42 L/gVS,プロテイン 0.31 L/gVS の順であった。プロテイ ンのメタンガス発生量は理論値の 54% と低かった。たんぱく質の共発酵では発酵阻害物質であるアン モニアが発生するためと考えられる。食品廃棄物のメタンガス濃度はバターが最も高く 68%,次いで プロテイン 64%,パン粉 57% であった。 キーワード:メタン発酵,嫌気性発酵,共発酵,食品廃棄物,発酵阻害1.緒
言
共発酵とは 2 種類以上の有機性資材を混合して発酵さ せるメタン発酵技術であり,家畜ふん尿処理用バイオガ スプラントにおいては,生ごみや食品加工残さなどの食 品廃棄物を発酵基質である家畜ふん尿とともに発酵させ ることを指す。デンマークのバイオガスプラントでは全 投入量の 20% 程度の食品廃棄物を投入することでメタ ンガス発生量を増加させて,プラント経済性を向上させ ており1),共発酵はバイオガスプラントの運営に必要不 可欠な発酵技術となっている。 しかし共発酵は同時に,食品廃棄物中のたんぱく質の 分解によるアンモニア態窒素の蓄積や食品廃棄物の投入 による有機物負荷の過剰に起因する発酵阻害を招く危険 性もあり2,3),デンマークの共同型バイオガスプラント では年に 1 回程度の頻度で発酵阻害トラブルが発生する ことも珍しくない。 発酵阻害が発生すると,まず有機物分解率や有機物あ たりメタンガス発生量などの発酵性能が低下し,最悪の 場合はメタン発酵プロセスが完全に停止する4-6)。メタ ン発酵が完全に停止した場合は,正常な発酵状態に回復 するまでに数ヶ月を要することもあるため,バイオガス プラントは深刻な経済的ダメージを受ける。このように, 食品廃棄物の共発酵はバイオガスプラントの経済性の向 上を可能にする一方で,発酵阻害を回避するためには, より慎重なプラント運転を要求するという側面も合わせ 持つ。発酵阻害を回避するには,pH や揮発性脂肪酸 (VFA) などの発酵パラメータを監視するとともに,食 品廃棄物の発酵特性を把握してその投入量をコントロー ルすることが重要である。 近年日本においても,家畜排泄物の管理に関する法律 が施行され,また家畜ふん尿を原因とした環境問題に注 目が集まる中,環境問題に対応でき,しかもエネルギー を供給することが可能なバイオガスプラントへの関心が 農家の中で急激に高まってきている7)。しかし,北海道 では 52 基の家畜ふん尿処理用バイオガスプラントが稼 働しているものの,食品廃棄物を家畜ふん尿と共発酵し ている畜産農家用プラントはまだほとんどなく,食品廃 棄物の発酵特性についてもあまり知られていない。また, デンマークでは豚ぷん尿の共同型高温発酵が,ドイツで は豚ぷん尿の個別型中温発酵が主流となっており,日本 原稿受付 2007. 11. 19 原稿受理 2008. 7. 4 * 北海道大学大学院農学研究科 ** (独)土木研究所寒地土木研究所 連絡先:〒 060-8589 札幌市北区北 9 条西 9 丁目 北海道大学大学院農学研究科 中久保 亮 E-mail : [email protected]で主流となっている牛ふん尿の個別型中温発酵における 共発酵についての研究は少ない。このような背景から, 牛ふん尿の中温発酵における食品廃棄物の発酵特性の解 明が現在必要とされている。 食品廃棄物は主に炭水化物,脂質およびたんぱく質な どの生物ポリマーと,糖類,長鎖脂肪酸およびアミノ酸 などのオリゴマーから構成されている。このうち,三大 栄養素である炭水化物,脂質およびたんぱく質からのメ タンガス発生量理論値については,様々な研究が報告さ れている。Schulz et al.8)は炭水化物,脂質,たんぱく質 のメタンガス発生量およびメタンガス濃度をそれぞれ 0.395 L/gTS (50%),0.85 L/gTS (68%),0.497 L/gTS (71%)と,Mudrack et al.9)は 0.443 L/gTS (50%),1.075 L/gTS (70%),0.493 L/gTS (84%)と報告している。 これに対して Angelidaki et al.1)は 0.415 L/gVS (50%), 1.014 L/gVS (70%),0.496 L/gVS (50%)としており, たんぱく質からのメタンガス濃度理論値が Schulz et al. や Mudrack et al. の研究と大きく異なる。このように 様々な理論値が考案されている原因としては,嫌気性発 酵の新陳代謝システムがまだ完全に解明されていないこ とがあげられる。よって理論値から食品廃棄物の効果を 予測することは難しい。また,実際の発酵では,発酵温 度,アンモニア態窒素濃度,pH,VFA 濃度などの発酵 環境に発酵性能は大きく依存するために,理論値は限定 的にしか適用できない。 そこで本研究では,牛ふん尿の中温発酵における食品 廃棄物の発酵特性を基礎的に調べるために,食品廃棄物 の主要な栄養成分である脂質・たんぱく質・炭水化物の 三大栄養素別の共発酵資材を用いたメタン発酵実験を行 い,メタンガス発生量,メタンガス濃度などの発酵性能 を三大栄養素別に調査した。
2.実 験 方 法
2.1 実験装置 実験は(独)土木研究所寒地土木研究所土壌保全研究室の ファーメンタを用いて行った。ファーメンタは市販の微 生物用ファーメンタ ((株)東京理科機器 MBF-800ME) を メタン発酵実験用に改造したものを使用した。 発酵槽は槽容積 8 L,有効容積 6 L のガラス円筒製で, 図 1 に示すように上部に発酵原料投入口,下部に消化液 採取口を設けた。発酵槽内スラリーはプロペラ式攪拌機 により連続攪拌を行った。攪拌回転数は原料生スラリー のみを投入する対照区で 80 rpm,スラリー粘度の上昇 やバイオガス発生量の増加が予測される共発酵資材投入 区で 100 rpm とした。温度調節器により調温された温 水を,発酵槽の下部 1/2 を覆うウォータージャケットに 循環させ,発酵液温度を一定に保った。 2.2 供試材料 表 1 に供試材料の性状を示す。 2.2.1 原料生スラリー 原料生スラリーは(独)土木研究所寒地土木研究所別海資 源循環試験施設の固液分離液分ピットから採取した牛ふ ん尿スラリー (固液分離機により大きな敷料等を取り除 いたもの) を用いた。これは同試験施設内のバイオガス プラントに投入されている牛ふん尿スラリーと同一のも のである。 図 1 実験装置 ― 0.2 63.4 3.0 ― 81 6.8 2.0 5.9 81.8 88.1 92.3 9.0 83.7 89.8 94.5 7.2 ― 5.7 ― 牛ふん尿 バター パン粉 プロテイン pH TS (%w. b.) VS (%w. b.) 脂質 (%) 炭水化物 (%) たんぱく質 (%) 表 1 供試材料の性状 ― 0.6 14.6 87.52.2.2 共発酵資材 保存性,均質性が高く,かつ取り扱いが簡便な食品を 共発酵資材として選定した。たんぱく質,炭水化物,脂 質の三大栄養成分別のメタン発酵特性を調べるために, それぞれ,プロテイン,パン粉およびバターを用いた。 プロテインとはスポーツ選手用サプリメントとして市 販されている高たんぱく質含有食品である。本実験では 牛乳に多く含まれる動物性たんぱく質であるホエイを主 成分としたプロテインを使用した。 パン粉は市販の料理用乾燥パン粉をブレンダーにより 粉末加工したものを使用した。 バターは,(独)土木研究所寒地土木研究所別海資源循環 試験施設のバイオガスプラントで試験投入されている廃 棄バターを使用した。これは,不要になった品質検査用 サンプルバターをバター工場から譲り受けたもので,市 販品との差異はない。発酵槽への投入を容易にするため に,投入前に液状になるまで加熱したものを使用した。 2.3 実験条件 脂質,炭水化物,たんぱく質の三大栄養成分別の食品 廃棄物のメタン発酵特性,限界投入有機物負荷を明らか にするために,表 2 に示す実験条件を設定した。各栄養 成分について,それぞれ投入負荷の異なる実験を 2〜3 回行った。実験毎に 2〜4 基の発酵槽を使用した。各 実験にはそれぞれ牛ふん尿のみを投入した対照区を設 定した (表 2 中では表示を省略)。各実験において,水 理学的平均滞留日数 (HRT) である 30 日以上となる, 30〜60 日の共発酵資材投入日数を設けた。 すべての実験において発酵槽温度 37℃,水理学的平 均滞留日数 (HRT) 30 日,総投入量 33.3 g/L・day とし て連続式中温メタン発酵を行い,総投入量に対する共発 酵資材の混合割合を変化させて,共発酵資材投入負荷を 設定した。以下は,投入した共発酵資材の主成分と,そ の湿重量ベースでの混合割合を実験区名として表す (例:バターを総投入湿重量の 8wt% 投入→脂質 8 % 投 入区)。共発酵資材としてバターを供試した脂質実験, およびパン粉を供試した炭水化物実験では,総投入湿重 量に対して 2, 4, 8, 12, 16% の共発酵資材混合割合で実 験を行った。プロテインを供試したたんぱく質実験では, 総投入湿重量に対して 1, 3, 8%の共発酵資材混合割合で 実験を行った。表 2 に各実験の共発酵資材混合割合にお ける共発酵資材投入 VS 負荷を示す。本研究では湿重量 ベースでの共発酵資材混合割合を基準に投入負荷を設定 したが,共発酵資材の VS は 82〜92% (表 1 参照) と大 きな差がなかったため,共発酵資材混合割合の等しい実 験区間では共発酵資材投入 VS 負荷に大きな差はみられ なかった。 各実験開始前に,メタン発酵菌群を発酵条件に馴化さ せるため,種スラリー (牛ふん尿中温メタン発酵スラ リー) と牛ふん尿スラリーを 1 : 5 の割合で混合し,1 週 間以上原料を無投入の回分式で馴養した。実験開始後, 発酵液抜き取りおよび原料投入は 1 日 1 回定時に行った。 バター バター スラリー 対照区 スラリー 脂質 2 % 投入区 脂質 4 % 投入区 脂質 8 % 投入区 脂質 12% 投入区 脂質 16% 投入区 脂質実験 表 2 実験条件 0 100 VS 混合割合 (%) 発酵停止 42 30 42 共発酵資材投入日数 (day) 2.6 2.4 1.9 総 VS 負荷 (gVS/L・day) 57 43 31 69 8 92 2.4 1.8 0.8 1.8 0.2 2.2 0.0 1.9 投入 S 負荷 (gVS/L・day) 4.2 7.7 92 2.7 97 0.7 99 0 100 湿重量混合割合 (%) 対照区 たんぱく質実験 プロテイン スラリー プロテイン スラリー プロテイン スラリー プロテイン スラリー 33 42 共発酵資材投入日数 (day) たんぱく質 8 % 投入区 たんぱく質 3 % 投入区 たんぱく質 1 % 投入区 43 38 62 25 75 0 100 VS 混合割合 (%) 発酵停止 発酵停止 42 33 5 4.2 2.9 2.4 1.9 総 VS 負荷 (gVS/L・day) 75 25 70 30 57 湿重量混合割合 (%) 4.7 1.6 3.5 1.5 2.4 1.8 1.1 1.8 0.6 1.8 0.0 1.9 投入 VS 負荷(gVS/L・day) 6.3 スラリー パン粉 スラリー 16 84 12 88 8 92 4 96 2 98 0 100 炭化 4 % 投入区 炭化 2 % 投入区 対照区 炭水化物実験 パン粉 スラリー パン粉 スラリー パン粉 スラリー パン粉 スラリー パン粉 発酵停止 60 60 60 60 共発酵資材投入日数 (day) 炭化 16% 投入区 炭化 12% 投入区 炭化 8 % 投入区 76 24 69 31 59 41 33 67 18 82 0 100 VS 混合割合 (%) 発酵停止 0.0 1.7 投入 VS 負荷(gVS/L・day) 5.8 4.8 3.7 3.3 2.8 1.7 総 VS 負荷 (gVS/L・day) 96 2 98 0 100 湿重量混合割合 (%) 4.4 1.4 3.3 1.5 2.2 1.5 1.1 2.2 0.5 2.3 バター スラリー バター スラリー バター スラリー バター スラリー 16 84 12 88 8 92 4
2.4 測定項目 2.4.1 発生ガス測定項目 発酵槽からのガス発生量は湿式ガスメータにより測定 し,パルス記録計に記録した。メタンガス (CH4) 濃度, 炭酸ガス (CO2) 濃度および硫化水素 (H2S) 濃度はガ スクロマトグラフ (島津製作所 GC-14B) を用いて測定 した。以下にガスクロマトグラフの運転条件を示す。 (1) 検出器:TCD (2) キャリアガス:ヘリウムガス (3) カラム槽温度:80℃ 検出器温度:120℃ (4) メタン・二酸化炭素分析用カラム:信和化工 Porapak Q (試料ガス量 0.5 mL) (5) 硫化水素分析用カラム:信和化工 Sunpak-S (試 料ガス量 2.0 mL) 2.4.2 牛ふん尿,共発酵資材,消化液 (1) pH:ガラス電極 pH メーター (2) 総固形分 (TS)・有機物分 (VS):通風乾燥機 (105℃ 24 時間),電気炉 (550℃ 6 時間) (3) 揮発性脂肪酸 (VFA) 濃度:リン酸添加水蒸気 蒸留法 (4) アンモニア態窒素 (NH4+-N) 濃度:水酸化ナト リウム添加水蒸気蒸留法 2.5 共発酵資材の投入 VS あたりメタンガス発生量 共発酵資材の投入 VS あたりメタンガス発生量は,実 験期間中の共発酵資材投入区の総メタンガス発生量から, 牛ふん尿由来のメタンガス発生量を減じた差を,実験期 間中の総共発酵資材 VS 量で除して算出した。牛ふん尿 からのメタンガス発生量は対照区の投入 VS あたりメタ ンガス発生量を基に算出した。
3.結 果 と 考 察
脂質実験および炭水化物実験では 2, 4, 8%,たんぱく 質実験では 1, 3%の共発酵資材混合割合で発酵阻害が発 生することなく正常にメタン発酵が行われた。しかし, これ以上の共発酵資材投入負荷である,炭水化物 12% 投入区および 16% 投入区,脂質 12% 投入区および 16% 投入区,たんぱく質 8%投入区では,メタンガス発生量, メタンガス濃度,pH の低下などがみられ,メタン発酵 が停止した。 3.1 発酵槽容積あたりメタンガス発生量 図 2 に共発酵資材投入区および対照区 (牛ふん尿 100% 投入区) の発酵槽容積あたりメタンガス発生量を 示す。対照区の発酵槽容積あたりメタンガス発生量は各 実験において設定された合計 5 つの対照区の平均値を示 した。発酵槽容積あたりメタンガス発生量は,共発酵資 材投入開始直後のガス発生量が不安定な期間を除いた実 験期間中における,発酵槽容積あたりメタンガス発生量 の平均値である。また,図中データラベルの括弧 [ ] 内に,各実験における対照区のメタンガス発生量を 100 とした場合の,共発酵資材投入によるメタンガス発生量 増加率,および発酵槽容積あたりメタンガス発生量の標 図中括弧 [増加率,標準偏差] は各実験の対照区に対する共発酵資材投入区の発酵槽 容積あたりメタンガス発生量増加率,および発酵槽容積あたりメタンガス発生量の標 準偏差。 図 2 発酵槽容積あたりメタンガス発生量準偏差を示した ([増加率,標準偏差])。 いずれの共発酵資材投入区においても発酵槽容積あた りメタンガス発生量に対してその標準偏差は小さく,安 定してメタンガスが発生していた。牛ふん尿からの発酵 槽あたりメタンガス発生量が 0.47 L/L・day であったの に対して,脂質 8 % 投入区では 2.31 L/L・day,炭水化 物 8 % 投入区では 1.50 L/L・day,たんぱく質 3 % 投入 区では 0.71 L/L・day と,脂質,炭水化物,たんぱく質 のいずれを主成分とする共発酵資材においても,発酵槽 容積あたりメタンガス発生量は増加した。特に脂質 8% 投入区の発酵槽あたりメタンガス発生量増加率は 499% と高かった。 3.2 投入 VS あたりメタンガス発生量 図 3 に共発酵資材の投入 VS あたりメタンガス発生量 と共発酵資材 VS 負荷との関係を示す。メタン発酵が正 常に行われた共発酵資材投入区では,共発酵資材の投入 VS あたりメタンガス発生量は共発酵資材 VS 負荷に影 響されずほぼ一定であった。バイオガスプロセスに発酵 阻害が発生すると,まず投入 VS あたりメタンガス発生 量やメタンガス濃度などの発酵性能の低下がみられ,最 終的には発酵プロセスが完全に停止する。図より VS 負 荷の上昇に伴う投入 VS あたりメタンガス発生量の低下 はみられないため,炭水化物 8%投入区,脂質 8%投入 区,たんぱく質 3%投入区の共発酵資材 VS 負荷までは 発酵阻害は発生しなかったと考えられる。よって,パン 粉 2.2 gVS/L・day,バター 2.4 gVS/L・day,プロテイ ン 0.8 gVS/L・day が,各共発酵資材の投入による発酵 性能の低下が発生しない共発酵資材限界 VS 負荷だと考 えられる。表 1 に示すように,これらの共発酵資材は三 大栄養素の各成分を主成分としているため,上記のパン 粉,バター,プロテインの限界 VS 負荷は牛ふん尿の中 温メタン発酵における,それぞれ炭水化物,脂質,たん ぱく質の限界 VS 負荷に近似すると考えられる。 各実験の対照区における牛ふん尿スラリーの投入 VS あたり平均メタンガス発生量は,共発酵資材と比較して 小さく 0.23 L/gVS (標準偏差 0.02) であった。これは, 牛ふん尿スラリーは難分解性炭水化物であるセルロース を多く含有しているためと考えられる。 共発酵資材の投入 VS あたり平均メタンガス発生量は バターが最も大きく 0.82 L/gVS (標準偏差 0.04),次い でパン粉 0.42 L/gVS (標準偏差 0.03),プロテイン 0.31 L/gVS (標準偏差 0.03) の順であった。パン粉中には 約 21%w. b. の脂質およびたんぱく質が含有されている。 バターおよびプロテインの投入 VS あたりメタンガス発 生量を用いてパン粉の投入 VS あたりメタンガス発生量 を補正すると,パン粉中炭水化物のメタンガス発生量は 0.39 L/gVS であった。 Angelidaki et al.1)による三大栄養素のメタンガス発生 量理論値から算出した,これらの共発酵資材のメタンガ ス 発 生 量 理 論 値 は バ タ ー 0.82 L/gVS,パ ン 粉 0.42 L/gVS,プロテイン 0.31 L/gVS である。よって本実験 における共発酵資材のメタンガス発生量理論値達成率は バター 81%,パン粉 85%,プロテイン 54% であった。 プロテインはスポーツ選手用サプリメントであり,体 内摂取後速やかに分解吸収されるように設計されている ために,プロテインがバターおよびパン粉と比較して著 しく難分解性有機物を含有しているとは考えられない。 それにもかかわらず,たんぱく質のメタンガス発生量理 論値達成率は脂質および炭水化物と比較して低かった。 この原因については,後節 3.4 において考察する。 3.3 VFA 濃度 表 3 に発酵が正常に行われた共発酵資材投入区の実験 終了時の VFA,アンモニア態窒素,硫化水素の各濃度, VS, pH を示す。 たんぱく質 1%投入区 (共発酵資材 VS 負荷 0.2 gVS/ L・day) の VFA 濃度は 2,860 mg/L であった。これは 共発酵資材 VS 負荷が 2 倍以上の脂質 2%投入区および 炭水化物 2%投入区を上回る VFA 濃度である (表 3 参 照)。また,たんぱく質 3%投入区の VFA 濃度は 4,740 mg/L であった。これは共発酵資材 VS 負荷が約 1.4 倍 の脂質 2%投入区および炭水化物 2%投入区の 2 倍以上 の VFA 濃度である (表 3 参照)。以上より,たんぱく 質のメタン発酵プロセスでは,脂質,炭水化物と比較し て VFA が蓄積しやすいと考えられる。VFA はメタン 図 3 投入 VS あたりメタンガス発生量と共発酵資材 VS 負荷との関係
発酵の中間生成物であり,VFA の分解によりメタンガ スは生成される。よって VFA の蓄積は,VFA からメ タンガスを生成するメタン生成菌の VFA 分解速度が低 かったことが原因だと考えられる。このために,たんぱ く質投入区のメタンガス発生量理論値達成率は,脂質お よび炭水化物と比較して小さかったと考えられる。 脂質 2%投入区および 4%投入区,炭水化物 2%投入 区および 4%投入区の VFA 濃度は,牛ふん尿のみを投 入した対照区とほぼ等しかった (表 3 参照)。バターお よびパン粉の分解によって生成された VFA は,蓄積す ることなくメタン生成菌によりメタンガスに分解された と考えられる。また,この時の発酵槽容積あたりメタン ガス発生量増加率は,脂質 4 % 投入区で 283%,炭水化 物 4 % 投入区で 211% であった。以上より,脂質 4 % 投 入区および炭水化物 4%投入区の共発酵資材 VS 負荷で ある 1.1gVS/L・day 程度の脂質および炭水化物の投入 は,メタン発酵プロセスに大きな影響は与えず,牛ふん 尿単独発酵と同等の発酵安定性を確保したまま,メタン ガス発生量を大きく増加させることが可能であると考え られる。 一方,たんぱく質 1%投入区 (共発酵資材 VS 負荷 0.2 gVS/L・day) では,投入 VS 負荷が小さいにもかかわ らず,VFA 濃度は対照区平均値の 2,050 mg/L から 2,860 mg/L まで増加した。たんぱく質の投入は,低い 共発酵資材 VS 負荷においてもメタン発酵プロセスに影 響すると考えられる。 3.4 アンモニア態窒素濃度 たんぱく質は窒素を含有しており,その嫌気性分解過 程ではアンモニア態窒素が生成される。このため,たん ぱく質投入区ではアンモニア態窒素濃度が増加した。ア ンモニアは細菌の成長に必須の栄養素ではあるが,高濃 度のアンモニア態窒素は発酵プロセスを阻害する10-13)。 pH8 のし尿汚泥の中温メタン発酵では,アンモニア態 窒素濃度 3,017 mgNH4-N /L において初期の発酵阻害 が発生する14)と報告されている。たんぱく質 3%投入区 のアンモニア態窒素濃度はこの値を大きく上回る 5,090 mgNH4-N/L であったが,投入 VS あたりメタンガス発 生量についての考察から,発酵阻害は発生しなかったと 考えられる。アンモニア態窒素の発酵阻害濃度は,発酵 菌群の種類やアンモニア態窒素に対する順応度により異 なるためと推察される。 しかし,上述のようにアンモニア態窒素はメタン生成 菌に対して強い毒性をもっている。また,メタン生成菌 は VFA を生成する酸発酵菌よりも,アンモニア態窒素 による阻害を受けやすい。そのために,低い投入 VS 負 荷においてもたんぱく質分解時にはメタン生成菌の VFA 分解速度が遅くなり,その結果,たんぱく質投入 区の投入 VS あたりメタンガス発生量は恒常的に理論値 を大きく下回った (理論値達成率 54%) と推察される。 脂質投入区ではアンモニア態窒素濃度は減少した。バ ターには窒素が含有されていないためだと考えられる。 炭水化物投入区ではアンモニア態窒素濃度の減少は確認 できなかったが,これはパン粉がたんぱく質を 14.6% 含有しているためだと考えられる。 3.5 メタンガス濃度 図 4 に共発酵資材の分解により発生するメタンガス濃 度と共発酵資材 VS 負荷との関係を示す。メタン発酵が 正常に行われた共発酵資材投入区では,共発酵資材のメ タンガス濃度は共発酵資材 VS 負荷に影響されずほぼ一 2,170 2,330 1,840 4.0 7.8 2,050 2,750 2,640 3.7 7.9 たんぱく質投入区 炭水化物投入区 脂質投入区 対照区 VFA 濃度 (mg/L) NH4-N 濃度 (mg/L) H2S 濃度 (mg/Lgas) VS (%w. b.) pH 表 3 実験結果 (VFA,アンモニア態窒素,硫化水素,VS,pH) 1 % 4 % 2 % 8 % 4 % 2 % 4,740 5,090 5,850 4.0 8.2 2,860 3,410 4,460 3.7 7.9 3,230 2,880 1,600 4.6 8.3 2,360 2,980 1,700 4.4 7.7 2,380 2,880 1,980 4.2 7.7 4,610 1,980 780 4.6 7.9 1,940 2,180 1,310 4.0 7.8 8 % 3 % 図 4 メタンガス濃度と共発酵資材 VS 負荷との関係
定であった。投入 VS あたりメタンガス発生量と同様に, VS 負荷の上昇に伴うメタンガス濃度の低下はみられな かった。これは,炭水化物 8%投入区,脂質 8%投入区, たんぱく質 3%投入区の共発酵資材 VS 負荷までは発酵 阻害は発生しなかったとする,前述の考察を支持するも のである。 共発酵資材のメタンガス濃度はバターが最も高く 68% (標準偏差 1),次いでプロテイン 64% (標準偏差 1),パン粉 57% (標準偏差 2) であった。パン粉中に含 有されている約 21%w.b.の脂質およびたんぱく質を考慮 し,バターおよびプロテインの投入 VS あたりメタンガ ス発生量を用いてパン粉の投入 VS あたりメタンガス発 生量を補正すると,パン粉中炭水化物のメタンガス濃度 は 54% であった。Schulz et al.8)はたんぱく質のメタン ガス濃度理論値が三大栄養素中で最も高く 71% と, Mudrack et al.9)も同様に,たんぱく質のメタンガス濃度 が最も高く 84% と報告している。しかし,本実験では バターのメタンガス濃度が最も高かった。前述のアンモ ニア態窒素濃度に関する考察と同様に,実際のたんぱく 質のメタン発酵ではアンモニア態窒素のメタン生成菌に 対する強い毒性により恒常的に発酵性能が低下するため に,プロテインのメタンガス濃度は理論値を大きく下 回ったと考えられる。 実際の食品廃棄物のバイオガスプラントへの投入にお いては,メタンガス濃度の増加が最も期待できる食品廃 棄物は脂質を主成分としたものであると考えられる。 本実験では牛ふん尿スラリーのメタンガス濃度は 64% (標準偏差 1) であったが,家畜ふん尿処理用バイ オガスプラントのメタンガス濃度は一般に 50%〜60% で運転されており,脂質およびたんぱく質を主成分とし た食品廃棄物によりメタンガス濃度の増加が期待できる と考えられる。 3.6 硫化水素濃度校閲 たんぱく質投入区の硫化水素濃度 (1%投入区:4,460 ppm,3 % 投入区:5,850 ppm) は対照区平均値 (2,640 ppm) と比較して高かった。これはたんぱく質が硫黄を 含有しているためと考えられる。脂質投入区および炭水 化物投入区では硫化水素濃度は減少した (表 3 参照)。 脂質および炭水化物は硫黄を含有していないために,共 発酵資材の投入によるメタンガス発生量の増加により硫 化水素濃度が相対的に減少したと考えられる。 生物脱硫装置の脱硫性能が不安定なバイオガスプラン トでは,たんぱく質を主成分とする食品廃棄物の投入を 避けて,脂質および炭水化物を主成分とする食品廃棄物 を投入することにより,脱硫装置に負担をかけることな くバイオガス発生量を増加させることが可能だと考えら れる。また,酸化鉄脱硫装置を有するプラントにおいて も脱硫コストを低減させることが可能である。
4.結
論
牛ふん尿の中温発酵における食品廃棄物の発酵特性を 基礎的に調べるために,食品廃棄物の主要な栄養成分で ある脂質・たんぱく質・炭水化物の三大栄養素別の共発 酵資材 (バター,プロテイン,パン粉) がメタンガス発 生量,メタンガス濃度などの発酵性能に及ぼす影響を調 査した。 三大栄養素のいずれを主成分とする共発酵資材におい ても発酵槽容積あたりメタンガス発生量は増加した。特 に脂質 8%投入区では,発酵槽あたりメタンガス発生量 増加率は 499% と高かった。共発酵による発酵性能の低 下が発生しない共発酵資材の限界 VS 負荷は,パン粉 2.2 gVS/L・day,バター 2.4 gVS/L・day,プロテイン 0.8 gVS/L・day であった。共発酵資材の投入 VS あた り平均メタンガス発生量はバターが最も大きく 0.82 L/gVS,次 い で パ ン 粉 0.42 L/gVS,プ ロ テ イ ン 0.31 L/gVS の順であった。プロテインのメタンガス発生量 は理論値の 54% と低かった。たんぱく質の共発酵では 発酵阻害物質であるアンモニアが発生するためと考えら れる。 脂 質 お よ び 炭 水 化 物 の 共 発 酵 資 材 VS 負 荷 1.1 gVS/L・day 程度での投入では,牛ふん尿の単独発酵と 同等の発酵安定性を確保したまま,発酵槽容積あたりメ タンガス発生量を牛ふん尿単独発酵時と比較して脂質の 投入で約 3 倍,炭水化物の投入で約 2 倍に増加させるこ とが可能であった。一方たんぱく質の投入では,低い共 発酵資材 VS 負荷 (0.2 gVS/L・day) においても VFA の蓄積がみられた。 共発酵資材のメタンガス濃度はバターが最も高く 68%,次いでプロテイン 64%,パン粉 57% であった。 たんぱく質は硫黄を含有しているため,たんぱく質投入 区の硫化水素濃度 (1 % 投入区:4,460 ppm,3 % 投入 区:5,850 ppm) は対照区平均値 (2,640 ppm) と比較し て高かった。 参 考 文 献1 ) I. Angelidaki and L. Ellegaard : Codigestion of Manure and Organic Wastes in Centralized Biogas Plants : Status and Future Trends, Applied Biochemistry and Biotechnology, Vol. 109, pp. 95-105 (2003)
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9 ) K. Mudrack and S.Kunst:生物学的下水処理の理論と 技術,山海堂,pp. 202-208 (1999)
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12) I. Angelidaki and B. K. Ahring : Thermophilic Anaero-bic Digestion of Livestock Waste : The Effect of Ammo-nia, Applied Microbiology and Biotechnology, Vol. 38, pp. 560-564 (1993)
13) R. Nakakubo, H. Møller, A. M. Nielsen and J. Matsuda : Ammonia Inhibition of Methanogenesis and Identifi-cation of Process Indicators during Anaerobic Diges-tion, Environmental Engineering Science (Submitted) 14) J. Lay, Y. Li and T. Noike : The Influence of pH and Ammonia Concentration on the Methane Production in High-solids Digestion Processes, Water Environment Research, Vol. 70, No. 5, pp. 1075-1082 (1998)
Effects of Cosubstrates on the Anaerobic Digestion of Cattle Manure
Ryoh Nakakubo*, Tetsuya Ishida**, Juzo Matsuda* and Kazuhiko Ohmiya*
* Graduate School of Agriculture, Hokkaido University ** Civil Engineering Research Institute of Hokkaido
† Correspondence should be addressed to Ryoh Nakakubo :
Graduate School of Agriculture, Hokkaido University (Kita 9 Nishi 9, Kita-ku, Sapporo 060-8589 Japan)
Abstract
Methane gas yields and production processes were studied in laboratory experiments on the codigestion of cattle manure with organic cosubstrates using digesters with an effective volume of 6 liters maintained at a mesophilic temperature of 37℃ and with a hydraulic retention times of 30 days. Butter, breadcrumbs and protein supplements were used as cosubstrates. We found that lipids, carbohydrates and proteins contribute differently when used as cosubstrates for cattle manure digestion. The maximum loading rates of the cosubstrates before they inhibit methanogenesis were 2.2 gVS/L per day for breadcrumbs, 2.4 gVS/L per day for butter and 0.8 gVS/L per day for protein. We measured methane gas (CH4) yields per amount of
volatile solids (VS) for each cosubstrate. Butter showed the highest yield (0.82 L/gVSlipidat 68 percent
concentration). The yield of breadcrumbs was second highest (0.42 L/gVScarboat 57 percent). Protein yield
ranked third (0.31 L/gVSproteinat 64 percent) and was only 54 percent of the theoretical methane yield of
protein. NH4-N generated by protein codigestion seemed to inhibit methanogenesis even at low loading
rates.