• 検索結果がありません。

悪性疾患分子標的グループでは、胃癌・大腸癌・

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "悪性疾患分子標的グループでは、胃癌・大腸癌・"

Copied!
10
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

先端分子医学研究センター(FCAM)のキックオフレポート

−悪性疾患分子標的グループ:消化器癌に対する標的治療薬の開発を目指して−

悪性疾患分子標的グループリーダー 医学部教授

黒 木 政 秀

はじめに

悪性疾患分子標的グループでは、胃癌・大腸癌・

膵癌・肝癌における新しい標的分子の同定と分子標 的治療法の開発を行っている。黒木・山下(消化器 外科学・教授)らは新規ハイブリドーマ・スクリー ニング法により新しいモノクローナル抗体を確立し、

対応する標的分子の同定と作製した抗体を利用して 癌の遺伝子治療法、化学療法、超音波療法などの腫 瘍標的化を試みる。また、トランスレーショナルリ サーチグループの宮本新吾教授(産婦人科)との共 同研究で、癌標的分子

HB-EGF

の発現調節機構に 関連したシーズの開発も行っている。 立花 (解剖学・

教授)らは超音波により治療遺伝子を封入したマイ クロ・ナノバブルを腫瘍部位に誘導し、より効果的 な癌治療法の確立をめざし、向坂(消化器内科学・

教授)らは各種の癌の治療に使用されている分子標 的薬につき、肝癌に対する効果と作用機序を解析し、

進行性肝癌の新たな分子標的治療法を模索している。

1.癌標的分子 HB-EGF の発現調節機構に関す る研究

悪性形質の強い癌細胞は特異的に発現した上皮系 へパリン結合型増殖因子(HB-EGF)の発現・分泌 が促進され、自身の受容体に働く 状 態(autocrine

loop)にある。すなわち、HB-EGF

による

autocrine loop

機構には

!

細胞外からの

HB-EGF

シグナルと

"

核からシグナル(HB-EGF の転写機構)が必須で

ある。

!

に対しては

HB-EGF

特異的抑制剤である

CRM

1 9 7が細胞外からの

HB-EGF

シグナルを遮断し、

抗腫瘍効果を示すことをトランスレーショナルリ サーチグループの宮本新吾教授(産婦人科)がヒト への臨床応用で実証している。そこで、

"

HB-EGF

による

autocrine loop

機構に関わる転写機構を解明 するため、宮本教授と共同研究で

HB-EGF

発現調 節に関わる遺伝子を探索している。具体的には、転 写因子ライブラリーや発現抑制ライブラリーを用い て、CRM 1 9 7による細胞死から回避した細胞、すな わち

HB-EGF

発現機構を抑制された細胞から

HB- EGF

の発現に関連する遺伝子の同定も試みている。

CRM

1 9 7は多くの癌種に適応があるだけでなく、

既存の抗癌剤や標的治療薬の耐性細胞にも有効性を 示しており、広く癌治療に活用される可能性が高い ことから、HB-EGF の発現調節機構を解明すること は極めて重要である。さらに、本研究で同定された 遺伝子群には新たに標的となる分子が含まれること が予想され、その標的治療薬は核からのシグナルを 遮断することができ、CRM 1 9 7との併用により相乗 的な抗腫瘍効果を示すと期待される。

(生化学・講師 四元房典)

2.ヒト抗体を融合したキメラT細胞受容体遺 伝子の導入による T 細胞の腫瘍標的化

腫瘍免疫の中核を担う細胞傷害性T細胞(CTL)

ex vivo

で培養・活性化した後に患者の体内に戻 すといった癌の細胞療法が施行されている。これが 奏功するには標的腫瘍抗原が癌細胞膜上の組織適合 性抗原(HLA)によって提示されていることが必 須だが、癌細胞では

HLA

の機能不全や発現量の低 下がしばしば生じており、CTL の攻撃力が有効に 発揮されないという問題がある。これを回避するた め、本研究では代表的な腫瘍関連抗原である癌胎児 性抗原(CEA)に対する抗体とT細胞受容体(TCR)

とを融合したキメラ受容体遺伝子を作製し、これを

CTL

に導入することで

HLA

非依存的に腫瘍組織に 研究機関近況

先端分子医学研究センター

―10―

(2)

集積化して賦活化するという新規な免疫細胞療法に 取り組んでいる。最近、従来のマウス抗体に代わる 完全ヒト型抗

CEA

抗体の作製に成功しており、こ れにより臨床応用の弊害となる免疫原性を排除した キメラ受容体の構築が可能となった。

しかしながら、これまでの比較的単純な抗体−

TCR

キメラ様式では、短期的な腫瘍への集積効果 と

CTL

活性化は認められるものの、サイトカイン 産生能や細胞増殖能が長期に維持されず、その抗腫 瘍活性は必ずしも十分ではない。現在、T 細胞の活 性化と機能維持に重要な複数のシグナルタンパク質 からなる新たなキメラ受容体をデザインして抗腫瘍 活性の増強・最適化を図っており、癌治療の福音と なり得る細胞療法の確立を目指し鋭意研究を進めて いる。

(生化学・助教 白須直人)

3.低出力超音波による新しい低侵襲がん治療 法の開発

非侵襲的ながん治療法を考えたとき、超音波検査

(エコー診断)に用いられるような低出力な超音波 の応用は極めて有望と考えられ、低出力超音波を用 いた音響力学療法(sonodynamic therapy, SDT)によ る新しいがん治療法が注目されている。本研究では、

超音波を液体中に照射したときに起こるキャビテー ション現象によって生じるエネルギーで超音波感受 性物質を活性化させ、このとき発生する活性酸素な どによる腫瘍細胞の直接的な傷害を主な作用機序と する

SDT

の開発を進めている。この治療法では、

遺伝子治療で目的となる遺伝子や抗癌剤など薬剤の 細胞内への導入はあくまで二次的な効果となる点が 従来の治療法と大きく異なる。

ところで、超音波感受性物質の多くは元来光感受 性物質でもあり、例えば

photofrin

は、早期の肺癌 や胃癌患者などに対し光線力学療法(photodynamic

therapy, PDT)で用いられるが、その性質上、PDT

のみならず

SDT

においても光線過敏症などの副作 用が問題となる。この問題を回避しつつ、超音波が 光に比べて組織深達度が高いという超音波の特徴・

利点を生かすために、超音波によってのみ励起状態 となる新規の超音波感受性物質を用いて、非侵襲的 で新しいがん治療法の開発・評価に取り組んでいる。

(生化学・院生 水流弘文、同・講師 芝口浩智、

消化器外科学・教授 山下裕一)

4.超微小気泡カプセルを用いた新しい超音波 分子診断・治療方法の確立

かつて日本は超音波画像診断分野のパイオニアと して世界的に知られ、次々と革新的技術を世の中に 送りだしてきた。しかし近年、世界に誇れる 日本 発 の超音波医療技術はほとんど出ていない。本課 題ではがん細胞とがん動物モデルを用い、超音波が ん薬物療法に利用できるナノバブル・マイクロバブ ル・ブースター剤を開発し、その実験データをもと に世界初のナノ・マイクロバブル製剤型(ミセル)

ドラッグデリバリーシステムを確立することを目指 している。近年、超音波による細胞の薬物取り込み メカニズムが明らかにされつつある。 微細な気泡 (マ イクロバブルまたはナノバブル)が細胞の周囲で破 裂することによると考えられている。本課題でこの 原理を利用し、プロスタグランジン

E1封入ナノ粒

子製剤(ミセル製剤)を基盤としたナノバブル薬物 ブースター剤の研究開発に取り組んでいる。この方 法と材料はきわめて安全で臨床応用への実現性が高 く、しかも、がんの超音波診断に有効と考えられる。

本研究では、今後の実験でナノバブルの特性・性質 の検証し、1)周波数特性、超音波造影輝度、臓器 別分布測定、密度、粒径サイズの標準化を試みる。

2)各種抗がん剤(アルキル化剤など) 、遺伝子導 入ブースター効果率の測定システムの開発、動物実 験での微小気泡のブースター効果の立証、腫瘍増大 抑制効果、腫瘍内薬物分布を検証する。その後、臨 床応用前の動物に於ける実験を開始し、3)細胞・

動物から得た実験データに基づく超音波治療装置の 小型化・システムの開発を目標に実験を行う予定で ある。 (解剖学・助教 遠藤日富美、同・講師 フェ リル・ロリト、同・教授 立花克郎)

5.各種分子標的薬剤の肝癌に対する作用機序 の基礎的、臨床的解析と新たな治療戦略 最近、肝癌に対する分子標的治療薬として、マル チキナーゼ阻害剤の

sorafenib

が保険認可された。

しかし、治験の成績をみると必ずしもその効果は満 足できるものではなく、今後、どのような症例によ

―11―

(3)

り効果的であるか検討する必要がある。Sorafenib の作用で最も著明なものは新生血管阻害作用である ことから、vascular endothelial growth factor (VEGF)

の産生が低く、画像上も腫瘍血管に乏しい肝癌に対 しては効果が弱い可能性がある。本研究では、

soraf- enib

を投与した患者について、血清

VEGF

値や画 像所見の変化を追跡し、治療効果との比較検討を開 始している。また、腫瘍生検が可能であった症例に ついては

hypoxia-inducible factor1(HIF

‐1)から

VEGF

発現までのシグナル伝達と、栄養血管の内皮 細胞における

VEGF

レセプターの発現を観察する 予定である。さらに、メカニズム的に相乗効果が期 待できる治療を見出し、sorafenib 単剤で効果が少な い症例に対しては、今後、併用療法も提唱していき たい。 (消化器内科・講師 早田哲郎、同・教授 向坂彰太郎)

おわりに

悪性疾患分子標的グループは、述べてきたように 治療法が可能な限り癌組織だけに作用するような方 法を開発し、治療法の効果の増強と副作用の軽減を 目指している。しかしながら、こういった研究成果 を臨床応用まで推し進めていくためにはグループ内 及び各グループ間との緊密な連携を強化することが 必要であり、今後も包括的に研究を進展させていき たい。

―12―

(4)

市民向け環境学習スクールの開催報告について

資源循環・環境制御システム研究所 管理事務室 室長

田 代 幸 博

福岡大学資源循環・環境制御システム研究所(略 称:資環研)は若松区向洋町の北九州エコタウン実 証研究エリア内に設立されて1 1年が経過しました。

当研究所は廃棄物の適正な処理やリサイクル、ある いは環境浄化に関する研究を行っています。資環研 は「環境や廃棄物処理が見て分かる研究所」として 随時、外部の方の見学を受け付けており、これまで 研究者、行政、市民等多くの方に見学していただき ました。今回初めての企画として、北九州市民の皆 様に、より環境問題を理解していただくために、 「福 岡大学エコスクール」を計画しました。H2 1年5月

〜1 1月の全6回のセミナーを継続して受講して頂き、

地球環境保全を担う一員としての意識を高め、日常 の生活に活かして頂く事を目的としています。

募集定員は2 0名でしたが、定員を大きく上回る市 民の皆さんにご応募頂き、1 1月2 8日に全6回を終了 しました。

講義の内容は、資環研の研究テーマを基本とした

「地球環境と廃棄物問題」の4回シリーズを主体と して、北九州市民により身近な環境問題をテーマと しております。

H2 0年7月に北九州市が国から指定を受けた、 「環 境モデル都市」について、又、北九州市民の6 0%が 恩恵を受ける「遠賀川の水問題」 、ゴミの埋め立て 場所についての「最終処分場の現状」 、さらに最近

大きくその環境が改善しつつある「洞海湾と干潟」

についてや、近年北九州で大変大きな問題となって いる竹林の繁殖による里山の消失、等々です。

他に、体験実習として廃食用油のリサイクルの実 験を行い、バイオディーゼルや石鹸作りを行い、参 加者の皆さんが大変楽しそうに、実験に参加されて いたのが印象的でした。現場見学として、北九州エ コタウンの実証実験施設や最終処分場の見学もスケ ジュールに織り込んでいます。参加者の皆さんは、

毎回大変熱心に講義を聞かれ、多くの質問が出され ました。本スクール参加者は色々な分野で既に環境 問題に携わっておられる方も多く、一方向的な講義 に留まらず、双方向の意見を出し合い、情報を共有 する事で環境について考えて行けるセミナーとなり ました。

研究機関近況

資源循環・環境制御システム研究所

―13―

(5)

〜暮らしとエコを考える〜

〜暮らしとエコを考える〜

開講日 セミナー内容

1

5/ 23

(土)

開講式〈主催者・共催者挨拶〉

オリエンテーション 地球環境と廃棄物問題(1)

福岡大学 資源循環・環境制御システム研究所 所長/樋口 壯太郎

2

6/ 27

(土)

地球環境と廃棄物問題(2)〜廃棄物処理の基礎知識〜

福岡大学 資源循環・環境制御システム研究所 所長/樋口 壯太郎

環境モデル都市

北九州市環境局 環境政策部 環境首都政策課 環境モデル都市担当課長/櫃本 礼二 氏

遠賀川の水環境と浄化対策

"北九州上下水道協会 国際協力・水道百年史担当 主幹/原口 公子 氏

3

7/ 25

(土)

地球環境と廃棄物問題(3)〜不法投棄と環境修復〜

福岡大学 資源循環・環境制御システム研究所 所長/樋口 壯太郎

最終処分場の現状

北九州市環境局 廃棄物事業部 施設課 処分場・分析担当係長/谷崎 定二 氏

洞海湾と干潟の環境

!エコプラン 代表/中山 歳喜 氏

4

9/ 26

(土)

※場所は資環研

北九州市エコタウンの概略

北九州市環境局 環境経済部 環境産業政策室 環境技術開発担当係長/冨本 昇一 氏

同上見学

廃食用油からの石鹸・BDF 作り体験

九州山口油脂協同組合 北九州エコタウン工場 営業部長/須藤 宏 氏

5

10/ 24

(土)

地球環境と廃棄物問題(4)〜環境アセスメントと環境保全〜

福岡大学 資源循環・環境制御システム研究所 所長/樋口 壯太郎

重金属類と環境

NPO 法人環境技術支援ネットワーク 常務理事/川島 正毅 氏

竹林が抱えている問題と平成竹取伝説の取り組みについて

北九州市立大学 国際環境工学部 准教授/デワンカー・バート 先生

6

11/ 28

(土)

硫化水素問題の解決に向けて

福岡大学 資源循環・環境制御システム研究所 研究開発室長/武下 俊宏

技術は人なり、人は技術なり

!ジェイペック若松環境研究所 所長代理/高倉 弘二 氏

閉講式(※4回以上受講された方には修了証を授与します。

―14―

(6)

図1.メタノール中での MitoDPPP と過酸化物との反応;

● CumOOH 1 mM 、 ■t-BHP 1 mM 、!HO1 mM 、 ▲ MeLOOH1mM、◆Control.

はじめに

ヒドロキシルラジカル(OH

) 、スーパーオキシ ドアニオンラジカル(O

・−

) 、過酸化水素(H

O

)な どの活性酸素種(ROS)は、生物の生存に必須のエ ネルギー獲得機能そのものに含まれる酸化的化学因 子(ラジカル)あるいは加齢、紫外線・放射線、大 気汚染、薬物の長期服用、煙草の有害成分の吸入な どにより生じ、脂質過酸化、遺伝子の損傷やタンパ ク質の変性等を引き起こし、動脈硬化、アルツハイ マー病などの疾病の引き金になる。ミトコンドリア 膜を構成する不飽和脂肪酸がこのような活性酸素種 により酸化されると、脂質過酸化物を形成し、ミト コンドリア本来の機能を損なうことが知られている。

この脂質過酸化物は連鎖的に形成され、生体内に蓄 積される。ゆえに、ミトコンドリアは最も酸化スト レスを受けやすい細胞内微小器官のひとつであり、

ミトコンドリア内で発生する脂質過酸化を視覚化す るような機能性低分子を用いた測定法が確立されれ ば、生細胞中の脂質過酸化の進行を簡便に検出する ことができる。

近年我々は、ミトコンドリアに局在化する置換基 として知られるトリフェニルホスホニウム塩を過酸 化物などにより酸化されることで蛍光強度が増大す る 特 徴 を も つ ジ フ ェ ニ ル ピ レ ニ ル ホ ス フ ィ ン

(DPPP)に結合させた

MitoDPPP

とそのペリレン 誘導体

MitoPeDPP

を開発し、これら新規の蛍光プ ローブを用いて、ミトコンドリアでの脂質過酸化の 選択的な視覚化を目指してきた(Scheme1) 。今回、

均一溶媒中、リポソーム中、および細胞中で種々の 過酸化物との反応性を比較検討することでこれらの 細胞内シグナル感受性蛍光プローブは細胞内ミトコ ンドリアで発生する脂質過酸化物を選択的に捕捉す ることが明らかとなったので報告する。

均一溶媒中での酸化

メタノール中に

MitoDPPP

を溶解し、数種の過酸 化物を添加して酸化実験を行った。MitoDPPP はリ ノール酸メチルヒドロペルオキシド(MeLOOH) 、 クメンヒドロペルオキシド(CumOOH) 、tert-ブチ ルヒドロペルオキシド(t-BHP) 、H

O

によりすみ やかに酸化され、蛍光強度が約3 5倍増大した (図1) 。

細胞中、リポソーム中での酸化

HepG2細胞中でのMitoDPPP

と数種の過酸化物 の反応を蛍光顕微鏡により観測すると、MeLOOH、

ミトコンドリア内に発生する脂質過酸化物 感受性蛍光プローブの合成とその性質

高機能物質研究所 理学部准教授

塩 路 幸 生 研究機関近況

高機能物質研究所

―15―

(7)

図2.HepG2細胞中での MitoDPPP と過酸化物との反応.

縦軸は反応開始15分後の相対蛍光強度(F/F励起光360"、 蛍光380").

図3.リポソーム中での MitoDPPP と過酸化物との反応;

●CumOOH1mM、■t-BHP1mM、!HO1mM、△HO

1mM + Fe2+、▲MeLOOH10µM、◆Control.

CumOOH

および

t-BHP

を添加した場合、細胞内の ミ トコンドリア上で蛍光強度の増大を観測されるのに対し、

HO

添加による明らかな蛍光強度の増大は見られな かった。また、過酸化物添加による蛍光強度の増加 度を蛍光分光光度計によって観測したところ、 やはり、

HO

添加による蛍光強度の増加度は低くなった (図2) 。

これは、添加された

HO

が細胞内での

HO

分解 酵素であるカタラーゼのはたらきにより除去される ためであると考えられる。ところが、HepG2細胞 のかわりに細胞擬似膜のひとつであるリポソーム中 に

MitoDPPP

を導入し同様の酸化実験を行ったとこ ろ

HO

を酸化剤として用いたときその反応性が著 しく低下することが分かった(図3) 。さらに、Mi-

toDPPP

のリン酸緩衝溶液中に

Fe(!)存在下で、

HO

を添加したところ、Fe(

!

)を含まない系と蛍 光強度の増加の度合いは変化しないが、同様の実験 をリポソーム溶液中で行うと、蛍光強度の増加度は 大きくなった。これは、H

O

Fe(!

)により生 じた

OH

がリポソーム内で脂質過酸化を進行させ、

これを

MitoDPPP

が捕捉したものと考えられる。こ の結果は、細胞内でカタラーゼの効果によって

HO

が分解し、MitoDPPP の酸化反応が遅くなるだけで なく、MitoDPPP は細胞内でミトコンドリア膜中に 存在し、H

O

との反応性を低下させていることを示 唆している。また、MitoDPPP あるいは

MitoPeDPP

を導入した

HepG2細胞にグルタミン酸を添加する

ことで、H

O

除去機構を阻害し、ミトコンドリアか ら

HO

を過剰産生させた後、蛍光顕微鏡観測をお こなうと、どちらの場合においても蛍光強度の増大 が見られた。H

O

は細胞内の遊離の金属イオン存在 下で脂質過酸化を引き起こす。すなわち、本観測で

見られた蛍光強度の増大は、ミトコンドリア内で大 量に発生した

HO

により生成された脂質過酸化物 が蛍光プローブと反応し、相当するホスフィンオキ シドとなり、蛍光強度が増大したことを意味する。

おわりに(今後の展望)

近年、ミトコンドリア

DNA

の病原性突然変異が がん細胞の転移を誘発していることも明らかになり つつある。これは、mtDNA の突然変異がミトコン ドリア呼吸活性を低下させ

ROS

を大量に漏出する ことで転移に係る核遺伝子の発現を上昇させるため である。このように、ROS の過剰生産が転移の原 因である場合は、抗酸化剤がヒトの癌転移の治療に 有効である。抗酸化剤の能力を計測する方法は数多 く知られているが、抗酸化剤の細胞膜透過性の差ま で考慮する方法として、生細胞中に

ROS

感受性蛍 光プローブとラジカル開始剤を導入し

ROS

を発生 させ、抗酸化剤の細胞内抗酸化活性(CAA)の測 定法が報告されている。しかしながらこれまでの方 法では、ROS の発生と捕捉する場所が不確かなた め、抗酸化剤がミトコンドリアで過剰に産生された

ROS

を他の細胞内微小器官に漏出させることなく 消去する能力をもつのかどうかを知ることはできな い。今回報告した蛍光プローブは細胞内微小器官で あるミトコンドリア局在化するため、ミトコンドリ ア自体が

ROS

を過剰産生する系(グルタミン酸添 加)を組み合わせることで抗酸化剤の細胞膜透過性 と

ROS

の産生場所であるミトコンドリア近傍まで 移行する能力とを含めた生細胞内抗酸化活性が測定 できる。これらは、未知の抗酸化剤の探索に有用で あると考える。

―16―

(8)

安定同位体を用いた日常生活中のエネルギー消費量・

身体活動量の測定

身体活動研究所ポストドクター

山 田 陽 介

身体活動研究所・スポーツ科学部准教授

桧 垣 靖 樹

はじめに

身体活動研究所の設置状況は

Vol.

1 4

No.

3に記 した。今回はその中で新たに導入した研究方法のひ とつである安定同位体を用いたヒト・動物のエネル ギー消費量・身体活動量の測定について紹介したい。

水を体重1!あたり1. 5

"程度摂取し、尿を数回

採取するだけで、ヒト・動物の総エネルギー消費量

(Total Energy Expenditure, TEE)を測定することが できる夢のような方法が存在する。これを二重標識 水(Doubly Labeled Water, DLW)法という。さらに、

同時に基礎代謝を測定することで、身体活動による エネルギー消費量(Physical Activity Energy Expendi-

ture, PAEE)も推定することができる。

通常、エネルギー消費量を測定するためには、非 常に狭い部屋で身体から放出される熱量を直接測定 したり、マスクやフェイスシールドを装着して呼気 中の酸素・二酸化炭素濃度を測定したり、密閉され た居住空間で居住者の呼気ガス濃度と流量を2 4時間 測定するなど、被験者(被験動物)を監視・拘束下 した状態に置かなければならない。これらの方法で は、普段の生活環境下でのエネルギー消費量を測定 することはできない。

一方、DLW 法では、1 0 0

"

前後の水を摂取し、尿 を1〜2週間の間に数回摂取するだけという簡便さ で、普段の生活の

TEE

を測定することが可能であ る。そのため、日常生活中のエネルギー消費量を測 定する唯一のゴールデンスタンダードとして用いら れる。

体重を維持する場合には、1日あたりどれぐらい のエネルギーを食事から摂取すべきか。この答えは、

エネルギー消費量に見合った分を摂取するというこ とになる。また、減量を目指す場合にはエネルギー

消費を増加させ、摂取量を減少させる必要がある。

すなわち、エネルギー摂取基準は、エネルギー消費 量を基に定められる。

日本人の栄養所要量は、世界に先だって昭和4 4年

(1 9 6 9)にはじめて策定され、以後約5年おきに改 定されてきたが、2 0 0 0年度版までは、生活活動記録 日誌を用いて、平均的な日本人の生活というものを 規定し、そのそれぞれの活動のエネルギー消費量を 求め、すべての要因を加算して1日あたりのエネル ギー消費量を推定していた。

2 0 0 5年版の日本人の食事摂取基準からは、DLW 法を用いて測定した1日のエネルギー消費量を基準 としたエネルギー摂取基準が設けられるようになっ たが、 まだまだ日本人のデータは不足しており、 2 0 1 0 年版の日本人の食事摂取基準では、約2 0 0名の日本 人のデータと多くの海外データをベースにして基準 が定められている。その理由としては、DLW 法に 必要な水と解析装置がともに非常に高価であること や測定技術に専門的な知識が必要であることが挙げ 研究機関近況

身体活動研究所

図1.身体活動研究所に新たに導入された安定同位体比質 量分析計(IRMS、英国 Sercon 社製 Hydra 20‐20)

―17―

(9)

time after dosing(d)

In(excess isotope 000

CO2 18O

2H

0 1 7−15

図2.二重標識水(DLW)法によるエネルギー消費量の 測定模式図

られる。

今回、平成2 1年8月3 1日に福岡大学身体活動研究 所に

DLW

分析に必要な安定同位体比質量分析計

(Isotope Ratio Mass Spectrometry; IRMS)が新たに 導入され(図1) 、セットアップおよび最初の測定 が完了し、極めて良好な結果が得られた。そこで、

DLW

法の原理と

IRMS

の導入経過を下記に報告す る。

1.DLW 法の原理

DLW

法では、水素と酸素の安定同位体を用いる。

天然界中の水素と酸素の9 9%以上は、質量数1と1 6 であるが、質量数2の水素(

H, Deuterium)は0.

0 1 5

atom%、質 量 数1

8の 酸 素(

O)は0.

2 0 3 9

atom%含

まれている。これらは核崩壊を起こさないため、放 射性フリーな物質で特別な資格・技術なく扱うこと ができる。これらを濃縮し一定の割合で配合した水 を

DLW

と呼ぶ。これを体重あたり約1. 5

$程度摂

取すると3−4時間の後に体水分に均一に分布し、

その濃度から希釈容積を求めることでまず体組成を 測定することが可能である。その後、7−1 4日間の 間に数回尿を採取すれば、体外に排出された水分量 と二酸化炭素量が測定できる(図2) 。ここから、

呼吸商に関する仮定と

Weir

の式を用いて、エネル ギー消費量を計算する。DLW 分析には尿の他に、

血漿、唾液なども利用することができ、対象 (ヒト・

動物・小児・高齢者)に合わせて応用することがで きる。実際、DLW 法は、これまで、妊婦、未熟児、

新生児、幼児、小児、青年、成人、高齢者と幅広く 用いられている。また動物でも多様な種の応用例が ある。

2.IRMS の導入経過

DLW

法の原理は比較的簡単であるが、測定方法 論上の問題から、その誤差は1 9 8 0年代の時点では、

1 0%程度あった。しかし、われわれが新規に導入し た装置は、完全に純ガスのみが内部に導入されるた め極めて安定して測定が可能で、性能も高いため、

測定誤差が小さくなることが予想された。そこで、

導入後、まず外部機関との相互妥当性を検証するこ とを行った。その結果の一部を図3に示す。相互妥 当性の値は、体水分量で1%未満、総エネルギー消 費量で3%未満の誤差であった。また、1か月後に 同様の測定を実施したがこちらも極めて高い再現性 を示した。今後は、現在設置工事中のメタボリック チャンバーとの比較検討を行っていく中で、その精 度の絶対誤差を検証することになる。

3.Schoeller 博士の来訪

1 9 8 2年にヒトに初めて

DLW

法を応用し、その後 も

DLW

研究の第一人者として精力的な研究をして いる

Schoeller

博士(現

Wisconsin

大学

Madison

校教 授)が1 0月初旬に来訪された。その際、大学院生・

研究スタッフに対して、 『肥満研究への安定同位体 の応用』というタイトルで講演していただいた。さ らに、われわれの

IRMS

で得られたデータを検証し てくださり、その精度の高さに感嘆されていた。加 えて、帯同されていた

Shriver

上級研究員と数日作 業し、より少量の検体から高精度に測定が行えるよ うになった。

Sub_ Female 身長(!) 6.

体重(#) 6.

BMI(#/") 9.

当研究所 外部機関 誤差 CV(%)

体水分量(#) 5. 5. 0. 0. 除脂肪体重(#) 4. 4. 0. 0. 体脂肪率(%) 6. 6. −0. 1. 総エネルギー消費量(%l/日) −6 0.

Sub_ Female 身長(!) 8.

体重(#) 7.

BMI(#/") 5.

当研究所 外部機関 誤差 CV(%)

体水分量(#) 4. 4. 0. 0. 除脂肪体重(#) 3. 2. 0. 0. 体脂肪率(%) 3. 3. −0. 3. 総エネルギー消費量(%/日) 2.

図3.外部機関との相互妥当性実験の結果

―18―

(10)

図4.DLW 法の第一人者の Dale A. Schoeller 教授の来訪

(2009.10.4.第二記念会堂会議室にて)

おわりに

本装置は当面

DLW

法専用機として稼働させる予 定であるが、幅広い軽元素安定同位体を測定でき、

脂質・タンパク質代謝、ピロリ菌存在評価、生態系 調査、環境科学調査などにも応用可能である。また、

ヒトでの測定には安価になったとはいえ尚も

O

が 高価であるため、多数例の測定には多額の研究費が 必要である。しかし、小動物に対しては安価に測定 が可能であり、小動物の活動量やエネルギー代謝を 測定する際にも強力なツールとなる。

―19―

参照

関連したドキュメント

め測定点の座標を決めてある展開図の応用が可能であ

喫煙者のなかには,喫煙の有害性を熟知してい

直腸,結腸癌あるいは乳癌などに比し難治で手術治癒

混合液について同様の凝固試験を行った.もし患者血

 高齢者の性腺機能低下は,その症状が特異的で

および皮膚性状の変化がみられる患者においては,コ.. 動性クリーゼ補助診断に利用できると述べている。本 症 例 に お け る ChE/Alb 比 は 入 院 時 に 2.4 と 低 値

 我が国における肝硬変の原因としては,C型 やB型といった肝炎ウイルスによるものが最も 多い(図

Instagram 等 Flickr 以外にも多くの画像共有サイトがあるにも 関わらず, Flickr を利用する研究が多いことには, 大きく分けて 2