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小学校体育科における体つくり運動領域の「多様な動きをつくる運動」の(教科内容) に関する実践的研究

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†教科教育専攻 保健体育専修 指導教員:辻 延浩 原 著 論 文

小学校体育科における体つくり運動領域の

「多様な動きをつくる運動」の (教科内容) に

関する実践的研究

A Practical Study on “Essential Motions Leading to

Various Movements” in the Area of Physical Development

Exercise of Elementary-School Physical Education

Yoshifumi KITAMURA

Abstract

While a program of “essential motions leading to various movement” has been proposed in the area of physical development exercise, certain important points remain unclear ; for example, what specific outcomes we can expect through the practice of the program. In order to overcome this problem, we arrange the goals of exercise in terms of seven physical-coordination abilities, and we attempt to measure the degree of attainment concerning what specific abilities the students can develop through the program. In addition, we provide some discussions on the timelines of the program, focusing on ball-activities and rope-activities.

Through our research, we find that the program proves beneficial especially on the development of “an ability that coordinates entire body movements,” which is shown in the results of the drills of “jump over and crawl under,” sidesteps, zigzag, and standing broad jump. However, with a male-studentsf low score in attitude, we can point out that the program may need some improvement ; it can be regarded as being passive for the male students, while female students can be involved actively in the exercise of the program.

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第 1 章 緒 言 1.子どもたちが身につけるべき体力・運動 能力 子どもたちの体力・運動能力低下が心配され ている。平成 20 年告示の学習指導要領解説 (2008) の中にも,体育科改訂の趣旨として, 「体力の低下傾向が深刻な問題 (p4)」が挙げ られており,これからの大きな教育課題となる。 中村 (2009) は,今日のわが国の子どもの運 動能力低下問題について,「低年齢化」と「二 極化」の傾向を示していることを指摘している。 「低年齢化」の原因として,中村は,「乳幼児期 の子どもの生活体験,遊び体験の不足」を挙げ ている。加賀谷 (2008) も,「近年の子どもの 体力・運動能力は,すでに小学校就学前からの 低下を起こしている」と,同様の指摘をしてい る。一方,「二極化」とは,継続的に運動を実 施している活動的な子どもと,まったく運動を 実施していない非活動的な子どもに二極化して いることをあらわしている。加賀谷は二極化現 象について,学校保健調査の 1 週間の総運動量 調査を基に,「平成 16 年では,総時間が極めて 少ない方にもっとも高いピーク」があり,「比 較的運動時間が長いところにも第二のピークが ある」と説明している。中村は,「両者の間に は,基本的な動作習得と,運動量の格差が生じ ている」と述べている。継続的に運動を実施し ている子どもたちの問題も指摘されてきてい る。浅 井 (1996) は,診 療 現 場 の 立 場 か ら, 「運動不足の子どもが増加している一方,運動 をし過ぎる子どもも増加」しており,「運動の し過ぎにより,さまざまなスポーツ障害が起き ている」と指摘している。最もスポーツ障害を 誘発するスポーツのやり方について浅井は, 「幼少時期から 1 種目のスポーツしか行なわず, 技術的なことばかり教えたり,習得しようとす る姿勢と勝利主義である」としている。中村 (2009) も,「活動的な子どもにも問題がある」 と指摘し,「単一のスポーツのみの実施でとど まっていることが多く,運動量は確保されてい ても,基本的な動作の習得に問題がある」と述 べている。「低年齢化」と「二極化」のどちら にも共通することは,運動経験の不足から基本 的動作が未習得であるということが言えそうで ある。 さらに,中村 (2009) は,体力・運動能力の 低下をもたらす直接的な原因として「基本的な 動作の未習得」を挙げている。中村によれば, 「基本的な動作の習得」には,さまざまな動作 のレパートリーを増大し,バリエーションを拡 大させていく「動作の多様化」と,それぞれの 動作様式を上手にし,より合理的・合目的的な 動作に変容させていく「動作の洗練化」という 二つの方向がある。いまの子どもたちは,身体 活動を伴う遊びの消失や,単一スポーツのみの 実施によって,動作の多様化と洗練化ともに未 熟な段階にとどまっているのである。 以上のことから,今日の子どもたちの体に関 する問題は,「体力低下」と言うよりは,「基本 的動作の未習得」による「運動能力の低下」と 言えそうである。もちろん,広義に「体力」と 言う場合,基本的な動作ができることや運動能 力も含まれるのであるが,「体力」という言葉 が,筋力・持久力の面を強調して使われたり, 野井 (2009) が指摘しているように「防衛体 力」をイメージして使われたりしている現状を 考え,ここでは,「体力低下」というよりは 「運動能力の低下」と言うことにする。 運動能力低下については,1997 年にはすで に白石が,「自転車に乗れない,まっすぐ歩け ない,背骨が湾曲している,ちょっとしたこと で大けがをする,転んでもかばい手ができな かったりかばい手をした腕が折れたりする」と いった問題を指摘している。そして,そんな子 どもたちでも運動神経は伸ばすことができると 主張している。白石は,運動神経とは全身の動 きをコーディネートする能力であるとし,筋 力・持久力・敏捷性・柔軟性を「コーディネー トする」大脳の能力が運動神経の善し悪しと なって現れてくると述べている。 体育のアカウンタビリティが厳しく問われて いる今日において,体力を高めるという発想で はなく,体力要素をバランスよく協調させる能 力をすべての子どもたちに保障していくことが, これからの体育科に求められていると考えられ る。

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2.「多様な動きをつくる運動 (遊び)」で獲 得するべき体力要素 子どもたちの体力の現状や学習指導要領改訂 の経緯をふまえると,「体つくり運動」の中で も,特に低・中学年に新しく導入された「多様 な動きをつくる運動 (遊び)」が研究の対象と してクローズアップされていくべきであると考 える。文部科学省 (2008) により作成された 「多様な動きをつくる運動 (遊び)」のパンフ レットの中で,低・中学年の時期の特性につい て,「脳・神経系が急激に発達する時期であり, 見る,聞く,触れて感じるなど様々な感覚を働 かせたり,手や足をはじめとする多くの運動器 官を動かしたりしながら,体のバランスをとっ て運動すること,いろいろな方向に移動するこ と,用具などの動きにタイミングよく反応する こと,力の入れ具合を調整することなど基本的 な動きを習得することに適して」いるとして, 「多様な動きをつくる運動 (遊び)」では,「基 本的な動き」と「それらを同時に行なったり, 連続して行なったりするなど運動を組み合わせ ること」を身につけるとしている。つまり, 「多様な動きをつくる運動 (遊び)」で目指す方 向としての体力は,昭和 43 年の学習指導要領 に挙げられている体力要素の中の「調整力」で あるととらえることができる。このことは,先 述した白石 (1997) の「運動能力低下の子ども たちに必要な能力は,全身の動きをコーディ ネートする能力である」という主張とも合致し ている。低・中学年の「多様な動きをつくる運 動 (遊び)」では,子どもたちが進んで楽しく 運動 (遊び) に取り組む中で「調整力」を,つ まり「全身の動きをコーディネートする能力」 を培っていくことが求められると考える。この ことは,第 1 節で述べた今日の子どもたちの課 題と対応するものである。「多様な動きをつく る運動 (遊び)」の授業の結果として,「全身の 動きをコーディネートする能力」が高まってい くかを検証していくことが,これからの課題で あると考える。 文部科学省 (2008) により作成された「多様 な動きをつくる運動 (遊び)」のパンフレット 等には,活動の内容としての動作様式は示され ているものの,それぞれの運動でどのような 「全身をコーディネートする力」を育てるのか が書かれておらず,動作様式ごとに羅列的に活 動内容が示されているに過ぎない。このことは, 「全身の動きをコーディネートする能力」が分 化してとらえられるような能力ではなく,また, 測定し得るようなものではないとの考え方があ るものと推察される。 しかし,実際に授業を系統的に組み立て,展 開していくためには,「全身の動きをコーディ ネートする能力」の中身を捉える必要がある。 つまり,「全身の動きをコーディネートする能 力」とは具体的にどのような能力で構成されて おり,どのような運動の形で現れるのかを教師 が理解していなければ,指導をしたり評価をし たりすることはできないということである。こ のことが明らかにされていない現状では,「多 様な動きをつくる運動 (遊び)」の授業は,そ の曖昧さが原因となり,子どもたちに必要な運 動能力を獲得させていくことができないと考え る。 そこで,コ(オ)ーディネーショントレーニン グの理論を手がかりにする。 綿引 (1990) は,『東ドイツスポーツの強さ の秘密をコオーディネーションの理論に焦点を あてながら探る』とした著書の中で,「わが国 では,コオーディネーション能力という言葉に 調整力,協応性,協調という訳語をあててい る」と述べている。つまり,昭和 43 年の学習 指導要領の中に挙げられている「調整力」は, コ(オ)ーディネーションの理論を元にした考え 方ということができるのであり,その意味でも, コ(オ)ーディネーションの理論を手がかりにし て「全身の動きをコーディネートする能力」の 構成要素を捉えようとすることは意味があるも のと考える。 綿引 (1990) は,コオーディネーション能力 として 7 つの能力を挙げている。すなわち, 「分化能力」「結合能力」「反応能力」「定位能 力」「バランス能力」「運動変換能力」「リズム 化能力」である。 現在,日本で,コ(オ)ーディネーションのト レーニングの研究・普及に努めているのが NPO 法人日本コーディネーショントレーニン グ協会 (以下 JACOT) である。

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JACOT は,2005 年 3 月に設立され,子ども から高齢者・障がい者・アスリートまで広く国 民を対象として,コーディネーショントレーニ ングの普及を目指して活動し,国民各層に適応 したプログラムの開発,指導者養成,普及・交 流活動等の事業に積極的に取り組むことで,わ が国における子どもたちの運動能力の発達,各 種競技スポーツの振興,高齢者等を含む国民の 健康増進当に寄与するとしている (JACOT ラ イセンス教本,2010)。JACOT ライセンス教 本 (2010) によれば,コーディネーション能力 の捉え方は,必ずしも固定されたものではなく, 目的,対象によって異なる。そこで,JACOT では,7 つのコーディネーション能力をより実 践的なものにするため,表 1-1 のように定義し ている。 本研究では,「多様な動きをつくる運動」で 身につけさせるべき「全身の動きをコーディ ネートする能力」の構成要素を,JACOT の 7 つのコ(オ)ーディネーション能力で定義し,評 価法を位置づけることにした。 3.「全身の動きをコーディネートする能力」 の測定法 本研究では,「多様な動きをつくる運動 (遊 び)」で身につけるべき「全身の動きをコー ディネートする能力」を,JACOT (日本コー ディネーショントレーニング協会) が提案して いる 7 つの能力 (「連結能力」「分化能力」「バ ランス能力」「定位能力」「リズム化能力」「反 応能力」「変換能力」) で定義する。 しかし,これら 7 つの能力は,実際には複雑 にからみあって構成されるものであり,それぞ れの能力を個別に取り出すことは容易ではない。 それゆえに,1 つ 1 つの能力についてのアセス メントテストの開発には至っていないのが現状 である。 体育科授業におけるコ(オ)ーディネーション 能 力 の 伸 び を 測 定 し た 実 践 と し て,上 田 (2006) の実践がある。上田は,文部省 (1999) が体つくり運動の中で「体の柔らかさ及び巧み な動きを高めること」に重点を置いているにも かかわらず,肝心の「巧みさ」を評価するため の指標は,新体力テストにはみられないことを 指摘し,また,体力のうち「体の柔らかさ及び 巧みな動きを高める」というねらいについては, その具体的なプログラムとその効果を検証した 日本における報告は未だ寡少であるとして,コ オーディネーショントレーニングの体育授業へ の導入とアセスメントテストの実施を試みて いる。上田は,アセスメントテストとして小 林 (1989) ら に よ る BCT (Body Coordination Test) を 実 施 し,コ オ ー デ ィ ネ ー シ ョ ン ト レーニングを体つくり運動の授業単元に取り入 れることで,児童の体力を高める効果があるこ とを検証している。BCT は,Task 1 (後方歩 き),Task 2 (連続横跳び),Task 3 (横移動) からなり,その課題について上田は,「得意な 児 童 に と っ て は,得 点 上 限 が な い Task 2, Task 3 においては伸びが見られたが,得点の 上限がある Task 1 については,前後テストで 満点を記録する等,その能力を測定するにはテ ストが簡単すぎ,得点の伸びとして示されな かった」と述べている。 上田 (2010) は,コオーディネーション能力 を測定する方法について,栗本ら (1981) によ り開発された「調整力フィールドテスト」も紹 介している。上田は,「調整力フィールドテス ト」について,得点基準と総合評定が公表され ていて,比較的採用頻度が高いテストだと指摘 している。 上田が指摘している BCT の課題や「調整力 分 化 能 力 姿勢を保つことができ,崩れても元に戻すことができる能力 バランス能力 環境と自分との関係を把握し,自らの動きを方向付ける能力 定 位 能 力 外的なリズムを正確につかみ,内的なリズムのイメージ通りに運動できる能力 リズム化能力 刺激に対して素速く,正確に対処し運動できる能力 反 応 能 力 状況にあわせて,素早く動作を切り替えられる能力 変 換 能 力 身体の各部位 (上肢,下肢,体幹,頭部) や個々の動きを結びつけて,新しい運動を生み出せる能力 連 結 能 力 表 1-1 JACOT が掲げる 7 つのコーディネーション能力 状況に応じて運動部位の力・時間・空間を調整し,効率的に運動が行える能力

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フィールドテスト」の信頼性などを合わせて考 え,今回の研究では,「全身の動きをコーディ ネ ー ト す る 能 力」の 測 定 法 と し て「調 整 力 フ ィ ー ル ド テ ス ト」を 採 用 す る。「調 整 力 フィールドテスト」は,「とび越しくぐり」「反 復横とび」「ジグザグ走」の 3 種目からなるテ ストである (詳細は第 2 章「方法」で述べる)。 それに加え,新体力テストの中から,「全身の 動きをコーディネートする能力」を測定するの に比較的適していると考えられる「立ち幅跳 び」を測定項目に加える。すなわち,上肢と下 肢をうまく連結させて持っている力を最大限に 発揮しようとする「立ち幅跳び」によって,連 結能力を見ようとするのである。 「調整力フィールドテスト」の 3 種目と「立 ち幅跳び」のアセスメントテストによって評価 しようとするコ(オ)ーディネーション能力の 7 つの能力を下の表 1-2 のように定義する。 このように定義することで,「全身の動きを コーディネートする能力」を 7 つのコ(オ)ー ディネーション能力として取り出すことを試み た。 4.「多様な動きをつくる運動 (遊び)」の問 題点と研究目的 新学習指導要領 (平成 20 年告示) の完全実 施を前に,さまざまな「多様な動きをつくる運 動 (遊び)」の授業実践が報告されている (近 藤,2008;塚本,2009;山内,2010;栗原,2010)。 また,高橋ら (2010) による『新しい体つくり 運動の授業づくり』(大修館書店) に代表され る指導資料が出版されている。これらの実践報 告や指導資料は,「多様な動きをつくる運動 (遊び)」の授業づくりに貢献するものではある が,技能評価をおこなっていなかったり,児童 の主観的評価を元に技能評価をしたりしている ため,「多様な動きをつくる運動 (遊び)」でど のような力がつくのかが明らかになっていない。 著者が管見する限りでは,「多様な動きをつく る運動 (遊び)」でどのような体力が高まるか について検証した報告は見当たらない。体育科 のアカウンタビリティが厳しく問われている今 日,「多様な動きをつくる運動 (遊び)」の結果 としてどのような力が高まるかを明らかにする ことは急務である。 さらに,もう一つの問題点は,効果的な指導 内容が明らかになっていない点である。すなわ ち,どの学年にどの内容がより効果的かという, 学年に応じた指導内容の明確化がなされていな いのである。文部科学省 (2008) から多様な動 きをつくる運動 (遊び) のパンフレットが作 成・配布され,具体的な動きや運動について周 知させる努力がなされてはいるが,それらの動 きをどのように組み立てて単元を構成していく かについては授業者にまかされているのが現状 である。また,先ほど挙げた実践報告や指導資 料等を見ても,ボールを使った運動や縄とびを 使った運動,バランスボールを使った運動など, 内容が多岐にわたっている。さらに,低学年, 中学年のように 2 学年をくくった形で対象学年 が紹介されているものが多く,各学年でどのよ うな動きを取り上げていけばよいかが曖昧であ る。 そこで,本研究では,「多様な動きをつくる 運動 (遊び)」でつけさせたい力である「全身 の能力をコーディネートする能力」をコ(オ)ー ディネーションの理論による 7 つの能力で定義 し,それによって「多様な動きをつくる運動 (遊び)」でどのような力がつくかを検証する。 また,内容の異なる 2 つの「多様な動き気をつ くる運動 (遊び)」のプログラムを用意し,こ れらを 3 年生と 4 年生でそれぞれ実施すること によって,どの学年でどのような内容がより適 しているのかという点についても検討する。 授業評価においては,どのような力がつい たのかを評価することと合わせて,奥村ら (1989) による小学校中学年児童を対象とした 態度測定を実施する。また,単元の各授業時間 においての児童の学びを把握するために,長谷 川ら (1995) による形成的授業評価法を用いる。 バランス能力,変換能力 とび越しくぐり リズム化能力,反応能力 反復横とび 定位能力,分化能力 ジグザグ走 連結能力 立ち幅跳び 評価しようとするコ(オ)ーディネー ション能力 表 1-2 アセスメントテストと 7 つのコ(オ)ーディ ネーション能力の関係

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これらのことを複合的に検討することを通して, 授業の曖昧さという問題を抱えている「多様な 動きをつくる運動 (遊び)」の授業づくりにお いてどのような力がつくのという問題の一端を 明らかにし,系統的に単元を構成するための知 見を得ることを,本研究の目的とする。 第 2 章 方 法 1.仮説する「多様な動きをつくる運動」の 単元構成の考え方 本研究では,研究対象を中学年児童とする。 すなわち,内容が運動遊びで構成される低学年 の「多様な動きをつくる運動遊び」に比して, 中学年での「多様な動きをつくる運動」におい て,よりどのような力がついたのかを検討する 必要性が高いと考えるのである。 中学年の「多様な動きをつくる運動」の単元 構成については,数時間のまとまりのある単元 として構成する方法と,単元としては設定せず 他領域の授業の中に帯状に組み込んでいく方法 が考えられる。しかし,「多様な動きをつくる 運動」でどのような力がついたのかが問われて いることを考えると,単元として授業を構成し, その中でどのような力がついたのかを評価して いくことが必要である。そのような考え方から, 本研究では,数時間のまとまりのある単元とし て授業を構成する。今回は,「多様な動きをつ くる運動」でどのような力がつくかを検討する ことと合わせて,各学年でどのような内容がよ り適しているのかを検討することにした。そこ で,文部科学省 (2008) により作成された「多 様な動きをつくる運動 (遊び)」パンフレット の中で紹介されている動きの中から,主にボー ルを使った運動と,主に縄を使った運動を取り 上げて,それぞれについて 6 時間の単元を構成 し,それらを 3 年生と 4 年生のそれぞれの学年 で実践を行った。その結果を比較検討すること によって,「多様な動きをつくる運動」の知見 を得ようとしたのである。 ここで,ボールを使った運動と縄を使った運 動を取り上げた理由について述べておく。文科 省による「多様な動きをつくる運動 (遊び)」 パンフレット等には,縄,ボール,バランス ボール,固定施設など様々な用具や,器械・器 具を使った運動が紹介されている。それらの中 で,以下の理由により,ボールと縄を取り上げ た。 ① どこの学校でも用具の数を確保することが でき,容易に実践が可能である。 ② 子どもたちにとって身近であり,休み時間 や家庭でも運動に取り組むことができる。 ③ 多様な動きを引き出すことができる。 実施プログラムの単元は,ボール運動につい ては,日本コーディネーショントレーニング協 会 (JACOT) が小学校の体つくり運動領域で 行っている実践を元に構成した。縄跳び運動に ついては,高橋らによる『新しい体つくり運動 の授業づくり』(2010) の中で大塚が紹介して いる「長なわとび遊び」を元に単元を構成した。 これらの単元を取り上げた理由であるが,ボー ルを使った運動を中心に,あるいは縄を使った 運動を中心に単元を構成している実践として, 最も具体的な例と考えられるからであった。 どちらの単元も,運動の羅列にならないよう に,易から難へと発展的に学習が進められるよ うに構成した。また,「多様な動きをつくる運 動」で培うべき力が,体育の授業だけで培われ るものではないという観点から,休み時間や家 庭でも実施可能な,広がりのある内容で単元を 構成した。 授業者の指導法等のちがいによる変数を制御 するために,それぞれの実践にあたる授業者は 同一とする。今回,授業に当たった教師は,滋 賀県が大学院に派遣する小学校教員で体育を専 門とする教職歴 10 年の教師が担当する。 2.対象児童 滋賀県下の O 小学校第 3 学年の 2 学級 (A 学級:男子 13 名,女子 15 名,計 28 名,B 学 級:男子 12 名,女子 15 名,合計 27 名) と, 同じく O 小学校第 4 学年の 2 学級 (C 学級: 男子 15 名,女子 12 名,計 27 名,D 学級:男 子 15 名,女子 12 名,計 27 名) の計 4 学級の 児童を対象にした。 A 学級と C 学級には,主にボールを使った 運動で構成された「多様な動きをつくる運動」 の単元を,B 学級と D 学級には,主に縄を

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使った運動で構成された「多様な動きを作る運 動」の単元を実施した。 実施期間は,2010 年 5 月〜7 月であった。 3.実施した運動プログラム 前述した単元構成の考え方により,表 2-2 (主にボールを使った運動で構成した「多様な 動きをつくる運動」の単元計画) と表 2-3 (主 に縄を使った運動で構成した「多様な動きをつ くる運動」の単元計画) に示すような 2 つの単 元を設定した。 4.授業評価の方法 情意領域では,奥村ら (1989) による中学年 児童を対象とした態度測定を単元前・後に実施 した。 技能領域については,栗本ら (1981) による 調整力フィールドテスト (「とび越しくぐり」 「反復横とび」「ジグザグ走」) と,新体力テス トの中から「立ち幅跳び」を単元前・後に実施 した。 さらに,単元の各授業時間においての児童の 学びを把握するために,長谷川ら (1995) によ (1)準備運動 ・ボール操作移動 ・ストレッチ (2)ボールトス&キャッチ (フープあり) ・タッチ&キャッチ ・クラップ&キャッチ (3)ボールトス&ラン ・ライン上+フープ& ボールトス ・投げ上げ&フープラ ダー (4)キャッチボール ・ボール 2 個で移動し ながら (5)C ボールゲーム ・2 対 2 でゲーム (1)準備運動 ・ボール操作移動 ・ストレッチ (2)ボールトス&キャッチ (フープあり) ・クラップ&キャッチ ・タッチ&キャッチ (3)ボールトス&ラン ・ライン上+フープ& ボールトス ・両手で ・片手で ・左右片手交互で (4)キャッチボール ・ボール 2 個でその場で (5)C ボールゲーム ・2 対 2 でゲーム (1)準備運動 ・ボール操作移動 ・ストレッチ (2)ボールトス&キャッチ (フープあり) ・タッチ&キャッチ ・ターン&キャッチ (3)ボールトス&ラン ・ライン上走り&ボー ルトス ・両手で ・片手で ・左右片手交互で (4)キャッチボール ・ボール 1 個で移動し ながら (5)C ボールゲーム ・2 対 2 でゲーム (1)準備運動 ・ボール操作移動 ・ストレッチ (2)ボールトス&キャッチ ・クラップ&キャッチ ・タッチ&キャッチ (3)ボールトス&ラン ・ライン上歩き&ボー ルトス ・両手で ・片手で ・左右片手交互で (4)キャッチボール ・ボール 1 個で移動し ながら (5)C ボールゲーム ・2 対 2 で正確にパス (1)準備運動 ・ボール操作移動 ・ストレッチ (2)ボールトス&キャッチ ・バウンド&キャッチ ・クラップ&キャッチ (3)ボールトス&ラン ・ライン上歩き&ボー ルトス ・両手で ・片手で (4)キャッチボール ・ボール 1 個でその場で (5)C ボールゲーム ・1 対 1 で正確にパス 内 容 1 2 3 4 5 6 時 間 表 2-2 主にボールを使った運動で構成した「多様な動きを作る運動」の単元計画 (1)準備運動 ・ボール操作移動 ・ストレッチ (2)ボールトス&キャッチ (フープあり) ・タッチ&キャッチ ・クラップ&キャッチ (3)ボールトス&ラン ・ライン上+フープ& ボールトス ・投げ上げ&フープラ ダー (4)キャッチボール ・ボール 2 個で移動し ながら (5)C ボールゲーム ・2 対 2 でゲーム (1)準備運動 ・ストレッチ (2)短縄跳び ・短縄基本練習 ・リズムなわとび (3)ダブルダッチチャ レンジ ・まわす練習 ・1 回ぬけ ・シンクロとび (1)準備運動 ・ストレッチ (2)短縄跳び ・短縄基本練習 ・リズムなわとび (3)長縄チャレンジ ・1 分間スピード跳び かぶりなわ むかえなわ ・長短縄組み合わせ (1)準備運動 ・ストレッチ (2)短縄跳び ・短縄基本練習 ・リズムなわとび ・ペアとび (3)長縄チャレンジ ・1 分間スピード跳び かぶりなわ むかえなわ ・足ジャンケン ・片足・かけ足跳び ・シンクロ跳び (1)準備運動 ・ストレッチ (2)短縄跳び ・短縄基本練習 ・リズムなわとび ・ペアとび (3)長縄チャレンジ ※むかえなわで行う。 ・遮断機 ・通り抜け ・1 回跳び ・1 分間スピード跳び ・5 人跳び (1)準備運動 ・ストレッチ (2)短縄チャレンジ ・短縄基本練習 ・リズムなわとび ・ペアとび (3)長縄チャレンジ ※かぶりなわで行う。 ・遮断機 ・通り抜け ・1 回跳び ・1 分間スピード跳び ・5 人跳び 内 容 1 2 3 4 5 6 表 2-3 主に縄を使った運動で構成した「多様な動きを作る運動」の単元計画 (1)準備運動 ・ストレッチ (2)短縄跳び ・短縄基本練習 ・リズムなわとび (3)ダブルダッチチャ レンジ ・3 回ぬけ ・5 回ぬけ ・シンクロとび

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る形成的授業評価法を実施した。 5.統計的処理 単元開始前後に実施した調整力フィールドテ スト及び立ち幅跳びの結果を比較した。平均得 点の比較に際しては,対応のある t 検定を用い た。 なお, 5 % を有意水準の基準とした。 第 3 章 結果ならびに考察 1.態度測定による児童の愛好的態度の変容 ① 3 年生「ボールを使った運動」 単元後の態度得点の診断は,男子が「やや低 いレベル」,女子が「ふつうのレベル」であっ た。単元期間中の授業の成否は,男子が「やや 失敗」,女子が「横ばい」であった。男子では, 「よろこび」の項目において標準以下の低下を 示した。 ② 3 年生「縄を使った運動」 単元後の態度得点の診断は,男子が「やや低 いレベル」,女子が「やや高いレベル」であっ た。単元期間中の授業の成否は,男子が「やや 失敗」,女子が「やや成功」であった。男子で は,「評価」の項目において標準以下の低下を 示した。女子では,「よろこび」の項目におい て標準以上の伸びを示した。 ③ 4 年生「ボールを使った運動」 単元後の態度得点の診断は,男子が「やや低 いレベル」,女子が「やや高いレベル」であっ た。単元期間中の授業の成否は,男子が「やや 失敗」,女子が「やや成功」であった。男子で は,「評価」の項目において標準以下の低下を 示した。女子では,「よろこび」の項目におい て標準以上の伸びを示した。 ④ 4 年生「縄を使った運動」 単元後の態度得点の診断は,男女ともに「や や低いレベル」であった。単元期間中の授業の 成否は,男子が「やや失敗」,女子が「やや成 功」であった。男子では,「価値」の項目にお いて標準以下の低下を示した。女子では,「よ ろこび」の項目において標準以上の伸びを示し た。 2.単元前後における調整力フィールドテス ト 表 3-1 は,3 年生でボールを使った運動を主 に実施した学級での,男女ごとの調整力フィー ルドテストの結果を表まとめたものである。 表 3-2 は,3 年生で縄を使った運動を主に実 施した学級での,男女ごとの調整力フィールド テストの結果をまとめたものである。 12.38 (0.70) 13.85 (0.66) −6.93** 12.26 (0.70) 13.13 (0.93) ジ グ ザ グ 走 3 年生ボール (男子) n=12 3 年生ボール (女子) n=13 (** < 0.01 * < 0.05) 表 3-1 3 年生でボールを使った運動を主に実施した学級での調整力フィールドテストの結果 反 復 横 跳 び 1.13 141.69 (6.22) 137.62 (13.74) 1.29 140.00 (16.51) 136.50 (12.86) 立 ち 幅 跳 び −2.65* 13.45 (2.20) 14.78 (2.44) −0.43 13.54 (1.86) 13.75 (1.35) とび越しくぐり −6.61** 単元後 単元前 平均 (SD) 平均 (SD) 平均 (SD) 平均 (SD) 4.52** 28.00 (4.02) 22.62 (5.27) 2.13 29.08 (4.70) 25.66 (5.05) t 値 単元後 単元前 t 値 12.93 (0.91) 13.63 (1.07) −4.25** 12.61 (1.05) 13.49 (1.08) ジ グ ザ グ 走 3 年生縄 (男子) n=10 3 年生縄 (女子) n=15 (** < 0.01 * < 0.05) 表 3-2 3 年生で縄を使った運動を主に実施した学級での調整力フィールドテストの結果 反 復 横 跳 び −0.25 134.73 (16.55) 135.20 (15.87) 3.06* 144.80 (16.42) 136.60 (15.16) 立 ち 幅 跳 び −1.21 13.83 (3.07) 14.78 (3.58) 0.53 13.60 (4.54) 13.02 (2.57) とび越しくぐり −6.24** 単元後 単元前 平均 (SD) 平均 (SD) 平均 (SD) 平均 (SD) 8.33** 30.87 (5.15) 24.60 (3.52) 1.17 27.60 (7.34) 25.70 (6.36) t 値 単元後 単元前 t 値

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表 3-3 は,4 年生でボールを使った運動を主 に実施した学級での,男女ごとの調整力フィー ルドテストの結果をまとめたものである。 表 3-4 は,4 年生で縄を使った運動を主に実 施した学級での,男女ごとの調整力フィールド テストの結果をまとめたものである。 3.総合考察 態度測定の結果は,いずれの学年,いずれの プログラムともに,概して男子で低く,女子で 高い傾向を示した。一方,身体能力面の評価で ある調整力フィールドテストと立ち幅跳びの結 果をみてみると,いずれの学年,いずれのプロ グラムともに,有意に向上している項目があり, 今回のプログラムで「全身の動きをコーディ ネートする能力」を高めることができたと考え られる。特に,態度得点の結果が低かった男子 をみても,4 年生がいずれの単元においても 4 種目中 3 種目が有意に向上するなど,今回のプ ログラムは「全身の動きをコーディネートする 能力」を高めるのに有効であったことが示され ている。また,身体能力面で特に際立っていた のが 4 年生女子の縄を使った単元で,4 種目中 のすべてが有意に向上する結果となった。4 年 生女子の縄を使った単元は形成的授業評価の推 移をみても,高い得点を維持しながら右肩上が りの推移となっており,「多様な動きをつくる 運動」のプログラムとして非常に有効であった ことが示された。 男子の態度測定の結果が低かったことにつ いて検討を加えてみる。態度測定の得点につい ては,梅野ら (1984) によって,「“学び取り 方”の能力の形成を目指した,いわゆる高次目 標に即した学習形態 (課題解決的 − 探求・発 見的 − 小集団学習) と,いわゆる基礎目標に 即した学習形態 (系統的 − 提示・説明的 − 一 斉学習) を比較し,前者の学習形態の方が態度 得点の高まる」ことが報告されている。また, 野田ら (1987) は,態度得点の高い学級と,そ うでない学級の比較から,技能を伸ばすことが 態度得点を高める基本的な要因であることを指 摘している。 ボールを使った運動の単元では,1 人 1 個の ボールを用意し,各自がボールを運んだり,投 げたり,手をたたくなどの動きと組み合わせた りして,多様な動きをさせることで「全身の動 きをコーディネートする能力」の育成を図ろう とした。授業の後半には,身につけた動きを生 かして挑戦できる小さなゲーム (C ボールゲー ム) に多くの時間を使うこととしたが,それも 2 対 2 でのゲームにとどまった。また,縄を 使った単元では,さまざまな技に挑戦した後で グループごとに演技をつくって発表するという 流れも考えていたが,実際には,ターナーがう 12.53 (1.04) 13.43 (1.06) −7.86** 11.78 (0.51) 12.95 (0.79) ジ グ ザ グ 走 4 年生ボール (男子) n=12 4 年生ボール (女子) n=7 (** < 0.01 * < 0.05) 表 3-3 4 年生でボールを使った運動を主に実施した学級での調整力フィールドテストの結果 反 復 横 跳 び 0.78 139.86 (23.31) 135.57 (15.53) 4.53** 155.42 (14.47) 142.08 (14.87) 立 ち 幅 跳 び −1.27 12.09 (2.61) 13.21 (3.17) 0.84 13.28 (4.28) 12.14 (2.15) とび越しくぐり −7.53** 単元後 単元前 平均 (SD) 平均 (SD) 平均 (SD) 平均 (SD) 2.10 30.71 (7.30) 25.57 (1.62) 3.00* 30.17 (7.61) 25.92 (4.74) t 値 単元後 単元前 t 値 12.35 (0.45) 13.06 (0.57) −8.18** 11.80 (0.70) 12.70 (0.58) ジ グ ザ グ 走 4 年生縄 (男子) n=12 4 年生縄 (女子) n=11 (** < 0.01 * < 0.05) 表 3-4 4 年生で縄を使った運動を主に実施した学級での調整力フィールドテストの結果 反 復 横 跳 び 5.05** 147.18 (18.98) 136.00 (16.12) 1.85 145.67 (14.41) 138.75 (19.89) 立 ち 幅 跳 び −4.02** 12.75 (1.89) 14.96 (2.37) −2.30* 11.87 (2.02) 12.98 (1.76) とび越しくぐり −4.39** 単元後 単元前 平均 (SD) 平均 (SD) 平均 (SD) 平均 (SD) 4.93** 29.09 (7.20) 23.91 (7.03) 3.23** 34.08 (5.38) 29.67 (6.02) t 値 単元後 単元前 t 値

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まく縄を回せなかったり,むかえ縄に入ること ができなかったりする児童が多く見られ,基礎 的な技を全員に身につけさせることを目指した 提示・説明的な授業展開になった。このように, いずれの単元も,基礎目標に即した学習形態を とっており,そのことが態度得点の結果が低く なった要因の一つと考えられる。 一方で,身体能力面では調整力フィールドテ ストや立ち幅跳びの結果にみられるように,今 回のプログラムは男女ともに「全身の動きを コーディネートする能力」の向上に有効であっ たと推察されるが,特に男子で態度得点が低く なっており,技能を伸ばすことが態度測定を高 める基本的な要因であるという指摘と相反する 結果となっている。このことから,指導者側か らのつけたい力をつけさせるのには今回のプロ グラムは有効であったが,授業を受ける児童た ちにとっては,身体能力の伸びを感じることが できていなかったために態度得点を伸ばすこと ができなかったと捉えることができる。内田 (2008) は,体つくり運動の問題点について, 「ある意味で体力に無意識 (というよりは無関 心) である子どもに対して,体力向上を目的に した大人の理論で構想される授業が果たして成 立するか」と問い,「私は『授業』と呼ぶべき 内容を備えた授業は成立しないと考えている」 と述べている。また,鈴木 (2011) は,体力向 上の期待に応えようとする「体つくり運動」の 授業は,「運動能力の向上を目的にした授業も 含め,子どもたちにとってやらされるだけのト レーニングの時間になってしまうことを危惧す る者も少なくない」と述べている。今回の実践 の結果は,内田 (2008) や鈴木 (2011) の指摘 を裏付けるものと捉えることができそうである。 すなわち,「全身の動きをコーディネートする 能力」を高めようとする大人の理論で構成され た授業では,児童らにとって活動している内容 と高めようとしている能力が結びつきにくく, 「全身の動きをコーディネートする能力」は伸 びているものの,その伸びは子どもたちには実 感されにくく,態度得点が低くなったものと推 察することができる。 このような結果は,必要充足の面を強調した 「多様な動きをつくる運動」の授業の成立が難 しいことを表している。また,「基本的動作の 未習得」による「運動能力の低下」などの子ど もたちの状況を好転させようとする「多様な動 きをつくる運動」の授業では,比較的運動能力 の高い子どもたちにとって,とりわけ男子に とっては簡単すぎる内容となることは容易に想 像でき,今回の結果にもそのことが表れていた。 必要充足の運動であるとはいえ,学習指導要 領では,運動を楽しむ結果として「全身の動き をコーディネートする能力」を育成することが ねらわれており,興味関心をベースにした授業 を組み立てる工夫や教師の働きかけ,教材づく りが求められる。内田 (2011) は,体つくり運 動に期待される授業像について,「子どもたち が運動に親しみ自分の力を伸ばせるような魅力 的な教材を常に探り求める一方で,子どもは教 師が提示した (運動) 材をそのまま受け入れる だけでは満足しないだろうという期待や信頼の もと,ではその材を子どもがどのように変えて いくか,また教師とともに作り変えていけるの かを期待し,彼らの学びを見守っていくもの」 と述べている。そして,「目の前の子どもたち をよく見た上で,教師側は採り上げる運動を選 択しなければならない」とも指摘している。さ らに,運動経験も身体能力も異なる子どもたち が集まっている学級では,「『指導内容の明確化 と体系化』と『教師の見とりや見立て』とが重 なり合って,子どもたちに意味のある体つくり 運動の授業が展開できる」とまとめている。 今回のプログラムによって男子が態度得点を 下げている一方で,女子は態度得点が上昇する 傾向にあった。このことは,女子にとっては, 今回の「多様な動きをつくる運動」のプログラ ムが,教師からやらされただけのトレーニング と感じるものではなかったことを表している。 つまり,今回のプログラムは,女子にとっては, 子どもとともに学んでいける内容であったとい うことである。上述した内田 (2011) の指摘と 合わせて考えてみると,今回の内容が,女子に とって主体的な学びを保障し,子どもとともに 学んでいける内容であったように,様々な子ど もたちが集まる学級において,どのような内容 が子どもたちの主体的な学びを保障する教師の 意図や方向性を支えるものとなるのか,子ども

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たちとともに学んでいけるものであるのかを, 子どもたちの中に見出す教師の力量が求められ ていると考えられる。 第 4 章 ま と め 本研究では,「多様な動きをつくる運動」に おいてどのような力をつけるのかがはっきりし ていないという問題に着目し,この問題を解決 するために「多様な動きをつくる運動」で子ど もたちにつけたい力を 7 つのコーディネーショ ン能力として,その測定を試みることにした。 また,さまざまな運動が考えられる「多様な動 きをつくる運動」の中で,ボールを使った運動 と縄を使った運動を取り上げ,その適時性につ いても検討することとした。 技能面の評価である調整力フィールドテスト と立ち幅跳びの結果に見られるように,実施し た「多様な動きをつくる運動」のプログラムは, 男女ともに「全身の動きをコーディネートする 能力」の向上に有効であったと推察される。 しかし,男子で概して態度得点が低くなった ことから,今回のプログラムは,男子にとって は,やらされるだけのトレーニング的な授業で あったといえる。一方で,女子にとっては,工 夫を加えながら主体的に取り組める内容であっ たと考えられる。 文 献 1 ) 文部科学省 (2008) 小学校学習指導要領解説 体育編,p13-14. 2 ) 中村和彦 (2009) いまどきの子どもの体力・ 運動能力,教育と医学 676,p4-11. 3 ) 加賀谷淳子 (2010) ここまで危ない!子ども の体力,体育科教育,56-11,p14-18. 4 ) 浅井利夫 (1996) 今,子どもの体にはこんな 問題がある,体育の科学 Vol. 46,p278-285. 5 ) 野井真吾 (2009) 学校で行なう子どもの「か らだづくり」,教育と医学 676,p12-18. 6 ) 白石豊 (1997) 運動神経がよくなる本,光文 社,p12. 7 ) 文部科学省 (2008) 多様な動きをつくる運動 (遊び) パンフレット. 8 ) 綿引勝美 (1990) コオーディネーションのト レーニング,新体育社,p4. 9 ) NPO 法人日本コーディネーショントレーニン グ協会 (2010) JACOT ライセンス教本,p1, 23,28. 10) 上田憲嗣 (2006) コオーディネーショント レーニングを取り入れた体育授業の開発―体 つくり運動への導入について―,鳴門教育大 学研究紀要 21,p370-377. 11) 文部省 (現文部科学省) (1999),小学校学習 指導要領解説体育編,東山書房. 12) 小 林 芳 文 他 (1989),小 林 −Kiphard BCT (The Body Coordination Test) の開発,横浜 国立大学教育紀要 29,p349-365. 13) 上田憲嗣 (2010) 児童期のコオーディネー ション能力診断テスト開発に向けての基礎的 研究・国内外の診断テスト実施について,日 本発育発達学会ポスター発表. 14) 栗本閲夫他 (1981) 体育科学センター調整力 フィールドテストの最終形式―調整力テスト 検討委員会報告―,体育科学,9,p207-212. 15) 近藤智靖 (2008) 低中学年の体つくり運動へ の私案,体育科教育 56-13,p34-37. 16) 塚本博則 (2009) おすすめは「おりかえしの 運動」「長なわとび」「馬とび」,体育科教育 57-5,p40-41. 17) 山内弘文 (2010) 小学校の「体つくり運動」 の単元計画,体育科教育,58-4,p48-52. 18) 栗原知子 (2010) 小学校 3 年生の「多様な動 きをつくる運動」,58-7,p30-33. 19) 高橋健夫他 (2010) 体育科教育別冊新しい体 つくり運動の授業づくり,大修館書店. 20) 奥村基治他 (1989) 体育科の授業に対する態 度尺度作成の試み―小学校中学年児童を対象 にして―,体育学研究,33-4,p309-319. 21) 長谷川悦示他 (1995) 小学校体育授業の形成 的授業評価票及び診断基準作成の試み,ス ポーツ教育学研究,14-2,p91-101. 22) 梅雄圭史他 (1984) 体育科の授業診断に関す る研究―態度得点と学習形態との関係―,ス ポーツ教育学研究,3-2,p67-78. 23) 野田昌宏他 (1987) 小学校体育科における授 業分析に関する研究―態度得点を高める要因 についての事例的研究―,日本体育学会第 38 回大会号,p426. 24) 内田雄三 (2008) 子どもの体力向上?体育授 業でできること,できないこと,体育科教育 56-11,p20-23. 25) 鈴木秀人 (2011) 体つくり運動と子どもをめ ぐる今日的課題,体育科教育 59-1,p10-13. 26) 内田雄三 (2011)「考えるべきこと」について 私が考えたこと,体育科教育 59-1,p17-20.

表 3-3 は,4 年生でボールを使った運動を主 に実施した学級での,男女ごとの調整力フィー ルドテストの結果をまとめたものである。 表 3-4 は,4 年生で縄を使った運動を主に実 施した学級での,男女ごとの調整力フィールド テストの結果をまとめたものである。 3.総合考察 態度測定の結果は,いずれの学年,いずれの プログラムともに,概して男子で低く,女子で 高い傾向を示した。一方,身体能力面の評価で ある調整力フィールドテストと立ち幅跳びの結 果をみてみると,いずれの学年,いずれのプロ グラムともに,有

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