ア相場の識別とリスク・リターン分析
著者
里吉 清隆
著者別名
Kiyotaka SATOYOSHI
雑誌名
経営論集
巻
95
ページ
51-66
発行年
2020-03
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00011534/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.jaマルコフ・スイッチング・モデルを用いたブル
・ベア相場の識別とリスク・リターン分析
Identifying Bull and Bear Market States Using
Markov-Switching Models: A Risk-Return Analysis
里 吉 清 隆 1. はじめに 2. 分析モデル 3. 実証分析 (1) データ (2) 2 状態 MS モデルの分析結果 4. おわりに 1. はじめに 株式市場などの金融市場では,ある一定期間における価格の上昇トレンドはブ ル相場,下降トレンドはベア相場と呼ばれている.投資家にとってブル・ベア相 場の見極めは,投資戦略を考える上で重要であることから,トレンドの識別,あ るいは予測を行うために,これまで様々な手法が考案されてきた.そのなかでも Hamilton (1989) に よ っ て 提 案 さ れ た マ ル コ フ ・ ス イ ッ チ ン グ ・ モ デ ル (Markov-Switching Model)を利用したブル・ベア相場の識別方法は,現在ま で数多くの先行研究で用いられてきた.Maheu and McCurdy (2000)は,トレン ドの持続性を捉えることが可能なマルコフ・スイッチング・モデルを考案し,米 国の株式市場におけるブル・ベア相場の識別を行っている.日本の株式市場に関 しては,大鋸・大屋 (2009),Shibata (2012),里吉・三井 (2013),三井 (2014), 里吉・三井 (2016)があり,日本を含めた世界の株式市場については Isogai et al. (2008)がある1. ところで,マルコフ・スイッチング・モデルを用いた分析では,ブル・ベア相 場を識別した結果をグラフにして表すことが多いが,そのモデルによる識別能力 がどの程度高いかに関しては,何らかの基準を設けた上で,数値で示すことが望 ましいと考えられる.里吉 (2018, 2019)では,Bry and Boschan (1971) による
手法(以下,BB 法)を用いて日本の株式市場におけるブル・ベア相場の識別を 行い,相場の識別が問題なく行われていることを確認している.BB 法の欠点は, 相場の転換点が分かるのが事後的になってしまうことであり,また,マルコフ・ スイッチング・モデルのような確率モデルではないため,現時点の状態の確率を 求めることや1 期先の状態を予測することはできない.しかしながら,ブル・ベ ア相場の識別の精度が高いことから,マルコフ・スイッチング・モデルによる識 別結果を評価するための基準として利用することができる.
マルコフ・スイッチング・モデルによる株式市場の分析では,ブル・ベア相場 の識別だけでなく,ブル相場,ベア相場のそれぞれにおいてリスクとリターンが どのような関係になっているかについても調べることができる.Chang (2016) は,米国の株式市場に関するリスク・リターン分析をマルコフ・スイッチング・ モデルで行い,S&P500 の四半期データを分析した結果,リスクとリターンの間 に正の関係があることを明らかにしている.そのモデルでは,リターンの式に含 まれるパラメータと GARCH モデルのパラメータがそれぞれ独立にスイッチン グを起こすことを仮定して,マルコフ過程に従う状態変数を 2 つ導入している. そして,1 期前までの情報から得られる高ボラティリティ状態の予測確率をリス クの尺度としている.このように,リターンとリスクが異なる状態変数に従って 別々に変動し,高ボラティリティの予測確率をリスクとして分析を行うことはで きるが,その場合,モデルが複雑になってしまうという難点がある.リスク・リ ターン分析においては,例えば,ボラティリティ変動モデルから得られるボラテ ィリティなど,他の変数をリスクとして用いることは可能である.また,パラメ ータ推定の観点から考えると,状態変数が2 つのモデルよりも 1 つだけのモデル のほうが望ましい.また,マルコフ・スイッチング・モデルによるブル・ベア相 場の分析では,リターンだけでなくボラティリティのスイッチングを含めること が多いが,ボラティリティがスイッチングを起こさないようなシンプルなモデル を用いたときに,どの程度ブル・ベア相場を識別できるのか,また,リスクとリ ターンの関係性を捉えることができるのかについて調べることは重要であると考 えられる. 本研究では,マルコフ・スイッチング・モデルによって株式市場のブル・ベア 相場をどの程度識別することができるのか,また,それぞれの相場においてリス クとリターンの関係はどのようになっているのかを明らかにするために,日経平 均株価の日次データを用いて分析を行った.ボラティリティ変動モデルには株式 市場で観察されるボラティリティの非対称性を考慮して,Nelson (1991)の exponential GARCH(EGARCH)モデルを採用した.また,リスクとリターン のトレードオフを調べる際のリスクの尺度としては,EGARCH モデルから得ら れるボラティリティだけでなく,実現ボラティリティ(Realized Volatility:RV) も併せて用いた.本研究で提案したモデルによるブル・ベア相場の識別結果を評 価する際には,BB 法で得られたブル・ベア相場を基準とした. 実証分析の結果,日経平均株価の推移をブル相場とベア相場に識別するために は,マルコフ・スイッチング・モデルの推移確率をブル相場とベア相場で等しく し,分刻みの株価データから得られたRV をモデルに含め,さらに,左右対称な 確率分布を用いる必要があることが明らかになった.また,RV をリスクの尺度 として用いたときにリスクとリターンの間に正の関係が見られた.そして,その 正のトレードオフはベア相場よりもブル相場のときのほうが強いという結果とな った. 本稿の構成は次の通りである.第2 節ではボラティリティの変動を EGARCH モデルとしたマルコフ・スイッチング・モデルを提案する.第3 節は日経平均株
価を用いた実証分析の結果であり,第4 節は結論と今後の課題である. 2. 分析モデル 株式の𝑡𝑡時点のリターンを𝑅𝑅�とする.リターンの定数項とリスク・プレミアム項 の係数が状態変数に依存してスイッチングを起こす EGARCH-M モデルは次の ように表される. 𝑅𝑅�� 𝜇𝜇��� 𝜆𝜆��𝜎𝜎�� 𝜀𝜀�, (1) 𝜀𝜀�� 𝜎𝜎�𝑧𝑧�, 𝑧𝑧�∼ 𝑖𝑖. 𝑖𝑖. 𝑑𝑑. , 𝐸𝐸�𝑧𝑧�� � 0, 𝑉𝑉�𝑧𝑧�� � 1, (2) ln 𝜎𝜎��� � � � ln 𝜎𝜎���� � �𝑧𝑧���� ��|𝑧𝑧���| � 𝐸𝐸�|𝑧𝑧���|��, (3) 𝜇𝜇��� 𝜇𝜇�𝑆𝑆��� 𝜇𝜇�𝑆𝑆��, 𝜇𝜇�� 𝜇𝜇�, (4) 𝜆𝜆��� 𝜆𝜆�𝑆𝑆��� 𝜆𝜆�𝑆𝑆��. (5) ただし,𝑆𝑆�は1 階のマルコフ過程に従う状態変数であり,(4),(5)式の�𝑆𝑆��, 𝑆𝑆���は, 𝑆𝑆�� 1のとき�𝑆𝑆��� 1, 𝑆𝑆��� 0�,𝑆𝑆�� 2のとき�𝑆𝑆��� 0, 𝑆𝑆��� 1�となる.したがって, (1)式の𝜇𝜇��と𝜆𝜆��は,𝑆𝑆�� 1のときに𝜇𝜇�,𝜆𝜆�,𝑆𝑆�� 2のときに𝜇𝜇�,𝜆𝜆�という値をとる. 𝜇𝜇��はリターンの定数項であり,𝜇𝜇�� 𝜇𝜇�という制約から,このモデルでは状態 1 (𝑆𝑆�� 1)をベア相場,状態 2(𝑆𝑆�� 2)をブル相場と解釈することができる.ま た,𝜆𝜆��はボラティリティ𝜎𝜎𝑡𝑡との連動性を表す係数であり,ブル相場,ベア相場 でのリスクとリターンの関係性を表している.つまり,𝜆𝜆�,𝜆𝜆�の値が正であれ ば,リスクとリターンの間に正のトレードオフが存在していることになる.状態 変数𝑆𝑆�の推移確率は Pr�𝑆𝑆�� 1|𝑆𝑆���� 1� � ���, Pr�𝑆𝑆�� 2|𝑆𝑆���� 2� � ��� (6) であるとする.また,(3)式の標準化された予測誤差𝑧𝑧𝑡𝑡�1は, 𝑧𝑧����𝑅𝑅���� 𝐸𝐸�𝑅𝑅𝜎𝜎 ���|𝐼𝐼���� ��� (7) とした.ただし,𝐼𝐼���は𝑡𝑡 � 2時点までの情報集合であり,𝐸𝐸�𝑅𝑅���|𝐼𝐼����は𝐼𝐼���を条 件とした𝑅𝑅���の条件付き期待値である.したがって,𝑡𝑡 � 1時点のリターンの予測 誤差は,予測値を𝐸𝐸�𝑅𝑅���|𝐼𝐼����として計算している2.その予測値𝐸𝐸�𝑅𝑅 ���|𝐼𝐼����は 𝐸𝐸�𝑅𝑅���|𝐼𝐼���� � �𝜇𝜇�� 𝜆𝜆�𝜎𝜎����Pr�𝑆𝑆���� 1|𝐼𝐼���� � �𝜇𝜇�� 𝜆𝜆�𝜎𝜎����Pr�𝑆𝑆���� 2|𝐼𝐼���� (8) として求められる.この2 状態のマルコフ・スイッチング・モデルを,以下では 2 状態 MS モデルと呼ぶことにする. 𝑧𝑧𝑡𝑡の従う確率分布には,t 分布と skewed-t 分布を用いた3.里吉 (2018)は TOPIX に関してブル・ベア相場の分析を行い,これらの分布の有用性を明らかにしてい る.そこで使用されているモデルは,t 分布の自由度,ならびに skewed-t 分布の 自由度と分布の歪みを表すパラメータが,ブル相場とベア相場で異なる値になる ことを許容したモデルとなっており,TOPIX のそれぞれの相場において分布の歪 み方が異なっていることを明らかにしている.しかしながら,本研究のモデルで 状態によって自由度と歪みパラメータが異なるようにすると,パラメータの推定 が困難になる恐れがある.また,リターンが従う分布の自由度や歪みパラメータ がスイッチングを起こしているとしても,そのスイッチングがリターンの定数項
と同時に起きているとは限らない.その場合,リターンの定数項のスイッチング を捉えることができず,ブル・ベア相場の識別ができない可能性がある.したが って今回は,自由度と歪みパラメータはスイッチングを起こさないものとして分 析を行うことにした.以下ではt 分布のモデルを M-t モデル,skewed-t 分布のモ デルをM-skt モデルと呼ぶことにする4. 里吉 (2019)では,ブル・ベア相場の分析において RV はボラティリティの説明 変数として必要不可欠であることを明らかにしている5.そこで本研究においても, RV を含めたモデルを提案することにする.(3)式の右辺に前日の RV を加えると, ln 𝜎𝜎��� � � � ln 𝜎𝜎���� � �𝑧𝑧���� ��|𝑧𝑧���| � ��|𝑧𝑧���|�� � � ln 𝑅𝑅𝑅𝑅��� (9) となる.ただし,𝑅𝑅𝑅𝑅���は前日のRV である.このモデルにおいても,𝑧𝑧𝑡𝑡の従う分 布にはt 分布と skewed-t 分布の両方を適用して,t 分布のモデルを M+RV-t モデ ル,skewed-t 分布のモデルを M+RV-skt モデルと呼ぶことにする.ところで, このモデルでは RV をボラティリティの式に導入しているが,RV をリターンの 式に加えることもできる.つまり,(1)式ではリターンに影響を与えるリスクは EGARCH モデルから得られる𝑡𝑡時点のボラティリティであるが,そのリスクを次 式のように前日のRV に置き換えることは可能である. 𝑅𝑅�� ���� ����𝑅𝑅𝑅𝑅���� ��. (10) このようにリスクの尺度を変えた際に,リスクとリターンの関係がどのように変 化するかについても調べてみる必要があろう.以下では t 分布のモデルを M(RV)-t モデル,skewed-t 分布のモデルを M(RV)-skt モデルとする.さらに, リターンの式とボラティリティの式の両方にRV を含めたモデルについても分析 を行い,t 分布,skewed-t 分布のモデルをそれぞれ M(RV)+RV-t モデル, M(RV)+RV-skt モデルと呼ぶことにする.実証分析では,本研究で提案したマル コフ・スイッチング・モデルの有用性を確認するために,通常のEGARCH モデ ルも含めて分析を行った.また,本研究のモデルのパラメータはすべて,最尤法 で推定した. 3. 実証分析 (1) データ 実証分析には,日経平均株価の日次リターン(%)と日経平均株価の RV(5 分 変化率ベース)を用いた.標本期間は2003 年 3 月 5 日から 2019 年 11 月 8 日ま でであり,これらのデータはオックスフォード大学の Oxford-Man Institute's realized library からダウンロードした6.また,実証分析には Ox Professional
7.10 を用いた7. 本研究で提案したモデルを用いることによってブル・ベア相場の識別が可能な のかどうかを調べるには,基準となるようなブル・ベア相場が必要となる.そこ で,本研究ではBB 法によって識別されたブル・ベア相場を基準として,マルコ フ・スイッチング・モデルによるブル・ベア相場の識別能力を評価することにし た.ところで,BB 法ではブル・ベア相場の識別を行う前にいくつかのパラメー
タを事前に設定する必要があり,その設定値によってブル・ベア相場の識別結果 は異なってしまう.したがって,BB 法では 3 パターンの事前の設定値を考え, それぞれについてブル・ベア相場の識別を行うことにした8. 図表1 は日経平均株価のブル・ベア相場を BB 法によって識別した結果である. 𝑀𝑀�はブル・ベア相場の最低持続日数であり,パネル(a)は𝑀𝑀�� 5(約 1 週間),パ ネル(b)は𝑀𝑀� � 10(約 2 週間),パネル(c)は𝑀𝑀� � 20(約 1 ヶ月)としたときのブ ル・ベア相場を表している9.図のグレーの網掛け部分がベア相場,白い部分がブ ル相場である.パネル(a)を見てみると,今回の標本期間の日経平均株価は 7,000 円から 25,000 円付近まで大幅に推移しているが,どの時期についてもブル・ベ ア相場の識別が問題なく行われていることがわかる.そのことはパネル(b)と(c) についても同様である.また,ブル・ベア相場の最低持続日数が長くなればなる ほど,株価のトレンドを長期的に捉えるようになっていることが確認できる. 図表1 日経平均株価の推移と BB 法によるブル・ベア相場 (a) 𝑀𝑀�� 5 (b) 𝑀𝑀�� 10 (c) 𝑀𝑀�� 20 (注)実線は日経平均株価,グレーの網掛け部分はBB 法で求めたベア相場を表す. (出所)筆者作成.
日経平均株価のリターンの基本統計量は図表2 に示した.2 行目は全標本期間 の結果であり,リターンの平均は正であるが有意ではない.また,歪度と尖度の 値から,リターンの分布の裾は正規分布より厚く,左に歪んだ分布であることが 分かる.3 行目以降はブル・ベア相場に分けた結果である.最低持続日数が 5 日 (𝑀𝑀� � 5)の結果を見てみると,ベア相場の平均は-0.576,ブル相場の平均は 0.480 であり,どちらも有意な値となっている.また,歪度はどちらの相場でも ゼロから大きく離れた値であり,ベア相場では負,ブル相場では正となっている. このことから,株価のトレンドによってリターンの分布の歪みかたは異なってい ると考えられる.尖度についてはどちらも3 を大きく上回っていて,分布の裾は 厚い.また,ベア相場のほうが値は大きく,分布の裾の厚さにも違いがある可能 性がある.次に,最低持続日数が10 日(𝑀𝑀�� 10)の結果を確認すると,リター ンの平均は𝑀𝑀�� 5のときよりも若干ゼロに近づいているはいるが,このケースに おいてもベア相場で負に有意,ブル相場で正に有意であることには変わりない. また,歪度と尖度もブル・ベア相場で値が異なっており,𝑀𝑀�� 5のケースと同様 の傾向が見られる.これらの特徴は𝑀𝑀�� 20のケースでも基本的に同じである. 以上の結果から,日経平均株価の時系列変動はブル相場とベア相場で大きく異な っていると考えられる. ところで本研究の提案したモデルでは,リターンの分布の裾の厚さと左右非対 称性は考慮しているが,それらがブル・ベア相場で異なるようなモデルにはなっ ていない.つまり,分布の裾の厚さと歪み具合を同時に捉えることができる skewed-t 分布を採用してはいるが,その分布のパラメータはブル・ベア相場を通 じて一定である.しかしながら,前節で述べたように skewed-t 分布のパラメー タのスイッチングの導入はパラメータ推定の問題から現実的に困難であるため, 今回は行わなかった.それでも尚,図表2 の結果より,全期間を通じてリターン の分布の裾の厚さと左右非対称性は明らかであることから,skewed-t 分布を時系 列モデルに含めて分析を行うことは,ブル・ベア相場の識別とリスク・リターン 分析において有用である可能性がある.図表2 の右端の列は,ブル・ベア相場が 継続した日数の平均値である.本研究の標本期間における日経平均株価は基本的 に上昇トレンドであったため,平均値は最低継続日数にかかわらずブル相場のほ うが長くなっている. 図表2 日経平均株価のリターン(%)の基本統計量 標本サイズ 平均 標準偏差 t値 歪度 尖度 継続日数の平均 全期間 4078 0.025 1.462 1.086 -0.523 10.855 - 𝑀𝑀�� 5 ベア相場 1759 -0.576 1.572 -15.365 -0.751 12.707 14.42 ブル相場 2319 0.480 1.186 19.508 0.514 7.933 19.01 𝑀𝑀�� 10 ベア相場 1582 -0.430 1.767 -9.671 -0.379 10.928 30.42 ブル相場 2496 0.313 1.142 13.692 0.171 4.630 48.00 𝑀𝑀�� 20 ベア相場 1451 -0.335 1.859 -6.864 -0.421 9.814 53.74 ブル相場 2627 0.224 1.141 10.048 0.173 4.850 97.30 (出所)筆者作成.
(2) 2 状態 MS モデルの分析結果 図表3 は,トレンドを含まない通常の EGARCH モデルの推定結果である.表 の2 列目から 5 列目までは,リターンの式を(1)式としたモデル,つまり,リター ンに影響を与えるリスクの尺度をEGARCH モデルから得られるボラティリティ としたモデルの結果である.これらのモデルの𝜆𝜆の推定値を確認すると,すべて ゼロに近い値であり有意でない.したがって,EGARCH モデルから得られるボ ラティリティをリスクの尺度としたとき,リスクとリターンの間に関係は無いと 考えられる.次に,リターンの式を(10)式と置き,リスクの尺度を前日の RV と したモデルの結果(表の6 列目から 9 列目)を見てみると,4 つのモデルのうち, M(RV)-t モデルと M(RV)-skt モデルの𝜆𝜆の値は,どちらも有意な正の値となって いる.つまりこのことは,前日のRV をリスクの尺度とすると,リスクとリター ンの間に正のトレードオフが存在することを意味している. しかしながら,これらの2 つのモデルは,モデルの適合度の基準ではあまり良 くない.対数尤度(ln 𝐿𝐿),AIC,SBIC の値は,表の最後の 3 行に示した.8 つの モデルのうち対数尤度が最も高いのはM(RV)+RV-skt モデルであり,次に高いの はM+RV-skt モデルである.AIC と SBIC の基準においても,最も当てはまりが 良いのはM(RV)+RV-skt モデルであり,次は M+RV-skt モデルとなっている.こ れらのモデルはいずれもRV をボラティリティの説明変数に含み,かつ,誤差項 の従う分布として skewed-t 分布を用いたモデルである.正のトレードオフが見 図表 3 トレンドの無いモデルの推定結果 M-t M-skt M+RV -t M+RV -skt M(RV) -t M(RV) -skt M(RV) +RV-t +RV-skM(RV) t 𝜇𝜇 0.003 -0.010 0.055 0.046 -0.056 -0.097 0.012 -0.002 (0.053) (0.044) (0.046) (0.047) (0.039) (0.037) (0.038) (0.039) 𝜆𝜆 0.048 0.037 -0.002 -0.015 0.170 0.191 0.067 0.054 (0.048) (0.040) (0.044) (0.044) (0.053) (0.051) (0.056) (0.057) 𝜔𝜔 0.013 -0.014 0.213 0.212 0.014 -0.012 0.211 0.210 (0.004) (0.006) (0.033) (0.036) (0.004) (0.006) (0.033) (0.036) 𝛽𝛽 0.962 0.961 0.760 0.759 0.959 0.956 0.759 0.758 (0.007) (0.007) (0.035) (0.035) (0.007) (0.007) (0.035) (0.035) 𝜃𝜃 -0.118 -0.117 -0.181 -0.174 -0.126 -0.124 -0.181 -0.173 (0.014) (0.014) (0.019) (0.018) (0.015) (0.015) (0.019) (0.018) 𝛾𝛾 0.190 0.189 0.022 0.026 0.179 0.176 0.019 0.024 (0.018) (0.018) (0.029) (0.029) (0.018) (0.018) (0.030) (0.029) 𝛿𝛿 - - 0.201 0.201 - - 0.200 0.198 - - (0.031) (0.031) - - (0.031) (0.032) 𝜈𝜈 7.772 8.520 8.399 9.024 7.641 8.444 8.289 8.945 (0.915) (1.094) (1.006) (1.150) (0.882) (1.069) (0.984) (1.132) 𝜉𝜉 - 0.893 - 0.891 - 0.887 - 0.892 - (0.019) - (0.020) - (0.020) - (0.020) ln 𝐿𝐿 -6602.76 -6589.16 -6544.89 -6531.42 -6598.27 -6583.23 -6544.21 -6531.03 AIC 13219.52 13194.32 13105.77 13080.83 13210.54 13182.46 13104.42 13080.06 SBIC 13263.71 13244.83 13156.28 13137.65 13254.73 13232.97 13154.92 13136.88 (注)括弧内の数値は標準誤差を表す. (出所)筆者作成.
られたM(RV)-t モデルと M(RV)-skt モデルでは,どちらもボラティリティの説 明変数にRV は含まれていない.これらの結果から,日経平均株価の時系列変動 に対するモデルの適合度を高めるにはRV をボラティリティの説明変数に追加し, 左右非対称の分布を適用する必要があるが,そのようにモデルを定式化すると, リスクとリターンの関係性は見られなくなることが分かる. 図表4 は,2 状態 MS モデルの推定結果である.ベア相場の推移確率𝑝𝑝��はどの モデルにおいても1 に近い値であり,ベアの状態が非常に長く続いていることが 分かる.一方,ブル相場の推移確率𝑝𝑝��はすべてのモデルで0.98 を超えていて, かなり高い値ではあるが,ベア相場の推移確率よりも低くなっている.ところで, 今回の標本期間の日経平均株価の推移は基本的に上昇トレンドであり,図表2 で 確認したように,トレンドの継続日数はベア相場よりもブル相場のほうが長くな っている.しかしながら,このモデルにおける状態の持続性は,推移確率の値か らベア相場のほうが長いことが分かる.したがって,2 状態 MS モデルではブル・ ベア相場の識別はうまく機能していないことが予想される. 定数項𝜇𝜇�,𝜇𝜇�の推定値は,すべてのモデルにおいてベア相場でマイナス,ブル 相場でプラスとなっている.そして,M-t モデルと M-skt モデルでは,どちらの 相場でも5%有意水準で有意となっている.他のモデルについては,M+RV-t モデ ルのブル相場で正に有意,M(RV)-t モデルと M(RV)-skt モデルのベア相場で負に 有意である.トレンドの無いモデル(図表 3)ではすべてのモデルで定数項は有 意でなかったが,マルコフ・スイッチング・モデルにするといくつかのモデルで 有意となっている.そのことから,スイッチングを起こす定数項は日経平均株価 の時系列分析において必要な要素である可能性がある.表の下から2 行目は,帰 無仮説を𝜇𝜇�� 𝜇𝜇�としたときのワルド検定の結果である10.5%の有意水準で帰無仮 説が棄却されたのはM-t モデル,M-skt モデル,M(RV)-t モデル,M(RV)-skt モ デルであり,いずれも前日のRV をボラティリティの式に加えていないモデルで ある.一方の有意とならなかった残りのモデルはすべて,前日のRV をボラティ リティの式に加えたモデルとなっている.したがって,RV をどのように導入す るか否かは,MS モデルを定式化する上で考慮すべき重要な点になると考えられ る. リスクがリターンに与える影響を表すパラメータの値を見てみると,𝜆𝜆�と𝜆𝜆�の 値はすべてのモデルにおいて正であり,M-t モデルでは𝜆𝜆�,M-skt モデルでは𝜆𝜆�, M(RV)-t モデルと M(RV)-skt モデルでは𝜆𝜆�と𝜆𝜆�の両方で有意となっている.また, すべてのモデルで𝜆𝜆�の値は𝜆𝜆�よりも大きい.帰無仮説を𝜆𝜆�� 𝜆𝜆�としたときのワル ド検定ではM(RV)-skt モデルで有意であり,ベア相場よりブル相場のときのほう がその関係性は強くなっている.𝜆𝜆�,𝜆𝜆�の両方の値が有意となったM(RV)-t モデ ルとM(RV)-skt モデルは,リスクの尺度を前日の RV として,ボラティリティの 式のほうにはRV を加えないモデルである.ところで,トレンドが無いモデルの ケースにおいても,同じ形のモデルの𝜆𝜆の値が有意な正の値となっていた.つま り,MS モデルにするかしないかにかかわらず,前日の RV の値をリターンの式 のみに導入したモデルにおいて,リスクとリターンの間に正の関係が見られると
いう結果になっている.そしてMS モデルにした場合,リスクとリターンの正の 関係はブル相場のほうが強い.これらの結果から,投資家はボラティリティ変動 モデルから計算されるボラティリティではなく,分刻みの株価データから得られ るRV を投資リスクと見なして取引を行い,ベア相場よりブル相場のときのほう がリスクに対して大きく反応していると考えられる. 次に,ボラティリティのパラメータについては,トレンドの無いモデルと比較 してみると,𝛽𝛽の値はすべてのモデルにおいて若干高くなっている.また,𝜃𝜃と𝛿𝛿の 値は低くなっているが,これらのパラメータについても変化はそれほど大きくは ない.誤差項の自由度と歪みパラメータについては,すべてのモデルで𝜈𝜈の値は 大きく,𝜉𝜉の値は 1 から離れた値になっている.このように,ボラティリティと 誤差項のパラメータには多少の変化はあるが,定数項とリスク項のパラメータの 図表 4 2 状態 MS モデルの推定結果 M-t M-skt M+RV -t M+RV -skt M(RV) -t M(RV) -skt M(RV) +RV-t +RV-skM(RV) t 𝑝𝑝�� 0.996 0.995 0.997 0.998 0.995 0.994 0.997 0.997 (0.002) (0.002) (0.002) (0.002) (0.002) (0.002) (0.002) (0.002) 𝑝𝑝�� 0.988 0.986 0.985 0.984 0.988 0.985 0.985 0.983 (0.005) (0.006) (0.009) (0.009) (0.006) (0.006) (0.010) (0.009) 𝜇𝜇� -0.142 -0.140 -0.028 -0.034 -0.148 -0.178 -0.042 -0.056 (0.057) (0.058) (0.061) (0.061) (0.043) (0.035) (0.047) (0.046) 𝜇𝜇� 0.210 0.218 0.254 0.225 0.132 0.116 0.230 0.188 (0.118) (0.119) (0.145) (0.170) (0.090) (0.102) (0.142) (0.151) 𝜆𝜆� 0.099 0.059 0.033 0.015 0.165 0.147 0.076 0.053 (0.051) (0.050) (0.052) (0.051) (0.060) (0.040) (0.066) (0.064) 𝜆𝜆� 0.205 0.256 0.057 0.127 0.389 0.475 0.108 0.222 (0.146) (0.137) (0.186) (0.219) (0.155) (0.158) (0.216) (0.249) 𝜔𝜔 0.009 -0.011 0.172 0.153 0.008 -0.009 0.172 0.153 (0.004) (0.005) (0.031) (0.032) (0.004) (0.005) (0.031) (0.032) 𝛽𝛽 0.964 0.965 0.800 0.816 0.964 0.963 0.799 0.816 (0.005) (0.005) (0.032) (0.031) (0.005) (0.005) (0.033) (0.031) 𝜃𝜃 -0.157 -0.169 -0.186 -0.182 -0.161 -0.174 -0.186 -0.183 (0.014) (0.014) (0.017) (0.017) (0.015) (0.014) (0.018) (0.017) 𝛾𝛾 0.136 0.105 0.029 0.029 0.128 0.095 0.025 0.026 (0.019) (0.020) (0.026) (0.025) (0.018) (0.019) (0.027) (0.026) 𝛿𝛿 - - 0.165 0.148 - - 0.165 0.147 - - (0.030) (0.029) - - (0.030) (0.028) 𝜈𝜈 8.596 10.325 8.766 9.768 8.439 10.091 8.701 9.742 (1.063) (1.479) (1.093) (1.334) (1.023) (1.417) (1.082) (1.333) 𝜉𝜉 - 0.852 - 0.878 - 0.848 - 0.878 - (0.021) - (0.020) - (0.021) - (0.021) ln 𝐿𝐿 -6584.24 -6561.97 -6540.20 -6524.02 -6580.78 -6557.49 -6539.62 -6523.61 AIC 13190.49 13147.95 13104.41 13074.04 13183.55 13138.98 13103.24 13073.23 SBIC 13259.93 13223.71 13180.17 13156.11 13253.00 13214.74 13179.00 13155.30 𝐻𝐻�: 𝜇𝜇�� 𝜇𝜇� 8.212 10.328 3.424 2.141 8.293 8.751 3.685 2.617 𝐻𝐻�: 𝜆𝜆�� 𝜆𝜆� 0.479 2.058 0.015 0.245 1.852 4.265 0.019 0.424 (注)括弧内の数値は標準誤差を表す. (出所)筆者作成.
変化に比べると,その程度は小さい. 最後に,モデルの適合度を確認すると,対数尤度,AIC,SBIC の基準で最も 優れているのはM(RV)+RV-skt モデルであり,次は M+RV-skt モデルとなってい る.この結果についてもトレンドの無いモデルのケースと同じである.したがっ て,トレンドの無いモデルと同様に,モデルの適合度の観点からするとRV をボ ラティリティの式の説明変数に含めた skewed-t 分布のモデルが望ましいが,そ のようにするとリスクとリターンの関係性が出てこないことが分かる. 本研究の2 状態 MS モデルでは,ベア相場とブル相場の推移確率の値は異なる 値として定式化している.しかしながら,図表 4 の結果に示されているように, 推移確率の値はベア相場のほうが高いとはいえ,その差はさほど大きくは無い. また,BB 法によるブル・ベア相場の識別では,事前にトレンドの最低持続日数 などを設定するだけであり,ブル相場とベア相場のどちらかがより長い期間にな るかといった設定は行われていない.したがって,ブル相場とベア相場の推移確 率を同じとしたモデルについても調べてみることにした. 図表5 は,推移確率を𝑝𝑝��� 𝑝𝑝��� 𝑝𝑝としたモデルの推定結果である.推移確率𝑝𝑝 の推定値は,M+RV-t モデルで 0.975,M(RV)-t モデルで 0.965,M(RV)+RV-t モ デルで0.973 であり,これらの値は,図表 4 で示した𝑝𝑝��と𝑝𝑝��のどちらの値より も低くなっている.つまりこのことは,ブル・ベア相場の推移確率を等しくする ことによって,ブル・ベア相場の識別結果が大きく変わることを示している.ま た,これら3 つのモデルの定数項の値は,ワルド検定の結果は先のモデルとほと んど変わらないが,ブル・ベア相場の双方において,推移確率が異なるモデルの ときよりも大きくマイナスの方向に変化している. リスクのパラメータについては,M-t モデルのベア相場,M(RV)-t モデルのブ 図表5 2 状態 MS モデルの推定結果(等推移確率) M-t M-skt M+RV -t M+RV -skt M(RV) -t M(RV) -skt M(RV) +RV-t +RV-skM(RV) t 𝑝𝑝 0.996 0.994 0.975 0.999 0.967 0.994 0.973 0.999 (0.001) (0.001) (0.032) (4.8 � 10��) (0.019) (0.002) (0.036) (0.001) 𝜇𝜇� -0.119 -0.123 -0.135 0.041 -0.241 -0.159 -0.120 -0.008 (0.061) (0.079) (0.109) (0.048) (0.077) (0.033) (0.089) (0.039) 𝜇𝜇� 0.337 0.280 0.163 0.302 -0.030 0.140 0.095 0.449 (0.131) (0.149) (0.079) (0.401) (0.070) (0.054) (0.077) (0.256) 𝜆𝜆� 0.092 0.060 0.087 -0.025 0.152 0.145 0.104 0.037 (0.053) (0.070) (0.083) (0.044) (0.094) (0.049) (0.118) (0.058) 𝜆𝜆� 0.041 0.191 -0.024 0.208 0.402 0.460 0.079 0.019 (0.154) (0.160) (0.083) (0.429) (0.119) (0.068) (0.126) (0.352) ln 𝐿𝐿 -6586.64 -6566.19 -6542.67 -6527.11 -6590.07 -6561.43 -6542.15 -6527.17 AIC 13193.29 13154.37 13107.33 13078.22 13200.15 13144.85 13106.30 13078.35 SBIC 13256.42 13223.82 13176.78 13153.99 13263.28 13214.30 13175.74 13154.11 𝐻𝐻�: 𝜇𝜇�� 𝜇𝜇� 12.650 8.881 4.197 0.414 4.199 43.199 2.536 3.207 𝐻𝐻�: 𝜆𝜆�� 𝜆𝜆� 0.109 0.710 0.721 0.295 2.257 26.807 0.016 0.002 (注)括弧内の数値は標準誤差を表す. (出所)筆者作成.
ル相場,M(RV)-skt モデルではブル・ベア相場の両方において有意に正の値とな っている.M-t モデルの結果を除けば,推移確率が異なる 2 状態 MS モデルと同 様に,前日のRV をリターンの式のみに導入したモデルにおいてリスクとリター ンの間に正の関係が見られるという結果になっている11.最後に,対数尤度,AIC, SBIC を 確 認 す る と , こ れ ま で の モ デ ル と 同 様 に M+RV-skt モ デ ル と M(RV)+RV-skt のパフォーマンスが優れており,ボラティリティの説明変数に RV を加えたskewed-t 分布のモデルの適合度が高くなっていることが分かる. MS モデルを用いることによってブル・ベア相場をどの程度正確に識別するこ とができるのかを調べるために,MS モデルから得られたブル・ベア相場と,BB 法で求めたブル・ベア相場との一致率を計算した.MS モデルによるブル・ベア 相場は,まず,ブル相場の平滑化確率を計算し,その確率が0.5 以上となる時期 をブル相場,0.5 を下回る時期をベア相場として求めた.図表 6 のパネル(a)は推 移確率が異なる2 状態 MS モデル,パネル(b)は推移確率が等しい 2 状態 MS モデ ルの結果である.パネル(a)の𝑀𝑀�� 5のケースにおいて最も一致率が高いのは M(RV)-skt モデルであり,𝑀𝑀�� 10と𝑀𝑀� � 20では M(RV)-t モデルとなっている. しかし,どのモデルにおいても,一致率は高くても50%程度となっている. 次に,パネル(b)の結果を見てみると,M+RV-t モデル,M(RV)-t モデル, M(RV)+RV-t モデルの一致率は約 70%であり,かなり高い.これらのモデルは図 表 5 で確認したように,推移確率をブル・ベア相場で等しくすることによって, その確率が低くなったモデルである.この3 つのモデルのうちの M(RV)+RV-t モ デルは,𝑀𝑀�� 10と𝑀𝑀�� 20の 2 つのケースで最も数値が高くなっている.そのモ デルの推移確率は 0.973 であることから,ブル・ベア相場の平均持続期間は 1 �1 � 0.973� � 37日となる.図表 2 で示したように,𝑀𝑀�� 10におけるベア相場, ブル 相場の継続 日数の平均 はそれぞ れ 30.42 日,48 日であることから, M(RV)+RV-t モデルから計算される平均持続期間は,それらの日数の中間の値に なっていることが分かる.つまり,推移確率の推定値から,ブル・ベア相場識別 のパフォーマンスの高さが予想できたことになる.また,これらの3 つのモデル 図表6 BB 法によるブル・ベア相場との一致率(%) (a)2 状態 MS モデル M-t M-skt M+RV -t M+RV -skt M(RV) -t M(RV) -skt M(RV) +RV-t +RV-skM(RV) t 𝑀𝑀�� 5 50.39 50.32 48.92 48.41 50.47 50.78 49.02 48.97 𝑀𝑀�� 10 46.89 46.37 45.46 44.90 47.45 47.33 45.56 45.46 𝑀𝑀�� 20 44.31 43.80 42.89 42.32 44.87 44.75 42.99 42.89 (b)2 状態 MS モデル(等推移確率) M-t M-skt M+RV -t M+RV -skt M(RV) -t M(RV) -skt M(RV) +RV-t +RV-skM(RV) t 𝑀𝑀�� 5 49.95 49.95 67.36 43.13 70.06 50.22 69.74 43.13 𝑀𝑀�� 10 46.64 46.05 70.52 38.79 72.19 46.32 74.28 38.79 𝑀𝑀�� 20 43.53 43.48 69.23 35.58 71.04 43.75 72.88 35.58 (出所)筆者作成.
は定式化が異なるモデルではあるが,いずれもRV を変数に含めたt 分布のモデ ルである.一方,RV をボラティリティの式に含めた skewed-t 分布のモデルであ るM+RV-skt モデルと M(RV)+RV-skt モデルについては,図表 4 と 5 で見たよう にモデルの適合度は非常に高かったが,ブル・ベア相場の識別についてはパフォ ーマンスが低い.また,他の skewed-t 分布のモデルについてもパフォーマンス が低いことから,左右非対称な分布はモデルの適合度は高めるが,ブル・ベア相 場の識別を目的とした場合は適切ではない.したがって,MS モデルで日経平均 株価のブル・ベア相場を捉えるには,推移確率を等しくすること,変数にRV を 加えること,誤差項の分布は左右対称にすることが必要であると考えられる. 図表7 は,2 状態 MS モデルでブル・ベア相場を推定した結果をグラフにした ものである.パネル(a)は推移確率がブル・ベア相場で異なる M(RV)-t モデル,パ ネル(b)は推移確率が等しい M(RV)+RV-t モデルの結果であり,実線は日経平均株 価,点線はブル相場の平滑化確率である.また,グレーの網掛け部分はブル相場 の平滑化確率が 0.5 を下回る時期,つまりベア相場の時期を示している12.パネ ル(a)の結果を見ると,ほとんどの期間がベア相場であり,ブル相場は株価が急激 に上昇した時期のみになっている.つまり,ブル・ベア相場で推移確率が異なる モデルの場合は,BB 法のようにブル・ベア相場を識別することは難しいことが 分かる.一方のパネル(b)は等推移確率とした M(RV)+RV-t モデルの結果であり, こちらは株価のトレンドを概ね捉えていることが確認できる. 図表7 2 状態 MS モデルによるブル・ベア相場の推定 (a)M(RV)-t モデル (b)M(RV)+RV-t モデル(等推移確率) (注)実線は日経平均株価(左縦軸),点線はブル相場の平滑化確率(右縦軸), グレーの網掛け部分はブル相場の平滑化確率が0.5 を下回った時期を示す. (出所)筆者作成.
4. おわりに 本研究では,マルコフ・スイッチング・モデルによって株式市場のブル・ベア 相場を識別することができるのか,また,それぞれの相場においてリスクとリタ ーンの関係はどのようになっているのかについて,日経平均株価を用いて分析を 行った.実証分析の結果,ブル・ベア相場の識別には,ブル相場とベア相場の推 移確率を同じにすることやRV をモデルに組み入れること,さらに,左右対称な 確率分布の適用が必要であることが明らかになった.また,リスクとリターンの 関係性については,RV をリスクの尺度として用いたときにリスクとリターンの 間に正の関係が見られた.そして,その正のトレードオフはベア相場よりもブル 相場のときのほうが強いという結果となった. 里吉 (2019)では,GARCH-M モデル,GJR-M モデルなどを用いて日経平均株 価の分析を行い,これらのボラティリティ変動モデルから得られるボラティリテ ィをリスクとしたときに,ブル相場においてリスクとリターンが正のトレードオ フを示すことを明らかにしている.ところが本研究の分析では,EGARCH モデ ルから得られるボラティリティをリスクとした場合には,リスクとリターンの間 に関係性は見られなかった.そのように異なる結果となった理由としては,里吉 (2019)では BB 法で得られるブル・ベア相場をそのまま利用して分析を行ってい たが,本研究ではブル・ベア相場そのものをMS モデルで推定しなければならず, MS モデルによる相場の識別が不十分であったために,ブル相場におけるリスク とリターンの正のトレードオフが見られなかったと考えられる.したがって,MS モデルによってブル・ベア相場の識別をより正確に行うことができれば,ボラテ ィリティ変動モデルから得られるボラティリティをリスクとした場合でも,同じ 関係性が見られるかもしれない.この点については今後の課題としたい. 参考文献
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1 里吉・三井 (2016)では,Nelson (1991)の exponential GARCH モデルとマル
コフ・スイッチング・モデルを組み合わせたモデルを用いて,日経平均株価のブ ル・ベア相場の分析とオプション評価を行っている.そのモデルでは,投資家の リスク中立性を仮定しているため,リターンの期待値が安全資産の利子率に等し いという制約を置いている.また,推移確率についても,各状態の持続性が保た れるように,1 に近い値となるような制約がある.したがって,それらの制約が ブル・ベア相場の識別の結果に影響を与えている可能性がある. 2 𝑅𝑅 ���の予測値としてそれぞれの状態における平均,𝜇𝜇�と𝜇𝜇�を使用することは可 能である.しかしながら,予測値を2 つにするとボラティリティの系列も 2 つに なってしまい,そのことによってモデルのパラメータの推定が困難になる恐れが ある.したがって,本研究では𝑅𝑅���の予測値は1 つであるとして,𝐸𝐸�𝑅𝑅���|𝐼𝐼����と した. 3 skewed-t 分布の密度関数については,里吉 (2018)を参照のこと. 4 𝑧𝑧 𝑡𝑡がt分布に従う場合,(3)式の𝐸𝐸�|𝑧𝑧���|�は 𝐸𝐸�|𝑧𝑧���|� � � �𝜈𝜈 � 12 � 2√𝜈𝜈 � 2 √𝜋𝜋�𝜈𝜈 � 1�� �𝜈𝜈2� となる.ただし,𝜈𝜈は自由度であり,𝑧𝑧�の分散は 1 に基準化されている.𝑧𝑧𝑡𝑡が skewed-t 分布に従う場合は 𝐸𝐸�|𝑧𝑧���|� � 2𝜉𝜉 � 𝜉𝜉 � 1𝜉𝜉 � �𝜈𝜈 � 12 � 2√𝜈𝜈 � 2 √𝜋𝜋�𝜈𝜈 � 1�� �𝜈𝜈2� となる.ここでも𝑧𝑧�の分散は1 に基準化されている.上式のξは非対称パラメータ で分布の歪みを表し,ξ � 1.0のときに左に歪んだ分布,ξ � 1.0のときに右に歪ん だ分布になる.ξ � 1.0であれば左右対称となり,t 分布と一致する.
5 Koopman et al. (2005)は S&P500 の分析において,前日の RV をボラティリテ
ィの説明変数に加えたGARCH モデルを提案した.また,柴田 (2008)では同様 のモデルを用いて,日本の証券市場におけるボラティリティの予測を行っている. 6 入手先の URL は https://realized.oxford-man.ox.ac.uk/data/download である. 本研究では収益率を%表示としているので,それと合うようにダウンロードした データの値を10,000 倍している.また,この標本期間には 12 日間の欠損値が含 まれているが,分析結果には影響は無いものとして推定を行った. 7 Ox Professional については,https://www.doornik.com/products.html#OxPro を参照のこと. 8 BB 法の事前の設定値には,局所的に最大・最小となる値を見つけるためのウ ィンドウの長さ(𝑀𝑀�),標本の両端における除外期間(𝑀𝑀�),山から山(谷から 谷)まで1 サイクルの期間(𝑀𝑀�),谷から山(谷から山)までの期間(𝑀𝑀�)の4 つがある.また,本研究では里吉 (2019)が提案した手順を用いている.里吉 (2019)では山と谷の大小関係が逆転することが無いように,Pagan and
Sossounov (2003),Gonzalez et al. (2005),柴田 (2010),Wu and Lee (2015), 里吉 (2018)で用いられた BB 法に,手順を 1 つ追加している. 9 他の事前設定値については,𝑀𝑀 �と𝑀𝑀�は𝑀𝑀�の2 倍,𝑀𝑀�は𝑀𝑀�と同じ日数とした. 今回用いたBB 法の詳細は,里吉 (2019)の 3 節を参照のこと. 10 時系列データがマルコフ・スイッチングを起こしているか否かを調べるには, 本研究のモデルでは帰無仮説を𝐻𝐻�: 𝜇𝜇�� 𝜇𝜇�, 𝜆𝜆�� 𝜆𝜆�として検定を行う必要がある. しかしながら,その帰無仮説のもとでは推移確率が識別できなくなるため,検定 統計量は標準的な分布に従わなくなってしまう.スイッチングの検定としては Hansen (1992, 1996),Garcia (1998)などがあるが,それらの検定は簡単に行う ことはできず,また,本研究の目的はブル・ベア相場の識別とリスク・リターン の分析であることから,今回は行わないことにした. 11 ボラティリティの式のパラメータと自由度,ならびに歪み係数の推定結果につ いては,図表4 の結果と変わらないことから割愛した. 12 他のモデルについてもこのようなグラフが得られたが,特徴的な 2 つのモデル の結果のみを掲載した. (2019 年 12 月 31 日受理)