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「高年齢者雇用安定法における雇用確保措置義務化の影響に関する研究」

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高年齢者雇用安定法における

雇用確保措置義務化の影響に関する研究

<要旨> 2004 年に改正された高年齢者雇用安定法において義務化された高年齢者の雇用確保措置 に着目し,当該措置の導入が企業の賃金体系に与える影響及び企業への一律義務化が高年 齢労働者の適材適所に与える影響に関する分析を行った. 本稿では,2004 年法改正前から雇用確保措置を導入している企業と法改正後に導入した 企業の賃金体系の比較により,措置導入による現役世代の賃金への影響を明らかにし,ま た法で定める措置導入の一律義務化に関連し,企業における高年齢者に適した仕事の有無 の決定要因を明らかにした.実証分析の結果,措置を導入して長い企業は,50 歳から定年時 の賃金を減らすことで雇用確保措置によって生じたコストに対応していること及び高年齢 者に適した仕事の有無は業種や技術伝承の必要性によって決定されることが示された. 高年齢者に適した仕事は企業によって異なるにもかかわらず,法では一律に雇用確保措 置が義務化されていることから,高年齢労働者の適材適所が阻害されていると考えられる.

2014 年(平成 26 年)2 月

政策研究大学院大学 まちづくりプログラム

MJU13611 田頭 達也

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目次

1. はじめに ... 3 2. 現状分析 ... 3 2.1 高年齢者雇用安定法の変遷 ... 4 2.2 2004 年改正当時の状況 ... 4 2.3 2004 年改正高年齢者雇用安定法の概要 ... 4 2.4 その後の展開 ... 5 2.5 雇用確保措置義務化について ... 5 2.6 定年制について ... 6 3. 高年齢者雇用確保措置の導入効果及び義務化に関する理論分析 ... 6 3.1 高年齢者労働市場に関する政府の介入 ... 6 3.2 雇用確保措置が導入された場合の賃金プロファイル ... 7 3.3 雇用確保措置義務化と適材適所 ... 11 4. 高年齢者雇用確保措置の導入効果及び義務化に関する実証分析 ... 11 4.1 雇用確保措置と現役世代労働者の賃金に関する実証分析 ... 11 4.1.1 仮説 1 の分析方法と実証モデル ... 11 4.1.2 仮説 1 で使用するデータ ... 12 4.1.3 仮説 1 の推定結果 ... 14 4.2 高年齢者に適した仕事の有無の決定要因に関する実証分析 ... 15 4.2.1 仮説 2 の分析方法と実証モデル ... 15 4.2.2 仮説 2 で使用するデータ ... 16 4.2.3 仮説 2 の推定結果 ... 17 4.2.4 仮説 3 の分析方法と実証モデル ... 17 4.2.5 仮説 3 で使用するデータ ... 18 4.2.6 仮説 3 の推定結果 ... 18 5. まとめ ... 19 6. 政策提言 ... 19 7. 分析の限界と今後の課題 ... 19

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1. はじめに

現在の日本は,65 歳以上人口が総人口の 24%を超え,およそ 4 人に 1 人が高齢者,75 歳以 上の後期高齢者が10 人に 1 人という世界のどの国も未経験の超高齢社会の時代に突入して いる(平成 24(2012)年 10 月 1 日現在)1.今後は総人口が減少する一方,いわゆる「団塊の世 代」が65 歳以上となるなど,さらに高齢者人口は増加し,高齢化はますます進んでいくものと 推測される.また少子高齢化による労働力人口の減少も懸念されている.独立行政法人労 働政策研究・研修機構の「平成 24 年度労働力需給の推計」によると労働力人口に占める 60 歳以上の者の割合が2010 年の 18.1%から,2030 年はゼロ成長Aで 19.5%,慎重B及び成 長戦略Cで 22.2%増加すると見込まれている2 以上のような少子高齢化の急速な進展やそれによって引き起こされる労働力人口の減少 という状況に加え,公的年金の支給開始年齢引き上げの問題もある.2001 年度から開始さ れた老齢厚生年金の1 階部分の支給開始年齢引き上げは,2013 年 3 月に完了し,同年 4 月 からはさらに2 階部分(報酬比例部分)の支給開始年齢引き上げも開始された(女性は 5 年遅 れ). こうしたことを背景に「より長く働き続けられる社会」を目指して実施されてきた政策の 一つが,高年齢者の雇用確保を目的とした高年齢者雇用安定法である. 本稿は,1971 年の制定以降,現在までに何度も改正・強化を繰り返してきた高年齢者雇用 安定法のうち,65 歳までの雇用確保措置を講ずることを義務付けた 2004 年 6 月の高年齢 者雇用安定法の改正(2006 年 4 月施行)が及ぼす影響を分析することで,今後の高齢者雇用 政策への提言を行うことを目的とする. 本書の構成は次のとおりである.第2 章は高年齢者雇用安定法の変遷,2004 年改正高年 齢者雇用安定法の概要及びその後の展開について整理し,第 3 章は高年齢者の雇用確保措 置導入効果及びその義務化に関する理論分析を行う.第 4 章は高年齢者の雇用確保措置導 入による影響と高年齢者に適した仕事の有無の決定要因について実証分析を行い,第 5 章 は分析結果のまとめと考察,第6 章において政策提言,第 7 章で分析の限界と今後の課題 について示すこととする.

2. 現状分析

高年齢者雇用安定法における雇用確保措置義務化の影響に関する研究を行うに際し,前 提となる高年齢者雇用安定法の変遷,2004 年改正当時の状況と改正法の概要,改正後の展 開について述べた後,雇用確保措置義務化の内容とそれに関連する定年制について整理す る. 1内閣府「平成25 年度版高齢社会白書」 2独立行政法人労働政策研究・研修機構「平成24 年度労働力需給の推計」

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4 2.1 高年齢者雇用安定法の変遷 「高年齢者雇用安定法」(高年齢者等の雇用の安定等に関する法律)は,「中高年齢者等の雇 用の促進に関する特別措置法」を全面的に改正するかたちで1986 年に成立した.これは事 業主に対し,定年を定める場合にはそれが60 歳を下回らないように努力する義務を課すこ とをその内容としていた.本法の成立は1985 年の年金改革時における公的年金制度の支給 開始年齢見直しの検討及びそれに呼応する60 歳定年制立法化の議論からなされたものであ り,定年制を直接規制対象とする最初の法令であった. その後の1990 年の改正により,60 歳以上 65 歳未満の定年に達した者の継続雇用に対し 努力義務が課せられ,続く1994 年の改正では老齢厚生年金の 1 階部分の支給開始年齢引き 上げ決定にあわせ,60 歳定年の努力義務規定が強行規定となった. さらにその後の2000 年改正では,定年引上げと定年後の継続雇用制度導入または改善な どの「高年齢者雇用確保措置」を講ずることが努力義務として事業主に課されることとなっ た. 表1 高年齢者雇用安定法の変遷 成立・改正年 主な内容 1986 年 60 歳定年の努力義務化 1990 年 定年到達後65 歳までの継続雇用の努力義務化 1994 年 60 歳定年の強行規定化 2000 年 高年齢者雇用確保措置の努力義務化 2.2 2004 年改正当時の状況 そして2004 年にさらに改正が行われるわけであるが,その改正の指針となったのが,厚 生労働省の「今後の高齢者雇用対策に関する研究会」の報告書(2003 年 7 月)である.報告書 内では,2001 年度から老齢厚生年金 1 階部分の支給開始年齢段階的引き上げが開始される こと及び団塊の世代が2007 年から 2009 年にかけて 60 歳に達するという当時の状況から, 「雇用と年金との接続強化」「意欲・能力ある高齢者が働ける環境整備」が課題として挙げら れ,それを踏まえて2004 年の改正が行われることとなった. 2.3 2004 年改正高年齢者雇用安定法の概要 以上の経緯を経て,65 歳までの雇用確保措置が義務とされたのが,2004 年の改正高年齢 者雇用安定法である.この改正では,65 歳未満の定年を定めている事業主に対し,①65 歳 までの定年の引上げ,②定年の定めの廃止,③継続雇用制度の導入のいずれかの雇用確保 措置の導入が義務化された. ③の継続雇用制度とは,現に雇用中の高年齢者が希望するときはその者を定年後も引き 続いて雇用する制度のことで「勤務延長制度」と「再雇用制度」の 2 種類がある.勤務延長制 度が,定年到達者を退職させることなく引き続き雇用するのに対し,再雇用制度は雇用を

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5 一旦中断し,その翌日に再び雇用する.雇用関係の中断の有無は異なるが,どちらも賃金, 雇用形態を定年前と変更することができる.①の定年引上げ,②の定年廃止と異なり,継 続雇用制度は定年後労働者の賃金を抑えることができるため,約 8 割の企業が継続雇用制 度の導入を採用している(表 2). 表2 雇用確保措置の導入状況(平成 25 年 6 月 1 日現在)3 雇用確保措置 割合 (従業員 31 人以上企業) 割合 (従業員 51 人以上企業) 定年の引上げ 16.0% 13.4% 定年の定めの廃止 2.8% 1.9% 継続雇用制度の導入 81.2% 84.7% 2.4 その後の展開 2004 年改正により,65 歳までの雇用確保措置が義務化されることとなったが,雇用確保 措置のうち,継続雇用制度の導入を選択した場合には,労使協定により基準を定めること で継続雇用制度対象者の選抜を行うことも可能となっていた.そこで,平成24 年(2012)年 8 月 29 日に「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律」が成立する. この法改正により,継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準は廃止,つまり継続雇 用制度対象者の選抜を行うことができなくなり,定年後の雇用を希望する者全員が継続雇 用制度の対象とされることとなった.またこの改正では,継続雇用制度に定年を迎えた自 社の社員を関係グループ企業等(具体的には子会社,親会社,親会社の子会社,関連会社, 親会社の関連会社の5つ)で引き続き雇用する契約を結ぶ措置も含まれることとなった. 2.5 雇用確保措置義務化について 厚生労働省によれば4,継続雇用制度や定年の引き上げ・廃止といった高年齢者雇用確保 措置によって確保されるべき雇用の形態については,必ずしも労働者の希望に合致した職 種・労働条件による雇用を求めるものではない.そして,本措置を講じることを求めるこ ととした趣旨を踏まえたものであれば,常用雇用のみならず,短時間勤務や隔日勤務など も含めて多様な雇用形態を含むものであるとしている.つまり,継続雇用後の労働条件に ついては,高年齢者の安定した雇用を確保するという法の趣旨を踏まえたものであれば, 雇用に関するルールの範囲内で,労働時間,賃金,待遇などについて,事業主と労働者の 間で決めることができるということである. ここで気をつけなければならないのは,高年齢者雇用安定法は,あくまで65 歳までの雇 3厚生労働省「平成25 年高年齢者の雇用状況」 4厚生労働省「(職高発第 1104001 号) 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正 する法律の施行について」

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6 用契約を提示することを企業に求めており,65 歳までの雇用義務を課しているわけではな いということである.新たな労働条件が労働者の希望に合わず,結果的にその労働者がそ の後の再雇用を拒んだとしても,法違反とはならない. 2.6 定年制について 以上を踏まえ,第 3 章,第 4 章において高年齢者雇用確保措置の導入効果等を分析して いくが,以降の議論は定年制と年功賃金を前提としたものである.そもそもの定年制や年 功賃金自体の是非については議論が分かれるところであるが,2.2 で示した厚労省の 2003 年研究会報告においても「定年制を活用しつつ高齢者の雇用機会の確保を図る」とされてお り,本稿においても定年制を前提とした上での議論を進めていくこととする.

3. 高年齢者雇用確保措置の導入効果及び義務化に関する理論分析

本章では,「高年齢者労働市場に関する政府の介入」と,「雇用確保措置が導入された場合 の賃金プロファイル」,「雇用確保措置義務化と適材適所」という観点から高年齢者雇用確保 措置の導入効果及び義務化に関する理論分析を行う. 3.1 高年齢者労働市場に関する政府の介入 福井(2007)によると,政府の法などによる市場介入が正当化されるのは,いわゆる「市場 の失敗」がある場合に限られることから,高年齢者の雇用確保措置を義務化することについ て「市場の失敗」の5つの観点から整理する. 第 1 は「公共財」であるが,公共財とは,他人を排除することが不可能かつ競合的でない 財・サービスのことである.労働市場においては,ある企業がある労働者を雇用すると他 企業はその労働者を雇用できず(排除性あり),ある労働者が雇用されると他の労働者の雇用 先が減少する(競合性あり).高年齢者の労働市場についてもそれは同様であることから,高 年齢者労働市場は私的財であって,公共財ではない. 第 2 は「外部性」であるが,外部性とは,市場取引を通じないで他者にもたらす利益又は 不利益のことである.労働への意欲と能力がある高齢者が長く働き続けることは,その高 齢者本人の健康増進に貢献する.それは家族をはじめとする周囲の介護負担等を軽減する 正の外部性をもたらすと考えられることから,政府介入には一定の合理性があると考えら れる. 第 3 は「情報の非対称」であるが,情報の非対称とは,財・サービスについて消費者と生 産者との間で知る情報に格差がある場合のことである.高年齢者労働市場においては,高 年齢労働者と企業との間の情報の非対称を考えた場合,その高年齢労働者を長い間雇って きた企業との間の情報の非対称は小さいが,それ以外の企業や職業紹介所等との間には情 報の非対称が存在する.高年齢労働者を適材適所に配置するために,法による雇用確保措 置義務化で,より情報の非対称が小さい長い間雇ってきた企業にその高年齢労働者につい

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7 てどんな職務に従事させるかを委ねるということには一定の合理性があると考えられる. 第 4 は「取引費用」であるが,取引費用とは,財やサービスの取引に際して要する時間・ 労力・金銭などの負担のことである.1人の高年齢労働者の職業マッチングを考えた場合, その高年齢労働者と長い間雇ってきた企業との間の情報の非対称は小さいが,それ以外の 企業や公的職業紹介所等との間にはそれよりも大きい情報の非対称が存在すると考えられ る.職業マッチングを行うに際しては,情報の非対称が小さい長い間雇ってきた企業が行 ったほうが取引費用は小さいと考えられ,また公的職業紹介所等の公的リソースを節約す ることもできることから,取引費用の観点からの政府介入には一定の合理性があると考え られる. 第 5 は「独占・寡占・独占的競争」であるが,独占とは,ある生産者がその製品の唯一の 生産者であって,製品の密接な代替財がない場合のことをいう.寡占とは,少数の売り手 が,類似又は同一製品を提供する市場であり,「独占的競争」とは,多くの企業が,類似し ているが同質でない製品を提供する市場のことである.高年齢者労働市場では企業も労働 者も数多く存在し,競争的であることから,政府介入を合理化することは困難である. 以上の「市場の失敗」の論拠から見ると,高年齢者の雇用確保措置の義務化は外部性,情 報の非対称性及び取引費用の面から一定の合理性があると考えられる. 3.2 雇用確保措置が導入された場合の賃金プロファイル 高年齢者の雇用確保措置導入にあたり,企業が考えなければいけないのが,65 歳まで高 年齢者を雇い続けるようにすることで新たに生ずるコストである.このコストは高年齢労 働者の人件費だけではない.2008 年実施の労働政策研究・研修機構の調査5によると,「高 齢者の雇用の場の確保にあたって,貴社で課題となっているのはどのような点ですか(複数 回答)」という問いに対し, 「高年齢社員の担当する仕事を自社内に確保するのが難しい」…27.2% 「管理職社員の扱いが難しい」…25.4% 「定年後も雇用し続けている従業員の処遇の決定が難しい」…20.8% 「生産性が低下する」…12.9% 「高年齢社員を活用するノウハウの蓄積がない」…12.4% 「若・壮年層社員のモラールが低下する」…7.5% という回答が得られており,人件費以外にも企業が考慮しなければならないコストが生じ ていることが分かる(「人件費負担が増す」は 16.1%).これらのコストのほかにも,その企業 の雇用確保措置のルールを定めることなど雇用確保措置の導入自体に関するコストもかか る.これらのコストに対しては,現役世代労働者の賃金を減額する,雇用確保措置のよっ て雇われた高年齢労働者の賃金を定年時から大きく引き下げるなどの企業行動が考えられ 5 労働政策研究・研修機構(2008)「高齢者の雇用・採用に関する調査」

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8 るが,これらの内容について60 歳を定年とする賃金プロファイルを用いて説明する. 労働経済学では,年齢と賃金の関係を賃金プロファイルと呼び,図 1 は労働者の企業へ の貢献と給与の関係を示したものである.樋口(2001)によると,年功賃金体系の下では,若 い社員は教育訓練を受け,純貢献が低いにもかかわらず,それ以上の給与を企業は支払う. 経験を積むにしたがって労働者の生産性は向上し,給与も引き上げられるが,生産性の上 昇に比べれば給与の上昇幅は小さく,図 1 のように,いつか両者は逆転し,生産性が給与 を追い越すことになる.そして定年間近になると,労働者の生産性の伸びが鈍化すること で再び両者は逆転し,給与が生産性を上回るとされている.このようにそれぞれの年齢時 点ではその労働者の企業にもたらす貢献と給与は一致していないが,生涯を通じてみると, その労働者が企業にもたらした貢献の総額と給与総額は一致する.つまり企業は図 1 の① と③で投じた費用を②の部分で回収しようとし,①+②+③=0 が成り立つことになる. 図1 年功賃金体系による賃金プロファイル この賃金プロファイルを用いて,まず雇用確保措置のうち全企業の約 8 割が導入してい る継続雇用制度を導入したときの企業の対処策について考える.継続雇用者には定年前と 異なる仕事が割り当てられるケースも多いため,その生産性は下がることはあっても上昇 する可能性は少なく,加えて雇用確保措置の導入には,前述のとおり,導入それ自体のコ ストもかかるので,それを差し引いた継続雇用者の企業への貢献は定年前よりも低い.以 上を前提としたとき,企業の対処策は大きく分けて 2 つ考えられる.ひとつが継続雇用後 は賃金と生産性を等しくすることで現役世代の賃金に影響を与えないケース,もうひとつ が現役世代の賃金を減らすことで,継続雇用者の生産性に対し高い賃金の超過分をまかな うケースである.ちなみに2012 年に社団法人日本経済団体連合会が実施した調査では,「高 年齢者雇用安定法の改正にともない必要となる対応」として回答企業の13.3%が「60 歳到達 前の従業員の処遇を引き下げる」と回答している6 まずひとつめの継続雇用後は賃金と生産性を等しくするケースであるが,このケースの 6(社)日本経済団体連合会「2012 年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査」 生産性 ③ ② 給与 ① 22 30 40 50 55 60 (年齢) 定年 (賃金・生産性)

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9 賃金プロファイルは図2 のようになる.60 歳以前の賃金体系には手をつけず,継続雇用者 の生産性に見合った賃金を支払う.この場合,継続雇用者の生産性と賃金が一致している ため,①+②+③=0 は維持されることになる.トヨタ自動車はこの方式の導入を検討してお り,継続雇用者の処遇について,定年退職時の 5 割程度を基本に,能力や働き方に応じて 差をつけるというものである7.また希望者全員を継続雇用できるように,清掃や草刈りな どの軽作業に従事できる制度を設けることも検討している8 図2 現役世代の賃金が減らない場合(継続雇用導入)の賃金プロファイル 次にふたつめの現役世代の賃金を減らし,継続雇用者の生産性に対し高い賃金の超過分 をまかなうケースでは,図3 のような賃金プロファイルになる.図 1 のもともとの賃金プ ロファイルで①+②+③=0 だったものに新たに④というマイナス部分が加わるため,その分 の調整を賃金カーブの傾きを緩やかにすることで対処する.実際には NTT が 2013 年 10 月からこの方式を導入している.NTT では,30 代半ば~50 代の賃金の成果連動部分を拡 大し,基本給部分を減少させることで現役世代全体の賃金を減らしている9 図3 現役世代の賃金が減少する場合(継続雇用導入)の賃金プロファイル 続いて定年を引き上げた場合の賃金プロファイルについて考えてみる.定年を引き上げ た場合,労使の合意等がなければ,賃金を引き下げることができないので,60 歳以上労働 7 2013.1.26 週刊東洋経済 8 2013.2.18 朝日新聞 9 2013.10.14 エコノミスト臨時増刊,2013.1.26 週刊東洋経済   (賃金・生産性) 継続雇用 生産性 ③ ② 賃金 ① 22 30 40 50 55 60 65 (年齢) 定年 継続雇用者の賃金 継続雇用者の生産性 給与と企業への貢献が等 しいのでコストは生じない 継続雇用 生産性 ③´ ②´ 賃金´ ①´ 22 30 40 50 55 60 65 (年齢) 定年   (賃金・生産性) 継続雇用者の賃金 継続雇用者の生産性 ④継続雇用により、新た に企業に生じるコスト

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10 者の賃金は維持される.一般的な賃金プロファイルにおいては,60 歳以上労働者の賃金は その生産性を上回っているので,定年を引き上げた場合も,企業にとってのマイナス部分 が生じることとなる.よって図 4 のように現役世代の賃金を下げると考えられ,またその 下げ幅は継続雇用よりも大きいと考えられる.しかし,実際には65 歳まで定年を延長して いる企業でも60 歳後の賃金を引き下げた上で定年延長を行っているケースが多い.大和ハ ウス工業は2013 年 4 月から 65 歳定年制を導入しているが,60 歳以上の給与水準は平均で 60 歳時の 6~7 割となるような賃金体系となっている10 図4 定年を引き上げた場合の賃金プロファイル 以上継続雇用制度導入及び定年引上げ実施の行ったときに予測されるケースについて考 察を行ってきたが,現役世代の賃金を減らすケースにせよ,継続雇用者の賃金と生産性を 等しくするケースにせよ,ひとりの労働者が生涯で企業にもたらした貢献の総額と賃金総 額が一致することに変わりはない.企業側は,労使交渉を経さえすれば,新たに高年齢労 働者を雇うコスト及び雇用確保措置を導入することによって生じるコストを現役世代もし くは継続雇用者の賃金に転嫁し,マイナス分を補うことができるからである.結局雇用確 保措置を導入しようが賃金と生産性は一致させることができるので,雇用確保措置が賃金 プロファイルにおいて歪みを生じさせているとは言えない. しかし労働者側にとっては事情が異なる.Lazear(1998)は,日本型年功賃金における経 済学的な理論モデルとして,後払い賃金仮説を指摘した.この仮説では,労働者の努力水 準を使用者が直接観察できない場合に,若年期には生産性以下の賃金を支払い,企業が潰 れず業績が好調であれば,中高年期に生産性以上の賃金を支払う年功賃金体系によって, 労働者のインセンティブを維持できるとする.しかしこの年功賃金体系は,労働者側の視 点からみれば,後払いの中高年期を経て,定年までその企業で働かなければ損をするとい う仕組みに他ならない.つまり,高年期になり,その時点で自分の人的資本を活かして, より自分の能力が発揮できる他企業に移りたいと考えた人の配置に歪みをもたらす.定年 制の雇用保障機能と引き換えに雇用の流動性ひいては高年齢労働者の適材適所を阻害して いるのである.ここで雇用確保措置導入によって現役世代の賃金を下げるということは, 賃金後払いの期間が長くなるということを意味する.よって雇用確保措置の導入は,年功 10 2013.1.26 週刊東洋経済 定年延長 生産性   賃金´´ 22 30 40 50 55 60 65 (年齢) 定年   (賃金・生産性) 60歳以上労働者の生産性 60歳以上労働者の賃金 ④定年延長により、新た に企業に生じるコスト

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11 賃金体系が持つ雇用流動性及び高年齢労働者の適材適所の阻害をさらに助長していると言 える. 3.3 雇用確保措置義務化と適材適所 3.1 で述べたとおり,適材適所の配置という観点から見ると,より情報の非対称が小さい 企業に高年齢労働者の職務の内容を委ねるということには一定の合理性があると言える. しかしその企業で引き続き雇用させるということまでに合理性があるとは言えない.その 高年齢労働者に適した仕事が必ずしもその企業にあるとは限らないからである.例えば, 技能伝承の必要性があるような専門的業務を取り扱う企業にとっては,熟練した技能を持 つ高年齢労働者は不可欠な存在であり,自社内で引き続き高年齢労働者を適所に配置する ことは容易であるが,逆に肉体労働など高年齢労働者に過酷な業務を取り扱う企業にとっ ては,自社内にその高年齢労働者に適した仕事を見つけることが難しい.それらの企業に 対して一律に自社(またはその関係グループ企業等)で雇用し続けることを義務づけるこ とについては高年齢労働者の適材適所の配置の観点から効率的とはいえないと考えられる.

4. 高年齢者雇用確保措置の導入効果及び義務化に関する実証分析

本章では,高年齢者の雇用確保措置を導入することで生じる影響を実証分析するにあた り,以下のとおり仮説を設定した. 仮説 1「雇用確保措置を設けたことで,措置対象となる 60~64 歳以外の現役世代労働者の 賃金が低下したのではないか」 また高年齢者雇用安定法においては,雇用確保措置が高年齢者に適した仕事がない企業 も含めた全企業一律に義務化されていることに関連し,高年齢者に適した仕事の有無がど のような要因によって決定されるかを実証するため, 仮説2「高年齢者に適した仕事の有無は業種によって違いがあるのではないか」 仮説 3「高年齢者に適した仕事の有無は技術伝承の必要性によって違いがあるのではない か」 を設定した.以降において以上3 つの仮説を検証する. 4.1 雇用確保措置と現役世代労働者の賃金に関する実証分析 まず仮説 1「雇用確保措置を設けたことで,措置対象となる 60~64 歳以外の現役世代労 働者の賃金が低下したのではないか」について実証分析を行う. 4.1.1 仮説 1 の分析方法と実証モデル 分析方法は,労働政策研究・研修機構が企業に向けて実施した「高年齢者の継続雇用の実 態に関する調査(2006 年 10 月)」の個票データから現役世代の賃金を被説明変数とする推計 式を構築し,OLS(最小二乗法)を用いた回帰分析を行う.解析ソフトは STATA を用いる.

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12 また使用するデータは,2006 年 4 月の雇用確保措置義務化から間もない 2006 年 10 月時 点の調査結果であるため,義務化されたことで初めて措置を設けた企業の賃金体系の変化 を拾えていない可能性がある.そこで,法改正前から雇用確保措置を導入している企業と 改正後に導入した企業の現役世代の賃金を比較することで,雇用確保措置を導入して長い 企業とそうでない企業の関係を見ることとし,推定式1 を構築した. 【推定式1】 (ln 初任給から各年代平均月給の合計) =β0 +β1(改正前から雇用確保措置有ダミー) +β2(継続雇用者の賃金水準) +β3(継続雇用者年収の企業年金割合) +β4(継続雇用者年収の公的給付割合) +β5(60 歳以上の継続雇用率) +β6(従業員数ダミー4 種) +β7(業種ダミー15 種) +β8(直近売上高) +β9(直近営業利益) +β10(売上高 5 年前との比較ダミー) +β11(営業利益 5 年前との比較ダミー) +β12(労働組合有ダミー) +ε 4.1.2 仮説 1 で使用するデータ 被説明変数の「ln 初任給から各年代平均月給の合計」は,初任給,30 歳,40 歳,50 歳, 55 歳,定年時の各年代時における平均的給与月額の合計の対数値である.また使用データ の都合上,ここで用いている初任給は,労働政策研究・研修機構より提供を受けた「15 万円 未満」,「15~20 万円未満」,「20 万円以上」の3つの初任給階層データについて,それぞれ 15 万円,17.5 万円,20 万円に変換している.そのほかの年代の平均的給与月額については, 調査で回答された各年代の「初任給を 100 としたときのおおよその指数」に初任給を乗じた ものを用いている. 「改正前から雇用確保措置有ダミー」は,「2004 年高年齢者雇用安定法の改正内容を知って から,高年齢者の継続雇用について以下の対応策(1.改正以前から,改正の内容で対応済み 2.再雇用制度の新設 3.再雇用制度の変更 4.勤務延長制度の新設 5.勤務延長制度の変更 6.定 年年齢の引き上げ 7.定年制の廃止 8.その他 9.講じていない)を講じましたか」という複数回 答の問いに対し,「改正以前から,改正の内容で対応済み」を選択したものを1,選択しなか ったものを0 とするダミー変数である.

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13 「継続雇用者の賃金水準」は,「継続雇用制度活用者の年収水準は,定年到達時の年収水準 (退職金を除く)と比較した場合,どのくらいになるように設定していますか」という問いに 対し,「定年到達時の年収より多い」を115,「ほぼ同程度」を 100,「8~9 割程度」を 85,「6 ~7 割程度」を 65,「半分程度」を 50,「3~4 割程度」を 35,「3 割未満」を 15 に変換してい る. 「継続雇用者年収の企業年金割合」は,継続雇用者の年収総額を100%とした場合の企業年 金支給部分の占める割合である. 「継続雇用者年収の公的給付割合」は,継続雇用者の年収総額を100%とした場合の在職老 齢年金や高年齢雇用継続給付などの公的給付の占める割合である. 「60 歳以上の継続雇用率」は,「雇用確保措置によって,毎年,何%程度の人が 60 歳以降 も継続して雇用されていますか.過去3 年間でのおおよその平均でお答えください」という 問いに対し,「10%未満」を 5,「10~30%未満」を 20,「30~50%未満」を 40,「50~70%未 満」を60,「70~90%未満」を 80,「90~100%未満」を 95,「全員」を 100 に変換している.「継 続雇用制度を新設したばかりで対象者がいない」,「60 歳到達者がいない」と回答した企業に ついては,分析対象から削除している. 「従業員数ダミー4 種」は,「300 名未満ダミー」,「300~499 名未満ダミー」,「500~999 名未満ダミー」,「1000 名以上ダミー」の 4 種類に分け,それぞれ該当企業を 1,それ以外を 0 とするダミー変数である. 「業種ダミー15 種」は,「建設業」,「一般機械器具製造業」,「輸送用機械器具製造業」,「精 密機械器具製造業」,「電気機械器具製造業」,「その他の製造業」,「電気・ガス・熱供給・ 水道業」,「情報通信業」,「運輸業」,「卸売・小売業」,「金融・保険業」,「不動産業」,「飲 食業・宿泊業」,「サービス業」,「その他」の15 種類で,それぞれ該当企業を 1,それ以外を 0 とするダミー変数である. 「直近売上高」は,「50 億未満」を 25,「50~100 億未満」を 75,「100~300 億未満」を 200, 「300~500 億未満」を 400,「500 億以上」を 500 に変換している. 「直近営業利益」は,「マイナス」を 0,「0~1 億未満」を 0.5,「1~5 億」を 3,「5~10 億」を 7.5,「10~50 億」を 30,「50 億以上」を 50 に変換している. 「売上高5 年前との比較ダミー」は,「増えた」,「やや増えた」,「変わらない」,「やや減っ た」,「減った」の5 種類で,それぞれ該当企業を 1,それ以外を 0 とするダミー変数である. 「営業利益5 年前との比較ダミー」は,「増えた」,「やや増えた」,「変わらない」,「やや減 った」,「減った」の5 種類で,それぞれ該当企業を 1,それ以外を 0 とするダミー変数であ る. 「労働組合有ダミー」は,「常設的な労使協議機関がありますか」という問いに対し,「ある」 と回答した企業を1,「ない」と回答した企業を 0 とするダミー変数である. 現役世代賃金の分析に使用する変数の基本統計量は,表3 に示してある.

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14 表3 基本統計量 4.1.3 仮説 1 の推定結果 推定式1 の結果は表 4 のとおりである.「改正前から雇用確保措置有ダミー」は,係数が 有意にマイナスであり,改正前に雇用確保措置を導入した企業は,そうでない企業に比べ 賃金水準が低いという結果が得られた.これは雇用確保措置が導入されて長い企業のほう がそれに合わせた賃金体系になっているため,すでに賃金カーブが緩やかになっているた めであると考えられる.改正後に導入した企業は,2006 年 4 月の法施行後から間もないた め,2006 年 10 月の調査時点では賃金カーブをまだ変えることができておらず,改正前か ら導入している企業よりも賃金が高い.しかし長期で見ると,改正後導入企業も改正前導 入企業のように現役世代労働者の賃金を抑制する可能性があると考えられる. 被説明変数 サンプル数 平均 標準偏差 最小値 最大値 ln初任給から各年代平均月給の合計 369 14.548 0.207 13.902 15.640 説明変数 サンプル数 平均 標準偏差 最小値 最大値 改正前から雇用確保措置有ダミー 369 0.211 0.409 0 1 継続雇用者の賃金水準(%) 369 64.702 16.161 15 100 継続雇用者年収の企業年金割合(%) 369 8.518 13.215 0 80 継続雇用者年収の公的給付割合(%) 369 18.428 13.936 0 65 60歳以上の継続雇用率(%) 369 66.260 30.835 5 100 従業員数300名未満ダミー 369 0.049 0.216 0 1 従業員数300~499名未満ダミー 369 0.358 0.480 0 1 従業員数500~999名未満ダミー 369 0.325 0.469 0 1 従業員数1000名以上ダミー 369 0.268 0.444 0 1 建設業ダミー 369 0.087 0.282 0 1 一般機械器具製造業ダミー 369 0.062 0.242 0 1 輸送用機械器具製造業ダミー 369 0.038 0.191 0 1 精密機械器具製造業ダミー 369 0.011 0.104 0 1 電気機械器具製造業ダミー 369 0.038 0.191 0 1 その他の製造業ダミー 369 0.119 0.325 0 1 電気・ガス・熱供給・水道業ダミー 369 0.008 0.090 0 1 情報通信業ダミー 369 0.016 0.127 0 1 運輸業ダミー 369 0.100 0.301 0 1 卸売・小売業ダミー 369 0.244 0.430 0 1 金融・保険業ダミー 369 0.022 0.146 0 1 不動産業ダミー 369 0.003 0.052 0 1 飲食業・宿泊業ダミー 369 0.024 0.154 0 1 サービス業ダミー 369 0.182 0.386 0 1 その他業種ダミー 369 0.046 0.210 0 1 直近売上高(億円) 369 263.618 175.811 25 500 直近営業利益(億円) 369 15.667 16.736 0 50 5年前より売上高増ダミー 369 0.463 0.499 0 1 5年前より売上高やや増ダミー 369 0.154 0.362 0 1 5年前と売上高変化無ダミー 369 0.043 0.204 0 1 5年前より売上高やや減ダミー 369 0.154 0.362 0 1 5年前より売上高減ダミー 369 0.184 0.388 0 1 5年前より営業利益増ダミー 369 0.401 0.491 0 1 5年前より営業利益やや増ダミー 369 0.165 0.372 0 1 5年前と営業利益変化無ダミー 369 0.065 0.247 0 1 5年前より営業利益やや減ダミー 369 0.152 0.359 0 1 5年前より営業利益減ダミー 369 0.217 0.413 0 1 労働組合有ダミー 369 0.545 0.499 0 1

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15 表4 推定結果 1(OLS) 注)***,**,*は,それぞれ 1%,5%,10%の水準で統計的に有意であることを示す. また推定式 1 の被説明変数の平均賃金について,合計ではなく各年代別に分けて推計を 行った結果が表5 である.初任給から 40 歳時までの給与は有意ではなかったが,50 歳時, 55 歳時,定年時の平均給与については,「改正前から雇用確保措置有ダミー」についてマイ ナスに有意であった.なお被説明変数の「定年時」はその企業の定年年齢により異なる.本 推計においては区別をしなかったため「定年時」には60 歳と 65 歳のいずれも含んでいる. 表5 推定結果 2(OLS) 注)***,**,*は,それぞれ 1%,5%,10%の水準で統計的に有意であることを示す. 4.2 高年齢者に適した仕事の有無の決定要因に関する実証分析 高年齢者に適した仕事の有無は,その企業の取り扱う業務の性質や状況によって異なる こと及びその決定要因を分析するため,その企業における高年齢労働者の仕事確保の困難 度に着目した.その企業のどのような要因が高年齢労働者の仕事確保の困難度に影響を与 えているのかを実証するため, 仮説2「高年齢者に適した仕事の有無は業種によって違いがあるのではないか」 仮説 3「高年齢者に適した仕事の有無は技術伝承の必要性によって違いがあるのではない か」の2 つの仮説について実証分析を行う. 4.2.1 仮説 2 の分析方法と実証モデル まず仮説 2 の「高年齢者に適した仕事の有無は業種によって違いがあるのではないか」に ついて分析するため,前述の実証分析と同じ「高年齢者の継続雇用の実態に関する調査」の 個票データを用いて,推定式2 を構築した.被説明変数には「高年齢社員担当の仕事を自社 に確保するのが困難ダミー」を置き,高年齢労働者の仕事確保の困難に影響を与えると考え られる業種を説明変数とするプロビット分析を行う. 被説明変数:初任給から各年代平均月給の合計(log) 係数 標準誤差 -0.057 ** 0.0259 観測数 369 調整済決定係数 0.1899 説明変数 改正前から雇用確保措置有ダミー 被説明変数 係数 標準誤差 合計 -0.057 ** 0.0259 初任給 -0.003 0.0089 30歳時 0.002 0.0226 40歳時 -0.023 0.0274 50歳時 -0.073 ** 0.0308 55歳時 -0.095 *** 0.0337 定年時 -0.088 ** 0.0385

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16 【推定式2】 (高年齢社員担当の仕事を自社に確保するのが困難ダミー) =β0 +β1(60 歳以上の継続雇用率) +β2(従業員数ダミー4 種) +β3(業種ダミー15 種) +β4(直近売上高) +β5(直近営業利益) +β6(売上高 5 年前との比較ダミー) +β7(営業利益 5 年前との比較ダミー) +ε 4.2.2 仮説 2 で使用するデータ 被説明変数には「高年齢社員を対象とした雇用の場の確保や継続雇用措置の実施にあた って,貴社で課題となっているのはどのような点ですか」という問いに対し,「高年齢社員 の担当する仕事を自社内に確保するのが難しい」を選択したものを 1,しなかったものを 0 とする「高年齢社員担当の仕事を自社に確保するのが困難ダミー」を置いている. 説明変数に用いている「60 歳以上の継続雇用率」,「従業員数ダミー4 種」,「業種ダミー15 種」,「直近売上高」,「直近営業利益」,「売上高5 年前との比較ダミー」,「営業利益 5 年前 との比較ダミー」については推定式1 と同様である. 仮説2 の分析に使用する変数の基本統計量は,表 6 のとおりである. 表6 基本統計量 被説明変数 サンプル数 平均 標準偏差 最小値 最大値 高年齢社員担当の仕事を自社に確保するのが困難ダミー 585 0.378 0.485 0 1 説明変数 サンプル数 平均 標準偏差 最小値 最大値 60歳以上の継続雇用率(%) 585 64.812 32.091 5 100 従業員数300名未満ダミー 585 0.062 0.241 0 1 従業員数300~499名未満ダミー 585 0.345 0.476 0 1 従業員数500~999名未満ダミー 585 0.304 0.460 0 1 従業員数1000名以上ダミー 585 0.289 0.454 0 1 建設業ダミー 585 0.085 0.280 0 1 一般機械器具製造業ダミー 585 0.060 0.237 0 1 輸送用機械器具製造業ダミー 585 0.041 0.199 0 1 精密機械器具製造業ダミー 585 0.010 0.101 0 1 電気機械器具製造業ダミー 585 0.036 0.186 0 1 その他の製造業ダミー 585 0.130 0.336 0 1 電気・ガス・熱供給・水道業ダミー 585 0.009 0.092 0 1 情報通信業ダミー 585 0.014 0.116 0 1 運輸業ダミー 585 0.099 0.299 0 1 卸売・小売業ダミー 585 0.227 0.419 0 1 金融・保険業ダミー 585 0.026 0.158 0 1 不動産業ダミー 585 0.005 0.071 0 1 飲食業・宿泊業ダミー 585 0.034 0.182 0 1 サービス業ダミー 585 0.186 0.390 0 1 その他業種ダミー 585 0.038 0.190 0 1 直近売上高(億円) 585 263.633 178.185 25 500 直近営業利益(億円) 585 16.024 17.160 0 50 5年前より売上高増ダミー 585 0.465 0.499 0 1 5年前より売上高やや増ダミー 585 0.162 0.369 0 1 5年前と売上高変化無ダミー 585 0.065 0.247 0 1 5年前より売上高やや減ダミー 585 0.145 0.353 0 1 5年前より売上高減ダミー 585 0.179 0.384 0 1 5年前より営業利益増ダミー 585 0.421 0.494 0 1 5年前より営業利益やや増ダミー 585 0.161 0.368 0 1 5年前と営業利益変化無ダミー 585 0.065 0.247 0 1 5年前より営業利益やや減ダミー 585 0.142 0.349 0 1 5年前より営業利益減ダミー 585 0.212 0.409 0 1

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17 4.2.3 仮説 2 の推定結果 推定式2 の結果は表 7 のとおりである.15 種類の業種ダミーのうち,精密機械器具製造 業と情報通信業,卸売・小売業ダミーが「高年齢社員担当の仕事を自社に確保するのが困難 ダミー」にプラスに有意な影響を与えているという結果が得られた.精密機械器具製造業は 技術革新が著しい医療機器の製造を含んでおり,また情報通信業も IT・マスメディア関係 を含むなど,技術革新のスピードが速い産業ということができる.これらの産業が高齢社 員の仕事を確保するのが困難であるという結果が得られたのは,技術革新の速度が速い企 業は蓄積したノウハウが陳腐化しやすいため,高年齢社員の活用が難しくなっているため と考えられる. 表7 推定結果(プロビット分析) 注)***,**,*は,それぞれ 1%,5%,10%の水準で統計的に有意であることを示す. 4.2.4 仮説 3 の分析方法と実証モデル 続いて仮説3 の「高年齢者に適した仕事の有無は技術伝承の必要性によって違いがあるの ではないか」について検証するため推定式 3 を構築した.被説明変数には先ほどと同じ「高 年齢社員担当の仕事を自社に確保するのが困難ダミー」を入れ,新たな説明変数として「高 年齢社員は技術伝承のため不可欠有無ダミー」を入れてプロビット分析を行う. 【推定式3】 (高年齢社員担当の仕事を自社に確保するのが困難ダミー) =β0 +β1(高年齢社員は技術伝承のため不可欠有無ダミー4 種) +β2(60 歳以上の継続雇用率) +β3(従業員数ダミー4 種) 被説明変数:高年齢社員の仕事確保が困難ダミー 係数 標準誤差 限界効果 標準誤差 -0.075 0.314 -0.028 0.118 0.270 0.336 0.102 0.126 1.039 * 0.582 0.391 * 0.219 0.521 0.349 0.196 0.131 0.207 0.256 0.078 0.096 0.438 0.634 0.165 0.239 0.961 * 0.512 0.362 * 0.193 0.142 0.284 0.053 0.107 0.608 *** 0.233 0.229 *** 0.088 0.495 0.402 0.186 0.151 0.250 0.826 0.094 0.311 -0.152 0.398 -0.057 0.150 0.269 0.252 0.101 0.095 0.030 0.362 0.011 0.136 ※基準は建設業 観測数 585 疑似決定係数 0.0959 限界効果推定(平均値で評価) 説明変数 精密機械器具製造業 情報通信業 卸売・小売業 電気機械器具製造業 一般機械器具製造業 輸送用機械器具製造業 電気・ガス・熱供給・水道業 運輸業 その他製造業 金融・保険業 不動産業 飲食業・宿泊業 サービス業 その他

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18 +β4(業種ダミー15 種) +β5(直近売上高) +β6(直近営業利益) +β7(売上高 5 年前との比較ダミー) +β8(営業利益 5 年前との比較ダミー) +ε 4.2.5 仮説 3 で使用するデータ 説明変数として入れる「高年齢社員は技術伝承のため不可欠有無ダミー」は「高年齢社員 が技術伝承のため不可欠であるか」という問いに対する 4 種の回答「そう思う,どちらかと いえばそう思う,どちらかといえばそう思わない,そう思わない」を,「技術伝承のため不 可欠だと思う」,「技術伝承のため不可欠だとやや思う」,「技術伝承のため不可欠だとやや 思わない」,「技術伝承のため不可欠だと思わない」に変換し,それぞれ該当企業を 1,それ 以外を0 とするダミー変数としている.推定式には「技術伝承のため不可欠だと思わないダ ミー」以外を入れている. 仮説3 の分析に使用する変数の基本統計量は,表 8 のとおりである. 表8 基本統計量 4.2.6 仮説 3 の推定結果 推定式3 の結果は表 9 のとおりである.「高年齢社員が技術伝承のため不可欠だと思うダ ミー」は,基準としておいた「技術伝承のため不可欠だと思わない」企業と比べて,「高年齢 社員の仕事確保が困難ダミー」にマイナスの影響を与えている.つまり高年齢社員が技術伝 承のため不可欠だと考えている企業は,高年齢社員の仕事を確保しやすいということがで きる.これは技術伝承が不可欠な業務を扱う企業には,熟練技能が蓄積された高年齢労働 者が活躍できる場があるためと考えられる. 表9 推定結果(プロビット分析) 注)***,**,*は,それぞれ 1%,5%,10%の水準で統計的に有意であることを示す. 説明変数 サンプル数 平均 標準偏差 最小値 最大値 技術伝承のため不可欠だと思うダミー 585 0.256 0.437 0 1 技術伝承のため不可欠だとやや思うダミー 585 0.528 0.500 0 1 技術伝承のため不可欠だとやや思わないダミー 585 0.179 0.384 0 1 技術伝承のため不可欠だと思わないダミー 585 0.036 0.186 0 1 被説明変数:高年齢社員の仕事確保が困難ダミー 係数 標準誤差 限界効果 標準誤差 -0.668 ** 0.321 -0.251 ** 0.121 -0.436 0.308 -0.164 0.116 -0.066 0.326 -0.025 0.122 観測数 585 疑似決定係数 0.113 限界効果推定(平均値で評価) 説明変数 技術伝承のため不可欠だと思う 技術伝承のため不可欠だとやや思う 技術伝承のため不可欠だとやや思わない ※基準は「技術伝承のため不可欠だと思わない」

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5. まとめ

雇用確保措置を導入して長い企業は,50 歳時,55 歳時,定年時の労働者の賃金が有意に 低下していた.よって導入して長い企業は雇用確保措置導入を見込んだ賃金カーブに修正 ができていると考えられる.そして法改正後に措置を導入した企業も長期的には賃金カー ブを変える可能性がある.また現役世代の賃金カーブを変え,賃金の後払い期間を延長す ることは雇用の流動性及び高年齢労働者の適材適所の阻害の助長にもつながる. また高年齢者に適した仕事の有無という観点から見ると,精密機械器具製造業や情報通 信業など技術革新の速度が速い産業の企業は,高年齢者の担当する仕事を確保するのが難 しいという実証結果が得られた.また技術伝承のため高年齢社員が必要だと考える企業は, 高年齢者の担当する仕事を確保しやすいということも明らかとなった.以上の結果から企 業の性質によって,高年齢者に適した仕事があるかどうかは異なることが分かった.

6. 政策提言

実証されたように高年齢者に適した仕事の有無には,企業の業種や技術伝承の必要性に よって異なるにも関わらず,高年齢者雇用安定法ではどの企業に対しても一律に雇用確保 措置を義務化している.この一律義務化は,雇用確保措置導入による現役世代の賃金カー ブ変更とあわせ,高年齢労働者の適材適所の配置を阻害していると考えられる. その解決の手段としては,高年齢者の仕事確保の困難さと業種の関係において更なる分 析をした上で,全企業一律ではなく,業種ごとに法定雇用率を設け,法定雇用率を下回っ た企業は,上回った企業と取引できるようにすることが有効と考えられる.ただしこの策 は最適な雇用率の設定に限界がある. その他の方策としては,長年雇ってきた企業が関わることで情報の非対称が軽減できる のであれば,現行法のように継続雇用で働かせる場所を自社及び関係グループ企業等に限 定するのではなく,長年雇ってきた企業が就職先を紹介すれば良いようにすることも考え られる.高年齢者に適した仕事がない自社やその関係グループ企業等で雇わずに,適した 仕事がある他の企業で働けるようにする政策にすれば,現状よりも高年齢労働者の適材適 所を満たすことができ,効率性の改善が期待できると考えられる.

7. 分析の限界と今後の課題

本研究においては,設定した仮説がほぼ支持されるという結果になったが,本研究にお いて行った実証分析には限界があることから,今後の課題について整理する. まず第 4 章の実証分析においては,データの制約から,改正前導入企業と改正後導入企 業の現役世代の賃金を比較し,雇用確保措置導入企業の長期と短期の関係を見ることとし た.しかし,同一企業の雇用確保措置導入前後の比較を行うことができれば,より精度の 高い分析が可能になると考えられる. また本研究は高年齢者雇用安定法の2004 年改正を研究対象として取り扱ったが,第 2 章

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20 で言及したとおり,継続雇用制度対象者の選抜を行うことができなくなる改正が2012 年に 行われた.今後の高齢者雇用対策を考えていく上では,2012 年改正の影響についても詳細 な分析をしていく必要があると考えられる. 謝辞 本論文の執筆にあたり,福井秀夫教授(プログラムディレクター),安藤至大客員准教授(主 査),岡本薫教授(副査),矢崎之浩助教授(副査),戸田忠雄客員教授(副査)に理論分析・実証 分析及び政策提言まで熱心かつ丁寧なご指導をいただいたほか,橋本和彦助教授をはじめ, まちづくりプログラム並びに知財プログラムの関係教員の皆様からも大変貴重なご意見を いただきました.ここに深く感謝申し上げます. あわせて,多忙な業務の中,高齢者雇用に関するデータをご提供いただいた労働政策研 究・研修機構のご担当者様にも,この場を借りまして深く感謝申し上げます. また,政策研究大学院大学での研究の機会を与えてくださった派遣元に深く感謝申し上 げます. そして,この貴重な一年間を共に過ごし,様々な苦楽を共に乗り越えたまちづくりプロ グラム並びに知財プログラムなどの同期生の皆様にも感謝申し上げます. 本稿は,高年齢者の雇用確保措置に関する個人的な見解を示したものであり,筆者の所 属機関の見解を示したものではありません.本稿にある誤りは全て筆者の責任です. 参考文献 ・安藤至大(2008)「労働政策を策定・評価する際に経済学が果たすべき役割」日本労働研究 雑誌 ・安藤至大(2013)『ミクロ経済学の第一歩』有斐閣 ・大竹文雄(1998)『労働経済学入門』日本経済新聞社 ・太田聰一(2012)「雇用の場における若年者と高齢者」日本労働研究雑誌 ・佐々木勝(2011)「賃金はどのように決まるのか」日本労働研究雑誌 ・樋口美雄(2001)『人事経済学』生産性出版 ・福井秀夫・大竹文雄(2006)『格差社会と雇用法制』日本評論社 ・福井秀夫(2007)『ケースからはじめよう 法と経済学』日本評論社 ・三谷直紀(2003)「年齢-賃金プロファイルの変化と定年延長」国民経済雑誌 ・森戸英幸(2014)「高年齢者雇用安定法―2004年改正の意味するもの」日本労働研究雑誌 ・山田篤裕(2008)「高齢者就業率の規定要因」日本労働研究雑誌 ・労働政策研究・研修機構(2007)『高齢者継続雇用に向けた人事労務管理の現状と課題』 労働政策研究・研修機構 ・労働政策研究・研修機構(2012)『高齢者雇用の現状と課題』労働政策研究・研修機構 ・E・ラジアー(1998)『人事と組織の経済学』日本経済新聞社

参照

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