爆発性銅アセチリドのナノ結晶前駆体を利用した
新奇アモルファス炭素
十代
健
日本大学
文理学部 物理学科
(受取日:2016 年 1 月 27 日,受理日:2016 年 3 月 29 日)
Noble Amorphous Carbon Produced from Nanocrystal Precursors of
Explosive Copper Acetylide
Ken Judai
Department of Physics, College of Humanities and Sciences, Nihon University
(Received Jan. 27, 2016; Accepted Mar. 29, 2016)
Copper acetylide is an well-known explosive compound. However, when the size of their crystals is reduced to the nanoscale, their explosive nature is lost, owing to a much lower thermal conductance that inhibits explosive chain reactions. This less explosive character can be exploited for the production of new carbon materials. Generally, amorphous carbon is prepared by carbonization of organic compounds exposed to high temperature, which can induce partial crystallization in graphite. In this work, we present a new method in which the carbonization reaction can proceed at a lower annealing temperature owing to the highly reactive nature of copper acetylide, thus avoiding crystallization processes and enabling the production of genuinely amorphous carbon materials.
Keywords: amorphous carbon, nanoparticle, nanowire, copper acetylide
解 説
十代 健 Ken Judai
1. はじめに
C60フラーレンやカーボンナノチューブから最近ではグ ラフェンに至るまで,ナノスケールの炭素材料は,近年, 盛んに研究が行われている。しかし,炭素材料そのものは, ナノテクノロジーが話題になる遥か以前から,人類の歴史 とともに使用されてきた。木材を蒸し焼きにし,炭化する ことで得られる木炭などの炭は,燃料用として太古から使 用されていた炭素材料である。炭の特性は,炭化する木材 や,場合によってはオガ屑などの植物性材料の種類によっ て変化するが,温度や時間,雰囲気ガス(酸素量)などの 炭化条件によっても大きく変化する。1) 400~500°C 程度 の低温で炭化した炭は含水量が高く密度も低い。一方, 1000°C ほどの温度で炭化した炭は白炭とも呼ばれ,炭素元 素の含有率が高くなり,不純物が少ないため燃焼において も煙などが出にくい特徴が生まれてくる。 炭の活用分野として燃料以外に吸着材としても非常によ く用いられている。炭化工程を経由した炭素は,表面積が 大きい特徴があり,その表面に様々な分子を吸着すること ができる。炭化を行う条件によって分子を吸着するその表 面積も大きく変化する。表面積を大きくするには,炭化を 行う最適な温度領域があり,600~800°C 程度の中温での 炭化が最も効率が高いといわれている。しかし,炭素の表 面積をさらに高めるため,賦活と呼ばれる炭素材料に穴を 開け,多孔質化を行う活性化反応を実施することが一般的 である。活性化処理には薬品賦活とガス賦活の2種類があ り,賦活処理により炭素に細かな穴が形成され,表面積が 炭素 1 g あたり 500~2500 m2にも増大される。2) 炭素元素は原子番号6 番,原子量も 12.01 と比較的軽い 元素であるため,密度が比較的低く,重量あたりの物性値 が高い。吸着材としても重量あたりの表面積が大きいため 様々な用途で利用されている。重量あたりの炭素の優れた 特性は,表面吸着以外にも利用されており,最近では,特 に機械的強度に注目されている。最新鋭飛行機の設計材料 では,燃費の向上を目指し,空力学的な機械強度を保った まま軽量化が行われている。その際,機械的強度と軽さを 併せ持つ炭素繊維が複合材料として使用されている。炭素 繊維とは,アクリル系樹脂繊維などを炭化処理して得られ る炭素材料であり,3) 鉄材料に比べ,重量あたり10 倍もの 強度を有するため,自動車や飛行機の軽量化に貢献し,燃 費向上を果たしている。 多くの炭素材料が高温の炭化反応を経て,植物由来や合 成化学有機材料の炭化反応で生成されているのに対して, 高温の炭化反応を用いず,プラズマプロセスなど低温で表 面に炭素を堆積させる方法もある。ダイヤモンドライクカ ーボンは,近年,プラズマプロセスで生成手法が確立され た炭素材料である。4) プラズマCVD 等でアセチレンガスな どを表面上に堆積させるとグラファイト sp2混成炭素とダ イヤモンド sp3混成炭素が混在するアモルファスカーボン が生成される。グラファイト構造を基本とする他の炭素材 料と異なりダイヤモンド性が高いためダイヤモンドライク カーボンと呼ばれている。表面上に蓄積した炭素薄膜は, 平滑性が高く,耐摩耗性が向上されるため,金型・治具や 歯車等の表面改質に使用されている。また,ガスバリア特 性が高いため,飲料用のペットボトルの内膜処理にも利用 されており,ホット対応のペットボトルなどに応用されて いる。 このように,炭素材料は,様々な領域で応用されてきた 歴史がある。様々な炭素材料がその用途に向けて様々な手 法で生成されている。吸着材としての活性炭やダイヤモン ドライクカーボンは,アモルファスカーボンという炭素材 料である。アモルファスカーボンとは,炭素元素の無定形 同素体であり,グラファイトやダイヤモンドといった結晶 構造の同素体とは対極にある構造であり,立体的な繰り返 し構造である結晶状態を持たない材料である。しかしなが ら,アモルファスカーボンの製法は,上述のように高温で の炭化反応を基本としている。炭素元素を高温に曝すこと は,炭素の結晶化反応を促進させていることでもあり,常 圧での安定な結晶構造のグラファイトへと加熱により,結 晶成長しているといえる。つまり,高温での炭化反応を経 ているアモルファスカーボンの製法は,一部グラファイト 化が進行しており真のアモルファスとはいえない炭素材料 と考えることもできる。本解説は,筆者らが考案した比較 的低温でのアモルファスカーボンの生成方法と,熱測定分 析の結果を含め生成した炭素材料の基礎的性質を評価した ので紹介する。5) ダイヤモンドライクカーボンも低温での炭素材料の生成 方法であるが,表面上に薄膜として生成されているだけで ある。本手法は,バルク材料としてグラムスケール以上の アモルファスカーボンを低温での炭化反応でのみ生成する 試みである。低温で炭化反応を行うためには,爆発性を有 するような元来反応活性な物質を前駆体として使用するこ とを考え,その中で炭化銅の銅アセチリドに着目した。ア セチリドとは,炭素三重結合を有する金属カーバイドのこ とであり,銅アセチリドは,少なくとも1856 年から知られ ている化合物であるが,6) 爆発性を有するため,その詳細 な研究はあまりされていない物質でもある。銅アセチリド は,アセチレンガスと同様に酸素がなくても分解爆発をす る特徴があり,分解反応とは,銅元素と炭素元素への分離 過程であり,炭素元素のみが,銅アセチリドの反応活性に より低温で得られる可能性がある。 爆発性を有することは,低温での炭化反応が可能となる が,爆発を発生させてしまうと低温過程ではなくなってし まう。そこで,ナノテクノロジーを活用することとした。 カーボンナノチューブなど様々なナノカーボン研究が行わ れていているが,本研究は炭化反応で使用する銅アセチリ ドの前駆体をナノサイズ化することで爆発を抑制すること を目指した。爆発反応とは,反応障壁を化学反応熱により 超え,連鎖的に反応が進行することである。化学反応熱が 周囲の未反応分子に伝わる必要があり,反応活性物質をナ ノサイズ化すると爆発性を抑制することができると思われ る。つまり,炭化反応を起こす爆発性を有する銅アセチリ ドの結晶をナノサイズ化し,爆発を抑制しつつ,高反応活 性な性質を利用し,低温でのアモルファスカーボン製法と して応用することを試みた。2. 銅アセチリドの合成と炭化反応
銅アセチリド分子は,古くから知られている手法で合成 した。塩化銅(I) 1.0 g を 5 %のアンモニア水溶液 100 mL で 溶解し,アセチレンガスをフラスコ内に噴出することで銅 アセチリドを得た。 (1) アセチレンガスを導入する前にアルゴンガスを 30 分間バ ブリングし,フラスコ上部および水溶液内の酸素を除去し ている。その後,アセチレンガスを導入したが,アセチレ ンをアルゴンで1 %程度まで希釈し,5 mL/min 程度と非常 にゆっくりとフラスコ内に導入した。アセチレンガスの導 入速度を非常にゆっくりとすることで,銅アセチリドの生 成速度,結晶成長を制御し,ゆっくりと結晶成長させるこ とで自己組織的にナノワイヤーを生成することが可能とな っている。7) 2 CuCl + C2H2 Cu2C2 + 2 HCl NH3このように生成した銅アセチリドをメタノール中に分散 し,シリコン基板に滴下・乾燥させて,走査型電子顕微鏡 (SEM)で観測した結果を Fig.1 に示した。アセチレンガスを ゆっくりと導入しなかった場合は,10 m 程度のアモフフ ァス状の塊が得られるのに対して(Fig.1 下図),100 倍に 薄めたアセチレンをゆっくりとフラスコ内に導入した場合 は, Fig.1 上図のようにナノスケールの針状結晶が得られ た。ナノスケールの針状結晶が得られたということは,言 い換えれば,銅アセチリド分子が自己組織的にナノワイヤ ーへと結晶成長したとも捉えることができ,このように得 られたナノ結晶をアモルファスカーボンを得るための前駆 体として応用した。
Fig.1 Scanning electron microscopy (SEM) images of self-assembled copper acetylide nanowire by 5 kV electron beam with a working distance of 8 mm. The suspension of the produced nanowires was dropped onto a Si substrate, and was dried for the microscopy observation. The slow reaction could be produced to the nanowire morphology (top), however, the fast reaction obtained the amorphous product (bottom).
自己組織的に得られた銅アセチリドナノワイヤーを加熱 することで炭化反応を進行させた。ナノワイヤー固体をナ スフラスコ中で,油回転ポンプで真空引きしながら,マン トルヒーターで加熱した。ナノサイズ化することで爆発を 抑制しているが,急速に温度を上昇させると爆発すること もあるので,1 °C min-1の割合で150 °C までゆっくりと昇 温した。炭化反応を完全に進行させるため150°C を 24 時 間保持した。銅アセチリドは,この温度で銅元素と炭素元 素への分離反応が完全に進行することができている。 分離反応後の銅アセチリドは,酸処理で銅元素を除去し た。加熱後の試料を濃硝酸に30 分間浸漬させると,銅元素 が溶け出し酸溶液は緑色に着色した。この酸処理過程で, 炭化反応が未進行の銅アセチリドが存在したとしても,ア セチレンガスへと化学反応するため,取り除くことができ る。つまり,酸処理によって,銅元素と未反応のアセチリ ドも除去することが可能である。最終的に,アモルファス カーボンのみを濾過により分離し,150 °C 以下の低温過程 のみでアモルファスカーボンを生成することができた。
3. アモルファスカーボンの評価
アモルファスカーボンの性質は炭化処理の工程により大 幅に変化する。150 °C 以下の比較的低温の工程のみで得た 今回のアモルファスカーボンを評価するために,完全な結 晶物質のグラファイトとアモルファス物質の代表として市 販されている活性炭(Darco® G-60)と各種分光測定を実施 し比較した。 Fig.2 は,粉末 X 線回折測定を同量のサンプルに対して X 線の照射時間や検出器の積算時間を揃えて,グラファイト と活性炭,そして,今回のアモルファスカーボンの結果で 比較したものである。グラファイトの結果 Fig.2(a)では, グラファイト層の(002)面に対応する間隔の回折ピークが Cu Kの特性 X 線の波長である 1.54 Å では,回折角 2が 26°付近で強い反射となり観測されている。市販の活性炭 になると(Fig.2(b)) 回折ピーク強度は大きく低下するが, 同様のピークは未だ観測されつづけている。従って,アモ ルファスカーボンである活性炭といえども結晶としての回 折ピークが観測され,完全なアモルファスとはいえず,グ ラファイトの結晶的な性質を残していることが伺える。一 方,低温工程でのみ生成した今回のアモルファスカーボン では,当該領域に全く回折ピークは観測されず,粉末X 線 の回折測定から真のアモルファスカーボンが得られたと示 唆される。Fig.2 Powder X-ray diffraction patterns for graphite (a), commercial activated carbon (b), and amorphous carbon prepared at low temperature (c).
粉末X 線回折では,ある程度のサイズ以上の結晶構造が 必要であるため,局所的な原子の性質を把握するため,ラ マン分光法も試みた。粉末X 線回折と同様にラマン分光法 でもグラファイトと市販の活性炭,今回のアモルファスカ ーボンのスペクトルを比較した (Fig.3) 。グラファイト結 晶のラマンスペクトルでは,グラファイトの六角形の炭素
構造由来のG バンドが 1585 cm−1 (Fig.3(a))に観測された。 G バンドはラマン許容なフォノンモードであるため観測さ れたが,1400 cm−1近傍の D バンドはラマン禁制モードで あるので,観測されていない。代わりにD バンドの二倍音 である2D バンドは光学的にラマン許容になり,2800 cm−1 付近に幅広いピークとして観測されている。8-9) 活性炭のラマンスペクトル(Fig.3(b))になると,G バン ドのピーク幅は広がり,また,D バンドが格子欠陥やドメ インサイズが小さくなる影響でラマン許容に変化し,1357 cm−1に観測された。グラファイトと活性炭を比較した際, D バンドの観測は,結晶の欠陥などによるラマン分光の選 択律で説明でき,G バンドの幅の変化は,グラファイト構 造の化学的な環境の多様性で説明できる。つまり,ラマン スペクトルのピーク幅は,アモルファスカーボンのアモル ファス性を表しており,アモルファス性が高いほど炭素原 子の化学的な状態が様々となり,それぞれ対応したG バン ドピーク位置を与えるため,全体のピーク幅として広くな ると結論した。
Fig.3 Raman spectra for graphite (a), commercial activated carbon (b), and amorphous carbon prepared at low temperature (c). The samples were excited by a 532 nm laser light with 30 mW power. 活性炭のラマンスペクトルではグラファイト結晶に比べ アモルファス性が高いため幅の広いピークとなったが,低 温過程のみで生成した今回のアモルファスカーボンのラマ ンスペクトルでは(Fig.3(c)),市販の活性炭よりはるかに 幅の広いスペクトルとなっている。G バンドと D バンドの ピークはピーク幅が広いため分解されずに観測され,本手 法による炭素材料が非常にアモルファス性の高いことが判 明した。これほど幅広いラマンスペクトルを与えるのは, ダイヤモンドライクカーボンと呼ばれるプラズマプロセス 等で基板に堆積させた炭素材料くらいであり,室温などの 低温での炭素生成手法である。アモルファスカーボン生成 手法として低温過程という共通点があり,アモルファス性 の高いサンプルを得るためには,低温が重要であることが 判明した。 ダイヤモンドライクカーボンでは,表面上に薄膜として 極微量生成されるのに対して,本手法は銅アセチリドの爆 発性を用いて,バルク塊として,既にミリグラムスケール の試料を得ることができている。また,ダイヤモンドライ クカーボンでは,sp2混成のグラファイト状炭素以外にsp3 混成のダイヤモンド的炭素の割合がある程度含まれること に特徴がある。しかし,本手法でのアモルファスカーボン では,ラマンスペクトルから,G バンドと D バンドの両方 が観測されているため,グラファイト sp2混成の炭素が主 成分であることが示唆される。実際に,予備的な実験では あるが,13C-NMR 分析をしたところ,そのケミカルシフト が,sp2混成軌道のみであることが判明している。
Fig.4 Thermogravimetric spectrum under 20 % oxygen flow with a temperature ramp rate of 10 °C min-1.
ラマン分光法に続きアモルファスカーボンの性質を調べ るため熱重量測定を行った。白金の試料セルに今回のアモ ルファスカーボンを充填し,酸素20 %の雰囲気下,1 分当 たり10 °C の昇温速度で重量を測定した。その結果を Fig.4 に示した。100 °C 未満の領域で 1 割程度の重量低下がみら れているが,これはカーボン中に吸着していた水分子の脱 離が観測されたと考えている。酸素との燃焼による本格的 な重量減少は,150 °C 程度から開始し,550 °C 程度まで続 いている。一般の炭素材料と比べ燃焼開始速度が150 °C と 低温であること,また,燃焼温度の幅が非常に広いという 特徴がある。最終的な重量減少は97 %以上で銅などの元素 が酸処理過程で残留していても重量比で3 %未満と判明し た。金属と炭素の複合材料の熱重量測定では,金属が触媒 的に働き低温での燃焼が観測されることもあるが,150 °C での燃焼は,触媒を考慮しても低く,本手法で生成したア モルファスカーボンが非常に不安定な炭素状態も含まれて いることを意味している。燃焼温度幅が広い特徴は,ラマ ン分光法で判明したアモルファス性が高いことを裏付ける ものであり,アモルファス性が高く,炭素の化学的環境が 多様であれば,それだけ,燃焼する温度が異なり,このよ うな熱重量測定結果を説明できる。ラマン分光法以外に熱 重量分析でも,本手法のアモルファス性の高さを示すこと ができた。
Fig.5 Nitrogen adsorption-desorption equilibrium curves for the amorphous carbon prepared at low temperature. The sample was pre-annealed at 100 °C for 12 h in a vacuum, and was analyzed at the liquid nitrogen temperature of 77 K.
アモルファスカーボンの特徴として表面積が大きいこと が挙げられ,その性質が表面吸着材や電極材料など各種応 用されている。10) そこで,アモルファスカーボンの表面積 を測定するために,液体窒素温度における窒素分子の吸 着・脱離実験を行った。真空下,100 °C で 12 時間予備加 熱をし,表面に吸着している水分子を脱離させ,液体窒素 温度(77 K)まで冷却し,窒素ガス圧を変化させながら, 窒素分子の吸着量をガス圧の変化から測定した。Fig.5 にそ の結果を示した。 本手法で生成したアモルファスカーボンの吸脱着等温曲 線では,窒素分子を吸着させていくときの吸着曲線と,逆 に脱離させていくときの脱離曲線でヒステリシスが観測さ れた。つまり,窒素分子を吸着していく過程と脱離してい く過程で吸着量が異なることを意味する。これは炭素材料 に細孔が存在しており,細孔へは圧力が高くないと窒素が 吸着できず,逆に圧力を大きく下げないと細孔から脱離し ないため,ヒステリシスが観測される。このヒステリシス の観測結果から,細孔の大きさや構造の情報が得られ,今 回のアモルファスカーボンでは2~50 nm のメソ孔の存在 が予想される。11) アモルファスカーボンは銅アセチリドナ ノワイヤーの熱処理で生成し,酸で銅を溶かし出す処理を 行っている。銅アセチリドナノワイヤーの熱処理では,炭 素の繊維状物質と直径5~30 nm 程度の銅ナノ粒子が生成 することを透過型電子顕微鏡観察から確認しており12),酸 処理で銅ナノ粒子を溶かし出すことで,その大きさと同程 度の細孔が生成したものと考えている。銅アセチリドを生 成する際に,アセチレンではなく,片側の水素をメチル基 で置換したメチルアセチレン(プロピン)を用いて銅メチ ルアセチリドを生成すると,熱処理の際に出来る銅ナノ粒 子の粒径が小さくなることが分かっている。12) つまり,ア セチリドの置換基により銅ナノ粒子の粒径が制御可能であ る。アモルファスカーボンを生成した際の細孔が銅ナノ粒 子の粒径に依存しているため,本方法は,置換基効果でカ ーボンの細孔径を制御できる可能性を秘めている。現在, 炭素材料の細孔径を含めて細かな物性制御に取り組んでい る。
Fig.6 BET analysis of the adsorption- desorption curves in Fig.5. A specific surface area of 540 m2/g was estimated.
窒素分子の相対圧が0.5~0.9 の付近のヒステリシスは直 径5~30 nm のメソ孔によるものであったが,相対圧が 0.1 以下での吸着の立ち上がりは,サイズが2 nm 以下のミクロ 孔が多く存在することを示している。一般的な活性炭では グラファイトに対して賦活処理を行うことでミクロ孔を生 成し表面積を増大させている。しかし,今回の低温過程の みでのアモルファスカーボン生成方法は,炭化反応と後処 理として酸に浸漬するだけであり,賦活処理を行っていな いにも関わらず,ミクロ孔の多い炭素材料が生成できてい る。表面積を正確に見積もるため Brunauer-Emmett-Teller (BET)の方法による比表面積解析を行った。 ೌሺబିሻ
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ିଵ బ (2) ここで,変数はそれぞれ,P:圧力,P0:飽和蒸気圧,Va: 吸着量,Vm:単分子吸着量,C:吸着熱に対応する定数で ある。この計算結果を Fig.6 に示したが,相対圧の低い領 域では計算されたプロットが直線上に並び,BET 法による 多層吸着モデルが正しいことが示唆される。直線の傾きか ら比表面積を計算すると炭素1 g 当たり 540 m2の表面積と なり,通常の活性炭より表面積は小さいが,賦活処理をし ていないのにも関わらず,活性炭と同程度の大きな表面積 を持ち,吸着材や電極材料などへの応用に期待が持てる。4. まとめ
炭素材料の研究は古くて新しい分野である。木炭など古 くから人類が使用してきた炭素であるが,C60フラーレンや カーボンナノチューブなどナノテクノロジーの分野から炭 素が見直されてきた。本研究は,アモルファスカーボンの 生成方法にナノテクノロジーを適応することで,150 °C 以 下の低温プロセスのみでカーボンを生成する方法を提案し たものである。元来,爆発性を有する銅アセチリドを自己 組織化によりナノワイヤー形状とし,爆発を制御しながら 反応活性な性質を利用し,炭化反応を進行させた。後処理 として,銅元素を酸で溶かし出すのみでアモルファスカー ボンを得ている。 150 °C 以下で生成したアモルファスカーボンは高温過程 を経ていないためグラファイト化がほとんど進行していな い。粉末X 線回折,ラマン分光法,熱重量分析などでアモルファス性が非常に高いことが判明した。窒素吸脱着実験 より求めた比表面積も賦活処理を行っていないにも関わら ず大きく,今後の応用展開が期待できる。
謝 辞
本研究の一部は日本大学学術研究戦略 N. 研究プロジェ クト「ナノ物質を基盤とする光・量子技術の極限追求」(代 表:大月穣・日本大学理工学部教授)の支援で実施された ものである。 また,粉末X線回折,熱重量分析,等温吸脱着曲線の各 測定において,橋本拓也教授と丹羽栄貴博士(日本大学文 理学部)の技術的な助言・協力を頂いた。ここに感謝しま す。文 献
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