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都市構造と産業形態に基づく製材工場立地の日独比

著者 大里 穂乃佳

出版者 法政大学大学院デザイン工学研究科

雑誌名 法政大学大学院紀要. デザイン工学研究科編

巻 10

ページ 1‑8

発行年 2021‑03‑24

URL http://doi.org/10.15002/00023790

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法政大学大学院デザイン工学研究科紀要 Vol. 10(2021年3月) 法政大学

都市構造と産業形態に基づく 製材工場立地の日独比較

THE JAPAN-GERMANY COMPARISON OF LUMBERMILL LOCATION BASED ON SOCIAL INFRASTRUCTURE AND ECONOMIC GEOGRAPHY

大里 穂乃佳 Honoka OSATO

主査 網野禎昭 副査 高見公雄

法政大学大学院デザイン工学研究科建築学専攻修士課程

This study compares location and scale of lumbermill in Japan and Germany, based on social infrastructure and economic geography. In order to make a comparison based on socio-economic background, it applied the industrial location theory and dropped Japan and Germany into the network space. Both Japan and Germany contained network spaces with different characteristics, and the nature of lumbermill were also different. In addition, it was able to discover the unique location of lumbermill along rivers. In today's global world where various things come and go, it is important to expand the map and see the technology and system from a local perspective.

Key Words : location of lumbermill, industrial location theory, Japan-Germany comparison

1. 緒論

(1)研究背景

日本林業再興のため、様々な研究や調査が行われてい る現在、林業先進国でありかつ日本との比較対象になり やすいドイツの林業体制の研究が多くなされている。欧 州研究により、ドイツにおける大規模製材工場が評価さ れているが、日本においても同様に大規模製材工場が立 地しうるのか。大規模製材工場が及ぼす経済システムは 日本のバックグラウンドに沿うものであるのだろうか。

このような疑問の元、立地要因を都市構造や地理的要因 により読み解くことを本論文にて試みた。

(2)研究手法

本論文は、アルフレッド・ウェーバーの工場立地理論 と経済地理学のネットワーク空間の理論を用い、日本と ドイツの製材工場の立地に当てはめて考察する。

(3)日独製材工場データ a)ドイツの製材工場データ

・データ元:Holzkurier.com

・データ年代:2018年、2017年 a)日本の製材工場データ

・データ元:日刊木材新聞社出版 国産材名鑑

・データ年代:2015年

2. 工業立地理論

(1)アルフレッド・ウェーバーの工場立地理論 ウェーバーの工業立地の決定を三段階の理論におい て、第一段階 輸送費指向、第二段階 労働費指向、第三 段階 集積、の要素について考察した。

ウェーバーの輸送費指向論の基本的問題は、工業にと って輸送負担が最小となる地点の考察によって解かれる。

ウェーバーは輸送費を決定する本質的な要因を、輸送さ れる重量と距離であるとし、これ以外の重要な事情(輸送 手段の種類、輸送貨物の性質による輸送費の差異など)は 輸送される重量と距離の形に換算できると考えた。

次に、工業原料を以下のように区分する。

・普遍原料:どこでも存在する原料

・局地原料:特定の場所でのみ産出される原料

局地原料については、さらに製品への重量転化性によ って以下の区分をした。

・純粋原料:工業生産物のなかにその全重量が残る原料。

・重量減損原料:工業生産の過程においてその重量の一 部あるいは全部が減少する原料。

上記の原料の概念的分類を用いた、もっとも単純な場 合の輸送費最小原理による立地法則は以下のとおりであ る。なお、工業製品の出荷される市場はひとつであり、

また局地原料の産地もひとつであることを前提としてい る。

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・普遍原料のみを原料とする場合は、市場に立地する

・重量減損原料のみを原料とする場合は、原料産地に立 地する。

また、この法則とは別に、原料指数(局地原料の重量/

製品重量)の概念によっても立地を分類できる。

アルフレッド・ウェーバーの工場立地は、各種工業は まず原料の分類に応じて、原料供給地、消費地、中間地、

のいずれかに立地する。

アルフレッド・ウェーバーの工場立地理論については 主に第一段階の輸送費指向を本論文にて扱う。

(2)空間を考慮した集積の最適規模

一般的に、「規模の経済」(大規模大量生産によって発 生する利益のこと)による集積がどの程度まで進行するか は、生産過程が持っている規模の経済と、より大規模な 生産量に見合う、より広い需要空間に財を輸送するため に増大する輸送費との、トレードオフにより決定される。

逆に分散要因としては、集積の反作用の結果として現れ る。集積の反作用の原因となるのは、すべて地価の高騰 から生ずるものである。

ここでいう「需要空間」とは、特定の工業に対する 市場を距離のある空間として認識したものをいう。

図1 空間を考慮した集積の最適規模[2]

a)C(x):空間の集積の程度に応じた平均費用の変化 空間集積の程度に応じた平均費用の変化は関数 C(x) にて表される。

まず、生産関数AC(y)とする。

生産関数は生産要素の投入量(労働量、設備投資など)と生 産量の相関関数である。

その生産量yを空間全体の需要総数で割った値をxに 置き換え C(x)として表現すると上記のような関数を示す。

完全な集積の場合、この空間が需要するすべての財 を一つの生産ユニットは生産することを意味するから、

x=1であり、C(x)は過剰な設備投資による不経済により極 小値は取らない。

完全な分散の場合、個々の生産ユニットが際限なく小 さいことを意味するから、x=0となり、C(x)は財一つずつ に対する設備投資が大きくなり不経済を生み出し、端点 にて極小値は取らない。

C(x)の形態は、技術革新による生産性の向上し規模の経

済が強く働くようになると、極小値は右にシフトする可 能性を持つ。

また、関数 C(x)より需要空間の密度と集積、分散の関 係性を見出すことができる。

需要空間の密度が高い場合、需要総数が大きくなり、

空間集積の程度xの値は小さくなる。この時、C(x)は左シ フトし分散傾向を得る。

逆に需要空間の密度が低い場合、需要総数は小さくな り、空間集積の程度 x の値は大きくなる。この時、C(x) は右シフトし集積傾向を得る。

b)t(x):輸送費

輸送費を集積の程度xの関数において表現する場合、

どのような形状を持つか考察する。

x=0の完全な分散にあるとき、すべての需要者の門前に 工場がある状態であり、t(x)=0である。集積が進むにつれ、

t(x)は右上がりとなる。

t(x)の形状は、技術的条件によって異なり、輸送手段の 効率が悪かったり、生鮮品などで輸送費が多くかかった りする場合、関数の勾配は急となる。他方、需要空間の 密度が高かった場合、輸送距離が短くて済み、関数の傾 きは緩やかになる。

c)C(x)+t(x):集積の最適規模を示す関数

上記の集積因子を足したものの極小値 x₀が集積の最 適規模を示す。

要約すると、工場の集積化は生産量と距離の増加により 肥大化する輸送費と、規模の経済とのトレードオフとの 関係により程度が決定した。集積因子と輸送費指向的立 地の相関性は、本項で要素分解し考察したところ、需要 空間の密度、輸送条件(手段、費用)が主な要素として抽出 できることが分かった。

(3)ネットワークによる空間の結合

地理学の空間形成原理において、均質空間と結節空 間という二つの概念を持つ。どちらも点で表される集積 地と線で表される交通・通路で空間が構成される。結節 空間とは、一つの集積地を中枢とし、そこから放射線状 に交通・通信路が広がり、中枢が周辺をコントロールす るような空間編成をいう。

他方、均質空間とは、特定の卓越した集積地がなく、

多くの同等な規模をもった集積地を結んで等方的により 近いネットワークをなす空間編成をいう。

(4)理論適用にあたっての定義づけ a)製材工場の定義

本論文における「木材加工工場」は、「1-3-1製品工場 の製品種類」に示した製品を取り扱う工場を指す。また、

「製材所、製材工場」は丸太から製材品を切り出す工場を 指す。

たとえば、製材工場における「原材料」は「原木」を 指し、「製品」は切り出された「製材品」を指すことに なる。

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また、製材工場における「需要者」は厳密には建設業 を行う建設会社になるが、最終需要者として「木造住宅」

を本論文の製材工場における需要者と設定する。そのた め住宅需要が大きい地域は需要密度が高く、住宅需要が 小さい地域は需要密度が低いということになる。

b)ウェーバーの工業立地による分類分け

原料を「原木」とした場合、現代において「原木」

は局地原料であると定義できる。

輸送費最小か労働費低廉のどちらの影響が大きいかは、

結論から言うと輸送費最小の影響が大きい。製材品単位 重量当たりの労働費は製材品おいては少ないと考えられ る。ウェーバーの立地理論においても、労働費指数が高 くても輸送費最小地点を離れることは困難であるといわ れている。ただし、輸送費指向の立地範囲において労働 費指向は働くものと考える。

二段階の考察により、製材工場の立地要因の分類は「原 料供給立地型」に分類できる。

c)需要空間の密度とネットワーク空間

集積地は需要密度が高い地域を一つの集積地として扱 うこととする。製材工場における需要者は木造住宅、一 戸建住宅と設定し、住宅需要が高い地域が対象となる。

本論文においては製材所から需要者までの交通手段に 限り、主に道路、鉄道、水路を対象に考察を行う。また、

都市部をつなぐ交通路としては高速道路(アウトバーン) を主に交通路と設定する。

ネットワーク空間における集積地を住宅需要が高い地 域(国内において相対的に住宅需要が平均よりも高い地 域)と設定した場合、ある一定の地域において「均質空間」

と「結節空間」に分類することができる。

・住宅需要が分散し、かつ交通路が網目状に張り巡らさ れている → 「均質的な需要空間」

・住宅需要が集積し、かつ交通路が放射線状に伸びてい る → 「結節的な需要空間」

上記のような需要空間の分類を行うためには、住宅需 要の立地と交通路の二つの要素が合致していなければ、

定義することは出来ない。

図2 需要空間の模式図

3.集積地 木材の需要と供給

(1)ドイツの都市構造 a)木材の供給地 ドイツの森林

ドイツの森林資源は南ドイツに偏在性を持っている。

南ドイツにおいてはシュヴァルツヴァルト周辺とチェコ との国境のボヘミア周辺に豊富な森林資源を持ち、ヘッ センやラインラント周辺は小規模な森林資源がいくつか 位置している。このことから、ドイツ北部においては、

森林資源からの距離が必然的に遠くなってしまう性質が ある。

b)森林との距離だけでは図れない製材工場規模 北部に立地している要因として考えられるのは、原木 輸送し大量製材を行っている可能性である。大規模化す る可能性は、輸送費と規模の経済のトレードオフの関係 にて説明できる。森林から遠い場合、原木調達の時点で 高コストの輸送費がかかってしまう。原木調達の時点で 増大してしまう輸送費を規模の経済の利益により回収す る可能性があるのではないかというものだ。勿論規模の 経済以外の利益により回収することも可能である。

しかし、原料地から遠い立地であることが製材工場に 規模を唯一決定するものではなく、東ドイツ地域である か、西ドイツ地域であるかが製材工場の集積化の要因の 一つとして絡んでくることが可能性として浮上した。現 段階での東西ドイツの差異としては、東ドイツの方が落 葉針葉樹植生地域の範囲が広いことが挙げられるが、他 の要素についても考察していく。

c)大量生産に向かない広葉樹製材

針葉樹製材工場よりも全体的に規模が小さいことがわ かる。同じ製材加工を行う工場であるのにこれほどまで に規模の大きさに開きがあることは、広葉樹は固有性が 高く加工もしにくいため、広葉樹製材は均質化して同一 製品を生み出すシステムの大量生産にはそぐわないので はないかと考えらえる。そのため、広葉樹製材所は大規 模化しにくい性質を持ち、小~中規模製材場が分散立地 するのではないか。

図3 森林と針葉樹製材 図4 森林と広葉樹製材

d)ドイツにおける需要空間の混在

図 5,6 は 2000 年から 2011 年に間に建てられた一戸建 て住宅の建設割合を表したものと、都市人口をマッピン

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グしたものを重ねたものである。

東ドイツと西ドイツの需要地の立地の仕方の違いを需 要空間に当てはめると、都市に住宅需要があり需要が集 中している東ドイツは、「需要が集積」している。都市 近郊の広い範囲に住宅需要がある西ドイツは、「需要が 分散」していると定義することができる。

ドイツにおいては需要空間が混在して存在しているこ とが需要空間の性質として押さえることができる。

e)需要空間の性質と製材工場規模の相関性

需要空間の相関性として、需要が集積している東ドイ ツにおいて、は大規模製材工場の立地していること、需 要が分散している西ドイツにおいて、大規模~小規模製 材工場が幅広く立地している性質を読み取ることができ る。

図5 住宅需要と人口 図6 住宅需要と建設材工場

(2)日本の都市構造 a)木材の供給地 日本の森林

常緑針葉樹林であるスギは潜在植生では日本列島南部 には植生しえないが、1950年代からの「拡大造林政策」

によって多くのスギ、ヒノキ、カラマツの植生が確認で きる。建材としてふさわしい針葉樹であるが、「拡大造 林政策」により日本の樹齢は偏ったものとなってしまっ ている。

b)沿岸部に立地する大規模製材工場

大規模製材工場の立地をみると、沿岸部における立地 が多いことに気が付く。岡山県内陸部、栃木県内陸部の 二つの例外は確認できるが、その他の100 万㎥以上の製 材工場は沿岸部に立地している。100万㎥以下の製材工場 においても沿岸部に立地している製材工場の方が、内陸 部に立地している製材工場よりも全体的に規模は大きく なっている傾向が読み取れる。

c)九州地方の地理的優位性

九州地方は、暖多雨の気候に恵まれ、林木の成長が概 して速く、戦後に造成された人工林の多くが国内の他地 域より早く主伐期を迎えた地域である。この成長の速さ ゆえに九州地方の製材工場は国産材の市場を他地域より も早く獲得し、製材工場の集積化にも影響を与えている のではないかと考えられる。

図7 森林と製材規模 図8 九州地方拡大図

d)都市に集積する住宅需要

日本において、人口集中地区と都市間の空白地帯の存 在により、住宅需要の大きな集積傾向が見られる要因で あると考えられる。

日本における需要空間は三大都市圏を中心とした、「需 要が集積」した性質をもつ。

e)住宅需要と製材工場の立地

関東地方、一部東北地方に見られる製品集積による大 規模製材工場の立地は関東地方への供給を行っていると 考えられる。このことから、限られた地域からの大量安 定供給に応えるため、製材所を原材供給立地しながらも 規模を大きくしていった背景が伺える。

f)例外的な中部~近畿地方

中部地方から近畿地方にかけて、大きな住宅需要地が 集積している地域があるのにも関わらず、製材工場の大 規模化が発生しておらず、小規模製材工場が分散立地し ている様子が伺える。立地的には森林資源が豊富にあり 需要地も近いため、製材工場が集積していてもおかしく ない場所であるのになぜこのような立地になるのか。外 材入荷量と分散因子から考察していく。大阪、名古屋に おいては他産業における工場の集積が多く発生している ために地価の高騰が発生し、それにより木材産業の製材 工場における分散因子となったのではないか。自県材割 合が高い地域でありながら、目立った製材工場の立地が 確認できない地域は工務店製材をすることにより、製材 工場を介さない国産材活用システムの可能性があるので はないかと考えられる。

図9 住宅需要と人口 図 10 住宅需要と製材所

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4.交通路 木材の流通

(1)ドイツのネットワーク構造 a)ライン川の河川流通

ドイツにはフローゼライ(Flößerei)と呼ばれる筏流しで の木材の輸送方法が存在していた。フローゼラの経営に おいては木材貿易会社が行っており、木の伐採からフロ ーゼライの経営、材木の販売まで請け負っていた。オラ ンダ筏を用いた木材の運搬には多くの人が携わり、ライ ン川流域の地域を巻き込み、経済圏を形成していた。

b)河川沿いに立地する製材工場

ライン川に代表される筏流しでの流通形態があったこ とが立地要因の一つであると考えられる。特にヴェーザ ー川において、広葉樹製材工場の立地が確認され、ドナ ウ川上流とライン川上流においても数か所流域付近の製 材工場の立地が見られる。下流や河口地域ではなく特に 上流地域の標高が高い地域においての製材工場の立地は 標高の高さを利用した、水力製材所の存在があるのでは ないかと考えた。

中世後期には鋸だけでなく、水力の力で駆動する鋸が 使われており、1300年初期に南ドイツにおいて最初の水 力製材所に関する言及がされていた。1500年以降は水力 製材所を示唆する数多くの話が出てきた。水力製材所は 角材や板材を大量生産することができた初めての手段だ った。

c)東西分裂時の交通網の整備の違い

高速道路網の形態から、東ドイツは放射線状の交通網、

西ドイツは網目状の交通網と分類することができる。ま た、西ドイツにおいては、バイエルン州にのみ放射線状 の性質が確認出来ることが分かった。この東西の交通網 の様相の違いは、分裂時およそ40年もの間異なった道路 整備政策が行われたことにより、ドイツという同一国に おいて放射線状と網目状の交通網が入り混じったネット ワーク空間が出来上がった。

d)交通網と製材工場規模の相関性

ドイツ製材工場の道路沿いとの相関性は確認できなか った。交通網の性質との相関性として、網目状の交通網 において工場立地は分散しやすく、放射線状の交通網に おいて工場立地は集積しやすいことが確認できた。

図 11 河川と製材所 図 12 交通網と製材工場規模

(2)日本のネットワーク構造 a)木曽川の河川流通

木曽川を流通手段として開発された時代は古く、13世 紀末の頃の木曽川はすでに運材河川としての機能を果た していた。山から原木を切り出してから需要地に届ける までに、筏を川幅や流れの強さによって、筏を徐々に大 きく組みながら、筏夫を乗り継ぎ各地の手続きを経て、

運ばれていたことが分かった。運材のみでここまで多く の人や場所を介している木材は、多くの人の生活を支え る経済システムを構築していたであろう。

b)河川沿いに立地する製材工場

製材工場の集積が一つの河川に特に集中している河川 を挙げてみると、河川沿いの一か所に多く集積がみられ る河川は、十勝川、淀川、旭川、筑後川、大淀川。河川 沿いに数か所に渡って製材工場が立地している河川は、

米代川、天竜川、木曽川、肱川、球磨川等が挙げられる。

これらの河川はすべての河川において確認は取れていな いが、木材の運材の歴史があった可能性がある河川であ る。製材工場が河川の中流付近に立地するか、河口付近 に立地するかは地理的条件や木材の流通加工システムの 相違によるものではないかと想像できる。

c)継ぎ接ぎの日本の交通網

東京都を中心として放射状に交通網が張り巡らされて いることが目立つ。高速道路の穴は、主要な道路(主に国 道)が補っている形を取っている。日本は内航海運も活発 なため交通路に含めることができ、そのため九州、中国、

四国地方においては直線的ではなく網目状の特徴もみら れる。全般的な概況を見ると、日本のネットワーク空間 は放射線状の交通網と分類することができる。

d)輸送経路に立地する製材工場

多くの製材工場が道路沿いの立地が確認できた。日本 の交通網と製材工場の相関性は、ドイツのそれよりも強 い相関性が見られることが読み取れる。交通網沿いに製 材工場の立地することは既往の産業立地論では分類され ていないものであるが、あえて分類するならば輸送費指 向の中の「輸送経路立地型」として考えることができる だろう。

図 13 河川と製材所 図 14 交通網と木材加工工場

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5.理論の適用と日独比較

(1)ネットワーク空間の適用 a)ドイツのネットワーク空間

ドイツは東ドイツと西ドイツに分けてネットワーク空 間を定義できる。東ドイツはベルリンを集積地とした結 節的な需要空間であり、西ドイツは均質的な需要空間 でかつ、一部ミュンヘンを集積地とした交通路であると 定義する。

b)日本のネットワーク空間

日本は東京、名古屋、大阪を集積地とした結節的な需 要空間を持ち、一部九州、中国地方は網目状の交通網で あると定義する。

図 15,16 ネットワーク空間模式図

(2)理論適用

a)ドイツにおける製材工場立地理論

西ドイツの均質的な需要空間においては、工場の分散、

集積は規定しない。均質的な需要空間において、小規模 製材工場は立地しうる空間であることが西ドイツに主に 小規模製材工場が立地していることから伺える。また、

大規模製材工場と混在している地域においては集積の反 作用としての地価の高騰が発生し、工場が分散している とも読み取れる。

東ドイツは結節的な需要空間を有し、需要地はベルリ ン周辺に集積している。一か所に集積している需要地に おいて、工場は集積しやすい傾向にある。西ドイツにお いての工場の大規模化は特にミュンヘン周辺にみられ、

ミュンヘン周辺においては製材工場の立地において東ド イツと近い性質を持っていることわかり、その要因とし て放射線状の交通路を持っていることが挙げられる。

端的にいえば、東ドイツは工場が集積傾向、西ドイツ は工場が集積&分散傾向にあるといえる。立地と集積の 相関性は、原料供給地から離れ、かつ結節的な需要空間 をもつ地域(東ドイツ)において、工場は集積化し大規模 製材工場になっている。

b)日本における製材工場立地理論

日本は結節的な需要空間を有し、需要地は三大都市圏 に集積している。一か所に集積している需要地に対して、

工場は集積しやすい傾向にある。

しかし、名古屋、大阪ネットワークにおいては、性質 的には工場は集積傾向であるはずだが小規模製材工場が 分散立地している。中部~近畿地方において規模の経済 でのみの説明がつかない地域であることが分かる。また、

日本において若干の網目状の交通網をもつ九州、中国地 方は工場においては分散傾向にあり、理論に則している。

図 17,18 ネットワーク空間模式図と製材規模立地

(3)日独比較 a)輸送コスト比較

ドイツと日本の高速道路料金を比較すると日本とドイ ツの課金額の差は約 146~184 円の差があることがわかり、

(国土交通省資料より)この差は日本のおよそターミナル チャージ分に相当する。ターミナルチャージは距離に比 例しない固定部分のことであり、日本においては料金所 等の維持費に当てられている。ドイツは輸送費が低い地 域、日本は輸送費が高い地域と、相対的に定義すること により、集積因子の考察を行うことができる。

規模の経済による集積の程度は、より大規模な生産量 に見合う、より広い需要空間に輸送するために増大する 輸送費との、トレードオフにより決定されることを考慮 しそれぞれ分析する。例えば、輸送コストが高い地域と 低い地域において、同規模の製材工場が立地していると 仮定する。この時、輸送コストが低い地域はより広い範 囲の需要者まで製品を届けることが可能になる。輸送コ ストが高い地域はより狭い範囲の需要者にしか製品を届 けることができない。

b)集積に向かない日本の製材工場

日本のみを分析した際に、関東・九州・中国地方以外 の地域に理論の適用が難しかったが、輸送コストを含め た日独比較をしたことによって、説明をすることが可能 となった。結節的な需要空間においては一般的には集積 するはずだが、日本においては輸送コストが高いため、

工場を大規模化したとしても利益をあげること難しい。

そのため、大規模製材工場の立地が多くの地域において 確認することが出来なかった。日本は国内の需要地が限 られており、かつ海外に市場を求めることはさらなる輸 送コストの増大が阻むため、大規模製材工場は日本に立 地することはきわめて困難な状況である。対してドイツ

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は、主な輸送手段である道路及び鉄道によって国境を難 なく超え、新たなる需要地を外へ外へと拡大していくこ とが可能である。特に大規模製材工場が立地する東ドイ ツのさらに東には東欧が控え、製材工場の大きな原料供 給地及び需要地としての可能性を大きく秘めている。

西ドイツは製品集積による大規模製材工場が立地しう る地域であるのにも関わらず、小規模~中規模製材工場 が立地していたことは、集積の反作用としての分散と考 えることが出来るが、大規模製材工場が立地している環 境下において小~中規模製材工場が立地するためには価 格競争では勝つことができないであろう。西ドイツに立 地する小~中規模製材工場が生み出す規模の経済以外の 利益は、付加価値による利益ではないかと思う。

製材工場の付加価値の創造は、住宅需要を主眼とした 場合、住宅製品へのアプローチをすることが一つ挙げら れる。製材品を銘木と銘打って他より価値を上げること も可能であるが、住宅構法そのものへのアプローチし価 値を上げることも可能なのではないかと思う。

住宅構法へのアプローチの一つの例として、ブレット シュタッペル(Brettstapel)というものを取り上げる。ブ レットシュタッペルとは、1970 年にドイツの技術者 Julius Natterer によって発明された、横並びに積層した 挽き板を釘やビス、木ダボで接合した構造用面材である。

図 19 Brettstapel 製品写真[18]

図 20 よりブレットシュタッペルの加工工場の立地をみ ると、西ドイツに多く立地していることが分かる。接合 において接着剤等を用いないため製造時の設備投資が少 ないこと、挽き板の組み合わせ等の工夫により意匠や設 備等への昇華が可能なことから付加価値の創造が可能で あること、これらの特徴は小~中規模製材工場が導入し 大規模製材工場と異なった需要を対象に成長することが 可能だったのではないかと思う。

図 20 Brettstapel マッピング図

狭い範囲に需要者を一定数確保出来るからこそ、無理 に規模の経済を求め工場を大規模化し単一的な製品の製 造のみを行うのではなく、地域の需要に合わせた製品開 発や個別対応を行うことにより地域の経済を回している のだ。経済が回ることによって、人が集まり、そこがま た製材工場の需要地となっていく。その繰り返しによっ て、西ドイツにおける需要空間の密度の高さと製材工場 の分散立地の様相が伺えるものとなっているのでないか。

規模の経済による利益が見込めない日本にとって、お 手本にすべきはこのような西ドイツの小規模及び中規模 製材工場の姿ではないかと思う。付加価値によって利益 を得ることは、輸送費の高い日本において製品到達距離 を伸ばし需要者を確保出来ることを意味する。また、製 材工場が付加価値の利益により経済を回すことは、製材 工場の原料供給地(森林)かつ日本のネットワーク空間の 空白である地方都市の経済を回すことにも繋がるのでは ないか。

(4)製材工場立地理論の概略 a)立地因子

① 原料立地:森林資源の位置

現代において、森林資源は一般的には局地原料として 扱う。

②需要空間:都市構造の違いが立地に影響を与える 製材工場の需要者を住宅需要と設定すると、人口分 布と需要が一致せず、必ずしも都市に住宅需要があると は限らない。ドイツは都市以外の地域の住宅需要が大き いため、集積地が分散傾向、日本は都市と住宅需要の位 置が同等なため集積地は集積傾向にある。かつ交通路の 形態から、西ドイツは均質的な需要空間、日本と東ドイ ツは結節的な需要空間と分類できた。均質的な需要空間 においては、①の性質を受け継ぎ、需要空間の性質の影 響を受けづらい。逆に結節的な需要空間は、原料地指向 から離れ輸送経路立地型の傾向を得る。

③輸送:輸送経路立地型の要素分解と歴史的立地 過去に動力や輸送経路として利用された河川沿いの立 地が確認された。動力は水力製材所がかつてあったこと、

輸送経路は筏による経済システムが成り立っていたこと から、かつての立地にそのまま現在でも製材工場が立地 している。

b)集積因子

①樹種:広葉樹製材の大量生産不向き

固有性の高く、製材が難しい広葉樹種における単一化 の大量生産は不向きであり、分散傾向をもつ。逆に針葉 樹は単一化、大量生産が向くため、集積傾向を得やすい。

② 立地因子の影響:森林距離と沿岸部輸送経路立地型 立地因子による影響で森林からの距離が遠い地域に立 地する製材工場は、増大する輸送コストを補うため、あ る程度の集積傾向が見られる。また、他の地域よりも輸 送経路において優位な立地をした場合他の地域よりも集 積傾向を得る。

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③需要空間:結節的な需要空間の集積のしやすさ 結節的な需要空間であるとき、集積傾向を得た。東ド イツや日本の関東地方の結節的な需要空間において、工 場は輸送に有利である輸送経路立地すると同時に、限ら れた輸送経路上の需要地に対して供給を行うため集積化 しやすい傾向が得られた。

④ネットワーク空間:輸送コスト比較を行った場合 ネットワーク空間に相対的な輸送コストを含めて考察 した場合、集積因子となりうる。その中で、〈輸送コス ト高い + 結節的な需要空間〉である場合、集積に向か ない土地であり、規模の経済以外の利益の追及を行わな ければならない。

⑤時間軸:樹木の成長速度による優位性

他地域よりも地理的に樹木の成長速度において優位に あり、かつ輸送経路において遠くの土地の市場も確保出 来る土地の場合、他地域よりも製品及び工場集積化傾向 を得る。(九州地方)

6.総括

日本とドイツの製材工場の立地をネットワーク空間と 工場立地理論に基づきながら紐解くことを試みた本論文 では、製材工場を通して日本やドイツの様々な背景を知 ることができた。

森林管理や木材産業において、ドイツは先進国である。

その先進国に日本の木材産業は大いに見習うことは沢山 あるであろう。しかし、日本はドイツの産業をそのまま 真似して成り立たせることができるのだろうか。本論文 にて明らかになったようにドイツは一つでも東ドイツと 西ドイツ、北部と南部、それぞれの地域によってインフ ラ整備、経済格差や都市構造においても様々な形態を有 していた。ドイツも一枚岩ではなく、様々な社会・経済 背景によって成り立つ地域の集まりであった。そしてそ れは日本においても同様である。ドイツの産業形態をお 手本とするとき、その産業はどのような都市構造や経済 の中で成り立っているのかを見ることは重要である。

ドイツにおける大規模製材工場の寡占化は、数字上で はドイツ全土によって起こっているものと認識してしま いがちであるが、地図化してみると大規模製材工場は東 ドイツに多くあるものであったことが分かった。そして、

大規模製材工場は輸送コストが高い結節的な需要空間で ある日本において、その立地はきわめて限られた地域で しか成り立ちえないものであるのではないかと結論付け られた。

そして地図化して初めて認知できた、西ドイツの大規 模製材工場と同地域に立地していた小~中規模製材工場 の利益の創造は規模の経済によるものではないものでは なく、付加価値によって成長していた産業であった。数 字上のデータでは見ることのできないドイツの産業形態 は、日本の木材産業においても一つのお手本になり得る ものであった。お手本とすべき他国を一枚岩の国家と認

識するのではなく、様々な都市構造によって成り立つ国 であることを意識してみることにより、このような数字 上のデータでは気づけないことに気づかされることがあ るのではないか。

本論文において、限られたデータ上での日独比較であ ったために、定量的比較がなされていない点が一つ難点 である。製材工場の規模について定量的比較を行う場合、

その設備費や木材価格、輸送コストを設定することによ りある程度行えるのではないかと思うが、それはさらな るデータを必要とするため今後の課題とする。

様々なものが行き交うグローバルな現代において、地 図を広げローカルな視点でその技術やシステムをみるこ との重要性を述べ、本論文の締めとする。

謝辞:本論文を執筆するにあたり、ご指導ご鞭撻して下 さった網野禎昭教授に多大なる感謝を表します。

副査としてご指導頂きました高見公雄教授に感謝の意を 表します。

本論文のデータ収集、作成に協力頂きました、高橋恵秀 さん、吉田匠さんに感謝の意を表します。

そして、論文執筆の毎日の中で支えて下さった研究室の 仲間、そして家族へ、ありがとうございます。

本論文に携わったすべての皆様へ、感謝の意を表し、謝 辞とさせて頂きます。

参考文献

1)篠原泰三訳,アルフレッド・ウェーバー:工場立地論,

大明堂発行

2)水岡不二雄:経済・社会の地理学, 有斐閣アルマ 3)富田和暁:地域と産業 経済地理学の基礎,原書房 4)山縣光晶訳,ヨアヒム・ラートカウ:木材と文明, 築地

書館

5)国産材名鑑, 日刊木材新聞社

6)所三男:近世林業史の研究, 株式会社吉川弘文館 7)徳仁親王:水運史から世界の水へ, NHK 出版 8)武部健一:道路の日本史,中公新書

9)ドイツの道路 50 年-その回顧 1949-1999-,益財団法人 高速道路調査会

10)国土形成史からみた社会資本整備-道は歴史を運ぶ大 地の川-,国土技術政策総合研究所資料,第 13 号 2002 年

11)森林科学 No.69、No.77, 日本森林学会 12)https://www.holzkurier.com/ 木材生産調査 13)https://service.destatis.de/ ドイツ国勢調査 14)https://www.rinya.maff.go.jp/ 林野庁林政審議会

資料

15)https://www.e-stat.go.jp/ e-stat 日本国勢調査 16)https://www.mlit.go.jp/ 国土交通省統計情報 17)http://www.fao.org/home/en/ 食糧農業機関 18)https://www.brettstapel.de/ inholz ホームページ

参照

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