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古谷泥層の植物遺体

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古谷泥層の植物遺体

著者 黒田 啓介

雑誌名 静岡大学地学研究報告 : 地学しずはた

2

1

ページ 91‑95

発行年 1970‑05‑31

出版者 静岡大学理学部地学教室

URL http://doi.org/10.14945/00005786

(2)

静 時 大 学 地 学 研 究 報 告 第2巻 第 i 1970年 5

古 谷 泥 層 の 植 物 遺 体 *

田 啓 介

1.  き一筆者はかつて括本峰夫氏の案内で牧の原、台地の吉谷泥層下部から数種の植 物遺体を採集したO その後,土隆一博士と静岡大学地学教室の学生諸君は本層最上部から多数の植 物遺体を採集したO このたぴ関係各位の御厚意により 筆者はこの植物遺体を研究する機会を得た ので,これらの資料を中心に本泥層植物遺体の概要をのべ,泥層堆積時の気候について考察した o

II.地 質 概 説 一 古 谷 泥 層 は 牧 の 原 台 地 下 部 に 局 部 的 に 分 布 す る 。 土 隆 一 (1960)によると,

見かけ上水平に堆積し,下部は粘土質,上部は砂質を帯び,下底は摺曲した第三系の相良層群を傾 斜不整合におおい,上縁は牧の原磯層へ整合的に移行するという。 はほぼ15m内外で,中上部 に南方系の Gαfrαrium divαrlCαtum Tellinimαctra edentulαを含む内湾棲貝化石を産出し, た本層からは Palαeoloxodon nαmαdic'l ηαumαnni MAKIY AMAも産出している。貝化石種の 変化をみると,干潟から次第に海進を受け,再び浅くならないうちに牧の原礎層におおわれるので,

時の古大井JlIが急、に古谷泥層の堆積していた内湾へも流入したと考えられているO

III. 植 体‑古谷泥層の植物遺体は下部の基底に近い層準のものと最上部のものとに分 けられる。下部の植物遺体は次にあげる 8種で,大知ガ谷から筆者が採集し,最上部の植物遺体は 土隆一博士らによって丹野付近で採集され,これまでに27種同定されている。

O下部植物遺体 出 現 部 分 産 出

(1)  Gleditschia japonicαMig. 

(2)  Juglαns  mαndshuricαMax.var. 

(3)  Cαstαneα crenαtαS .et  Z. 

(4)  Styrαjαponicα S .  et Z.  (5)  S.  ObαssiαS.et Z. 

(6)  Sαpium sebiferum  Roxb.  var.  (7)  Cyclobαlanopsis  sp. 

(8)  Berberis  sp.  0最上部植物遺体

(1)  Torreyα nuciferα S .  et Z. 

(2)  A bies  firmα S .  et  Z. 

(3)  Pinus  sp. 

(4)  A lnus jαponicαS.et Z. 

(5)  Cαrpiηus  lαxiflorαBlume  (6)  Ostryαjα.ponicαSarg. 

(7)  Quercus  sp. 

N F S S S F n w

L, Sh  L, Cs  L, Cs  F, Fs  F, 

Bu, Cu, 

R R R R C R R F  

A R R A A C F  

本研究は静関大学理学部地学教室でなされた。 愛知県立韓日東高等学ヰ交

(3)

(8)  Zelkovαsp. 

(9)  Cerαtophyllum demersum  L.  (10)  Wistα7α floribundi αDc. (11)  ~αgα ァα Schinifolia Engl. 

(12)  Zαnthoxylum cf.  piperitum  Dc 

(13)  Melia Azedαrach  L. 

(14)  Aleurites cordαtα Muell‑Arg. 

Mα llotusjαponicus  Muell ‑Arg. 

(

16)  Sαpium sebiferum  Roxb. var.  (

1 IlexcornutαLindl. et  Paxt. 

(1~ 1.  sp. 

(19)  Sαpindus Mukurossi  Gaertn. 

(

20)  Paliurus nipponicus  Miki? 

(

21)  Cαmelliαjαponicα L .   (

22)  EU1yαjαponicαThunb.

(

23)  Syzygium buxifolium  Hook.et Arg. 

Trapαsp.

(25)  Styrαx j αponicα S  .et  Z. 

(

26)  Potamogeton  sp.  (27)  rpus 

出 現 部 分 の 説 明 Sp:刺針,

L,F  BuPS

P F  

Q U Q U

︐ Q U ' P  A P A  

Y S F F F S L S ' S S S L

S L S

F R F R R R O A n

Y R F R R A R D

R R F

,  , Fs:果 鱗 s LO  , Sh:枚条,

Cs:態 果 鱗 片 B'葱, Bu:芽 Cu:殻斗,

産 出 量 の 説 明 A:多い, C:普通, 0 少ない R'極めて少ない

N. 候一植物遺体によって当時の気候を推定するには,花粉分析の場合のように,

で き る だ け 細 か い 層 準 に 分 け て 検 討 し た 方 が よ い 。 と こ ろ が , 古 谷 泥 層 の 植 物 遺 体 は 層 準 の 確 実 な も の と し て は 今 の と こ ろ 下 部 と 最 上 部 だ け で あ る 。 そ れ ゆ え 気 候 変 動 を 知 る に は や や 不 完 全 と い え る が , 下 部 と 最 上 部 の ブ ロ ラ を 比 較 す る と , 共 通 種 は 少 い が , 指 示 す る 環 境 に 特 に 大 き な 踊 り は な D 去 た 泥 層 自 体 の 浮 き も 薄 い た め , こ れ ら の 植 物 遺 体 が 本 層 積 成 中 の 古 気 候 を ほ ぼ 代 表 す る と 考 え て き し っ か え な か ろ う 。 し か し 細 か く み る と , 層 準 に よ っ て 湿 度 及 び 気 温 に 若 干 の 相 異 が 認 め ら れるO 最上部では Melia  Azedarach, Aleurites  cordαtαAゐ llotωjα.ponicu~ , Ilex  cornutα  など乾生的植物が多く, 気候は乾燥化に向ったと考えられる。 こうした傾向は渥美半島でも認め られ(黒田、 1967),  日本列島の古地理学的位置と季節風との関係から, 年 中 乾 燥 し て い た 状 態 よりも, 雨 季 と 乾 季 に 分 れ た 環 境 を 推 定 し て お き た いO 二 季 に 分 れ た 上 で , 年 間 全 体 と し て み れ ば,いくぶん乾燥の度合を強めたというのが真相ではなかろうか。 一方, 気温の面では,下部に Styrax 06αSSlαが 目 立 つ こ と か ら , い く ら か 冷 涼 な 気 候 を 思 わ せ る 外 , 寒 冷 気 候 を 示 す 極 だ っ た 証 拠 を 得 て い な い が , 松 井 由 紀 乃(1961)は本層基底近くから Agnoliakobus, Gleditschia japonicα, 

Styrax Obαss切 な ど6種 の 植 物 遺 体 を 識 別 し , こ の 中 に Piceαpolitαが 多 量 に 含 ま れ る こ と , 粉 川昭平(私信)は本層中からやはり Piceα politα Cornuscoηt1oversα Abies firmα, Tsugα 

(4)

sp. Fagus sp.  , Stewartia sp. など温帯系の植物遺体の他に Mαgnoliasp., Meliosma sp. ,  Trapa sp., Alnus sp., Zanthoxyllum sp., Chamaecyris pisifera, Juglans, Styrax 

していることなどから, 古 谷 泥j爵の下底部は現在より冷涼な

があったことが推定できる。これに反して O

Cαrpinusαれfloraや Ostαjαponicα もあるが,出現部分がいずれも河川の運搬に耐えう るものばかりであるため,かなり上流からの搬入も考えられ,気候指示者としてはあまり適当では ないO 暖帯要素の中でも Syzygiumbufoliumは九チH以南に現生する温暖系植物で,上ケ原植物群 (Miki et  al.1957)からも報告されているむこのことから気温上昇は乾燥化と相まって起った現象と みられ,最上部では今日よりいくぶ、ん温暖な気温を示していると考えてよかろう O

古谷泥層最上部の特徴ある気候は,次期の牧の原磯層の堆積原田との関連で興味深い暗示を与え ているように思われるO すなわち, 牧の涼磯層の入頭大礎を含むテ

とともに'後背f地患の急上昇に{伴半う下刻浸食の産物と解解9きれているが(土隆一一歳, 196ωO), その他に 候要留を考える必要があるのではなかろうか。古谷泥層最上部の著しい気温上昇が敏速かつ汎世界 的なものであれば,広範囲にわたる乾燥気候の支配も考えられ,ひきつづく急速な気温低下によっ て飽和水蒸気量の急、減をきたし,各地に洪水をもたらしたという解釈も成り立つ。古谷泥層積成末 期から牧の原磯層積成期にかけては,次項でのべるように確かに激しい気温変化を裏付けそうな 拠も見出されている。北米中西部の例(中村, 1962)や房総半島の例(青木ほか, 1962)をみると,

3開氷期に限らず,氷期の直前に激しい気温変動がみられたらしし このことは氷期の成因とも に関連するものと されるO

v.地質時代と対比一植物遺体全体を通してみると , Juglαns  mandshurica  M .var.Meliα  Azedarach, Aleurites cordαtα Allotusjαponicus, Sαpindus Mukurossi, Syzygium buxifolium  などの重要な特徴種を多量に含み,これは典型的な筆者のいう後期のタイブと考えてよいO これら の植物組成は濯美潜群上部の豊橋累麗(黒田, 1957)や浜松累愚(粉)111964)の植物遺体と酷似

第 i 植物化石による東海地方の第四系中部の対比

牧の環礁層

一口u

鹿

5 4i  品 ︑

{ 美 半 i牧 の 原 寒 冷 i温 媛

高師原礎層 ガ 原 武蔵野期

掻 累 層 浜 松 累 層 古 谷 泥 層 薙 泥 層 下 未 古 期 界風ケ浦期後半

田 原 累 層 久能山磯)膏 界風ケ浦期前半

(5)

するO ちなみに類似指数RB (黒田, 1965)をとってみると,ほぽ30前後の を示す。 浜松累層の 植物遺体には上部と中下部の 2つのタイプがある。中下部は StyrωjαponLCα Alnωjαponicαが多 上部は MeliαAzed.arachで代表される乾燥タイプであるO 古谷泥層の植物遺体は下部と最上 部がそれぞれ浜松累層の 2つのタイプにほぼ該当する。このことから両層は時代的にも対比できる のではないかと考えている。

古植物学的な意味での後期は関東地方では界風ケ浦期後半から下末吉期ないし武蔵野期あたりま でを含むが,植物遺体による各時期の区別は現段階では資料が乏しくて不可能に近い。ただ,これ までの資料では Syzygiumbuxifolium AleuritesCOldαtα のような著しい温暖系植物を含む中央日 本のブ口ラは,層位学的にみて,武蔵野期よりも界風ケ浦期後半または下末吉期に入れる方が妥当 の場合が多いようである。植物遺体による後二者の時期の区別は明らかでないO その間に寒冷期を 挟むことはあっても,概して薄く,上下の温暖系植物組成を著しく入れ替えるほどの規模でもなか ったらしいため,東海地方では寒冷帯の確認が難しく,古谷泥層は浜松累層とともに,両時期を判 別しにくい一例とみなすことができょう。静岡市東方にある有度山の草薙泥層から産出する植物遺 体 は , 下 位 か ら 全 部 で5つの化石帯に分けられる(黒田, 1962) 0 第II化お帯の温暖系フロラは層 位学的位置と後期タイプの Quercusgilv a. MYlLCαrubra がある点で,界風ヶ滞期前半の温暖期よ りも後半もしくは下末吉期の温暖期に対比され,古谷泥層最上部とほぼ同じ時期と考えられる。し たがって寒冷要素からなる第III化石帝は牧の原磯層の下部あたりにくるわけで,ここに小規模な 温低下が隠されているのではないかと想像される。更に草薙泥層では上位の第W化石帯では温暖で,

V化お帯で冷涼となっているので,牧の原磯層積成期は案外はげしい気温振動に見舞われ,前項 でのべた洪水発生の直接的成因のあったことを裏付けているかのようにも受けとれるのであるO

羽.あ き‑ここにのべた推論は,東海地方のほんの一部分の関氷期と思われる植物遺 体を主体とし,いささか大胆にもすぎる考察を加えたものである。諸賢の御批判を得られれば幸い である。本研究において御教示いただ;いた三木茂,土隆一,粉)11昭平の各博士をはじめ,橋本隆夫 氏や遺体採集に御協力いただいた方々に深く感謝する次第であるO

引 用 文 献

青木直昭ほか(1962):地蔵堂層および薮層の模式層序と貝化石群の再記載,地質雑, vo 68, no.  804, 507 ‑517. 

粉川昭平(1964):浜松市附近の植物遺体,浜松市地質調査報告書, 203‑235. 

田啓介(1962):有度山の から産する植物化若,地学しずはた292‑10. 

1965) :類似指数の改訂とその応用について,東海紀要, no. , 11 ‑24 . 

(1967) :渥美層群上部から産出する植物遺体,第四紀研究, vol. 6, No. 2, 57‑62. 

Miki, S. , Huzita, K. and Kokawa, S. (1957):  On the  occurrence of  many broadleafed 

evergreen tree  remains  in  the  Pleistocene bed of  Uegahara, Nishinomiya city, Japan.  Proc, 

(6)

Japan  Acad., vol.  33, 41‑46. 

松井由紀乃(1961):静同県袋井地方の について,

中村和郎(1962):北アメリカ中西部の関氷期の研究,地理評, vol.  35, no. 4, 188‑193. 

蜂ー(1960):大井J11下流地方第四系の地史学的考察,地質雑, vol.  66, 639‑653. 

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