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製造機能を移転 した後の日本企業についての考察

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製造機能 を移転 した後の 日本企業についての考察

AStudyonJapaneseManufacturlngCompaniesafterOverseasTransfer

神奈川大学大学院 経営学研究科 国際経営専攻 博士前期課程

稲 垣 三 郎

は じめに

1989年バ ブル崩壊 後 、高 コス ト構造 にあ る 日 本の製造業 はコス ト競争力確保 と当該地域のマー ケ ッ ト獲得 のため中国 を中心 に人件費の安 い東南 アジア諸国への製造機能の移転が業種 を問わず急 速 な展 開が行 なわれた。A社 を事例 として、 日本 の製造企業が製造機能移転す るための意思決定の 背景 を考察 し、 日本 に残 された親企業のモ ノづ く り部 門の空洞化 とそれに関連 して発生す る諸課題 に対処す る方策 について論 じてみたい。

製造機能移転の意思決定の背景 を① コス ト競争 力確保の観点か ら述べ(ヨローカルマーケ ッ トの獲 得戟略の必要性 を考慮 し(歪日本企業の構造改革の 観点か ら考察 し探 り出す こととする

移転後の親企業の現状把握 と課題では、経営環 境のお変化 によ り変革 を伴 った機能 について(∋製 造工場のマザー工場化⑦ サプライヤー との関係調 整(釘国内製造子会社 の 自立化‑の支援 について考 察す る

製造機能移転の大型 プロジェク トの総合評価 と して、連結収益性 の検証 を行 うため現地会社収益 構造 を解析 し、同時 に日本の親企業 に貢献す る収 益改善の実態 を明 らかにす ることによ り連結損益

を確定す る検証 を行 な うこととす る

企業の リス トラクチ ャリングによ り地域社会 に与 える影響 については、利害関係者への関連 も重要 視 しなければな らない。

最後 に一般論 として、 日本 の製造業の今後の課 題では、製造部 門の空洞化 に関連 して生産技術機 能 と品質管理の レベルの低下 を予防す る方策 を論

じる。

労働力人口 と雇用環境 の項では、行政当局の調 査資料 をもとに実態 を把握 し考察す る。

中国での事業展 開す る上での リスクと新 たな課題 は、 日本経済新聞の調査資料 をもとに、筆者の経 験 を加 え解析す る

1.A社製造機能移転の意思決定の背景 A社 は中国国営企業 との合弁で1995年 に産業用 機械 の完成品組立製造企業 を設立 した。その背景

と目的は以下の ような項 目が挙 げ られる

(1) コス ト競争力優位性確保 の観点 か ら

日本、アメ リカの製造拠点で製造 される製品 コ ス ト競争力優位性 に限界が見‑始めて きた結果、

世界の市場 を席捲す るための戦略 として最適製造 基地 を選択 しなければな らない環境 に置かれてい た。当時 も現在 も世界の市場 は 日本 の複数の同業 種企業 による寡 占化の状況 にあ り、マーケ ッ ト ・

シェア獲得競争 は寡 占状況下の競争原理の通 り職 烈 を極めその決定的要因は、品質 についての決定 的差異が ない限 り販売価格その ものであると言 っ て も過言ではない。

それに加 え、中国国営企業で製造 ・販売 される 日本製品 と類似 (デザ イン、仕様、機能)のイ ミ テー シ ョンマ シ ンの流通末端価格 は 日本製 品の 50%程度 であ り適正価格維持 政策 を展 開す る上 で大 きな障害 になっている。つ ま り、 日系合弁会 社で製造 された製品価格 はメーカーのブラン ドと 品質が保証 されていているに もかかわ らず、流通 段階のすべ ての価格 は中国国営企業製品に影響 さ れ安値安定化 されるのが常である

この ような問題 を解決す るために、 コス ト削減 に最 も効果のある最適製造基地 として中国を選択 した第一の理 由である

(2)ローカルマーケ ッ トの確保

生産基地 を設置す る中国 を中心 に近隣諸国の当 該商 品群 に関す る市場 の大 きさは、世 界市場 の 40%強 を占めてい る。 この市場 を制覇す るこ と は、 メーカーにとって最大の関心事 である。 中国 政府当局の国産品保護政策の障害 を乗 り越 える方 策は、合弁企業 を設立 しその企業で製造 される製 品が 中国製であることが認定 され販売の許可 を得 ることである。 日本の競合 メーカーの中国へ の進

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出は時 間の問題 となるであろ う。 この課題 を解決 す ることが製造機能移転 の第二の理 由であ る。

(3) 日本企業の構造改革

企業 を取 り巻 く諸環境 は一層厳 しさを増 し抜本 的な構造改革が必要 になって来 ている。 ダウンサ イジ ングに よる使用総資本 の圧縮 (と くに借 入資 本)、組織 の簡素化、 キ ャ ッシュ ・フローの重視 、 利害関係者 との関係調整等今世紀 に生 き残 るため

には、 グローバ ルな標準 に適合す る企業 に変革 し なければな らない。企業 内 に残すべ き機能 と、残 す必要性が余 りない機能 を分別 し、で きる限 りア ウ トソー シ ング戦略 を展 開す ることによって企業 自身は、収益構造 ・財務構造 の改善 に注力すべ き であ る。 この ような意味合 いか らも製造移転可能 な製 品は、積極 的に移転 し業績改善 を期待す るこ との ほ うが得策である。

モ ノづ くり企業 と して生 き残 るための構造改革 の大 きな柱 は、高 コス ト体 質か らの脱却であ りそ の実行 のための方策 を選択 しなければな らないの が、第三の理 由である。

2.移転後の親企業の現状 とその課題

(1)親企業の現状の把握

製造機能の移転 は、親企業の経営環境 に大 きな 変化 を与 えるこ とになる。

大 きな変革 を伴 った機 能 について以下の通 り論述 したい。

1)製造工場 のマザー工場化

製造工場 は、総合的 な ものか ら特定分野の製造 機能 に変革 され、マザ ー工場化 の方向‑質的変化 が進 んでい る。移転 された製品群 は、モ ジュラー 型 アーキ テ クチ ャの オー プ ン化 (藤 本2001、高 橋2000、国領1999)され少 品種 多量 生産 の範暗 に入 る機種 で あ り、数 量 的 に見 る と総 生 産量 の 50%を占め てお り工 数 の観 点 か らは30%前 後 と 推計 され る。 この結 果 、操 業度 は30%前後 減少 し、余剰工数 を消化す るための対策が必要 になる。

第一次 の移転 によ り生 じた余剰工数 は、他 の製品 事業部への ローテー シ ョン等 に よ り対応が可能で あった。 しか し当該機種群 の全面移転及 び他 の重 要な機種群 を移転す る場合 に生ず る余剰工数 (人 負) は、事業部内は勿論 の こと、事業部 の枠 を超 えた全社組織 の中でで きるだけ消化 し、残余部分 は リス トラの対象 とせ ざるを得 ない ことになる。

組織 的 に事業部の保有す る諸機能 (商 品設計 、生 産技術 、工機 、新製 品試作 品質管理 、部 品調達 、 生産管理等)の基本的見直 しは、今後更 に展 開 さ れる製品移転 によ り生ず る生産規模 の縮小 を前提 に行 なわれる必要があ り、その結果 は 日本の工場 の本 質的機能 は海外製造企業へ の全面 的指導 .支 援活動 を主軸 に した もの になる と考 え られる。例 えば、移管製品の量産立 ち上 げ、移管後の初期流 動管理、現地従業員の 日本 における教育訓練、現 地 における品質管理活動等が考 え られ る。当然 日 本で製造 され るアーキテ クチ ャの統合製品、 カス タマ イズ製品、 メインとなる新製品、 自動機群 に ついては、本来の機能 を十分発揮 して対処 しなけ ればな らない。

2)サ プライヤー との関係 の調整

海外 の現地サ プライヤーか らの部 品等の調達率 が高 まるにつれ、信頼性 と継続性 の関係 にあ る 日 本の主 なサ プライヤーに対 して中核企業 (最終製 品組立企業) は、取引関係 を中心 に した多角的 に 配慮 した対応 が必要である。 この場合、企業の海 外戟略 に起 因す る現地調達 と日本のサ プライヤー か らの調達 は、完全 に トレー ドオフの関係 にある。

サ プライヤーに対す る選択 と集 中化 を行 わ ざるを 得 ない局面 に立 たされ ることになる。

関係製造子 会社や一部サ プライヤーの現地進 出 は、 この問題 を解決す る一つ の解決手段 であ る

しか しなが ら、 コス ト面 を中心 に した取引交渉が 不調 に終 わったサ プライヤー とは、取引の継続が 不能 になるケース も事例 と しては存在す る。現地 サ プ ラ イヤーのqCDレベ ルが 向上す る場 合 、現 地製造品の部 品調達のみ な らず 日本で製造 してい る製 品の部 品の調達 に まで範 囲が広 が る こ とは、

時間の問題 である。

この ような企業 とサ プライヤー を取 り巻 く環境 は、従来 の友好 関係や系列 と言 う甘 えの構造 に立 脚 した取 引 を急速 に崩 し始 めてい る。製造業の グ ローバル化が進 む環境 の中での中核企業 とサ プラ イヤーの関係 は、両者 とも現実 を直視 し考 えなけ ればな らない重要 な課題 である。

3)国内製造子 会社 の 自立化へ の支援

部 品製造子会社 を管理す る一次管理部 門 と して の機能 を もつ事業部 は、海外 製造基地 の増強 に従 い子 会社 の位 置付 け を再考 しなけれ ばな らない。

海外 の製造子 会社 との取引条件が合意 され継続 さ れる場合 は問題 ないが、その場合 コス ト面 での影

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響 は避けることが出来 ない課題である。

国内製造子会社 自立のためには、 まずサ プライ ヤー として同業 または異業種の顧客開拓 に経営の コ ンセ プ トを変 更 しそ の結 果 の本 社 依 存 率 を 50%以下 に抑 える こ とであ る。取 引顧 客 の多様 化 は、業種別景気変動が平準化 される結果、企業 の もつ生産のフ レキ シビリテ ィとの相乗効果で生 産操業度の安定 に役立つ ことになる。 また海外へ の進出は、系列への取引のみな らず、進出 日系企 業 との取引 も視野 に入れて考 えることが重要であ る。 これ らの案件 について本社、事業部 は、で き る限 りの支援 を行い 自立化への途 を歩 ませねばな らない。

(2)収益性の検証

収益 の検証 は製造機能の移転 を受 けた中国合弁 製造企業の収益内容 の把握 と、製造機能 を移転 し た 日本の親企業の収益変化 を把握 し、両社 を合算

した トー タルな収益計算 (連結決算) を行 い製造 機能移転 プロジェク トの結果 を評価す る必要があ

る。

1)中国合弁製造企業の収益の基礎 a.直接製造原価

同一製 品 につ い ての 中国合弁企業 の直接 原価 は、 日本 の製造工場 にお ける直接原価 の60%前 後 (材料費、人件費、経費)である。即 ち当該機 種 の原 価 低 減 額 は 日本 製 品 の原 価 と比 較 して 40%前後 であ る。直接原価 の93% を占め る材料 費 は、 コス トの高 い 日本製部 品が50%を超 えて いるため割高 な原価 となっている。部 品の現地調 達率 (ローカルコンテ ツ ト率)が高 まれば、急速 に原価低減が可能 にな りコス ト競争力 は、一層強 化 されることになる。

b.蔵出 し価格 (販売価格)の水準

中国合弁企業で製造 された製品は、中国 を含め 全世界の販売権 を日本の本社の製品事業部が独 占 的に保有 しているため、特殊 な例 を除いて一括の 取引契約 となる。本社 との取引価格 (ポール ・ミ グロム1997に よれば :移転価格) は、原則 的 に 製品の直接原価 に一般管理費、製造 間接費、所得 税 を加 えた全体製造原価 に一定率の利益 をプラス した価格で本社 と取引 きされる。取引価格の変更 は、6ケ月毎 に減価 の動 向や経営 の状況 を検討 し た上で決定 される。最終的には、本社 は 日本での 製造原価 よ り30%‑40%低 い価格 で現地製造企 業 との取引が行 なわれることになる

2)日本の親企業の収益改善

a.現地合弁製造企業 との取 引価格 (製 品仕入価 格)

現地合弁企業 との取引価格 は、先 に述べた基準 によ り決定 される。 この価格の有効期 間は、原則 的 に6ケ月間であ り標準原価 の改訂が行 なわれた 場合 は、取引価格 も改定 される。現状の取引価格 は 日本 の工場標準原価 の30%‑40%低 い価格 で あ り、原価のみに限れば大 きな改善 になっている。

b.本社か ら出向 している職員の給与の一部負担 日本か ら派遣 されている高級職員及 び技術職員 の現地 レベルの給与 との差額 は本社が負担 してい る。 この理由は 日本人 と現地人 との給与格差が著 しく大 きいため、現地企業の費用 として処理す る ことが とくに合弁企業の場合非常 に困難であるた めである。 この費用 は仕入原価 に加算 されるコス

トの増加 となる。

C.中国製品の全数量買取責任か ら生ず る諸費用 外 国為替の変動 による差損益 は、すべ て本社 に 帰属す る。極端 な市場の変動 により影響 を受 けた 生産変動 リスクは、本社が負担す る。

d.本社か らの製造移転製品にかかわる諸費用 移転製品 (新製品 を含む)の立 ち上げ時の技術 援助や品質 に関する技術指導の費用 は、原則的に 本社が負担す る。

e.流通段階における価格の減額

日本製の製品 と中国製の製品の市場 における価 格の認識 は、販売 される国別 に相当の乗離現象が 生 じている。原産地が 日本でなければな らない と い う 「こだわ り」 は世界共通であることを再認識 す る必要がある。 これは 日本製の製品の もつ綜合 品質に加 えお客様か ら見た当該製品のライフサ イ クルコス トの面での経済性が優れているか らと考 え られる。 中国製品の市場 における一定の評価が 定着す るのには、ある程度の期 間がかる もの と考 えなければならない。流通価格の下落 による付加 価値の減少額は、原価改善で得 た総利益 に直接マ

イナスの影響 を与 えることになる。

(3)企業の リス トラクチ ャア リングによ り地域社 会 に与 える影響

製造基地移転 によ り最終的に余剰 となった工数 (人員) は、可能 な限 り他事業部への ローテー シ ョン対策 を採 るが、消化で きない従業員 に対 して は、 リス トラ (人員整理の意味)せ ざるを得 ない 状況 になる。従業員全体のモ ラル とモチベ ‑ シ ョ

(4)

ンの低下 は言 うまで もな く、当該従業員 に対す る 退職金等 の割増 人件費 は、期 間費用 として当期 の 収益 に大 き く影響す ることになる。 また企業 の利 害関係者 であ る地域社 会 (特 に地方農村地区 に立 地 した生産工場)か ら信頼 を得 ていた企業の評価 は低下 し計 り知れない損失が発生す る。今後 の新 規雇 用 関係 に も影響 を もた らす もの と考 え られ る

3.A

社製造機能移転の考察

製造機能の海外移転 に伴 う環境 の変化 の要 因を 考察 したが、短期 的視野 と中長期 的視野の両方 の 観点か ら検証す る必要が ある と考 える。

短期 的 には海外生産の成功 に よ り獲得す るであ ろ う市場 と利益 である。現地製造企業の立 ち上が りか ら損益分岐点生産水準 に到達す る までの時 間 と費用 は企業経営上 の損失 と して認識す ることに なるが 、製造部 門のQCDが一定水準 に達 した場 合 は、その時点以後 に製造 された製品は市場 で評 価 され、初 めて収益 に貢献す ることになる。

本 社工 場 の空洞化 に対 処 すべ き事 項 につ い て は、本文2.「移転後 の親企業 の現状 とその課題」

の項で論 じた通 り今後 の大 きな課題 として対処す る必要が ある。

中長期 的 に見 た場合 、 日本 の本社 は、生産機能 の大部分が海外 に移転 した場合 に考 えな くてはな らないモ ノづ くり企業 の在 り方 を、製造基本戦略 として確立 し保有す る ことが必須 の条件 となる。

また、開発途上 国に展 開す る大型 プロジェク ト については、短期 間での投下資本 の回収が必要で あ り更 にその国の カ ン トリー リス クについて も十 分配慮す ることも重要 な事項である。

中国の カン トリー リス クとい えば、従来 は政治 的 な リス クや制度面 の不備 を指 した。今後 は先進 国 との通商摩擦 、人民元 の為替 レー トの切 り上 げ リス ク、WTO (世界 貿 易機 関)加盟 に よ り通 商 の国際化等 によ り生ず る経済的 リス クが大 き くな ると考 え られ る。

一 つ の例 と して、合 弁側 の投 資 の殆 どが現物 (土地 の利用権 :20年‑50年 の期 間)出資 であ り、

体制 国家である政治形態 の中で利用権 の満了時 に 契約がスムースに更新 で きる保証が ない リス クが 存在す る。

4.

日本の製造業の今後の課題

今 後 の課題 につ いて本文3.の項 で述べ て きた とお りであるが、追加 すべ き事項 と別 の観点か ら の 日本 のモ ノづ くり企業の今後 の課題 について述 べ ることにす る。

4‑1 モ ノづ くり企 業 にお ける製造部 門 の空洞 化 に関連 する課題

製造機 能の海外移転 によ り発生す る 日本 国内の 製造部 門の空洞化 は、必然 的 にマザ ー工場化 の方 向に方針 を転換 しなければな らな くなる。特 に重 要 な課題 とされ る二 つ の機 能 につ い て述 べ てみ

る。

a.生産技術機能の地位 と能力 の低下

組立生産現場 の喪失 によ り生産設備設計 、工程 設計等 の基本機能が不稼動 となる。一時的 には海 外製造基地 に対す る関連業務 は継続 されるが、永 久的な もので はない。製造現場 に直結 してない生 産技術 レベルの向上 は、期待 される どころか低下 の方 向 をた どることになる。生産技術部 門は多品 種少量製品、 カス タマ イズ製品等 国内製造部 門に 残 された製品の生産 システムの開発 とマザー工場 化 された製造部 門の基本 的機能である新製品試作 システムの構築 に傾注すべ きである と考 える

b.製造現場 における品質管理水準 の低下 製造現場 は、提案制度 、 日常改善活動、QCサ ー クル潜 動 の最 も盛 んな職場 であるが、部 品生産 の外注化 と組立機能の海外 移転 による職場の空洞 化 は、従来の ワー クセ ンター と しての職場 を分解 または廃止 を余儀 な くされる。その結果 は製造現 場での地道 な品質管理 ・改善活動 を停滞 または低 下 させ て しまうことになる。

一度崩 れた体制 は、その再構築 に時 間 とコス ト を必要 とす る。職場の文化 と して定着 した品質管 理 に対す る従業員の知 的熟練 の財産 は、新 しい職 場環境 の中に引 き継が れ活用 されなければな らな い。 そのため には後継従業員‑の品質管理の総合 的な学習が必須 の課題 となる。

4‑2 労働 力人 口の高齢 化 と雇用環 境 につ い て の課題

モ ノづ くり企業 における雇用環境 は、バ ブル崩 壊後新規雇用 の抑制 とリス トラによる中高年者 の 退職 によ り労働力人口の老齢化が急速 に進 んで き

(5)

ている。

新規学卒者 を中心 に若年層 の製造業離 れ と第3 次産業への傾斜の トレン ドは、今後 ます ます強 く

なるもの と考 え られる。行政当局の種 々の統計資 料 によ り明 らかな通 り労働力の高齢化 は、製造機 能 の空洞化 と同様 に大 きな課題 を投 げか けてい る。

表 1、表2、 に見 られ るご と く、 わが 国の労働 力人口は、雇用政策研 究会 の将来予測 に よれば、

2001年 か ら2010までの 10年 間で、15‑29歳 まで の若年労働 人口が 330万人減 るのに対 し、60歳以 上 の高齢労働力 人口は逆 に400万人増 える とされ ている。

年齢別人口構成 を見 る と、わが国の高齢化 は世 界 に類 をみ ない速度 で進 み、2015年 には総 人 口 の約 3人 に 1人が60歳以上 の高齢者 となることが 見込 まれている

労働 力 人 口 を年 齢層 別 した割合 で見 た場 合 、 2010年 には労働力人口の約 5人 に 1人が 60歳以上 の高齢者 と見込 まれる。

若年労働人口の多 くは第三次産業 に流れ、モ ノ づ くり産業 にとっての雇用環境 は益 々厳 しい もの になることは明 らかである。基礎研 究、応用研究 等新製品研究開発 によ り日本のモノづ くり企業で しか出来 ない競争力優位性のある製品を創出す る ことである。モ ノづ くり企業への若年労働者 の誘 引 を可能 にするためには、企業 としての魅力 と将 来性 (戦略的 ビジ ョン) を明確 に しなければな

らない。

この ままで推移すれば、わが国のモ ノづ くり企 業の基本的な機能である製造機能は、高 コス ト構 造 に加 え労働力人口の老齢化 による雇用環境の難 しさによ り更 なる海外移転が市場経済の原理 によ り押 し進め られると考 え られる。 また過去先進諸 国が経験 して きた外 国労働者の受入れが現実の課 題 となることを認識 しなければならない。国連の 調査 に よる と、 日本 の現在 の労働 人 口 を2050年 まで維持す るには、毎年 61万5千人の外 国人 を受 け入れ る必要があ る とされてい る (日経 2002年 10月18日)0

表1 人口の見通 し

わが国の高齢化 は世界 に類 をみない速度で進み、2015年 には総人口の約 3人に 1人が60歳以上の高齢 者 となることが見込 まれている。

単位:万人、%

1990 1995 2000 総人口 12,361(100) 12,557(100) 12,689(100) 0‑14歳 2,249(18.2) 2,001(15,9) 1,860(14,7) 15‑29歳 2,668(21,7) 2,724(21,7) 2,592(20,4) 30‑54歳 4,456(36,0) 4,450(35.4) 4,409(34,7) 55‑59歳 772(6,2) 795(6,3) 872(6,9) 60‑64歳 675(5.5) 748(6,0) 769(6,1) 65歳以上 1,489(12,1) 1,826(14.5) 2,187(17,2) 2005 2015 2025 総人口 12,768(100) 12,644(100) 12,091(100) 0‑14歳 1,824(14,3) 1,794(14,2) 1,582(13,1) 15‑29歳 2,253(17,6) i,854(14.7) 1,825(15,1) 30‑54歳 4,325(33,9) 4,234(33,5) 3,789(31,3) 55‑59歳 1,023(8,0) 744(5,9) 836(6,9) 60‑64歳 843(6,6) 831(6,6) 748(6,2)

(資料出所)総務省 「国勢調査」2000年以降は社会保 障・人口研究所 「日本の将来推計 人口

(6)

表2 労働人口の高齢化

2010年 には労働力人口の約 5人に1人が60歳以上の高齢者 となることが見込 まれる

単位:万人、%

1990 1998 2005 2010 15‑29歳 1,745(23,1) 1,631(24) 1,400(20) 1,230(18) 30‑59歳 4,178(65,4)4,239(62,5) 4,370(64) 4,230(63) 60‑64歳 372(5,8) 439(6,5) 510(7) 650(10) 65歳以上 360(5,6) 485(7,1) 580(8) 630(10)

2015 2020 2025 15‑29歳 1,110(17) 1,070(17) 1,080(17) 30‑59歳 4,130(63) 4,040(63) 3,870(63) 60‑64歳 560(9) 510(8) 530(9) 65歳以上 770(12) 780(12) 710(ll)

(資料 出所)19901988年総務省 「労働力調査」

2005年2010年雇用政策研究会推計 2015年以降は労働 省職業安定局推計

4‑3 日本企業 の中国 で事業展 開 す る上 での リ スクと新 たな課題

中国進出製造企業の課題 とその対応 については 本文 1.で詳述 した とお りであ るが 、表3「日本 企業の中国 ・アジア戦略調査」 (日本経済新聞社、

日本経済研 究 セ ンター共 同調査‑ 2002/ll)のデ ータは、多面的に課題 を提供 している。

表3「日本企業の中国 ・アジア戦略調査」 を参 照 しなが ら筆者の体験 を踏 まえて コメン トを して みることにす る

a.中国市場の リスク

突然の政策変更が 1位 であ り、その内容 は税 関 の規則の頻繁 な変更があげ られる

b.事業展 開上の最大 の問題点

法律が遵守 されない。ただ し現在 は相当改善 さ れている。インフラの未整備 も大 きな課題である

また優秀 な管理職、技術者の採用の困難が指摘 さ れる

C.アジア事業での中国企業の影響

調査結果で は、「ほ とん どない」 が48.5% を占 めているが 中国企業の成長 によ り影響が大 きくな

って きている。

その影響 については 「低価格攻勢」 と 「コピー 商品」 で95% を占めている。 この二つの項 目は、

市場 の実態 を良 くあ らわ している。 WTO加盟後 の動向 を注 目 したい。

d.アジアの拠点統廃合 ・再配置

既 に実施 中 と検討 している比率 は47.1%を占め ていることは、最適生産基地 としての中国の強 さ を感ず る

中国‑の集 中化 に否定的な答 えは、 カン トリー リス クを配慮 した結果 と思 われる。

4‑4 中国の可能性 と問題点

4「中国エ コノ ミス ト調査表」 は、北京大学、

精華大学、中国社会科学院などの著名エ コノ ミス ト50人 に 「中国の可能性 と問題 点」 についての アンケー トの結果 を作表 した ものである。個 々の コメン トは省略す るが、「中国の成長の制約要因

の どの項 目を見て も至 当な結果 と考 える

「中国 企業の強み」 については、改めて再認識す る結果 であ った。 「日本企業 の見方」 で は、上位3項 目 がすべてであると思 う。

(7)

「中国企業 の弱み」 の5項 目は、現状 を表 して い るが今後急速 に改善 され る と思 われる

「経営 への党の干渉」 の項 目は合弁企業 にとっては、大 きな課題である。実際 に合弁企業内に党主任が駐 在す ることによって、経営上いろいろな問題̲が発 生す る。 「日本企業 の見方」 については、筆者 の 実感 とまった く同一である。

中国に企業 を設立す る場合の基本的な考 え方や 事前検討事項 については Ⅰ.で詳述 した と通 りで あるが、上記の権威ある調査 によって正 しく検証 されている。 日本企業の中国進出のための良い指 針 となるはずである。

5.

今後の課題

製造機能 を海外生産基地 に移転 した 日本のモ ノ づ くり企業 は、 自社の製造部門の空洞化 に対 して 如何 に対処すべ きか を生産技術機能 と品質管理機 能の面か ら考察 してみた。 この2つの課題 は企業 内部のマネジメン トによ りその方向性 を決定す る ことが出来 るが、重要 な機能の低下 と人的資源 に 関す る リス トラを誘引す る雇用環境 の変化 (経営 にたいす る不信感 と信頼 関係 の崩壊) に対応す る ためには、大 きな痛み を味合 うことになる。

海外生産基地戟略の成功 は、残 された 日本の親 企業の受 ける短期 中期的損失 を十分補填で きる も のでなければな らない。企業の保有す る技術 の伝 承 に関す る資産価値 の相互の認識 は、今後 に残 さ れる。

労働 力人口の実態 と今後 の見通 しについては、

マ クロ的に係数 を基 に認識 したが、人的資源 を基 盤 とす るモ ノづ くり企業 にとっては今後最大の課 題 となる。個別の産業 (例 えばアパ レル製造業) は、す で に 日本の製造工場 の80%が 中国 を中心 に低賃金国に生産基地 を移転 している (ユニ クロ は100%中国生産)0

老齢化 した労働力 人口に頼 る 日本 のモ ノづ くり 企業の生産性低下 とコス ト競争力の喪失 は、必然 的に当該産業の衰退 と撤退 を余儀 されることにな るであろうと推測 される

中国に進出 した 日本の企業 (合弁、独資 を問わ ず)の事業展 開に伴 うリスクと新 たな課題 につい ては、 日本経済新聞社 グループによる共同調査 の 結果が表3に明確 に示 されている。筆者が実業界 において、経営責任者の立場で中国 に3つの製造 合弁製造企業 とベ トナムに 1つの独資の製造企業 を立 ち上げ、董事長 (チ ェアマ ン、会長) として 経営 を執行 して きた経験か ら見ると、この調査結 果 は当 を得 ているもの と判断す る。今後解決すべ き多 くの課題が内包 されていることを認識す る必 要がある。

中国の著名なエ コノ ミス トによる中国の現状 と 能力 についての調査表4の結果は、客観的 に事実 を表現 してい る。 日本企業 の見方の86%が労働 コス トの低 さと回答 しているのは、短期的に見て 当然 か も しれ ない。 中国労働 者 の賃 金 は、年率 10%に近 い上昇が続 いてい る ことも認識 してお かねばならないことである。

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日経新聞 ・日本経済研究センター共同調査 表 3 日本企業の中国 ・アジア 戦略調査

中 国市 場 の リス ク

政策変更 一 70.4%

競争激化 43.3%

知的財産権 39.2%

事 業 展 開 上 の 最 大 の 問 題 点

法律不遵守 52.6%

インフラ未整備 15.6%

優秀な管理職不足 7.Cryo

ア ジア事 業 で の 中 国企 業 の影 響

大 きな影響 14.1%

影響 あり 33.3%

ほとんどない 48.5%

どん な影 響

低価格攻勢 88.0%

コピー商品によるイメージ低下 7.Oyo

5‑10年 以 内 に 中 国 とア ジア の 拠 点 統 廃 合 .再 配 置 は

既 に実行中 5.5%

具体的な計画がある 40.4%

考 えていない 46.9%

他 ア ジア拠 点 を閉 鎖 .縮 小 し 中 国 に集 中

35.2%

しヽしヽえ 61ー7%

表 4 中国エコノミス ト調査 中 国 の成 長 の制 約 要 因 は?

(D産業の国際競争力 15.3%

(診人材不足 14.0%

(勤政治の不安定化 ll.3%

(彰世界景気の変動 10.7%

中 国企 業 の 強 み は?

①国内市場の広 さ 26.0%

(診成果主義 18.7%

(丑意思決定の速 さ 15.3%

④低賃金 14.0%

(9人材の集めやす さ ll.3%

⑥応用技術力 ll.3%

日本 企 業 の見 方 (複 数 回答 可 ) (D労働 コス トの低 さ 86.5%

② 中国市場 での販売力 44,4%

③人材の集めやす さ 33.3%

(彰商品開発力 1.3%

中 国企 業 の弱 み は?

①販売網の整備の遅れ 21.3%

(塾経営への党の干渉 17.3%

(丑国際的な知名度の低 さ 14.0%

(彰社会保障 コス ト負担 12.7%

⑤資金調達手段の少なさ 12.0%

日本 企 業 の 見方

(複 数 回答 可 ) (D研究開発力の弱 さ 54.9%

(診経営への党の干渉 26.4%

(参資金調達パイプが細い 25.8%

④人材不足 19.5%

(9)

おわ りに

本稿 はモノづ くり企業が 日本国内製造工場の存 在価値 をどの ように認識 し、モ ノづ くり企業の生 き残 りのための継続的経営基盤 を構築するかの課 題 を提起 し日本モ ノづ くり企業の課題 について述 べ ている

各項別 に成果 と結論 について次の通 りまとめて みる。

(1)製造機能 を移転 した後の 日本企業 についての 考察 について

製造機能移転の意思決定の背景 について三つの 観点 (コス ト競争力、ローカルマーケ ッ トの確保、

日本企業の構造改革)か ら論 じその論 旨を理解す るように努 めた。移転後の親企業の現状 とその課 題 については、空洞化 してい く製造部 門の実態 と その対応 を考察 し、収益性 の検討 は中国合弁企業 の収益 と日本の親企業の収益改善 を連結 して評価 し、製造機能移転 プロジェク トの成否の判断材料 とした。最後 に製造部 門の空洞化か ら生ず る企業 の利害関係者 に与 える影響 にいて考察 した。

(2)日本の製造業の今後の課題 について

わが国モ ノづ くり企業の製造部門の空洞化 によ り影響 を受 ける生産技術機能 と品質管理機能水準 を如何 に維持す るかの方策 を企業 は、内部要因 と して社内の大 きな課題 として真剣 に考 えな くては な らない状況 にある。外部要因 としては労働力老 齢化 についてマ クロ的に考察 した うえで今後の人 的資源確保 の課題 に対 して対処 しなければな らな

中国で事業 を展 開す る上での リス クや課題 につ いて、 日本経済新聞社 の調査結果 に もとづいて考 察 し認識 を深め られた と考 える。 中国の今後の可 能性 と問題点の指摘 は 日本の経営者 に とって有意 義 なデータである と思考す る。

以上本論文では、モ ノづ くり企業の製造機能海 外移転 に関す る課題 である 「製造機能 を移転 した 後の 日本 の親企業 について

「日本 製造業 の今後 の課題」 について事例 を引用 して考察 し日本 のモ ノづ くり企業のグローバルな市場経済の中で生 き 残 るための競争力優位性 を獲得す るための課題 と 方策 を提供 した。

改 めて 日本 国内で競争力 を維持で きる製造業の 条件 を考 えてみると①高い技術や伝統 を生か して 革新 的な製品 を作 るプロダク ト・イノベーシ ョン

②生産技術 や商品企画 ・物流 な どの流れ を見直す プロセス ・イノベーシ ョン③顧客の満足度 を高め る 「市場 ・顧客マ ッチ ング」 の3つの要素 をあげ ることが出来 るのではないか。 日本で Lかつ くれ ない独 自の技術、経営 システム、市場 といった 光物 となる一芸の有 る無 しが、メー ド ・イン ・ジ ャパ ンで生 き残れるかの分かれ 目である

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参照

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