軽減税率による逆進性緩和の最適解とその分析
笹 川 篤 史
折 登 由 希 子
Abstract
While the consumption tax rate in Japan is5%as of2013,the government plans to increase it to8%in2014and to10%in2015.
However, the government will also introduce reduced tax rates on cer- tain items for the low-income group. In this study, we use an optimiza- tion method to remove regressivity of reduced tax rate and then analyze the optimal solutions.
キーワード:軽減税率,逆進性緩和,消費税,最適解
Keywords:reduced tax rate, removing regressivity, consumption tax
1.はじめに
消費税の逆進性については複数の見解があるが,消費税率の引き上げに際 しては軽減税率の導入が検討課題の一つとされ,2013年12月の自由民主党と 公明党の「平成26年度税制改正大綱」には,軽減税率について「税率10%時 に導入する」(6頁)とされている。
逆進性緩和の観点からの消費税の軽減税率の研究として,上村(2006),北 村・宮崎(2013),桜井(2013),田代(2009),橋本・鈴木(2012),橋本(2013),
林(2012),森信(2011),八塩・長谷川(2008)がある。上村(2006),橋本・鈴 木(2012),橋本(2013),林(2012),森信(2011),八塩・長谷川(2008)は食料
品を軽減品目として定めた上での消費税負担の推計を行っている。また,田 代(2009)では軽減税率を食料品に加え水道光熱費まで広げた推計,桜井 (2013)では食料品及び光熱費に加え交通費,通信費,教養娯楽サービス費等 に広げた推計が行われている。
これまでの研究では,予め食料品等を軽減税率の対象とした上で逆進性緩 和の効果を推計するものが中心であり,逆進性緩和のためにはどの品目を軽 減税率の対象とすることが望ましいかということについて,家計調査等の統 計データを用いた研究は見当たらない。軽減税率の対象品目については,
「消費需要関数を適切に推定して,その結果得られた自己価格弾力性の有意 性とその値をもって判断すべき」(北村・宮崎2013,255頁)とあるように,
軽減税率の導入に際しては,多角的なデータに基づいた議論が必要と思われ る。このため,本研究では一定の制約のもとで逆進性を最小化する軽減税率 適用品目の組み合わせ(以下,「最適解」という。)を求め検討を行った1。
2.逆進性の最小化
(1)基本的考え
税収の減少幅を一定範囲内とした場合において,逆進性が最も小さくなる 軽減税率の品目の組み合わせの最適解を求めた。
各階級の消費税負担額の推計は,橋本や桜井を参考に,家計調査(総務省)
「第3表 年間収入五分位・十分位階級別1世帯当たり1か月間の収入と支 出(総世帯のうち勤労者世帯)」(2012)(以下,「家計調査第3表」という。) を用いて計算した。
1 逆進性緩和のためには,需要の所得弾力性が低く,第Ⅰ階級における支出の割合が高 い品目に軽減税率を適用することが考えられる。ただし,先に軽減税率の適用品目を定 めた場合,その後税収の減少幅を計算することになるが,本研究は一定の税収減少幅の 下で,逆進性緩和効果が最も高い,軽減税率対象品目の組み合わせを求めることを目的 としている。
家計調査第3表の年間収入十分位階級は以下のようになっており,本研究 では第Ⅰ階級と第Ⅹ階級の比較により逆進性を計算した。
表1 家計調査第3表の年間収入十分位階級
(単位:円)
Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ
2,680,000 3,520,000 4,210,000 4,860,000
〜 〜 〜 〜 〜
2,680,000 3,520,000 4,210,000 4,860,000 5,500,000
Ⅵ Ⅶ Ⅷ Ⅸ Ⅹ
5,500,000 6,240,000 7,160,000 8,280,000 10,150,000
〜 〜 〜 〜 〜
6,240,000 7,160,000 8,280,000 10,150,000
(出所)家計調査(総務省)「第3表 年間収入五分位・十分位階級別1世帯当たり 1か月間の収入と支出(総世帯のうち勤労者世帯)」(2012)を加工
家計調査は税込の金額で行われているため,100/105を乗じて税抜き価格 を求め,それに標準税率10/100または軽減税率8/100を乗じて推計した2。ま た,本研究では計算と分析の効率化のため,家計調査第3表の中項目の分類 で集計された金額を用いる。ただし,家賃地代・保健医療サービス・贈与金・
仕送り金・贈与等は非課税取引であり,消費税負担額の計算から除外3する ため,これらが含まれている項目は小分類の項目で計算した。これにより,
19品目が対象となっている。(具体的な品目及び支出額については補遺参照。) また,全ての品目が標準税率(10%)適用の場合における階級平均の消費税 負担額の推計を行い,軽減税率(8%)を適用した場合の税収の減少幅を税収 の減少割合として,制約式とした。
2 より正確な計算を行うためには,税率引き上げに伴う価格上昇による消費支出額の変 化(価格弾力性)を考慮する必要があるが,各階級における正確な価格弾力性を求める ことが困難であることから,現在の支出額に基づき計算を行った。
3 除外品目は橋本(2013)を参考にしている。
消費税負担額:標準税率取引支出額*(100/105)*(10/100)+軽減税率 取引支出額*(100/105)*(8/100)
消費税負担率:消費税負担額/実収入
逆進性を緩和するという目的を数式化するためには,逆進性を定式化する 必要がある。これまでの研究では,桜井(2013)が逆進性を「高所得者の消費 税負担割合/低所得者の消費税負担割合」という倍率で定式化しているが,
逆進性を差(第Ⅰ階級の消費税負担率−第Ⅹ階級の消費税負担率)で定式化 することも考えられる。本研究では,逆進性について,以下の2種類の定式 化を行い,それぞれについて,最小となる最適解を求めた。
①第Ⅰ階級の消費税負担率 / 第Ⅹ階級の消費税負担率
②第Ⅰ階級の消費税負担率−第Ⅹ階級の消費税負担率
税収の減少割合を,階級平均における軽減税率適用による税負担の減少割 合とする。具体的には,以下の式で計算する。
(階級平均における全品目を標準税率とした場合の消費税負担額−一定品目 を軽減税率とした場合の消費税負担額)/全品目を標準税率とした場合の消 費税負担額
(2)数値記号
s:年間収入による階級(s=I, X) Is:第s階級の実収入
I:全階級の実収入平均 i:支出品目(i=1,…,19)
Es,i:第s階級の品目iの取引支出額 Ei:全階級の品目iの取引支出額平均
αi:品目iの標準税率(10%)取引支出額に対する意思決定変数。ここでは,
次式で定義する。
αi=
i j l
0 (品目iが標準税率の対象品目) 1 (品目iが軽減税率の対象品目)
βi:品目iの軽減税率(8%)取引支出額に対する意思決定変数。ここでは,
次式で定義する。
βi=
i j l
0 (ifαi=1) 1 (ifαi=0)
Ys:第s階級の全取引支出品目の消費税負担額。すなわち
Ys=
19
Σ
i=1] ^
_
αi・Es,i・ 100 105・10100+βi・Es,i・100 105・ 8
100
` a b
Y:階級平均値の全取引支出品目の消費税負担額。すなわちY=
19
Σ
i=1] ^
_
αi・Ei・ 100 105・10100+βi・Ei・100 105・ 8
100
` a b
Cs:第s階級の消費税負担率。すなわちCs=Ys Is
D:税収の減少割合。すなわち
D=
19
Σ
i=1] ^ _
Ei・100 105・10
100
` a b
−Y19
Σ
i=1] ^ _
Ei・100 105・10
100
` a b
R:逆進性。① R=CI
CX (第Ⅰ階級の消費税負担率 / 第Ⅹ階級の消費税負担率)
② R=CI−CX (第Ⅰ階級の消費税負担率−第Ⅹ階級の消費税負担率)
(3)解
意思決定変数βiより,βi=1 ならば品目iは軽減税率(8%)の対象品目
である。このため,解は意思決定変数βiで表される次式のベクトルで定義 する。
β=(β1,…,β19)
(4)最適解
階級平均値で計算した税収の減少割合Dが一定割合(p)以下となる制約の 下で,逆進性が最も小さくなる軽減税率の品目の組み合わせを最適解と定義 する。以上より,βを変数とする以下の目的関数が定義される。
逆進性緩和問題1:
min
β
R=CI
CX (1)
s.t. D[p
逆進性緩和問題2:
min
β
R=CI−CX s.t. D[p (2)
(5)探索方法
制約の下で目的関数を最小にする解βを求める際,探索すべき解βの組み 合わせは 219=524288個であるため,全検索により結果を求めた。具体的に は全ての解を逆進性が小さい順に並べNoをふり,その中で制約条件を満た すものを解とした。このため,以下ではNoの小さいものほど逆進性が少な いことを意味する。
3.結果及び考察
全ての品目を軽減税率の対象とした場合,全ての品目を標準税率の対象と
した場合に対して税収の減少割合が2割となる。そこで中間点である税収の 減少割合の制約を1割以内として計算を行う。以下では,軽減税率の適用対 象を「1」,標準税率の適用対象を「0」として表記を行う。
(1)税収の減少割合を10%以内とした場合
表2 税収の減少割合を10%以内とした場合
税収制約 0.1
No 2771
逆進性(Ⅰ/Ⅹ) 1.28855
税収減少割合 0.0985152
階級Ⅰ負担率 0.0497562
階級Ⅹ負担率 0.0386142
軽減税率対象品目数 9
食料 1
設備修繕・維持 0
光熱・水道 1
家具・家事用品 0
被服及び履物 0
医薬品 1
健康保持用摂取品 1
保健医療用品・器具 0
交通・通信 0
教育 0
教養娯楽 1
諸雑費 0
こづかい(使途不明) 0
交際費中の食料 1
交際費中の家具・家事用品 0
交際費中の被服及び履物 1
交際費中の教養娯楽 1
交際費中の他の物品サービス 1
他の交際費 0
制約0.1以下の逆進性最小値となる最適解は,No2771(逆進性1.28855税 収の減少割合0.0985152)となっており(表2),逆進性のより小さいNo1 からNo2570までは,制約を外れた実行不可能解であった。つまり,税収の 減少割合を1割以内にしつつ,逆進性を一定以内(1.28855未満)にしよう とすると,最適解が存在せず,ここが軽減税率による逆進性対策の限界であ る。
(2)全品目を標準税率とした場合との比較
比較対象として,全品目を標準税率10%とした場合の逆進性について計算 を行った。逆進性は1.32539であり(表3),税収の減少幅を10%以内とした 場合の逆進性を緩和する最適解では0.03684だけ逆進性が低下した。
表3 全品目を標準税率とした場合の逆進性
税収制約 なし
No 262144
逆進性 1.32539
税収減少割合 0
階級Ⅰ負担率 0.0562004 階級Ⅹ負担率 0.0424029
(3)税収の減少割合を10%〜1%以内とした場合
軽減税率を8%,標準税率を10%としていたため,税収10%減の範囲内で は半分程度の品目が軽減税率の品目となった。このため,税収10%減から1
%まで,1%刻みで制約式を変化させた場合の最適解を分析する(表4)。
表4 税収の減少割合を10%〜1%以内とした場合
税収制約 0.06 0.07 0.08 0.09 0.1
No 42190 18018 9932 9932 2771
逆進性(Ⅰ/Ⅹ) 1.30205 1.29441 1.29189 1.29189 1.28855
税収減少割合 0.059353 0.06995 0.075203 0.075203 0.098515 階級Ⅰ負担率 0.052328 0.051635 0.051238 0.051238 0.049756 階級Ⅹ負担率 0.040189 0.039891 0.039661 0.039661 0.038614
軽減税率対象品目数 7 4 8 8 9
食料 1 1 1 1 1
設備修繕・維持 0 0 0 0 0
光熱・水道 0 1 1 1 1
家具・家事用品 0 0 0 0 0
被服及び履物 0 0 0 0 0
医薬品 1 1 1 1 1
健康保持用摂取品 1 1 1 1 1
保健医療用品・器具 0 0 0 0 0
交通・通信 0 0 0 0 0
教育 0 0 0 0 0
教養娯楽 0 0 0 0 1
諸雑費 0 0 0 0 0
こづかい (使途不明) 0 0 0 0 0
交際費中の食料 1 0 1 1 1
交際費中の家具・家事用品 0 0 0 0 0
交際費中の被服及び履物 1 0 1 1 1
交際費中の教養娯楽 1 0 1 1 1
交際費中の他の物品サービス 1 0 1 1 1
他の交際費 0 0 0 0 0
税収制約 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05
No 221048 138601 125372 119923 101864 逆進性(Ⅰ/Ⅹ) 1.32204 1.31408 1.31259 1.31196 1.30995 税収減少割合 0.007382 0.019996 0.023232 0.039663 0.046544 階級Ⅰ負担率 0.055648 0.054801 0.054558 0.053661 0.053077 階級Ⅹ負担率 0.042093 0.041703 0.041565 0.040901 0.040518
軽減税率対象品目数 6 3 7 7 8
食料 0 0 0 0 0
設備修繕・維持 0 0 0 0 0
光熱・水道 0 1 1 1 1
家具・家事用品 0 0 0 0 0
被服及び履物 0 0 0 0 0
医薬品 1 0 1 1 1
健康保持用摂取品 1 1 1 1 1
保健医療用品・器具 0 0 0 0 0
交通・通信 0 0 0 0 0
教育 0 0 0 0 0
教養娯楽 0 0 0 0 1
諸雑費 0 0 0 1 0
こづかい (使途不明) 0 0 0 0 0
交際費中の食料 1 1 1 1 1
交際費中の家具・家事用品 0 0 0 0 0
交際費中の被服及び履物 1 0 1 1 1
交際費中の教養娯楽 1 0 1 1 1
交際費中の他の物品サービス 1 0 1 0 1
他の交際費 0 0 0 0 0
制約0.05において軽減税率の対象となる4品目の中に食料品が含まれてお り,食料品に軽減税率を適用する効果が比較的高いことを確認することがで きた。一方,税収の減少割合0.04以下では,軽減税率の対象外となっている。
これは,食料品は全階級平均でみても支出割合が高いため,食料品全体に軽 減税率を適用してしまうと税収の減少割合が大きいためであると思われる。
税収の減少割合を0.04以下にしようとすると食料品全般への軽減税率は適用 できない。このため,税収を確保しつつ逆進性を緩和するには,食料品の一 部のみに軽減税率を適用することが考えられ,より効果的な対象品目の選定 のためには,食料品を分解した上で,最適解を求める必要があると思われる。
税収の制約を狭めた場合の品目毎の変化をみると,光熱・水道のように0 もしくは1に固定されない品目がある。光熱・水道の場合,税収の制約が 0.06以下の場合には逆進性緩和効果が食料品に劣後するため軽減税率の対象 外となるが,税収の制約が0.05以下の場合には食料品が軽減税率の対象外と
なるため,対象として復活するものと思われる。
税収減少割合をどこまで許容するかによって,軽減税率の対象品目として 優先されるべき品目の逆転現象が見られ,どこまで税収の減少を許容するか が制度設計の上では重要と思われる。
また,被服及び履物は全て軽減税率の対象外であったが,交際費中の被服 及び履物は軽減税率の対象となっている解がみられた。家計調査第3表では 用途分類を先に行っているため,同じ項目が2つの項目に分かれてしまって いる。このため,被服及び履物と交際費の中の被服及び履物のように用途分 類では異なるが取引品目としては同一のものの扱いについて,より詳細な分 析を行うためには検討が必要であると思われる。
健康保持用摂取品のみが全ての制約式において,軽減税率の対象となって いる。必ずしも必需品として認識されているとは思えない品目であるが,最 適解では軽減税率の対象となっている。
税収制約が0.09と0.08の最適解が同一となっており,税収の減少割合を 0.09まで拡大しても,逆進性に変化がないことを表している。
(4)逆進性を差とした場合との比較
前述のように,逆進性の定式化には,階級間の消費税負担率の倍率による 方法と階級間の消費税負担率の差による方法の2種類があり,両者における 最適解について比較検討を行う(表5)。
表5 逆進性を差とした場合の最適解
税収制約 0.06 0.07 0.08 0.09 0.1
No 212053 138345 105130 80362 43403
逆進性(Ⅰ‑Ⅹ) 0.0121389 0.0117441 0.0115567 0.0114084 0.0111379 税収減少割合 0.0593529 0.0699501 0.0789898 0.0899512 0.0998316 階級Ⅰ負担率 0.0523278 0.051635 0.0510561 0.0504644 0.0497062 階級Ⅹ負担率 0.0401889 0.0398909 0.0394994 0.039056 0.0385683
軽減税率対象品目数 7 4 9 7 9
食料 1 1 1 1 1
設備修繕・維持 0 0 0 0 0
光熱・水道 0 1 1 1 1
家具・家事用品 0 0 0 0 0
被服及び履物 0 0 0 0 0
医薬品 1 1 1 0 1
健康保持用摂取品 1 1 1 0 1
保健医療用品・器具 0 0 0 0 1
交通・通信 0 0 0 0 0
教育 0 0 0 0 0
教養娯楽 0 0 0 0 1
諸雑費 0 0 0 1 0
こづかい (使途不明) 0 0 0 0 0
交際費中の食料 1 0 1 1 1
交際費中の家具・家事用品 0 0 0 0 0
交際費中の被服及び履物 1 0 1 1 1
交際費中の教養娯楽 1 0 1 1 1
交際費中の他の物品サービス 1 0 1 1 0
他の交際費 0 0 1 0 0
税収制約 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05
No 462259 387226 361751 324687 285208 逆進性(Ⅰ‑Ⅹ) 0.013542 0.0130981 0.0129599 0.0127596 0.0125451 税収減少割合 0.0091461 0.0199961 0.0287829 0.0396629 0.0483083 階級Ⅰ負担率 0.0555673 0.0548011 0.0542956 0.0536607 0.0529957 階級Ⅹ負担率 0.0420253 0.0417031 0.0413358 0.0409011 0.0404506
軽減税率対象品目数 7 3 9 7 9
食料 0 0 0 0 0
設備修繕・維持 0 0 0 0 0
光熱・水道 0 1 1 1 1
家具・家事用品 0 0 0 0 0
被服及び履物 0 0 0 0 0
医薬品 1 0 1 1 1
健康保持用摂取品 1 1 1 1 1
保健医療用品・器具 1 0 1 0 1
交通・通信 0 0 0 0 0
教育 0 0 0 0 0
教養娯楽 0 0 0 0 1
諸雑費 0 0 0 1 0
こづかい (使途不明) 0 0 0 0 0
交際費中の食料 1 1 1 1 1
交際費中の家具・家事用品 0 0 0 0 0
交際費中の被服及び履物 1 0 1 1 1
交際費中の教養娯楽 1 0 1 1 1
交際費中の他の物品サービス 1 0 1 0 1
他の交際費 0 0 1 0 0
制約0.07,0.06,0.04,0.02は,逆進性を倍率とした場合と差とした場合 の最適解が同一であった。一方,それ以外の場合は最適解が異なっており,
逆進性をどのように測定・定式化するかによって,軽減税率の対象とすべき 品目が異なってくる場合がある。このため,軽減税率による逆進性緩和の分 析を行う際には,逆進性をどのように定式化するかに留意する必要があると 思われる。
(5)税収減少割合の制約がない場合との比較
比較対象として,税収の減少幅について条件を付さない場合について最適 解を求めた(表6)。
表6 税収制約を付さない場合の最適解
倍率(Ⅰ/Ⅹ) 差(Ⅰ‑Ⅹ)
No 1 1
逆進性 1.28283 0.010188
税収減少割合 0.151906 0.174633
階級Ⅰ負担率 0.0466807 0.0455308
階級Ⅹ負担率 0.0363888 0.0353428
軽減税率対象品目数 11 15
食料 1 1
設備修繕・維持 0 0
光熱・水道 1 1
家具・家事用品 0 1
被服及び履物 0 1
医薬品 1 1
健康保持用摂取品 1 1
保健医療用品・器具 0 1
交通・通信 1 1
教育 0 0
教養娯楽 1 1
諸雑費 1 1
こづかい (使途不明) 0 0
交際費中の食料 1 1
交際費中の家具・家事用品 0 0
交際費中の被服及び履物 1 1
交際費中の教養娯楽 1 1
交際費中の他の物品サービス 1 1
他の交際費 0 1
消費税が全体として逆進性を有しているため,大部分の品目が軽減税率の 対象となり,税収減少割合も大きなものとなった。設備修繕・維持が標準税 率の対象となっているのは,高所得者の方が持家割合が高く,設備修繕・維 持の支出額が大きく伸びていることが原因となっていると思われる。
また,家具・家事用品,被服及び履物,保健医療用品・器具,他の交際費 については,逆進性を倍率とした場合には標準税率であったが,差とした場 合には軽減税率となっており,差の方が税収減少割合が大きなものとなって いる。
4.税収減少割合と逆進性の関係
最適解として導出された逆進性と税収減少割合との関係について,グラフ を用いて分析する。
逆進性を倍率で計算したものについて,横軸を税収減少割合,縦軸を逆進 性とし,近似曲線で結ぶと以下のグラフが作成される(図1,2)。逆進性 と税収の関係について,一種のパレート最適の状態となっている。
図1 制約条件としての税収の減少割合
図2 最適解における税収の減少割合
グラフ上の点が接近している場合があるのは,入れ替えられた軽減税率対 象品目の支出割合が低く,税収及び逆進性への影響が少ない場合と思われる。
また,税収制約が0.09と0.08の最適解が同一のため,0.1から0.08の間には 逆進性を緩和する最適解が存在しないことから,間隔があいている。
5.各項目の支出割合との比較
逆進性緩和のためには,所得効果の低い必需品かつ低所得者の支出割合の 高い品目を軽減税率の対象品目とすることが考えられる4ため,これとの比 較を行う。具体的には,家計調査第3表を加工し,分母を実支出とする各品 目の割合と第Ⅹ階級の第Ⅰ階級に対する倍率(Ⅹ/Ⅰ)を計算した(表7)。
表7 支出割合
項 目 支出割合
分母:実支出 Ⅹ/Ⅰ
実収入 平均 Ⅰ Ⅹ
実支出 100.0% 100.0% 100.0% 3.74
食料 17.3% 20.2% 13.6% 2.51
住居 6.1% 13.6% 3.4% 0.93
家賃地代 4.7% 12.4% 1.6% 0.48
設備修繕・維持 1.4% 1.2% 1.8% 5.48
光熱・水道 5.3% 6.6% 3.8% 2.12
家具・家事用品 2.4% 2.0% 2.3% 4.30
被服及び履物 3.3% 3.4% 3.5% 3.85
保健医療 2.8% 3.1% 2.5% 3.09
医薬品 0.5% 0.6% 0.4% 2.28
健康保持用摂取品 0.2% 0.3% 0.2% 2.24
保健医療用品・器具 0.6% 0.5% 0.5% 3.65
4 主要消費支出項目について総消費支出弾力性を算出したものとして,林(2012)参照。
林(2012)と区分が一致しないため,これとの比較は今後の課題とすることとしたい。
保健医療サービス 1.5% 1.6% 1.5% 3.39
交通・通信 12.2% 13.1% 11.0% 3.13
教育 3.7% 1.4% 4.6% 12.14
教養娯楽 7.8% 9.0% 7.5% 3.09
その他の消費支出 15.8% 13.3% 17.3% 4.87
諸雑費 5.6% 5.7% 4.9% 3.23
こづかい (使途不明) 3.3% 0.8% 3.7% 17.37
交際費 5.1% 6.1% 4.8% 2.96
食料 1.2% 1.6% 1.0% 2.47
家具・家事用品 0.1% 0.1% 0.1% 5.35
被服及び履物 0.2% 0.2% 0.2% 2.49
教養娯楽 0.3% 0.4% 0.3% 2.53
他の物品サービス 0.1% 0.2% 0.2% 3.06
贈与金 2.0% 2.5% 1.9% 2.89
他の交際費 1.3% 1.1% 1.2% 3.89
仕送り金 1.9% 0.8% 4.0% 19.00
最適解において軽減税率の対象となる食料,光熱・水道とも倍率(Ⅹ/Ⅰ)
が低く,第Ⅰ階級の支出割合が高いためと思われる。
健康保持用摂取品が全ての制約式において,軽減税率の対象となっていた が,これは健康保持用摂取品の倍率(Ⅹ/Ⅰ)が低くかつ平均階級の支出割 合が低いため,税収の制約に抵触することがなかったためと思われる。
6.第Ⅰ階級の負担軽減を目的とした場合との比較
本研究は逆進性の緩和を目的としているが,低所得者の負担軽減を最優先 とする政策判断もありえると思われる。このため,第Ⅰ階級の消費税負担割 合の最小化を目的関数とする最適解を求めた(表8)。
min
β
CI s.t. D[p
表8 第Ⅰ階級の負担割合を最小化する最適解
税収制約 0.06 0.07 0.08 0.09 0.1
No 396494 346177 299202 252397 191700 第Ⅰ階級の負担 0.0523165 0.0516317 0.0510286 0.0504644 0.0497062 逆進性(Ⅰ/Ⅹ) 1.3022121 1.2945662 1.2951619 1.2921036 1.2887838 逆進性(Ⅰ‑Ⅹ) 0.0121414 0.0117483 0.0116292 0.0114084 0.0111379 税収減少割合 0.0595966 0.0698229 0.079665 0.0899512 0.0998316 階級Ⅰ負担率 0.0523165 0.0516317 0.0510286 0.0504644 0.0497062 階級Ⅹ負担率 0.0401751 0.0398834 0.0393994 0.039056 0.0385683
軽減税率対象品目数 8 5 10 7 9
食料 1 1 1 1 1
設備修繕・維持 0 0 1 0 0
光熱・水道 0 1 1 1 1
家具・家事用品 0 0 0 0 0
被服及び履物 0 0 0 0 0
医薬品 1 0 1 0 1
健康保持用摂取品 1 1 1 0 1
保健医療用品・器具 0 0 0 0 1
交通・通信 0 0 0 0 0
教育 0 0 0 0 0
教養娯楽 0 0 0 0 1
諸雑費 0 0 0 1 0
こづかい (使途不明) 0 0 0 0 0
交際費中の食料 1 0 1 1 1
交際費中の家具・家事用品 1 0 1 0 0
交際費中の被服及び履物 1 1 1 1 1
交際費中の教養娯楽 1 1 1 1 1
交際費中の他の物品サービス 1 0 1 1 0
他の交際費 0 0 0 0 0
税収制約 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05
No 522290 511356 495984 468701 434606 第Ⅰ階級の負担 0.0555561 0.0548011 0.0542354 0.0535783 0.0529258 逆進性(Ⅰ/Ⅹ) 1.3224022 1.3140774 1.3199494 1.3131228 1.3107616
逆進性(Ⅰ‑Ⅹ) 0.0135446 0.013098 0.0131464 0.0127761 0.0125479 税収減少割合 0.0093897 0.0199961 0.0297875 0.0398342 0.0498842 階級Ⅰ負担率 0.0555561 0.0548011 0.0542354 0.0535783 0.0529258 階級Ⅹ負担率 0.0420115 0.0417031 0.041089 0.0408022 0.0403779
軽減税率対象品目数 8 3 5 3 8
食料 0 0 0 0 0
設備修繕・維持 0 0 0 0 0
光熱・水道 0 1 0 1 1
家具・家事用品 0 0 0 0 0
被服及び履物 0 0 0 0 0
医薬品 1 0 1 0 1
健康保持用摂取品 1 1 1 1 1
保健医療用品・器具 1 0 0 0 0
交通・通信 0 0 0 0 0
教育 0 0 0 0 0
教養娯楽 0 0 1 1 1
諸雑費 0 0 0 0 0
こづかい (使途不明) 0 0 0 0 0
交際費中の食料 1 1 1 0 1
交際費中の家具・家事用品 1 0 0 0 0
交際費中の被服及び履物 1 0 0 0 1
交際費中の教養娯楽 1 0 1 0 1
交際費中の他の物品サービス 1 0 0 0 0
他の交際費 0 0 0 0 1
逆進性を倍率とした場合の税収制約0.02などの一部を除いて,逆進性を最 小化する最適解と第Ⅰ階級の負担割合を最小化する最適解が異なる結果とな った。このため,政策目的を,逆進性を最小とするのか,低所得者の負担割 合を最小とするのかにより,軽減税率の対象とすべき品目が異なってくるこ ととなる。
また,税収制約0.02の場合は,軽減税率の対象品目が少ないため,逆進性 を最小化する最適解と第Ⅰ階級の負担割合を最小化する最適解が一致したも
のと思われる。
7.先行研究との比較
(1)桜井の計算との比較
桜井(2013,233頁)では,逆進性を第Ⅴ階級/第Ⅰ階級により計算し,10%
の単一税率を適用した場合の逆進性を0.81,食料品,光熱・水道(光熱費), 交通費(公共交通等),通信費,教養娯楽サービス費(書籍・学習)等に5
%の軽減税率を適用し,それ以外に10%の税率を適用した場合の逆進性を 0.86とし,0.05だけ「逆進性」はやや減少するとしている。
同様に分子を第Ⅹ階級とすると,単一税率の場合0.75となり,桜井より逆 進性が大きく出た(表9)。これは,桜井が5分位を用いているのに対し,
本研究では10分位を用いていることが影響していると思われる。同様に,軽
表9 逆進性の定義式において分子と分母を交換した場合
税収制約 0.07 0.08 0.09 0.1 10%
単一税率 8%
単一税率 No 18018 9932 9932 2771 262144 262145 逆進性(Ⅰ/Ⅹ) 1.29441 1.29189 1.29189 1.28855 1.32539 1.32539 減少割合 0.0699501 0.0752026 0.0752026 0.0985152 0 0.2 負担率(I) 0.051635 0.0512377 0.0512377 0.0497562 0.0562004 0.0449604 負担率(X) 0.0398909 0.0396612 0.0396612 0.0386142 0.0424029 0.0339223 逆進性(Ⅹ/Ⅰ) 0.77 0.77 0.77 0.78 0.75 0.75
税収制約 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 0.06
No 221048 138601 125372 119923 101864 42190 逆進性(Ⅰ/Ⅹ) 1.32204 1.31408 1.31259 1.31196 1.30995 1.30205 減少割合 0.0073822 0.0199961 0.0232319 0.0396629 0.0465444 0.0593529 負担率(I) 0.0556482 0.0548011 0.0545581 0.0536607 0.0530765 0.0523278 負担率(X) 0.0420928 0.0417031 0.0415651 0.0409011 0.0405181 0.0401889 逆進性(Ⅹ/Ⅰ) 0.76 0.76 0.76 0.76 0.76 0.77
減税率による逆進性の緩和も税収減少幅10%のときに0.03と桜井に比べ小さ くなっている。
(2)粕谷との比較
粕谷(2012,50頁)は,5分位階級を用いて,食料品をゼロ税率にした場合,
逆進性が緩和されることを指摘しており,今回の研究の最適解においても,
食料品は軽減税率の優先的な対象品目となっている。
8.おわりに
本研究では家計調査第3表を利用し,軽減税率適用品目の導入による国の 税収の減少幅を一定範囲内とした制約を多段階に設定し,19品目を対象にし た逆進性緩和における最適解を導出し,分析を行った。
最適解の導出と分析結果として,主に以下の3点が明らかとなった。
第1点として,税収減少割合をどこまで許容するかによって,逆進性緩和 のための軽減税率の対象品目として優先されるべき品目の逆転現象が見ら れ,どこまで税収の減少を許容するかが制度設計の上では重要である。
第2点として,逆進性の定義式を高所得階級と低所得階級の消費税負担率 の倍率(又は割合)とするか,両者間の差とするかにより,最適解が異なる 場合がみられ,逆進性をどのように定式化するか逆進性緩和のシミュレーシ ョンを行うさいには留意する必要がある。
第3点として,逆進性を最小化する最適解と第Ⅰ階級の負担割合を最小化 する最適解が異なり,政策目的を,逆進性を最小とするのか,低所得者の負 担割合を最小とするのかで,軽減税率の対象とすべき品目が異なる。
軽減税率の対象品目の組み合わせによっては,税収にも大きな影響を与え ることから,仮に軽減税率を導入する場合には,軽減税率の適用を租税特別 措置の適用状況の透明化等に関する法律の対象とすることで,具体的な減収
額等を明らかにし,軽減税率の適用の状況の透明化を図り,適宜,適切な見 直しが行えるようにすることも検討の余地があると思われる。
今回は支出項目を19品目に分類した中での分析であったが,より詳細な検 討を行うためには,家計調査第3表で公表されている品目ごと軽減税率の適 用を当てはめた場合について分析する必要がある。この場合,解の数が,
275=37,778,931,862,957,161,709,568品目となり,全検索による探索が困 難となることから,進化計算などの確率的最適化手法を用いた探索を行うこ とが考えられ,今後の検討課題である。
また,簡素化の観点からは,軽減税率の対象品目が少ないほど望ましと考 えられることから,詳細な分析を行う際には,軽減税率の対象品目を一定以 内数にした場合における,逆進性緩和の最適解(軽減品目数を制約式にして,
逆進性を最小化する。)や逆進性を一定以下とする軽減税率の対象品目の最 小化といった分析も課題としたい。
補遺
表10 最適解計算の基礎となった統計データ
平成24年 単位 円
2012 In Yen
年間収入十分位階級
平 均 Ⅰ Ⅹ
項 目 ¥ ¥
10,150,000
〜 〜
Average 2,680,000
実収入 467,774 209,695 916,218
食料 62,494 36,554 91,581
住居 22,136 24,564 22,781
家賃地代 17,063 22,385 10,852
設備修繕・維持 5,073 2,178 11,929
光熱・水道 19,059 12,001 25,384
家具・家事用品 8,725 3,685 15,840
被服及び履物 11,928 6,085 23,449
保健医療 10,036 5,561 17,177
医薬品 1,753 1,150 2,618
健康保持用摂取品 808 556 1,247
保健医療用品・器具 2,121 890 3,246
保健医療サービス 5,354 2,965 10,066
交通・通信 43,906 23,639 74,066
教育 13,347 2,554 31,006
教養娯楽 28,033 16,310 50,362
その他の消費支出 57,167 24,006 116,876
諸雑費 20,296 10,219 32,975
こづかい (使途不明) 11,791 1,424 24,728
交際費 18,368 10,952 32,370
食料 4,178 2,848 7,032
家具・家事用品 293 124 663
被服及び履物 553 417 1,038
教養娯楽 1,047 769 1,942
他の物品サービス 538 340 1,039
贈与金 7,204 4,455 12,873
他の交際費 4,554 1,999 7,783
仕送り金 6,712 1,411 26,802
(出所)「第3表 年間収入五分位・十分位階級別1世帯当たり1か月間の収入と支 出(総世帯のうち勤労者世帯)」を抜粋して作成。
謝辞
本研究は,長崎大学経済学部で行われたファカルティセミナーを契機とし て始まったものである。同セミナーの開催等に尽力された大倉真人准教授,
同セミナー開催への尽力及び貴重なコメントをいただいた式見雅代准教授に 深く感謝したい。また,本研究について電気学会 C部門 システム研究会で 報告を行った際,示唆に富んだ質問をいただいた。貴重な発表の機会を与え ていただいた電気学会 C部門 確率的最適化アルゴリズムの適用技術調査専
門委員会の役員の方々及び質問をいただいた会員の方々に深く感謝したい。
参 考 文 献
粕谷幸男(2012)「複数税率のしくみと導入のあり方」税理 2012.9 45‑58頁
上村敏之(2006)「家計の間接税負担と消費税の今後:物品税時代から消費税時代の実効税 率の推移」『会計検査研究』第33号 11‑29頁
田代昌孝(2009)「消費税の逆進性とその緩和策}埼玉学園大学紀要(経営学部篇)第9号 215‑220頁
北村行伸・宮崎毅(2013)『税制改革のミクロ実証分析−家計調査からみた所得税・消費税』
岩波書店
桜井良治(2013)『消費税ほど公平な税はない:課税原則と実態−西欧並み20%台で社会保 障充実,財政再建,震災復興−』静岡大学人文社会科学部 研究業書 第40号 文眞 堂
自由民主党・公明党(2013)「平成26年度税制改正大綱」平成25年12月12日
森信茂樹「消費増税議論(その2)消費税の逆進性解消には給付付き税額控除が有効だ」
DIAMOND online,2011.12.19.<http://diamond.jp/articles/‑/15386?page=4>(平成 25年10月16日アクセス)
橋本恭之・鈴木善充(2012)「消費税改革の課題」『租税政策論』清文社
橋本恭之(2013)「逆進性対策の再検討」『税研』第167号 Vol.28‑No.5 51‑58頁
林宜嗣(2012)「消費税増税における逆進性緩和策と給付付き税額控除を考える」租税研究 第754号 2012・8
八塩裕之・長谷川裕一(2008)「わが国家計の消費税負担の実態について」ESRI Discussion Paper Series, No.196