経済産業省 「燃料電池システム等実証研究費補助事業」
平成18年度
欧米における燃料電池自動車の政策動向、
技術動向調査報告書
平成19年3月
財団法人 日本自動車研究所
は
じ め に
今日、地球環境の保全は人類共通の課題である。2005 年のグレンイーグルズサミットでは、「地 球温暖化は深刻かつ長期的な課題であり、その抑制のための行動が必要」との認識が G8 首脳か ら示された。また2007 年 2 月には IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第一作業部会が第 4 次評価報告書を公表し、地球温暖化が確実に進行しており、その原因は人類の活動に起因して いる可能性が極めて高いと結論している。京都議定書が定める第一約束期間(2008 年∼2012 年) の開始も直前となり、国際的にも温室効果ガス削減に向けた動きが加速されよう。 しかしわが国の2005 年における温室効果ガス排出量は、基準年よりも 8.1%増加している(速 報値)。吸収源対策や京都メカニズムを活用したとしても、8.7%分の排出量削減が必要とされて おり、短期的には、一層の省エネルギーの推進と新エネルギーの利用促進が急務となっている。 その一方で、中・長期的な室効果ガス排出量の削減目標についての議論も始まっている。気候 変動枠組条約締約国会議 / 京都議定書締約国会合(COP/MOP)では、2009 年を目標にポスト京 都の枠組みを決定する予定である。また欧州連合からは、2020 年までに温室効果ガス排出量を 1990 年比で 20%削減するとの自主目標も示されている。 このような動きの中で、高効率なエネルギー技術が果たす役割は非常に大きいと言える。特に 燃料電池自動車(Fuel Cell Vehicle:FCV)は、高いエネルギー効率と潜在的な温室効果ガス排 出量削減の可能性から、その実現と普及に大きな期待がかけられている。 すでに、FCV の普及に向けた動きが世界で進んでいる。米国では、エネルギー省主導で 100 台規模のFCV デモンストレーションが実施されている。欧州では、燃料電池バスや水素内燃機関 バスの実証試験「HyFleet:CUTE」が実施されており、同様のプログラムが中国、オーストラリ アでも進められている。わが国においては、経済産業省の「固体高分子形燃料電池システム等実 証研究」補助事業として「燃料電池自動車実証研究」及び「燃料電池自動車用水素供給設備実証 研究」(水素・燃料電池実証プロジェクト:JHFC-1 プロジェクト)が 2002 年度から開始された。 2006 年度からは後継の「JHFC-2 プロジェクト」が実施されている。研究開発面でも、高性能で 耐久性のある燃料電池の研究開発が国内外で進められており、着実な成果が挙げられている。 FCV の開発・普及のためには、個々の要素技術について開発を推進すると同時に、燃料電池(自 動車)の開発動向やそのインフラ整備状況を広く把握することが必要である。このような目的に おいて、財団法人 日本自動車研究所では、経済産業省主導のもと、欧米における燃料電池自動車 の技術開発動向や開発推進政策の調査を実施した。具体的には、欧米の主な燃料電池メーカー、 自動車会社、燃料電池関連メーカー、燃料供給会社、大学、政府機関等を訪問するとともに、Fuel Cell Seminar 2006(ホノルル)にも出席して、燃料電池(自動車)の開発動向と施策について調 査を行った。本書はその調査結果を取りまとめたものである。 本報告書が、わが国の燃料電池自動車の開発・普及のー助になれば幸いである。 平成19 年 3 月 財団法人 日本自動車研究所目 次
1 Volkswagen(VW) ... 7
2 Linde Gas (The Linde Group)... 17
3 BMW... 26 4 欧州委員会(European Commission) ... 34 [コラム 1] ドイツ水素・燃料電池技術革新プログラム ... 51 5 日本・イタリア水素ワークショップ(JIM H2)... 54 6 米国エネルギー省(DOE)... 68 [コラム 2] 将来自動車のロードマップ ... 89
7 Case Western Reserve University (CWRU) ... 92
8 Brookhaven National Laboratory (BNL)... 100
9 California Air Resources Board(CARB) ...114
10 サンタモニカ水素ステーション(Air Products)... 128
11 Fuel Cell Seminar 2006 ... 132
調査の日程
日付 調査先・移動 宿泊地 11月5日(日) 移動: 東京/成田→パリ→ハノーバー ハノーバー 11月6日(月) 移動: ハノーバー→ヴォルフスブルク ① Volkswagen(VW) 移動: ヴォルフスブルク→ハノーバー 移動: ハノーバー→ミュンヘン ② Linde Gas (The Linde Group) ③ BMW ミュンヘン 11月7日(火) 移動: ミュンヘン→ブリュッセル ④ 欧州委員会(European Commission) 移動: ブリュッセル→ローマ ローマ 11月8日(水) ⑤ 日本・イタリア水素ワークショップ(JIM H2) 移動: ローマ→ロンドン→ニューヨーク ニューヨーク 11月9日(木) 移動: ニューヨーク→ワシントン DC ⑥ 米国エネルギー省(DOE) ワシントンDC 11月10日(金) 移動: ワシントン DC→クリーブランド⑦ Case Western Reserve University(CWRU) クリーブランド 11月11日(土) 移動: クリーブランド→シカゴ
打ち合わせ・資料整理 シカゴ
11月12日(日) 移動: シカゴ→ニューヨーク ニューヨーク
11月13日(月) ⑧ Brookhaven National Laboratory(BNL) 移動: ニューヨーク→サンフランシスコ→サクラメント サクラメント
11月14日(火) ⑨ CARB 移動: サクラメント→ロサンゼルス ⑩ サンタモニカ水素ステーション(Air Products) 移動: ロサンゼルス→ホノルル ホノルル
11月15日(水) ⑪ Fuel Cell Seminar 2006 ホノルル
11月16日(木) ⑪ Fuel Cell Seminar 2006 ホノルル
11月17日(金) ⑪ Fuel Cell Seminar 2006 ホノルル
11月18日(土) 移動: ホノルル→ 機内
訪問調査先の概要
訪問先 訪問先の概要と調査項目
世界第 4 位の自動車メーカー。CaFCP(カリフォルニア)や Clean Energy Partnership(ベルリン)に参加。 Volkswagen 【調査項目】 • 燃料電池自動車開発の現状 • 欧州連合の研究プロジェクトへの参画の現状 欧州の代表的工業用ガスメーカー。各種FCV プロジェクトに水素を供給。 ミュンヘンに水素研究センターを新設。 Linde Gas (Hydrogen Center) 【調査項目】 • 水素インフラ整備の考え方 • ミュンヘン空港水素ステーションプロジェクトの現状 世界第 14 位の自動車メーカー。水素内燃機関自動車を開発中。ベルリン Clean Energy Partnership(CEP)に参加。
BMW 【調査項目】 • 水素内燃機関自動車の開発の現状 • デモンストレーションプロジェクトへ参画の現状 第6 次フレームワークプログラムで HyFleet:CUTE、Zero-Regio などのフリートプ ロジェクトなどを実施。現在第7 次フレームワークプログラムを 2006 年末から実施。 欧州委員会 (European Commission) 【調査項目】 • 第7 次フレームワーク・プログラム(FP7)の方針 • 水素・燃料電池技術プラットフォームの現状 • 欧州連合の燃料電池関連のデモンストレーションの現状 イタリア政府関係者が主催するワークショップ。 日伊ワークショップ (JIMH2) 【調査項目】 • 水素・燃料電池に関する情報交換 • イタリアの燃料電池デモンストレーションの現状
ブッシュ政権の水素燃料イニシアティブを受け、FreedomCAR & Hydrogen Fuel イニシアティブを実施し、FCV の開発を支援している。 米国エネルギー省 (DOE) 【調査項目】 • FreedomCAR & Fuel プログラムの現状と今後の見通し • 水素製造に関するプログラムとコストの見通し • DOE の FCV フリートプログラムの現状 高耐久性のPEMFC 用膜を開発中。 Case Western
Reserve University 【調査項目】 • PEMFC 用膜の開発の現状
低白金担持量を実現できる新規の電極触媒を開発中。 Brookhaven National Laboratory 【調査項目】 • 電極触媒開発の現状 カリフォルニア州で大気質関連の規制を実施。ZEV 規制を作成し、現在 ZEV 規制に おける電動車両クレジットを検討中。CaFCP を実施中。 CARB 【調査項目】 • ZEV 規制の現状、FCV へのクレジットの考え方 • CaFCP の現状 • カリフォルニア州のデモンストレーションの現状 カリフォルニア州南海岸大気保全管理区(SCAQMD)の資金によって設置され た水素ステーション。システムの設置はAir Products が担当。 サンタモニカ水素ス テーション 【調査項目】 • 施設の見学 毎年開催されている、燃料電池分野の大規模シンポジウム・展示会。 Fuel Cell Seminar
調査参加者
氏名 所属 石谷 久 [団長] 慶応義塾大学 大学院 政策・メディア研究科 教授 佐野 雅昭 トヨタ自動車株式会社 FC 開発本部 FC 生技部 企画グループ 関澤 好史 トヨタ自動車株式会社 FC 開発部 亀ヶ谷 茂 日産自動車株式会社 総合研究所 燃料電池研究所 宮窪 博史 日産自動車株式会社 総合研究所 燃料電池研究所 勝 雅彦 日産自動車株式会社 パワートレイン生産技術本部 パワートレイン技術 開発試作部 大丸 明正 株式会社 本田技術研究所 四輪開発センター 第一技術開発室 村上 茂泰 ダイムラー・クライスラー日本株式会社 技術コンプライアンス部 コンセプト製品課 阿部 昭彦 田中貴金属工業株式会社 技術・開発部門 新商品推進部 久保山 孝治 エンジニアリング振興協会 水素プロジェクト室 丸田 昭輝 株式会社テクノバ 調査・開発研究部 丹下 昭二 財団法人 日本自動車研究所 FC・EV センター Volkswagen にて撮影(11 月 6 日)本報告書の表記 本報告書では以下の略語を使用する。
APU = Auxiliary Power Unit(補助電源装置)
DMFC = Direct Methanol Fuel Cell(ダイレクトメタノール形燃料電池) FCV = Fuel Cell Vehicle(燃料電池自動車)
GDL = Gas Diffusion Layer(ガス拡散層) ICE = Internal Combustion Engine(内燃機関)
MEA = Membrane Electrode Assemblies(膜電極接合体) PEFC = Polymer Electrolyte Fuel Cell(固体高分子形燃料電池)
PEMFC = Proton Exchange Membrane Fuel Cell(固体高分子形燃料電池) SOFC = Solid Oxide Fuel Cell(固体酸化物燃料電池)
図表の出所
第1 章(Volkswagen)~第 10 章(サンタモニカ水素ステーション)に関しては、特に断りがな い限り、訪問調査時でのプレゼンテーション資料や現地で撮影した写真を用いた(プレゼン テーション資料は、翻訳・サイズを修正している場合がある)。それ以外の場合は、出所を明 記した。
第11 章(Fuel Cell Seminar 2007)に関しては、論文集(CD-ROM)、およびシンポジウム のホームページ( www.fuelcellseminar.com/2006_presentations.asp )に掲載されて いるプレゼンテーションを使用した。
換算レート
本報告書の換算レートは次のとおりである。 1米ドル = 115 円 1ユーロ = 150 円
1 Volkswagen(VW)
訪問先 Volkswagen(VW)
住所:Konzernforschung, K-GEFAB Brennstoffzelle, Am Krainhop 5, 38550 Isenbüttel, Germany
訪問日時 2006 年 11 月 6 日(月)9:00∼11:30 対応者 Frank Seyfried, Dr.-Ing.
Manager, Group Research Powertrain, Fuels and Lubricants Jörg Huslage, Dipl.-Chem.
Group Research Powertrain, Fuel Cells Gerold Hübner, Dr.
Research and Development, Fuel Cell Development
組織の概要 世界第 4 位の自動車メーカー。CaFCP(カリフォルニア)や Clean Energy Partnership(ベルリン)に参加。 調査項目 • 燃料電池自動車開発の現状 • 欧州連合の研究プロジェクトへの参画の現状 (1) Volkswagen の概要 • Volkswagen(VW)は世界第 4 位の自動車メーカーで、2005 年の自動車販売台数 は521 万台である1。 - VW の本社はハノーバー郊外のヴォルフスブルク(Wolfsburg)。 - 2005 年度の売上は 952 億ユーロ、従業員数は 34 万 5000 人2。 - ヴォルフスブルクにはグループ全体の研究所 であるグループ・リサーチ (Group Research)があり、低エネルギー・低公害自動車などの研究開発を 行っている。 • ヴォルフスブルク郊外のイーゼンビィッテル(Isenbüttel)に新しい研究所 「Volkswagen Technology Center Isenbüttel」を 2001 年に設立した。 - 総敷地面積 38,000 m2、建物敷地面積2,800 m2。 - Isenbüttel 研究所では約 40 人が燃料電池開発に携わっている(基礎研究が中 心)。燃料電池のみに特化しており、電気自動車(バッテリEV)や電池の開 発は行っていない。 1 VW グループ全体(Volkswagen、Skoda、Bentley、Bugatti、Audi、SEAT、Lamborghini)
の合計。OICA「World motor vehicle production by manufacturer」 < http://www.oica.net/htdocs/Main.htm >参照。
(2) VW の開発戦略政策 • VW では、将来の自動車用エネルギーは再生可能エネルギーが主流となり、ま た自動車ドライブトレインは電動機(モータ)が主流になると考えている(図 1-1)。 図 1-1.VW の燃料・パワートレインの戦略 • VW では自動車の「電動化」は、大気質の改善、電力需要の開拓、燃料消費の 削減のために重要であると考えている(図 1-2)。 - 電動化の進捗は、主要コンポネントである電池の開発状況に依存する。電池の 出力密度向上、重量削減、長寿命化、サイクル特性の向上が大きな課題である。 - 「Range Extender」は、小型発電機を有するハイブリッドである。都市内は 電池で走行し、郊外では発電機にて発電し走行する。電池容量は10 kWh 程度 を車載すれば十分であろう。 図 1-2.VW の「電動化」ストラテジー 注: CCS=Combined Combustion System TDI=Turbo Direct Injection TSI=Torque Strong Twincharger
(3) Touran HyMOTION
• 「Touran HyMOTION」は 2000 年に発表された FCV である(図 1-3)。 - HyMOTION は、燃料電池スタックと電動モータをフロント部分に設置してお
り、通常の自動車と同じレイアウトになっている。
- HyMOTION の第一世代では、燃料電池に Ballard Power Systems 製スタッ クを使用したが、今後開発する第二世代では自社製スタックを使用する。 - 水素貯蔵システムでは、液体水素バージョンと高圧水素バージョンがある。 • これまでに VW が第 1 世代 HyMOTION で参画した FCV のデモンストレーショ
ンプロジェクトを図 1-4 に示す。
- すでに、ベルリンの Clean Energy Partnership(CEP)に 1 台、カリフォル ニアのCalifornia Fuel Cell Partnership(CaFCP)に 1 台、また社内利用に 1 台を導入している。 - CEP には今後 2 年間で 2∼3 台を提供する予定。なお CEP は、技術開発のた めの技術評価が目的であり、デモンストレーションではないため、台数を多く 出すことが重要ではない。 図 1-3.HyMOTION 図 1-4.第 1 世代燃料電池自動車のデモンストレーションプロジェクト 燃料電池 モータ NiMH 電池 水素タンク ・燃料電池: Ballard 製(85 kW) ・電池: 高出力 NiMH ・モータ出力: 80 kW ・車載水素量: 2.6 kg(350 bar) CEP に導入 (2006) CaFCP ロードラリー4 (2005) CaFCP に導入 (2000) CaFCP ロードラリー3 (2004) チャレンジ・ ビバンダム 参加(2004)
(4) 高温膜の開発 ① 高温膜の開発コンセプト • 作動温度が高い内燃機関エンジンと異なり、作動温度が低い(80℃)現状の PEMFC は、廃熱処理をラジエータによる冷却に大きく依存している(49%)。 そのため、ラジエータの放熱能力の制限を受けやすい(図 1-5)。 図 1-5.PEMFC と内燃機関エンジンのヒートロス • 現状の PEMFC を搭載した FCV では、ラジエータの放熱能力の制限から、平 地の最高速度は136 km/時に、登坂(6%勾配)時の最高速度は 49 km/時に制 限されてしまう(図 1-6)。 図 1-6.第一世代燃料電池(低温 PEMFC)の熱的シミュレーション ヒートロス 燃料電池 内燃機関 エンジン クーリング 排出熱 (シミュレーション)
• ラジエータとの熱バランス的には、 燃料電池の最適作動温度は 120℃で ある。作動温度 120℃の燃料電池の 開発には、以下のコンセプトが考え られる(図 1-7)。 i) Nafion 系 PEMFC の 高温化 ii) より高温な燃料電池(例.PBI/ リン酸)の 低温化 iii) 新規のコンセプト(加湿不要) 図 1-7.120℃燃料電池の開発コンセプト • 過去に VW では、PEMEAS3と共同で高温 PEMFC 用の膜を開発してきたが、 現在は独自技術で作動温度120℃用の高温膜(HT-VW)を開発している。 - PEMEAS の高温膜は、まだ開発途上の技術と判断している。特にリン酸の溶 出が問題である。 - HT-VW は、電解質にはリン酸を、膜自体には PBI 系材料を用いている。イオ ノマーはリン酸ベースであるが、詳細は機密である。また触媒も機密である。 - HT-VW は作動温度が 120℃であり、ラジエータの冷却能力の制限を受けにく い。熱的シミュレーションによると、最高速度は平地で193 km/h、登坂(6% 勾配)でも100 km/h まで可能である(図 1-8)。 図 1-8.第二世代燃料電池(高温 PEMFC)の熱的シミュレーション 3 PEMEAS は、旧 Hoechst(Celanese)の流れを汲む高温メンブレンの研究開発会社。PBI(Poly-
benzimidazole)技術に強みがある。2006 年 12 月に BASF Future Business GmbH に買収された。
i) Nafion 系 PEMFC の 高温化 iii) 新規のコンセプト (加湿不要なプロトン伝導体) ii) 高温燃料電池 (PBI/H3PO4)の 低温化 (乾燥ガス) (加湿ガス) メンブレンの改良熱的に最適化した Nafion への水分子保持 メンブレンの改良、 新規の電解質・ 電極材・GDL
② 高温膜の性能 • HT-VW の基本的性能: - HT-VW は、現状ではまだ低温膜よりも性能が劣るが、将来的には低温膜より も高い性能を達成する可能性がある(図 1-9)。 図 1-9.HT-VW と既存の低温膜の性能比較(コンセプト) • HT-VW の出力密度: - HT-VW の出力密度は、他社の高温膜4のレベル(0.5 W/cm2)を超えており、 既存の低温膜に近いレベルにまで達している(図 1-10)。 - 最新のデータでは、0.9 W/cm2を達成している。 図 1-10.HT-VW の出力密度 (条件:0.6 [email protected] A/cm2、3 気圧、160℃、10 cm2) 4 「他社の高温膜」についての言及は避けたが、おそらく PEMEAS 製の高温膜を指すと思われる。
• HT-VW の耐久性: - HT-VW の耐久性テストを実施中である(図 1-11)。性能低下度は 1000 時間 で6%以下のレベルに収まっている(実際のテスト時間は 600 時間)。寿命と しては5000 時間を目指している。 - 性能低下の原因はリン酸の溶出であるが、基礎的な研究によって対応している。 - 現在、MEA でサイクルテストを実施し、最適化を図っている。 図 1-11.HT-VW の耐久性テスト • HT-VW の CO 耐性・SOx 耐性: - HT-VW は、CO 濃度 1000 ppm でも性能劣化度(出力低下度)は 6%に止ま っている(図 1-12)。 - HT-VW は、SOx 耐性も高いと考えている。ただし CO 被毒による性能劣化は 水素を流すことで回復するが、SOx 被毒による性能劣化は容易には回復しな いと考えられる。このSOx 耐性については 2007 年度に研究を行う。 図 1-12.HT-VW の CO 耐性評価
③ HT-VW の優位点と課題 • HT-VW には、以下のような優位点がある: - HT-VW は高い CO 耐性を有しており、サイクル寿命や出力密度でも高い性能 が期待される。 - HT-VW を使用することで、燃料電池システム全体をシンプル化することがで きる(加湿装置や水マネジメント装置が不要、冷却装置の小型化が可能、不純 物耐性が向上)。 - 最新のデータでは、出力密度で 0.9 W/cm2を達成している(条件:0.6 [email protected] A/cm2、3 気圧、160℃、10 cm2)。 • HT-VW は PEMFC における技術的なブレークスルーであると考えるが、まだ 克服すべき課題があり、商品化は数年先である。 - 材料レベルでは、触媒と電極の開発が課題となっている。 - スタックレベルでは、低温始動性の確保が課題である。低温始動性では、−20℃ からの始動性を確保したい。低温ではリン酸のプロトン導電率は大幅に低下す るが、開発上の大きな問題にはならないと考えている。 • この高温膜開発は、VW の独自のプロジェクトで、欧州が第 6 次フレームワーク プログラムで実施しているAuto-Brane5とは関係はない。 (5) 「水素経済」達成のための課題 • 燃料電池における課題は以下のとおりである。 - スタックレベルでの出力の確認 - 低温始動性の確保 - 白金担持量の低減 - コストの低減 - 体積・重量の低減 • 水素経済の達成のための課題は以下のとおりである。 - 再生可能エネルギーからの水素製造 - 水素インフラの整備 - 水素貯蔵システムの開発 5 P. 41 参照。
• VW では、Isenbüttel 研究所にソーラーエネルギーによる水素供給実験設備を 開発し、デモンストレーションを実施している(図 1-13)。 図 1-13.ソーラーエネルギーによる水素供給実験設備 (6) ディスカッション • FCV 開発の理由: - VW では、長期的視野から FCV の開発を行っている。よって現状では研究開 発に注力し、デモンストレーションを積極展開する予定はない。 - 開発の初期段階から、高温膜に注力することにした。 - 水素貯蔵システムの開発は行っていない。世の中の動向をウォッチしている。 現状では、350 気圧システムも 700 気圧システムも、自動車用としては高コス トなのが問題である。 - VW の経営陣は、燃料電池が時間のかかる技術であることを理解しており、研 究開発を長期的な視点から支援している。ただし、研究予算は毎年ごとに承認 されており、デモンストレーション活動を拡大する予定はない。 • カリフォルニア ZEV 法への対応: - 現在米国でも小規模のデモンストレーションを実施しているが、あくまでも自 発的なものである。今後(2009∼2011 年)も、米国におけるデモンストレー ション台数が20 台を超えることはない。 - FCV はまだ高コストであるため、現状で大量に生産するのは割に合わない。 - VW のカリフォルニア州での販売台数は、ZEV 導入規制が課せられる 6 万台/ 年に届くかどうかの台数。もし、仮に ZEV 法に対応しなければならないとし たら、それは非常に問題である。しかしその場合でも、2014 年以前に FCV を カリフォルニアに導入する予定はない。
• 欧州委員会関連のプログラムへの参画: - VW は、現状では欧州委員会による補助金プログラムには積極的には参画して いない。欧州委員会は、FC 技術を十分に理解してプログラムを行っていると は思えない。なおVW は Auto-Brane プログラムに参画しているが、基本的に これは DaimlerChrysler が主導しているプログラムであり、VW の HT-VW 開発とは関係ない。 - 日本・米国と比較して、欧州の補助金・研究助成金プログラムはアトラクティ ブではない。これは、DaimlerChrysler が日米ではデモンストレーションを拡 大しているのに対し、欧州でのデモンストレーションに積極的ではないことか らも理解できよう。 • 日本の JHFC プロジェクトへの参画の可能性: - JHFC プロジェクトへの参画も検討したが、VW はデモンストレーションより も研究開発に注力しているので、現状では参画の可能性は低い。また、参画す るにはメンテナンス体制もつくる必要があり、現状では現実的ではない。 • 欧州の燃料政策: - SunFuel(VW が開発したバイオ燃料)6には期待している。 - バイオマス合成ディーゼル(Biomass-to-Liquid:BTL)とバイオマス合成水 素(Biomass-to-Hydrogen:BTH)は、基本的に同じインフラが利用できる。 よってバイオマス燃料から水素燃料への移行は可能であると考える。 - バイオマス合成水素の製造コストは 70∼90 ユーロセント/リットル(=105∼ 135 円/リットル)である。これは現状の税込みガソリン価格とほぼ同じレベ ルである。 - 欧州では、バイオ燃料を 20∼30%まで普及させる目標がある。多くの調査が、 欧州では 30%までバイオ燃料を導入できる可能性はあると結論している。た だし、現実的には非常に困難である。 (7) ラボツアー(見学) • 以下のものを見学した。 - 高温膜用セル:作成段階(リン酸を滴下中、サイズ:10 cm2×10 cm2)。 - 5 kW スタック(試作品、触媒インクにはスクリーン印刷を適用していると思 われる)。 6 Volkswagen が開発した、バイオマスをガス化し、FT 合成して製造されるバイオディーゼル (Biomass-o-Liquid)。
2
Linde Gas (The Linde Group)
訪問先 Linde Gas (The Linde Group)
住所:Linde Hydrogen Center, Carl-von-Linde-Str.25, 85716 Unterschleissheim, Germany
訪問日時 2006 年 11 月 6 日(月)17:00∼18:00 対応者 Alexander Stubinitzky
Project Engineer, Hydrogen Solutions, Linde Gas Div. Jaco Reijerkerk
Hydrogen Solutions
International Program Manager Energy and Fuels
組織の概要 欧州の代表的工業用ガスメーカー。各種 FCV プロジェクトに水素を供給。 ミュンヘンに水素研究センターを新設。
調査項目 • 水素インフラ整備の考え方
• ミュンヘン空港水素ステーションプロジェクトの現状
(1) The Linde Group と Linde Gas の概要
• The Linde Group は、世界最大の工業用ガス会社である7。
- 2006 年 9 月に、約 120 億ユーロ(約 1 兆 8000 億円)を投じて英国の工業用 ガス会社BOC を買収した。これにより Linde は、Air Liquide(フランス)を 抜いて世界最大の工業用ガス会社となった8。
- この買収を機に、社名を「Linde」から「The Linde Group」に改めた9。 • The Linde Group 傘下には、以下のビジネスユニットがある。
- Linde Gas は、ドイツを始め、世界 50 カ国に工業用ガスを供給している。 - Linde Engineering は、ガス製造用プラントや関連装置・機器の開発・販売を 行っている。 - BOC Gases は、英国を中心に工業用ガスを供給している。 - BOC Edwards は、半導体産業向けにガスや材料、真空ポンプなどの機器を提 供している。 - Gist は、様々な産業の物流の設計・運営サービスの提供を行っている。 - Afrox は、南アフリカを中心に工業用ガスを供給している。
7 Linde は、1879 年に Carl von Linde が冷蔵庫の製造販売のために設立した会社。1891 年以降、各
種気体の純化のために冷却技術を研究し、今日のLinde の基礎となった。
8 Linde による BOC 買収前の市場シェアは、Air Liquide 20%、Praxair 13%、BOC Gases 12%、
Linde 11%、Air Products 10%であった。Linde と BOC の合併によって、市場シェアは 23%にな った(シェアはLinde の資料による)。
9 < http://www.linde.com/international/web/linde/like35lindecom.nsf/0/F3045552E8915AD8C12571E100224A1D >
(2) Linde 水素ステーション(Hydrogen Center)
• Linde では、研究目的の水素ステーション(Hydrogen Center)をミュンヘン 郊外の工場内に2006 年 10 月 9 日にオープンした(図 2-1)。 - この水素ステーションは充填・インフラ技術の評価やトレーニングが目的であ り、一般開放はしていない。ただし、周辺で水素自動車(FCV、水素内燃機関 自動車)を所有している企業には、契約を締結した上で水素を提供している。 - パイプラインを通じて、同じ地区にあるLinde の研究施設にも水素を供給して おり、実験用ながらインフラの評価(例.ボイルオフガスなどの評価)が可能 である。 図 2-1.水素ステーション概観 • 設置されている液体水素タンクは、容量 17,600 リットルである(図 2-2)。 - 液体水素タンクの水素は、ブースターにて高圧水素ガス(45 MPa)にし、高 圧充填用に高圧タンクで貯蔵も行っている。貯蔵圧力が 45 MPa なので、35 MPa の急速充填にも対応も可能である。 図 2-2.液体水素タンク
• 液体水素ディスペンサ: - 液体水素ディスペンサは、従来型装置と新型装置の両方が設置されている(図 2-3)。 - 昇圧のためにブースターピストンを使用している。液体水素の充填速度は 50 リットル/分で、ガソリンの給油時間程度の時間で充填が可能。 図 2-3.液体水素充填装置 • 圧縮水素ディスペンサ: - 圧縮水素ディスペンサは 35 MPa 用で、70 MPa にはまだ対応していない(図 2-4)。 - イオニックコンプレッサ10はまだ開発中で、導入はしていない。 図 2-4.圧縮水素充填装置
10 Ionic Compressor:Linde が DaimlerChrysler とともに開発した高圧水素用コンプレッサー。従来
のピストン型コンプレッサーのピストン部分をイオン性液体(ionic liquid)で代替したもの。イオ ン性液体は不揮発性であるため、コンタミネーションやシリンダの磨耗がないとされる(詳細は不 明)。「Linde Technology」< http://www.linde.com/international/web/linde/like35lindecom.nsf/ repositorybyalias/pdf_lindetechnology_1_2006/$file/Linde_Technology_1_2006_EN.pdf> 参照。
新型充填装置 従来型充填装置
(3) H2 argemuc プロジェクト(ミュンヘン空港水素ステーション) ① H2 argemuc の概要 • H2 argemuc プロジェクトはミュンヘン空港を中心とする水素充填ステーショ ンのデモンストレーションプロジェクトである。プロジェクトの概要を表 2-1、 図 2-5 に示す。 - このプロジェクトは、バイエルン州政府と地元企業との共同イニシアティブに よってはじめられた。プロジェクトパートナーを表 2-2 に示す。 - 水素ステーションは 1999 年に設置されたもので、世界で最初の水素ステーシ ョンである。 表 2-1.H2 argemuc プロジェクトの概要 目的 ・ 水素技術の信頼性のデモンストレーション ・ 個別の水素技術と日常利用における持続可能性の実証 ・ 総合的な安全技術の開発と導入 ・ 経済性状況の分析 ・ 公共セクターにおける水素技術の導入 プロジェクト の経緯 1995 年 計画立案 1997 年 9 月 充填ステーションの土台を設置 1998 年初頭 空港における水素バスの試運転(2 台) 1999 年 5 月 世界最初の水素充填ステーションの開所 2000 年 世界最初の完全自動充填ロボットの導入 2002 年 ミュンヘン空港がEnergy Promotion 賞を受賞 2003 年 4 月 350 気圧燃料ポンプの試運転 2003 年 6 月 水素ステーションへのビジター1 万人達成 2003 年 10 月 燃料電池フォークリフトトラックの導入 2003 年 11 月 メタン改質装置の設置 2005 年 8 月 公共交通用 MAN 製水素バスの試運転(2 台) 2006 年 12 月 プロジェクト終了 成果 ・ 多様な水素製造・供給技術(液体水素、メタン改質、水電気分 解)の日常的な利用に関するデモンストレーションの実施 ・ 水素(圧縮、液体)の日常的な充填の実施 ・ ロボット充填装置とマニュアル充填装置の実証 ・ 水素乗用車と空港内水素バスで、延べ走行距離40 万 km の達 成(無事故)
図 2-5.H2 argemuc プロジェクト 出所: H2 argemuc ホームページ < http://www.h2argemuc.de/ > 表 2-2.H2 argemuc プロジェクトのパートナー パートナー(*は第二フェーズから参加) 担当 ARAL 水素ステーション全般 BMW 液体水素用自動車 Munich Airport 空港運用・管理 Gesellschaft für Hochleistungselektrolyseure (GHW) 高性能電気分解装置 Grimm Labortechnik 水素センサー
Isar Amper Werke AG, IAW 電力の製造・供給
Howaldtswerke-Deutsche Werft(HDW) 水素純化装置・水素貯蔵装置
Linde AG 液体水素の製造・供給
MAN Utility vehicles(MAN-N) 低床式バス
MAN Technology(MAN-T) バス用高圧水素貯蔵装置 Mannesmann Demag Energie- und Umwelttechnik 水素貯蔵シリンダと充填装置 Gottlob Auwärter GmbH(NEOPLAN) 低床式バス
Siemens AG 管理システム
TÜV Süddeutschland(TÜV SÜD) 安全性の確保・分析 BAYERNGAS / Linde* 水蒸気改質装置
E.ON* 電力の製造・供給
PROTON MOTOR Fuel Cell GmbH* フォークリフト用燃料電池 ET Energie Technologie* プロジェクト管理
出所:IEA-HIA「HYDROGEN PROJECT AT MUNICH AIRPORT」 < http:// www.ieahia.org/pdfs/munich_airport.pdf >
水素ステーションの概観 空港用水素バス
② 水素の製造・供給 • H2 argemuc では、3つの方法(オンサイトでのメタン改質、オンサイトでの 高圧電気分解、工場からの液体水素の配送)で水素を供給している(図 2-6)。 図 2-6.H2 argemuc における水素の供給方法と利用のフロー • 工場からの配送による水素の供給(図 2-7): - 水素は Linde の Brunsbuttel 工場で天然ガス改質により生産され、液化され た後、H2 argemuc に配送される。工場の水素製造能力は 4 トン/日。 - H2 argemuc には、12,000 リットルの液体水素タンクが設置されている。ま た、クライオポンプと揮発水素を用いて圧縮水素を製造し、その貯蔵・充填も 可能である。 図 2-7.工場からの配送による水素の供給 水素プロセッシング・貯蔵 水素利用 水素製造 エネルギー供給 水素タンク ロボット式充填 ステーション 水素内燃機関自動車 液体水素 水蒸気改質 天然ガス 電力 水電気分解 公共充填 ステーション 非公共充填 ステーション 空港バス フォークリフト 水素内燃 機関バス 水素燃料 電池バス コンプ レッサ 高圧貯蔵 ユニット ハイブ リッド貯 蔵装置 液体水素 ポンプ 揮発装置
• オンサイト メタン改質(図 2-8:左): - オンサイトでメタンを改質、高圧化して貯蔵している。コンパクトかつ、高効 率である(製造能力:100 m3/時)。 • オンサイト 高圧電気分解(図 2-8:右): - 現地にて 30 気圧の高圧電気分解を行っている(ただし R&D 段階)。製造さ れた水素は容量94 m3の高圧水素タンクにて貯蔵している11。 図 2-8.オンサイトでの水素製造 (左:メタン改質装置、右:高圧電気分解装置) ③ H2 argemuc における水素利用車両 • BMW ガソリン水素バイフューエル車(表 2-3): - BMW のガソリン水素バイフューエル車は、これまでに H2 argemuc で 1,000 回近い充填を行い、その総充填水素量は60,000 リットルに達している。 表 2-3.BMW ガソリン水素バイフューエル車 最高速度: 215 km/時 航続距離: 800 km 水素:200-300 km ガソリン:500 km
• ミュンヘン空港内バス(図 2-9 (a)): - 3 台の MAN 製水素バス(低床式、水素内燃機関バス)がミュンヘン空港で運 用されている。6 年間の運用で総走行距離は 400,000 km に達した。水素充填・ 利用に関わる問題は発生していない。 - 水素高圧タンクは屋根に設置されている(圧力:250 気圧、容量 2,580 リット ル)。水素の充填は250 気圧で行っている。 • 路線バス(図 2-9 (b)): - MAN 製水素バス(水素内燃機関バス 3 台、PEMFC バス 1 台)が、2005 年 8 月よりミュンヘン交通局の路線バスとして利用されている(空港からミュンヘ ン市内のHallbergmoos 停留所まで)。 - 水素の充填は 350 気圧で行なっている。 図 2-9.ミュンヘン空港内バスと路線バス • 燃料電池フォークリフト(図 2-10): - 燃料電池フォークリフトが、ミュンヘン空港で運用されている。 - 水素(高圧水素)は手動で充填する。充填時間は 3 分で、8 時間の稼動が可能 (従来の電池式フォークリフトの場合、充電には8 時間を要する)。 - 回生ブレーキを採用しており、エネルギー効率は ディーゼル式フォークリフトよりも高。時間あた りエネルギー消費量は、ディーゼル式では2.0 L/ 時だが、燃料電池式では0.7 Lディーゼル等価/時である。 - 燃料電池は電池よりも軽いため、バランス維持の ためにコンクリートブロックも搭載した。 図 2-10.燃料電池フォークリフト (a) ミュンヘン空港内バス (b) 路線バス
④ H2 argemuc における安全性の確保 • TÜV SÜD12が、水素ステーションの設計・建設段階から運用段階まで、システ ムの安全性に関する検査を行っている • 水素自動車の安全性(火災、クラッシュ)については、BMW と TÜV SÜD が 共同で実施した。 (4) ディスカッション • H2 argemuc プロジェクトは、2006 年で終了した。 - このプロジェクトは技術評価が目的であり、十分にその目的を達したと考えて いる。
- H2 argemuc は、ベルリン Clean Energy Partnership(CEP)などの他のデ モンストレーションプロジェクトのさきがけとなった。多くの経験が、他の水 素ステーションに生かされている。例えば、H2 argemuc の水素ステーション では液体水素タンクを地下に埋設したが、地上に設置しても問題ないことが分 かり、H2 argemuc 以降に建設した水素ステーションでは、地上に水素タンク を設置している。 - H2 argemuc の水素ステーションは主に BMW や MAN の車両が使用している が、サッカーワールドカップ(2006 年)のときには DaimlerChrysler や GM も、燃料電池自動車のデモンストレーションのためにH2 argemuc ステーショ ンを利用した。 - 課題としては、水素充填ステーションの供給能力に見合うだけの水素需要がな かったことがあげられる。 • 充填用ノズルは標準化されているものを使用している。充填には専属のオペレ ータの運用や立会いは不要で、トレーニングを受ければドライバー自身で充填 することができる。 • 現状では、水素コストの 2/3 が輸送コストである。 12 TÜV は、車両の認証サービスを実施している民間企業。< www.tuev-sued.de/ >参照。
3 BMW
訪問先 BMW
住所:Linde Hydrogen Center, Carl-von-Linde-Str.25, 85716 Unterschleissheim, Germany
訪問日時 2006 年 11 月 6 日(月)17:00∼18:00 対応者 Achim Böckelt
Industrial Engineer, Scientific and Traffic Policy, Research Coordination 組織の概要 世界第 14 位の自動車メーカー。水素内燃機関自動車を開発中。ベルリン
Clean Energy Partnership(CEP)に参加。 調査項目 • 水素内燃機関自動車の開発の現状 • デモンストレーションプロジェクトへ参画の現状 (1) BMW の概要 • BMW は世界第 14 位の自動車メーカー13。本社はミュンヘン。 - 2005 年における、自動車販売台数は 132 万台14、売上は490 億ユーロ、従業 員数は10 万 6000 人。 (2) 石油代替燃料の必要性 ① 交通における石油需要 • 世界では、交通分野だけで毎日 4000 万バレルの石油を消費している。この量 は2025 年に向かって 50%増加すると見られる(図 3-1)。 図 3-1.交通部門におけるエネルギー需要予測 13 傘下には Rolls-Royce(英国)と MINI(英国)を有する 14 < http://www.oica.net/htdocs/Main.htm >参照。 0 20 40 60 80 100 120 2002 2010 2015 2020 2025 Mbl/d 先進国 先進国
Source: US DoE Energy Information Administration, International Energy Outlook 石油消費量 交通部門のエネルギー消 移行経済国 移行経済国 新興国 新興国
② ピークオイル問題 • 米国の分析15によると、世界の石油生産量は2016 年から 2037 年の間にピーク を迎えると考えられる(図 3-2)16。 - 現在の石油生産量は年間 2%増加している。 - 仮に、石油生産の前までは生産量が年率 2%拡大し、ピーク後には年率−2% の割合で生産量が減退すると考えると、石油生産量は2016 年にピークに達す る。ピーク時の石油生産量は1 億バレル/日である。 - 採掘技術の活用によって石油生産をてこ入れした場合、石油生産量は年率 2% 拡大で2037 年まで拡大し、その後は急速に減退する。ピーク時の石油生産量 は1 億 5000 万バレル/日である。 - 石油生産がピークに達すると、石油の入手が困難になり、価格も高騰しよう。 • ピークオイル問題に関しては、BMW では悲観的な予測である 2016 年とみて、 石油代替燃料政策を進めている。 図 3-2.USGS による世界の石油生産量の予測 15 米国地質調査所(USGS)の分析。 16 USGS の推論は次のとおり。 【究極可採埋蔵量】 究極可採埋蔵量(Ultimate Recovery)は 2.2 兆∼3.8 兆バレルと見積もられる が、USGS ではその中間値である 3 兆バレルと想定している。すでに人類は 1 兆バレルの原油を消 費してしまっていることから、残りの2 兆バレルが消費可能な原油となる。 【石油ピークの時期】 残存する 2 兆バレルの原油の生産に関して、二つの異なる想定を行っている。 ① 原油生産量が、ピーク前は年率 2%で拡大し、ピーク後は年率−2%で減退する(ピークを境に 対称な山グラフとなる)と仮定すると、ピークは2016 年になる。② 原油生産量がピーク前は年率 2%で拡大、ピーク後は「可採年数(=埋蔵量÷年間生産量)10 年」を保ちつつ生産量が減退する と仮定すると、ピークは2037 年になる(USGS が米国の油田について調べたところでは、減退期 に入った油田は、可採年数10 年を維持しつつ生産量が減退していくとのことのことである)。
(3) BMW のエネルギー戦略 ① 水素自動車開発の方針 • BMW が水素内燃機関自動車を開発する目的は以下のとおりである。 - 温室効果ガスの低減 - 枯渇性の化石燃料の保存 - エネルギーセキュリティ • この目的を実現するための短・中・長期的目標は以下のとおりである。 - 短・中期的目標:燃料消費の削減 (可変バルブ、高圧噴射、バイオ燃料の導入) - 長期的目標: 競争力があり、耐久性が高い商品の開発 (水素ICE 自動車) • BMW が将来燃料として水素を支持するのは、水素が多様なエネルギー源(特 に再生可能エネルギー)から製造可能であるからである(図 3-3)。 - 原子力エネルギー(電力)で水分解を行い、水素を作るという考えもあるが、 ある試算では、欧州の自動車をすべて水素燃料自動車に代替した場合、この水 素需要を原子力発電で補うためには、さらに原子力発電所を21 基新設する必 要があるとのことである。これは現実的ではない。よって将来的には、再生可 能エネルギーからの水素製造を目指すべきである。 図 3-3.水素の製造パス プロパン ブタン 石油系 燃料 エタノール メタン 水素 電池 ディーゼル 脂肪酸 エステル メタノール 枯 枯渇渇性性資資源源 再再生生可可能能エエネネルルギギーー 石油、天然ガス、石炭 原子力 ソーラー、水力、風力 バイオマス 電力
② TES(Transport Energy Strategy)17によるシナリオ • 欧州 25 カ国の交通部門での燃料需要は、現状の内燃機関自動車を想定した場合、 2020 年には 12 EJ を超えると予想される(図 3-4)。エタノールや BTL (Biomass-to-Liquid)ではこの需要を満たすことは出来ないが、水素ならばこ れを満たすことができる可能性がある。 図 3-4.欧州における交通部門の燃料需要と代替燃料のポテンシャル(TES) • 水素は、価格・CO2排出量面でガソリンよりも優位になる可能性がある(図 3-5)。 - ガソリン価格は将来的には上昇する。非在来型石油の割合が拡大すれば、CO2 排出量も増大しよう。将来的には、水素のほうが優位になる。 - ただし、天然ガス価格も石油価格の上昇によって高価格化する可能性が高い。 その場合は、天然ガス改質による水素製造コストも増大する可能性がある。 図 3-5.TES よる水素価格の試算 17 TES は、ドイツにおける官民共同の代替燃料戦略研究プロジェクト。BMW、DaimlerChrysler、
General Motors Europe(Opel)、MAN、Volkswagen、ARAL、BP、RWE、Shell、Total FinaElf が参画した。< http://www.bmvbs.de/-,1423.9979/Fuel-of-the-Future-Transport-E.htm >参照。 0 2 4 6 8 10 12 14 自動車門部門 の燃料需要 (2020 年) エタノール (コーン) 最小 最大 エタノール(リグニ ン系セルロース) 最小 最大 BTL 最小 最大 LH2 最小 最大 CGH2 最小 最大 [Exa Joule] (欧州 25 カ国) * Well-to-Tank に おけるエミッショ ン と 、 燃 焼 に よ るエミッションを 含む。 ** ガソリン換算 (多様な水素製造パスのミックス)
(4) BMW の水素自動車開発 • BMW では 1970 年代より水素内燃機関自動車の開発を進めてきた(図 3-6)。 図 3-6.BMW がこれまでに開発した水素内燃機関自動車(第 6 世代まで) • BMW では、現在第 7 世代のバイフューエル(ガソリン/水素)内燃自動車 (Hydrogen-7)を開発中である(図 3-7)。 - Hydrogen-7 は、量産に適したデザインとシステム構成を採用している。実際 には、Hydrogen-7 を 75 台生産する予定である。 - 現在は 12 シリンダエンジンを採用しているが、将来的にはシリンダ数を半分 の4∼6 にし、エネルギー効率を向上させることを目指している。 図 3-7.Hydrogen-7 の仕様 容量 6.0 L 最大出力 191 kW (260 bhp) at 5.100 1/rpm 最大トルク 390 Nm at 4.300 1/rpm 水素 ポート予混合 バイフューエル 12 シリンダエンジン ガソリン 直噴 最高速度 230 km/h (cut off) 加速性能 (0-100 km/h)9.5 秒 液体水素 > 200 km 航続距離 ガソリン > 500 km
• BMW では、トルクと出力を考えた場合、ターボ式水素直噴エンジンが優れて いると考えている(図 3-8)。 - 水素内燃機関自動車は低温始動性に優れており、寒冷な条件でも車両をすぐに 始動させることができる。 - 燃料電池は車載 APU としては有望。液体水素を車載する場合、水素内燃エン ジンで走行し、ボイルオフガスでAPU 燃料電池を稼動させるのがよい。 図 3-8.エンジンの種類のトルクと出力の関係 • 水素利用自動車における課題を表 3-1 にまとめる。 表 3-1.水素利用自動車における課題 車両 量産のための条件整備 ・ 効率の向上(水素内燃機関自動車、燃料電池自動車) ・ 国際的な基準・標準の策定(水素貯蔵、充填ノズル、安全性など) 水素製造 効率の向上、設備投資コストの低減 ・ 水素製造効率の向上(電気分解、液化) ・ 水素製造装置における、既存のコンポネントの採用 ・ 一次エネルギーにおける水素の導入戦略(コスト、CO2排出量) インフラ 整備 エネルギー産業との協力 ・ 将来燃料としての水素の国際的認識の向上、基準・標準の策定 ・ 基本的な水素インフラ整備のための経済措置・コンセプト ・ 政策的な支援
(5) ディススカッション • 水素内燃機関自動車: - BMW では、欧州のプログラムとして「HyICE」18に参画している。HyICE では、大型∼小型の自動車用の水素エンジンに関して、ダイレクトインジェク ション、ポートインジェクションシステムの開発を目指している。 - 水素内燃機関自動車のエンジンは 8,000 時間の稼働が可能である。ただしエン ジンシステムのパッケージングがまだ最適化されてないため、今後さらに数世 代の開発が必要である。 - 最大の課題は水素の貯蔵である。この課題の解決には、さらに 5∼6 年がかか るであろう。 • Hydorgen-7 の製造予定: - 今後数年間で、75 台の Hydorgen-7 を製造する。これは基本的に欧州向けで ある。
- 米国 DOE の FCV デモンストレーション(Learning Demonstration)向けに 水素内燃機関自動車5 台を製造する予定である19。 - 将来的には水素エンジンを小型化し(4∼6 シリンダ)、さらにターボチャジ ャージャを採用することでエネルギー効率は向上するであろう。5 kg の水素 の搭載で、航続距離400∼500 km の達成が可能である。 • BMW の戦略: - 燃料電池自動車では触媒に白金を使用しているが、大量普及の場合には白金の 供給面での問題が発生しよう。 - BMW は内燃機関エンジンに関して多くの経験があるので、水素エンジンの開 発を今後も追及したい。 - BMW は世界市場においてはニッチプレーヤーである。BMW の経営陣は高い 利益率を維持することが重要と考えており、将来自動車の開発においても現在 のBMW の顧客層の嗜好に合う高トルクマシンの開発を目指している。
18 HyICE(= Hydrogen Internal Combustion Engine)プロジェクトでは、自動車用の水素内燃機関
エンジン(ポートインジェクション)の開発を行っている。プロジェクト参加企業が以下の通り: BMW Forschung und Technik(独、オーガナイザ)、ANSYS(独)、 Irion Management Consulting (独)、MECEL(スウェーデン)、Universität der Bundeswehr(独)、Technical University of Graz (オーストリア)、MAN Nutzfahrzeuge(独)、Institut Français du Pétrole(仏)、Ford
Forschungszentrum(独)、Volvo Technology Corporation(スウェーデン)、Hoerbiger(オースト リア)。
19 DOE 訪問時に確認したところでは、DOE の「Learning Demonstration」への導入車両は燃料電池
自動車のみで、水素内燃機関自動車の導入の予定はないとのことであった(P. 79 参照)。BMW は、 米国でもカリフォルニア州でのデモンストレーションを考えていると思われる。
• ボイルオフガスについて:
- 現状では、ボイルオフガスについては特に対応は考えていない。ただし、大き な問題であることは認識している。
• 個人的意見であるが、炭素隔離貯留(CCS)は技術的に困難であり、また社会 的合意も得がたいと思う。
4
欧州委員会(European Commission)
訪問先 欧州委員会(European Commission)
住所:CDMA bldg, Rue du Champ de Mars 25 Brussels
訪問日時 2006 年 11 月 7 日(火)10:30∼13:00 対応者 William Borthwick
PrincipalScientific Officer, Energy Production andDistribution Systems, Directorate-General for Research(DG-Research)
Joaquin Martin Bermejo
PrincipalScientific Officer, Energy Production andDistribution Systems, Directorate-General for Research(DG-Research)
Mirela Atanasiu
Project Officer, Seconded National Expert, Energy Production and Distribution Systems, Directorate-General for Research(DG-Research) Beatrice Coda
Scientific Officer, Energy Production and Distribution Systems, Directorate-General for Research(DG-Research) Maurizio Maggiore
Project Officer, Surface Transport Unit H2, Directorate H: Transport, Directorate-General for Research(DG-Research)
Dr. Franz-Xaver Söldner Principal Administrator
Directorate-General for Energy and Transport(DG-Energy) 組織の概要 第 6 次フレームワークプログラムで HyFleet:CUTE、Zero-Regio などのフリ ートプロジェクトなどを実施。現在第7 次フレームワークプログラムを 2006 年 末から実施。 調査項目 • 第 7 次フレームワーク・プログラム(FP7)の方針 • 水素・燃料電池技術プラットフォームの現状 • 欧州連合の燃料電池関連のデモンストレーションの現状 (1) 欧州委員会の概要 • 欧州連合(European Union)の概要を表 4-1、図 4-1 に示す。欧州連合は、 2004 年 5 月の第五次拡大によって 25 カ国体制となった。 表 4-1.欧州連合(European Union)の概要 加盟国 25 ヵ国(図 4-1 参照) 人口 4 億 5900 万人(日本の約 3.6 倍) 名目GDP 10 兆 8465 億ユーロ 一人当たり 23,500 ユーロ(2005 年) 財政規模(予算) 約1211 億ユーロ額(2006 年) 出所:外務省「各国・地域情勢」< http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/eu/data.html >
図 4-1.欧州連合加盟国20 出所:各種資料より作成 • 欧州連合(EU)の組織を図 4-2 に示す。 - 欧州委員会(European Commission:EC)は、欧州の内閣に相当する機関で、 欧州全体の利益に係わる政策立案・行政執行を担当している。 - 欧州委員会の本部はブリュッセル(一部の組織がルクセンブルクにある)で、 スタッフの総数は約1 万 5000 人である。 - 欧州委員会には政策部門として17 の総局(Directorate-General)があり、そ れぞれが管轄する政策立案・行政執行を担当している。 図 4-2.欧州連合の組織 出所:種資料より作成
20 欧州共同体(European Community)は、1993 年のマーストリヒト条約により、欧州連合(European
Union:EU)となった。なおアイスランド、ノルウエー、スイスは欧州連合に加盟していない。 欧州委員会(European Commission: EC)
政策立案機関(EU の内閣に相当)。欧州全体の政策立案を行う。
欧州議会(European Parliament:Europol)
全欧州から直接選挙で選ばれた議員で構成される諮問・共同決定機関。
欧州理事会(European Council:Summit)
元首・政府首脳から成る最高意思決定機関。欧州連合の方向性を決定。
欧州閣僚理事会(Council of the European Union)
加盟国の閣僚で構成される実務機関。議題に応じて異なる閣僚が参加。
欧州裁判所(The Court of Justice of the European Communities)
欧州基本条約に係わる法的な判断を行う。
会計監査院(The European Court of Auditors)
欧州連合の財政管理を監査する。 欧州連合 European Union (EU) 現加盟国 ベルギー ドイツ フランス ルクセンブルク イタリア オランダ 第一次拡大(1973 年) デンマーク アイルランド 英国 第二次拡大(1981 年) ギリシャ 第三次拡大(1986 年) スペイン ポルトガル 第四次拡大(1995 年) フィンランド オーストリア スウェーデン 第五次拡大(2004 年) ポーランド ハンガリー チェコ スロバキア スロベニア エストニア ラトビア キプロス マルタ リトアニア エ エスストトニニアア ラ ラトトビビアア リ リトトアアニニアア ポ ポーーラランンドド チ チェェココ ススロロババキキアア ス スロロベベニニアア マ マルルタタ キキププロロスス ハ ハンンガガリリーー
(2) 欧州のエネルギー・交通政策 ① エネルギーと自動車エミッションの現状 • 欧州におけるエネルギー輸入率は将来的に上昇する(図 4-3)。 - 石油の輸入率は、2030 年には 90%に達すると見られる。 - 石炭の輸入率も大幅に拡大すると見られる。これは、海外の石炭が欧州内の石 炭よりも低コストであるという、経済的理由によるものである。 図 4-3.欧州におけるエネルギー輸入率の予測(Business-as-usual ケース) • 欧州における自動車からのエミッションは、排気ガス規制の強化によって今後 も低下すると予想されている(図 4-4)。 - 現在欧州は EURO 4 規制を実施している。2008 年以降に導入される EURO 5 規制によって、ほとんどの物質の排出量は低減すると見られる。 - CO2排出量については、燃費向上によって個別の自動車からの排出量は低減し ようが、総走行距離の拡大のために、全体的には変化はないと見られる。 図 4-4.欧州における自動車からのエミッション 0 20 40 60 80 100 エネルギー全体 石油 天然ガス 石炭 2000 2010 2020 2030 Index, 1995=100 0 20 40 60 80 100 120 140 1990 1995 2000 2005 2010 2015 2020 CO2 NOx PM-diesel VOC Benzene SO2 CO
② 欧州におけるエネルギー・交通政策 • 欧州におけるエネルギー・交通政策の目標と、政策の推進要因(ドライバー) を表 4-2 に示す。 表 4-2.欧州におけるエネルギー・交通政策の目標と推進要因 政策の目標 政策の推進要因 エ ネ ル ギ ー ・ エネルギーセキュリティ強化 ・ 競争力の強化 ・ 持続可能な発展の達成 ・ エネルギー輸出国に関する選択肢の 縮小 / 特定のエネルギー輸出国への 依存度の上昇 ・ エネルギー供給インフラの拡大と代替の 必要 ・ 気候変動に関する懸念の拡大 交通 ・ モビリティの確保 ・ グローバルレベルでの移動の 確保 ・ エネルギー効率・持続可能性 向上のための革新技術 ・ 環境保護 ・ 欧州加盟国の増加による市場拡大 /グ ローバリゼーションの進行 ・ エネルギー効率・持続可能性向上の必 要性 ・ 大気質と気候変動に関する懸念の拡 大 • 欧州のエネルギー・交通政策に関する、基本的な政策枠組を表 4-3 に示す。 表 4-3.欧州のエネルギー・交通政策に関する基本的な政策枠組 「エネルギー効率に関する提案書」(2005 年 7 月)
Energy Efficiency Green Paper
Æ「エネルギー効率に関するアクションプラン」(2006 年 10 月)
Energy Efficiency Action Plan
「安全で競争力があり、持続可能なエネルギーのための欧州戦略」(2006 年 3 月)
European Strategy for Sustainable, Competitive and Secure Energy Æ「欧州のエネルギー戦略レビュー」(2007 年)
Strategic European Energy Review
「交通白書に関する中期レビュー」(2006 年 6 月)
Mid-term review of Transport White Paper
Æ「都市交通に関する提言書」(2007 年)
• クリーン・高エネルギー効率自動に関する欧州の政策を表 4-4 に示す。 - 乗用車(新車)からの CO2平均排出量を2008∼2009 年までに 140 g/km に削 減する自主規制を、欧州自動車工業会、日本自動車工業会、韓国自動車工業会 と締結した(図 4-5)。しかし、その達成は困難視されている21。 表 4-4.クリーン・高エネルギー効率自動車に関する欧州の政策 政
策 ・ 公害物質の削減 (・ 温室効果ガスの削減Strategy on Air Pollution (Transport White Paper review:2005 年 9 月) :2006 年 6 月) ・ エネルギー消費量の削減 (Energy Efficiency Action Plan:2006 年 10 月)
実 施 内 容 【EURO 規制】 EURO 5(乗用車)の提案(2005 年 12 月) 【クリーン自動車の導入】 公共機関へのクリーン自動車導入支援の提案(2005 年 12 月) 【車両からのCO2排出量の削減】 CO2排出量の1998 年比 25%削減に関する、自動車業界との自主規制 【炭素税】 CO2排出量に基づく炭素税(車両登録・取得時)の提案(2005 年 7 月) 【クリーン・エネルギー効率のよい自動車市場の育成】 車両のエネルギー効率向上のための提案(2006 年 10 月) 図 4-5.乗用車(新車)からの CO2平均排出量の削減に関する自主規制
出所:"Results of the review of the Community Strategy to reduce CO2 emissions from passenger cars and light-commercial vehicles" < http://ec.europa.eu/environment/co2/pdf/com_2007_19_en.pdf >
21 2007 年 2 月 7 日に欧州委員会は、新車からの CO2排出量(加重平均)を2012 年までに 120 g/km
• 代替燃料導入に関する欧州の政策を表 4-5 に示す。
表 4-5.代替燃料導入に関する欧州の政策
政
策 ・ エネルギーセキュリティ向上・ 温室効果ガスの削減 (Transport White Paper review (Energy Security Green Paper:2006 年 6 月) :2000 年 11 月) ・ 国際競争力向上 (Energy Policy Green Paper:2006 年 2 月)
実 施 内 容 【代替燃料に関するコミュニケーション】 バイオ燃料、天然ガス、水素の導入(2001 年 11 月) 【代替燃料に関するコンタクトグループ(報告書:2003 年 12 月)】 主要な代替燃料に関する市場育成のあり方の検討 【バイオマスに関するアクションプラン/バイオ燃料戦略】 コミュニケーションの発表(2005 年 12 月、2006 年 2 月) 【欧州技術プラットフォームの設置】 水素・燃料電池分野(2004 年)22、交通分野(2004 年)、 バイオ燃料分野(2005 年) 【フレームワークプログラム】 第7 次フレームワークプログラム(2007∼2013 年)に関するプロポーザル • 電池・ハイブリッド関連の欧州のプロジェクトを表 4-6 に示す。 - バッテリ EV を対象とした政策やプロジェクトはないが、ハイブリッド車開発 の枠組の中で、プラグイン・ハイブリッドやバッテリEV の研究を行っている。 - 電池材料の開発はナノテクノロジー研究開発分野から助成が行われている。 表 4-6.電池・ハイブリッド車関連のプロジェクト(FCV にも適用可能なもの) プロジェクト名 開発項目 POMEROL リチウムイオン電池 HYHEELS 電池・スーパーキャパシタ ILHYPOS スーパーキャパシタ HOPE パワーエレクトロニクス HYTRAN 燃料電池APU HYSYS 車両システムのハイブリッド化(燃料電池、車載発電機など) HYICE 水素内燃機関エンジン(ポートインジェクション) HOST ハイブリッド・FCV 用車両モジュール HI-CEPS 車両システムのハイブリッド化 22 P. 42 参照。
(3) 第 7 次フレームワークプログラム(FP7) ① フレームワークプログラム • フレームワークプログラム(Framework Programme:FP)は、欧州連合23が 1984 年から実施している研究開発プログラムである(表 4-7)。 表 4-7.フレームワークプログラムの特徴 ・ 競争領域以前の技術に対して助成を行う ・ 基本的に複数年プログラム(5 年間)24 ・ メンバー国の連携のために、複数のメンバー国が参加するプロジェクトを推奨 ・ 研究プロポーザルは、募集(Call)に基づく競争入札方式 ・ 研究成果は、第三者機関で評価(評価基準は公開されている) ・ EU 加盟国以外の国からの参加も奨励25 • これまでのフレームワークプログラムにおける総予算の変遷と、そのうちの水 素・燃料電池関連研究開発の予算の変遷を図 4-6 に示す。なお、この予算には 各国政府が独自に行っている研究開発予算は含まれていない。 図 4-6.フレームワークプログラム総予算と水素・燃料電池関連予算の変遷 出所:各種資料から作成 23 管轄は、欧州委員会の研究総局(DG-Research)である。 24 FP は、最終年度が次期 FP の初年度(準備期間)と重なっているため、実質的な期間は 4 年程度 である。FP1(1984∼87 年)、FP2(1987∼1991 年)、FP3(1990∼1994 年)、FP4(1994∼1998 年)、FP5(1998-2002 年)、FP6(2002∼2006 年)、FP7(2006∼2013 年)。 25 先進国からの参加国には助成は行われないが、発展途上国からの参加国(例.中国)には、研究助 成が行われる場合がある 予算[mil ユーロ] 0 100 200 300 FP1 (1984-1986) FP2 (1986-1990) FP3 (1990-1994) FP4 (1994-1998) FP5 (1998-2002) FP6 (2002-2006) 8 32 58 145 300 水素・燃料電池関連研究開発予算 予算[bil ユーロ] 0 4 8 12 16 20 5.39 6.6 13.2 15.0 17.5 3.75 フレームワークプログラムにおける総予算 FP1 (1984-1986) FP2 (1986-1990) FP3 (1990-1994) FP4 (1994-1998) FP5 (1998-2002) FP6 (2002-2006)
② 第6 次フレームワークプログラム(FP6)の概要 • FP6 の予算は 175 億ユーロで、そのうちエネルギー関連は 8 億 9 千万ユーロで ある。このエネルギー関連予算から、水素・燃料電池研究の予算が割り当てら れている。水素・燃料電池研究予算の内訳を図 4-7 に示す。 - FP6 では、約 80 の水素・燃料電池プロジェクトが実施されている。主要なプロ ジェクトを図 4-8 に、日本も参画しているプロジェクトを表 4-8 に示す。 図 4-7.FP6 における水素・燃料電池研究の内訳 図 4-8.FP6 における主要水素・燃料電池プロジェクト 表 4-8.FP6 で日本が参画している水素・燃料電池プロジェクト Auto-Brane 自動車用の高温 PEM の開発 Honda Europe
Toyota Europe FCTESQA 燃料電池のテスト、安全性確認に関する プロトコルのハーモナイゼーション NEDO HyApproval 水素ステーション認可に関わる知見集約 エンジニアリング振興協会 水素パスウェイ・ シナリオ策定 9.0% 定置用・ポータブル アプリケーション 6.3% 自動車用アプリケーション (含.FC ハイブリッド) 19.8% 高温形燃料電池 (基礎研究) 6.7% 低温形燃料電池 (基礎研究) 8.3% 安全・基準・標準 4.7% 水素輸送 3.7% 水素貯蔵 8.3% 水素製造 16.0% 実証・デモンストレーション 17.2%