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病院組織における間接人員の比率に関する一考察

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(1)

病院組織における間接人員の比率に関する一考察

著者 綾 高徳

雑誌名 評論・社会科学

号 94

ページ 71‑85

発行年 2011‑01‑31

権利 同志社大学社会学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000012401

(2)

要約:病院経営において,間接部門の合理化が注目されている。コストダウンターゲット は基幹業務を担う「診療部門」から,これまで聖域とされてきた企画・管理・事務業務を 担う「管理部門」へと範囲が拡大している。

本研究では管理部門の合理化について,間接人員の比率に焦点を当て実態調査を行った。

その結果,一般病院・精神科病院ともに平成14〜19年(6年間)を通じて継続的に間接人 員比率が減少を続け,平成19年には平成14年対比で平均9.8パーセントの低下をみた。

加えて,病床規模・開設者の観点から分析を行なった。一般病院では,その増大に比例し て間接人員の比率が低下する規模効果を確認した。精神科病院では規模による間接人員の 比率に違いはみられなかった。開設者については開設母体毎に間接人員比率の違いを調査 し,「個人・公益法人・医療法人・厚生労働省・社会保険関連団体」で平均を上回る間接人 員比率の高さを確認した。

キーワード:直間比率,職員比率,事務部門,間接業務,間接部門,合理化

1.緒 言

病院を取り巻く厳しい経営環境の中で継続して医療提供を行うためには,経営効率の 向上が不可欠である。経営効率は売上増大・経費節減に関する適切な施策の組み合わせ によって実現される。

サブプライム問題に端を発する世界同時不況(2008年

9

月以降)の波は,民間セク ターのみならず公共セクターにも多大な悪影響を及ぼしている。供給サイドの経済環境 については,マクロベースで法人税収の落込みによる歳入減が著しく(1),健康保険料収 入の不足とあわせて医療政策を展開するうえで制約条件となっている。こうしたなか国 及び地方自治体の支出において,比較的大きな比重を占める病院事業には医療サービス の質的な維持・向上を前提とした損益改善が強く求められている。

ミクロベースでは市中における雇用情勢の悪化(賃下げ・雇用不安)を受けて受診者 数・頻度が低下するため,その分の医療収入が減少する。

────────────

同志社大学大学院社会学研究科博士後期課程,㈱日本総合研究所 総合研究部門/所属

20101012日受付,20101027日掲載決定

論文

病院組織における間接人員の比率 に関する一考察

綾 高徳

71

(3)

一方で需要サイドは,今後も人口減少を伴う少子高齢化の急速な進展が続き,老年人 口(65歳 以 上)は

2025

年 に

25% 超(4

人 に

1

人),2035年 に

33% 超(3

人 に

1

人)

と予測(2)されており潜在患者数の増加が見込まれる。我が国における人口構造の高年齢 化は,医療を提供する病院に対して経営的に厳しい状況を強いる一方で社会的な期待が 増大していくという相反状況が続く。今度の医療政策及び病院経営はこのような厳しい 環境下での高度な舵取りを迫られることになる。先細りする歳入・収入を前提に増加す る社会的な期待にこたえるため,病院はコスト競争力のある経営体質作りが不可欠とな る。

コスト競争力の強化について病院組織ではこれまで,基幹業務を担う診療部門におい て現場レベルの業務改善が中心に行われてきたものが,企画・管理・事務業務を担う事 務・管理部門へとコストダウンターゲットが拡大している。

これは一般企業において既に経験してきたことであり,①連結がディスクロージャー の中心になったこと(2000年の会計ビッグバン),②連結納税制度の導入(2002年税法 改正),③純粋持株会社の解禁(特に

2002

年会社法改正による内部統制からの要請)の

3

要因により,グループ経営における本社機能(管理・間接部門)の再考が進められて きた。主なテーマとしては間接業務の合理化を主な目的とした「アウトソーシング」,

「SSC(シェアードサービスセンター)」(3)等の推進がみられた。また前述したような守 りの施策のみならず事業価値の向上に積極的に貢献する戦略的な本社管理・間接部門へ の転換といった取組みもみられ,経営管理を行う上でコア(核)となる業務の選択と集 中を通じて担当業務の高度化が進められてきた。

2.本研究の目的

本研究では,病院組織における間接人員の比率に注目し

1.間接人員比率の経年変化

2.病床規模別にみる間接人員比率 3.開設母体別にみる間接人員比率

を明らかにした。

今後,個々の病院組織で事務・管理部門の合理化を検討する際にひとつのベンチマー ク指標として参考にされるものである。ここから各施設における合理化の取組みが推進 され,業界全体での体質強化に繋がることを望む。

病院組織における間接人員の比率に関する一考察 72

(4)

3.研究の方法

3−1

先行研究

間接人員の最適なサイズを考える上で, 経営効率の向上 と 人材の最適配置 を 一体的に考える事が望ましい。これまで多くの民間企業では,本社機能(管理・間接部 門)の組織改革を行なう一連の活動のひとつとして間接人員の合理化に取り組んでき た。間接人員の合理化に関するコンセプトや実践手法についてはパブリックセクター

(公営企業等)に比べて,民間部門に一日の長がある。しかし民間部門では。間接人員 の適切なサイズに関する産業×規模横断的な調査・研究は行われてこなかった。その原 因として,①個別企業を適切な産業分類に区分する事の限界,特に②個別企業からのデ ータ取得に制約があること,が挙げられる。複数事業を抱える企業の場合,産業分類に 区分するためには,事業部やカンパニー単位まで分解しなければ正確な実態を現さな い。これを行うためには,事業毎の経営数値指標(人件費や販売管理費,製造原価等)

又は人員数に関するデータが必要になる。民間企業の場合,それらのデータから営業戦 略・コスト競争力・人材の状況等が読み取れるため,外部に対して公開にされる事はほ とんどない。事業別に管理会計を導入して,事業毎の経営数値指標をきちんと把握でき ている企業すら稀であろう。これに加えて,近年のグループ経営の高度化,事業構造の 転換速度が速くなるなどの要素が重なり上述したデータの取得はさらに困難になった。

一方,病院組織ではビジネスモデルがシンプル且つ事業構造がほとんど同じである。

従って規模や設立母体に拘らず,上述した

2

つの制約条件が無視できる程度に小さいた め,各病院組織間で比較可能な指標として活用する事ができる。更に医療法施行令(昭 和

23

年政令第

326

号)により調査・集計される『病院報告』(4)が毎年公表されるため,

統一的で連続性のあるデータが活用できる。したがって,病院組織では間接人員の実態 を体系的に調査・研究する事が可能であり,その結果として示される指標についても信 頼性も高いと言える。医療組織,経営の分野において,これまでこのような研究は行わ れておらず,今後の各病院組織における事務・間接部門の合理化を考える際の一助とな ろう。

3−2

直間比率の定義

間接人員の比率をみるための指標として 直間比率 があげられる。民間企業では,

製造や営業など基幹業務に直接携わる従業員を直接人員,それ以外の総務・人事・経理 や全社のコントロール機能を担う企画・管理に携わる職員を間接人員といい,これらの

「人員数の比率(5)」を直間比率と呼んでいる。この直間比率,一般的にはより少ない間

病院組織における間接人員の比率に関する一考察 73

(5)

接人員又はコストで本業(収益部門)の遂行を支援できている方が「事業効率が高い」

と評価される。当然,人件費等の財務視点でも同じことが言える。つまり,アウトプッ トの質・量が同じである事を前提にすれば,「直接比率が高く,間接比率が低い」こと が経営にとって望ましいことは疑う余地がない。

これを病院組織に置き換えると,直接医療に携わる職員が直接人員といえる。一方で 間接人員は,事務部門のスタッフや診療部門において直接人員をサポートする職員がこ れにあたる。例えば,直接人員と間接人員の役割など質的側面が同等である

2

つの同規 模程度の病院組織を比較した場合,間接人員数,または間接人件費が低ければ低いほど 経営効率が高いと評価できる。

本研究では上記を踏まえて。直間比率を 全職員に対する間接人員の構成比率 と定 義する。それでは直間比率の改善といった場合,全職員数に占める間接人員の構成比率 が減り(直接職員の構成比率が増え),人員構成がより利益を生み出しやすい組織構造 にシフトする,つまりコスト競争力の向上につながる肯定的な意味合いで捉えることと する。

またここで言う間接人員とは,前述した『病院報告』の職員分類における「事務職 員」「その他の職員」「その他の技術員」の合計である。直接職員は,「医師」「歯科医」

「師薬剤師」「保健師」「助産師」「看護師」「准看護師」「看護業務補助者」「理学療法士

(PT)」「作業療法士(OT)」「視能訓練士」「言語聴覚士」「義肢装具士」「歯科衛生士」

「歯科技工士」「診療放射線技師」「診療エクス線技師」「臨床検査技師」「衛生検査技師」

「臨床工学技士」「あん摩マツサー指圧師」「柔道整復師」「管理栄養士」「栄養士」「精神 保健福祉士」「社会福祉士」「介護福祉士」「医療社会事業従事者」の合計である。

3−3

使用したデータ(『病院報告』)

厚生労働省(人口動態・保健統計課保健統計室)が実施する『病院報告』のデータを

1 間接人員,直接人員の区分

定 義

間接人員 事務部門のスタッフや診療部門にお いて直接人員をサポートする職員

事務職員,その他の職員,その他の技術員

直接人員 直接医療に携わる職員 医師,歯科医,師薬剤師,保健師,助産師,看護師 准看護師,看護業務補助者,理学療法士(PT)

作業療法士(OT),視能訓練士,言語聴覚士 義肢装具士,歯科衛生士,歯科技工士,

診療放射線技師,診療エクス線技師,臨床検査技師 衛生検査技師,臨床工学技士,あん摩マツサー指圧師 柔道整復師,管理栄養士,栄養士,精神保健福祉士 社会福祉士,介護福祉士,医療社会事業従事者 病院組織における間接人員の比率に関する一考察

74

(6)

88%

90%

92%

94%

96%

98%

100%

H14 H15 H16 H17 H18 H19

98.5%

97.2%

93.5%

90.8%

94.4%

91.4%

98.1%

97.8%

95.8%

89.6%

100.0% 精神病院

一般病院

使用した。『病院報告』は全国の病院,療養病床を有する診療所における患者の利用状 況及び従事者の状況を把握し,医療行政の基礎資料を得ることを目的とした唯一の報告 書である。

本稿では平成

14〜19

年の

6

年間を調査対象期間とし,特に

・「1病院当たり従事者数,職種・病床規模・精神科病院−一般病院別」資料

・「1病院当たり従事者数,職種・開設者(中分類)・精神科病院−一般病院別」資料 を用いた。データの報告は各年とも

10

1

日現在の数字であり,従業員数は全ての職 種について常勤換算(6)している。尚,比率を表わす値(内訳)は四捨五入しているため 総数と一致しない場合がある。対象とした病院の総数,属性等は次頁以降で個別に論じ る。

4.結 果

4−1

経年変化

1

は平成

14

年から平成

19

年の

6

年間について,一般病院と精神科病院における間 接人員比率の推移を示したものである。数値は平均値(病床規模計)をとり,平成

14

年を基準(100%)に対する値をとった。

一般病院では平成

19

年において

89.6% と,5

年間で間接人員の比率が平成

14

年対比

10.4% 低下した。精神科病院では平成 19

年において

90.8% と,間接人員の比率が 5

年間で

9.2% 低下した。どちらも同期間を通じておよそ 1

割の間接人員比率の低下が見

られ,直間比率の改善が進んでいることが伺えた。

もうひとつの特徴的な傾向として,一般病院・精神科病院ともに期間を通じて毎年ほ

1 間接人員の比率の推移(平成14年対比)

病院組織における間接人員の比率に関する一考察 75

(7)

ぼ一定の割合で間接人員比率の低下が進んでいることがあげられる。これは,直間比率 の改善が一時的な現象ではなく常態化(トレンド)していることを示唆している。近似 曲線による推計では

1

年あたり,一般病院でマイナス

2.0%(R

2=99.2%),精神科病院 でマイナス

1.72%(R

2=85.2%)を示している。

最小

2

乗法(OLS : Ordinary Least Squares Method)により推計

⇒一般病院 :y=−0.0207 x+1.0208(R2=0.992)

⇒精神科病院:y=−0.0172 x+1.0235(R2=0.852)

2 病床規模別の間接人員比率の推移(平成14年対比)

■一般病院

H 14 H 15 H 16 H 17 H 18 H 19 差(H 14−H 19)

総計 100% 97.8% 95.8% 94.4% 91.4% 89.6% −10.4%

20〜29 100% 98.5% 97.2% 98.1% 93.5% 90.8% −9.2%

30〜39 100% 97.8% 95.8% 94.4% 91.4% 89.6% −10.4%

40〜49 100% 100.9% 100.1% 98.3% 94.8% 95.1% −4.9%

50〜99 100% 97.7% 95.1% 94.8% 91.6% 90.4% −9.6%

100〜149 100% 97.5% 96.4% 95.0% 92.4% 90.4% −9.6%

150〜199 100% 97.0% 95.4% 94.8% 92.0% 90.7% −9.3%

200〜299 100% 98.9% 97.8% 97.1% 94.2% 93.9% −6.1%

300〜399 100% 98.1% 96.5% 94.4% 90.8% 89.7% −10.3%

400〜499 100% 97.7% 95.1% 94.0% 90.5% 89.1% −10.9%

500〜599 100% 97.1% 93.3% 90.5% 86.9% 87.2% −12.8%

600〜699 100% 99.2% 94.6% 91.7% 90.0% 83.6% −16.4%

700〜799 100% 97.6% 96.0% 92.7% 90.4% 87.7% −12.3%

800〜899 100% 98.1% 103.5% 98.1% 94.8% 85.6% −14.4%

900床以上 100% 99.5% 95.7% 94.9% 94.2% 93.7% −6.3%

■精神病院

H 14 H 15 H 16 H 17 H 18 H 19 差(H 14−H 19)

総計 100% 98.5% 97.2% 98.1% 93.5% 90.8% −9.2%

20〜29 100% 97.8% 95.8% 94.4% 91.4% 89.6% −10.4%

30〜39 100% 95.0% 94.0% 94.6% 84.7% 84.8% −15.2%

40〜49 100% 98.4% 95.8% 95.3% 93.0% 93.6% −6.4%

50〜99 100% 100.9% 100.1% 98.3% 94.8% 95.1% −4.9%

100〜149 100% 97.7% 95.1% 94.8% 91.6% 90.4% −9.6%

150〜199 100% 97.5% 96.4% 95.0% 92.4% 90.4% −9.6%

200〜299 100% 97.0% 95.4% 94.8% 92.0% 90.7% −9.3%

300〜399 100% 98.9% 97.8% 97.1% 94.2% 93.9% −6.1%

400〜499 100% 98.1% 96.5% 94.4% 90.8% 89.7% −10.3%

500〜599 100% 97.7% 95.1% 94.0% 90.5% 89.1% −10.9%

600〜699 100% 97.1% 93.3% 90.5% 86.9% 87.2% −12.8%

700〜799 100% 99.2% 94.6% 91.7% 90.0% 83.6% −16.4%

800〜899 100% 97.6% 96.0% 92.7% 90.4% 87.7% −12.3%

900床以上 100% 98.1% 103.5% 98.1% 94.8% 85.6% −14.4%

病院組織における間接人員の比率に関する一考察 76

(8)

10.0%

12.0%

14.0%

16.0%

18.0%

20.0%

22.0%

18.8%

19.7%

18.4%

16.1%

15.2%

14.1%

13.5%

12.3%

11.4%11.7%

11.1%

11.8%

21.0%

16.4%

間接職員の比率

900床以上 800 899 700 799 600 699 500 599 400 499 300 399 200 299 150 199 100 149 50 99 40 49 30 39 20 29

続いて,間接人員の比率を病床規模別に分解して経年変化をみた。

結果は,病床規模別にみてもそれぞれが病床規模計と同様の傾向を示した。もちろん 病床規模によって間接人員比率の減少に多少の違いはあるものの,概して

5

年間で

1

割 前後の低下がみられた(表

2)。病床規模の違いによる減少率の差異について統計的な

分析による一定の法則は見出せないものの,500床以上の比較的規模の大きい病院にお いて総計(平均)を上回る間接人員比率の低下がみられた。

また,どの病床規模においても,期間を通じて一定の割合で間接人員比率の低下が進 んでいることが同様の傾向としてみられた。成熟から衰退に向かう我が国にあって間接 人員比率の低下傾向(直間比率の改善)は,同期間に特有のものではなく一時的ではな い現象(下降トレンド)と言える。

4−2

病床規模別の比較(一般病院と精神科病院の観測)

前項で一般病院・精神科病院ともに間接人員の比率が低下し,直間比率が継続的に改 善に向かっている事を明らかにした。それを踏まえてここでは,一般病院・精神科病院 それぞれについて病床規模(7)による間接人員の比率の違いを明らかにした。

2

および図

3

は,一般病院・精神科病院それぞれ病床規模別に間接人員の比率を示 したものである(平成

19

年実績)。

2

から,一般病院では病床数の増加につれて,間接人員の比率が低下していること が確認できた。病床数が多ければ多いほど規模効果(スケールメリット)が直間比率の 改善に効いていると言える。特に「30〜149病床」間において規模効果の効き方が大き

2 一般病院における病床規模別の間接人員比率(平成19年実績)

病院組織における間接人員の比率に関する一考察 77

(9)

く,次に「150〜699病床」間が続く。なお「700病床」以上で規模効果が限界に到達 し,間接人員の比率に変動が見て取れない。

最小

2

乗法(OLS : Ordinary Least Squares Method)により推計をみても

149

床まで は特に間接人員比率に対する規模効果が

150〜700

床の病院組織に比べて大きいことが 見て取れる。

30

床〜149床 :y=−0.0152 x+0.2267(R2=0.9868)

150

床〜700床:y=−0.0095 x+0.171(R2=0.9964)

同種の考え方として 経験曲線−experience curve−(同一製品の累積生産量が増える に従って,単位当たりの総コストが一定の割合で低下) の法則(B. Henderson 1966)

がこれに類するものと言える。一般に,製造業では累積生産量が倍増するごとに,単位

コストが

20〜30% ずつ逓減するとされるが,その率(習熟率)

(8)は業界や製品によって

異なる。

経験曲線の効果は下記の式で表される。

Cn

=C1

n

−a ここで

C

1:初期値

C

n:N 番目の製品の生産コスト

N

:累計生産回数

a:累積生産量の変化に対するコスト弾力性

である。

上記を組織論(病院)に応用した場合,病床規模の拡大つまり数的な組織規模が大き くなればなるほど間接人員ひとり当りの生産性が高まり,全体として間接人員比率を低 く抑える効果に繋がっていると言える。

次に精神科病院における病床規模別の間接人員比率をみた。

病床数は『病院報告』の区分に基づき,母集団が

10

病院以上の病床区分をとった。

区分単位(病床数)は一般病院と同単位で区分した(9)

3

から,精神科病院では一般病院と異なり,病床規模の違いによる間接人員比率の 変化が見られない。一般病院が

700

病床以上(間接人員比率:11%〜12%)で規模効果 が限界に到達している状況を勘案すれば,精神科病院において

50

床規模の段階で間接 人員比率が

12% 台前半をマークしていることから,規模効果が効いてくる余地に乏し

病院組織における間接人員の比率に関する一考察 78

(10)

10.0%

12.0%

14.0%

16.0%

18.0%

20.0%

22.0%

600 699 500

599 400

499 300

399 200

299 150

199 100

149 50

99

12.4% 12.4%

11.5% 11.6% 12.2% 12.0% 12.1% 11.8%

間接職員の比率

い事が原因であると推測できる。その他,一般病院と異なる診療科の種類・数(基本的 に単診療科)や患者の特性等が複合的に影響しているものと考えられるが,本要因の特 定と各要因が規模効果へ寄与する度合いについては今後の研究課題としたい。

4−3

開設者別の間接人員比率の比較

1,2

項で

・間接人員比率の低下は,全ての病床規模で見られること

・間接人員比率は,低下トレンドであること

・一般病院では間接人員比率に病床の規模効果が効いていること

……その度合いは病床規模に比例すること

……規模効果は「30〜149床」>「150〜699床」であること

……700病床以上で規模効果が停止すること

・精神科病院では規模効果が見られないこと

を確認した。3項では一般病院について,開設者(中分類)による間接人員比率の違い を明らかにする。尚,精神科病院については,母集団数の関係(10)により本分析から除 外した。

開設者は設立母体によって

・国(①厚生労働省,②その他の国)

・公的医療機関(③都道府県,④市町村,⑤その他の公的医療機関)

3 精神科病院における病床規模別の間接人員比率(平成19年実績)

病院組織における間接人員の比率に関する一考察 79

(11)

・⑥社会保険関係団体

・⑦公益法人

・⑧医療法人

・⑨その他の法人

・⑩会社

・⑪個人

・⑫医育機関

に区分し,それぞれについて間接人員の比率をみた。データは平成

19

年実績を用いた。

ここでは,設立母体別の間接比率と,病床規模別の間接比率の差を明らかにした。

最も間接人員比率が低いのは会社立の病院であった。会社立の病院は平均病床数が

259

床であり,先にみた病床規模別の間接比率は

200〜299

床の

15.2% と比較すると 4.6% 低かった。会社立の病院は平均して間接人員の比率が低い,いわばコスト競争力

が高い病院であると言える。

以下は開設者別にみた間接人員比率の経年変化である。

3 開設者別の間接人員比率(一般病院)

(1) 一般病院 a b

病院数 平均病床数 間接比率 病床規模別

間接比率 a−b 設立母体

1 会社 69 259 10.6% 15.2% −4.6%

2 都道府県 278 273 11.3% 15.2% −3.9%

3 その他の法人 104 288 12.5% 15.2% −2.7%

4 市町村 745 218 12.7% 15.2% −2.6%

5 医育機関 159 589 10.6% 12.3% −1.7%

6 その他の公的医療機関 93 287 14.0% 15.2% −1.3%

7 社会保険関係団体 124 298 14.4% 15.2% −0.9%

8 その他の国 146 407 12.9% 13.5% −0.6%

9 個人 533 92 18.1% 18.4% −0.3%

10 医療法人 5711 148 16.6% 16.4% 0.2%

11 公益法人 403 236 16.7% 15.2% 1.5%

12 厚生労働省 22 577 16.0% 12.3% 3.7%

平均 699 306 13.9%

病院組織における間接人員の比率に関する一考察 80

(12)

個人立の平成

15

年,厚生労働省率の平成

16〜17

年を除いてどの開設主体においても 一貫して間接人員比率の低下が見て取れる。平成

14

年を基準としているため,その時 点での合理化度合いによるが,開設主体によって当該機関における減少率に差を認め た。

5 結 び

5−1

今後の展開 〜民間企業の経験に学ぶ〜

わが国では

1997

年に純粋持株会社制度が解禁になって以降,今日までグループ経営 の高度化が先進的な民間企業において図られてきた。これは,事業を取り巻く経営環境 が国際化する過程において,M&Aを進めやすくする事で日本企業が国際競争のなかで 生き残りを図ろうとする産業政策に後押しされた一面もある。

グループ経営は間接人員,特に本社部門の合理化を命題としている。グループ経営の 高度化を推進するなかで,本社部門は 人員・業務削減 と 機能強化 の相反する圧 力に晒されてきた。非営利組織(NPC)であるため事業部門である営利組織(PC)か らは常なる削減要求を受ける一方で,近年増え続けるコンプライアンスに代表される社 会的要請や内部管理システムの高度化対応から本社部門の業務は増えるばかりであっ た。この歴史のなかで一部の事業会社では試行錯誤を繰り返しながら,単なる小さな本 社部門にとどまらない,文字通り戦略部門としての位置付けを組織として実現するに至 っている。

4 間接人員比率の経年変化(一般病院)

H 14 H 15 H 16 H 17 H 18 H 19 差(H 14−H 19)

総 計 100.0% 97.7% 97.6% 94.7% 90.9% 89.5% 10.5%

⑪ 個人 100.0% 100.8% 97.9% 97.7% 93.3% 93.3% 6.7%

⑦ 公益法人 100.0% 99.0% 97.1% 94.7% 92.1% 91.4% 8.6%

⑧ 医療法人 100.0% 98.1% 96.0% 96.0% 92.9% 92.0% 8.0%

① 厚生労働省 100.0% 99.3% 113.2% 103.0% 98.0% 97.3% 2.7%

⑥ 社会保険関係団体 100.0% 96.0% 95.6% 93.0% 89.1% 87.8% 12.2%

⑤ その他の公的医療機関 100.0% 97.7% 94.7% 94.2% 92.1% 88.7% 11.3%

② その他の国 100.0% 96.4% 98.7% 95.0% 93.0% 91.5% 8.5%

④ 市町村 100.0% 97.5% 95.7% 92.8% 91.4% 89.4% 10.6%

⑨ その他の法人 100.0% 97.9% 97.5% 93.9% 88.1% 85.4% 14.6%

③ 都道府県 100.0% 97.5% 95.9% 94.0% 88.2% 85.9% 14.1%

⑫ 医育機関 100.0% 97.5% 97.5% 94.4% 91.3% 88.5% 11.5%

⑩ 会社 100.0% 94.9% 91.2% 87.5% 81.8% 83.2% 16.8%

病院組織における間接人員の比率に関する一考察 81

(13)

33.9 21.9

27.6 31.6

32.6 27.2 27.6 23.8

31.2

64.6 66.1 78.1

72.4 68.4

67.4 72.8 72.4 76.2

68.8 35.4

0% 25% 50% 75% 100%

H12 13 14 15 16 17 18 19 20 21

黒字 赤字

病院経営を俯瞰すると

7

割の病院が赤字である。社団法人病院連盟会の調査(11)によ ると,回答のあった病院

1,162

病院のうち

31.2%(362

病院)の病院が黒字,赤字病院 数の割合は

68.8%(800

病院)にとどまる。経年でみても図

4

の通り厳しいものであ る。

開設者別でみると,自治体病院

584

病院のうち黒字病院は

8.6%(50

病院)にとどま り,残り

91.4%(534

病院)が赤字病院になっている(12)。その他,公的病院では

255

病 院のうち赤字病院は

47.5%(121

病院),私的病院では

323

病院のうち

44.9%(145

病 院)が赤字となっている。もっとも赤字が多い自治体病院は,私的病院や公的病院では 支えられない医療分野を社会的使命として受け持っていることから,この結果をみて一 概に「経営管理のレベルが低い」,「ムダが多い」とは言えないが,自治体財源に制限が ある限り,赤字は少しでも減らしていく必要がある事に変わりはない。

損益改善の好例としては独立行政法人国立病院機構が挙げられる。全国に

144

ある国 立病院のうち,2009年度には

8

病院で経常損益が黒字に転換し,黒字病院数は全体の

77.8% にあたる 112

病院となった。独立行政法人化して初年度にあたる

2004

年におい

て黒字病院が

47.9% と全体の半数以下だったことから,5

年間で

30%(45

病院程)の 病院において改善がみられる(13)。これは日本経済新聞の指摘(14)にもあるとおり,規模 のメリットを活かした共同調達によるコスト削減効果が大きい。医療品をはじめ医療用 消耗品,会計システム等の情報システムインフラを病院ごとに仕入れずに機構として共 同入札を実施したことがコストを押し下げていると考える。現在,私的・公的病院を問 わず調達は各病院単位で行われていることがほとんどであり,病院の統廃合や提携が急 速に進んでいくなかこういった比較的共通利用しやすい間接業務から手が付けられてい く事は容易に想像できる。

このような事象の背後には,各病院に調達・購買部門や情報システムの保守スタッフ

4 病院における赤字比率の経年変化(%)

病院組織における間接人員の比率に関する一考察 82

(14)

を設けない,設ける場合も人数は少数となるような組織設計,人材マネジメントが行わ れていることを忘れてはいけない。結果として,調達コスト低減のみならず,プロセス 部分における事務部門(間接人員)の合理化が図られているのである。

今後,多くの病院において経営の高度化を考える際に,スリムで高機能な事務・管理 部門の構築は避けて通ることはできず,業務改革のみならず人事・組織戦略とセットで 最適解を探っていくことが求められている。

事務・管理部門の改革は人事にかかわるセンシティブな要素を多分に孕んでおり,綿 密な行動計画に基づく事は当然のことながら,強力な経営層による牽引と現場レベルで のコンセンサスが成果を得るための鍵となろう。

推進に際して,本論で明らかにした指標が意思決定の参考になることを願う。

以上

⑴ 近畿24県と4政令指定都市の2009年度法人税収は計7,258億円。前年度に比べて5,157億円(42

%)減少した。2010年度は5,438億円と,09年度比で更に25% 落込む見通しである。

⑵ 出生率は中位値で記載(国立社会保障・人口問題研究所)

⑶ 各グループ会社又は事業部毎に存在する総務,人事,経理など間接業務を,グループ内の一箇所に集 中させることでコスト削減と効率化を図る経営手法。

⑷ 厚生労働省:全国の医療施設の分布及び整備の実態を明らかにするとともに,医療施設の診療機能を 把握し,医療行政の基礎資料を得ることを目的とした調査。

⑸ 人員数の他に人件費を取る場合もある。

⑹ 非常勤者について,その職務に従事した1週間の勤務時間を,当該医療施設の通常の1週間の勤務時 間で除した数。

=非常勤者の1週間の勤務時間/医療施設で定めている1週間の勤務時間

⑺ 一般病院において,病床数は『病院報告』の区分に基づき,区分単位(病床数)は20〜49床までが10 床単位,50〜199床までは50床単位,200〜899床までは100床単位と900床以上の単位で区分した。

区 分 毎 の 病 院 数 は144病 院(20〜29床),366病 院(30〜39床),581病 院(40〜49床),2,249病 院

(50〜99床),1,265病 院(100〜149床),1063病 院(150〜199床),811病 院(200〜299床),596 院(300〜399床),292病院(400〜499床),169病院(500〜599床),110病院(600〜699床),51 院(700〜799床),39病院(800〜899床),66病院(900床以上)である。

⑻ 累積生産量が2倍になるごとに減少するコストの割合。

⑼ 精神病院においても,病床数は『病院報告』の区分に基づき,区分単位(病床数)は20〜49床までが 10床単位,50〜199床までは50床単位,200〜699床までは100床単位で区分した。区分毎の病院数 50病院(50〜99床),170病院(100〜149床),235病院(150〜199床),334病院(200〜299床),

167病 院(300〜399床),68病 院(400〜499床),31病 院(500〜599床),10病 院(600〜699床)で ある。

⑽ 開設母体(中分類)が8つ。うち母集団が10施設を超えるが4分類のみ。

⑾ 『平成21年病院運営実態分析調査』全国公私病院連盟社団法人病院連盟会(H 22/3)

⑿ 自治体病院の場合,不採算部門等の医療に対し,地方公営企業法に基づき地方公共団体が負担すべき ものとされている負担金等は総収益から除いて仮定計算を行った。したがって法令に基づく病院決算 時点での黒字・赤字とは異なっている。

病院組織における間接人員の比率に関する一考察 83

(15)

⒀ 独立行政法人国立病院機構『中期目標期間(第1〜5期事業年度)事業報告書』平成16401日〜

平成21331

2010818日号

参考文献

Hax, Arnoldo C., Majluf, Nicolas S. Competitive cost dynamics : the experience curve . Interfaces 12 : 50−61.

(October 1982). The Boston Consulting Group

病院組織における間接人員の比率に関する一考察 84

(16)

Much attention has been paid to the streamlining the indirect work forces in the hospitals.

The targets of the streamlining have been sifted in the emphasis from the medical departments which has line functions to the managerial departments which is responsible for business plan- ning, managerial control and clerical works. This research analyzed the ratio of the indirect workforces in order to get a clearer picture of this trend of streamlining. I have found both the general hospitals and mental hospitals have experienced continual decrease in the ratio of indirect workforces through 6 years from 2002 to 2007 ; attaining 9.8 points decrease altogether since 2002. I also have found the ratio of the indirect workforces of the general hospitals has de- creased in accordance with their size, while that of the mental hospitals has had no relation with their size. As to the difference of the ratio in terms of the ownership of the hospitals, those insti- tutions established by such non market related ownership like individuals, nonprofit corporation, Health Care Corporation, Ministry of Social Security and Labor and so forth were found to have had higher indirect ratio.

An Observation on the Ratio of Indirect Personnel in the Hospitals

Takanori Aya

病院組織における間接人員の比率に関する一考察 85

参照

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