後天性免疫不全症候群患者を受人れて
一感染予防を考えるー
内科病棟 ○上田 佐夜 岡林 安代 岡林 美葉 須賀 由佳 渡部 浩子 松本 百世 広田 和子 押川 敬子 I はじめに後天性免疫不全症候群は, Human Immunodeficiency Virus (以下HIVと略す)の感染に より起こる疾患で,死亡率が高く有効な予防法,治療が確立されていない。 当病棟は,HIV抗体陽性で後天性免疫不全症候群の疑いの濃い患者2名を受入れ,看護 を行った。当初はスタッフの間でも,マスメディアで取り上げられる程度の知識しかなく, 勉強会をもち情報を得た。 アメリカのMMwR1)によれば,血液,精液以外に,その他の体液,分泌物,排泄物から もHlvが分離されている。感染経路として性的接触,輸血が主なものとして知られている。 日常の接触による感染の報告はまだないが,当病棟には免疫力の低下した患者も多いため, 院内感染の危険もあり,確実な感染予防を目指して,一般病棟でできる限りの方法を考えた ので,ここに報告する。 H 期 間 昭和61年2月18日∼11月12日 m 経 過 入院当初は,厚生省の「後天性免疫不全症候群患者発生時における留意点」2)に基づき, 患者は個室に収容し,看護を行った。 病室内は咳や痰,発熱時の発汗等で汚染されているため,室内で着用したガウンを室外に 出せない,室内にガウンを保存できない,などの理由から,着用毎に使い捨てできる事が望 ましいと考えて,ディスポのガウンを使用した。 入室時,ディスポのガウン,マスク,キャップ,ゴム手袋を使用した。手袋1枚では破れ る可能性があるので,二重にした。ナースサンダルは,露出している部分が多くて汚染する
ガウンテクニックを行うにあたっては,担当医から患者に対して「後天性免疫不全症候群 の疑いがあり,患者のもつ細菌やウイルスを免疫力の低下している他の患者に絶対に運んで はならないため」と説明され,患者からの不満の訴えはなかった。 退室時は,ガウンから露出している部分に汚物が付着している可能性があるため,病室内 と詰め所でエタノールを全身に噴霧するようにした。 安静度は,入院当初は重症感染症があり,室内安静であった。患者の症状が緩和するに従 い,室外に出ることを希望するようになった。文献からも1ト7),行動範囲を室内に限定し なくても支障ないと判断し,退院前には自由歩行に拡大された。しかし,私達医療従事者は 病室内での開放創のガーゼ交換や,発熱や下痢に対するケアなど濃厚な接触の機会が多いだ め,ガウンテクニックを続けた。 HIVに有効な消毒薬としてピューラックス,エタノールが知られており,これを器材の 消毒と室内の清掃に使用した。ピューラックスは金属腐蝕性が強いこと,エタノールは揮発 性と高価であることが問題となった。ステリバイトも有効であることを知り,これに変更し て器材が錆びる問題は改善された。しかし刺激臭があること,蛋白凝固性があり,血液の付 着した器材の消毒には不適当と考えられた。現在は,無臭,無色透明で,5分以内でウイル スを不活化する医療用アルカリ性洗剤のマーククリーンを使用している。 取扱い上最も注意を要するものとして,注射針がある。医療従事者が, HIVに感染した 例として,患者に使用した針にキャップをしようとして,自分に刺した2例が報告されてい る。私達も,日常の看護業務の中で,キャップをする時に誤って針を刺したナースが過去一 年間に3人いた。このことからも,針にキャップをすることは非常に危険なことであり,針 には,絶対にキャップはしないということを原則にしている。針は,容器に入れやすいこと, 焼却できるというメリットから,プラスチックの広口容器に2%マーククリーンを入れ,注 射器ごといれて焼却している。 ゴミは,二重にしたビニール袋に入れ,感染症と明示して通常通りに捨てている。血液や 膿汁などで汚染したものは,マーククリーンに浸して当事者が直接焼却場へ運び,すぐに焼 却処分するようにしている。
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Ⅳ 考 察 現在私達が実施している感染予防の方法で医療従事者が感染することや,他への媒介とな ることは防がれていると考える。これを実証することはできないが,昭和61年2月から患者 を受入れてケアしてきた医師,ナースの血液中のHIV抗体検査は,全員陰性であった。 HIVに有効な消毒方法として,一番に,オートクレーブがあげられるが,今のところ汚 染した器材等をそのまま消毒するためのものはない。今後,積極的に取り入れて行く方向で 働き掛けるつもりである。病棟では,一般的に薬液による消毒を行っている。現在は,マー ククリーンが消毒や清掃など色々な方面で,使いやすく有効である。これを使用したことに よる問題は起こっていないが,これからも他の薬剤も含めて情報を集め,利用法を考えて行 こうと思っている。 針の処理方法に関しては,今の方法で事故を防ぐ事ができ,同時に,ウイルスが直ちに不 活化されるという目的も達せられている。 表1のような感染予防を実施して,時間がかかりすぎるという問題がでてきた。例えば1 回の入退室の手順だけで約4分かかり,1日の入室回数は最低7∼12回と考えれば,1日28 分∼48分を要する。更に清掃に20分,ゴミや清掃道具の始末に15分かかっている。2名の患 者は,発熱や下痢などの症状があり最高入室回数は,18回であった。今後は,入退室の方法 や清掃の方法を工夫することにより,時間の短縮を,検討していくつもりである。また,ディ スポ製品のコストは,ガウン1枚976円で,1日最低6,832円かかっており経費の面からも考 えて行かなければならない。 今回は取り上げなかったが,これらの方法を実施するためには,患者の協力が必要である。 今後は,疾患の理解と,社会生活自己管理ができるようさらに援助すると同時に,家族指導 も必要と考えている。 V おわりに 今回,ディスポ製品を使用する,注射針は絶対にキャップをしない,血液汚染のあるもの はマーククリーンで処理し焼却すれば,感染予防ができるであろうという結果を得た。 後天性免疫不全症候群に関しては,情報が刻々と変化しており,今後もそれに基づいて対 応していかなければならない。 また,患者の精神面や,家族の受入れは大きな問題であり,これからの課題である。
〈参考文献〉 1) MMWR:患率・死亡率週間報告, 9, 1983 2)厚生省保健医療局感染予防課:AIDS患者発生時等における留意点, 1986 3)北村敬:AIDSとその原因ウイルスメディカルイムノグラフィ, 11, p 181-187, 1986 4)北村敬:エイズ今世紀最大の医学の謎,朝日ソノラマ, 1986 5)南谷幹夫:後天性免疫不全症候群の疾患とその正しい理解,AIDS調査検討委員会作成。 9, 1986 6)阿部千乏:AIDSウイルスの感染とその予防,日本医事新報, 3226, p 130, 1986 7)新谷洋三:AIDSウイスルの消毒と不活性化,医療ジャーナル, 22, p 26-31, 1986