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収益認識会計基準に関する一考察

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収益認識会計基準に関する一考察

池  田  健  一

Ⅰ はじめに

国際会計基準審議会(IASB)とアメリカの財務会計基準審議会(FASB)

は 2002 年に収益認識に関する会計基準を改訂するためのプロジェクトを立 ち上げ,過去 10 年以上にわたってその課題に共同で取り組んできた。

このような取り組みが必要となった背景には,企業が顧客との間で特別な 契約や,非常に複雑な契約をしばしば締結するような新しいビジネスモデル を採用している事実がある。例えば,変動対価の契約や様々な財やサービ スの束が1つの顧客契約に含まれる契約があげられる(Wagenhofer[2014],p.

365)。

さらに,従来,アメリカの会計基準設定機関は特定のビジネスモデルや特 定の産業に向けた詳細なガイダンスを発行して,そのような状況に対応し てきた。結果,100 以上もの会計基準や合計で 200 点を超える規定が定めら れ,経済的に同一の取引に複数の規定が矛盾するガイダンスを与える事態が 生じているという(Schipper et al[2009])。

一方,IASBは原則主義による会計基準設定を行っており,IAS11

IAS18

のわずか2つの会計基準と若干の解釈指針が公表されている。しか

しこれらの会計基準は特定の契約や新しいビジネスモデルに関するガイ ダンスを含んでいないため,これらの基準を複雑な取引に適用するのは

(2)

難しいといわれていた。さらに,IAS11

IAS18

は,IAS11が基本的に収 益費用アプローチに基づいているのに対し,IAS18は原価主義測定による 資産負債アプローチの要素を含んでいるため異なる概念に基づいている

(Wagenhofer[2014],pp.365-366)という問題が指摘されていた。

2002 年に共同プロジェクトが発足してから,2008 年の討議資料,2010 年 の公開草案,および 2011 年の再公開草案を経て,その成果が 2014 年5月 28 日に『顧客との契約から生じる収益(IFRS第 15 号)』として公表され た。この基準はほとんど全ての企業が適用対象となるものであり,2017 年 1月1日以降に適用される(1)

そこで本稿では,新しい収益認識会計基準(IFRS第 15 号)の概要と課題 について検討する。本稿の構成は次のとおりである。まず,Ⅱ節の収益認識 基準の概要では,新しい収益認識会計基準(IFRS第 15 号)の5つのステッ プについて,その概要を述べ,具体的な内容の検討を行う。続いて,Ⅲ節の 収益認識基準の特徴と残された課題では,新基準の特徴といくつかの課題に ついて検討する。次に,Ⅳ節の収益認識基準のわが国への影響では,新基準 のうち,わが国の現行の会計処理と異なるいくつかの論点について検討を加 える。最後にⅤ節のむすびでは本論文の結論と今後の課題について述べる。

Ⅱ 収益認識基準の概要

新しい収益認識会計基準(IFRS第 15 号)では,次の5つのステップに基 づいて収益を認識する。

ステップ1 顧客との契約の識別

ステップ2 契約における履行義務の識別 ステップ3 取引価格の算定

(3)

ステップ4 取引価格の履行義務への配分

ステップ5 履行義務の充足時(または充足につれて)の収益認識

ステップ1に関して,IFRS第 15 号では,契約とは,強制可能な権利およ び義務を生じさせる複数の当事者間の合意であると定義されている。契約に は書面だけでなく口頭や商慣行による黙示的な場合も含まれる。

IFRS

第 15 号の範囲に含まれる顧客との契約は,次の5つの条件をすべて 満たした場合であるとされる(IFRS 15.9)。(1)契約が契約当事者によっ て承認されていること,(2)契約によって移転しなければならない財また はサービスを特定できること,(3)移転される財やサービスの支払期間が 明確であること,(4)契約が経済的実質を伴っていること,(5)財やサー ビスと交換に企業が回収する対価の回収可能性が高いこと(2)

なお,IFRSおよび

US-GAAP

のいずれにおいても,回収可能性の判断に 際し,「可能性が高い(probable)」という閾値が使用されている。IFRS は,「可能性が高い」という用語は,起こらない可能性よりも起こる可能性 の方が高い,すなわち 50%超の確率であることを意味する一方,US-GAAP では,将来の事象が発生する可能性が高いことを意味し,より高い確率が求 められる(下村 [2014],34 頁)。

ステップ2に関して,IFRS第 15 号では,履行義務とは,顧客に対して

(1)区別できる財またはサービス(またはそれらの束)あるいは(2)区 別できる一連の実質的に同一の財またはサービスで,顧客に移転するパター ンが同一であるもの,を移転するための顧客との契約における約束と定義さ れている。

区別できる財またはサービスは別個の履行義務として個別に会計処理す る。区別できない契約済みの財またはサービスは企業がそれらを別々に

(4)

識別できるようになるまで結合した単一の履行義務として会計処理する

(Alexander[2014],p.429)。

ここで次の2つの要件をともに満たす場合,財やサービスは区別できる

(IFRS 15.27)。

(1)顧客は財またはサービスからそれ自体で,または,容易に利用可能な 他の資源と一体として便益を得ることができる。

(2)顧客に財またはサービスを移転する企業の約束は,契約上,他の約束 から切り離して識別できる。

これにより,現行実務とは異なる履行義務が識別される,すなわち,収益 認識の会計単位が異なることになる可能性がある。個別に会計処理すべき履 行義務の識別は,この新たな収益認識基準の適用により,最も大きな影響が 生じ得る領域の1つ(下村 [2014],40 頁)とされる。

契約における履行義務の識別は取引の本質が何なのかを見極めることが重 要であるため,例えば,携帯電話の契約で2年間の解約不能の通信契約をす れば端末機器の対価が無償となるような契約の場合,契約が一本であったと しても履行義務は端末機器の引き渡しと通信サービスの提供という複数の履 行義務となる(鶯地 [2014],28-29 頁)(3)

ステップ3に関して,取引価格とは財やサービスの顧客への移転と交換に 企業が権利を得ると見込んでいる対価の金額をいう(IFRS 15.47)。しかし ながら,税金など企業が第三者のために回収する金額は取引価格には含まれ ない。

契約が変動対価の要素を含む場合,企業はその契約で権利を得ることが見 込まれる変動対価の金額を見積もる(IFRS15.50)。変動対価は,例えば値引 き,リベート,払い戻し,クレジット,割引価格,インセンティブ,業績 ボーナス,ペナルティまたは類似の項目から生じる。変動対価は,対価に対

(5)

する企業の権利が将来事象の発生見積もりに依存する(IFRS15.51)。  

IFRS

第 15 号は,変動対価に関する不確実性に対して(財務諸表に)認識 できる変動対価の金額に制限を設けることで対処している。具体的に言う と,変動対価は,その不確実性が解消される将来に,収益の重大な戻入れが 生じない可能性が非常に高い範囲で取引価格に含められる(IFRS 15.56)。

これにより,従来の

IFRS

の実務においては信頼性をもって測定できない との判断から収益が認識されていなかったケースにおいて,制限を考慮した うえで何らかの金額が収益として計上される可能性も考えられるという(辻 野 [2014],45 頁)。

ステップ4に関して,契約が複数の履行義務からなる場合,企業は取引価格 を独立販売価格の比率により,それぞれの履行義務に配分する(IFRS 15.74)。

独立販売価格が直接,観察可能でない場合は,企業はそれを見積もる必要 がある。

IFRS

第 15 号は,①調整後市場評価アプローチ,②予想コストにマージン を加算するアプローチ,③残余アプローチ(4)など様々な方法を示している

(IFRS 15.79)。

ここで①は,財・サービスを販売する市場を評価し,顧客が支払ってもよ いと考えるであろう価格を見積もるアプローチであり,②は,履行義務の充 足の予想コストを見積もり,それに適切なマージンを加算するアプローチ である。③は契約全体の取引価格から,他の財・サービスの観察可能な独 立販売価格の合計を控除することにより算定するアプローチである(辻野 [2014],46 頁)。

取引価格の配分では,ステップ2で例示した携帯電話の契約について,大 きな議論があったという。鶯地 [2014] は,携帯電話の契約で端末器をゼロ 円として販売するケースがあるが,2つの履行義務への取引価格の配分とし

(6)

て,端末器ゼロ円というのは適切であると言えず,適切な取引価格を配分す る必要がある(30 頁)。

ステップ5に関して,履行義務の充足は,約束された財やサービスを顧客 に移転することにより達成される。この移転は顧客が当該財やサービスの支 配を獲得した時点で生じる(Alexander[2014],p.429)。いいかえると収益は一 時点あるいは一定の期間にわたって支配が移転するのに伴って認識される

(IFRS 15.32)

次の基準(5)の1つを満たす場合,企業は一定期間にわたって収益を認識 する(IFRS 15.35)。

(1)顧客が企業の履行によって提供される便益を企業が履行するにつれて 同時に受領し消費する。

(2)企業の履行によって,資産が創出されるかまたは増加し,当該資産の 創出または増価につれて顧客が当該資産を支配する。

(3)企業の履行によって,企業が他に転用できる資産が創出されず,現在 までに完了した履行についての支払を受ける権利が企業にある。

企業が一定時点にわたって履行義務を充足しない場合,一時点で履行義務 を充足する。

したがって収益は支配が移転したある特定の時点で認識される。支配の 移転の時点を示す要因は次のとおりであるがこれだけには限定されない

(IFRS 15.38)。

(1)企業が資産に対する支払を受ける現在の権利を有していること

(2)顧客が資産の法的所有権を有していること

(3)企業が資産の物理的な占有を移転すること

(4)顧客が資産の所有に係る重要なリスクと経済価値を有すること

(5)顧客が資産を検収していること

(7)

Ⅲ 収益認識基準の特徴と残された課題

新基準(IFRS第 15 号)の大きな特徴として,前節で述べたように収益を 次の5つのステップ,すなわち①顧客との契約の識別,②契約における履行 義務の識別,③取引価格の算定,④取引価格の履行義務への配分,⑤履行義 務の充足時(または充足につれて)の収益認識に基づいて認識することがあ げられる。

そして,新しい収益認識の会計基準は履行義務の充足時に収益を認識する こととしている。ここで履行義務は財やサービスを顧客に移転するための強 制可能な約束である。したがって例えば,サービスの提供に関する収益は もはや進行基準では認識されないことを意味しているものとされる(Cotter,

[2012],p.337)。

また,新しい収益認識の基準では,工事進行基準の代わりに顧客が約束さ れた財やサービスの支配を獲得した時点で収益を認識するとされる(Cotter,

[2012],p.120)。

ここで履行義務が一定期間にわたって充足されるのは,顧客がすでに支配 している資産の価値を高めるか,または創出する,あるいは企業の履行に よって,企業が他に転用できる資産が創出され,前述の3条件(Ⅱのステッ プ5を参照)のうち,少なくとも1つを満たす場合である。

Wagenhofer[2014] は,ステップ5の条件2と条件3はもともとの意味と比

べて支配の移転の基準の重要な拡張であるという。なぜならそれらの条件は

(支配の移転と)同等ではなく,また支配の移転を示唆するものでもないた めである。これらの2条件は,当初の公開草案に含められた厳格な支配の移 転基準が,実際に支配が移転する前に収益認識することを禁止する結果にな るという企業の懸念を和らげるために改訂公開草案に追加された。しかしな

(8)

がら,これらの2条件は新しい収益認識会計基準のコア原則と首尾一貫しな い(p.367)。

経済学的に重要な点は,資産(またはその一部)を顧客に移転しない限 り,企業に製品のリスクが残っている点である。しかし2条件は,本質的 に,新しい収益認識会計基準がもともと除外していた生産プロセスに基づ く基準を収益認識に導入するため,当初の基準の拡張にあたる。それに関 して,新しい収益認識会計基準は,形式は違っているが実質的に現行

IAS11

の工事進行基準を取り戻したとも考えられる(Wagenhofer[2014], p.367)。

IFRS

第 15 号と

IAS18( IAS11)の間の本質的な違いは,重要な要素とし

て顧客による支配の概念が導入されたことである。これにより特に長期のプ ロジェクトや長期の契約に関して収益の認識に著しい遅れが生じる恐れがあ る(Alexander[2014],p.429)。

IFRS

第 15 号の残された課題として,販売価格の見積もりに関して,財や サービスを個別に販売できないため,履行義務を他の企業に移転することが できない場合の出口価格の見積もりが主観的になる恐れがあることがあげら れる(Schipper et al.[2009],p.64)。  

    

Ⅳ 収益認識基準のわが国への影響

当初,新しい収益認識の会計基準は,わが国では商社や百貨店などの一部 の業種にのみ財務諸表に示される業績に重大な影響を及ぼす(6)が,それ以 外の多くの業種については会計基準が変更されても実質的にあまり大きな影 響はないのではないかともいわれていた。しかし,新しい収益認識の会計 基準は国際財務報告基準(IFRS)もアメリカの会計基準もほぼ同じ内容と なっており,世界中の多くの国のすべての業種に属する企業に適用されるも のであることから,わが国においても新基準の自社企業への影響の検証を含

(9)

めた十分な事前準備が必要になるものと考えられる(7)。ここでは,新基準 のうち,わが国の現行の会計処理と異なるいくつかの論点についてのみ,検 討を加えることにしたい。

返品権付きの販売について,IFRS第 15 号では権利を得ると見込んでいる 対価の金額で移転した財の収益を認識し見込まれる返品は収益に認識されな い。一方,現行のわが国の会計実務は,返品権付きの販売であっても販売時 にいったん総額で売上収益を計上し,実際に返品が生じた時点で売上収益と 売上債権を同額ずつ相殺して減額する(桜井 [2012],125 頁)。

このため,販売時にあらかじめ返品される金額を合理的に見積もって売上収 益から減額し,売上収益とは別個の勘定科目である返金負債勘定で計上する ような会計処理は行われていない。しかし,出版業や製薬業など返品が商慣 習で日常的に行われる業種では,返品調整引当金の繰入(および戻入)の処 理が行われ(8),返品が予想される商品の利益について調整が行われている。

したがって,IFRS第 15 号で示された返品権付きの販売の会計処理は,販 売時の売上収益の金額が返品が予想される金額の分だけ小さくなるため,現 行のわが国の会計実務とは異なる。また,返品を返品調整引当金勘定ではな く,返金負債勘定で仕訳する点も現行のわが国の会計実務とは異なっている。

 次に,製品保証の取り扱いについて,IFRS第 15 号では,以下の会計処理 を行うこととしている(秋葉 [2014],57 頁)。①顧客が製品保証を別途購入で きる場合,サービスタイプの製品保証として,履行義務とする。②顧客が製 品保証を別途購入できない場合,保険タイプの製品保証として,IAS第 37 号に従い負債を計上する。③製品保証が,移転された製品は合意された仕様 どおりのものであることの保証に加え,他のサービスも提供している場合,

その追加的なサービスを履行義務とする。

一方,現行のわが国の会計実務は,製品の販売価格に含まれている一般的 な製品保証(半年~1年)については,売上収益に含めて仕訳をするが期間

(10)

延長の保証(3年~5年程度)を別途販売している場合は,売上収益とは別 に,前受金勘定で処理する。また,過去の実績等に基づく合理的な推定計算 によって製品保証引当金を計上する(桜井 [2012],233 頁)。このように製品 保証の取り扱いについても

IFRS

第 15 号と現行のわが国の会計実務には相 違がある。

さらに,ポイントの取り扱いについて,IFRS第 15 号では,ポイントの付 与など,契約上,企業が追加的な財・サービスを取得することができる選択 権を顧客に与えており,当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要 な権利を提供する場合,以下を行うとしている(秋葉 [2014],58 頁)。①ポイ ントの付与に対して企業は顧客から実質的に前受けをしているため,それぞ れの独立販売価格に基づき取引価格をそれぞれの履行義務に配分する。②ポ イントに関する履行義務は,その将来の財・サービスの移転時又はポイント の失効時に収益として認識する。

一方,現行のわが国の会計実務は,顧客に付与したポイントの金額も含 め,いったん売上高として製品の販売価格を計上したうえで,顧客に付与し たポイントが有効期限内に利用されると見込まれる割合を乗じて算定したポ イント引当金を設定する会計処理が行われている(桜井 [2012],233 頁)。

したがって,IFRS第 15 号で示されるような会計処理に変更された場合,

上述のようなケースでは,顧客に付与したポイントの金額だけ販売時に売上 収益が減少し,ポイントが行使(または失効)されるまで契約負債とされる ことになる。さらに,わが国における引当金が,将来の物品またはサービス の引換えに関して発生すると見込まれる費用に基づき計上されるのに対し て,IFRS第 15 号はポイントの公正価値,すなわち売価で計上される点も相 違している。

続いて,割賦販売の取り扱いについて,IFRS第 15 号では,商品の販売益 相当額については販売時に,利息相当額については利息法により適切な期間

(11)

にわたって,それぞれ認識される(秋葉 [2014],59 頁)。

一方,現行のわが国の会計実務は,割賦販売は原則として販売基準で会計 処理するが,例外として回収基準や回収期限到来基準の適用も認められてい る点が

IFRS

第 15 号とは相違している。

また,わが国では割賦販売の金利的な要素を考慮せずに商品等を引き渡し た時点で収益を現金回収総額で測定する実務があるとされ,見直す必要が指 摘されている(秋葉 [2014],59 頁)。

さらに,本人・代理人関係の取り扱いについて,IFRS第 15 号では,企業 が本人か代理人かによって履行義務の内容が異なり,したがって,収益の測 定が異なるとしている。

すなわち,いずれの場合も取引価格による総額での収益の認識としている

(秋葉 [2014],59-60 頁)。

一方,現行のわが国の会計実務は,本人の場合は取引の総額をもって収益 として会計処理し,代理人の場合は手数料に相当する部分のみを収益として 会計処理するのが一般的であるとされる。

このため,わが国でも,契約上の立場に関わらず,履行義務の内容に沿っ て収益を測定するように会計基準が設定されれば,影響は大きいとされる

(秋葉 [2014],60 頁)。  

Ⅴ むすび

本稿では,新しい収益認識会計基準(IFRS第 15 号)の概要と課題につい て検討を行った。新基準(IFRS第 15 号)の特徴として,収益を次の5つの ステップ,すなわち①顧客との契約の識別,②契約における履行義務の識 別,③取引価格の算定,④取引価格の履行義務への配分,⑤履行義務の充足 時(または充足につれて)の収益認識に基づいて認識することがあげられ

(12)

る。そして,新しい収益認識の会計基準ではステップ⑤の履行義務の充足時 に収益を認識することとしている。

IFRS

第 15 号と現行の収益認識会計基準である

IAS18( IAS11)の間の本質

的な違いは,重要な要素として顧客による支配の概念が導入されたことであ る。これにより特に長期のプロジェクトや長期の契約に関して収益の認識に 著しい遅れが生じる恐れがある(Alexander[2014],p.429)ことがわかった。

新基準では,そのコア原則と首尾一貫しない次の2条件,すなわち,企業 の履行によって,資産が創出されるかまたは増加し,当該資産の創出または 増価につれて顧客が当該資産を支配する。および,企業の履行によって,企 業が他に転用できる資産が創出されず,現在までに完了した履行についての 支払を受ける権利が企業にある。が追加されている。これらの2条件は,当 初の公開草案に含められた厳格な支配の移転基準が,実際に支配が移転する 前に収益認識することを禁止する結果になるという企業の懸念を和らげるた めに改訂公開草案に追加されたものである(Wagenhofer[2014], p.367)。

これらの2条件は,本質的に,新しい収益認識会計基準がもともと除外し ていた生産プロセスに基づく基準を収益認識に導入するため,当初の基準の 拡張にあたるとされる。それによって新しい収益認識会計基準は,形式は 違っているが実質的に現行

IAS11

で適用されている工事進行基準を取り戻 した(Wagenhofer[2014], p.367)とも考えられる。

工事契約に関する現行の

IAS11

は収益費用アプローチに基づいているが,

収益に関する現行の

IAS18

は資産負債アプローチに近く,新しい収益認識 会計基準は完全に資産負債アプローチに基づいているとされる。過去十数 年間にわたってアメリカの財務会計基準審議会(FASB)[国際会計基準審議 会(IASB)もこれに追随している]は,資産負債アプローチは収益認識に 関して,収益費用アプローチのもとでの実現および対応原則よりも客観的 な基礎を提供すると主張して資産負債アプローチの採用を増加させてきた

(13)

(Wagenhofer[2014],p.362)。

 (2つのアプローチの)重要な相違点は,収益費用アプローチが収益稼得 サイクルに直接的に従うのに対して,資産負債アプローチは収益稼得サイ クルに関係のない資産および負債の金額の変動による影響により収益と利益

(アーニングス)のパターンを導くところにある(Wagenhofer[2014],p.362)。

しかしながら,資産負債アプローチを首尾一貫した概念として,収益認識 を規定するベストな方法であるとする考え方に対しては異論も存在している

(Marton and Wagenhofer[2010],p.5) (9)(10)(11)

このため新しい収益認識の会計基準に関しては,様々な観点から今後も引 き続き検討を続ける必要があるものと思われる。

  

脚注

(1)新しい収益認識会計基準は国際財務報告基準(IFRS)もアメリカの 会計基準もほぼ同じ内容であることから,鶯地隆継氏(IASB理事)

は企業会計基準委員会(ASBJ)のセミナー(2014 年2月開催)で新 しい収益認識会計基準を「宝石」に例えている。

(2)2012 年の再公開草案まではこの5番目の条件はなく,回収可能性に 関わる信用リスク(減損額)を純損益において収益科目に隣接した 別個の表示科目として表示する案が示されていたが,この提案は見 送られた(鶯地 [2014],28 頁)。

(3)製品保証サービスが別個の履行義務なのかどうかについては,特に日 本で大きな議論となった。通常の製品販売に必ず付与される製品保 証等は,そもそも瑕疵のない完全な製品を引き渡すという一つの履 行義務の一部であると見做される。しかしながら,オプションで追 加で付与される5年間長期保証などは別個の履行義務であると言え

(14)

るであろうとされる(鶯地 [2014],29 頁)。

(4)この方法は,顧客によって販売する価格が大きく異なる場合,または 企業がまだその財・サービスの価格を確立しておらず,かつ過去に おいて,その財・サービスを独立販売価格で販売していない場合に 限り用いることができる(辻野 [2014],46 頁)。なお,残余アプローチ は 2011 年に公表された改訂公開草案で追加されたものである。

(5)日本語訳のうち(1)は(古内 [2014],51 頁)を(2)と(3)は

(鶯地 [2014],30 頁)を参照した。

(6)詳細については,日本公認会計士協会編 [2009],83-89 頁を参照された い。

(7)鶯地 [2014] は,日本における現場の実務経験の積み上げに懸念を示し ている(32 頁)。

(8)返品調整引当金戻入額および返品調整引当金繰入額は売上総利益の下 に表示される。

(9)Dichev[2008] は,概念的に,収益の決定は資産と負債の決定よりも,

より明瞭かつ有用であり,利益(アーニングス)は財務諸表で最も 重要な情報であるため,純資産の変動の付随的結果としてよりも直 接的に決定するべきであると述べている。

(10)Dichev and Tang[2008] は,アメリカで資産負債モデルの使用の増加が 会計利益の品質に負の影響をもたらしたことを明らかにしている。

(11)秋葉 [2014] は,IFRS第 15 号は,結果的に,現行の処理と類似した 処理(むしろ,類似するように工夫された処理)を行っており,現 行の考え方である利益稼得過程アプローチに規律をもたらすように 開発されたとみる方が理解しやすいと思われますと述べている(19 頁)。

(15)

参考文献

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『企業会計』第 66 巻第9号 ,2014 年。

付記

2015 年3月末をもって定年を迎えられる井上教之教授に対し,長年の功 績に敬意を表しますとともに,井上教授のご健康と今後一層のご活躍をお願 い申し上げます。

 

参照

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