論 壇
リス ト ラ時 代 の 物 流 コ ス トの 管理
西 澤 脩 *
〈研 究 要旨〉
バ ブル 経 済の 崩 壊 に伴い ,産 業界はい ま ダ ウン サ イ ジン グによ る リス トラが 強 く求
め ら れ,適正規 模 まで の 事 業規模の 縮小 に よ る減 収 増 益を 図 る必 要に迫ら れ て い る.
その た め に ,
“原 価 削 減の 宝 庫”
と称され る物流 に取 組み , 大 幅 なコ ス トダ ウ ン を断行 する こ とが 肝 要である.財 務 諸表上の 支 払 物 流 費は, メーカ ーで は売..ヒ高の 2 −3% に す ぎない が,総 物 流コ ス ト は売上高の 9% に も達 してい る の で ,売上高 純 利 益 率2% の
会 杜では物流 コ ス ト を10%削 減す る と,年商 を45%増 加さ せ たの と同 じ利益効 果が あ げ ら れ る.この ような物流 コ ス ト削 減の乗数 効 果 を 達 成 す る に は,物 流 会計を導入 し 実 践 す るこ と が その 前 提 と な る.その 一一
環 として ,筆 者 等は,1992 年に通商産 業 省で
『物流 コ ス ト算 定 ・活用マ ニ ュ ア ル』を制 定 し, 物 流 商 品 有 料 化 運 動に着 手 した.こ の た め,イ レギ ュ ラー物流 を要 請 した原 因 者には,当マ ニ ュ ア ル に基 づい て計 算し た物 流 コ ス ト増 加 額 を 転嫁す るこ とによっ て,価 格 メ カニ ズム を 通 じ物 流の 社 会 的 適 正 化 を実現する こ と が急 務と なる .
なお,本 稿は,1993 年 11月5 日 に九 州 産 業 大 学で 開 催さ れ た 日本 管 理 会 計 学 会 第3
回 全 国大 会に お い て行っ た 「記 念 講 演 」の内 容を草 稿した もの である .
〈 キ ー ワ ー ド〉
物流, ロ ジス ティ クス, リス ト ラ, 物流 コ ス ト, 物 流 会 計
1993年11月 受 付
*早 稲円大学 教 授 (商学 部 〕
1. ダ ウンサ イ ジン グに よる物 流 リス トラ
(1) ダ ウンサ イ ジン グ に よ る リス トラ ク チュ ア 1丿ン グ
1993 年 7 月 27 日に閣議で了承 さ れ た 「平成 5年 度 年 次 経 済 報告 』 (経 済 白書 )は ,2つ
の大 きな特 質 を有 して い た ,その 1つ は, 「… ・’89 年 5月 まで金 融 緩 和 政 策 を継 続した .
この よ うな政策 運営が … ・バ ブ ル発生の 一つ の 素 地と なっ たこ と は否定で きない 」 として 匚経 済企 画庁 ,1993,201 頁],’80 年代 後 半の 財 政 金 融 政 策の 失 敗が バ ブ ル発 生の 原 因 に な
っ た と政府の 経 済政策の失 敗 を 自ら公式 に認め た こ とで ある.こ れ は, 1947 年に第 1 回年 次 経 済報 告が 行われ て 以来 ,初 めて の 自己批 判 とい える .第2 の特 質は ,第4章で 「豊 か
さに向けた経 済の リス ト ラ ク チ ュ ア リン グ」 と 題 し, 初め て リ ス ト ラ問題 を正面か らとり あげたこ とであ る.
その う ち 企 業の リス トラ につ い て は ,第 2節 「リス トラ クチュ ア リング を 進 め る 企 業」
で, 大 要 , 次の ように 3つ の 視 点か ら, 企業の リス トラが促 進 さ れ れて い る こ と を公 式に 報告した [経済企画庁,1993 年,324 頁].
短期的視 点か ら 進 め ら れて い る緊急避難 的な経 費の 削 減 … ・設備投 資の圧縮 ,販 売 管理費の 削 減
長期 的視 点か ら進め られ てい る生産体 制の見直 し ・… 消 費者需 要に即 した無 駄の ない 製 品開発, 多品種小 量 生産体制の 見 直 し, 本業回帰へ の 動 き, 雇用 面 の新 しい 動 き
国際 的 な視点 を も考慮して進 め ら れて い る経営 姿勢の 見 直 し・… シ ェ ア争い ・横並 び 型 経営か ら 個性発 揮 型 経 営へ の 移 行
こ れ らの 焦点は, 固定 費の 削 減にあ り, その 具 体 策とし て , 設 備 投 資の 圧縮に よ る減 価 償 却 費の削 減 ,広 告 宣 伝 費 ・交 際 費等 販 売 管 理 費の削 減 , 人件 費の肖lj減 をあ げて い る ,こ
の うち広 告 宣伝 費, 交 際費及 び交通費は 3K と呼ばれ , その 削 減が 強化され て きた が, 3K
と して は 「冗費の 3K 」 と 「投資の 3K 」を識 別 すべ きで ある ,こ こ に冗費の 3K とは, 交
際費, 交通 費及び献 金の こ と で あ り, 投資の 3K とは研 究 開 発費, 広告宣伝 費 及び教 育訓 練 費の こ とで ある.冗費の 3K は断固節 減 する こと が必 要で あるが, 投 資の 3K は む しろ 積 極 的に投 資 し 将来の 成長 を支 えるべ きで あ る.この 点か らは , 広告宣伝 費や教 育訓 練 費 は,こ れ まで不 況 期に は 冗費の 3K と して一方 的切 り詰め が 図ら れて きた が, む しろ維持 ない し増 加 し販 売促 進に努め る こ とが推奨 され る.
上述 し たリス トラ と は果た して , 何か ,そもそ も, リス ト ラ とは, restructuring の こ と で , 語 源 的 には re (再)+ structure (事業構造)+ ing (構 築), つ ま り 「事 業 構 造の 再 構 築 」の こ とに外な ら ない .か か る事 業 構 造 再構 築の 手 段 と して, 近年, sizing が と り
あ げら れて きた .sizing と は, size (事業規模 )+ ing (増 減), つ まり事業 規模の 増減の こ
4
一
とで, ア ッ プサ イン グ (up −sizing )と ダ ウ ン サ イジ ング (down −sizing )の 2 つ が あ る.
バ ブル経 済 当 時は,ア ッ プ サ イ ジン グ (事 業 規 模の拡 大 )に よる リ ス トラ と して , M &A
(合 併 ・買 収), 新 製 品 開 発 , 新 領 域へ の 進 出等が 奨励 さ れて き た. とこ ろがバ ブル経 済 崩 壊 後は , ダ ウ ン サ イジ ン グ (事 業 規模の 縮小)によ る リス トラ と して, 人員整 理 , 赤 字 部 門の 閉鎖,冗 費3K の 削 減等が 強行さ れつ つ あ る.
しか し, ダ ウ ンサ イジ ン グ と は, 適 正 規 模 まで の 縮 小 の こ とで,適 正 規 模 を 超 え る規模
の 縮 小は, 会社の 整理 又は更生にす ぎない ,ダ ウ ンサ イ ジン グに よ る リス トラの名の 許 に, 事 業の失敗を 整 理 ・更生 さ せ よ う と す る風潮は厳に慎むべ きで ある. 要する に,バ ブ ル経 済 に よっ て 水膨 れ した事 業規 模 を適正 規 模 まで 縮 小 する こ と が , ダ ウ ンサ イジ ン グに よ る リス トラ であっ て , 事 業 失敗 に よる人員整理や事 業場 閉 鎖は, 会 社 整 理又は会杜 更生に 外 な ら ない .過食に よ る 太 り す ぎは標準 体重 まで ダ イエ ッ トすべ きで あ る が, 標 準 体重 を割
っ て まで減量 し 栄 養失調 に 陥い る こ とは,避 け ねば な ら ない.
(2) 物流 リス ト ラクチ ュ ア リングに よ る減 収 増益
バ ブ ル 経 済 時代は, 増 収 増益が 企 業目標 と さ れ, 地価と株 価の急 増に よ っ て労せ ずにそ れ が実 現さ れて きた. しか し, バ ブル 経 済 崩 壊 後は , 減 収 増益が 企 業 課題 と さ れ, その難 問 を解 決 する こ と が企業 存続の 生命 線 と され る に至っ た .減収減益が続け ば 企 業倒産 に 追
い 込まれ る の で ,深刻な 不況に よ っ て減 収 し て も, なお利益を確保 する こ と が 至上命 令 と なる.松下電 器 産 業で は,これ を “
ゼロ 成 長経 営”
と呼 称 し,谷 井昭雄 社長は, 1993 年9
月 19 日, 本 社 講 堂 に経 営 幹 部 約200 人 を 集 め, 「販 売 の伸 び率がゼ ロ で も, 利益 を きっ ち り確 保で きる, 強い 経営 体 質 を確立せ よ」 と訓 示 し, 「経営革新 プ ラ ン」の策定 を指 示 し た [週 間現 代,1993 ,190頁 ].
減 収 増 益 目 標 を 実現す るに は , 売 上 高 の 減 収 以 上 に原 価削 減を図る こ と が 不可 欠で ある.
と こ ろ が , 投 資の 3K は前 述の ように支出を維 持 すべ きで あ り, また製造原価の 削減 は 自 動化 ,省 力 化が 進ん だ現 在 多 くを期 待で きない が ,物 流コ ス ト は企業 努力に よっ て 大 幅に 削減 するこ と がで き る.こ の た め, 物 流は ”
コ ス ト ダウ ンの宝 庫”
と称 さ れ [西 澤 ,1973,
第4章], そ こに “
第三の 利 潤源”が探 求 さ れて きた [西 澤 ,1970].コ ス トダ ウ ン の宝 庫 説ない し第三 利潤 説が提唱 され て 既に 久しい が , リス ト ラ時代 を 迎 え, 再び その 重要説が 見直され つ つ ある.い ま, 日経三誌 (「日本 経 済新 聞』, 『日 経 流 通新聞』及 び 『日経産 業 新 聞』)か ら物 流 コ ス ト削 減の 成功 例 を抽 出し,一瞥 し て み れ ば, 以 下 の とお りで ある
[日経 ロ ジス テ ィ クス ,1993,2−9 月号 ],
弘前 精 機 ・… 首 都 圏の工場か ら輸 送 してい た部 品を弘 前で生産 し,物 流 コ ス ト を95%
削 減
・新日鉄 ・川鉄 … ・内航 船 運 行をコ ン ピュ ータ で 一
元管理 し, 同運航 費を新日鉄で は 年 間20億 円, 川鉄で は12億円削 減
・不二 製油 … ・大 阪か ら 全国 配送 して い た油 脂 加工 品を関東で生 産 し,売上高対 物流コ
ス ト率を8% か ら1% に 引下 げ
フ ァ ミリーマ ー ト… ・共 同 配送の 推 進等で トラ ッ クの 1 日の 店 着 台 数を半 減し, 物 流 コ ス トを3 割 削 減
・オーネッ ト… ・・ダン プカーに よる残土の 陸上輸 送を海上輸 送に変 更 し, 高 速道 路 使用 料の軽 減 等で輸 送 費を 15%削 減
・大 阪ガス ・… 物 流VAN で発 注か ら 納 入 まで を2 ヵ 月 か ら5−14 日 に 短 縮 し,月 間 在 庫 を
5年後に は 6割 減 ら し25億 円 に
・日 本 IBM … ・全国20 ヵ 所の倉庫を半 減 し, 直送 比 率 を 1 割か ら 5割に引上 げ, 95 年末 まで に年 間200 億 円の 物 流コ ス ト を3割 削 減
・富士 通 ・… 物 流コ ス トは前 期600 億 円 (売上高比 3%)をフ ァ ナ ッ ク等 を参 考に,2年 間で 17% 減の 500 億 円 まで削減
2. 物 流 コ ス トの 実 態 と当該 削 減の 乗 数 効果 理論
(1) わが国上場 会 社の 支払物 流費の 実 態
物流 コ ス ト は原価 削減 の宝庫 と称 して も, 物 流コ ス トの 総 額 が 僅 少 の もので あ れば , そ の削 減が 企業 利益 に及ぼす 影 響は微 少にす ぎない .果た し て物 流コ ス トの 実 態は, どうか. 上場 会 社 におい て は, 『証 券 取 引 法 』 第5 条に より 「有 価 証 券 報 告 書』を大 蔵 大 臣に提 出
し なけれ ば な ら ない が, その うち財 務 諸 表の用 語 ・様 式及 び作 成 方 法につ い て は, 『財 務 諸表 規 則』に基づ い て作成 す るこ と が強 制さ れて い る. 当該 規 則に よ れ ば,損 益 計 算 書は,
売上高か ら売上 原価 を控除 して 売上 総 利益 を求め,こ れ か ら販 売費 及び一般 管理費を差 引
い て営 業利益 を算 出 する こ とが義務づ け られ て い る [財務諸表規 則 ,1963,第83 条 及び第
89 条].こ の 場 合, 売上 原価で ある 製造原価は , 材 料費, 労 務費及 び経費に分類す る と 共 に, 販売 費 及び一般
管理費は,例 え ば次の ように分 類 し表示 する こ と が求め ら れ る [財 務 諸 表規 則 取扱要領,1963 ,第 167 及び第176].
・販 売 手 数料, 荷造費, 運 搬費, 広告 宣 伝 費, 見本 費 ,納入 試 験費
販 売 及び一般 管理業務に従事 する役 員 , 従業 員の 給 料, 賃 金, 手 当, 賞与, 福 利厚生費 販 売 及び一般 管 理部 門 関係の交 際費, 旅 費, 交通費, 通 信費, 光熱費及 び 消耗 品費 , 租 税公課, 減価償却費, 修 繕費, 保 険料 及び不 動 産賃 借 料
6
一
従っ て , 製造 原 価 中の 経 費並 びに販 売 費及 び一般 管理費の 中か ら荷 造 費 , 運搬 費 ,保 管 費 等を集 計 する と, 支払物流費の 総 額を知 るこ とが で きる, 『日経 ロ ジス テ ィ ク ス 』 誌は, 毎 年 , 上 場会 杜の 支 払 物 流 費 をコ ン ピュ ー タ で処理 した 結果を発 表 して い る .同誌の
1993 年 9 月 号 に よ る と,「「93 年 ,主 要 荷主 企 業 2,015 杜 の 支 払 物流 費の 総額 は,6 兆
6,057 億 円.前年に 比べ 1.4%, 約 1,500 億 円減少 し た. し か し, 売上高が そ れ 以 上減 少 し た た め, 対 売上高比率は 逆 に増加 .前 年に比べ 比率が増え た 企業が 55% と 過半 数を占め
てい る.」 匚日経ロ ジス ティ クス ,1993 ,149 頁 ].同誌に よ る 1 社 毎の 支払 物 流費の 年 額は,
例え ば次の と お りで ある (括 弧は売上高比率 ).
自動 車業界
・日産 自動車 ・… 176 ,892 百 万 円 (4 .54%) ・トヨ タ 自動 車 ・・173 ,924 百 万 円 (1,95%) ・本田技研工 業 ・・109,249 百 万 円 (4.05%)
鉄 鋼業界
・NKK … … ・・ 83 ,028 百 万 円 (6 .58%) ・住 友 金属工 業 ・・ 80,079 百万 円 (6.95%)
セ メ ン ト業界
日本セメ ン ト・・ 44,812 百 万 円 (21.24%) ・住友セ メ ン ト・・ 34,397 百 万 円 (24,07%)
家 電業 界
・東芝 … ・… … 76,280 百 万 円 (2.42%) ・日 立 製 作 所 … ・ 70,758 百 万 円 (1.86%)
なお, 売上 高対支 払 物流費 率は , 次の と お りで ある (括 弧 内は支 払 物流費の 年 額 )、
・住 友セ メ ン ト・・24.07% (34,397 百 万 円)
・日本セ メ ン ト ・・21.24% (44,812 百 万 円)
・王子 製紙 … … 16.40% (73,778 百万円) ・第 一セ メ ン ト・・ 16 .39% (3,094 百 万円) ・熊沢 製油産業 ・・ 13.98% ( 700 百万 円) ・大阪セ メ ン ト・・ 13.70% (9,348 百 万 円) ・小野 田セ メ ン ト・13 .62% (311860百 万 円)
上記は 物流 コ ス トの トッ プ企 業 を例 示 したもの で ,全 上場 会 社か らみ れ ば 全 くの 例外 に す ぎない .す なわち, 上場 会社2,015 社の平 均 支 払物 流 費は,売上高の 1,55% とい うの が 実 情である .とこ ろ がこ れ らの物流 コ ス トは, 支払物流費の 呼 称か ら も 知 ら れ る ように,