─ 経営協議会(BR)は危機の時代のモデルでもありうるか
?─
Kosten und Nutzen der betrieblichen Mitbestimmung :Betriebsräte, auch ein Modell für Krisenzeiten?
マルティン・ベーレンス
*訳 松 井 良 和
**1. は じ め に
1998年に,欧州連合が従業員の情報提供と意見聴取(information and
consultation)について欧州レベルの最低基準を導入したが1),これら欧州
レベルの規定は,ドイツの事業所レベルの共同決定システムに相当するも のだった2)。ドイツの共同決定システムは,欧州レベルの規定のほとんど
* ハンスベックラー財団・経済社会研究所主席研究員 Martin Behrens
Referats leiter der WSI in der Hans Beckler Stiftung
** 中央大学大学院法学研究科博士後期課程在学中
1) 例えば,大量解雇に関する1998年 7 月20日の理事会指令(98/59/EG),事業 移転時の意見聴取と情報提供に関する2001年 3 月12日の理事会指令(2001/23/
EG),労働者への情報提供と意見聴取に関する一般的な枠組みに関する2002年 3 月11日の理事会指令(2002/14/EG)。
2) 訳者注:各加盟国レベルの意見聴取と情報提供に関する指令と並んで,欧州 連合は,国家を超えた欧州レベルの労働者参加,企業決定についても指令を定 めている。欧州レベルの労働者参加,企業決定については,情報提供と協議を
をすでに含んでおり,さらに,中核領域では,従業員参加の欧州レベルで の最低枠組みを著しく上回っていた。
1952年の経営組織法(BetrVG)の成立によって(そして1972年と2001 年の二度の改正によって),ドイツでは経営協議会が法的に根拠づけられ,
一連の参加権(Beteiligungsrecht)を備えている3)。経営組織法の規定によ ると, 5 名以上の従業員がいるドイツの民間事業所では,経営協議会が選 出される。労働市場職業調査研究所(Instituts für Arbeitsmarkt-und Be-ür Arbeitsmarkt-und Be- rufsforschung)の最新調査によれば,2010年には, 5 名以上の従業員が いる全事業所の10%が経営協議会を設立していた。大企業が経営協議会を 有する確率はかなり高いので,( 5 名以上の従業員がいる事業所では)全 従業員の約44%が,経営協議会を有する事業所に属している4)。
経営協議会が初めて選出される際,経営協議会は─対象領域ごとに
─様々で,広範に及ぶ参加権を手にする。「情報提供権」は,企図され る活動について,ある措置を実行する前に,経営協議会に情報を提供する 義務を使用者に課すものである。例えば,使用者が従業員を解雇しようと する場合,使用者は第一に,この計画について経営協議会に情報を提供し なければならず,誰を解雇することになるのか,どの時点で,どんな理由
(解雇の種類)で解雇することになるのかを伝えなければならない。使用 者が経営協議会へ適時(rechtzeitig)に情報提供することを怠った場合に は,解雇は無効になる。また,「協議権」は,企図される措置についての
欧州レベルに拡大した欧州経営協議会指令(94/45/EC)の他,ヨーロッパ会 社法に関する理事会規則,労働者参加に関してヨーロッパ会社法を補充する理 事会指令(2001/86/EG)がある。ヨーロッパ会社(Europäische Aktiengesell-äische Aktiengesell- schaft)内での労働者参加は,現在のところ欧州経営協議会(EBR)に比較で きるほど,労働者参加を促す原動力にはなっておらず,研究も十分とはいえな いが,今後,ヨーロッパ会社が増えるにつれて重要性を増すと考えられる。
3) 訳者注:ドイツの経営協議会制度の研究成果をまとめた近年の文献には,藤内 和公『ドイツの従業員代表制と法』(法律文化社,2009年)がある。同書の中にも,
「従業員代表の実際」として,ドイツ経営協議会の実態研究が収められている。
4) Ellguth/Kohaut 2011, S. 246. Ellguth/Kohaut 2011, S. 246. 2011, S. 246. , S. 246. 246. .
情報提供とともに,意見表明の機会が経営協議会に与えられなければなら ないことを予定するものである。このことは,意見表明するための十分な 時間が経営協議会に残されるよう,情報提供が適時になされることを要求 する。さらに,使用者が経営協議会の提案を認識して,場合によってはそ の提案を考慮しうるだけの十分な時間を持つことも要求している。確か に,使用者が経営協議会の提案に従う必要があるわけではない。そして,
「異議申立権」(これは経営協議会へ適時に情報提供することを含む)は,
経営協議会が,使用者の決定に異議を申し立てることを可能にするもので ある。このことを,企図される解雇という最初に挙げた例で説明すると,
法律で定められた期間内に,特定の理由から,経営協議会は解雇に異議を 申し立てることができる。それでもなお使用者が解雇に固執する場合,労 働裁判所に訴えを提起しなければならない5)。最後に,「共同決定権」は,
経営協議会の最も強力な参加権である。共同決定権は,詳細に定められた 一連の対象領域(例えば労働日における労働時間の配分,年次有給休暇の 計画,事業所の社会施設,労働者の管理監督)に存在し,使用者は大抵の 場合,経営協議会の同意なく実行することはできない。共同決定すること を義務づけられた措置に際し,使用者と経営協議会の意見が一致し得ない 場合,仲裁裁判所の一種(「仲裁委員会(Einigungstelle)」)がこうした事 項について最終的に判断しなければならない6)。必要があれば仲裁委員会 が召集され,従業員と使用者の同数の代表者から構成される。中立的立場 にある者が仲裁委員会の長を担当し,今日,実際には地方労働裁判所の裁 判官が担当する。
5) 訳者注:この記述は以下のことに言及するものと考えられる。経営組織法 102条によると,解雇の場合,経営協議会は異議を申し立てることができる。
しかし経営協議会が異議を申し立てたことで直ちに解雇が無効となるわけでは なく,解雇の正当性をめぐり労働裁判所で争うことをここでは指しているもの と思われる。
6) 訳者注:仲裁委員会の役割・機能についても,前掲書 3 )198頁以下を参照。仲 裁委員会が取り扱うのは,法が従業員代表に決定への関与を認めた事項とされる。
前述のように,ドイツの経営協議会は詳細に区分された参加権を有する。
いくつかの活動領域では,経営協議会の参加権は比較的弱く(例えば,経 営に関わる決定の場合),別の領域(人事的事項の場合,労働時間の配分 の場合)ではかなり強い。さらに,経営協議会の積極的な参加が意図的に 排除されている活動領域もある7)。この領域は,特にその規制内容につい て,労働組合と使用者及び使用者団体との間で締結される労働協約に通常 定められている。こうしたことはとりわけ,労働時間の長さや,支払われ る報酬額にも当てはまる。こうした対象領域は意図的に,労働協約当事者 に委ねられている。
これに対して,経営協議会の参加権は,社会的事項,職場の形成,人事 的事項,経済的事項の領域にある。
2. 経営協議会による共同決定の経済効果
ここ数年,経済学者らは,事業所の経済的成功における経営協議会の関 与の効果について詳細を得ることに関心を持っている。最初の量的研究 は8),すでに1980年後半に由来し,その間25年に渡って我々はこのテーマ の研究を振り返ることができる。年月を経て,学術研究所のコンピュータ
7) 訳者注:経営協議会の参加が意図的に排除されている領域の研究ついては,
毛塚勝利「二元的労使関係と企業内労働条件規制」法経論集第54・55号(1985 年)171頁がある。当該論文では,賃金等の労働条件規制に関する協約優位の 原則につき,「組合と経営協議会の管轄を分けるべく,協約上の賃金その他の 労働条件についての規範は,それが協約で定めるのが通例である」ことは,「わ れわれにもよく理解できる」と述べられている。
8) 訳者注:量的研究とは,数値で表されたデータに基づき,統計学上,分析・
検討を行う研究をいい,社会調査研究では一般的な研究方法である。しかし,
世界の多元化,社会の複雑化に伴い,研究対象・課題に適した方法と理論を選 択し,様々な視点を考慮に入れて分析する「質的研究」の必要性も指摘されて いる。ウヴェ・フリック著,小田博志監訳『新版 質的研究入門―〈人間の科 学〉のための方法論』(春秋社,2011年)13頁以下。
化が進んだことにより,複雑な統計分析方法を利用する可能性が高まって いるだけでなく,事業所の大量のデータを継続して調査することによって,
現在では,事業所レベルの共同決定の経済効果の研究を可能にする,一連 のデータソースを用いることもできる。これまでの量的分析の圧倒的多数 は,以下 3 つのデータソース・調査に関連したものである。
1 つ目は「ハノーヴァーの企業パネル調査(Hannoveraner Firmenpanel)」
であり, 4 回の対象期間中(1994年から1997年)ニーダーザクセン州の製 造業で行われたものである。 2 つ目の調査は,「新たな情報技術と柔軟的 労働システム─パネル調査(Neue Informationstechnolgien und flexible Arbeitssystem:NIFA-Panel)」であり,1991年から1997年の間, 7 回の対象 期間中にドイツの建設機械業で行われた。 3 つ目の労働市場職業調査研究 所(IAB)の事業所パネル調査は,最大規模で,最も継続している事業調 査とされている。この調査は1993年から毎年(東ドイツにおいては1996年 以降),全産業部門で,あらゆる事業規模の約16000事業所で行われている。
データソースがより改善され,これらデータの評価により経験が得られ たことで,共同決定の影響についての量的研究領域では, 2 つの重要な展 開があった。第一に,研究の中で考慮される影響要因(Einflussfaktor)の 数が増えたことである9)。このことは,説明(「独立」)変数だけでなく,
むしろ,被説明(「従属」)変数にも当てはまる10)。そして近年,事業所レ ベルの共同決定の影響はもはや,ドイツ事業所の収益又は雇用の増大に影 響 す る だ け で な く, 職 業 教 育 活 動 や, フ ァ ミ リ ー フ レ ン ド リ ー
(Familienfreundlichkeit)という問題,そして例えばグループ労働の導入
9) 訳者注:様々な企業パネルを用いることで研究状況は一変し,近年の研究で は,生産性のレベルや生産量,財務業績(financial performance),収益,投資 等を含む様々な変数を研究に用いることが指摘されている(Frick/ Möller 2003, S. 429f.)。
10) 訳者注:説明変数は,「分析対象となる経済変数を説明する変数」であり,
被説明変数は,「分析対象となる変数」である。小林和司『計量経済学の基本』
(世界書院,2008年)10頁。被説明変数は目的変数とも呼ばれる。
といった労働組織の問題にも影響を及ぼしている。
第二に,方法論上研究の基礎になるアプローチ方法(Herangehenweise)
も変化した。この変化はいわゆる「内生性の問題(Endogenitätsproblem)」
からはっきりと読み取れる11)。このことは端的に明らかになる。経営協議 会による共同決定の影響を,例えば事業所の生産性に特定する場合,かつ ては,経営協議会を有する事業所と経営協議会を設立していない事業所と を比較して,統計学上の推定モデル(Schätzmodell)を描くというのが通 常の方法だった12)。この 2 つのグループ間にある違い,例えば事業所規模 や所属部門の違いは,統計学上「コントロール」される。これら研究の多 くは,経営協議会の存在と高い生産性との間に(顕著な)ポジティブな関 連性を見出していない(もっとも,研究の圧倒的多数はネガティブな関連 性も見出していない)。これに対して,新しい研究は,事業所の成果にお ける経営協議会の影響を分析するだけでなく,加えて,そもそもどのよう な設立条件(Ausgangsbedingung)で経営協議会を設立することになった かという問題を提起している。そして,経済不況が,従業員と事業経営者 との間に事業所内の紛争を生ぜしめる場合,今日では,平均値を上回って 経営協議会の設立に至っていることを,この研究は裏づけている。従業員 は経済不況の中,集団的利益代表による支援を期待するので(例えば,利 11) 訳者注:ここでいう「内生性の問題」には、必要とされる説明変数が除外さ れたことによる除外変数の問題、労働データに含まれる誤差の問題、また、「逆 の因果」に関わる同時性の問題という 3 つのケースが考えられる。本稿では、
経済危機による経営協議会の設立が考慮されなかったために、真のモデルとは 異なるモデルが描かれたことが指摘されていると考えられる。新しい研究で は、その点を踏まえ、経営協議会の設立条件を含めた検討がなされる。
12) 訳者注:「モデル」とは,対象となる現象の基本的な特徴に即して,対象の 含む様々な変数関係を選びとり,対象と近似・相似・同型な構造物として単純 化した模型であると説明される。中道實『社会調査方法論』(恒星社厚生閣,
1997年)57頁。社会調査研究では,多数の変数が複雑に絡まりあう社会現象を 対象とすることから,特定の特徴を強調してモデル化することが必要となると ころ,上記の通り,変数が足りない等の問題から,真のモデルが描かれなかっ たと考えられる。
益代表は職場の維持又は補償金の支払交渉の際に支援する),経営協議会 を設立する確率が上昇する。こうした危機に起因する経営協議会の設立を 統計学上の推定モデルにおいて検討しない場合,実際には存在する,共同 決定が事業所の経済状況へポジティブに影響することは過小評価されてし まう。結論的に,この点について,経済不況は多くの場合,例えば経営協 議会の共同決定の結果ではなく,むしろ一般には,そうした利益代表を初 めて設立するきっかけとなっている。よって,新たな研究の中で取り組ま れている内生性の問題を検討することにより,共同決定と事業所の経済的 成果とのポジティブな関連性がより鮮明に現れることは不思議ではない。
以下では,(主に新しい)これら調査結果の卓越した発見のいくつかを 詳しく説明する。以下の2.1から2.6節の多くはUwe Jirjahnの構成に基づ いている13)。
2.1 生 産 性
まず,労働生産性についての研究の圧倒的多数が,ポジティブな影響を 証明していることは注目される14), 15), 15)。他方で生産性につき,いくつかの研 究は重大な影響を見出しておらず16),この調査結果は大きく誤っている可 能性が高い。
これら研究の中ではさらに,以下の別の要素の促進効果(moderierender Einfluss)というのも興味深い。事業所内で使用者及び使用者団体と労働 組合との間で交渉され,締結された労働協約が同時に適用される場合,事 業所レベルの共同決定のポジティブな影響はより明確に現れる。これは,
13) Jirjahn 2010参照。Jirjahn 2010参照。2010参照。
14) Hübler/Jirjahn 2003, Wagner Hübler/Jirjahn 2003, Wagner 2003, Wagner , Wagner 2008, Hübler 2008, Hübler 2008, Hübler 2008, Hübler 2008, Hübler , Hübler 2003, Frick 2002, Frick/Möller 2003, Frick 2002, Frick/Möller 2003, Frick 2002, Frick/Möller 2003, Frick 2002, Frick/Möller 2003, Frick 2002, Frick/Möller 2003, Frick 2002, Frick/Möller 2003, Frick 2002, Frick/Möller , Frick 2002, Frick/Möller 2002, Frick/Möller , Frick/Möller 2003, Müller 2009.
15) 訳者注:各研究によると,労働生産性に関し経営協議会のポジティブな影響 が特に顕著に見出されている。この点につき,経営協議会の及ぼす影響が,製 造部門とサービス部門とで大きく異なるとの指摘は興味深いと思われる
(Frick/Möller 2003, S. 447)。
16) Schank/Schnadel/Wagner 2004, Addison/Bellmann/Schnabel/Wagner 2004. Schank/Schnadel/Wagner 2004, Addison/Bellmann/Schnabel/Wagner 2004. 2004, Addison/Bellmann/Schnabel/Wagner 2004. , Addison/Bellmann/Schnabel/Wagner 2004. 2004. .
現行労働協約にとって重大な対立事項が事業所外の領域に移され,従って,
事業所内のパートナー(経営者と経営協議会)間の協力が容易になったた めであろう。さらに研究の中では,経営者の利益配分に口出しをしない場 合には,経営協議会の存在が生産性へポジティブな影響を強めていること も示されている。また,大企業の場合,ポジティブな影響はより強くなる。
2.2 賃金と収入
全体としてわずかな研究において,統計上,経営協議会の存在が従業員 の収入に重大な影響を及ぼしていることを見出している。その際, 2 つの 研究ではポジティブな影響,すなわち経営協議会の存在が,従業員の収入 額を上げていることを見出している。もっとも,収入の交渉は基本的には 労働協約当事者の責務であることを考えると,経営協議会の明白な影響が 見出されていないことは不思議ではないと思われる。
収入額における経営協議会の影響という問題以上に興味深いと思われる のは,いくつかの( 2 , 3 の)研究では,経営協議会の存在が事業所内の 男女賃金格差の縮小に寄与していると指摘されていることである。このこ とは本質的には,経営協議会が,従業員の格付け,すなわち,特定の収入 グループ又は収入カテゴリーへの分類に経営協議会が影響を及ぼしている ことによると推測される。
2.3 収 益 性
事業所の収益における経営協議会の影響についての調査結果では,意見 が非常に対立している。調査結果は,いかに正確に「収益」が測定される か,すなわち,収益を測る基準が,各推定モデルの中でどのように考慮さ れるかということに非常に強く左右されている。一方の研究では,いわゆ る「主観的な」収益性の基準を用いる。その際,調査を受けた経営代表者 は,必ず特定の指数に基づくというわけではなく,自らの事業所の収益を 主観的に評価することを求めている。他方,別の研究では,事業所の指数 から導かれる評価(Wertschöpfung)を考慮した,「客観的」な収益性の
基準を用いる。全体的にみれば,客観的な収益性の基準を用いる研究がポ ジティブな影響を見出す一方17),他の研究では主観的な収益性の基準を用 いて,経営協議会のネガティブな影響を証明している18), 19)。
2.4 イノベーション
事業所のイノベーション能力の領域における経営協議会の影響について の研究は,大抵の場合,強い関係性を特に示してはいない20)。強い関係性 が示されていないのは,特に,プロセスイノベーション(Prozessinnnovation)
の領域におけるもので21),投資行動への経営協議会の影響を対象とする各 事例研究の場合でもある。しかしこのことは,生産イノベーション
(Produktinnovation)の領域では異なると思われる。この点につき,いく つかの研究では,統計上顕著でポジティブな影響を認めている22)。
17) Zwick 2007, Mohrenweiser/Zwick 2009. Zwick 2007, Mohrenweiser/Zwick 2009. 2007, Mohrenweiser/Zwick 2009. , Mohrenweiser/Zwick 2009. 2009. .
18) Addison/Schnabel/Wagner 2001, Dilger 2002 und 2006, Renaud 2008. Addison/Schnabel/Wagner 2001, Dilger 2002 und 2006, Renaud 2008. 2001, Dilger 2002 und 2006, Renaud 2008. , Dilger 2002 und 2006, Renaud 2008. 2002 und 2006, Renaud 2008. und 2006, Renaud 2008. 2006, Renaud 2008. , Renaud 2008. 2008. . 19) 訳者注:収益性についてネガティブな影響を見出すDilgerの研究では,一
般的に経営協議会がネガティブな影響を及ぼすとしつつも,収益の改善それ自 体が経営協議会との関係の調整を促すことを指摘している(Dilger 2006, S.
583)。
20) 訳者注:近年の研究においても,顕著な影響が見出されている労働生産性に 対し,プロセスイノベーションと生産イノベーションの双方で経営協議機会は 影響を及ぼしていないと指摘されていたところである(Frick/Möller 2003, S.
430)。
21) 訳者注:プロセスイノベーションとは例えば,物を生産する過程での改善を いう。
22) 訳者注:生産イノベーションは,何を製造するか等を問題対象にしたもので ある。経営協議会は,イノベーションの領域において法律上の権利(共同決定 権等)を有するわけではないが,影響を及ぼすとの研究結果もあり,特に,生 産イノベーションの領域で経営協議会と事業所内の給付との間にポジティブな 関係が見出されている(Dilger 2006, S. 580)。
2.5 雇 用
事業所の雇用への経営協議会の影響を検討する研究ではまず,これまで にもしばしば指摘されてきた以下のような推論を確認することができる。
特に,個別人事措置の領域の場合,また重大な事業変更の場合にも,広く 異議申立権を行使し,場合によっては共同決定権を行使する経営協議会は まず邪魔になるというものである。そして経営協議会は,大量解雇につい て情報提供することや大量解雇を根拠づけること,また疑義がある場合に は,労働裁判所でその目的を達成することを経営者にやむなくする。以上,
多くの研究によると,人事変動を減らすという形で,明らかな影響を及ぼ すことが一致して見出されている23), 24)。他方で,経営協議会が欠員補充を 容易にするという証拠もある25)。しかし,事業所の雇用増大への経営協議 会の影響につき,これまでの調査結果は意見が対立している。
2.6 労 働 時 間
これまでの分析では,時間外労働を一般に利用する強度において経営協 議会の影響を示していない。この点については,例えば,激しく変動する 受注状況又は生産要請といった別の影響要因がより大きな意味を有する。
しかし,事業所レベルの労働時間管理につき,経営協議会が中立であると 考えるのは誤りだろう。経営協議会は,事業所の労働時間政策の領域では まさに,特に広範に及ぶ参加権を行使するので,経営協議会が中立と考え ることは非常に奇妙である。なぜなら,より詳細に見ると,経営協議会の 存在と労働時間口座制度26)の利用との間に明白で,ポジティブな関連性も 23) Kraft 2006, Frick 2006, Addison/Schnabel/Wagner 2001, Frick/Möller 2003.
24) 訳 者 注: こ れ ら の 研 究 で は, 経 営 協 議 会 が「 長 期 雇 用(long-term employment)」に資すること,つまり経営協議会が人事変動の減少にポジティ ブに影響していることが指摘されている。同時に,経営協議会の存在は有期雇 用の労働関係にも影響を及ぼしているという(Frick 2006, S. 309f.)。
25) Backs-Gellner/Tuor 2009. Backs-Gellner/Tuor 2009. 2009. .
26) 訳者注:労働時間口座とは,銀行口座のように各人の労働時間を記録し,所 定労働時間を超える分は貯蓄として把握される制度である。労働時間口座制度
裏づけられているからである27)。ここでは,「時間外労働」と「労働時間口 座制度」という 2 つのテーマ領域の密接な関係も示されている。すなわち,
事業所内に労働時間口座制度が存在しない,又は狭い枠での労働時間口座 制度がある限り,経営協議会はその参加権を行使することができる28)。事 業所内に初めて労働時間口座制度のシステムが構築される場合,この口座 を優先して労働時間管理が展開されることになり,それとともに,時間外 労働に同意することに経営協議会を関与させる必要性は明らかに減少す る。
経営協議会につき20年以上もの量的研究に関するこれまでの研究の小括 として,経営協議会は「経営を脅かすもの(Managementschreck)」では ないことに変わりはない。特に収益の領域での調査結果や,雇用構成の調 査結果において意見が対立しているが,例えば事業所の生産性や生産イノ ベーションへ経営協議会が影響を及ぼしている領域では,非常に強い,ポ ジティブな影響が見られる。そして,その関係性を論理的に根拠づけるた め,前述の研究の多くは,集団的発言モデル(Collective-Voice-Model)を
を紹介したものとして,「諸外国のホワイトカラー労働者に係る労働時間法制 に関する調査研究」労働政策研究報告書36号(労働政策研究・研修機構,2005 年)88頁(橋本陽子執筆部分)。労働時間口座制度は様々に設計されるところ,
例 え ば 以 下 の 2 つ の タ イ プ が あ る。 1 つ は「 年 間 労 働 時 間 モ デ ル
(Jahresarbeitszeitmodelle)」で,週または月所定の労働時間の代わりに,労働 契約において設定された労働時間量が, 1 年の計画期間(Planperiod)に割り 当てられるというものである。また,「積立口座」は,規定の労働時間を超え て労務提供された労働時間を労働者が労働時間口座に積み立てる制度である。
Erfurterkommentar zum Arbeitsrecht 12. , Aufl. 2012, ArbZG§3 Arbeitszeit der Arbeitnehmer, Rn. 19ff(Rolf Wank). これらを含む様々な労働時間口座制度のタ イプについては,藤内和公「ドイツ労働時間口座制の普及と異議」労働法律旬 報1751号(2011年) 6 頁に紹介されている。
27) Dilger 2002, Hübler/Jirjahn 2003, Ellguth/Promberger 2004. Dilger 2002, Hübler/Jirjahn 2003, Ellguth/Promberger 2004. 2002, Hübler/Jirjahn 2003, Ellguth/Promberger 2004. , Hübler/Jirjahn 2003, Ellguth/Promberger 2004. 2003, Ellguth/Promberger 2004. , Ellguth/Promberger 2004. 2004. .
28) 訳者注:各事業所では,労働時間口座制度は,経営協議会の共同決定におい て,事業所協定を締結することによって導入されることになる。Ulrich Perti, Problem um Arbeitszeitkonten, AuR 2000, S. 444.
用いる29)。このモデルによると,事業所の決定に従業員が関与することは,
従業員のモチベーションに影響し,従業員は事業所内での協力を要求し,
信頼を形成する30)。そうした協力がどの程度,極限条件の下でも耐えうる のかについて,以下の章で検討する。
3. 協調経営(Kooperation Management)─経済危機下の経営協議会
他の多くの国と同様,未曽有の圧力をもって,2008年,2009年の世界経 済危機にドイツは直面した。そして,周知のように国内総生産は落ち込み,
2008年第 2 四半期から2009年第 2 四半期の間,引き続き 5 四半期は経済が 衰退するという,戦後ドイツでは例のない展開をみせた。多くの事業所で はこうした経済条件の下,途方もない圧力が増大しており,経済危機が始 まるまで,事業所の当事者である経営者と経営協議会はこうした状況に対 応できるのか,どのような形で対応できるかは明らかではなかった。ここ で, 2 つの本質的な問題が提起されている。すなわち,事業所の当事者ら は,極めて困難な条件の下,事業所内の雇用の展開を安定させることに上 手く寄与しうるのか,ということであり,もう 1 つは,それとの関連で,
経営者と経営協議会との事業所レベルの協力体制は,同種の負荷テスト 29) 訳者注:「Collective-Voice-Model」についても我が国でも紹介されるところ である。水町教授は,アメリカでは人事管理の場面で労働者が集団的に意見を 言い,その意見を反映させる制度を作る傾向があり,「その集団的なボイス
(“collective voice”)を活かして,問題がどこにあるのかを発見して,法システム の中に組み込もうという動き」があることを指摘している。水町勇一郎講演「な ぜ日本には切られやすい労働者がいるのか?─正規・非正規労働者問題の背景 と改革の方向性─」山形大学法政論叢48号69頁。このモデルは,いかにして紛 争に伴うコストを抑え当事者の利益を高めていくかという経済学的思考を基盤 にしているという。水町勇一郎『労働法第 4 版』(有斐閣,2012年)26,27頁。
30) 訳者注:また毛塚教授は,労働者が発言するシステム及び労働者間の利害を 調整するシステムを構築する必要性を指摘する。毛塚勝利「企業統治と労使関 係システム ステークホルダー民主主義からの労使関係の再構築」石田眞・大 塚直編『労働と環境』(日本評論社,2008年)57頁。
(Belastungsprobe)に耐えるのか,ということである。これら 2 つの問題 に取り組むのが以下の分析である。
以下の表 1 が示すように,事業所が雇用保障に貢献しうる多くの制度が 事業所で用いられている。
表 1 雇用保障のために講じられた措置
0 5 10 15
パーセント
出所 : WSI Betriebsrätefregung 2009: Beschäftigungssicherung 社会的給付のカット
その他労働時間規制の変更 収入のカット 年次有給休暇請求権の規制 事業所内の配置転換 操短労働 労働時間貯蓄口座における 貸し時間の引き下げ/借り 時間の引き上げ
20 5
8 11
13 14
20
30
25 30 35
このデータは,WSIが2009年に行った雇用保障についての経営協議会 の調査において収集されたものである。この調査は,20名以上の従業員が いる事業所からなる2300以上の経営協議会への,代表的な質問に基づくも のである(従って経営協議会のない事業所は調査に含まれていない)31)。表 1 に書かれている解答頻数が示すように,労働時間口座制度の利用は,事 業所の経済危機の克服に重要な意味を有する32)。全事業所(したがって,
31) Bogedan et al. 2009を参照。Bogedan et al. 2009を参照。2009を参照。
32) 訳者注:労働時間口座制度と雇用保障・経済危機との関連については,藤内 和公・前掲論文26)22頁以下でも指摘されている。そこでは,雇用保障目的と 経済危機に起因する労働時間口座制度の利用目的に分けられ,「雇用保障措置 のために労働時間口座を利用」する方が,「経済危機に起因して労働時間口座 を利用」する場合よりも多いことが示されている。
直接には経済危機に直面しなかった経営協議会も)のうち回答した経営協 議会の30%が,労働時間口座の貸し時間(Guthaben)の引き下げを(な らびに借り時間(Zeitschulden)の上乗せも)事業所の雇用保障のために 利用したことを示している。操短労働(国の財源も用いて事業所が大量解 雇を回避する,又は少なくとも一時的に延期することに配慮する場合に,
連邦雇用エージェンシーから助成金が支給されるもの)は,項目のうち 20%を占め 2 番目である。さらに他のポストへの従業員の配転(14%),
年次有給休暇請求権の規制(13%),収入のカット(11%),社会的給付の カット( 5 %)ならびにその他労働時間規制の変更( 8 %)が雇用保障に 寄与してきた。これを見ると,経営者と経営協議会が雇用保障戦略の上で 一致することに成功しているのが極めて明白である。このことは,大きな 紛争を抑えるものである。WSIは定期的に,経営協議会と経営者の協働 という問題について経営協議会に質問をしている。ある質問の中で,各事 業所の経営者が「経営協議会の共同決定権を妨げる」かどうかについて経 営協議会に回答を求めた。提示した回答は,「なし(nie)」,「ときどき
(manchmal)」,「度々(häuhig)」であり,「度々」というのは,協力的な 協働のルールを侵害しているのは明らかであることを表している。諸項目 の頻数は,表 2 に示されている。
表 2 「使用者は経営協議会の共同決定権を妨害しようとしている?」
出所 : WSI Befragung der Betriebsrat 2007/2010 2007 2010 12.6%
「度々」 9.2%
「ときどき」
「なし」
48.6%
38.8%
44.6%
46.2%
さらにWSIは定期的に,使用者の情報提供の態様についても経営協議 会に質問している。最初に述べたように,情報提供権は経営組織法により 法律で保障される参加権の重要な構成要素である。この点につき,多くの 場合,質問を受けた経営協議会は,関連する情報を経営者に「要求しなく ても(unaufgefordert)提供してもらえる」と回答し,また,「初めての問 い合わせ」で情報を得ている。そして,関連する情報を「繰り返し求めな ければならない」と述べている。最後のカテゴリーでは,経営者の協力体 制の欠如又は経営組織法の規定違反をも示している。
表 3 使用者の情報提供の態様
出所 : WSI Befragung der Betriebsrat 2007/2010
2007 2010 32.8%
27.3%
繰り返し求めなけれ ばならない
初めての問い合わせ で得ている
要求しなくても得て いる
35.7%
31.5%
33.4%
39.3%
表 2 と表 3 は, 2 つの時点での1000以上の経営協議会の調査に基づくも のである。最初の調査(縦縞のグラフ)は2007年に行われたもので,経済 危機以前であるのは明らかである。 2 度目の調査(横縞のグラフ)は,
2010年の第 1 四半期(経済危機の終わり)のもので,経済危機が関係者の 記憶に新しい時点までに行われたものだった。前に引用されたWSIの調 査の場合と同様,ここで引用される 2 つの調査でも,20名以上の従業員が いて,経営協議会がある事業所だけが数に含まれている。さらに,2007年 と2010年の両時点について,同じ事業所で同じ人に質問をした場合だけが 分析に含まれている。この表が示すように,共同決定権の妨害と使用者の
情報提供の態様という 2 つの側面に関連して,危機以前の時点に比べ,参 加態様の不十分さが明らかに減少していることを示している。2007年に は,回答した経営協議会の12.6%が,経営協議会の共同決定権を使用者は 度々妨害しようとしていると答える一方,2010年にこの割合はたった9.2%
になっている。同じようなことが,使用者の情報提供の態様について報告 されている。2007年には質問を受けた経営協議会の32.8%は,使用者が情 報提供義務を履行する前に,繰り返し使用者に情報を求めなければならな かったが,2010年にこの割合はもはや27.3%になった。
表 4 は,共同決定権に対する妨害を危機に直面した程度に応じて,もう 一度分けて,説明し直したものである(2010年の危機の終わりについての み)。
表 4 危機に直面した後の経営協議会の共同決定権に対する妨害
出所 : WSI Befragung der Betriebsrat 2007/2010 危機に直面した事業所
「度々」 「ときどき」 「なし」
危機に直面していない 事業所
全事業所
9.3% 7.4%
10.8%
46.2% 46.9%45.7% 44.5% 45.8%43.5%
この表によれば,確かに,危機の影響を受けていると述べる各事業所で は,経営協議会の参加態様の欠如がより多く見出されるが,危機に遭遇し ていない事業所との違いはごくわずかだということが示されている。2010 年には,危機に直面した全事業所の10.8%が,使用者は共同決定権を行使 する際に「度々」妨害することを示している一方,危機に遭遇していない
事業所の割合はたったの7.4%である。この結果は,確かに,経済危機が 協力的態度をまさに使用者の側で,ポジティブに強めたことを示している ものの,この関連性を機械的に考えてはならない。すなわち,経済危機が,
当該事業所内の関係者の距離をより近づけるとの結果を自動的にもたらし たわけではない。むしろ危機の経験は,一般的で社会的な参加の文化
(Beteiligungskultur)に影響している。こうした社会的な参加の文化は,各 事業所に強力な効果を生じ,実際に直接には経済上関係しないものである。
4. 結 論
全体として,この間約100の量的研究の一断面を見ると,事業所レベル の共同決定が従業員(とその労働組合)に委ねられ,事業所内の民主主義 を要求するための制度であるというだけでなく,いくつかの領域では,事 業所の経済的成功にも貢献しうることを示している。そして,調査結果に もう一度着目すると,情報提供,協議,経営協議会による真の「共同決定」
もポジティブに事業所の生産性に影響を及ぼし,生産イノベーションや労 働時間口座制度の利用にも影響している。さらに経営協議会は,人事変動 の減少にも関係する。これに対してあまり明白ではないが,これまでの研 究では,賃金や収入額の領域において,また事業所の収益の領域において 経営協議会の影響を実証している。
さらに,WSIの質問を受けた経営協議会の回答が裏づけているように,
法律で保障され,制度上定着した参加の文化が─少なくとも,経営協議 会制度を用いている各事業所では─危機に伴う動揺に対して非常に堅固 であることを示している。危機に遭遇した事業所の多くは,経営協議会と 経営者が雇用保障というテーマで運命を共にし,例えば,労働時間口座の 貸し時間を切り下げることによって,又は国が補助金を出す操短労働の利 用を増やすことによって,雇用の喪失を防ごうとしている。このことは,
事業所内のパートナーの協力が強化されていることに現れている。そのよ うに改善され,強化された協働が,直接の危機を克服した後,どの程度維
持されるかは近々明らかになるだろう。
文 献
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