Title
p53, c-erbB-2, PCNA, CD44, nm23の免疫組織染色所見からみ
た大腸癌異時性肝転移高危険群の検索について( 内容の要旨
(Summary) )
Author(s)
北村, 文近
Report No.(Doctoral
Degree)
博士(医学)乙 第1122号
Issue Date
1997-06-18
Type
博士論文
Version
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12099/15150
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氏名 (本籍) 学位の種類 学位授与番号 学位授与日付 学位授与の要件 学位論文題目 審 査 委 旦 北 村 文 近(岐阜県)
博
士(医学)
乙第 1122 号 平成 9 年 6 月18 日学位規則第4条第2項該当
p53,C-erbB-2,PCNA,CD44,nm23の免疫組織染色所見からみた大腸癌異時性肝転移高危険群の検索について
(主査)教授 佐 治 重 量 (副査)教授森
秀
樹
教授安
田 圭 吾 輸 文 内 容 の 要 旨 大腸癌の異時性肝転移は.手術時すでに存在した微小転移巣の増大によるものと推察されておりt定期的な画 像診断や腫瘍マーカー値の術後推移からの早期診断と,肝転移巣に対する外科切除や動注療法などが予後向上に 寄与している。すなわち,大腸癌初回手術時に異時性肝転移の高危険群を的確に抽出し,経時的に追跡検査した 上で微小転移巣を早期に発見することが肝要であるが,近年分子生物学的手法を用いた免疫組織化学的診断法の 開発により.異時性肝転移の予測がある程度可能との考えで種々検索が試みられている。そこで申請者らは.教 室で経験した大腸癌異時性肝転移例を対象に.手術時採取した大腸原発巣の切除標本を用い,p53,C-erbB2, proliferatingcellnuclearantigen(PCNA),CD44.nm23蛋白の発現程度を詳細に検索し.臨床病理学的所 見との関連から異時性肝転移予測の可能性を検討した。 研究対象と研究方法 対象は,1982年1月から1990年12月までに開腹した進行大腸癌276例中,術後に肝転移が発見された異時性肝転 移33例で(転移群),対照群として276例軋術後5年以上を経過した無再発生存例中,転移群と腫瘍占居部位, 組織型,壁深遠度を1:2で度数マッチングさせた66例を用いた(対照群)。免疫組織染色の方法は一 手術時採取 した切除標本のパラフィン包埋ブロックより4FLmの薄層連続切片を作製し.脱パラフィン乱 p53,C-erbB2, CD44,nm23はABC法で,PCNAはEPOS法で染色した。判定は各因子の染色程度を一定基準のもとで評価し, PCNAは癌細胞500個中の染色陽性細胞数を1abelingindex(LI)として百分率で表示し,Cut-Off値はreceiver operatingcharacteristic(ROC)曲線解析より求めた。また,両群の各因子の陽性率より単独および組み合わ せによる異時性肝転移確率を検査陽性予測値として算定し,各因子の発現程度と大腸癌取扱い規約に基づく病理 組織学的因子との関連を併せて比較検討した。 研究結果 1)転移群は対照群に比べ,PCNALI値(p<0.01)とCD44陽性率(p<0.01)が有意の高値を示し,nm23陽 性率が有意(p<0.05)の低値を示した。 2)PCNA LI値のcut-Off値としてROC曲線解析で左上隅に最も近い値の60を用いた。このcut-Off値でPCNA LIが高値となる頻度は転移群で有意(p<0.01)に高く,以下の検討でPCNALI≧60を高値群,<60を低値群と して解析した。 3)病理組織学的因子との関連で,転移群と対照群を合わせた99例での検討では.組織学的病期(p<0.05)と リンパ節転移程度(p<0.05)はnm23陰性群で有意に高く,PCNALI高値群で高くなる傾向(p<0・10)がみら れた。 4)転移群における平均無再発期間(DFI)は24.1±16.6か月で,69.7%の症例が24か月以内に癌再発したo DFIはCD44陽性群で有意(p<0.05)に短縮し,nm23陰性例で短くなる傾向を示した。また,累積生存率では CD44陽性群で予後不良となる傾向がみられた。 5)免疫組織染色による高危険群の抽出法として有用性が示唆されたPCNALI,CD44,nm23を用い,異時性-109-肝転移の検査陽性予測値を算定した。その結果,1項目ではPCNA LIか023と最高で,2項目ではPCNA LIと nm23の組み合わせが0.62と最高値を示した。なお,3項目では0.62と2項目の最高値と同値となり,予測値の感 度増強効果はみられなかった。 考察と結語 大腸癌治癒切除後の異時性肝転移として.初回手術時存在した微小転移巣の増大 転移陽性適残リンパ節から の2次的転移,術中揉み出し操作による癌細胞の門脈内散布などの可能性が推察される。教室における検討結果 では後2者の可能性は予想以上に少なかったことから,異時性肝転移の大部分は潜在的同時性肝転移例と考え. 免疫組織学的染色法を用い癌関連抗原や転移関連遺伝子,あるいは細胞増殖因子などの蛋白発現程度を検索し異 時性肝転移予測の可能性を検討した訳である。結果として,PCNA LI,CD44,nm23の3項目が対照群との問に 有意差を示した。PCNAは細胞増殖期関連核タンパクで大腸癌の予後との関連が報告されているが,一般にLI値 高値例では悪性度が高く,自験例でも高値群で異時性肝転移例が有意に多く,組織学的病期やリンパ節転移程度 も高い傾向を示した。CD44は膜貫通型接着分子で大腸癌同時性肝転移との関連が注目されている。本研究でも CD44陽性率は異時性肝転移群で有意に高く,DFIも有意に短縮し予後不良であった。しかし,リンパ節転移や 組織学的病期との間に有意の関連はみられず,CD44は血行性転移に特異的に関与する可能性が示唆された。nm 23は癌転移抑制遺伝子として注目されているが.本研究ではⅢm23陰性群で組織学的病期やリンパ節転移率が有 意に高く,DFIが短縮する傾向を示した。また,検査陽性予測値を用いた異時性肝転移確率は.1項目では
PCNA LIが,2項目ではPCNA LIとnm23の組み合わせが最も高値を示した。しかし3項目では2項目との間に差 がなく3項目すべてを検索する必要性は少ないと推察された。 以上の検討,大腸癌原発巣でPCNA,CD44,nm23蛋白発現の有無を免疫組織化学的に検索することにより異 時性肝転移高危険群の予測が可能で,かかる症例に対する予防的肝動注療法などの有用性が推察された。本法は 手技的にも比較的簡単な検査法で,早期治療による手術予後の向上と医療経済的見地からも有用と考えられる。 論文審査の結果の要旨 申請者北村文近は,大腸癌の初回手術時採取した原発巣切除標本を用い,細胞増殖関連蛋白や転移関連遺伝子 の発現程度を免疫組織学的に検索し,PCNA,CD44.nm23の発現程度から異時性肝転移の高危険群を予測でき る可能性を明らかにした。これらの研究結果は,大腸癌異時性肝転移高危険例に対する術直後からの積極的な治 墳の必要性を強調するもので,腫瘍外科学の向上に少なからず寄与するものと認める。 [主論文公表誌] p53,C二erbB-2,PCNA,CD44,nm23の免疫組織染色所見からみた大腸癌異時性肝転移高危険群の 検索について 日消外会誌 30(4):838∼845,1997