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2つの減損会計とその会計構造

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2つの減損会計とその会計構造

吉 田 武 史

はじめに 1.減損会計の2分類 2.回収可能性を歴史的原価に求める減損会計からみた会計構造 3.回収可能性を貸借対照表上に繰り越されてきた金額に求める減損会 計からみた会計構造 4.減損会計の理論的構造 おわりに はじめに 減損会計は,日本においても, 2005年度3月期決算より本格的に適用さ れている.しかしながら,諸外国をはじめ,従来,固定資産について,将 来のキャッシュ・フローあるいは公正価値を用いて測定されるような規定 はほとんど存在せず,減損会計の解釈については多様なものが存在する. そこで,本稿では,減損会計の成立基盤を考察したい.具体的には,第1 に,減損した資産についての回収可能概念の相違によって2つに類型化さ れた減損会計からみた会計構造を検討する.第2に,会計構造を検討する にあたり, 1)資産概念とその測定の関係, 2)減損した資産と持分の開

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係および3)利益計算の意味を明らかにしてゆきたい.以上の検討により, 本稿では,減損会計の理論的構造を明らかにし,減損会計の基盤を示した い.

1.減損会計の2分類

減損会計の基本的概念は,資産の帳簿価額が回収不能である場合に,質 産の回収可能性を反映させるために行われる帳簿価額の切下げと統一的に 表現することができる1. しかしながら,回収される前提となる帳簿価額自体の相違により,回収 可能概念は, 2分類されることとなる.それは,資産の帳簿価額が繰り越 されてきた原価(carryingcost)として,解釈されるべきか,あるいは貸 借対照表上で繰り越されてきた金額(carrying amount)として,解釈さ れるべきかであり,このような解釈の相違により,減損会計は, 2つのモ デルに分類される2.この資産の帳簿価額の相違は,繰り越されてきた原 価に基づけば,当初の支出ないしは投資額のみを回収すればよいと考える ことができるために,時価による再評価の余地は残されておらず,歴史的 原価評価モデル(historicalcostmodel)と整合性をもつ.他方,貸借対照 表上に繰り越されてきた金額に基づけば,当初に支出した投資額のみなら ず,いったん過去に再評価された金額をも回収されるべきと考えることが でき,歴史的原価評価モデルのみの観点では,説明することができず,時 価評価モデル(currentvalue model)と整合性をもつ.これらの帳簿価額 の解釈が異なることにより,回収されるべき金額の解釈が異なる.つまり, 回収されるべき金額は,当初の支出ないし投資額を示す歴史的原価である のか,時価による再評価を行ったうえでの金額であるのかという回収可能 概念が相違している. 減損した資産の回収可能性を歴史的原価にのみ求める減損会計は,アメ リカおよび日本における減損会計モデルが該当し,かつそれらは,回収可

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能概念として, 「回収可能原価(recoverable cost)」が採用されていると みることができる.ここに,回収可能原価は,回収されるべき金額がいか なる場合も,当初の支出額である歴史的原価の枠内であるべきとするもの と考えることができる.よって,それは, 「入口価値(entryvalue)」とし ての性質を有することとなる.他方,減損した資産の回収可能性を貸借対 照表上に繰り越されてきた金額に求める減損会計は,国際会計基準および イギリスにおける減損会計モデルが該当し,かつそれらは,回収可能概念 として, 「回収可能額(recoverable amount)」が採用されているとみるこ とができる.回収可能額は,回収すべきとする金額を歴史的原価にこだわ らず,ある時点において貸借対照表に計上されている金額を回収すべきも のと考えることができる.過去において,資産が時価により再評価されて いた場合,回収すべき金額は,その再評価された金額となる.よって,質 借対照表上に計上されている資産の金額は,すべて回収されるべき金額と なり,それは, 「出口価値(exitvalue)」としての性質を有する. 2.回収可能性を歴史的原価に求める減損会計からみた会計 構造 ここでは,減損した資産の回収可能性を歴史的原価にのみ求める減損会 計は,どのような会計構造,すなわちいかなる会計の基本的思考によって, 成立しているのかを検討する. まず,このような減損会計が歴史的原価評価と整合的であるとされる理 由は,第1に,減損した資産を公正価値で測定することが,当該資産が減 損した時点において,新たな支出額で測定されることに求められる.第2 に,減損した資産を使用し続ける意思決定が,その資産に対して投資を決 定したことと経済的に類似していることに求められる(FASB 〔1995〕 para.69).よって,その整合性は,投資をいったん清算し,それに対する 再投資を仮定(投資を擬制)しているからこそ成立するものである(梅原

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〔2001〕 p.45)と考えることができる. このように,減損した資産を公正価値で測定するということは,資産を 原価とし,かつそれを犠牲としてとらえていることを意味する3.すなわ ち,減損した資産は,将来において,それを保有する企業に便益をもたら すものであり,当該便益に対応する犠牲ということを意味する.また,公 正価値を測定属性として用いることは,減損した資産への再投資を仮定す る中で, 「交換(exchange)」を重視している.交換を重視するというこ とは,測定属性の客観性を重視していることにつながる.つまり,アメリ カにおいて,概念フレーム.ワークレベルでは,資産は,発生の可能性の 高い将来の経済的便益(probable future economic benefit) (FASB 〔1985〕 para.25,平松・広瀬共訳〔2002〕 p.297)とされているが,具体的な基準 および指針レベルでは,資産は原価(Shuetze, W. P 〔1993〕 p.68)である とされていることを意味する.よって,減損した資産は「犠牲 sacn丘ce)」 を意味しよう.すなわち,概念フレーム・ワークレベルにおいて,資産は 一元的にとらえられているが,基準および指針レベルにおいて,資産は, より具体的に,将来の費用ないしは犠牲である歴史的原価として,二元的 にとらえられていることを意味する. そこで,このような減損会計からみた会計構造を検討したい.資産概念 とその測定属性の関係から明らかになることは,資産は,便益と犠牲の2 側面を有するものとされることである(井尻〔1968〕 p.50).このような 考え方は,入口価値と出口価値による測定が存在することとなる.第2に, 減損した資産は, 「原価-将来の費用-犠牲」とされ,かつその根拠は, 交換を前提とする実証性および確実性に求められる(井尻〔1968〕 p.89). よって,減損した資産についての資産概念は,原価であり,それは入口価 値で測定される. このように,資産を原価であるとみた結果として,貸方側の持分 (equity)自体も原価であると考えることが可能となる4.具体的には,企

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業に投下された資金ないしはキャッシュが持分であり,その資金ないしは キャッシュを投下した具体的形態が資産であると考えることができよラ. また,減損会計の考え方を適用することにより,期首時点の持分と期末時 点の持分の性質は異なると考えることができる.すなわち,期首時点では, 持分自体も原価である将来の犠牲とみるが,期末時点では,持分を便益で あるとみることができる.つまり,持分自体が,期首においては事業への 投資額を意味し,期末においては,その事業をいったん清算するという擬 制が行われ,事業の清算額を意味する.また,それは,翌期首において, 再び将来への犠牲へと転換するといった擬制が行われ,事業への再投資額 を意味する. このように,持分をとらえることによって,利益は,便益と犠牲の差額 として計算されることとなる.すなわち,期首の持分を犠牲である原価と みて,期末の持分を便益である回収とみることにより利益が計算される. そこでは,期末の持分を翌期の持分である原価(投資額)に転換する限り において,客観性が求められなければならない.よって,不確実性の程度 をより少なくするため,交換を前提とした客観的な測定属性である公正価 値での測定が必要とされる. このような検討から,減損した資産の回収可能性を原価に求める減損会 計からみた会計構造は,資産および持分について,投資額である人口価値 の性質が強調され,将来のキャッシュ・フローの獲得の視点によっていな いことが明らかとなる. 3.回収可能性を貸借対照表上に繰り越されてきた金額に求 める減損会計からみた会計構造 つづいて,減損した資産の回収可能性を貸借対照表上に繰り越されてき た金額に求める減損会計からみた会計構造を検討してゆく.ここでは, ICAS 〔1988〕5を中心として検討してゆくこととしたい.

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まず, ICAS 〔1988〕の会計に対する基本的思考は,経済的現実 (economic reality)を描写することに重点が置かれている.それは,具体 的には,企業の富とその変動を報告することであるとされる(ICAS 〔1988〕 para.1.2).このような企業の富とその変動に関する情報の投資者 への伝達は,証券市場の効率的な運営に重要な要素である(ICAS 〔1988〕 para.1.6)とされ,会計情報は,証券市場との関係で重要視されている. このような基本的な思考から,財務報告には,以下の欠陥があると指摘さ れている.それは,取引の経済的実質よりも法的形式が重視されているこ と,経済的現実が反映されていないこと,将来よりも過去が重視されてい ること,価値よりも原価が重視されていることおよび富とその変動よりも 利潤(profit)が重視されていることである(ICAS 〔1988〕 para.1.13).こ のような欠点が存在している結果として,貸借対照表は企業の財務的富 (financial wealth)の合計額を反映しておらず,現実的な意味を失ってい ることおよび損益計算書は1財務期間のすべての利得および損失であるす べての富の変動を認識していないといった問題点が提起されている (ICAS 〔1988〕 para.4.1) , そこで,財務報告の欠陥の改善として,以下のことが検討されている. その改善は,企業の財務的富の総額およびその変動を示すことを目的とし て,財務状態沌nancial position)に関し,すべての資産は,規則的に再 評価されるべきであり,その再評価の測定属性は,実務上実行可能である 正味実現可能価額(net realizable value)で行なわれるべきであるとされ る(ICAS 〔1988〕 paras.5.6-5.8).また,業績(performance)に関し, 資産の富のすべての増加は,財務的富の増加を反映するため,評価切上げ が行なわれるべきであるとし,資産の富の費消は,価値の喪失を基準とし て,評価切下げが行なわれるべきとされる(ICAS 〔1988〕 para.5.9).注 目すべきは,株式時価総額(market capitalization)と財務的富の差額に焦 点を充てており,株式時価総額は,測定不能な純資産のおおよその価値を

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知るべきものとして,有用であり,かつ(株式の)市場価格は,企業の財 務的富の外部的測定額であり,検証可能性を有するものであるとされてい ることである(ICAS 〔1988〕 paras.5.20-5.21).このように,企業の財務 的富の内部的な測定額とその外部的測定車である株式時価総額の差額を示 すことは,企業自身の価値を内部的および外部的に示すことから,投資意 思決定のための有用な情報となると考えられる. 資産および負債の測定属性は,正味実現可能価額が採用されている.正 味実現可能価額が採用される理由としては,以下の3点が掲げられている (ICAS 〔1988〕 para.6.1).第1に,正味実現可能価額は,資産が売却でき うる価格を示し,加法性(additivity)fを満たすことである.第2に,正味 実現可能価額は,資産の実現に関する期待価値であるため,経済的現実を 示し,現実性(reality)を満たすことである.上述の理由から,第3に, 正味実現可能価額は,企業の財務的富を評価するために役立つ日的適合性 を有することである8. 以上の検討から, ICAS 〔1988〕の特徴は,第1に,企業の財務的富と その変動(経済的現実)に焦点を充て,そこから演揮的に資産の測定属性 を導き出していることがあげられる.それは,原価よりも価値,過去より も将来を重視するという価値評価の思考から成り立っている.第2に,企 業内部による財務的富の測定とこれに対応する企業外部,すなわち市場に よる財務的富の測定の関係性を強調するという企業の財務的富と株式時価 総額の関係を常に意識していることがあげられる.第3に,資産の測定属 性として,出口価値である正味実現可能価額が採用されていることがあげ られる. 続いて, ICAS 〔1988〕と減損会計との関連性を検討してゆく.資産概 念の関連性は,それぞれ,資産を将来の経済的便益と一元的にとらえてい ることがあげられる. ICAS 〔1988〕では,財務的富より清輝的に将来の 経済的便益を導いており,資産を経済的便益ととらえることが可能である.

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減損会計においても,イギリスおよび国際会計基準の概念フレーム・ワー クに基づき,資産を将来の経済的便益が流入すると期待される資源として とらえている(IASB 〔1989〕 para.49,企業会計基準委員会財団法人財務 会計基準機構〔2005〕 49およびASB 〔1999〕 para.4.6).資産測定の関連 性は,減損会計およびICAS 〔1988〕ともに,出口価値(特に正味実現可 能価額)で測定されるべきであるとしていることがあげられる.特に,正 味実現可能価額を測定属性とすることに焦点を充てると,イギリスの減損 会計における減損の兆候は,正味実現可能価額と資産の帳簿価額を比較す べきであることが提案(ASB 〔1996〕 para.2.7)されていたという点で, ICAS 〔1988〕との関連性がある. また,両者ともに,株式時価総額を意識しているという関連性が存在す る.すなわち, ICAS 〔1988〕では,株式時価総額と財務的富の差額に焦 点を充てている一方,減損会計では,減損の兆候として報告企業の純資産 の帳簿価額が,その企業の株式の市場価値を超過している(IASB 〔2004〕 para.12,企業会計基準委員会財団法人財務会計基準機構〔2005〕 p.1384) ことが掲げられている.このことにより,証券市場における株式時価総額 に関連する情報を提供することを両者ともに,重視する立場を採用してい ることが明らかとなろう.証券市場を重視している結果,経済的現実を反 映させ,適正な証券市場の運営を行なうことがICAS 〔1988〕および減損 会計の目的であるとみることができる. 以上の検討から,減損した資産の回収可能性を貸借対照表上に繰り越さ れてきた金額に求める減損会計からみた会計構造を検討したい.資産の概 念は,持分が企業の財務的富であると規定され,そこから演揮的に将来の 経済的便益が導き出されている.このことから,資産は,一元的に把握さ れ,その測定属性として,キャッシュ・フローの獲得を強調する出口価値 が重視されている. 持分の概念と資産との関係については,以下のことが明らかとなる.拷

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分は,企業の財務的富であり,それは常に株式時価総額が意識されている. これは,持分が常に株価を合理的に説明できるものでなければならないこ とを意味している.持分自体の性質は,資産が出口価値で測定されること により,持分も出口価値で測定されるものと考えることができる.すなわ ち,持分は,将来の収入額としての性質を有している. このように,持分が規定されたことにより,業績は利益としてではなく, 企業の財務的富の変動額として規定される.すなわち,ここで,財務的富 は,持分の観点(ストソクの観点)から計算するなら,期末時点で見積も られる将来の収入額から期首時点で見積もられる将来の収入額を差し引い た金額となる.減損した資産の回収可能性を原価に求める減損会計からみ た会計構造のように,期首と期末の持分の性質に相違がないため,交換価 格としての客観性は,必要とされない.ここでは,事業活動は価値を付加 すること(ICAS 〔1988〕 para.6.25)と定義され,その価値の変動分が企 業の財務的富の合計額となる.よって,事業活動が価値を付加することと され,収益から費用を差し引いて利益を算定することが業績の尺度となっ ていない. 減損した資産の回収可能性を貸借対照表上に繰り越されてきた金額に求 める減損会計は,減損会計の基本的思考である帳簿価額の回収可能性につ いて,出口価値を基礎とするキャッシュ・フロー獲得の視点を強調し,ち って経済的現実を反映することを目的としている.特に, ICAS 〔1988〕 との関連性を考慮した場合には,この減損会計における資産評価の思考は, 価値評価を重視していよう.よって,当該減損会計は,過去の支出(投資) 額である歴史的原価を重視し,当該原価の期間酉己分である費用配分評価と は,異なり,企業の経済的現実を反映するものであるといえよう.また, 企業の財務的富と株式時価総額にも焦点を充て,投資意思決定のための有 用な情報を提供することに目的があると考えられよう.

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4.減損会計の理論的構造

これまで,減損した資産の回収可能性を原価に求める減損会計あるいは 貸借対照表上に繰り越された金額に求める減損会計それぞれからみた会計 構造を検討してきたが,ここでは,減損会計の理論的構造と減損会計が立 脚すべき理論的基礎を明らかにしたい. まず,減損した資産の剛文可能性を原価に求める減損会計の意義と問題 点を検討したい.当該減損会計の意義は,以下の点に求められる.第1に, 歴史的原価評価モデルにおける公正価値測定を根拠づけたこと,ないしは 歴史的原価評価モデルに時価評価を包摂したことである.このことは,固 定資産について,金融商品と同様に,公正価値での評価切上げの可能性を 生じせしめうるであろう.このことから,当該減損会計は,歴史的原価評 価モデルの枠内における固定資産の評価切上げおよび評価切下げを含む公 正価値による再評価の萌芽段階とみることが可能となる.第2に,評価切 上げを含めた固定資産の測定は,原価と公正価値の蔀離を定期的に取り除 き,過去の支出額に着目する歴史的原価主義の弊害を改善しようとするも の(古賀〔2000a〕 pp.193-194 古賀〔2000b〕 p.85)である.このよう な歴史的原価主義の弊害を改善することは,評価切下げあるいは評価切上 げ以降における固定資産の回収可能原価の配分額と実習訓叉益が対応し,費 用と収益の対応の見地からは望ましいといえよう. 減損した資産の回収可能性を原価に求める減損会計の問題点は,第1に, 1960年代に議論された固定資産をカレントコスト(currentcost)で再 評価する考えガと相違がないという点である.すなわち,評価切下げの 対象が,公正価値の変動額となり,キャッシュ・フロー獲得の視点によっ ておらず,その結果,市場価格の変動による保有損失(holdingloss)と 減損による損失(impairmentloss)との区別の必要性が乏しくなるという 問題点が存在する.

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第2に,アメリカにおいて,減損会計導入後に,導入前の問題が解決さ れたかという観点から検討する.アメリカにおける減損会計導入前の問題 点としては,減損に関する規定の未整備による多様な実務の存在があげら れる10.このような多様な実務の存在は,減損会計が「利益調整 earnings management)」に利用されるという問題を生じさせていた.具 体的には, 「稼得利益(earnings)」が乏しい場合,その期間以後の稼得利 益を増加させる目的で評価切下げを記録し,その結果,翌期以後における 償却額の負担の減少により稼得利益を増加させる「垢落とし(takeabath)」 の問題あるいは稼得利益が高い場合, 「利益の平準化(smoothing income)」 を行う目的で評価切下げを記録するという問題である(Alciatore, Mリ Dee, C. C. , Easton, P andN. Spear [1998] p.l I Zucca, L.J and D. R. Campbell 〔1992〕 p.35).つまり,評価切下げについて,経営者が気まぐ れな思いつきにより,評価切下げの時期および金額をコントロールする 「自由裁量(discretion)」をもって行なわれ,かつその発生頻度も増加し ている問題が存在していた(Zucca,L.JandD. R. Campbell 〔1992〕 p,31 ; Zucca, L.J 〔1996〕 p.28)u. このような問題点を排除すべく減損会計基準が設定されたが,導入後に おいて,以下の間趨点が生じている(Ried, E.J 〔2004〕 pp.824-825).第 1に,減損会計による評価切下げとその経済的要素の関連性が乏しくかつ, 企業の経済的現実を反映していないことである.第2に,導入前よりも減 損による評価切下げと垢落としの行動との関連性が,より大きくなってい ることが明らかとなっていることである.第3に,減損会計基準自体が, 経営者がより自由裁量をもって減損会計を適用することができ,かつその 評価切下げを正当化するための基準となっていることである.すなわち, 減損会計基準が垢落としに対してお墓付きを与え,結果として,企業の経 済的実態を何ら反映しないものとなっているという問題が存在している. こんにちのアメリカにおける減損会計は,目的適合性(relevance)あ

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るいは経済的現実を欠如させる1回の「ビッグ・バス(bigbath)1」以外 の何ものでもない(Turner, L. E 〔2005〕)とされる.具体的に当該減損会 計は,いったん減損を認識したならば,必要以上に公正価値まで評価切下 げが行われ,それ以後の利益が増加する傾向がある.よって,減損会計が キャッシュ・フロー獲得の硯点によって行われておらず,経済的現実を反 映していなol また,継続利用される固定資産について,清算と再投資を仮定すること は,非現実的(FASB 〔1995〕 para.12)であり,そのような仮定も,経済 的現実を反映していないといった問題がある. 次に,減損した資産の回収可能性を貸借対照表上に繰り越されてきた金 額に求める減損会計の意義と問題点を検討する.当該減損会計の意義は, 第1に,持分と株式時価総額の差額に焦点を充てていることがあげられる. アナリストあるいは機関投資家は,常に,企業価値と株式時価総額の蔀離 の原因を求めており14 (AIMR 〔1993〕 pp.13-14,八田・橋本訳〔2001〕 pp.21-22),このような轟離を合理的に説明する手段という点に着目して 行われる減損会計は,投資意思決定のための有用な情報としての意義を有 しよう.第2に,経営者の視点からの情報が伝達可能であることがあげら れる.資産に関するキャッシュ・フローには,いくつかの年度に関する戦 略的計画,短期間の財務計画および将来のキャッシュ・フローの獲得に関 する情報(ICAS 〔1988〕 paras.7.46-7.52)が含まれる.このような情報 は,特に投資家を中心とするステイクホルダーにとって必要な情報であり, 減損会計が提供する情報と合致している.特に,減損会計の観点からは, 戦略的計画に関する情報が,どのように固定資産(あるいは資産グループ) を利用するのかという情報を提供し,かつ財務計画およびキャッシュ・フ ローに関する情報が,将来のキャッシュ・フローの獲得額についての情報 を提供する.このことから,そのような情報は,過去および現在を超えて, 将来の戦略,計画および期待についての経営者の見解が含まれ,有用なも

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のとなろう(ICAS 〔1988〕 para.7.8).また,このような情報は,投資者, 債権者その他の情報利用者が,当該企業への正味キャッシュ・インフロー の見込額,その時期およびその不確実性をあらかじめ評価するのに役立つ 情報を提供しよう15 (FASB 〔1978〕 para.37,平松・広瀬共訳〔2002〕 p.2れ 第3に,経済的現実を反映することがあげられる.経済的現実を反映す ることは,資産の測定が,キャッシュ・フローを回収するという目的をも った出口価値(-回収可能額)で行われ,減損した資産の回収可能性を原 価に求める減損会計のように,評価切下げ後に利益が増加することが意図 されていないことから明らかとなる.さらに, ICAS 〔1988〕では,正味 実現可能価額のみが測定属性であったが,減損会計は将来のキャッシュ・ フローの現在価値との選択で行われることにより,継続使用される資産に 対して,適切な測定属性となる.したがって,当該減損会計は,キャッシ ュ・フローの獲得という目的を有し,回収可能額をより反映することによ り,経済的現実が示されよう.結論として,減損した資産の回収可能性を 貸借対照表上に繰り越されてきた金額に求める減損会計は,経済的現実を 反映し,もって投資意思決定のための有用な情報を提供することから,減 損会計の枠組みに適切なものとなる. しかしながら,減損した資産の剛叉可能性を貸借対照表上に繰り越され てきた金額に求める減損会計は,以下の問題を有している.第1に,損益 計算書の必要性がなくなるおそれがあることである.すなわち,業績は, 単純に持分の期間的変動額の内訳となり,持分変動計算書の中で示される ことによって,利益計算の必要性がなくなることである.第2に,将来の キャッシュ・フローの測定に関し,客観性および信頼性が存在しないとい う問題である.これは,将来のキャッシュ・フローの測定は,主観的およ び数多くの仮定を前提とする測定であることからも明らかである. つづいて,日本における減損会計の意義と問題点を検討する.日本にお ける減損会計の意義は,第1に,経済的事象の認識および測定が拡大した

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ことである.これは,将来のキャッシュ・フローによる認識および測定に より,従来では把握することが不可能であった経済的事象をとらえること が可能となったことである.具体的には,固定資産に対する減損以外の臨 時的な会計処理は,従来,臨時償却および臨時損失が規定されていたが, 将来のキャッシュ・フローの認識および測定によって,これらではとらえ られない経済的事象の財務諸表上への反映が可能となった.第2に,バブ ル経済の崩壊による土地を中心とした不動産価格の下落を適切に財務諸表 上へ示し,経済的現実を反映させることが可能になったことである.した がって,日本における減損会計の意義は,将来のキャッシュ・フローを重 視する資産測定により, 「見積による損失の早期計上伽藤〔2006〕 p.110)」 が可能となったことに求められる. 日本における減損会計は,歴史的原価評価モデルに基づいており,アメ リカにおける減損会計モデルと同様である.しかしながら,減損した資産 の測定属性は,使用価値と正味売却価額のいずれか高いほうである回収可 能価額で測定される(企業会計審議会〔2002〕 p.183).よって,日本の減 損会計は,資産の測定について,将来のキャッシュ・フローの視点が採用 されている. 日本における減損会計の基本的思考は,投資期間全体の回収可能性に着 目して,減損が行われるべきかどうかを判断することになる(企業会計審 議会〔2002〕 pp.181-182).これは,減損会計が採算のとれない投資を行 ってしまったことが事後的に判明し,投資が全体として,失敗であったと 判明した場合における資産の帳簿価額の切下げであることによる(米山 〔2001a〕 p.95)16.すなわち,減損とは,事後的に判明した投資の失敗に関 して,投資時点に遡り,改めて投資回収計算をやり直すための帳簿価額の 評価切下げであるといえる17.その意味で,投資開始時に遡って,そこか ら投下資本の回収計算である損益計算をやり直す,すなわち適正な期間損 益計算のやり直しに値するような帳簿価額の評価切下げ額を算定しなけれ

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ばならない.その場合,採用されるべき測定属性は,もしも減損が投下資 本の回収計算である損益計算のやり直しを意味するものであるならば,投 資開始時点の人口価値である取替原価で測定されるべきであろう18.事後 的に判明した投資額の適正化をもって投下資本の回収計算ないし損益計算 をやり直すためには,投資時点ですでに行っている投資額と事後的に判明 した投資時点で適正であった投資額である取替原価を比較すべきである. その取替原価を新たな帳簿価額とし,減損を把握した期以後の投下資本の 回収計算ないしは損益計算の適正化を図るべきである.その意味で,投資 額とこの取替原価の差額である減損による損失は,機会損失19としての性 質を有する.当該減損会計は,帳簿価額の回収可能性というストックの観 点から導き出されておらず,減損を契機として,投下資本の回収計算ない しは損益計算の適正化を行うというフローの観点から導き出されている. したがって,日本における減損会計は,回収可能額という観点から思考さ れていないため,回収可能額は用いられるべきではない. ここに,日本における減損会計の問題が存在する.日本における減損会 計の問題点は,第1に,あくまでも減損会計は,損益計算のやり直し,な いしは損益計算の適正化を行うという費用配分(フロー)の観点(米山 〔2000〕 pp.90-91米山〔2001b〕 p.66 辻山〔2001〕 p.38;石川〔2001〕 P.7 川村〔2001〕 p.143)により,減損した資産が,人口価値である取替 原価で測定されるべきであるのに,出口価値である回収可能価額で測定さ れているという理論的な矛盾が存在することである.第2に,減損会計の 基本的思考は,投資期間全体の投資額の回収可能性に着目しているが,実 際には,ある時点での帳簿価額と回収可能価額が比較されており,投資期 間全体の投資額の回収可酸性に着目していない.つまり,これは,減損会 計の基本的思考とその実際の規定に矛盾が生じていることを意味してい る.当該減損会計は,費用配分の一環にキャッシュ・フローの視点による 回収可能価額が組み込まれており,非理論的な枠組みであると考えられる.

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つまり,日本における減損会計は,その思考が,固定資産の会計に関す るフレーム・ワークとして,取得原価に固執し,費用配分というフローの 観点のみを基盤として成立しており,時価評価モデルが否定(辻山編 〔2003〕 pp.3-4 されているところに問題が存在する20. 以上の検討により,第1に,減損会計は,企業の財務的富を示す時価評 価モデルに基づくものであり,減損した資産の回収可能性を貸借対照表上 に繰り越されてきた金額に求める減損会計が,投資意思決定のための有用 な情報を提供するという観点から,妥当性を有することが明らかとなった. 第2に,減損会計は,経済的実態を反映するため,経済的便益に基づき, 減損した資産をキャッシュ・フロー21により直接的に測定する価値評価の 枠組みを基盤とすべきことが明らかとなった. おわりに 本稿では,まず,減損した資産の回収可能性を原価に求める減損会計か らみた会計構造とその関係を明らかにした.当該会計構造は,歴史的原価 評価を重視し,利益計算における不確実性の程度を少なくするため,客観 性を重視している.そこでは,減損会計の基本的思考である資産の帳簿価 額の回収可能性は,交換あるいは売却のみに向けられ,継続使用には向け られていないことから,企業の経済的現実を反映していないという問題点 が存在した.また,いったん減損が把握されると歴史的原価評価モデルと の整合性を保つために,公正価値まで必要以上に資産の帳簿価額を切下げ ることから,キャッシュ・フロー獲得の視点によっておらず,企業の経済 的現実を欠如させる「ビッグリマス」以外のなにものでもないという問題 が存在していた. つづいて,減損した資産の回収可能性を貸借対照表上に繰り越されてき た金額に求める減損会計からみた会計構造とその関係を明らかにした.当 該会計構造は,まずもって,経済的現実を把握することを目的として,企

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業の財務的富と株式時価総額の関係性が重視されている.その企業の財務 的富を測る尺度は,キャッシュ・フローの獲得の視点による出口価値が採 用されている.また,減損会計の基本的思考である資産の帳簿価額の回収 可能性は,キャッシュ・フローの獲得そのものに向けられていることで整 合性を保つことが明らかとなった.回収可能性が,原価よりも価値を重視 し,過去よりも将来を重視するキャッシュ・フロー獲得の視点に向けられ ることで,企業の財務的富の減少額を把握し,もって,部分的に,株式時 価総額との蔀離を説明することが可能となり,投資意思決定のための有用 な情報を提供する意義も存在する. 日本における減損会計は,その基本的思考に基づくならば,減損した資 産の測定属性としては,投資時点に遡って計算される入口価値である取替 原価が採用されるべきであるのに,キャッシュ・フロー獲得の視点による 回収可能価額が採用されており,非理論的な枠組みにより,成立している ことを明らかにした. 結論として,減損会計は,企業の経済的現実を反映するという観点から, 企業の財務的富を示す時価評価モデルに基づくものであり,減損した資産 の回収可能性を貸借対照表上に繰り越されてきた金額に求める減損会計 が,投資意思決定のための有用な情報を提供するという観点から,その基 礎として適切であること,さらに減損会計は,資産を将来の経済的便益と とらえた上で,減損すべき資産をキャッシュ・フロー獲得の視点により, 測定する価値評価の枠組みが適切であることが明らかとなった. 残された課題として,キャッシュ・フロー獲得の硯点により,資産を測 定する場合,どのように将来のキャッシュ・フローを資産の測定に適用し, どのような利益概念を想定するかという将来のキャッシュ・フローによる 資産測定の理論的枠組みを構築する必要性22がある.第2に,将来のキャ ッシュ・フローの測定は,主観的で数多くの仮定を前提とするからこそ, 事実(fact)と予測(forecast)を区別し,その明確な区別をいかに財務諸

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表上に反映させるべきかという開示システムを構築する必要性がある23. 以 上

1減損会計の基本的思考については, FASB 〔1990〕 para.7, FASB 〔1995〕 para.4, IASB 〔2004〕 para.1, ASB 〔1998〕 para.1および2および企業会計審議 会〔2002〕 p.181-182を参照のこと. 2 減損会計を回収可能概念の視点から分類したものではないが,減損会計基準 を2つのモデルに分類したものとして, JimPaul 〔1997〕,須田〔1998〕,須田 〔1999〕および藤井〔2005〕がある. 3 なお, Mooniz,M 〔1961〕 p.29,佐藤・新井訳〔1962〕 p.65においては,磨 価は, 1つの交換価格であり,それは,効益を獲得するための禁欲または犠牲 ととらえられている. 4 なお,資産評価に対する歴史的原価主義を提唱したPaton,W.AandA. C. Littleton 〔1940〕 P-37,中島訳〔1958〕 pp.61-62は,原価計上額についての基 準は,貸借対照表の両側に妥当するものであるとしている. 5 ICAS 〔1988〕は,イギリスにおける概念フレーム・ワーク設定のための討 議資料として,スコットランド勅許会計士協会(The Institute of Chartered Accountants of Scotland)から公表されたものである.それは,前イギリス会 計基準審議会(Accounting Standards Board : ASB)議長であり,現国際会計 基準審議会(International Accounting Standards Board : IASB)の議長である デビッド・トウイーディー(Tweedie,D)およびその理論的ブレーンとされる ジョージ・ウィッテイントン(Whittington,G)が作成にかかわった.また, トウイ-ディ-がASBの議長時代に,イギリスの減損会計基準が設定されて いる.よって,筆者は,その会計構造を検討するにあたり,当該資料が適切な ものであると判断した. 6 加法性とは,計算書における数値の合計額が,個々の数値から本質的に異な ったものを意味すべきではないこととされている(ICAS 〔1988〕 para.107). 7 現実性とは,実務上可能な限り,実際に生じたことを財務的な条件に基づき 表現することとされている(ICAS 〔1988〕 para.107). 8 ただし,資産の価値とは,ここでは,売却による正味実現可能価額あるいは 正味キャッシュ・フローの現在価値として規定されている.そこで,正味キャ ッシュ・フローの現在価値が除かれた理由は,実務上の実行可能性が乏しいた めである.よって,正味実現可能価額のみが企業の経済的現実を反映するもの ではなく,正味キャッシュ・フローの現在価値もその測定の不確実性がありな

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がらも,経済的現実を反映するものとして考えられていたとみることができよ う.また,イギリスの概念フレーム・ワークにおける資産評価思考である「企 業にとっての価値」 (ASB 〔1999〕 paras.6.3-6.7)のうち,取替原価がICAS 〔1988〕 para.6.25では,完全に否定されている.その理由は,取替原価が,磨 価に基づいた測定となり,富を反映しないことによる.よって, ICAS 〔1988〕 para.6.25では,資産のキャッシュ・フロー獲得の視点から価値評価を行うこと が強調されている. 9 特に物価変動に対応し,固定資産の適正な評価額を検討する視点から,カレ ント・コストで評価すべきとした文献として, Committee on Conceptsand Standards-Long-lived Assets 〔1961〕があげられる. Zucca,L.J 〔1996〕 p.28では,アメリカにおける減損会計は,多様な資産の 評価切下げ実務を制限するために導入されたことが示されている. 11当時の企業の会計担当者は,評価切下げに対して,細かな規則を設定するよ りも,専門家に任せるべきであるといった意識をもち,自由裁量をより助長す る問題点も存在していた(FEI 〔1986〕 pp.102-103).また,当時の各国にお ける会計基準設定主体は,固定資産を将来のキャッシュ・フローにより測定す る基準設定に関しては,消極的であったとされている(Miller,M. C.andM.A. Islam 〔1988〕 para.4.14,太田・ロック訳〔1992〕 pp.100-10虹 このような態 度が,より一層,自由裁量による資産の評価切下げを助長したと考えられる. さらに,アメリカにおける保守主義に関する近年の実証研究は,会計実務が, 保守的であることのみならず,実務は,過去30年の間より保守的になっている ことが明らかにされている(Wa仕s,R.L 〔2003〕 p.208).よって,アメリカの 会計実務は,保守的な会計処理が行われる環境であった. 12 ここに, 「ビッグ・バス」とは,将来期間における利益の増加を行うために, ある年度において,損失の集中化を生じさせることであるとされる.それは, 具体的には,会社の重役の変更後にしばしば生じる.後任の重役は,変更以後 の年度において,より多くの稼得利益(earnings)を獲得するために,変更年 度に,利益を減少させる方針をしばしば採用しているとされる(Breton,Gand H. Stolomy [2005) p.293). 13 アメリカの減損会計において,減損が認識される場合と測定される場合の乗 離を問題点とした文献ではないが,当該轟離に関して,具体例をもって示した

ものに, Ratcliffe, T.Aand P. Munter 〔1998〕 pp.14-15がある.そこでは,資 産の帳簿価額は1,400,000ドルであり,予測された割引前の将来の正味キャッ

シュ・フローは, 1,200,000ドルとして,設定されているため,まず減損が認識 されることが明らかとなっている.また,公正価値は, 625,000ドルとなって おり,減損損失は, 1,400,000ドルから625,000ドルを差し引いた755,000ドルと されている.よって,減損後の資産の帳簿価額は,割引前の将来キャッシュ・

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フローが1,200,000ドルでありながらも,その公正価値625,000ドルで測定され ることとなっている.これは,仮に,いったん減損が認識されたならば,必要 以上に帳簿価額を切下げている問題点として指摘できよう. 14 Upton,W. S,Jr 〔2001〕 p.2では,アメリカにおいても近年,会社の価値(過 常,株式時価総額とされる)と当該会社の会計上の帳簿価額との差額を理解し, 伝達するための最善の方法を問題としている.これは,回収可能性を回収可能 額に求める減損会計へと結びつくであろう. 15 Alexander, M.J 〔1988〕 p.172によれば,市場における時価(本稿では公正価 値としている)と回収可能価値(本稿では回収可能額としている)との相違は, 市場における時価は,経営者が暗に意図する期待ではなく,公的に利用可能な 情報を反映しているが,他方,回収可能価値は,公的には知られていない経営 者の意図を含んだ情報を含んでいることであるとされている.したがって,回 収可能価値を適用した結果として生じる数値は,利用者が企業における資産の 技術力,能力および用いられる利率を理解し,かつ評価するための鍵となると されている.また,回収可能価値を示すことは,会計決定の基礎を利用者に対 して明確に示すという最大の重要性を有するとされる.このように,回収可能 額は,投資意思決定のための有用な情報になろう.また,今福・田中〔2001a〕 pp.123-124,今福・田中〔2001b〕 p.71および今福〔2005〕 p.285は,減損会計 が,企業を取巻く経営のスピード化という環境の変化に応じた経営計画,経営 戦略および投資計画に資することを示している.このような目的を鑑みるなら ば,キャッシュ・フローの獲得の視点により,減損会計が規定されるべきであ ろう. 16 日本における減損会計は,減損を行うべきかどうかの判断に関して,投資期 間全体の回収可能性の観点から要請しており,資産の帳簿価額は,投資額を超 えないものとして想定され,回収すべき金額は,投資額ないしは支出額である 歴史的原価であることを導き出すことができる.この結果,回収可能概念は, 「回収可能原価(recoverable cost)」が採用され,歴史的原価評価モデルの枠組 みを基盤として減損会計が成り立っていることが明らかとなる. 17 斎藤〔2001〕 p.19によれば,減損会計の核心は,事後に判明した投資時の負 ののれんを取得原価から取り除く作業であり,当該負ののれんは,営業努力で 埋め合わせられない損失であり,不可逆的な過剰支出という意味で,事実が判 明した期の利益から取り除かれるとしている. 18 なお,米山〔2001a〕 pp.93-94によれば,このように減損した資産の測定属 性に関して,再調達原価について検討をしている.そこでは,後から考えてみ れば不必要な額を投資してしまったとしても,それを超えるキャッシュ・フロ ーが期待できる限り,投資が失敗であったとはいえないとしており,かつ再調 達原価は,資本財に係る社会平均的な評価を反映したものにすぎず,保有者に

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固有の成否判断に結びつく属性値とは考えられないとし,減損した資産の測定 属性にふさわしくないとしている.しかしながら,斎藤〔2001〕 p.19によれば, 減損会計の核心は,不可逆的な過剰支出であるとされており,そのような過剰 支出を取り除くために減損会計が行われるものとされている.このような見解 によれば,減損した資産の測定属性は,事後的に判明した過剰な支出額を取り 除くために,取替原価が採用されるべきである.また,企業会計審議会〔2002〕 p.181においても,投資の回収可能額を反映させるのではなく,投資の回収可 能性を反映させるために,減損会計が行われるとされており,この回収可能性 の解釈自体では,取替原価が測定属性となるべきであるとも考えることができ よう.また,角ヶ谷〔2002〕 p.92では,すでに検討したように,減損した資産 の回収可能性を歴史的原価にのみ求める減損会計においては,再投資を擬制し ていることに着目し,そのように購入意思決定を強調するのであれば,取替原 価を適用することは,少なくとも理論上可能であるとしている.

19 機会損失は, Edwards, E. 0 andP.W. Bell 〔1954〕 pp.111-114,中西監修 〔1961〕 pp.92-94でいう原価節約と逆の概念である.醍醐〔1996〕 p.8は,棚卸 資産の低価基準における取替原価を時価とした理論として,機会費用説を検討 している.これは,現在当該資産を購入したなら,実際に要した原価よりも安 価に取得できたことを表現することを意味しているとされる.また,取替原価 は,将来の販売価格との関係においてではなく,過去の取得原価との関係にお いて,意味をもつとされている.したがって,これを減損会計にあてはめて考 えるならば,過去の投資ないし支出額との関連性において意味をもつ測定属性 は,取替原価であることが明らかとなる.その意味で,過去の投資ないし支出 額と取替原価との差額は,事後的に,実際に要した投資臣よりも,より低い投 資額が妥当であると判明した場合のその不利性を意味していることが明らかと なる.また,醍醐〔1995〕 p.10は,棚卸資産に閑し,回収可能性を強調するこ とは,低価基準の理論的正当性を危うくしかねず,原価配分原則で,回収可能 性に着目した低価基準を合理化できないことを指摘している.さらに,減損は, 原価配分原理とは異なるものを示したものとして,篠原〔2002〕 p.102がある. そこにおいても,資産の回収可能性に着目することにより,原価配分原理と異 なることを明らかにしている. 20 企業会計審議会〔2002〕 p.181では,固定資産の減損は,投資額の回収可能 性を反映するために帳簿価額を減額する会計処理であるとしており,投資に関 する回収可能額を示すこととされていない.つまり,費用配分の一環として減 損会計を規定することは,当該減損会計に将来のキャッシュ・フロー獲得の視 点を組込むことができないというあらわれであると考えることができよう.そ のために,企業会計審議会〔2002〕 p.181は,減損の定義として,回収可能額 を反映することではなく,回収可能性を反映させるという表現を採用している

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とみることができる. 21ここでのキャッシュ・フローとは,継続使用により獲得可能なキャッシュ・ フローのみならず,売却によって獲得可能なキャッシュ・フローも含むものと する・なお,これは,井尻〔1998〕 p.191でいうところの来価であり,このよ うな未来の価格による評価方法が,将来ますます盛んになる可能性があるとし ている. 22 醍醐〔2000〕 p.12によれば,資産の帳簿価額の回収可能性を測定する属性と して,使用価値が会計理論的に正当化できるかどうかは,当該測定属性を用い た結果としての自己創設のれんが混入する事実を合理的に説明しうるかどうか に依存するとしている.

Glover, J. C, Ijiri, Y, Levine, C. B and P. J. Liang 〔2005〕は,予測と事実を区 別して,記録および計算を行うシステムについて検討している. 参考文献 石川純治〔2001〕 「減損会計と利益計算の構造」 『企業会計』 53 (ll) : 4-14. 井屍雄士〔1968〕 『会計測定の基礎一数学的・経済的・行動学的探求-』東洋経 済新報社. 井尻雄士〔1998〕 「第9章21世紀の評価論とその周辺の展望」中野勲・山地秀 俊編著『21世紀の会計評価論』勤草書房: 183-200. 今福愛志・田中建二〔2001a〕 「『資産と負債の会計学』の考え方と捉え方」 『企 業会計』 53 (4) : 121-128. 今福愛志・田中建二〔2001b〕 「減損会計再考一配分思考から減損思考へ」 『企業 会計』 53 (5) :71-77. 今福愛志〔2005〕 「企業統治の会計学(5)一企業統治としての減損会計-」 『会 計』 168 (2) : 279-288. 梅原秀継〔2001〕 『減損会計と公正価値会計』中央経済社. 加藤盛弘〔2006〕 『負債拡大の現代会計』森山書店. 企業会計審議会〔2002〕 「固定資産の減損に係る会計基準」中央経済社編『会計 法規集≪最新増補第24版》 』中央経済社二180-194. 古賀智敏〔2000a〕 『価値創造の会計学』税務経理協会. 古賀智敏〔2000b〕 「現代会計理論の潮流(その2)一経済基盤の変化と時価会計 の進展」 『企業会計』 52 (ll) : 84-85. 川村義則〔2001〕 「減損会計の特徴と主要問題に関する考察」 『早稲田商学』 391 : 141-161. 斎藤静樹〔2001〕 「会計上の評価と事業用資産の減損」 『会計』 159 (4) : 13-27. 篠原繁〔2002〕 「固定資産の償却と減損」 『会計』 162 (5) : 90-102.

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