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吸着水分子の挙動の評価法

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(1)

NDC 431.86

吸着水分子の挙動の評価法

三 浦 和 久

(昭和60年9月.13日受理)

Method of Estimation on Behavior of Adsorbed H20 Molecule.

Kazuhisa MruRA

(Received September 13, 1985)

 In order to understand the behavior of a water moiecule adsorbed on a hydrophobic graphite, the present author has developed the皿ethod of calculating the area of freedom of the adsorbate molecule on the basis of entropy of adsorption. ln this theoretical treatment, the water molecule adsorbed on a hydrophilic site in the hydrophobic 飢atrix is considered to be a two・dimensional har皿onic oscillator which can move aro血d the site. This method will give rise to a more precis.e equation to evaluate the area of freedom, because both the potential belonged to the site and the energy level of the adsorbed water molecule are taken into account.

1 序

 著者は,高温処理黒鉛への水の逐次吸着エネルギー変化 に現われる水の液化熱以下のエネルギー極小を,先に黒鉛 上の表面酸化物サイトと水分子との相互作用の観点から検:

討したが1,2),今回は吸着水分子の挙動を吸着エントロ ピーから評価する方法の理論的取り扱いの改善を行なった ので,これを報告する。

 歴史的には,Young等3)がグラフォン上への水吸着で認 めた負の正味吸着熱を解釈するために,Graham4)が行な ったエントロピー解析は吸着水分子のグラフォン上での 挙動を考察する上で大きな意義を持った。しかしながら,

Grahamが採用した計算方法は,吸着水分子が親水性サイ トを中心とする。ある面積の領域で2次元の等速往復運動 を行なっているという仮定の下に考案されており,サイト の持つポテンシャルの効果を無視したものであると同時に 吸着水分子のとり得るエネルギー状態の分布を考慮してい ない,いわば第1次近似の方法であった。著者はこれらの 点を考慮し,吸着水分子を2次元調和振動子と見なしてこ のモデルによる展開を試みた。

2 理 論 解 析

Graham4)やTcheuerkdjian5)の方法では,吸着水分子に

働くポテンシャルは一定(通常零とする)としているため 吸着水分子は等速往復運動を示す。このモデルは実際の現 象に即応したものと思えない。なぜならば,このモデルで は吸着水分子が親水性サイトの影響を全く受けていないこ とになるからである。そこで,著者は水分子がサイトから 離れるとサイトからの引力が強くなりサイトの方に引き戻 される様な2次元調和振動子モデルの方がより適切なもの であると考えた。 このモデルとGrahamのモデノPt)とを 水分子の持つポテンシャルエネルギーの観点から比較した ものをFig.1に示す。サイトとサイトの間の相互作用によ るトンネル効果は無いものとし,1つのポテンシャルの井

V

(a) (b)

      site site

      v=一kx2

     V=const.

       2

Fig.1 Comparison between the two potential models.

   (a) : Graham s model, (b) : the present model.

一99一

(2)

津山高専紀要第23号(1985)

戸だけで考察を進める。

 2.1運動エネルギー期待値の計算

 Fig.1に示した様な2次元調和振動子モデルを取り扱う 上の順序として先ず1次元空間で考える。サイトからの距 離濯に比例する引力:F=kx(k:比例定数)はポテンシャ

ル:V(X)=・ }kx2から導かれる。従って,この様な力を受

けている吸着水分子に対するSchr6dingerの方程式は     (一浪諺+告rf)・④一&・(x) ・(・)

となる。これを解いて波動関tWop(X)とエネルギー固有値εx を得る。6)即ち,

   ・ω一(ゾ2〃iW/h2n「・〃ノ)1/2・畷ゾ㌻ ヴ ㎜/2n

      (nx=O, 1, 2, ・・・…) , (2)

   Ex=(nx十i)fiw (nx=O,1,2,・・・… ) ,(3)

ただ…H・…H・rm・t・多三一蕩一・nvであ・・

ここにmは吸着水分子の質量,はVポテンシャルの井戸中 での吸着水分子の振動数である。y軸方向の1次元調和振 動子についても同様の結果を得る。結局,2次元調和振動 子としての吸着水分子の全エネルギーEは次式で表わさ

れ,

   E=εx十εy      ,(4)

従って,(3)式から次の様になる。

   E一(nx+音)hw+(・y+1)hw

   ∴E=(nx十ny十1)勧  (nx, ny=O,1,2・・・… )  ,(5)

全エネルギーEの内の運動エネルギーのみを得るためにポ テンシャルエネルギーの期待値を求め,これをEより差し 引くことにする。2次元調和振動子のSchrddinger方程式

は,

   {諾(券・鉤・音(鋼}Ψ一・Ψ,(・)

であり,従ってポテンシャルエネルギーの期待値ぐV>は 次式で与えられる。

       

   〈・〉一∫∫Ψ・告(・・+・・)Ψ・…  ,(・)

      一DO

ただし,Ψ・=ep(X)・ψ(y),Ψ*=g(X)*・g(y)*である。これ

を解いて次式を得る。†

   ・v・一晶幅・・)(但踊一・…lugl

†)波動関数が(2)式で与えられるとき,次の定積分が成立      

す・・∫・・(・)・・…(肋一至議。(耐音),但・

      

 nx−0,1,2,…である。

従って,運動エネルギーの期待値〈Ek>は次式で表わされ

る。

      々・ゐ

  〈Ek>==E一くV>=(nx+ny+1)hw一

      (nx+ny十1)

       4πmtV       た・ゐ

    =(nx+ny+1)(hw一       )        4πnttV     −S(nx十勘十1)勧(∵・一㎜2)

Ekは吸着水分子を2次元平面で調和振動する質点とみ なしての運動エネ.ルギーなので,Graha叩4)あるいは Tcheuerkdjianら5)の考えた様に,このものは並進運動エ ネルギーEtrに等しいと考えられ.る。

 2、2 並進運動エネル#1 一 Etrの分配関数ftr

前節で求めた並進運動エネルギー島.に対応する分配関 数んを求める。このルが,実測した吸着等温線から求

められる並進運動のエントロピーと関係付けられる。7,8)

       

  f∫7=Σ・Σexp{一(nx+ny+1)fiw/21eT}

   nx =O ny=0

上式でhw/21eT =・ crとおき,常温ではα<1であることに 留意して,

  f,,一言畳 。一(nx+ ・+1)α.一.(・一壱α.畳・一π〆α)

   nx・・ony=o       nx=O

       

  ・(・一壱αΣ・e ・α)一e『α(艶・一徽)・一e一α・(1)

      1−e一.α

       nx=tO

     ny==O

= 1 駕⊥↑

 4sinh2g a2

    2

・ ftr=(illk 7. J2

, (10)

を得る。これと並進エントロピーStrとの関係は次式で示

めされる。7,8)

   s ・一R{婿+T(d ln ftr dT)v}

(10)式を上式に代入し,かつ微分して,

式を得る。式中のleはBo ltzmann定数である。

   s・r−2R(・・響+・)

Strの式として次

,(11)

並進エントロピーStrを知るためには,吸着等温線から先 ず積分吸着熱を求め,これより積分エントロピーを計算す

る。この手順は文献7・9)に詳しく説明されている。積分エ ントロピーは配置,回転,振動および並進の各エントロ ピーの和であるので,前三者をそれぞれ評価すれば吸着水 分子の可動範囲に対応する並進エントロピーを得る。積分 エントロピニの分配方法はGrahamの論文4)あるいは Zettlemoyerの論文8)に示されている。

・)…h・一書(e ・一・一a)一・膿・鍔・鍔・一・・の場合

 α3以上の高べき頃は無視できる。

一 100 一

(3)

吸着水分子の挙動の評価法  三 浦

 2.3吸着水分子のmobilityの評価

 吸着水分子動き得る面積は,サイトを中心とする半as r の円内即ち(X,])座標で表現すると

  π2・2=π(X2十夕2)

となる従って,(x2+y2)の期待値にπを掛けたものが求め

る面積である。

       

  ・<r2>一・{〈(X・+・・)〉}一・∫∫Ψ・(X・+・・)Ψ・・d・

      一QO

この計算は2.1節でポテンシャルエネルギーの期待値を求 あた場合と同じ形なので次の様になる。

  ・〈・・〉一・{,晶(n・+S)・諾痂(n・+1)}

    =tltw(nx+ny+1)=2;ml,,IT(a+1) ,(12)

ただし,a・=nx+ny(nx, nPt=0,1,2……)とおいた。明

らかに吸着水分子が占有する面積も量子化しており,かつ

(a+1)重に縮退している*。Graham4)やZettlemoyer7)の 取り扱いでは,吸着水分子の量子状態の分布が考慮されて いないが,π〈r2>を計算するためには吸着水分子がどの様 な量子状態に分布しているのかを知らなければならない。

そこで次の展開を試みる。一般に,ある量Aの期待値は

  くA>=Ao Po一トAl Pl一←A2 P2一吾一■■・・・…  ゆ      , (13)

で表わされる。このとき各値をとる確率Pi(i=0,1,2……)

は次式で規格化されていなくてはならない。

  Po十Pl十P2十… 一一一=1 ,(14)

従って,π〈r2>も(13)式から次の様に表わされる。

  π<r2>;π(rO2 PO十r12Pl十r22 P2十……)      ,(15)

上式で半径roが量子数σ=0に対応し, rlがa=1に対応する

ことになる。

 2.3.1 (15)心中の確率の計算

 吸着水分子のエネルギーレベルはFig.2に示す通りであ る。a=0の基底状態において水分子の持つ全エネルギーが Eoで, N個の全曲着払子中のNo個の分子がこの状態にあ るものとする。a=1の励起状態では水分子の全エネルギー がElで, N1個の分子がこの状態にあるものとする。 a・=2 以上の励起状態についても同様の表現をとると,確率はPo

=Ne/N, P!=Nl/N,ρ2πN2/N,…という様に表わされ る。また,エネルギーの基準として仮lc Eeをとると,各 エネルギーレベルにある吸着分子数はBoltzmann因子を

E4

E=〈a+Ohy

 a=r版+酌(nx, nゾ0,1・Z3♂・…一)

E3

E2

E

       a=4

1ら,o}  (「,婁1  (2.2)  (牙,3)  (o,り

       a=3

C3,0) (?,1) (1,2) CO.])

{?,O) (1,1} (O.2)

     a=10,0) (e,T)

  a=O

{o,o)

a=2

瞥)a=0のとき,nx=Ofo>つ御=0の一重, a=1のとき(nx   :=oかっny=1)または(nx=1かつnPt=0)の2重, a=・2  のとき(nx=O, nッ=2)または(nx=・nア=1)または(nx

  =2,ny=O)の3重……という様に(a+1)重に縮退し

  ている。

o

      Degrees of degeneracy

Fig.2 Energy levels, degrees of degeneracy, and    quantum numbers for a water molecule on    the site.

用いて次の様IC表わされる。**

No:;::Noexp(一一EEt iililqrEe )

Ni == Noexp ( 一 一li}ti iEQ一一 EO ) × 2 == 2 Noexp( 一一2it ) ,

N2 = Noexp ( 一 一Et=TEO ) × 3 == 3 Noexp( 一 ttT一 一) ,

iv3 == cvoexp ( 一 一Eit iEg−mT一 Eo ) × 4 t= 4 Noex.p(一 !lkhl:一T  ) ,

Po=No/N

  Pi == N1 IN= 2 Po exp( 一 一:;t,一)

  P2=N2/N=3bo exp(一Yt )

  b3=N3/N=4Po exp(一一i Zti;)

しかも(14)式の規格化が成立しなければならないので,

  1==Pq+Pi+P2+P3+ =Pe+2PoeXP(一一i:tT)

   + 3poexp( 一 一ilhllil−i ) +4b oexp( 一 !1:hZil−i ) + ・ ・ ・ ・ ・ ・

  = po[i+ 2exp (一一:itT) +3exp (一 31hlil−T  )+4exp(一 lilh¥:一T  )

  +一一H]

     」

従って,

・一・・鼻。(n+・)・xp(一磐)

**)全エネルギーは(5)式よりEnx,ny=(nx+ny+1)hv, nx

  +ny=aとおくとEa=(a+1)hvとなる。 a≧1のときは   縮退を考慮して(a+1)倍している。

一 101一

(4)

津山高専紀要第23号(1985)

そこで,hy/kT=αとおくと上式は次の様に変形できる。

   お 1=ρ0Σ( +1)θ一 α

  n=e

%一論・一・+嵩・…一篇{濤・魂α

P6=一一ti{tT(i=一lb=ie−a)+ii:一Fe−a=一atr=}=is2一一e−a 2 ,(i6)

これからα→。。のとき,即ちT=0かhv→。。(エネルギー レベル間のギャップが非常に大きくなることに相当する)

になれば1/PO→1従ってPO→1となり,すべての吸着水 分子は基底状態にあることになり,一方α<1の高温では

e−a・sl−ctなので(16)式からPO n・α2<1となって基底状態

には水分子はほとんど存在しないことになる。

 2.3.2 吸着水分子が動き得る面積の計算

 (12)式と(15)式と前項で求めた各量子状態に存在する確 率とから,吸着水分子が動き得る面積は次の様に表わされ

る。

       hV 2hV ・〈r・〉一(,農。+・・,篇・一万一+・・2鶉。・一々7+……

     (b−1)hV

+b・Q−

№狽?@e−Tt+t一一・)xpo

        (b−1)加

   h艶b・、一一万一

=Pe×    2彿ω西=1

ここでhy/kT=α, b−1=tとおく,このときb=1でt=O,

またb=。。でt=。。なので上式は次の様に変形できる。

z〈r2>==tllt:llE/t;o(t+i)2e−ta

一蕩{t;。 t2幽脅{嵩・一・}・(・7)

(17)式の右辺各項を計算すると,

、 Si t2e−t・=!一 (1+e−a)

    =o   (1−e一・)3

    

         ヨ に    冴θ吻=(1_,一a)・

  となり,従って(16)式も考慮して(17)式は次の形になる。

   ・<・2>一,缶}圭舞

 αを元の表現に戻して最終的に次式を得る。

n〈r2>=一4」.Sifi−m. 1−il;i p)k一#tl.li i ,(is)

上式は温度Tの上昇に伴って吸着水分子の動き得る面積が 大きくなって行くことを示す。著者の方法では,先ず(11)

式より吸着水分子のサイト上での振動tw Vを求め,これを

(18)式に代入して面積を評価する。

…xp(一鉛

3 結

 疎水性黒鉛表面の水吸着サイトのポテンシャルを調和振 動子型と仮定し,かつその振動子(吸着水分子)がとり得 る量子状態を考慮して吸着水分子1個に割り当てられる面 積を算出する式を導いた。この方法は,水一切鉛系以外の 系のエントロピー解析に広く応用できると考えられる。

1 ) T. Morimoto, K. Miura; Langmuir, in press.

2 ) T. Morimoto, K. Miura; Langmuir, accepted.

3) G. J. Young et al.; J. Phys. Chem., 58, (1954),313.

4) D. Graham; ibid., 60, (1956),1022.

s) N. Tcheuerkdjian et al.; ibid.; 68, (1964),773.

6) L. Pauling, E. B. Wilson; introduction to quantum  mechanics, (1935), 80, McGraw−Hill.

7 ) E. McCafferty, A.C.Zettlemoyer; J. Colloid lnterface

 Sci., 34.(1970), 452.

s) A. C. Zettlemoyer; ibid., 28, (1968), 343.

9)ヤング・クロウェル共著,高石哲男・古山昌三共訳;

  ガスの物理吸着,(昭42),760,産業図書.

一102一

参照

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