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中国における高齢者介護のゆくえ:蘇州市の事例から

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(1)October 2 0 0 4. ―5 7―. 中国における高齢者介護のゆくえ―蘇州市の事例から―*. 大. はじめに. 1. 和. 三. 重**. 中国における高齢化の進展. わが国では1970年代から高齢化が進みはじめ、. 中国における高齢化の問題は1979年の一人っ子. 現在では少子高齢社会が経済や社会に深刻な影響. 政策による影響とともに、1978年の改革・開放政. を及ぼすとして、先の参院議員選挙でも年金問題. 策による急激な経済成長によって生活環境や医療. が争点となったことは記憶に新しい。少子化の進. が改善され平均寿命が伸びたことにある。中国の. 行防止については重点項目として諸策を講じてい. 高齢化の特徴は以下の5つが挙げられる。. るものの未だ効果は見られず、合計特殊出生率は ついに1. 29にまで落ち込んだ。わが国のこうした. 1―1 高齢者人口の絶対数が大きい. 問題を考えるとき、1979年から計画出産政策(い. 中国の人口は2000年の第5回国勢調査によると. わゆる一人っ子政策)を実施した隣国中国に思い. 12億6500万人で、言うまでもなく世界一多く、世. を馳せずにはいられない。そもそも爆発的な人口. 界総人口の約2割を占める(中国国家統計局、表. 増加を抑制するための施策であったが、わが国に. 1参照)。そして高齢者人口もまた世界一であ. おける高齢化の最大の要因を考えると、この一. り、65歳以上の人口 は8 800万人を超え る(男:. 人っ子政策が社会の多方面に与える影響は非常に. 4200万人,女:4600万人) 。60歳以上の人口でみ. 大きいと思われる。これまで中国社会の高齢化の. ると1億3200万人で、世界第8位の人口規模を有. 影響による高齢者とその生活について、わが国で. するわが国の総人口を既に上回っており、そのス. 研究されたものは上海市など一部の都市を除いて. ケールの大きさに愕然とする。. は非常に少ない(牛、2001;木下、1997)。伝統 的に家族による高齢者扶養が中心である中国にお. 1―2 高齢化の進展が急速である. いて、一人っ子同士の結婚を前提として考えた. 高齢化社会の基準は60歳以上の人口が総人口の. 時、夫婦で4人もしくはそれ以上の高齢者を扶養. 10%を占め、65歳以上の人口が総人口の7%を占. することもありうる。したがって高齢化の一層の. めることとされるが、中国の場合2000年に60歳以. 進行は高齢者の安定した生活を脅かすことになり. 上の人口が総人口の10%を占め、65歳以上の人口. かねないのである。そこで本稿では、中国におけ. も7%に達したところである。したがって、高齢. る高齢化の進展の特徴を示し、高齢者の生活実態. 化社会に入ったばかりと考えられるが、今後この. について蘇州市の事例を通して紹介するととも. 老年人口の増加は急速に進むと予測されている。. に、今後の中国における高齢者介護のゆくえにつ. 現 に、80年 代 以 降60歳 以 上 の 人 口 が 年 平 均 で. いて考察する。. 3. 2%の割合で増加しており、さらに2 010年から 約30年間は高齢化の加速段階とされている(劉、 2002;王桂新、2001)。今後一気に老年人口が増 加し、2040年には60歳以上の人口が全体の26%ま. *. キーワード:高齢化、介護、中国 関西学院大学社会学部助教授. **.

(2) ―5 8―. 社 会 学 部 紀 要 第9 7号. 表1. 中国の年齢別人口の推移と将来推計 年齢別人口. 総人口 (1 0 0万人). 0−1 4歳. 1 9 8 2年. 1 0 0 8. 2. 3 3 7. 3. 1 9 9 0年. 1 1 3 3. 7. 2 0 0 0年. 1 5−6 4歳. 年齢構造係数(%) 6 5歳以上. 0−1 4歳. 1 5−6 4歳. 6 5歳以上. 6 1 7. 4. 4 9 2. 7. 3 3. 6. 6 1. 5. 4. 9. 3 1 3. 0. 7 5 4. 5. 6 2 9. 9. 2 7. 7. 6 6. 7. 5. 6. 1 2 6 5. 8. 2 8 9. 8. 8 8 7. 4. 8 8 1. 1. 2 2. 9. 7 0. 1. 7. 0. 2 0 1 0年. 1 4 0 6. 3. 3 0 0. 6. 9 9 4. 9. 1 1 0. 8. 2 1. 4. 7 0. 8. 7. 9. 2 0 2 0年. 1 4 9 4. 8. 2 8 1. 2. 1 0 4 5. 4. 1 6 8. 2. 1 8. 8. 6 9. 9. 1 1. 3. 2 0 3 0年. 1 5 4 6. 0. 2 6 8. 7. 1 0 3 7. 7. 2 3 9. 6. 1 7. 4. 6 7. 1. 1 5. 5. 2 0 4 0年. 1 5 4 8. 4. 2 3 2. 3. 9 8 8. 3. 3 2 7. 8. 1 5. 0. 6 3. 8. 2 1. 2. 2 0 5 0年. 1 5 2 1. 0. 2 1 7. 9. 9 5 3. 9. 3 4 9. 2. 1 4. 3. 6 2. 7. 2 3. 0. 資料:中国国家統計局、2 0 1 0年からは吉田・馬「中国」p.2 5 4より. 表2. 中国および主な先進国の高齢化速度の国際比較 高齢者人口割合の到達年次. 国. 名. フランス ノルウェー スウェーデン オーストラリア アメリカ カナダ イギリス 中国 日本. 所要年数 1 1 4年 8 7年 8 2年 7 4年 6 9年 6 5年 4 6年 3 0年 2 4年. 7%. 1 4%. 1 8 6 5年 1 8 9 0年 1 8 9 0年 1 9 4 0年 1 9 4 5年 1 9 4 5年 1 9 3 0年 2 0 0 0年 1 9 7 0年. 1 9 7 9年 1 9 7 7年 1 9 7 2年 2 0 1 4年 2 0 1 4年 2 0 1 0年 1 9 7 6年 2 0 3 0年 1 9 9 4年. 資料:『社会保障統計年報』1 9 9 8年、中国は表1と同じ. で達するとの予測もある(北京週報、2 002)。こ. 年にすでに7. 2%であり、高齢化社会に突入して. のような人口の高齢化は日本に比べると30年遅れ. 以来21年間で高齢社会を迎えている。他にも北京. ているが、その速度は日本並みである(吉田・馬、. 市や天津市など65歳以上の高齢者人口が10%前後. 2000)日本の場合、65歳以上の高齢者人口が7%. の都市があるが、主に東部、沿岸地域で高齢化が. (高齢化社会)から14%(高齢社会)になるまで. 進んでいる(包・浅野、2 001)。それは、一人っ. 24年という速さで、他の先進国と比較すると圧倒. 子政策を特に都市部において厳しく実施してきた. 的に速い。一方、中国は表2に示す通り、3 0年程. 影響によるためで、西部の農村地域は出生率が高. 度と予測されていて、日本に次ぐ速さで高齢化が. く、青梅、寧夏などの地区は2010年前後にならな. 進むことになる。. ければ7%を超えず高齢化社会に入らないと予想 されている。. 1―3 地域格差が大きい 上海市は中国で高齢化の最も進んでいる都市の. 1―4 経済成長する以前に高齢化が進行している. ひとつで、人口1674万人(2000年)のうち65歳以. 李学挙民政相は第10期全国人民代表大会で老年. 上の人口は14. 2%に達している。上海市では1979. 人口の増加が速く、高齢化社会に入りはじめてい.

(3) October 2 0 0 4. ―5 9―. ることを述べ、中国が「豊かにならないまま老い. る。そもそも中国における社会保障制度を語る場. てしまう」国だと指摘している(中国通信社、. 合に忘れてならないのは地域格差の問題である。. 2003)。1990年に既に高齢化社会を迎えた先進工. 近代化が進む都市とそうでない農村地域が存在す. 業国46か国の一人当たりの国内総生産(GNP)は. ることをまず確認しておかなければならない。. 11, 000ドルで、中国は400ドルしかなかった。現 在もなお1000ドルに満たない。したがって他の先. 2―1 都市と農村の2元化. 進諸国のように、経済発展を遂げてからあるいは. 劉(2002)によれば、 「戸口制度」によって都. 経済成長や都市化と同時に少子化や高齢化が進行. 市と農村間の移動が原則的に禁止されたことによ. したのとは異なり、一人っ子政策による人口政策. り、都市と農村の住民との間には身分的格差とも. や人口移動制約などの要因が社会の緩やかな高齢. 言える権利の制限が行われているとする。この2. 化を不可能にしている(吉田・馬、2000)。. 元構造は社会保障制度にも反映され、都市住民は 雇用先を媒介として、手厚い社会保障の恩恵を受. 1―5 伝統的な家族の考え方や家族形態が変化し ている. けているが、総人口の80%を占める農民(現在は 60%)には、社会保障制度はないに等しく土地と. 現在の中国では数千年来続いてきた「養児防. いう生産手段のみを媒介とした私的あるいは家族. 老」(老後の世話を受けるため、多くの子どもを. 的保障と孤児弧老に対する集団保障制度が用意さ. 生み育てること)の神話が崩壊したと言われる. れているだけであった。したがって、当時は都市. (黄、2001)。それは、一人っ子政策が少子化と高. で働く労働者を優先する姿勢が明らかであり、農. 齢化を招いたことが大きな要因である。1992年の. 村は都市を養う役割を背負っていた。そして企業. 高齢者支援に関する 全 国 調 査(China Research. を国有化し、社会主義体制を構築していくなかで. Centre on Ageing, 1994)によると、60歳以上の. 都市と農村の2元構造が出来上がっていったので. 人口の約12. 2%が一人暮らしをしており、高齢者. ある。. 夫婦のみで暮らしている人は29. 6%で高齢者のほ. 1990年代以降は許可なく農村から都市へ出稼ぎ. ぼ3人に1人である。このように、現在では伝統. に出る若者が増えたり、農業を離れる人々が生活. 的な三世代世帯が減少し家族形態が変化するとと. の場を移動したため、農村に高齢者や障害者が残. もに、核家族や独居老人が増えている。また、女. され、介護者がいなくなるという事態が起こって. 性の就労も増加したために、例えば、都市部では. いる(黄、2001)。それによりこれまでは「五保. ほ と ん ど の 家 庭 が 共 働 き 世 帯 で あ り(李、. 制度」によって衣、食、住、医、葬を保障されて. 2002)、妻にとって一旦仕事を辞めると再就職が. いた農村部の身よりのない高齢者や障害者のニー. 困難なことや仮に再就職できたとしても次の就職. ズが増大し、この制度が十分に機能しなくなって. 先で社会保険(勤労者として加入している)を連. いる。. 続して計算できないことなどから、よほどの事情 がなければ介護のために仕事を辞めたくはないと いう。これらの理由から伝統的な家庭での家族扶 養(介護)が困難になってきている。. 2―2 介護保障制度の不備 1980年代の改革・開放前までは国有企業が労働 者やその家族の年金・医療などの社会保障や、住. このような中国における高齢化の特徴を踏まえ. 宅・教育などの福利厚生をすべて請け負ってい. て、現在中国が抱えている高齢者介護に関する社. た。これらは国有企業等の「単位」とよばれる職. 会保障の問題点を次に概観する。. 場組織が担っていた。そこに勤めている者の日々 の生活が「単位」という生活共同体の中で営ま. 2. 高齢者の社会保障の問題点. れ、「住む地域より勤め先の『単位』を頼りにし てきた」(李、2002,p.253)と言われる。しかし. 中国の社会保障制度は労働・給与、社会保険、. 改革・開放による市場経済の導入によって、今ま. 社会福祉、社会救済、優遇措置の5つに大別でき. での福利厚生の水準を保つことができなくなり、.

(4) ―6 0―. 社 会 学 部 紀 要 第9 7号. 現在ではその機能が大幅に縮小されている(高. あり、中は全て2ベッドルームのホテル仕様に. 坂、2002)。. なっている。全部で36室あり、現在50名(その内. 高齢者に限れば、全国で1億3200万人いる60歳. 夫婦が8組)が入居している。中国でも通常は日. 以上の人のうち、年金受給者は1! 3にも満たない. 本と同じく女性入居者の方が男性入居者より多い. といわれ、大多数は家族養老に頼らざるを得な. が、ここでは男女比は同じ程度である。そもそも. い。中国社会科学院(2004)によれば、現行の年. ホテルの敷地内に併設されているだけあって、高. 金システムは歴史的な試練に直面せざるを得ない. 級志向であるため、このような行き届いた施設は. 状況で、莫大な不足額が出ると予想している。現. 蘇州市に一つしかなく日本でいうところの有料老. 在年金は都市就業者の44. 9%、退職人口の85. 4%. 人ホームに近いといってよい。入居条件は61歳以. しかカバーできていない。このように中国では残. 上で、ADL(日常生活動作)が自立しており、月. 念ながら社会保障制度が整備されているとは言え. 800元(1元=約1 4円)の費用を払えることであ. ず、高齢者への経済的な援助や疾病時の看護、介. る。したがって、入居者は元公務員幹部、医師、. 護、日常生活の援助は今も家族に頼らざるをえな. 教員などで1か月1 000元から3000元の高額な年金. い(李、2002)。さ ら に 中国 社 会 科 学 院(2 002). のある一部の階層に限られている。ホテル式老人. の統計によると中国人の場合、亡くなるまでに過. ホームはここだけであり、上質なサービスを提供. ごす「健康でない時期」は平均8年間とされ、今. することを特徴としているため、スタッフの資格. 後長期に介護の必要な高齢者の増加に伴い介護や. は特に必要ないが、旅行学校で接客サービスを学. 看護にかかる費用が激増すると予測している。こ. んだ者を優先して雇用している。スタッフは10数. うした背景から「中華人民共和国老人権益保障. 名で仕事の内容は清掃、食事サービス、利用者間. 法」(1996年)は家族 の 扶 養 義 務 を 詳 細 に 定 め. の調整などを行い、入居者は洗濯のみ自分で行. た。この法律は、「高齢者扶養は主に家族に頼る」. う。施設には娯楽室や図書室が設けられており、. という文言で家族による高齢者扶養の義務を明確. 歌の会、卓球、体操、絵画、書道、麻雀などの活. に示すとともに、家族は高齢者に対して物質的な. 動がある。入居対象者は自立が要件であるが、. 保障だけでなく情緒的保障も行うよう内容を具体. サービス内容は2級程度を提供している。. 的に記して私的保障を強調している(王、2001)。. 中国ではこのような高齢者向けの社会福祉施設 は介護の必要な状態別に4つの等級に分かれてい. 3. 蘇州市の事例. では実際の高齢者の生活とはどのようなものな. る(表3)。 T 施設は2級程度のサービスを提供していると. のか。これまであまり知られることのなかった中. いうことだが、表3に見るように2級では平均. 国における高齢者の日常生活に焦点をあてること. 150∼240元の利用料であるから、かなり高額な料. で、彼らがどのような生活を営み、介護が必要に. 金設定になっている。また、2級程度といっても. なった時どのように生活したいと望んでいるかを. 自立が保持できなくなれば施設から退居しなけれ. 探ることとする。ここでは、蘇州市で聞き取り調. ばならず、その際はさらに介護度の高い1級ある. 査を行った高齢者施設の入居者および自宅で生活. いは特級のサービスを提供する老人ホームに移る. する高齢者の事例を紹介する。. か、もしくは自宅に戻って家族に介護してもらう か、住み込みの介護ヘルパーを雇うことになる。. 3―1 施設で暮らす高齢者. 高齢者施設の場合、一般的には T 施設と異なり、. 蘇州市の社会保障局が建設した T 施設は、系. 同一施設で特級から2級までの3段階の等級サー. 列のホテルと同じ敷地内にあり、建設後の運営資. ビスを提供している場合が多く、様々な身体状況. 金については公的な補助はなくホテルの収益と入. の高齢者が混合居住している。T 施設の入居者を. 居者の利用料で老人ホームの運営を行っている。. 個別にみると以下の通りである。. 緑に囲まれた広い敷地内の隅に3階建ての建物が.

(5) October 2 0 0 4. ―6 1―. 表3 特級. 1級介護の上にあたる 日常の整容(髪を梳かす、顔と足を洗う) 、衣服の着脱、食事、トイレ、入浴の全介助、 定期的な体位交換と適切な体位の保持、ベッドの清潔保持、食品の代理購入、特別食によ る栄養補充、医療看護と生活介護の連携、医師による毎日の回診 料金:6 0 0∼1 2 0 0元. 1級. 2級の上にあたる 起床、衣服の着脱、整容、食事、トイレ、入浴、散髪、爪切りの介助、布団や衣服の衛生 管理や気候による変化への管理、居室での3食提供、食品の代理購入、体調に合わせた特 別食の提供、医療スタッフによる毎日の投薬、心理状態の把握、精神的健康の快復および 身体的活動の展開 料金:3 0 0∼4 5 0元. 2級. 3級の上にあたる 朝晩の整容の介助および声かけ、食堂での食事介助、居室での水分補給、居室内外の清 掃、ベッドの清潔保持の手伝い、衣服の着脱介助および声かけ、気候による変化で必要と される布団や衣服の調整の手伝い、ベッドや箪笥の整理の手伝い、入浴介助、便器の清掃 介助、食品の代理購入、体調に合わせた特別食の提供、体調の経過観察およびそれに応じ た医師の診療手配、身体的活動の提供 料金:1 5 0∼2 4 0元. 3級. (基本的に介護はない) 整容の声かけ、身体的活動の提供、ベッドの清潔保持の手伝いおよび声かけ、衣服の着脱 の手伝いおよび声かけ、季節の変化に応じた手伝い、コミュニケーションの促進、居室お よびトイレ清掃の手伝い、箪笥の中や所持品の整理の手伝いおよび声かけ、炊飯の手伝 い、お湯の提供、体調の経過観察とそれに応じた医師の診療手配 料金:9 0∼1 5 0元. 資料:桃園度假村提供. ①. 社会福祉施設の生活の介護等級および料金標準. (. )内は筆者加筆. H さん(72歳、男性)は、息子2人に娘1人、. 再婚した。中国では熟年の再婚に反対する子ども. 孫が2人いる。妻と二人暮らしで、長い間妻は病. が多く、また自分たちのように再婚してもうまく. 気を患っていた。本施設には妻が自立していない. いっている夫婦は多くない。. ことから一緒に入居することができず、妻の死後 ひとりになってから入居した。妻の介護は住み込. ③. みの手伝いを雇っていた。介護のための住み込み. 卒業してからずっと定年(男性6 0歳、女性5 5歳). ヘルパーは月300元から500元かかり、その費用は. まで働いた。この施設は環境、食事、サービスの. 全て自分で支払った。子どもの世話にはなりたく. 3点が良く、大変気に入っている。入居は夫が決. ないと思っているので、ここで暮らしている。こ. めた。ここでは家事をする必要がなく、食べたい. こは空気がきれいで環境が良く、(建物には130%. 物の材料を購入してきて調理してもらうことがで. の緑化が義務づけられている)静かなうえに、医. きるし、翌週の食事のメニューを見て先に好きな. 師もスタッフの中にいるので安心である。趣味は. ものを選べるシステムになっている。メニューに. いろいろあるが、散歩が一番の楽しみである。ま. も高齢者の意見が反映され、ホテルと同じサービ. た、ここでは一日中お湯が出てお風呂に入れるの. スで利用者に合わせた食事づくりをしてくれる。. が気に入っている。. 子どもたちもこの施設を気に入っており、将来は. C さん(84歳、女性)は R さんの妻。学校を. 彼らも入居したいと言っている。 ②. R さん(8 2歳、男性)は夫婦で入居して5年. になる。互いに3人ずつ子どもがいるが10年前に. ④. D さん(81歳、男性)は妻(73歳)と一緒に.

(6) ―6 2―. 社 会 学 部 紀 要 第9 7号. 入居している。入居に関しては二人で話し合って. のある高齢者のための老人ホームが増加し、施設. 決めた。自宅は T 施設から15分ほどですぐ近く. サービスが幅広いニーズに合わせて変化せざるを. だが、こちらの方が快適である。子どもたちも毎. 得ない時代を迎えていることを示している。. 週遊びに来てくれるので満足している。 3―2 在宅で暮らす高齢者 S さん(76歳、女性)は夫が亡くなってから. 施設に自費で入居希望する高齢者が増えている. ずっと一人暮らしをしていた。一人暮らしは寂し. というものの、中国では依然として大部分の高齢. く友達がいないことが問題だと思う。T 施設に入. 者が自宅で介護を受けている(王、2001)。その. 居後一度自宅へ戻ったが、寂しいため、ここに再. 場合の方法としては(1)農村から介護者を雇う、. ⑤. 入居した。子どもたちは蘇州市にいるが皆忙し. (2)社区服務(コミュニティサービス)を受け. く、孫も独立してステュワーデスとして働いてい. る、(3)子どもたちが交代で面倒を見る、の3つ. る。もし介護が必要になったら自分は蘇州市出身. である(鈴木、1 997)。これらの3つの方法につ. ではないので、地元に帰るしかないと思ってい. いてそれぞれ実際のケースを以下に述べることに. る。. する。. 3―1―1 老人ホームのイメージの変化. 3―2―1 農村から介護者を雇う. 調査のなかで在宅高齢者の娘3人(40代から50. 大都市では介護のために農村からきた女性を住. 代)に話を聞くことができた。彼女たちによる. み込みで雇ったり、子育てや家事のために若い娘. と、老人ホームのイメージはここ10年で急速に良. を雇うことが多くなっている。高齢者の介護をす. くなったと言う。蘇州市でも老人ホームの数は10. る住み込みの女性たちも「保母」と呼ばれ、住み. 数カ所に増加しており、老人ホームを嫌う父たち. 込みで月額3 00元程度で雇うことができる。上海. の世代と違って自分たちは年をとったら老人ホー. 市に代表される内陸の地方都市の場合は、さらに. ムに行きたいと率直に語ってくれた。ただ、その. 安い報酬で近隣の貧しい省からきわめて簡単に. 場合、元気なときに老人ホームでみんなと楽しく. 「保母」の調達をすることができ、その経費は都. 暮らすのが理想で、病気になったら病院か自宅で. 市住民にとって十分拠出できる範囲だという(鈴. 過ごすだろうと言う。病気や要介護状態になって. 木、1997)。. 老人ホーム(4人部屋で月400元程度)で暮らす のは嫌だということらしい。このように都市にお. ①. ける若年層の老人ホームへのイメージが変化して. の専門鑑定士をしていた。亡くなった妻は博物館. S さん(9 0歳、男性)は貴族の出身で博物館. きているのが分かる。老人ホームは従来のように. に作品が展示されている著名な画家で、自身も絵. 貧困者や身よりのない高齢者のための介護施設で. を描くことが楽しみである。子どもは4人おり、. はなく、自己負担で入居し、元気な間に仲間と楽. 皆独立している。そのうち3人は蘇州市内に暮ら. しく過ごす場所として考えられるようになってき. しているが、住み込みの女性(57歳)を雇ってい. ているようだ。これは黄(2001)が『中国の医療. る。S さんの日課は5時に起床、1時間の散歩の. 保障・介護保障』のなかで指摘している通りであ. 後、絵を描いたり、新聞を読んだりして過ごし、. る。すなわち、従来福祉施設といえば基本的に身. 夜は7時40分の全国ニュースを見てから就寝す. よりがなく、収入がなく、労働力のない「三無. る。S さんは料理や洗濯などの家事を全くしな. 者」と呼ばれる人たちが対象であったが、1990年. い。68年前に日本の大学を卒業し、日中戦争の折. 代以降は介護に重点をおきながら、一般の人も施. に帰国した。現在も社会情勢に関心があり毎日4. 設利用の対象者として積極的に受け入れているた. つの新聞に目を通し、最近の雑誌を自分で購入し. め、自費で入居したいとする高齢者が増えている. たりもする。頑固な性格で自立した自由な生活を. (黄、2001;王、2001)。こ れ は、従 来 の「三 無. 望んでいる。老人ホームに行っても他の人たちと. 者」のための老人ホームに加えて、経済的に余裕. 合わないと思っている。子どもたちとも生活の.

(7) October 2 0 0 4. ―6 3―. ペースが異なるため、同居して合わせるのは大変. (2)子どもがそばにいないこと. だと感じている。その代わり子どもたちはほとん. (3)本人が家庭養老院に参加したいと希望してい. ど毎日交代で電話や訪問をしている。住まいは市. ること. 内の中心部に近い築22年の古いアパートで、3DK. Y 居民委員会の実施する家庭養老院の業務内容は. にトイレと風呂がついている。住み込みで S さん. 次の通りである。. の世話をしている女性は夫を亡くし、子どもも独. 家庭養老院の業務内容(資料:Y 居民委員会提供). 立して一人暮らしのため、S さんの妻が病気の時. 住民の生活困難を解決するため、高齢者により良. から雇っている。その費用(月600元)は S さん. いサービスを提供するため、特別にこの家庭養老院. 本人の年金から全額払っている。妻の時は、住み. の業務内容を制定する。. 込みの女性の仕事は食事の用意程度で、妻の入院. (1)個人の家庭を主体として、家庭養老院を設け、. の付き添いは1日30元で別の人を雇っていた。住. 区の工作者(職員) 、志望者あるいはパートを派. み込みの女性は4年になるが S さんとの関係も良. 遣してサービスを提供する。. 好である。しかし、一般的には両者間にトラブル. (2)区の志望者は困っている問題を解決し、高齢者. が発生することもよくあり、このように問題のな. の精神、文化、生活をさらに豊かにする。. いケースは多くはない。. (3)家庭養老院には“優先、特恵、優良”のサービ スを多方面、多項目、多方式に提供する。. 3―2―2 社区服務を受ける. (4)定期的に小中学生や党員を集め、家庭養老院の. 社区とは都市では街道事務所、居民委員会など を指し、社区服務とは「コミュニティサービスと. 掃除などをし、家庭養老院の清潔を保つ。 (5)毎年、不定期に医療人員を家庭養老院に派遣し. 呼ばれる地域の互助システム」のことである。 1986年から全国でこのコミュニティサービスを整. 健康診断を行い、 高齢者の健康状態を確認する。 (6)常に家庭養老院を訪問し、高齢者の需要を満足. 備するようになったが、それでも現状でカバーし. させる。. て い る 地 域 は 全 国 の30%に 過 ぎ な い(鈴 木、 1997)。高齢者に対するサービスとしては街道事. Y 居民委員会ではこれまで4ケースを実施して. 務所が社区服務中心(コミュニティセンター)を. いるが、高齢者が家族のところへ帰っているため. 開設し、そこで地域の高齢者が集まって麻雀・囲. 現在は2ケースになっている。ケースは担当制で. 碁などのゲームや趣味の活動をする場所を提供し. 1ケースにつき居民委員会から3人の委員が担当. ている。その他、このセンターを中心にして介. する。業務内容にもあるように、委員は主に毎日. 護、家事援助、各種相談などのサービスを展開し. の見守りを行い、病気の時に電話1本で駆け付け. ているが、社区によってその内容は様々だと言わ. て病院に付き添ったり、家の中の掃除をしたりす. れる。ここでは蘇州市の H 区にある街道事務所. る。これらのサービスはすべて無料で行われる。. と居民委員会を事例として、そこで行われている. 現在継続中の家庭養老院の利用者2ケースについ. 家庭養老院のサービスについて述べる。. ては以下の通りである。. 居民委員会の指導監督は街道事務所が行うが、 委員(4人)の給料は居民委員会から支払われて. ①. いる。H 区のみで63か所の居民委員会がある。今. 二人暮らしである。食事は自炊で二人とも自立し. R さん(82歳、男性)は妻 S さん(81歳)と. 回訪 れ た Y 居 民 委 員 会 で は2 350戸(6025人)を. ている。2DK のアパートは娘が購入した持ち家. カバーしており、そのうち高齢者は8 00人いる。. である。今年から始まった家庭養老院のサービス. Y 居民委員会では2003年度から家庭養老院という. を契約したのは、ここで死ぬまで生活したいと. システムを開始した。家庭養老院のシステムを利. 願っているからである。介護が必要になったらヘ. 用するための資格は特に必要ないが、以下のよう. ルパーを有料で雇うつもりである。好きなものを. な緩やかな条件が設定されている。. 作って食べられるし、好きな生活ができるため、. (1)対象者は70歳から80歳程度. ここが気に入っている。子どもたち4人(うち2.

(8) ―6 4―. 社 会 学 部 紀 要 第9 7号. 人は蘇州市内在住)と一緒に住みたいとは思わな. 由は(1)国の政策によって高齢者の社会保障が. い。彼らにも家庭があり、自分たちのことで忙し. ある、 (2)居民委員会が面倒をみてくれる、 (3). い。子どもたちも時々遊びに来るし、親戚の訪問. 自分はできるだけ楽しいことを探して暮らすこと. もある。何より家庭養老院では、定期的に旅行も. ができる、からである。. あり、メンバー同士無料で参加できる。老人ホー ムには入りたくないし、そもそも妻と二人で入る. ②. だけの金銭的余裕もないので老人ホームは考えて. し、中学校の地理の教師をしていた。年金は月. いない。. 1700元(大学の教員で2 000元程度)と高額であ. K さん(78歳、女性)は生涯独身で一人暮ら. R さんは元共産党員で若い時に蘇州市に出てき. る。現在受給している年金は現役時代と同額であ. て60年以上になる。年金が月7 00元あるが、農村. るが、将来どうなるかは分からない。蘇州市で生. 部に残って親と子どもの世話をしてきた妻は無年. まれたが、文化革命後は江蘇州の北部に配属され. 金である。妻は R さんの退職後蘇州市に来て一. たため、教え子は皆近くにはいない。家庭養老院. 緒に暮らしている。R さんが先に亡くなった場. の第一号である。自分の住居は住みやすく静か. 合、無年金の妻は月170元と民政局からの140元で. で、しかも老人ホームに入るより安い。朝野菜を. 合計310元は支給される。R さんは、これから高. 買いに行き、運動、散歩、家事などをする生活が. 齢者が増加し、皆が老人ホームに行くと政府が困. 自分に合っている。趣味は旅行で毎年どこかへ出. ると考えている。したがって高齢になってもでき. かけることにしている。今年は SARS で旅行する. るだけ自立して社会に貢献することを強く望んで. ことができなかったので、来月には桂林に行くつ. いる。R さんの日課は以下の通りである。. もりである。介護が必要になったら人を雇ってで. 5時. 起床. 6時半. 運動(太極拳に妻と参加、仲間は2 0人程度). 7時半. 朝食(おかゆ) 妻は家事 R さんは新聞を読む、社会状況について学 習する(バルコニーが新聞による学習の場). もここに最後まで住み続けたいと考えている。今 でもガスボンベのように重いものを運ぶときや電 球の取り替えなどは居民委員会を呼べばすぐにし てくれるので日常生活に支障はなく、将来に特に 不安はない。居民委員会の集会室では午前中は女. 9時. 昼食づくりにとりかかる. 性、午後は男性のための活動が行われているの. 1 1時半. 昼食. で、午前中は集会室へ出かけて踊りなどに参加し. 1 3時∼ 1 4時. 休息. ている。K さんの日課は以下の通りで、やはりこ. 1 4時. 妻はテレビ鑑賞 R さんは再び新聞を読む、居民委員会の集 会室(コミュニティセンター)へ行き仲間 と囲碁をしたり、談笑したりする。. のペースを決して崩さないとのことである。 6時から7時 起床 午前中. 野菜の買い物に出かける 居民委員会の集会室に出かける. 1 6時半. 帰宅. 1 2時ごろ. 昼食. 1 7時半. 夕食. 午後. 新聞を読む. 1 9時. テレビのニュース番組(2つ)を必ず見る. 夕食後. テレビ鑑賞. 2 0時. 就寝. 2 2時. 就寝. このペースを崩すことなく厳格に守っており、加. K さんは先の R さんに比べて年金額が非常に多い. えて健康のために妻と散歩をすることを心掛けて. が、住 居 は い た っ て 質 素 で あ る。1LDK の ア. いる。生活の楽しみは散歩と仲間とする太極拳、. パートの床は土間になっており、トイレはついて. 新聞での社会勉強である。60歳を超えると政治へ. いない。1畳ほどの台所も未だにレンガを積み上. の関心が薄れるといわれるが、自分は高齢になっ. げてあるだけの粗末なこしらえである。. ても社会のことや国家のことを知り、自分ができ る事は何かを考え、できるだけ社会の助けになり. この2例から言えることは、R さん と K さん. たいと思っている。将来への不安はない。その理. は、どちらも本人が住み慣れた自宅で最後まで暮.

(9) October 2 0 0 4. ―6 5―. らしたいという強い希望をもっていること、そし. ①. て社区は家庭養老院という形でできるだけ本人の. らしである。ともに元銀行員であったため年金は. 意思を尊重しながら高齢者の生活を支えようとし. 十分にある。S さんは家の中では杖で歩行できる. ていることである。このような家庭養老院のシス. が、高血圧症で心臓病や胃にも持病がある。子ど. テムは蘇州市ではもう1か所の社区で実施してい. もは5人おり、息子2人は近くに住んでいるが娘. るが、いずれも新しい試みである。現在、居民委. 3人は遠方である。現在は長男(60歳)と長男の. 員会の担当者は4人いるが、域内に高齢者は8 00. 嫁(58歳)が共に退職したため、交代で S さん夫. 人在住しており、今後契約者が増加すると4人だ. 婦の面倒をみている。S さん宅から自転車で2 0分. けでは手が回らないことは確かである。R さん夫. のところに住み、朝8時半に行き、朝食、昼食を. 妻も K さんも現在は自立しているが、要介護状態. 共に食べ、夕食の支度までを終えて洗濯物を持ち. になった時どちらも介護ヘルパーの派遣を希望し. 帰る。弟妹は長男に金銭で謝礼をしているが、両. ている。居民委員会から介護ヘルパーを派遣する. 親には資金援助はしていない。銀行は退職後も福. 可能性も十分にあり、街道事務所の職員は将来の. 利公正が整っており、元気なころは銀行の老人会. 失業対策にもなると積極的で、既にサービス趣旨. にも参加し、週3日は書道・漢詩・お茶会に出か. を用意して備えている。そのサービス趣旨には、. けていた。S さんの体調が弱ってからは S さんの. 次のような内容が盛り込まれている。. 妻も参加を控えている。現在の趣味は新聞、読. 「個々の家庭を単位として家政サービスを提供. S さん(87歳、男性)は妻(87歳)と二人暮. 書、テレビ程度である。. する。出発点は高齢者の個別的養老の需要を満た. S さんの身の回りの世話は長男夫婦が交代で. すことである。(1)居民委員会は無料で家政サー. 行っているが、精神的なサポートについては別で. ビス人員を紹介する。家政サービス人員は主に区. ある。中国では娘の方が老親との関係がより緊密. 内の失業者である。これによって再就職問題も解. であると言われるとおり(Hao, 1997)、S さんの. 決でき、区内の者同士は互いに知りあいのため信. 場合も実家での生活期間が長く両親と特別な関係. 頼がおける。 (2)居民委員会の監督の下で家政. で結ばれている次女(第4子)が行わなければな. サービス人員と介護対象者は介護契約を結び、. らない。そこで、次女(日本在住)は半年前に単. サービス内容、時間、給料を決め る。(3)家 政. 身で帰国し、週に3日から4日両親を訪ね話し相. サービス人員は“家庭収支明細書”を記入し、定. 手になっている。この先いつまで滞在しなければ. 期的に居民委員会の監査を受ける。(4)すべての. ならないか分からない状況である。S さん夫婦は. 家庭養老院に統一して看板を出すこと」 (Y 居民. 他人に家の中に入られるのを嫌うため、住み込み. 委員会提供資料から). のヘルパーを雇うわけにもいかず、子どもたちだ. このように家庭養老院を失業問題の解決に利用. けで面倒をみなければならない。次女によれば、. しようとの期待から、街道事務所は域内にどの程. 本来なら早い段階で住み込みの介護ヘルパーを. 度のニーズがあるのか調査を開始し、蘇州市以外. 雇っているところであるが、両親の希望でそれが. で家庭養老院のシステムが始まっている地域につ. できない。自分たちのように実際に子どもたちだ. いての調査も行うことになった。今後、老人ホー. けで見ているケースは都市部では少ないとのこと. ムへの入居より自宅を利用して家庭養老院のよう. である。しかし、それでも疾病によって S さんの. なサービスや地域の相互扶助システムを希望する. 身体状況がさらに悪くなれば現在のような形では. 高齢者も増加すると思われる。. やっていけないため、介護ヘルパーを雇うことに なるだろうというのが今後の見通しである。. 3―2―3 子どもたちが交代で面倒をみる 次に、中国で従来行われてきた子どもによる老. ②. J さん(83歳、女性)は貴族の出身で、中学. 親扶養のケースであるが、最近では必ずしも同居. 校で数学と国語の教師をしていた。年金は十分に. でなく別居で高齢者の面倒を見る場合も増えてい. あり、郊外の新しいアパートに一人で暮らしてい. る。. る。ここヘは長男一家と共に移り住んだ。すぐ声.

(10) ―6 6―. 社 会 学 部 紀 要 第9 7号. の届く距離にある向かいの棟に長男家族が住んで. でいたところには多くの友人がいたが、ここに. いる。子どもは息子が3人おり、うち2人は蘇州. 引っ越してから友人があまりいないのが残念であ. に住んでいるため、毎日訪ねて来る。郊外のこの. る。J さんの場合、何不自由なく暮らしている. 地域は3年前に開発された高級コンプレックスで. が、子どもとの近居を優先させたために、住み慣. 市の中心部から車で15分程度のところにある。当. れた地域から離れ、友人や地域とのネットワーク. 時の価格は12万元と高額で高級な物件として知ら. が損なわれている様子が見られる。. れている。明るい室内はすべてフローリングで、 エアコンなどの電気製品も完備しており広い敷地. ③. 内に洒落た高層マンションが立ち並ぶ一帯は先の. アパート群の一つに住んでいる。ここは入り口で. S さん(元博物館鑑定士)の住んでいる中心部の. 暗証番号をいれなければならないシステムでさら. 地域や居民委員会が家庭養老院を実施している H. に安全性に力を入れている。アパートは十分な空. 区とは全く異なる景観である。J さんの日課は次. 間のあるメゾネット形式で3LDK のかなり高級. の通りである。朝5時から6時に起床、お湯を1. な作りである。ここには M さん、娘(60歳)と. 杯飲む、果物を食べる、午前中に野菜を買いに出. 娘の夫、孫の嫁(3 5歳)、曾孫(1 0歳)の4世代. かける。帰宅後公園で運動(太極拳)をする。昼. で暮らしている(図1)。M さんの孫は事故で既. 食後、1時間昼寝をする。夜10時には就寝する。. に亡くなっている。M さんは白内障の手術を終. 家事一切を自分でする。新聞が好きでよく読む。. えたばかりで体調が優れないため、娘に聞き取り. 趣味は書道と手芸で、孫の成長に合わせて手編み. を行った。娘夫婦は古典音楽の著名な演奏家で夫. のニットをプレゼントするのが楽しみになってい. は蘇州市の楽団の元団長である。二人とも今は退. る。生活信条として自分で決めていることがあ. 職し、娘が M さんの世話や食事の用意をしてい. る。手を使うこと(脳の活性化につながる) 、食. る。家の掃除は別に手伝いを雇っている。孫が早. べ過ぎないこと、漢方薬を駆使すること、果物を. くに事故で亡くなったため、孫嫁は M さんたち. 食べること、四季にあった食べ物を注意深く守る. と同居して働いている。一家は孫嫁の母親とも仲. こと、漢方薬以外の薬はなるべく飲まないこと、. が良く、娘と孫嫁とは良好な関係である。娘の夫. 健康に関する本をよく読むこと、等である。現在. の両親は既に亡くなってしまったが、このように. の住居は水道水が良質で、環境が良いことが気に. 多世代で暮らすことは良いことだと思っている。. 入っており、将来に不安はない。ただ、以前住ん. 食事は M さんや夫、孫それぞれ別のメニューを. M さん(81歳、女性)は、J さんと同じ高級. 用意している。今のところ将来のことはあまり考 えていない。16歳のもう一人の曾孫は既に結婚し て同じアパート群に暮らしているし、あと2年で 退職する息子のアパートも既に近くに購入してい る。ただ、M さんのことは最近元気がなく少し 心配しているとのことである。 以上、子どもたちが交代で面倒を見ているケー スを3例あげたが、どれも年金が十分にあり経済 的には非常に恵まれている。したがって、高齢者 本人の好みによって住み込みを雇っていないだけ で、必要とあればすぐにでも介護ヘルパーを雇う ことができる環境にある人たちばかりである。こ のように都市で十分な年金を受給している人たち にとっては、農村部からやってくる住み込みの安 い労働力を活用することは非常に便利な選択肢と 図1. M さん一家のジェノグラム. なっている。一方で、都市に住む高齢者が皆十分.

(11) October 2 0 0 4. ―6 7―. な年金を受給しているわけではなく、無年金や少. (1) 養老保障システムの確立とその健全化。在宅. 額の年金で暮らしている高齢者も多く存在するこ. 扶養を主に、その地区の福祉サービスに頼り、社会. とを考えると、両者間の二極化の傾向はさらに強. 福祉機構を補完とした高齢者福祉サービスを構成す. まると危惧される。. る。町には一般の養老保険制度を確立し、農村では 在宅扶養を主とすることを変えず、 社会救済と食事、. 4. 高齢者介護の今後. 衣類、居住、医療保健と死後の葬儀という五つのこ とを保障する“五保”扶養制度を一層健全なものに. 中国政府は1993年11月に行われた中国共産党第. し、国、社会、家庭、個人を組み合わせた養老保障. 14期三中全会において「社会主義市場経済体制を. メカニズムを構築し、高齢者人口の健康レベルを高. 築く若干の問題に関する決定」を公布した。それ. め、高齢者が豊かで楽しく暮らせるようにする。. によると、これからの中国には多元的な社会保障. (2) 高齢者の権益を保障できる良好な社会環境を. 体系が必要であり、社会保障制度の改革と推進を. 作り出す。高齢者の権益を保障する法律法規と政策. 図ることが重要だとしている。政府は最低限の生. を制定し、その完全をはかり、法の執行を徹底化さ. 活保障に特化し、年金についてもこれまでのよう. せ監督を強化し、老人を虐待、遺棄、迫害する違法. な国による負担だけでなく個人も負担することを. 行為を取り締まる。中華民族の老人を尊敬し愛する. 求めている(劉、2002;王、2001)。すなわち13. 伝統的な美徳を広め、高齢者への経済的扶養、医療. 億の人口を抱える中国にとって、これまで一部の. 保健、世話や慰め、学習会などへの参加及び文化生. 都市労働者に保障されていたような手厚い社会保. 活と娯楽を保障し、楽しく、暖かく、和やかな雰囲. 障を続けていくことは不可能であり、都市と農村. 気のある養老環境を形成する。高齢者の科学知識と. の社会構造の2元化の問題だけでなく、都市の年. 基礎知識の習得を奨励し、社会生活参与の潜在力を. 金受給者にも十分な保障ができなくなりつつあ. 発揮させ、高齢者の自立と自助を唱導、奨励する。. る。このような状況のなか政府主導で全てを行う. (3) 高齢者産業を大いに発展させ、高齢者の必要. のではく、家族による介護、地域による介護など. とする物質的、精神的賞品を研究、開発、生産し、. を組み合わせていく方向を模索している。このよ. 高齢者用品市場の発展を奨励し導き、産業化へ発展. うな方向性を黄(2001)は「介護保障の社会化」. する軌道にのせる。都市部と農村部の養老社会化. と呼んでいる。介護保障の社会化とは、家族によ. サービスを拡大し、高齢者に対するサービスの施設. る扶養のみに頼ることや、一部の特権階級のみが. とネットワークを設置し、その充実をはかる。税収、. 手厚い社会保険の恩恵を受けることではない。福. 信用貸付などの優遇措置を講じ、多くのルートを通. 祉サービスの組織、対象、施設、内容などが社会. じて資金を調達し、社会の資源を十分利用し高齢者. 化されることを意味する。それに加えて、住民、. 産業を発展させる。. 地域社会、自治体の連携を促し、非営利や営利事 業、ボランティア活動なども幅広くネットワーク を組むことが今後の介護保障のあり方である。. この行動計画からも分かるように、今後急激に 増加する高齢者の扶養は、政府にとって頭の痛い. 中国政府の一貫した姿勢は社会保障制度を整備. 問題であり、できるだけ高齢者自身の自立を図. すると同時に家族養老を一層強化することであり. り、高齢者の力を活用することを考えようとして. (王、2001)、「中華人民共和国老人権益保障法」. いる。それはわが国と同じである。ただ、異なる. (1996年)を制定することによって家族の扶養義. ところは、介護保険制度のような高齢者を介護す. 務を強化しようとしている。それは次に示す政府. るための社会保険制度がなく、後に増加する農村. の行動計画にも明確に唱われている。 「中国2 1世. 部の高齢者扶養に関しては家族以外に有効な策が. 紀の人口と発展」と題した中国政府白書(中華人. ないということから、全面的に家族扶養を義務づ. 民共和国国務院新聞弁公室、2002)の行動計画の. けているところである。先にも述べたように中国. 中で高齢者の権益保障について次の3点を挙げて. においても近代化の波とともに家族扶養の考え方. いる。. や家族形態が変化しつつあり、今後はこの法律に.

(12) ―6 8―. 社 会 学 部 紀 要 第9 7号. よる義務づけなしには美徳としてだけの家族扶養. い住民への対策を講じなければならない。この劇. を期待することは難しくなることが予想されるか. 的に変化しつつある中国社会の中で高齢者の生活. らである。. 権をいかに保障していくのかが大きな課題といえ. さらに特筆すべきは高齢者産業の振興に力を入. る。調査の聞き取りにあたっては、大学関係者を. れようとしている点である。今後都市部の富裕な. 通じて行ったため、対象者は比較的裕福な階層に. 高齢者層を中心に様々なニーズが生まれてくるこ. 限られ、訪問した老人ホームも市内唯一の高級な. とになり、それらは高齢者市場として経済の発展. 施設であった。また、家庭養老院については、聞. に貢献する魅力的な市場となりうるからである。. き取りに街道事務所の職員、居民委員会の担当. これはまた、都市部で増加しつつある失業者対策. 者、さらには地元の新聞記者まで同行し、単独で. にもなることであり、一石二鳥の効果が期待でき. 高齢者に聞き取りすることはできなかった。この. る。そのためには介護保険制度が導入されて以来. ようなことから、表面に見える中国の経済的な発. 急速に発展したわが国の高齢者サービス市場から. 展と豊かさだけでは分からないもうひとつの顔が. 学ぶことも多いと考えられる。実際に上海市など. 見え隠れしていたように思う。今回は蘇州市に限. では高齢者サービスの開発やその質の向上のため. られたため、農村部の高齢者の生活実態について. の取り組みが始まっており、今後中国における高. は触れていない。したがって、本稿で取り上げた. 齢者産業の発展が大いに見込まれる。. 事例は中国社会の限られた層の高齢者であり、高. 以上概観してきたように、農村部の社会保障制. 齢者の生活実態を正確に把握するには今後さらに. 度が整っていないところでは伝統的な家族扶養の. 農村部や一般の高齢者施設も含めた調査をする必. 重要性を強調し義務づけ、一方で都市部の急激に. 要がある。. 増加している高齢者に対しては自立を促し、その 上で社会保障制度の充実と家族扶養、地域の福祉. 付記:本研究は2003年度関西学院大学の共同研究. サービス、民間サービスなどを組み合わせたシス. 助成にもとづいて「日中女性問題比較」のなかで. テムづくりを目指している。事例に示した家庭養. 実施されたものである。調査期間は2003年9月1. 老院の取り組みは社区服務のひとつであり、地域. 日から9月5日まで、蘇州大学の関係者の方々に. の福祉サービスの中に位置づけられる。年金額が. 協力いただき蘇州市を中心に聞き取りや情報収集. 不十分である場合や、家族扶養に限界がある場合. を行った。ご協力いただいた蘇州大学の陸慶和教. の補完的な役割としての意味合いが強いが、今後. 授、陳紅霞副教授、陳作章講師、黄辛隠教授、現. はこうしたコミュニティサービスへの需要が一層. 地での調整をしていただいた関西学院大学の川久. 増大するものと考えられる。. 保美智子教授に深く感謝申し上げる。. おわりに. 参考文献. 本稿では一人っ子政策により急速に高齢化が進 展する中国の高齢者の日常生活について蘇州市で の聞き取りを中心に述べて来た。中国の高齢化の 特徴をみるとき、今後直面するであろう高齢者問 題は深刻であり、わが国の先例をもとにできるだ け早い時期から対策を講じる必要性を痛感する。 その際、中国特有の社会体制や伝統的な思想や文 化を基に行わなければならないだろう。市場経済 の導入によって経済発展する一方で、取り残され て行く多くの農村地域の住民たちをどのように 救っていくのか。都市部でも社会保障の十分でな. China Research Center on Ageing (1 9 9 4) A data compilation of the survey on China’s support systems for the elderly, Beijing: Hua Ling Press. 中国社会科学院(2 0 0 4)「人口と労働―中国の人口と労 働問題についての報告」6月. http://www.peopleschina.com 中国通信社(2 0 0 3)「6 0歳以上の高齢者、年3. 2%増加 へ、 中国民政相、 全人代で報告」1 0月2 0日∼2 6日. http://www.china-news.co.jp 中華人民共和国国務院新聞弁公室(2 0 0 2)「中国2 1世紀 の人口と発展」1 2月 沈潔(1 9 9 9)「上海における介護施設の実態および福祉 課題」『高知女子大学紀要 社会福祉学部編』第4 9 巻,1 7―2 4..

(13) October 2 0 0 4. 牛黎涛(2 0 0 1)「中国における少子高齢化の現状と課 題」杉本貴代栄編『日本社会を解読するⅢ 日本 人と高齢化』人間の科学社. Hao, Yan(1 9 9 7)Old-age support and care in China in the early 1 9 9 0s. Asia Pacific Viewpoint, 3 8(3) ,2 0 1 ―2 1 7. 包敏・浅野仁(2 0 0 1)「中国沿海地域の大学生の老親扶 養意識」 『関西学院大学社会学部紀要』第8 9号,1 8 5― 1 9 3. 猪飼美恵子(2 0 0 1)「日本と中国における少子高齢社会 と高齢者教育の比較」鹿児島国際大学地域総合研 究所編『日中の経済・社会・文化―共通と差異/ 歴史から未来へ―』日本経済評論社,1 3 7―1 5 8. 黄金衛(2 0 0 1)「中国の医療保障・介護保障」日本社会 保障法学会編『講座社会保障法第4巻 医療保障 法・介護保障法』法律文化社,3 0 4―3 2 2. 高坂健次(2 0 0 2)「中国における『居民委員会』の現状 と課題」『関西学院大学社会学部紀要』第9 1号,3 5 ―4 8. 西川潤(1 9 9 7)「中国における保障制度と高齢者の生活 ―上海市近郊農村を事例として考える―」西川潤 編『社会開発―経済成長から人間中心型発展へ―』 8 7. 有斐閣選書,1 7 1―1 王桂新(2 0 0 1)「中国と日本の人口」鹿児島国際大学地. ―6 9―. 域総合研究所編『日中の経済・社会・文化―共通 と差異/歴史から未来へ―』日本経済評論社,1 1 1 ―1 3 5. 王文亮(2 0 0 1)『中国の高齢者社会保障―制度と文化の 行方』白帝社. 北京週報(2 0 0 2) 「高齢化に向かう中国の人口」第2 9号. http://www.pekinshuho.com 李秀英(2 0 0 2)「中国」鬼崎信好・増田雅暢・伊奈川秀 和編『世界の介護事情』中央法規.2 4 4―2 5 8. 劉暁梅(2 0 0 2)『中国の改革開放と社会保障』汐文社. 劉暁梅(2 0 0 1)「老齢年金制度」中国研究所編『中国は 大丈夫か?―社会保障制度のゆくえ―』創土社. 3 1―6 7. 鈴木賢(1 9 9 7)「中国における高齢者扶養と介護」石川 恒夫・吉田克己・江口隆裕編『高齢者介護と家族 ―民法と社会保障法の接点―』信山社,4 0 3―4 7 1. 楊建栄(2 0 0 0)「中国」片多順編『高齢者福祉の比較文 化―マレーシア・中国・オーストラリア・日本―』 九州大学出版会,5 5―8 2. 吉田成良・馬利中(2 0 0 0)「中国」総務庁長官官房高齢 社会対策室『各国の高齢化の状況と高齢社会対策 ―高齢社会対策に関する海外動向把握調査報告書 8 1. ―』2 4 9―2.

(14) ―7 0―. 社 会 学 部 紀 要 第9 7号. A Future Direction for Elderly Care in China: From case studies in Suzhou City ABSTRACT Due to the “One-child policy” implemented in 1979, China’s population is expected to experience a very rapid aging process in the coming few decades. Traditionally, the life of the elderly in China has been supported by families, mainly through co-residence. However, since the late 1970’s market-oriented reform policies were adopted, and remarkable changes have been taking place in Chinese families. The size of families has become smaller and most married women are working outside the home. Therefore, the availability of old age care and support from families has been diminished. The purpose of this study is to explore the real life of the elderly who choose to live either in a home for the aged or in their own home. And to find out how they live and how they want to live when they need care in their daily life.. Also the measures to. support a rapidly aging population are investigated. Findings show that the elderly who have an adequate pension tend to hire live-in home help to receive physical care. However, emotional support from families is still essential for the well-being of the elderly. In Suzhou, the local government tries to complement family support by providing community service through a neighborhood committee. The new community program that makes one’s home into “a home for the aged” is one of the practical measures to support the elderly. Although the primary source for old age care is still families, services from the community and state should be mixed to complement each other. Key Words: aging, elderly care, China.

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