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The influence of disagreement between students’ personal achievement goal orientations and classroom goal structures on students’ motivation to learn

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個人の目標志向性と教室の目標構造の齟齬が 児童の学習意欲や行動に及ぼす影響

高崎 文子・村本真結子

The influence of disagreement between students’ personal achievement goal orientations and classroom goal structures on students’ motivation to learn

and learning behaviors

Fumiko Takasaki and Mayuko   Muramoto

Received September 30, 2020

 The purpose of this study was to examine if the disagreement between studentsʼ personal achievement goal RULHQWDWLRQVDQGFODVVURRPJRDOVWUXFWXUHVLQÀXHQFHVWKHLUPRWLYDWLRQWROHDUQRUOHDUQLQJEHKDYLRUV

 Participants were 235 elementary school 5

th

and 6

th

JUDGHUV7KHUHVXOWZDVWKDWQRUHODWLRQVKLSVZHUHVKRZHG between the disagreement of the studentsʼ personal achievement goal orientations and classroom goal structures and the studentsʼPRWLYDWLRQIRUOHDUQLQJDQGOHDUQLQJEHKDYLRUV,IHLWKHUWKHSHUVRQDORUFODVVURRPJRDORYHUODSVWKH PDVWHU\JRDOWKHPDVWHU\JRDOZRXOGEHZRUNSRVLWLYHO\WRPRWLYDWHWKHLUOHDUQLQJ

Key words : personal achievement goal orientation, classroom goal structure, motivation to learn

問題と目的

 近年,全国学力・学習状況調査や OECD 生徒の学 習到達度調査(3,6$)の結果に注目が集まる中で,

学力への影響要因として,子どもたちの学習意欲や学 習行動に着目した分析が行われている.平成 31 年度 に実施された全国学力・学習状況調査の結果の分析に よると, 小学生・中学生ともに「達成感」や「規範意識」

などのいわゆる「非認知能力」要因と教科の得点に正 の相関があることが示された(国立教育政策研究所,

2019) . 「非認知能力」とは,,4 や学力として表され

る「認知能力」以外(Heckman & Rubinstein, 2001)の,

学業成果に影響を与える諸特性と考えられ, 自己概念・

動機づけ・自己効力感・社会情緒的コンピテンス・レ ジリエンスなどの幅広い要素が含まれる(Gutman &

6FKRRQ;遠藤,2017) .子どもたちの学習を促 進する教育的働きかけとして,学力に直結するような

「認知能力」を高めるという指導だけではなく, 「非認 知能力」の側面へのアプローチにも関心が高まってい る.では,幅広い要素を含む「非認知能力」のなかで も,どの要素にどのように働きかけることが有効なの だろうか.

 学校という教育文脈で考えると,動機づけ要因への アプローチは子どもたちの学習行動に直結する教育的 働きかけとなりうるだろう.動機づけのメカニズムを 説明する理論は様々あるが,子どもたちが学習にお いて “ 何を目指しているか ” ではなく,“ なぜその課 題に取り組むのか ” という行動の理由に注目する「達 成 目 標 理 論 」 ($PHV;Dweck, 1986;Nicholls, 1984)は,行動主体である子どもたちと学習環境を 作る教師の両方の観点から,学習への動機づけメカニ ズムを明らかにし,効果的な指導を検討するために有 効な枠組みを提供すると考えられる.達成目標理論に おける目標とは,大きく 2 つに区分され,自分の能 力を伸ばすことを目指す「熟達目標(mastery goal) 」 と,自分の能力の高さを示すことを目指す「遂行目 標(performance goal) 」の,2 つの目標志向パターン があるとされている.どちらの目標志向パターンを持 つかによって,達成場面における認知的・感情的・行 動的な特徴が異なることが示されており(Dweck &

Leggett, 1988 ) ,熟達目標志向は達成場面において感

情・認知・行動が適応的で,失敗経験後も動機づけや 学習行動は維持・促進されるが,遂行目標志向は失敗 後や能力に自信がない時には意欲の低下や挑戦・努力 の放棄など,感情・認知・行動面で不適応な反応が生

1 人吉市立中原小学校

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じるとされる.

 この目標志向パターンは個人特性としてとらえられ 個人の感情・認知・行動への影響が検証される一方で,

個人が所属する集団が共有する目標に注目した研究も 行われている.$PHV $PHV( 1984 )は,子どもた ちの学習環境の中でも “ 学級の雰囲気 ” が,児童・生 徒の学習に影響を与えるとし,そこには教師の目標志 向に基づいた学級経営や子どもへの働きかけが作用し ていると指摘した.たとえば子どもの目標志向に影響 を与えるクラスの特徴として,$PHV(1992)は学級 構造を提示している.それによると学習環境は「課題 構造」 「権威構造」 「評価/承認構造」の 3 つの側面 でとらえられ,教師の指導方略によって生徒の動機づ けパターンや目標志向性に影響を与える事が示唆され た.この枠組みに基づいて,黒沢・上淵(2004)は 熟達目標志向の高いクラスと遂行目標志向の高いクラ スの教師の振る舞いを比較検討した.その結果,熟達 目標志向の高いクラスの教師は, 学習形態を工夫し (課 題構造) ,教師は絶対的な存在ではなく(権威構造) , 児童の意見の受容(評価構造)を多く行っており,一 方で遂行目標志向の高いクラスでは,教師は児童に注 意をすることで絶対性を示し(権威構造) ,正しい答 えを求め失敗を拒絶する(評価構造)という特徴を示 した.このように教室の学習環境の特徴として,課題 への取り組みや能力の伸びが成果として認められ,努 力を重視し学びのプロセスに焦点があてられるような

「熟達目標構造」と,よい成績や高いレベルへの到達 が成果とされ,いかに能力が高く他者よりも優れてい るかに焦点があてられる「遂行目標構造」が見出され た.教室の目標構造は,教師の言動によって教室で重 視される価値や成功基準が示されることで,教室の目 標として子どもたちに共有され形成されると考えられ る.

 教室場面以外では,部活動における所属集団の目標 構造と個人の目標志向性との関連を検証した研究があ る(早乙女・原田・中村,2011) .早乙女ら(2011)

の研究では “ 教室の目標構造 ” のかわりに “ チームの 動機づけ雰囲気 ” が測定され,“ 課題関与的雰囲気 ” と “ 自我関与的雰囲気 ” が抽出されたが,これはそれ ぞれ “ 熟達目標構造 ” と “ 遂行目標構造 ” に対応する 内容である.分析の結果,個人の課題志向性(熟達目 標志向)はチームの課題関与的雰囲気との関連のみが 示され,個人の自我志向性(遂行目標志向)はチーム の課題関与的雰囲気と自我関与的雰囲気の両方と関連 があることが示された.

 このように所属集団の目標構造が個人の目標志向性 を導くことが示唆される一方で, 同じ教室で学んでも,

その環境における経験をどのように解釈するかについ

ては, 個人差があることも指摘されている(Weinstein,

1989;$PHV $UFKHU) .$PHV ら(1988)は 生

徒が教室における目標をどのように認知しているかに 注目し,教室目標構造の認知と学習に関連した諸変数 との関連を検証した.その結果,生徒が所属している クラスを「熟達目標構造」と認知している場合,挑戦 性や努力帰属などが高まり適応的な学習方略をとるこ とが示されたが, 「遂行目標構造」と認知している場 合,適応的な学習行動との関連は示されなかった.ま た,教室において認知されるのは学習に関する目標だ けではない.学級における社会的目標構造と学習動機 づけの関連を検討した大谷・岡田・中谷・伊藤(2016)

によると,児童が学級の向社会的目標を認知している と,内発的動機づけに直接ポジティブな関連を示すと ともに,子ども同士の相互学習を介して内発的動機づ けと学業自己効力感を高めることが示された.

 集団の目標と個人の目標そして学習行動・成果とい う 3 者の関係については,三木・山内(2005)が「教 室の目標構造の認知→個人の目標志向性→学習行動・

成果」というモデルを設定し検証を行っている.その 分析の結果,熟達目標構造が認知されると個人の熟達 目標が高まることで深い学習方略をとること.遂行目 標構造が認知されると,個人の遂行目標を介して成績 認知が高まる場合もあるが,課題回避目標が高まれば 浅い学習方略に向かうことが示された.

 以上のように,所属集団の目標構造はその集団の成 員である個人の目標志向性を方向づけその結果達成行 動に影響を与えることが明らかにされてきた. しかし,

これまでの研究で十分に検討されていない点もある.

まず,子どもの認知する教室の目標構造は客観的な教 室の目標構造の特徴を反映しているのか,という点に ついてである.認知された教室の目標構造は,実際の 客観的特徴をとらえているというよりも,個人の目標 志向性に合わせて選択的に教室や教師の特徴が認知さ れた結果である可能性もある.その場合,認知された 教室の目標構造は個人の目標志向性を反映しているだ けであって,教室の目標構造が個人の目標志向性を方 向づけているわけではないということになる.この点 を明確にするためには,個人の目標志向性に左右され ない教室の目標構造の条件設定をすることによって,

環境要因と個人特性要因を独立させて影響を検証する 必要があるだろう.

 つぎに,個人の目標志向性が教室の目標構造に影響

を受けて変化する場合,どの程度の時間を要するのか

という点についてである.初期の達成目標研究におい

ては,実験の課題教示で特定の目標志向性が導入され

る場合もあれば,事前に個人の特性としての目標志向

性が測定される場合もあった.すなわち,目標志向性

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とはその場での課題や集団の考え方に左右されるとい うとらえ方と,個人の安定的特性というとらえ方の両 方があった.三木・山内(2005)の教室の目標構造 が個人の目標志向性を方向づけることを前提としたモ

デルや, Midgley ( 2002 )の小学校から中学校への環

境移行に伴い,集団の目標構造も個人の目標志向性も 習熟目標から遂行目標に変化するという研究結果など から,教育現場に即した研究では,個人の目標志向性 は環境変化に伴って所属集団の目標を取り入れる形で 徐々に変化していくととらえられているようである.

 それでは,個人の目標志向性が短期間では変化しに くい特性であるのなら,クラス替えや進学によって所 属集団の目標構造と個人の目標志向性が一致しないよ うな事態に直面した直後,学習への動機づけや学習行 動はどのような影響を受けるのだろうか.個人が集団 の目標構造に適応するまでの間の目標の不一致状態 は,それまで個人が経験し内面化してきた学習への考 え方を脅かす,認知的不協和を引き起こすと考えられ る.Midgley(2002)の発達段階−環境適合理論では,

中学生はより自立的な学びを求める発達段階にある が,中学校は小学校に比べて学校環境が統制的で,自 律的な学びの機会が少なくなるため,個人の欲求と環 境が提供する機会の間に齟齬が生じ,それが適応的で ない学習行動につながっていると示唆している.つま り,個人と環境の目標が一致しないと,動機づけや学 習行動は低下する可能性が考えられる.ただし,これ は長期的に個人と環境の不一致が生じている場合につ いての議論であり,環境移行直後に短期的に生じる個 人の目標志向性と教室の目標構造との不一致が不適応 反応を引き起こすことがあるのかについては,ほとん ど検証されていない.

 クラス替えや進学によって,それまで所属していた 集団の目標構造と新しい所属集団の目標や強調される 価値が異なるという経験は,多くの子どもたちに起こ りうることである.長期的にみれば徐々に新所属集団 の目標構造に適応していくとしても,それまでの間に 学習意欲や学習行動の低下が予想されるのであれば,

対応を考える上でも,新しい環境における目標構造と 個人の目標志向性の影響について明らかにする必要が あるだろう.

 以上のことから本研究では,個人の目標志向性と教 室の目標構造とが一致しない時,児童の学習への意欲 と学習行動に抑制的な影響を与えるという仮説につい て検証することを目的とする.その際,先に指摘した 集団の目標構造と個人の目標志向性の関係を明確にす るため,教室の目標構造についてはその特徴を客観的 に共有できるように仮想場面を用いて条件設定を行 う.これによって,教室の目標構造の影響を個人の目

標志向性の影響から独立させて調べることができる.

また仮想場面を用いることで,個人が所属集団の目標 構造に直面して間もない時期の学習意欲や学習行動に 関する反応を検証することができると考える.

方法

調査協力者:$

県の小学校 4 校に在籍する小学生 5,

6 年生 235 名(男児 124 名, 女児 111 名; 5 年生 127 名,

6 年生 108 名)を対象に質問紙による調査を行った.

調査内容:

1.個人の目標志向性 三木・山内( 2005 )の「個人

の達成目標尺度」のうち,学習における価値と自己効 力感の観点から, 「熟達目標構造」 「遂行目標構造」各 4 項目計 8 項目からなる尺度を作成した. 「あなたは 次の質問についてどのくらいあてはまりますか」とい う教示のもと, 「1.まったくあてはまらない〜 5.と てもあてはまる」の 5 件法で回答を求めた.

2.教室の目標構造の場面設定 教室の目標構造場面 については,三木・山内(2005)の「教室の目標構 造尺度」の項目を参考に,熟達目標構造の特徴を持つ クラスと,遂行目標構造の特徴を持つクラスの状況を 記載した仮想場面を設定した.2 つのクラスは隣り合 うクラスという設定にし,回答者はどちらかのクラス に所属して勉強するという条件に割り当てられ,以下 に示すシナリオのどちらかを読んで質問に回答した.

<熟達目標構造条件>

  ある学校の $ 組では,問題をとくときにまちがっ てもわらわれたりしかられたりすることはありま せん.たんにんの先生は,勉強の内容がわかるよう になることを大切にしています.一方,となりの B 組では問題をまちがえず勉強がよくできるひとが ほめられます.たんにんの先生は,テストでいい成 績をとることを大切にしています.

<遂行目標構造条件>

  ある学校の $ 組では,問題をまちがえず勉強がよ くできるひとがほめられます.たんにんの先生は,

テストでいい成績をとることを大切にしています.

一方, となりの B 組では, 問題をとくときにまちがっ てもわらわれたりしかられたりすることはありま せん.たんにんの先生は,勉強の内容がわかるよう になることを大切にしています.

3.学習意欲・行動尺度 若松・大谷・小西(2004)の「学

習意欲尺度」を参考に,学習行動・意欲を促進する側

面をたずねる 6 項目と,学習行動・意欲を抑制する側

面をたずねる項目 7 項目の計 13 項目からなる尺度を

作成した.回答者は 2 つの教室の目標構造条件のシナ

リオのいずれかを読み, 「あなたは $ 組で勉強するこ

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とになったとします.その時あなたはどのような気持 ちになると思いますか」という教示のもと, 学習意欲・

行動尺度の各項目に対して「1.まったくあてはまら

ない〜 5.とてもあてはまる」の 5 件法で回答した.

手続き:調査依頼にあたり調査の目的を各学校長に説

明し協力への了承を得た.また学校長と担任教諭に,

調査の内容や項目について児童が問題なく回答できる か確認してもらった.調査実施にあたっては,参加は 任意であり,回答について個人の特定はされず(無記 名)プライバシーは守られること,学校の成績には影 響しないこと,について質問紙のフェイスシートに記 載するとともに,クラス担任から口頭で児童に伝えて もらった.調査はクラスごとに実施され,調査票に回

答後その場で回収された.

 回収された調査票のうち回答に不備のあった 4 名分 をのぞく 231 名分のデータを以下の分析対象とした.

このうち,教室の目標構造の「熟達目標構造条件」は 123 名, 「遂行目標構造条件」は 108 名であった.

結果

個人の目標志向性の因子分析結果 個人の目標志向性

をたずねる 8 項目について探索的因子分析を行った.

固有値の変動と項目の内容のまとまりから 2 因子解が 想定されたため,再度,最尤法・プロマックス回転の 因子分析を行い,因子負荷量が 以下の 1 項目を削

Table 1 個人の目標志向性の探索的因子分析結果

F1 F2 共通性 第1因子:熟達目標志向

新しいことを習うことは楽しいと思います  .85 ‑.03 .67

私は学校で新しいことを習うことがすきです  .84 ‑.04 .67

学校で大切なことは,できるだけたくさんのことを習うことだと思います  .43  .19 .69 わたしにとって新しいことを知ることが,学校で一番大切なことです  .37  .26 .75 第2因子:遂行目標志向

他の人よりもテストの点数が良かったときは,とくにうれしいです ‑.04  .89 .30 私は学校でほかの人より良い点数や成績が取れたとき,とくにうれしくなりまんぞくします  .03  .80 .31 友だちや先生に,勉強のできる子だとわかってもらうことは,わたしにとって大切なことです  .11  .37 .19

因子間相関 .52

Table 2 学習意欲・行動尺度の探索的因子分析結果

F1 F2 共通性 第1因子:学習意欲の低下

このクラスにいると,どうして勉強するのかわからなくなると思います  .85  .21 .59 このクラスにいると,勉強が自分のためになるのかわからなくなると思います  .83 ‑.03 .41 このクラスにいると,授業を受けることがおっくうになると思います  .76 ‑.03 .36 このクラスにいると,先生の言うことに疑問を感じると思います  .73  .04 .36 このクラスにいると,勉強よりもほかのことがしたいと思います  .64 ‑.12 .59 このクラスにいると,先生の期待にはこたえられないと思います  .64  .07 .50 このクラスにいると,宿題や授業でとく問題を減らしてほしいと思います  .45 ‑.19 .61 第2因子:遂行目標志向

このクラスにいると,家で勉強するときは計画を立てると思います  .27 .73 .71 このクラスにいると,わからないことはほかの人に聞いたり調べたりすると思います  .07 .66 .45 このクラスにいると,先生や友だちの意見を集中して聞けると思います ‑.22 .65 .51 このクラスにいると,新しいことを習ったらドリルなどで問題がとけるかためしたいと思います  .03 .62 .40 このクラスにいると,授業中に自分の考えや思いをすすんで発表すると思います ‑.28 .48 .32 このクラスにいると,授業がはじまるときにはひつような教科書やノートなどをつくえの上に用

意すると思います ‑.15 .48 .32

因子間相関 ‑.49

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除した上で,2 因子構造が妥当であると判断した.第 1 因子は「新しいことを習うことは楽しいと思います」

などの項目に高い負荷を示したことから「熟達目標志 向」と命名した.第 2 因子は「ほかの人よりもテスト の点数がよかったときは,とくにうれしいです」など の項目に高い負荷を示したことから「遂行目標志向」

と命名した.2 因子(7 項目)による全項目の分散説 明率は %であり, 因子間相関は であった (Table 1) .

学習意欲・行動尺度の因子分析結果 教室の目標構造

の仮想場面に対して学習意欲・行動をたずねる 13 項 目について探索的因子分析を行った.固有値の変動と 項目の内容のまとまりから 2 因子解が想定されたた め,再度最尤法・プロマックス回転の因子分析を行 い 2 因子構造と判断した.第 1 因子は「このクラス にいるとどうして勉強するのかわからなくなると思い ます」などの学習へ向かうことを抑制する内容に高い 負荷を示したため「学習意欲の低下」と命名した.第 2 因子は「このクラスにいると,家で勉強するときは 計画を立てると思います」などの積極的に学習に取り 組む内容に高い負荷を示したため「学習行動の促進」

と命名した.2 因子(13 項目)による分散説明率は

%,因子間相関は であった(Table 2) .

基礎統計量と相関分析 各尺度の基本統計量

(平均値,

標準偏差)と Cronbach のα係数,および尺度間相関 係数を Table 3 に示した.

 個人の目標志向性の 2 つの下位尺度得点と学習意 欲・行動の 2 つの下位尺度得点の相関分析の結果, 「熟 達目標志向」 「遂行目標志向」ともに「学習意欲の低下」

とは関連がなく, 「学習行動の促進」とは中程度の正 の相関を示した(熟達:r=,遂行:r=) .

教室の目標構造条件の影響の分析 教室の目標構造条

件別に個人の目標志向性得点の平均値を算出し,割り 当てられた条件間で個人の目標志向性に偏りがなかっ たかを確認するため分散分析を行った.その結果,熟 達目標志向性得点においても(F (1, 229) ,QV) , 遂行目標志向性得点においても (F (1, 229) , QV) , 教室の目標構造条件間に有意な差は認められなかっ た.このため, 教室の目標構造条件へ割り当てる際に,

個人の目標志向性の偏りはなかったと判断した.

 次に,教室の目標構造件別に学習意欲の低下得点と 学習行動の促進得点の平均値を算出し( Table 4 ) ,教 室の目標構造条件が学習意欲・学習行動に影響を与え るのかについて検証するために分散分析を行った.分 析の結果,学習意欲の低下において教室目標構造間に 有意差が認められた(F (1, 229) ,S) .遂行 目標構造条件の方が熟達目標構造条件よりも学習意欲 を低下させることが示された.また学習行動の促進に おいても教室目標構造間に有意な差が認められた(F

(1, 229) ,S) .熟達目標構造条件の方が遂 行目標構造条件よりも学習行動を促進することが示さ れた.

教室の目標構造と個人の目標志向性の影響の分析 教

室の目標構造と個人の目標志向性の相互の影響を統制 した上で学習意欲・行動への関連を検証するため,重 回帰分析を行った. 「教室の目標構造」は熟達目標構

造条件を 1,遂行目標構造条件を -1 とするダミー変

数に変換した.また,個人の目標志向性尺度の下位 Table 3 基礎統計量と変数間相関

平均値 SD α係数

個人の目標志向性

 1 熟達目標志向 231 3.98 .72 .77 1.00 .53** ‑.08  .50**

 2 遂行目標志向 231 3.78 .84 .72 1.00   .03  .42**

学習意欲・行動

 3 学習意欲の低下 231 3.13 .96 .87  1.00 ‑.45**

 4 学習行動の促進 231 3.65 .80 .79 1.00 

Table 4 教室の目標構造条件別の学習意欲の低下,学習行動の促進得点

学習意欲低下 学習行動促進

平均値 SD 平均値 SD

熟達目標構造 123 2.65 (0.91) 3.86 (0.72) 遂行目標構造 108 3.69 (0.66) 3.40 (0.82) 合 計 231 3.13 (0.96) 3.65 (0.80)

(6)

尺度の「個人の熟達目標志向」 「個人の遂行目標志向」

得点はそれぞれのデータから平均値を引く中心化の処 置を行い, 「教室の目標構造×個人の熟達目標志向」 「教 室の目標構造×個人の遂行目標志向」 「個人の熟達目 標志向×個人の遂行目標志向」の交互作用項を準備し た.以上 6 変数を説明変数とし,学習意欲・行動尺度 の下位尺度である「学習意欲の低下」と「学習行動の 促進」をそれぞれ目的変数として分析を行った(Table 5) .

 分析の結果, 「学習意欲の低下」に対しては, 「教室 の目標構造」が負の関連を示し(β , S) , 「個 人の熟達目標志向性」が負の関連を示した(β , S) .しかし,交互作用項はいずれも有意な関連は 示されなかった.また「学習行動の促進」に対しては,

「教室の目標構造」 (β ,S) , 「個人の熟達目 標志向性」 (β , S) , 「個人の遂行目標志向性」

(β ,S)が,それぞれ有意な関連を示した.

交互作用項についてはいずれも有意な関連は示されな かった.

 以上の結果から,学習意欲の低下は教室の熟達目標 構造と個人の熟達目標志向性によって抑制されるこ と,また学習行動は教室の熟達目標構造と個人の熟達 目標志向性,個人の遂行目標志向性によって促進され ることが示された.特に交互作用項が有意でなかった ことから,教室の目標構造と個人の目標志向性が一致 しないことが学習意欲や学習行動に影響を与えること はなく,また個人の持つ 2 つの目標志向性の組み合わ せパターンも学習意欲や学習行動を予測しないことが 示された.

考察

 本研究は,教室の目標構造と個人の目標志向性が一 致しない時,児童の学習への意欲と学習行動に抑制的 な影響を与えるとの仮説の検証を行うことを目的とし

た.分析の結果明らかになったのは,教室の目標構造 と個人の目標志向性が一致しないことと,学習意欲や 学習行動の抑制・促進には関連がないということで あった.つまり,児童は個人が持つ目標志向性と異な る目標や価値を強調するようなクラスに所属するよう になったとしても,その不一致状況によって学習意欲 や行動に影響を受けるわけではない事が示された.ま た,変数間の影響を除いた教室の目標構造の単独の影 響が示されたことから,個人の目標志向性に関係なく 教室が熟達目標構造であることは学習意欲の低下を抑 制し,学習行動を促進することが明らかになった.同 じく変数間の影響を除いた個人の熟達目標志向性は,

所属集団の目標構造に関係なく,学習意欲の低下を抑 制し,学習行動を促進することが明らかになった.従 来の達成目標研究では,実験で教示条件によって目標 志向性を外的に導入する方法や,個人の目標志向性を 測定する方法によって,達成目標の動機づけへの影響 が検証されてきたが,外的な導入であれ個人特性であ れ,熟達目標がポジティブに働くとする先行研究の結 果と本研究の結果は一致する.所属集団と個人の目標 に齟齬があっても,どちらかの要因が熟達目標であれ ばそのポジティブな動機づけ効果は打ち消されること はなく,学習意欲や学習行動を促進するように機能す ると考えられる.

 では,所属集団の目標構造が個人の目標志向性に影 響を与える事はないのであろうか.教室の目標構造が 個人の目標志向性に影響を与えるというモデルに基づ いた検証を行っている先行研究の多くは,調査対象者 の児童・生徒が所属のクラスで数か月過ごし,集団に なじんだ時期に調査を行っている.つまり,その集団 での経験を経て集団に適応するように考え方や行動が 変化するのに十分な時間があったと考えることができ る.一方,本研究では仮想場面ではあるが,新しい環 境での経験が始まった当初と同様の反応について検証 したと位置づけることができる.実際の学校場面でい Table5 重回帰分析結果

学習意欲の低下 学習行動の促進

β β

教室の目標構造  ‑.55**   .31**

個人の熟達目標志向  ‑.18**   .42**

個人の遂行目標志向  .09   .22**

教室の目標構造×個人の熟達目標志向 ‑.10 ‑.02

教室の目標構造×個人の遂行目標志向 ‑.10 ‑.05

個人の熟達目標×個人の遂行目標 ‑.09  .05

R2  .35  .39

注)教室の目標構造は熟達 =1,遂行 =‑1 のダミー変数

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えば,学年が変わって新学期が始まり,まだ教室の目 標構造に適応できていない状況だととらえられる.本 研究の結果からは,環境移行直後に新しい集団と個人 の目標が一致しなくても,集団か個人のどちらかが熟 達目標であれば動機づけの低下などのネガティブな影 響は生じないが,その後も所属集団の目標構造に適応 できず長期的に不一致状態が続くのであれば,集団へ の不適応感が高まり,学習行動や動機づけを低下させ るような影響が生じることが示唆される.そのような 長期的な影響のプロセスについては,より詳細に検証 することが今後の課題として挙げられる.

 進級や進学によって所属集団が変わり教室の目標構 造が変化することは,どの児童・生徒も経験する可能 性がある.中一プロブレムが学校間移行に伴う問題と して取り上げられるように,環境移行は子どもたちに とって様々な側面から適応を迫られる危機に直面する ような事態だとも考えられる.本研究は,そのような 環境移行をうまく乗り越え,学習意欲や学習行動を維 持させるためには,新しい環境が熟達目標の構造であ ること,もしくは個人が熟達志向の目標志向性を持っ ていることが有効であることを示した.このため教師 は,環境の変化に直面しても子どもたちが意欲をもっ て学習に取り組めるように,熟達目標構造の教室環境 づくりに取り組むことが求められる.

注: 本論文は,第二著者が 2019 年に提出した卒業論 文のデータを第一著者が再分析し,執筆したもの である.調査にご協力いただいた,児童のみなさ んと学校関係者に心より感謝申し上げます.

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参照

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