要旨
地球温暖化防止を目指した低炭素社会の構築や,福島第一原子力発電所事故の影響による 各電力会社での原子力発電所停止状態での節電要請などを背景に,一層の省エネルギーの推 進が求められてきている。本研究では,本学をはじめとする熊本市内主要大学でのエネル ギー消費特性や CO2排出量の比較を行った。さらに,節電要請のあった2011年夏季での電力 消費量を基に,昨年夏季との比較を行った。それらの結果,本学では九品寺キャンパスの方 が楡木キャンパスより約2割強エネルギー消費密度が大きい事や,2011年夏季はほとんどの 大学で2010年比で10%近い節電がなされていたことが判った。Summary
For a background of construction of a low carbon society which aimed at global warming prevention
and electric power shortage by the stop of the nuclear power plant under the infl uence of a nuclear power plant accident, promotion of much more energy saving is needed. In this research, I performed comparison of the energy consumption characteristic in six universities including Shokei University in Kumamoto city , or comparison of CO2
emissions.
This research shows that the Kuhonji campus had a little more than about twenty-percent energy consumption density larger than Nirenoki campus at Shokei university. Furthermore, it turned out that nearly ten percent power saving was made at almost all universities the 2011 summer.
Key words : energy consumption density, CO 2 emissions,electric power used,power-saving eff ect
尚絅学園のエネルギー消費特性と
熊本市内主要大学との比較に関する研究
石 原 修
Research on the energy consumption characteristic of Shokei Gakuen
and comparison with the main universities in Kumamoto city
1.はじめに
1992年リオデジャネイロで開催された地球サミットで採択された「気候変動枠組み条約締 約」を受けて,1997年京都で開催された気候変動枠組み条約締約第3回締約国会議(COP3) での京都議定書にある CO2削減の目標年(2008年∼2012年)が目前に迫ってきた。我が国で も近年,低炭素社会の実現に向けて様々な施策や取り組みが実施されている。文部科学省で も,省エネルギー法改正(2010年4月完全施行)に伴い,多くの大学が改正省エネルギー法 での特定事業者に指定される背景から,大学施設等での中長期省エネルギー計画策定の指導 を始め,年率最低1%の省エネルギー達成に向けての指導が始まっている。 さらに,2011年3月11日に発生した「東日本大震災」に伴う,福島第一原子力発電所事故 の影響を受けて,各電力会社の原子力発電所の定期点検後の運転再開ができない状況から, 夏季・冬季での電力不足が懸念され,節電要請が出される状態となっている。 本研究では,尚絅学園でのエネルギー消費の実態を調査し,さらに熊本市内にある主要5 大学のエネルギー消費量の調査を行い,経年変化や各大学での構成学部(理系・文系・医薬 系等)でのエネルギー消費の特徴を分析する。また,最近4年間の夏季電力消費量等につい ても検討し,特に節電要請のあった2011年夏季での節電効果について検証する。2.調査対象大学の概要
本報告で対象とした大学は,本学を始め熊本市内にある主要6大学であり,それぞれの大 学の構成学部数,学生数や教職員数,延床面積等を表−1および表−2に示す。表中の数値 は2011年5月1日現在でのものである。 GE 大学は文系主体の大学で,HK大学は医療技術系大学,KM 大学は附属病院等を持つ 総合大学である。KR 大学は文系と理系の学生比率が凡そ4対1であり,SJ 大学は理系主体の 大学である。なお,本学に関しては,九品寺キャンパスと楡木キャンパスを個別に分析して, 両者の比較も行なっている。 表−1 尚絅学園の施設概要(2011年5月時点) 大学名 尚絅学園 九品寺キャンパス 楡木キャンパス 学部数 2 1 1 短期大学部 3 2 1 附属施設 中学・高校・幼稚園 中学・高校 幼稚園 学生数 2,150 1,320 830 教職員数 220 140 80 学生/教員 15.9 17.3 14.5 延床面積 m2 45,977 27,701 18,276 構成員密度 人/100m2 5.15 5.27 4.98 その他 学生寮※1 ― 学生寮※1 但し,※1:学生寮はキャンパス内にあるが,エネルギー消費量は別計測のため,計算には含まずKM 大学については,医学部・附属病院でのエネルギー消費量が大学全体の約55%を占め ており,他大学とは比較にならない程大きなエネルギー消費密度となっていることから,大 学全体でのエネルギー消費量は本論文での解析対象から外し,自然科学系のみのキャンパス (KM理系と表す)と人文科学系のみのキャンパス(KM文系と表す)について個別に分析 対象としている。 一教員当たりの学生数では,GE 大学が最も多くて約38人,次いでKR大学が約24人と なっており,その他の大学では約15人程度となっている。(但し,この数値では本学での付 属学校・幼稚園の生徒数と教員数は除外している。)また,単位延床面積当たりの構成員 (学生と教職員を含む)では,GE 大学が最も高く,他の大学では概ね同じ程度となっている。 本学,GE 大学,KM 大学および SJ 大学は附属学校を併設しているが,GE 大学と SJ 大 学ではエネルギー消費量の計測が別になっているため,分析対象からは除外している。 HK 大学は,全国の大学ではトップクラスである約500k Wp の太陽光発電システムを設 置している。晴天日の休日には電力会社への売電も見られる。太陽光システムでの発電量の データが日単位でしか取得できないため,HK 大学の時刻別電力消費量の分析は電力会社か らの買電のみの結果となっている。 月別のエネルギー使用量(ガス,油等)は,2007年度から2010年度の4年間のデータを各 大学の担当部署に依頼して収集し,時刻別電力使用量のデータは九州電力㈱熊本支社に依頼 して入手している。 エネルギー別の発熱量や CO2排出係数は,資源エネルギー庁ホームページ資料を使用して いるが,電力と都市ガスの CO2排出係数は,それぞれ九州電力㈱ホームページと西部ガス㈱ ホームページの資料を使用している。 表−2 熊本市内主要大学の施設概要(2011年5月時点) 大学名 GE 大学 HK 大学 KM 大学 KR 大学 SJ 大学 学部数 4 1 7 3 5 研究科数 6 1 8 3 2 附属施設 ※1 ― 病院※1 ― ―※1 学生数 6,850 1,430 11,650 2,270 3,590 教職員数 370 150 3,500 130 140 学生/教員 38.1 13.1 理系12.4 文系15.1 24.1 13.8 延床面積 m2 78,400 25,770 理系93,183 文系69,943 42,200 88,500 構成員密度 人/100m2 9.21 6.13 理系5.54 文系8.11 5.68 4.21 その他 ― 1別科 ― ― ― 但し,※1:付属学校があるが,エネルギー消費量は別計測のため,計算には含まず
3. 分析結果
3-1 エネルギー消費量や CO
2排出量の大学別比較
各大学の月別・エネルギー種別発熱量と CO2排出量を,2007年度から2010年度までの4年 分算出している。 図−1に,大学別の延床面積当たりエネルギー消費量を示す。各大学共に電力の占める割 合が70%以上であり,特に本学とKM大学理系では95%超の依存率となっている。重油や灯 油は空調用のボイラーや自家発電用での使用であるが,HK 大学,KM大学と S J大学以外 での使用はない。ガス使用のほとんどはガス空調用である。4年間でのエネルギー消費量の 経年変化を見ると,本学は凡そ横ばいの状態で推移しており,KM大では,理系・文系共に 増加傾向が見られる。さらに,本学での九品寺キャンパスと楡木キャンパスを比較すると, 九品寺キャンパスの方が延床面積当たりのエネルギー消費量は約2割強多い事が判る。なお, HK大学での2010年度の増加は,校舎新設に伴う工事用電力消費量が加わっているためである。 通常,エネルギー消費特性の分析では,延床面積当たりの消費量で比較されるが,表−2 に見られるように,在住人員(構成員)密度に差異があるため,本研究では人員当たりの消 費量でも分析している。(楡木キャンパスでは,幼稚園児数を半分にして計算している。) 図−2には,大学別の構成人員一人当たりのエネルギー消費量を示す。文系大学と理系大 学を比較すると,エネルギー消費量に特徴が見られ,その比率が凡そ1:2となっている。 KM大学医学系は理系の2倍となっている1) ので,総合的には文系:理系:医学系で1: 2:4の比率であると言える。 S J大学では,重油を使用する自家発電設備を設置している。2008年度から,油価格の高 騰や CO2排出量削減のため,自家発電設備の運転方法の変更を行い,電力ピーク負荷対応型 へ移行している。そのため,2008年度からエネルギー消費削減効果や CO2排出量削減効果が 顕著に表れている。 図−3には,大学別の延床面積当たりの CO2排出量を示す。さらに,図−4には,大学別 の構成人員一人当たりの CO2排出量を示す。エネルギー消費量の図と比較すると,ガスや重 油・灯油等の使用量の多少により,CO2排出量に影響を及ぼしていることが判る。 これらの結果から,文系大学では400kg /人・年,理系大学では800kg /人・年,医学 部・附属病院系では約1800kg /人・年の CO2を排出していることが判る。3-2 時刻別電力消費量の分析結果
ここでは,各大学の時刻別電力消費量のデータを基に,2010年度の平日と土日・祝祭日と に分けて,電力消費量を求めた。土日・祝祭日には,夏季一斉休業日や年末年始一斉休業日 (大学によって日数は異なる)を追加している。さらに,入学試験やオープンキャンパスな どの大学行事があった日は除いている。図 1 延床面積当たりエネルギー消費量 [MJ/m2 ] 図 - 2 人員当たりエネルギー消費量 [GJ/ 人 ] 図 -3 延床面積当たり CO2排出量 [tCO2/m 2 ] 図 - 4 人員当たり CO2排出量 [tCO2/ 人 ] 図 -5 平日休日での電力消費量の日変化 (尚絅大学,2010年度,[kWh/ 人])
図−5に本学での結果を示し,図−6から図−11に,各大学での2010年度平日と土日・祝 日の時刻別電力消費量の変化を示す。大学毎の比較を容易にするため,消費電力量は人員当 たりで表示している。 GE 大学では,休日での電力消費量のピークが大きく,KM 大学理系や KR 大学では夜間 での電力消費(ベース電力)が多く平日ピークの約半分弱を占めている。一般的な傾向とし ては,ベース電力量は理系キャンパスで日積算電力消費量の約50∼65%程度,文系キャンパ スで30%前後でとなっている。HK 大学では約500k Wp の太陽光発電システムからの電力 供給が昼間に存在するため,日中の電力会社からの供給が大きく減少している。S J大学は ピーク時に重油焚き自家発電を運転しているため,昼間の電力消費量の伸びがなだらかと なっていることがわかる。 図−12,図−13に,本学での2010年度中間季,夏季(冷房期間),冬季(暖房期間)の平 日の消費電力量の日変化を示す。夏季・冬季のピーク電力量を比較すると,楡木キャンパス は九品寺キャンパスの約60%程度となっている。さらに九品寺キャンパスでは,夏季と冬季 の電力消費量は同程度であり,ピーク発生時刻が冬季の方が約3時間早い。楡木キャンパス では,冬季のピークの方が約50kWh大きくなっている。これらの原因として,①九品寺 キャンパスの1号館を始め比較的新しい建物が多く,気密性・風通しの面で,冷房負荷が大 きく暖房負荷が小さな構造であること,②楡木キャンパスは開放的な建物であることと,空 調機器が非常に古くなって効率が悪いこと,などが考えられる。 近年,空調用熱源機器(ヒートポンプ)の効率は,15年前の約2倍,10年前と比較しても 約5割程度向上していることから,楡木キャンパスでの空調用熱源機器の更新を行なったと すると,夏季平日60日間で約90万円,冬季平日80日間で約150万円の電力料金の削減につな がるものと試算される。
4.夏季電力量の経年変化
「はじめに」でも述べたように,原子力発電所の稼働停止による電力不足から,2011年の 夏季は国や電力会社からの節電要請があり,各大学でも節電への協力や節電対策がなされた。 図−14に,調査対象大学での夏季3か月間の電力消費量の4年間の経年変化を示す。 本学では,2010年夏季と比較すると約10%弱の節電効果が見られる。最も削減率の大きい のはKM大学文系で約17%であり,KR大学以外は5%から10%の節電効果が見られる。 HK大学の2010年は校舎建設の工事用電力消費の影響で電力量が大きく出ているため,2009 年と比較すると約3%の節電となっている。 図−15に,熊本市・福岡市・鹿児島市・東京都での2008年から2011年までの4年間の夏季 の真夏日(最高気温が30℃以上の日),猛暑日(最高気温が35℃以上の日)および熱帯夜 (最低気温が25℃以上の日)の日数を示す。熊本市での2011年夏季は2010年よりも凌ぎやす図 - 6 平日休日での電力消費量の日変化 (GE大学,2010年度,[kWh/ 人]) 図 - 7 平日休日での電力消費量の日変化 (HK大学,2010年度,[kWh/ 人]) 図 - 8 平日休日での電力消費量の日変化 (KM大学理系,2010年度,[kWh/ 人]) 図 - 9 平日休日での電力消費量の日変化 (KM大学文系,2010年度,[kWh/ 人]) 図 -10 平日休日での電力消費量の日変化 (KR大学,2010年度,[kWh/ 人]) 図 -11 平日休日での電力消費量の日変化 (SJ大学,2010年度,[kWh/ 人])
図 -12 九品寺キャンパスでの 季節別電力消費量の日変化[kWh]
図 -13 楡木キャンパスでの 季節別電力消費量の日変化[kWh]
く,猛暑日も2010年の1/3程度であった。このような外気温の影響を加味すると, 節電対策の効果は若干割り引く必要があると思われるが,節電要請の5%はクリアしていた と考えられる。