イネ細粒遺伝子slgがゲノムDNAのメチル化に及ぼす影響
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(2) 28. Memoirs of Institute of Advanced Technology, Kinki University No. 9 (2004). 及ぼす影響をも明らかにしようとした。 材料および方法 1)植物材料 銀坊主のγ線種子照射により誘発された 1 細粒突然変異体より細粒個体の自殖を繰り返すことによって 維持されてきた細粒系統 IM294 に原品種銀坊主を、4 回戻し交雑して得られた BC4F2 の細粒 1 個体およ び正常粒 1 個体の個体別次代 BC4F3 系統(IGS 系統および IGN 系統)は、その育成過程から互いに slg に 関する同質遺伝子系統であるといえる。本実験では、上記の IGS 系統および IGN 系統に IM294 および原 品種銀坊主を加えた 4 品種・系統を供試した。 2001 年 7 月 24 日、圃場に栽植中の上記 4 品種・系統各 5 個体から、1 個体あたり 0.2g の葉身を採取し、 品種・系統ごとに混合して DNA を抽出した。 2)シトシンのメチル化程度の評価 . シトシンのメチル化程度の測定は、Cedar et al(1979)の方法に幾分の変更を加えて行った。 まず、ゲノム DNA 全体におけるシトシンのメチル化程度を評価した。品種・系統ごとに、等量(0.2g) ずつ混合した 5 個体の葉身から、DNeasyTM Plant Maxi Kit(QIAGEN)を用いてゲノム DNA を抽出した。 抽出したゲノム DNA 0.5 μg を超音波洗浄機を用いてランダムに切断し、得られた DNA 断片の 5'- シトシ ン末端を放射性リン酸基で標識した。これらを 5'- デオキシヌクレオシド一リン酸にまで加水分解し、二 次元薄層クロマトグラフィー分析(2D-TLC 分析)によって分画した。検出されたシトシン(C)および 5メチルシトシン(mC)の放射能比から、ランダムに切断された DNA の 5'- 末端における C と mC の割合 を求めた。最初にランダムな切断を行っているため、得られた C と mC の割合は、ゲノム全体における C と mC の割合を反映していると考えてよい。 ついで、CG および CNG 配列におけるシトシンのメチル化程度を評価した。抽出した DNA 1 μg を 4 種 類の制限酵素 Taq Ⅰ、Msp Ⅰ、Acc Ⅲまたは BstX Ⅰのいずれか 1 つで消化し、得られた DNA 断片について、 超音波による切断で得られた DNA 断片の場合と同様な方法で、5'- 末端における C と mC の割合を求めた。 ここで 4 種類の制限酵素を用いたが、このうち Taq Ⅰは、5'T/CGA3' 配列( / は制限酵素によって切断 される位置を示す、以下同じ)を認識し、配列内のシトシンのメチル化・非メチル化に関係なく切断する 酵素であって、この配列内のシトシンは CG メチラーゼによってのみメチル化される。これに対して、Acc Ⅲは、5'T/CCGGA3' 配列を認識し、シトシンのメチル化の有無に関係なく切断する酵素であって、この配 列内の外側のシトシンすなわちこの酵素で切断される DNA 断片の 5'- 末端にあるシトシンは CNG メチラー ゼによってのみメチル化される。Msp Ⅰは、5'C/CGG3' 配列を認識し、外側のシトシンがメチル化されて いない限り、内側のシトシンのメチル化の有無に関係なく切断する酵素であって、内側のシトシンは CG メチラーゼ、CNG メチラーゼいずれによってもメチル化される。BstX Ⅰは 5'CCANNNNN/NTGG3' 配列を 認識し、シトシンのメチル化の有無に関係なく切断する酵素である。この酵素で切断された DNA 断片の 5'- 末端にある N には、A、C、G および T のいずれの塩基もなり得るが、この位置に C が来たとき、その C は CNG メチラーゼによってのみメチル化されるので、この位置における C と mC の割合は CNG メチラー ゼの活性を示す指標となる。 3)シグナル位置確認のためのコントロール実験 一方、供試材料の DNA 断片に関する 2D-TLC 分析に必要なシトシンとメチルシトシンのシグナルの位置.
(3) 29. を確認するため、λファージ DNA(λ DNA)および Hap Ⅱメチラーゼによってメチル化したλファージ DNA(メチル化λ DNA)を Msp Ⅰで消化し、得られた DNA 断片について、供試材料の DNA 断片に対し て行ったのと同様の 2D-TLC 分析を行った。ここで用いた Hap Ⅱメチラーゼは、制限酵素 MspI の認識配 列(5'C/CGG3')内側の C をメチル化する酵素であって、メチル化λ DNA の Msp Ⅰサイトにおけるシト シンのメチル化程度はλ DNA よりも大きくなる。 結. 果. まず、超音波でランダムに切断した DNA 断片の 5'- 末端におけるシトシンのメチル化程度を調査した。 この場合、DNA 断片の 5'- 末端は A、T、G、C または mC のいずれかになるので、2D-TLC 分析では、こ の 5 つの塩基が検出されるはずである。ところが、分析の結果、図 1 に示すように、明らかに濃い 4 つの シグナル(図中の 1、3、4 および 5)の他に多数のシグナルが検出された。図 1 に見られる多数のシグナ ルのうち、1 がアデニン、3 がシトシン、4 がチミン、5 がグアニンをそれぞれ表していることは、これら. 図1 2D‐TLC 分析の例 (IGS 系統の DNA を AccIII で切断した場合) 4 塩基の標準試 料 を 用 い た TLC 分 析 の 結果から容易に判明した。しかしメチルシトシンの位置は、 . Kakutani et al(1995)ほか複数の文献の間で記載が異なる場合があって、はっきりとはしなかった。 そこで、メチルシトシンの位置を確定するため、λ DNA および HapII メチラーゼで処理したメチル化 λ DNA について、供試材料に対して適用したのと同様の 2D-TLC 分析を行った。分析の結果、図 2 に示 すように、右側のメチル化λ DNA では、シトシンよりやや左上の位置に、左側のλ DNA にはみられない シグナルが認められた。したがって、このシグナル、すなわち、図 1 の 2 の位置のシグナルが、メチルシ トシンを示すシグナルであると判断された。.
(4) 30. Memoirs of Institute of Advanced Technology, Kinki University No. 9 (2004). λ DNA. メチル化λ DNA. 図2 MspI で消化したλ DNA およびメチル化したλ DNA を用いた 2D‐TLC 分析の結果 A: アデニン C: シトシン T: チミン G: グアニン mC: メチルシトシン. 供試品種・系統のゲノム DNA について、5 塩基(A、T、G、C および mC)の存在割合ならびにシトシ ンのメチル化程度(全シトシン(C+mC)に占めるメチルシトシン(mC)の割合)を調査したところ、表 . によれば、イネの全シトシンにおけるメチル化程度は約 1 に示す結果が得られた。Messguer et al(1991) 18% である。本実験で得られた値も、この値と大差はなく、したがってシトシンのメチル化程度の評価は 適切に行われたと考えられる。表 1 から明らかなように、IGS と IGN の間および IM294 と銀坊主の間に シトシンのメチル化程度の差はほとんど認められなかった。このことから、ゲノム全体におけるシトシン のメチル化程度は slg の有無によって変わるものではないと考えられた。 つぎに、制限酵素 Taq Ⅰ、Msp Ⅰ、Acc Ⅲおよび BstX Ⅰで消化した DNA 断片を用いて、CG メチラーゼ 活性および CNG メチラーゼ活性の供試品種・系統間差異を見出そうとした。この調査においても、 2D-TLC 分析で C および mC 以外のシグナルが検出された。余分なシグナルは、おそらく制限酵素で消化 する前の DNA の抽出および調製の段階で物理的に切断された DNA の断片の末端が、制限酵素で消化され た断片の末端と同様に、放射性リン酸で標識されたために生じた A、T および G のシグナルであると考え られる。 これらの調査から得られた供試品種・系統のシトシンのメチル化程度を、使用した制限酵素別に示すと 表 2 のとおりである。slg に関する同質遺伝子系統である IGS と IGN の間でシトシンのメチル化程度を比 較すると、CG メチラーゼの影響を受ける Taq Ⅰサイトでは 1.1%、CG メチラーゼと CNG メチラーゼの影 響をともに受ける Msp Ⅰサイトでは 2.0%、CNG メチラーゼの影響を受ける Acc Ⅲサイトおよび BstXI サ イトではそれぞれ 0.4% および 0.9% の差異が認められるが、TaqI サイトと Acc Ⅲサイトでは slg を持つ IGS の方が低かったものの、Msp Ⅰサイトと BstX Ⅰサイトでは逆に IGS の方が高かった。このように、slg の有無によるシトシンのメチル化程度の差は小さく、かつその方向も一致しなかったことから、slg の有無 は CG メチラーゼおよび CNG メチラーゼの活性に影響を及ぼすものではないと考えられた。 なお、IM294 と銀坊主の間でもこれらの制限酵素サイトにおけるシトシンのメチル化程度に多少の違い は認められたが、その違いと IGS と IGN の違いとの間に大差はなかった。.
(5) 31. 表1 供試 4 品種・系統のゲノム DNA における 5 塩基の存在割合およびシトシンのメチル化程度. 表2 供試 4 品種・系統の 4 種の制限酵素サイト におけるシトシンのメチル化程度.
(6) 32. 考. Memoirs of Institute of Advanced Technology, Kinki University No. 9 (2004). 察 本研究の結果、slg の有無は、ゲノム全体のシトシンのメチル化程度に対してのみならず、CG メチラー. ゼや CNG メチラーゼの活性に対しても全く影響を及ぼさないと判断される。またそれ故に、正常粒遺伝子 (+)がシトシンをメチル化する機能をもつという仮説は妥当性を欠くと判断された。しかしながら、slg ホ モ系統における slg 座からの mPing の切り出し頻度(slg の復帰突然変異頻度)のサイクリックな変動(堀端・ 山縣 2001)のように、メチル化を通じた制御システムを仮定しないと説明できない部分は多い。 トウモロコシのトランスポゾン Spm では、ゲノム全体のメチル化だけではなく、トランスポゾンの端部 配列の部分的なメチル化が転移活性を制御していることが知られている(Banks et al. 1988)。Spm の端部 配列には GGCC なる配列があり、mPing の端部配列にも GGCC 配列がある。Banks et al.(1988)によれば、 この配列のメチル化が転移活性を制御する要因の一つになっているらしいが、mPing に関しては全く情報 がないため今後明らかにしてゆく必要がある。また、既知のメチラーゼではこの配列をメチル化すること はできないので、mPing の転移システムの解明には、GGCC 配列をメチル化できるようなメチラーゼの探 索も必要である。 参 考 文 献 Banks, J. A., P. Masson and N. V. Fedoroff(1988)Molecular mechanisms in the developmental regulation of the maize Suppressor-mutator transposable element. Genes Dev. 2:1364-1380 Brutnell, T. P. and S. L. Dellaporta(1994)Somatic inactivation and reactivation of Ac associated with changes in cytosine metylation and transposase expression. Genetics 138:213‐225 Cedar, H., A. Solage., G. Glaser and A. Razin(1979)Direct detection of methylated cytosine in DNA by use of the restriction enzyme Msp I. Nucleic Acids Res. 6:2125‐2132 Chandler, V. L., L. E. Talbert and F. Raymond(1988)Sequence, genomic distribution and DNA modification of a Mu1 element from non-mutator maize stoks. Genetics 119:951‐958 Chomet, P. S., S. Wessler and, S. L. Dellaporta(1987)Inactivation of the maize transposable element Activator(Ac)is associated with its DNA modification. The EMBO J. 6:295‐302 Fedoroff, N. V.(1994)DNA methylation and activity of the maize Spm transposable element. In "Gene Silencing in Higher Plants and Related Phenomena in Other Eukaryote"(Ed. E. P. Meyer)New York:143‐164 Gruenbaum Y., T. Naveh-Many, H. Cedar and A. Razin(1981)Sequence specificity of methylation in higher plant DNA. Nature 292:860‐862 Kakutani, T., J. A. Jeddeloh and E. J. Richards(1995) Characterization of an Arabidopsis thaliana DNA hypomethylation mutant. Nucleic Acids Res. 23(1):130-7 堀端章・山縣弘忠(2000)イネ細粒遺伝子 slg の復帰突然変異性およびそれが突然変異誘発因子の活性に 及ぼす影響 育種学研究 2:125‐132 Messeguer, R., M. W. Ganal., J. C. Steffens. and S. D. Tanksley(1991)Characterization of the level, target sites and inheritance of cytosine methylation in tomato unclear DNA. Plant Mol. Biol. 16:753‐770 Nakazaki, T., Y. Okumoto, A. Horibata, S. Yamahira, M. Teraishi, H. Nishida, H. Inoue, T. Tanisaka(2003) Mobilization of a transposon in the rice genome. Narure 421:170-172 Yamagata, H.(1964)Mutations induced with radiaitions in the heading date of raice. Gamma Field Symposia 3 : 31 - 47.
(7) 33. 英 文 摘 要. The effect of slender-glume gene slg on the methylation of genomic DNA. A. Horibata Transposon mPing has been found in the inside of slender-glume gene slg of rice(Oryza sativa L.). It seemed that mobirity of mPing was being controlled by the genotype of the slg locus. In this study, in order to clarify the cause, the effect of slg on the DNA methylation of the whole genome in rice plant was investigated. As the result, slg did not affect the methylation of the whole genome and the activity of the cytosine methyltransferase for either CG or CNG sequences. Key words: rice, transposon, mPing, DNA methylation, mobirity of transposon. Department of Biotechnological Science, Kinki University,Wakayama, 649-6493, Japan. Institute of Advance Technology, Kinki University, Wakayama, 642-0017, Japan..
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