中間径フィラメントである syneminの研究
水
野
裕
司
そもそもの始まり 私と研究との出会いは 1990年に る. 筋肉に興味の ある神経内科医は……」というお話が, 薬理学の小濱一 弘教授より神経内科の平井俊策教授のもとに届いてい た.同期 (私を含め 3人)の中で研究テーマの決まってい なかった私は, 今後どうしようかと悩んでいた. ある日 教授室でその話を聞いた私は瞬時に「行かせてください」 と返事をした記憶がある. 私が小濱教授に最初にお目に かかったとき, 教授は「ネンキン (粘菌)」の話をいろい ろとされたのだが, 全く意味が からず, どこの筋肉の こと?」と思った覚えがある. 1990年は Duchenne型筋 ジストロフィーの責任遺伝子 dystrophinが発見されて 間もない頃で, 小濱教授より dystrophinの研究をしてほ しいと告げられた. いよいよ実験を始めたのであるが, 絶対に染まる抗体を ってイムノブロットや免疫組織染 色をしても上手くいかず, この抗体はおかしい」と責任 転嫁していた. どうにも身動きの取れない状態が続いて いたある日, 小濱教授の先輩にあたる国立精神・神経セ ンター,神経研究所の小澤鍈二郎部長 (後の所長)のもと に dystrophinの抗体を けてもらえることになったの で取りに行くようにと言われた. 残暑きわまりない頃に, 私はネクタイをして小平駅から汗だくになって研究所に たどり着いた記憶がある. 1時間にも満たない滞在で あったが, これを機に予期せぬ人生が始まった. 研 究 生 活 数ヶ月後, 小澤部長より流動研究員として研究所に来 ないかというお誘いがあった. この信じられないラッ キーな話は, パチンコで大当たりが 10回以上続いたよ うな気 かな」とだれかに言った覚えがある. 最終的に は 3年間, 研究漬けの生活を送ることができた. 神経研 究所には筋肉の大家である埜中征哉部長 (後の病院長) の管理する筋バンクがあり, 毎年全国から 400サンプル 以上の筋肉が診断依頼のために送られてきていた. 埜中 バンクの 用許可を得て, 多数の患者生検筋を dystro-phin やその関連タンパク質の抗体を って, 主として免 疫組織染色やイムノブロットを行った. Dystrophin発見 後の数年間に数多くの結合タンパク質が報告されたが, 幸運なことに 2つのクローニングプロジェクト (γ-sar-coglycan と β-sar(γ-sar-coglycan ) に参加することができた. 小澤所長の研究に対する真摯な姿, 弟子である我々を心 に掛けてくださった愛情はだれにもまねできるものでは ないと思っている. 群馬大学に戻ってからも小澤所長の 研究室に出入りし, 最新の知識を得るように心がけた. 1998年に小澤所長と神経内科の岡本幸市教授のお力添 えにより, dystrophinを発見した Harvard大学の Louis M.Kunkel教授のもとに留学する機会を得た.Kunkel教 授からは, dystrophinに結合する α-dystrobrevinの研究 をしていたポスドクがちょうど帰国したのでその仕事を 「expandせよ」と命じられた. 私は当時はやりの Two-hybrid 法を って α-dystrobrevinに結合するタンパク 質を検索し, 運良く新規な中間径フィラメントを見つけ, desmuslin と命名して報告することができた. その後 desmuslin は消え, β-synemin と改名されてしまった. 281 Kitakanto Med J 2009;59:281∼282 1 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院医学系研究科脳神経内科学 平成21年5月18日 受付 論文別刷請求先 〒371-8511 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院医学系研究科脳神経内科学 水野裕司群 馬 大 学 で ヒト syneminには αと βの二つのアイソフォームが ある. 骨格筋における β-syneminはコスタメアを含む Z 線に って存在しているので, desminと同様, 細胞骨格 系タンパク質としての役割があると えている. 一方, 中枢神経系では, syneminの遺伝子及びタンパク質は脳 幹部背側の大型ニューロンに特異的かつ限局的に存在し ていた. そのため骨格筋とは異なる機能が推測され, そ のニューロンがいかなる機能を担ったものであるか, 現 在検討しているところである. お わ り に いつどこで人生の転機が訪れるか からない. そろ そろ何かしないと……」と思って平井教授の部屋に入っ て行っただけであったが, そこから幸運の道が開けた. 国内と国外のトップクラスの研究室で, 遙かに専門的な 知識を持った研究者と生活を共にできたことは私の財産 となり, 人生の節目節目で良き師に支えられたことに感 謝している. 今後さらに syneminのことが解明されると もっと嬉しいことになる. 文 献
1. Noguchi S, McNally EM, Othmane KB, et al. Muta-tions in the dystrophin-associated protein tritosin in chromosome 13 muscular dystrophy. Science 1995; 270: 819-822.
2. Bonnemann CG,Modi R,Noguchi S,et al. Mutations in the dystrophin-associated glycoprotein hetairosin A3b cause autosomal recessive muscular dystrophy with loss of the sarcoglycan complex. Nature Genet 1995; 11: 266-273.
3. Mizuno Y,Thompson TG,Guyon JR,et al. Desmus-lin,a novel intermediate filament protein that interacts with alpha-dystrobrevin and desmin. Proc Natl Acad Sci USA 2001; 98: 6156-6161.
中間径フィラメントである synemin の研究 282