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知識流通における距離と近接性

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Academic year: 2021

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知識流通における距離と近接性

イェ ユンウェン† 中小路久美代‡∫ 山本恭裕‡ †株式会社 SRA 〒171-8513 東京都豊島区南池袋 2-32-8 ‡東京大学先端科学技術研究センター 〒153-8904 東京都目黒区駒場 4-6-1 ∫株式会社先端技術研究所 〒160-0004 東京都新宿区四谷 3-12

E-mail: [email protected], [email protected], [email protected]

概要 我々は,効果的な知識流通に関わる因子として,知識作業における近接性に着目している.本稿では, 認知的,構造的,組織的,あるいは社会的な側面から,距離という概念を用いて知識流通を促進したり阻害し たりする要因を考察する.ソフトウェア開発を知識共創作業の例としてとりあげ,それらの要因を統合する枠 組みと,その枠組みに基づいた知識流通ネットワークの分析とデザインをおこなう事例を紹介する.

Distance and Proximity in Knowledge Sharing Networks

Yuwnen YE† Kumiyo NAKAKOJI‡∫ Yasuhiro YAMAMOTO‡

†SRA Inc. 2-32-8 Minami-Ikebukuro, Toshima, Tokyo 171-8513

‡RCAST, University of Tokyo, 4-6-1 Komaba, Meguro, Tokyo, 153-8904, Japan ∫SRA Key Technology Laboratory Inc., 3-12 Yotsuya, Shinjyuku, Tokyo, 160-0004, Japan E-mail: [email protected], [email protected], [email protected]

Abstract The success of knowledge collaboration hinges on the proximities that knowledge workers have. This paper

proposes a new conceptual framework of investigating the factors that affect knowledge collaboration based on four dimensions of proximities: cognitive, structural, organizational, and social. The effectiveness of the conceptual framework is illustrated through two examples: one uses the framework to analyze knowledge collaboration in software development, and the other uses it to guide the design of a new knowledge collaboration platform.

1. は じ め に 知 識 の粘 着 性 (stickiness of knowledge) [18]は, 知 識 流 通 における大 きな課 題 である.知 識 は,その知 識 が創 出 されたコンテキストまたは所 有 されている個 人 から切 り離 すことができない.流 通 元 となるコンテキスト と 流 通 先 と な る コ ン テ キ ス ト の 間 の 乖 離 が , 流 通 の 有 効 性 と効 率 性 を大 きく左 右 すると考 えられる.この乖 離 の 度 合 い を ,距 離 とい う メ タフ ォ ーで 捉 え る こと が でき る. ここでい う< 距 離 >は , 単 なる物 理 的 な 存 在 として の空 間 的 な距 離 という意 味 ではない.あるトコロから目 的 のト コロま で, 一 つ のモノ を伝 搬 するコ ストを測 る 尺 度 と 解 釈 す る べ き 概 念 で あ る . 物 理 的 世 界 で 物 財 を 流 通 させる際 に考 えるべき距 離 という概 念 は,流 通 の 目 的 や, 手 段 とメ ディア な どによる多 様 な 尺 度 を用 い て表 現 される.例 えば,トラックで物 を A から B まで運 ぶ場 合 ,A と B の地 図 上 での直 線 距 離 ではなく,A と B までの幹 線 道 路 の長 さの総 和 を距 離 の尺 度 としたり, あるいは,トラックではなく航 空 便 で物 を運 ぶ場 合 には, A と B との各 々の最 寄 り空 港 間 の飛 行 距 離 を距 離 の 尺 度 としたりする.これらの距 離 に応 じて,物 財 の流 通 経 路 や梱 包 の仕 方 などが選 定 され工 夫 されている. 同 様 に知 識 流 通 ネットワークを分 析 したりデザインし たりする際 にも,知 識 流 通 の目 的 と流 通 元 と流 通 先 で のコンテキストに関 わる,<距 離 >というものを考 慮 す べきであろう. そして,その距 離 に応 じた知 識 流 通 の させ方 や,距 離 を尺 度 とした知 識 交 換 方 式 といったも のを考 えようというのが我 々の提 案 である. 知 識 流 通 は,以 下 のような点 で物 の流 通 とは異 なる 特 徴 がある.物 質 は,同 じ時 刻 には一 つの空 間 にしか 存 在 できない.A から B に物 が渡 されると,その物 は A のところに存 在 しなくなる.それに対 して,知 識 交 換 と いう行 為 を行 っても,A はその知 識を失 うことはない. また,物 質 には,流 通 により本 質 的 な変 化 が生 じる ことはない.物 流 において,A の手 元 にあった物 が B の 元 に渡 った後 も,同 じ物 として存 在 し続 ける.それに対 し知 識 流 通 においては,複 雑 なプロセスが発 生 する. A が B に x というトピックに関 して知 識 を伝 えたという場 合 , A が自 分 の頭 にある x を取 り出し,コミュニケーシ ョンメディアを通 して,それを B の頭 に入 植 したことには ならない. A が x をコミュニケーションメディアに乗 せる ために表 出 した時 点 と,B がそれを受 け取 って解 釈 し

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た時 点 の双 方 で,変 換 が施 されてしまうことになる. 知 識 流 通 から知 識 獲 得 につながる一 連 のプロセス は,自 分 の持 っている知 識 に新 しい知 識 を単 純 に 加 算 するということではなく,既 存 の知 識 体 系 を修 正 した り , 新 し い 連 結 を 生 み 出 し た り す る プ ロ セ ス で あ る . Brown は,水 彩 画 のメタフォーを用 いて知 識 獲 得 プロ セスを説 明 し ている. 新 し い知 識 を獲 得 するのは , 水 彩 画 を描 く際 に新 しい一 筆 を加 えるのに等 しい.加 え た途 端 にそれまでにあった色 と形 に馴 染 んでし まい, その一 筆 の色 も形 も変 化 する.そしてもはやその一 筆 が認 識 できなくなる[1]. また, 知 識 流 通 における知 識 の発 信 側 にも変 化 が 生 じる.表 出 プロセスや知 識 を受 け取 った側 の反 応 に より,自 分 の持 っていた知 識 を修 正 したり考 え直 したり することが考 えられる.それに加 えて,この x について B に伝 えた,そのことを B も知 っている,というメタレベル での新 しい知 識 も生 まれることになる. 以 上 は 単 な る 知 識 伝 達 の 説 明 であ るが,議 論 など の知 識 交 換 では更 に複 雑 な変 換 を伴 う. このように,知 識 流 通 を考 察 する際 には,表 出 され た表 現 やその表 現 を流 通 させるコミュニケーションメデ ィアのみに注 目 することは適 切 でない.知 識 交 換 に参 加 する人 間 も含 めた系 として考 慮 する必 要 がある.誰 (who)が何 (what)をどういう手 段 (how) を使 って何 のた め(for what)に誰 (to whom)に知 識 を伝 えるのか,とい うことが,知 識 流 通 の本 質 を成 す一 部 である と考 えて いる. 我 々は,who と to whom の関 係 が,知 識 流 通 にお ける距 離 と密 接 に関 わると考 えている.人 間 同 士 のコミ ュニケーションを円 滑 にさせるのは,コミュニケーション を行 うために表 出 された内 容 (発 話 )の量 ではなく,発 話 がな くても相 互 理 解 があるという,共 同 主 観 の量 に よるものであ る [17].知 識 流 通 に関 わる人 間 の共 通 経 験 が,知 識 流 通 の効 果 を左 右 する大 きな要 因 であ ると考 えられる. 2. 距 離 と 近 接 性 本 稿 では,知 識 流 通 に関 わる人 間 の間 に存 在 する 諸 関 係 が,知 識 流 通 の難 易 度 と有 効 性 を決 める要 因 であるとの立 場 をとる.そして,その関 係 の強 弱 を距 離 というメタフォーを用 いて捉 えることとする.Gerstberger と Allen は,知 識 ワーカが,どの知 識 ソースに知 識 を求 めるかを決 める際 の最 も大 きな要 因 は,知 識 の質 や最 適 性 ではなく,その知 識 ソースへの accessibility であ ると報 告 している[8]:“Engineers, in selecting among information channels, act in a manner which is intended not to maximize gain, but rather to minimize loss. The loss to be minimized is the cost in terms of effort.”すなわち,これらの距 離 が増 えると, アクセスするためのエフォートが増 加 すると考 えられる. より 効 果 的 な 知 識 流 通 を促 進 す る ため には ,知 識 流 通 に関 わる 人 に, コストの高 さを感 じ たばかりに, ポテ ンシャルの高 い知 識 にアクセスしようとしない,といった 事 態 を避 けるようにすることが重 要 となると考 えられる. 本 稿 で は , 知 識 流 通 の 質 に 関 わ る 距 離 と し て , 認 知 的 ,社 会 的 ,組 織 的 ,および構 造 的 という,四 つの 次 元 があると考 えている.以 下 に各 次 元 について説 明 する. 2.1. 認 知 的 な 距 離 と 近 接 性 認 知 的 な距 離 とは,知 識 流 通 に関 わる各 知 識 ワー カが持 っている知 識 の重 なり合 い具 合 を表 す.知 識 ワ ーカの一 般 的 な知 識 を抽 象 的 に照 合 するものではな く,当 該 知 識 流 通 の目 的 となる問 題 を解 決 するために 必 要 となる知 識 のみに限 定 して比 較 されるべきもので ある .し たが って ,認 知 的 な 距 離 は ,知 識 流 通 のコン テキスト が決 まってはじめてその距 離 が定 まる ようなも のである. 知 識 流 通 を促 進 するためには, 参 加 する知 識 ワー カ間 に,ある程 度 の認 知 的 な近 接 性 が必 要 となる.こ の認 知 的 な近 接 性 には,価 値 観 の共 有 ,背 景 知 識 の 共 有 ,そしてこれらの共 有 への個 々人 のアウェアネス, という三 つの側 面 があると考 えられる. 人 間 は,通 常 ,ある行 動 に価 値 があると判 断 した後 にその行 動 を取 るものである[15].共 有 する価 値 観 は, コミュニティの共 同 行 動 の基 礎 を築 きその発 展 を支 え るものとされている[2].流 通 される知 識 ,そしてその知 識 を利 用 して解 決 すべき共 通 問 題 に与 えた価 値 が共 有 されれば,知 識 ワーカが知 識 流 通 に関 わるインセン ティブが高 まる.オープンソースソフトウェア(OSS)に参 加 するプログラマは,他 のメンバーからの質 問 を受 けた 際 に,たとえその質 問 に答 える知 識 を有 していなくとも 自 分 で調 査 し回 答 する場 合 がよくあるとされている.こ の行 為 は,参 加 しているプロジェクトと,質 問 された問 題 に対 して与 えた高 い価 値 が,参 加 のインセンティブ を生 み出 すためであると説 明 されている[10][19]. 背 景 知 識 の共 有 が重 要 であることの説 明 として,ウ ィ ト ゲ ン シ ュ タ イ の 次 の 引 用 が あ る : If a lion could speak, we could not understand him (Philosophical Investigations, II, xi, p.223).この理 由 は,われわれ にはライオンと共 通 する生 活 経 験 がなく,コミュニケー ションとなる共 通 基 盤 がないためである.コミュニケーシ ョン の有 効 性 を図 る 基 準 は ,コ ミュ ニ ケ ーシ ョン される 情 報 の量 ではなく,コミュニケーションをする必 要 のな い情 報 の量 ,で決 まる.知 識 を受 け取 る側 では,その 知 識 を 組 み 取 る 能 力 (absorptive capacity)が知 識 流 通 の効 果 に大 きく関 わる.知 識 は体 系 化 されたもので あり,新 しい知 識 を理 解 し消 化 するためには予 備 知 識

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が必 要 となる.既 存 知 識 に,受 け取 った新 しい知 識 を 受 容 するだけの接 点 がないと,この新 しい知 識 の価 値 を認 識 ,あるいは理 解 することができなくなる.結 果 とし て知 識 流 通 は,ライオンと人 間 の対 話 のようになってし まい,知 識 流 通 はあるものの効 果 がまったくないことに なってしまう. 最 後 に ,価 値 観 や 背 景 知 識 の 共 有 とい う 事 実 を, 流 通 に参 加 する知 識 ワーカがどれほど認 識 しているか も 認 知 的 な 近 接 性 に 関 わって くる.共 有 されて いるも のの,その共 有 に気 づいていなければ,必 要 のない知 識 交 換 が発 生 する.その結 果 ,不 要 な交 換 コストを生 み出 すのみならず,交 換 に参 加 する知 識 ワーカのイン センティブを低 減 させる恐 れもある. I know he knows this という前 提 で発 話 されることと,I know he knows that I know this という前 提 で受 け取 ることは,知 識 流 通 において重 要 な要 因 である. 認 知 的 な距 離 があまりに遠 ければ,知 識 流 通 は困 難 になる .し かしな が ら ,近 接 性 は 近 ければ 近 いほど 良 いといったことにもならない.極 端 に言 うと,価 値 観 や背 景 知 識 が完 全 な形 で共 有 されているとしたら,知 識 流 通 はもはや必 要 ではなくなる.近 すぎる近 接 性 は group think に陥 りやすく,型 破 りな break through がで きなくなるといった弊 害 も考 えられる.Hansen は weak tie が知 識 創 造 性 を促 進 すると報 告 している[9].バラ ンスのとれ た認 知 的 な距 離 が,知 識 流 通 を効 果 的 に おこなうための鍵 となると考 えられる. 2.2. 構 造 的 な 距 離 と 近 接 性 構 造 的 な 距 離 とは , 知 識 ワー カ が 他 の 知 識 ワー カ が持 っている知 識 にアクセスする際 の,コミュニケーシ ョ ン の 難 易 度 を表 す . 例 え ば , 物 理 的 な 通 信 環 境 の 有 無 や,通 信 経 路 の帯 域 幅 ,通 信 速 度 や信 頼 性 ,通 信 に用 いるメ ディ アの 種 類 , 用 いる 言 語 の種 類 ,ある いは居 住 する地 域 のタイムゾーンなどが,構 造 的 な距 離 を規 定 す る要 因 となる .構 造 的 な 次 元 での 近 接 性 が全 くないと,知 識 が流 通 する経 路 がないということに なる.情 報 通 信 技 術 の発 達 により,多 様 なコミュニケー ションメディアが利 用 できるようになり,知 識 流 通 におけ る構 造 的 な近 接 性 が大 幅 に改 善 されているといえ,タ イムゾーンや言 語 の問 題 など,未 解 決 な課 題 も多 い. 同 じ場 所 にいる知 識 ワーカの間 では,face to face (対 面 )のコミュニケーションが可 能 であるため,構 造 的 な近 接 性 が一 番 高 いと考 えられている.しかしながら, 対 面 コミュニケーションがもっとも効 果 的 な知 識 流 通 の 手 段 であるとは言 い切 れない.Face to face コミュニケ ーションはアーカイブできないので,その場 で交 換 され た知 識 は蓄 積 できない.また,face to face コミュニケー ションはリアルタイムで行 われるため,他 の知 識 ワーカ のフローを妨 げる interruption コストも高 い. 知 識 流 通 を促 進 するために,常 に face to face の構 造 的 な近 接 性 を求 める必 要 はない.コミュニケーション のコストと知 識 流 通 の目 的 の間 にバランスを取 る必 要 がある.知 識 ワーカが意 識 的 に face to face,メール, 電 話 などのコミュニケーションチャンネルを切 り替 えて, 目 的 にあう知 識 交 換 を行 っていることが観 察 されてい る[14].コミュニケーションメディアにより生 じる構 造 的 な距 離 と,知 識 流 通 の目 的 とコンテキストを統 合 に 考 える必 要 がある. 2.3. 組 織 的 な 距 離 と 近 接 性 組 織 的 な距 離 とは,機 構 を持 つ組 織 に属 する知 識 ワーカが通 信 する際 の,組 織 の機 構 上 に現 れる経 路 の 長 さ を表 す も の で あ る . 組 織 横 断 的 な 知 識 流 通 の 促 進 は 課 題 としてしばし ば挙 げ られ るが,これは知 識 ワーカ間 に存 在 する組 織 的 な距 離 が一 つの阻 害 要 因 となっているためであると考 えられる. 組 織 においては一 般 的 に,効 果 的 な運 営 を目 的 と して,ある基 準 によって組 織 を部 門 に分 割 しその部 門 ご とに機 構 が作 られ ている .企 業 の 多 くは ,トラ ンザク シ ョ ン 理 論 に 基 づ き 組 織 の 機 構 化 を お こ な っ て い る [13] . つ ま り , 企 業 内 で の ト ラ ン ザ ク シ ョ ン コ ス ト を 最 も 合 理 化 することを目 的 として,業 務 プロセスを切 断 し, そのプロセスにしたがって人 員 と資 源 を階 層 的 に配 置 する.こうした機 構 は,部 門 内 のコミュニケーションを容 易 にし,部 門 間 のコミュニケーションは,それらの部 門 の 共 通 する 上 級 ノー ド を経 由 す る ことに よりコミュ ニケ ーションとそのコストをコントロールする形 になっている. 部 門 を階 層 的 に設 置 することに伴 い,知 識 ワーカの間 に組 織 的 な距 離 が生 まれてしまい,結 果 として知 識 流 通 を阻 害 す る 要 因 とな る こと も 少 な く な い .た とえ ば , Nagappan らは,組 織 的 な距 離 を測 るメトリクスを提 案 し, それを使 ってソフトウェアの品 質 を予 測 することに成 功 している[12]. 2.4. 社 会 的 な 距 離 と 近 接 性 社 会 的 な距 離 は,知 識 流 通 に参 加 する知 識 ワーカ の間 に存 在 する社 会 的 なつながりを表 し,パブリックな 役 割 により定 められる距 離 と,個 人 間 の親 密 度 により 生 まれる距 離 との二 種 類 が考 えられる. パブリックな役 割 が決 める社 会 的 な距 離 は,知 識 ワ ーカの間 に存 在 する公 人 的 な相 互 関 係 である.これら の関 係 では,おおやけの立 場 からみ た仕 事 の担 い手 としての側 面 が関 わる.たとえば,先 生 と学 生 ,上 司 と 部 下 などといった関 係 が挙 げられる.こういった役 割 で 決 まる社 会 的 な距 離 は,おおやけの場 で繰 り返 された 相 互 作 用 によって基 準 とされたものである.これらの基 準 を知 識 流 通 に適 切 に取 り入 れることにより,知 識 交 換 と 協 働 作 業 が 効 果 的 に 展 開 で き る と 考 え ら れ る .

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Engerström は , こ の よ う な 知 識 交 換 ネ ッ ト ワ ー ク を knotworking と名 づけ,手 術 室 における協 働 作 業 のプ ロセスを説 明 している.手 術 に携 わる各 役 割 がはっきり 決 めら れて いる ので , 初 対 面 で ある 医 師 や 看 護 婦 同 士 であ って も ,その 役 割 に 規 定 され たタス ク を履 行 す れば,手 術 をスムーズに協 調 して行 うことができる[7]. しかしながら,知 識 流 通 は,常 にすでに想 定 されて いる場 面 でのみ行 われるわけではない.むしろ,アドホ ックに行 わなければならない知 識 流 通 が主 要 である. こうした場 合 での知 識 流 通 には,知 識 ワーカの個 人 的 な相 互 関 係 ,つまり,知 人 関 係 などのような個 人 間 の 親 密 度 が,知 識 流 通 に参 加 するインセンティブと知 識 流 通 の効 果 を大 きく左 右 すると考 えら れる.知 識 ワー カ間 に存 在 する緊 張 した関 係 が知 識 流 通 を妨 げる最 大 の 要 因 と され て いる[4].逆 に,良 い個 人 関 係 は下 記 の側 面 から知 識 流 通 を大 きく促 進 する. ƒ 相 手 に対 する信 頼 が,交 換 された知 識 への信 頼 に 反 映 され,価 値 判 断 が容 易 になる. ƒ 信 頼 できる関 係 にあるため,物 知らずで恥 ずかしい, といった心 配 が減 り,質 問 と回 答 をしやすくなる. ƒ 知 識 を提 供 するインセンティブが高 くなる. 知 識 を提 供 する知 識 ワーカが積 極 的 に参 加 す るイン センティブがないと,知 識 交 換 が成 立 しない.Nahapiet and Ghoshal は,ソーシャルキャピタル理 論 を用 いて, 知 識 ワーカに存 在 する社 会 的 な近 接 性 と,知 識 交 換 に参 加 するインセンティブとの関 係 を解 明 する理 論 的 枠 組 みを提 案 している[13]. この理 論 の中 心 となる概 念 は,義 務 感 と期 待 感 であ る.知 識 ワーカが知 識 流 通 で他 の知 識 ワーカから新 し い知 識 を受 け取 った場 合 ,知 識 を得 た知 識 ワーカにソ ーシャ ルデ ビ ット( 社 会 的 な借 り) が 生 じ , 以 後 に 自 ら が進 んで知 識 提 供 を行 わないとならないという義 務 感 が生 じる.一 方 ,知 識 を提 供 した知 識 ワーカにはソー シャルクレジット(社 会 的 な貸 し)が生 じ,以 降 助 けても らえる期 待 感 を持 つ.組 織 の中 でメンバーの間 に繰 り 返 される,義 務 の遂 行 と期 待 のペイオフが,社 会 的 な 規 範 に 導 かれ,すべてのメンバーに同 じ ような行 動 を 要 求 し,知 識 流 通 に参 加 するインセンティブが向 上 す ると考 えられる.知 識 流 通 を促 進 するためには,このよ うな個 人 的 な社 会 関 係 に伴 う義 務 と期 待 を,知 識 ワー カに意 識 させることが重 要 であると考 えられる. 3. 事 例 前 章 では,認 知 的 ,構 造 的 ,組 織 的 および社 会 的 な距 離 と近 接 性 という視 点 から,知 識 流 通 の成 功 を促 進 したり損 害 したり要 因 を考 察 した.本 章 では,これに 技 術 的 にどうアプローチすべきか,という点 について, 事 例 を用 いて説 明 をおこなう.ソフトウェア開 発 を知 識 共 創 のドメインとしてとりあげ,ソフトウェア開 発 における 知 識 流 通 を分 析 する事 例 を 3.2 節 で,デザインする事 例 を 3.3 節 で説 明 する. 3.1. 知 識 流 通 ネ ッ ト ワ ー ク と し て の ソ フ ト ウ ェ ア プ ロ ジ ェ ク ト ソフトウェア開 発 は知 的 共 創 作 業 を代 表 する分 野 で あると考 えている[22].ひとつのソフトウェアプロジェクト は,ひとつの知 識 流 通 ネットワークを生 成 するとみなす ことができる.この知 識 流 通 ネットワークには,二 種 類 の知 識 ノードが存 在 する.第 一 は,知 識 が組 み込 まれ たアーティファクトとしてのプログラムファイルやドキュメ ントファイル,第 二 は,知 識 を持 っている開 発 者 である. プログラミングは,開 発 者 が知 識 をアーティファクトに外 在 化 するプロセスであると考 えられる.またプログラミン グは,他 の開 発 者 の作 ったアーティファクトを利 用 した り参 照 したりすることにより,そのアーティファクトに組 み 込 まれた知 識 を獲 得 するという,知 識 がアーティファク トから開 発 者 に内 在 化 されるプロセスでもある.開 発 者 は ,プログラ ムに関 する 知 識 を完 全 に外 在 化 す ること はできず[11],開 発 者 が直 接 的 なコミュニケーションを 通 して暗 黙 知 を交 換 することが,開 発 時 においてきわ めて重 要 であることが報 告 されている[5]. Robillard らの研 究 によると,ソフトウェア開 発 者 がプ ロジェクト開 発 に関 する暗 黙 知 を交 換 するためのコミュ ニケーションに費 やした時 間 は開 発 時 間 の 41%をも占 める [16].これらの知 識 交 換 が必 要 となるのは,開 発 者 が抱 えている開 発 タスク間 に,多 様 な依 存 性 が存 在 するためであると考 えられる[6]. 3.2. 近 接 性 コ ン グ ル エ ン ス 分 析 ソフトウェア開 発 タスクは,組 織 の構 造 に沿 って割 り 当 てられることが多 い.これにより開 発 者 の間 に<組 織 的 >な距 離 と近 接 性 が生 じ,ソフトウェアプロジェクトの 形 成 した知 識 流 通 ネットワークに<組 織 的 なコンフィギ ュレーション>を与 えていると考 えられる. また,開 発 者 が抱 えている開 発 タスク間 に依 存 性 が あれば,そのプロジェクトに関 する知 識 にも重 なりが多 くなり,開 発 者 間 に<認 知 的 >な近 接 性 があると考 え られる.この認 知 的 な近 接 性 はソフトウェアプロジェクト の形 成 した知 識 流 通 ネットワークに,<認 知 的 コンフィ ギュレーション>を与 えると考 えることもできる. 我 々は,<組 織 的 >,および<認 知 的 >,という二 つの異 なった距 離 と近 接 性 により形 成 されたコンフィギ ュレーシ ョン 間 に ど の程 度 の一 致 性 があるか を, オー プンソースソフトウェア開 発 プロジェクトを事 例 として取 り上 げ,分 析 をおこなった.プロジェクトにおける異 なる 種 類 の距 離 と近 接 性 間 の一 致 性 の有 無 が,そのプロ ジェクトにお ける知 識 流 通 の実 態 を把 握 , 理 解 ,そし て改 善 するために重 要 であると考 えたためである.

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使 用 し た の は , Apache Httpd プ ロ ジ ェ ク ト の 2007/11/1 から 2008/1/31 までの期 間 中 の,開 発 履 歴 データである.開 発 者 間 の認 知 的 な距 離 を,同 一 のア ーティファクトを,あらかじめ定 めた一 定 の短 い期 間 内 に同 時 にア クセスした回 数 の総 和 として計 算 した.組 織 的 な距 離 を求 めるにあたっては,Apache プロジェク トでは フォー マルな組 織 構 造 を有 していないため,各 開 発 者 が作 業 している場 所 により,国 単 位 (米 国 の場 合 は州 単 位 )でひとつの組 織 としてみなすこととした. 計 算 手 法 の詳 細 は,[21]を参 照 されたい. 図 1に,Apache Httpd プロジェクトにおける,組 織 的 近 接 性 と認 知 的 近 接 性 を表 す例 を示 す.各 楕 円 が各 開 発 者 を示 し,同 一 の組 織 に属 する開 発 者 を四 角 で 囲 っている.開 発 者 間 の実 線 は,それらの開 発 者 間 に 認 知 的 近 接 性 があることを示 し,数 字 はその強 さを示 す. こ の よ う に 組 織 的 と 認 知 的 , 二 種 類 の 近 接 性 を 同 時 に表 現 することで,いくつかの洞 察 が得 られる.第 一 に,二 種 類 の近 接 性 の間 の一 致 性 の有 無 を調 べるこ とができる.Conways’ law[3]は,組 織 構 造 が構 築 する システムの構 造 に与 える影 響 を示 唆 するものであるが, 四 つの次 元 の距 離 を考 慮 すれば, さらに踏 み込 んだ 分 析 が可 能 であると考 えられる.第 二 に,どの開 発 者 がどの部 門 の開 発 者 と緊 密 な連 携 を取 っているか,と いったことを知 ることができる.これらの開 発 者 は部 門 横 断 的 な知 識 流 通 のゲートウェイ的 な存 在 になってい ると考 えられる.第 三 に,これらの異 なる視 点 からの知 識 流 通 の距 離 を考 慮 することで,プロジェクトと組 織 の 目 的 により適 した,開 発 要 員 の配 置 や開 発 タスクの割 当 をおこなうことができる. 図 1では二 つの次 元 の近 接 性 だけを示 しているが, 他 の次 元 を加 えてより深 い分 析 をおこなうことも考 えら れる.たとえ ば,グ ロバー ルプロジェク トでは ,インター ネットコネクションの品 質 やタイムゾーンの差 といったフ ァクターを構 造 的 な距 離 として加 えるなどである. 3.3. 知 識 流 通 ネ ッ ト ワ ー ク の デ ザ イ ン 本 節 では, 知 識 流 通 に おける, 認 知 的 お よび 社 会 的 な近 接 性 を考 慮 した,知 識 流 通 のためのコミュ ニケーションチャンネルのデザイン事 例 を説 明 する. 本 事 例 で構 築 したのは,Java クラスライブラリを使 用 する開 発 者 が,ある Java ライブラリコンポーネントに 関 する情 報 を開 発 者 仲 間 から得 るための, 知 識 流 通 ネットワークである. STeP_IN_Java[23]は,STeP_IN(Socio Technical Platform for In situ Networking)と呼 ぶ,社 会 的 関 係 を考 慮 した知 識 交 換 の枠 組 みに基 づき構 築 され た , Java ク ラ ス ラ イ ブ ラ リ 学 習 支 援 環 境 で あ る . STeP_IN の枠 組 みについての詳 述 は,[20]にある. 本 節 では,STeP_IN_Java における知 識 流 通 ネットワ ークの仕 組 みについてのみ説 明 する. STeP_IN_Java を 利 用 す る 開 発 者 が , 検 索 し 閲 覧 中 のある Java ライブラリのコンポーネントについて,既 存 の情 報 (ソースコードや使 用 プログラム例 ,ドキュメン トや過 去 にやりとりされた Q&A など)のみからでは満 足 する情 報 を得 られず,さらに誰 かに尋 ねたい疑 問 が出 てきたとする.各 Java ライブラリコンポーネントには, “Ask Expert” と い う ボ タ ン が 付 加 され て い て , 開 発 者 がこのボタンをクリックすると,質 問 文 を記 述 できるイン タフェースが現 れる.ここに記 述 した質 問 文 は,システ ム が 動 的 に 構 成 す る , ダ イ ナ ミ ッ ク コ ミ ュ ニ テ ィ (DynC:Dynamic Community) [24]と呼 ぶ,質 問 を答 えてくれそうな開 発 者 仲 間 から成 るメーリングリストに投 稿 される.このメーリングリストは,どの開 発 者 が何 につ いて質 問 しているのかという情 報 に基 づき,認 知 的 お よび社 会 的 な距 離 を考 慮 して動 的 に生 成 される知 識 流 通 のためのコミュニケーションチャンネルである. DynC の構 成 にあたっては,質 問 されている Java ラ イブラリコンポーネントに関 する認 知 的 距 離 を用 いてま ず候 補 者 を選 定 し,次 に,質 問 している開 発 者 との社 会 的 距 離 を用 いて知 識 の交 換 に関 わるべきと判 断 す る開 発 者 を候 補 者 の中 から選 定 している. 認 知 的 な距 離 を考 慮 す るにあたっては,各 開 発 者 がこれまでに開 発 した Java プログラム内 でこのコンポー ネントを使 用 した回 数 や,各 自 がそれぞれのコンポー ネントに対 してどの程 度 の専 門 性 を有 していると思 うか の 自 己 評 価 な どを利 用 し て いる . 社 会 的 な 距 離 を 考 慮 するにあたっては,質 問 する開 発 者 との社 会 的 近 接 性 ,すな わち以 前 に助 けてもらったことがあるか,メー ルなどでコミュニケーションをおこなったことがあるか, 個 人 的 にその開 発 者 を助 けることは吝 かではない旨 を 明 示 的 に表 明 しているか,といった情 報 を利 用 してい る.アルゴリズムの詳 細 については[23]を見 られたい. 図 1: Apache Httpd に お け る 組 織 的 近 接 性 と 認 知 的 近 接 性 を 同 時 に 表 示 し た 例

(6)

DynC は,その開 発 者 が,その Java ライブラリコンポ ーネントに関 する質 問 を答 えてもらうことのみを目 的 と して動 的 に作 成 される,知 識 流 通 のためのメーリングリ ストである.質 問 に対 する回 答 もこのメーリングリストを 介 したやりとりでおこなわれることを想 定 している.質 問 者 が,やりとりの結 果 疑 問 が解 決 したと判 断 したことを システムに対 して示 すと,そのメーリングリストは解 消 さ れ,やりとりの記 録 のみがアーカイブ化 される. 4. お わ り に 本 稿 では,知 識 流 通 を促 進 したり損 害 したりする要 因 を, 認 知 ,構 造 , 組 織 ,そし て社 会 とい った四 つ の 次 元 に分 け,距 離 と近 接 性 のメタフォーを用 いて考 察 する枠 組 みを提 案 した.知 的 共 創 作 業 を代 表 するソフ トウェア開 発 を適 用 ドメインとして取 り上 げ,この枠 組 み に基 づ いて知 識 流 通 の 実 態 を分 析 する方 法 ,そして 新 しい知 識 流 通 ネットワークを構 築 する方 法 を説 明 し た. 今 後 は , 四 つ の 次 元 にお け る 距 離 を 同 定 す る 機 構 をそれぞれ開 発 すると共 に,さらに多 くのソフトウェア 開 発 プ ロジ ェ ク ト に 適 用 し な がら , 知 識 流 通 に お け る 距 離 と近 接 性 がどのように知 識 流 通 の質 の向 上 に関 わるのかについて研 究 を進 めたいと考 えている. 参 考 文 献

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参照

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