• 検索結果がありません。

日本企業の最適資本構成に関する検証

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "日本企業の最適資本構成に関する検証"

Copied!
10
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

1. はじめに

Miller and Modigliani[1]では,(1) 資本市場が完全情報

と完全競争の状況にある,(2) 法人所得税及び個人所得 税は考慮しない,(3) 倒産リスクはなく,それに伴うコ ストも考えない,(4) 企業の投資計画は所与,(5) 資本 市場の取引コストは無く常に裁定がはたらく,という条 件が満たされたとき,資本構成は企業価値に影響を与え ないとしている.しかしながら,現実にはこのような条 件が満たされることは稀であるため,企業価値を最大に する最適資本構成が存在すると考えられる.

現実に最適資本構成は存在するかという問いに答える 実証分析の一つとして,次の方法が挙げられる.資本構

成に関する企業間の差違や資本構成の時系列的な変化,

あるいはそれらの両者を,コーポレート・ファイナンス の理論に照らしてそれらを説明可能と考えられる変数で 説明できるかどうかを検討することである.Bradely,

Jarrel and Kim

2

]は,企業間における負債比率の差違

に関する実証分析を行い,理論的に負債比率の差違を説 明可能な変数のなかでも現実には説明力の高いものと低 いものが混在することを示した.日本における研究とし て松浦[3]では,増資に関する時系列変化を株式資本 コスト(松浦では株式益回りを利用)を含む幾つかの変 数で説明することを試みたところ,株式資本コストは 1%水準で有意に負(資本コストが高くなれば増資は減 少する)であり,期待される理論的予想を満たしている

日本企業の最適資本構成に関する検証

小 久 保 秀 俊

*,

宮 崎 浩 一

*

Optimal Capital Structure of Japanese Corporations

Hidetoshi KOKUBO * , Koichi MIYAZAKI * Abstract

In Japan neither business industry nor academia has discussed about optimal capital structure based on valuation model of corporate value using weighted average cost of capital. Contributing to scientific management of the capital structure, in this article, we derive the optimal capital structure of Japanese corporation based on the valuation model adopting actual data such as corporate bond yield, equity return, financial statement and so on. And we examine whether the current capital structure of Japanese corporation is appropriate or not comparing it with the optimal one. Regarding as the valuation model, first, we point out problematic aspects of the existing model such that the model lacks term structure of debt and the balance of term structure between asset side and funding side. Second, we provide the way to solve the problem and improve the model. In addition to that, we introduce new simulation approach in the valuation model to attain the more appropriate and stable optimal capital structure. Empirical analysis based on our model tells us that the debt ratio of the industry such as real estate, fiber, retail, transportation, steel and construction is higher than the optimal one while the debt ratio of medical, elaborate machinery and non-steel metal industry is lower than the optimal one.

Keywords: WACC, Valuation model of corporate value, Optimal capital structure, Simulation, CAPM, Yield Matrix by Credit

Received on August 2, 2004

*

システム工学科

Department of Systems Engineering

(2)

としている.また負債比率に関しても,倒産コストや倒 産確率の代理変数を含む幾つかの変数を用いた回帰分析 を行ったところ,分析結果は理論と整合的,つまり,倒 産コストや倒産確率が高い企業ほど負債比率も高くなる と報告している.また,松浦・竹澤・鈴木[4]では,負 債比率を導出する際に,簿価資本金を利用するのではな く株式時価総額を利用した場合にこの傾向が見られると 指摘している.

これらの実証分析結果に基づけば,日本において最適 資本構成は存在すると考えてよさそうである.最適資本 構成を検討する際のポイントは,負債による調達を増や す(負債比率の増加)ことによる節税効果と負債比率の増 加に伴い倒産リスクが高まることによる税引前負債コス トの上昇とのトレードオフにある.岩村・福沢[5]から は,「企業の資本構成を企業の課税回避行動と倒産回避 行動だけで理解しようとするのが適切かどうかは別にし ても,こうしたデータから企業の行動やその背景をきち んと読み取ることの重要性は,これから増加しても減少 することはないだろう.そうしたデータを消化し活用し ていくことが,わが国の資本市場の発達につながると思 われる.」との意見も伺える.

企業価値評価モデルとして,ダモダラン

[6]

にある実 務的なフレームワークに即したモデルを既存モデルとし て紹介する.また,既存モデルの問題点等を指摘したう えで,それらの改良方法とモデルのフレームワーク自体 に関する

1

つの拡張を提案する.更に,既存モデルや本 論文で提案する拡張モデルに基づき,市場から観測され る負債コストデータ,適切と判断される株主資本コスト データ,個別企業の有価証券報告書を用いて,企業毎に 最適資本構成を具体的に導出する.また,現状の資本構 成が,最適資本構成と比較してどのような状況にあるか についても業種別に検討する.

本論文の構成は,以下の通り.次章では,既存の企業 価値評価モデルと最適資本構成を紹介する.第

3

章では,

最適資本構成に関する既存の手法における問題点等を指 摘したうえで,それらの問題点を解決する手法と企業価 値評価モデルのフレームワーク自体に関する

1

つの拡張 として,シミュレーション型企業価値評価モデルを提案 する.第

4

章では,実証分析に用いるデータを明らかに したうえで,実証分析結果とその考察を与える.最終章 では,まとめと今後の課題を記す.

2. 企業価値評価モデルと最適資本構成

ここでは,ダモダラン[6],

8

章で与えられている企業 評価モデルを既存モデルとして取り上げ,手短に整理し た形で紹介する.

2.1 加重平均資本コスト(WACC)

企業が必要な資金を調達する手段としては,主に,株 式と負債がある.次で定義するように,これらのコスト の加重平均値が,加重平均資本コスト(WACC)である.

(定義 1)加重平均資本コスト(WACC)

(1)

ここで,WACC,ke,kdは,それぞれ,加重平均資本コ スト,株主資本コスト,負債コストであり,E,Dは普 通株,負債の市場価格である.

株主資本コスト(ke

)や負債コスト(k

d

)が外生的に与え

られる場合には,資金調達手段である普通株(E)と負債

(D)の構成比率を変更することによって,加重平均資本

コストを変化させることが可能になる.

2.2 株主資本コスト

株主資本コストを推定する方法には,配当割引モデル を利用する方法と

CAPM(資本資産評価モデル)を用いる

方法の

2

通りがあるが,ここでは,後者を採用する.資 本資産評価モデルに基づけば,株主資本コストは次で与 えられる.

(

定義

2)

株主資本コスト

(2)

ここで,E(Rm

)は株式市場リターン,R

fは現在の安全利

子率,

β

currentは,通常,ベータと呼ばれる当該株式リタ

ーンの

TOPIX

リターンに対する感応度を表す値である.

2.3 負債コスト

負債コストは,無リスク金利の水準,当該企業の信用 リスク,負債の節税効果(支払利息が税控除されること による)を反映して決まる.

(定義 3)負債コスト

k

d 税引前負債コスト

(1

税率) 税引前負債コスト 当該企業の社債利回り

安全利子率 クレジットスプレッド

(信用リスクプレミアム)

2.4 企業価値評価モデル

企業価値評価モデルの基本的な考え方は,「ある期間 内に発生する各時点での期待キャッシュフローを企業全 体の加重平均資本コストで割引くことにより,企業全体 の価値を推定することができる」とするものであり,具 体的に企業価値は,次で与えられる.

企業価値

ここで,FCFFは,フリーキャッシュフローを表し,次 で与えられる.

フリーキャッシュフロー(FCFF)

= ∑

t=n1

( 1 + FCFF WACC

t

)

t

+

=

=

= ×

k

e

= R

f

+ β

current

( ( E R

m

) − R

f

) WACC k E

E D k D E D

e d

= + +

+

(3)

利払・税引前利益(EBIT)

(1

税率)

(設備投資 減価償却費)

非現金運転資金増減

各期のフリーキャッシュフローを

n

期先まで予測するこ とは実務上不可能であるから,このモデルを利用する際 には,

(1)

企業はゴーイングコンサーンであり,フリー キャッシュフローは無限に続く,(2)フリーキャッシュ フローは,成長率(g)で一定成長する,を仮定した次の 評価式を用いる.

企業価値

(3)

(3)式において,企業価値は当該企業の株式と負債を時価

評価することによって,フリーキャッシュフローは財務 諸表から上記の計算式に基づいて得られる.加重平均資 本コストは,2.1の方法により得られる.よって,これら を

(3)

式に代入すれば,成長率

(g)

を求めることができる.

2.5 最適資本構成に関する既存の手法

ここでは,ダモダランが与える資本構成分析の実務的 フレームワークを最適資本構成に関する既存の手法とし てまとめておく.

2.5.1 実務的フレームワーク

・企業価値の評価式(3)において,フリーキャッシュフ ロー(FCFF)や成長率(g)が

2.4

で示したように与えられ るとき,企業価値が最大となるのは,加重平均資本コス ト(WACC)が最小となるときである.

・加重平均資本コスト(WACC)は,2.1で示したように,

資金調達手段である普通株(E)と負債(D)の構成比率(資 本構成)を変更することによって変わる.

・既存の手法では,株主資本コスト

(k

e

)

や負債コスト

(k

d

)は,それぞれ 2.5.2,2.5.3

において説明するような

形で,資本構成に依存する.

・離散的に資本構成を変化させて,加重平均資本コスト

(WACC)が最小となる資本構成を最適資本構成と定義す

る.

2.5.2 資本構成依存型株主資本コスト

2.2

における通常のベータ

β

currentとレバレッジの関係 を利用して,次に示す無負債ベータ(

β

u

)を求める.

ここで,D/Eは,回帰分析により

β

currentを導出するた めに用いたデータ期間における平均負債比率,Taxは,

税率とする.この無負債ベータ(

β

u

)を利用して,新たな

負債比率に依存したベータ(

β

levered

)は,次で与えられる.

(4)

株主資本コスト(ke

)を与える CAPM

式((2)式)において,

β

currentを(4)式で与えられる

β

leveredで置き換えたものを

資本構成依存型株主資本コストとする.

2.5.3 資本構成依存型負債コスト

資本構成依存型負債コストを導出するためには,次の

(1)〜(3)の手続きを踏む.(1)社債格付けと社債利回り

(税引前負債コスト)との関係を,表 1

に示すような格付

けマトリクスで表現する.格付けマトリクスにより,格 付けを指定すれば税引前負債コストが得られる.(2)

3.2(3)

において具体的に提案する回帰モデル

(

格付けを

被説明変数,負債比率を説明変数とする)のパラメータ を推定する.この回帰モデルを利用すれば,負債比率を 変化させた場合に新たな負債比率の下での格付けを予測 することができる.(3)新たな負債比率に対応する格付 けを

(2)

から予測して,その格付けの社債利回りを

(1)

か ら読み取り(1

Tax)を乗じたものを,新たな負債比率

の下での資本構成依存型負債コストとする.

3. 加重平均資本コストの改良とシミュレーション型 企業価値評価モデル

本節では,まず,2.4で示した最適資本構成に関する 既存の手法における問題点等を指摘したうえで,1つの 改良の方向性として新たなモデルを提案する.

3.1 最適資本構成に関する既存の手法における問題点や 拡張すべき点

ここでは,加重平均資本コストに関する問題点とフ レームワークに関して拡張すべき点を指摘する.

3.1.1 加重平均資本コストに関する問題点

(1) 定義 3

にあるように,税引前負債コストは安全利子

率とクレジットスプレッドの和として構成され,両者共 に期間構造(通常,年限が長くなるにつれて無リスク金 利は高くなり,クレジットスプレッドは拡大する)が存 在するが,既存の手法では期間構造は,

2.5.3(1)

におい て反映されていない.

(2)

バランスシートにおける運用と調達のマッチングが 全く考慮されていないため,最適資本構成における業種 毎の特徴が表現できない.通常,安全性を示す財務指標 として固定比率や固定長期適合率などが示唆するように,

長期の運用(固定資産)を行っている企業は長期の調達

β

levered

= β

u

( 1 + − ( 1 Tax D E ) / ) β

u

= β

current

( 1 + − ( 1 Tax D E ) / )

= × +

FCFF g

WACC g ( 1 )

× −

=

AAA 0.0092

AA+ 0.0095

AA 0.0099

AA- 0.0111

A+ 0.0123

A 0.0135

A- 0.0151

BBB+ 0.0167

BBB 0.0183

BBB- 0.0296

BB+ 0.0409

BB 0.0523

表 1 格付けマトリクス

(4)

(固定負債)で対応すべきである.(1)で示した負債コス

トの期間構造を考慮すると,短期で運用している企業と 長期で運用している企業では期間構造に応じて負債コス トが異なるため,本来は最適資本構成が異なってしかる べきである.

(3) 2.5.3

の資本構成依存型負債コストの導出手続き(2) において,格付けを被説明変数,負債比率を説明変数と する単回帰モデルを利用したが,格付けが負債比率のみ の単回帰モデルでどの程度説明可能であるか定かではな い.

3.1.2 フレームワークに関して拡張すべき点

既存の手法では,最適資本構成(最小となる

WACC)を

導出する際の株主資本コスト(ke

)や負債コスト(k

d

)の元

データとなる株式市場リターン(E(Rm

))や格付けマトリ

クスとして,1通りの値(企業価値評価モデルを適用す る時点,或いは,FCFFを生成した決算期間における平 均値など

)

しか利用していない.株式による調達であれ ば超長期の借換のない調達であり,超長期的な視点から 株式市場リターンとして適切な一定の値を仮定してもそ れ程不具合は生じないかもしれない.しかしながら,負 債による調達であれば通常は満期における借換が発生す るため

(

借換時点における格付けマトリクスは当初のも のと異なる可能性がある),ある決算期間における最適 資本構成(最小となる

WACC)を検討する際にも,格付け

マトリクスの変動を考慮した最適資本構成を導くフレー ムワークに拡張しておく必要性がある.つまり,決算期 初めにおける負債コストを用いた最適資本構成では不十 分であり,決算期間における負債コストの変動を考慮し た最適資本構成を検討する必要がある.3.3では,決算 期間における負債コストの変動を表現するものとして,

決算期初めから

6

ヵ月後における負債コストの分布を用 いたシミュレーション型企業評価モデルを提案する.

3.2 本モデルにおける加重平均資本コストの改良 ここでは,3.1.1において指摘した加重平均資本コス

トに関する問題点(1)〜(3)を克服するような加重平均資 本コストの導出法を示す.

(1)

格付けマトリクスとして,表 1のように,社債利回 りを格付けのみ(1次元)に基づいて区分けして表示する のではなく,格付けと年限の両方(2次元)に基づいて区 分けした表 2に示すような格付けマトリクスを利用する.

表 2では,格付けが,AAAから

BB

までの12通り,年限 は,1年,7年,10年,20年の

4

通りで区分けされてい る.既存の手法において,表 1の格付けマトリクスでは

12

通りの格付けに対応した

12

通りの社債利回りを表示 するにすぎないが,ここでは,格付けと年限の

48

通り の組み合わせに対応する

48

通りの社債利回りが表示さ れることになる(注).

(2) 資産(運用)の満期構成を把握するため,有価証券報

告書を用いて資産を簿価ベースで

1

年,7年,10年,20 年の年限に区分けして,それらの構成比率を確認する.

調達を時価評価

(

通常,負債は簿価を株式は時価で評価 して合計したもの)したものに,先の構成比率を乗じて 年限毎に運用の時価を求める.ここで,運用と調達のマ ッチングを行う.まず,20年の運用には株式による調 達を割り当てる.20年の運用が株式による調達よりも 少ない場合には,株式による調達を

10

年の運用に割り 当てる.更に株式による調達が余る場合には,7年の運 用,1年の運用の順に割り当てる.各年限の運用におい て,株式による調達が割り当てられていない部分に関し ては,対応年限の負債で調達する.

(3)

格付けを被説明変数,負債比率を説明変数とする単 回帰モデルだけではなく,次に示すように,説明変数を 負債比率とフリーキャッシュフローの

2

つとする

2

重回 帰モデルや更に総資本回転率を説明変数に加えた

3

重回 帰モデルも取り上げたうえで,回帰モデルの説明力を十 分に検討する.

単回帰モデル

(5)

ここで,Yは格付け,X1は負債比率を表す.

2

重回帰モデル

(6)

ここで,Yは格付け,X1は負債比率,X2はフリーキャッ シュフローを表す.

3

重回帰モデル

(7)

ここで,Yは格付け,X1は負債比率,X2はフリーキャッ シュフロー,X3は総資本回転率を表す.

実際に回帰分析を行うにあたって,格付けに関しては,

AAAを

15,AA+を 14,・・・,Bを 1

等のように

数値化した.このような数値化よりは,各格付けの倒産 確 率 を 利 用 す る 方 が 適 切 で あ る と も 考 え ら れ る が,+,−まで含めた細かな格付けに対応する倒産確率

Y = β β

0

+

1

X

1

+ β

2

X

2

+ β

3

X

3

Y = β β

0

+

1

X

1

+ β

2

X

2

Y = β β

0

+

1

X

1

1年 7年 10年 20年

AAA 0 0.0069 0.0092 0.0151

AA+ 0.0006 0.0073 0.0095 0.0152

AA 0.0012 0.0078 0.0099 0.0152

AA- 0.0020 0.0087 0.0111 0.0177

A+ 0.0028 0.0096 0.0123 0.0201

A 0.0036 0.0105 0.0135 0.0226

A- 0.0066 0.0122 0.0151 0.0254

BBB+ 0.0095 0.0139 0.0167 0.0283

BBB 0.0125 0.0156 0.0183 0.0312

BBB- 0.0238 0.0270 0.0296 0.0425

BB+ 0.0351 0.0383 0.0409 0.0538

BB 0.0464 0.0496 0.0523 0.0652

表2 格付けマトリクス

(5)

のデータが見当たらないため,ここでは上記の数値化を 採用した.また,サンプルデータ数が少なくなるデメリ ットは認識しつつも,回帰分析は業種毎に行った.これ は,業種の特性として負債が多くなるもの(例えば商社 等)があり,このような業種に属する企業は格付けの高 いものであっても,その負債は格付けの低い他業種に属 する企業よりも多くなることがあり,業種毎に分けて回 帰分析を行わないとその説明力が著しく低くなるからで ある.

3.3 シミュレーション型企業評価モデル

ここでは,3.1.2のフレームワークに関して拡張すべ き点で述べたように,格付けマトリクスの変動も考慮し たうえで,最適資本構成を導くようなフレームワークの 方向性として,シミュレーション型企業評価モデルを提 案する.このモデルにおける最適資本構成は,次の(1)

(3)

に従って求められる.

(1) 株式市場リターン(E(R

m

))としては長期的な視点か

ら,1.5%,3%,4.5%の

3

通りのシナリオを仮定する.

これらのシナリオを作成するために,1980年以降の

TOPIX

とGDP成長率の推移を図 1に示した.

株式市場リターンが

1.5%

のシナリオは,図 1におけ る水平の矢印が示唆するように,長期的に株式市場が低 迷してキャピタルゲインが見込めないものとして,2002 年

3

月における株式配当利回りを想定して定めたもので ある.4.5%は,図 1における右上がりの矢印に相当す る株式市場リターンであり,1980年以降

2002

3

月ま

での

TOPIX

リターンを年率複利で求めた値に近いもの

である.この期間における日本の

GDP

成長率は,

2.5%

程度であり,今後の長期的な経済成長のシナリオとして は高成長シナリオといえる.3%は,両者の中間シナリ オとして与えた.

無リスク金利(ここでは

10

年国債利回りとし,これは

(10)

式に基づいて株主資本コストを求める際に利用され る)と

3.2(1)において示した社債利回り(48

通り)の合計

4 9

個の利回りに関しては,次の

C I R

型モデル

( C o x ,

Ingersoll and Ross[7])を仮定する.

ここで,y(i),y(j)は,49個の利回りの何れかを表し,

y

(i),y(j)はそれぞれ,y(i),y(j)の平均を,

σ

(i)

σ

(j)は,

ボラティリティーを,dB(i),dB(j)は,標準ブラウン運動 の増分を,

ρ

(i, j)は,拡散項の相関係数を表す.過去の利 回りデータから上記モデルのパラメータを推定する.

このモデルでは,ドリフト項に平均回帰性が組み込ま れているため,前年度決算期末時点において利回りが高 くても,今年度の決算期においては,平均回帰性からそ れほど高い利回りとはならないことが考えられるからで ある.事実,図 2によれば,BB格付けの

10

年利回りの 場合には,2002年

3

月末には

8.9%

程度であったものが,

半年後には,

7.6%

の水準にまで低下することをモデル は示唆している.

(2) (1)で推定した 49

個の利回りのモデルを用いて,モ

ンテカルロシミュレーションを行う.ここでは,各利回 り

( 1 0

年 国 債 利 回 り と 格 付 け マ ト リ ク ス

)

に 関 し て ,

10000

個の乱数を発生させて

10000

個のサンプルデータ を生成する.

まず,1つのサンプルデータ(1つの

10

年国債利回り と格付けマトリクス)に関して説明する.フリーキャッ シュフローや総資本回転率は外生的に与えられるから,

離散的に

1

つの資本構成を定めれば,

3.2(3)

で取り上げ た回帰モデルを利用してその資本構成に対応する当該企 業の格付けが定まる.つまり,格付けマトリクスからど の格付けの社債利回りデータを抽出すれば良いかがわか る.また,ここで離散的に定めた

1

つの資本構成は株式 と負債の割合に関するものであるが,負債部分に関して

3.2(2)で示した運用と調達のマッチングに基づいて,

より詳細に

1

年,7年,10年,20年の年限に区分けして

dy y y dt y dB

dy y y dt y dB

dB dB dt

i i i i i i i

j j j j j j j

i j i j

( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( )

( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( )

( ) ( ) ( , )

( ) ,

( )

= − +

= − +

=

α σ

α σ

ρ

500 1000 1500 2000 2500 3000 3500

80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 00 02

TOPIX

0 0

100,000 200,000 300,000 400,000 500,000 600,000

GDP(百万円)

TOPIX GDP

図 1 TOPIXとGDPの推移

0.00 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 0.06 0.07 0.08 0.09 0.10

May-98Aug-98Nov-98Feb-99May-99Aug-99Nov-99Feb-00May-00Aug- 00

Nov- 00

Feb -01

May-01Aug- 01

Nov- 01

Feb -02

May-02Aug- 02

利回り

AA BB AAの平均 BBの平均

図 2 パラメータ推定期間の利回り推移と6ヶ月先の期待値

(6)

これらの割合を求めておく.各年限の社債利回りは,格 付けマトリクスにおいて先に定めた格付けに該当する部 分である.よって,これらの情報から負債部分に関する 加重平均負債コストが求まる.

株主資本コストも,(1)でシナリオとして与えた株式 市場リターンと

10

年国債利回りのデータサンプルを,

負債比率に依存したベータ(

β

levered

)を用いた CAPM

式に 代入して求めることができるので,離散的に定めた

1

つ の資本構成に関する加重平均資本コスト(WACC)が求め られる.離散的に資本構成を変化させて上記の手続きを 踏むことにより,10年国債利回りと格付けマトリクス の

1

つのサンプルデータに関して,最小の加重平均資本 コスト(最適資本構成)を見つけることができる.

同様にして,残りの

9999

個のサンプルデータに関し ても最小の加重平均資本コスト(最適資本構成)を見つけ ることができる.

(3) (2)

の手続きによって,

10000

個のサンプルデータ

に関する最適資本構成が得られているので,横軸に資本 構成比率(ここでは全調達に占める負債の割合で示す)を,

縦軸には最適資本構成が横軸の資本構成比率となる頻度 を棒グラフで示す(図 3を参照).その度数に応じて加重 平均した資本構成を最適資本構成比率とする.

4. 実証分析

日本企業の資本構成が最適資本構成と比較してどのよ うな状態にあるかを具体的に示した研究は,2でまとめ た既存の手法を用いたものですら見当たらない.そこで,

実証分析においては,既存の手法を用いたもの

(

シミュ レーションを行わないもの)をモデル

0

として含む合計

7

つのモデルに基づいて最適資本構成を導出し,各企業の 現在の資本構成における負債が最適資本構成の負債と比 べて少ないかどうかを判断する.この情報に基づいて,

業種毎にその業種に属する企業のなかで,先に述べた意 味で負債が少ない企業の割合を実証する.

他の

6

つのモデルは,3.3(2)で示したマッチングの有

無や

3.3(3)で示した回帰モデルとして何れのモデルを採

用するかによって,表 3のように構築した.本章では,

まず,実証分析において利用するデータを示し,次に

3

つの回帰モデルに基づく格付けの説明力を確認し,最終 的に業種毎の最適資本構成に関して検討する.

4.1 データ

サンプル企業は,東証一部上場企業の内,社債格付け を取得している企業とした.運用と調達のマッチングを 行う際に必要な財務データとしては,2002年

3

月期の有 価証券報告書を利用した.有価証券報告書を公開してい ない企業は,分析対象から除外した.このため,最終的 に

16

業種,167企業を分析対象とした.

資本資産評価モデルにおいて利用する安全利子率とし ては,10年物日本国債利回りの

98

4

月から

2002

3

月までの月次データを用いた.格付けマトリクスに関し ても同様に,1998年

4

月から

2002

3

月までの月次デ ータを用いた.格付けに関しては,2002年

3

月のデータ

(R&I

公表値

)

を利用した.

4.2 3 つの回帰モデルに基づく格付けの説明力

3.2(3)で示した,単回帰モデル(5)式,2

重回帰モデル

(6)式,3

重回帰モデル(7)式に基づく格付けの推定結果

を,それぞれ,表 4〜表 6に示した.回帰モデルの説明 力を表す

R

2に着目すると,単回帰モデル(5)式を用いた 場合に

R

2は表 4にあるように,精密機器業種を除くと 全て

0.5

未満であり,負債比率のみを用いて格付けを説 明(予測)するのは適切でないことがわかる.

2

重回帰モデル(6)式を利用した場合には,R2は表 5に

0 1000 2000 3000 4000

0.85 0.8 0.75 0.7 0.65 0.6 0.55 0.5 0.45 0.4 0.35 0.3 0.25

0.2 0.9

資本構成比率

頻 度

図 3 最適負債比率となるシナリオの頻度

回帰分析モデル マッチングの 有無

シミュレーションの 有無

model 0 単回帰モデル(5)式

model 1 単回帰モデル(5)式

model 2 2重回帰モデル(6)

model 3 2重回帰モデル(6)式

model 4 3重回帰モデル(7)式

model 5 3重回帰モデル(7)式

model 6 3重回帰モデル(7)式

表 3 比較するモデル

業種 R2 サンプル数 β (t値) β1 (t値)

不動産 0.46 10 15.23 5.25 -10.35 -2.61

繊維 0.29 7 13.84 3.32 -9.41 -1.42

精密機器 0.79 7 14.97 10.13 -10.05 -4.29

医薬品 0.40 17 14.75 9.57 -12.35 -3.18

その他製品 0.30 18 12.93 6.95 -9.45 -2.61 輸送用機器 0.40 25 17.20 8.17 -12.14 -3.94

化学 0.18 45 12.01 10.34 -5.82 -3.12

食料品 0.17 34 11.96 11.10 -5.10 -2.60

サービス 0.06 25 10.70 8.02 -3.05 -1.20

小売 0.17 32 10.08 8.10 -4.67 -2.49

陸運 0.01 21 10.68 4.60 -1.36 -0.45

鉄鋼 0.06 9 9.46 3.28 -2.71 -0.64

機械 0.11 32 10.40 8.15 -3.91 -1.93

建設 0.24 21 12.89 6.59 -6.93 -2.42

非鉄金属 0.11 10 11.15 2.88 -5.81 -1.00

電気機器 0.02 52 10.45 9.23 -2.17 -1.13

表 4 回帰分析結果(説明変数1個:モデル0,1)

(7)

あるように,非鉄金属(0.44)と電気機器(0.42)の

2

業種 を除くと全て

0.5

を上回り,相応の説明力が認められる.

つまり,負債比率に加えてフリーキャッシュフローも説 明変数として利用すれば,格付けをかなりの程度説明す ることができる.また,これらの説明変数の係数に関す るt値をみても殆ど全ての業種で

2

を超えており,これ らの係数が有意であることが確認される.

財務の効率性を表す総資本回転率を説明変数として更 に追加した

3

重回帰モデル(7)式を利用した場合には,

単回帰モデル

(5)

式から

2

重回帰モデル

(6)

式へ拡張した 際にみられた程には説明力の改善がみられなかったが,

2

重回帰モデル(6)式を利用する場合よりも僅かではあ るが説明力は向上する.

4.3 実証分析結果と考察

モデル

0

からモデル

6

までの

7

つのモデルに基づく業 種別の平均最適資本構成(企業毎に求めた最適負債比率 の平均値を求めたもの)を,それぞれ,図 4から図 10に 示した.また,業種毎に,現在の負債比率がモデル

4(7

つのモデルのなかで最も信頼できるモデル)を採用して 得られる最適負債比率よりも少ない企業の数とその割合

(括弧内に %

表示)を株式リターンのシナリオ別に表 7に

示した.図 4から図 10に示した平均最適資本構成を,

大きく次の

3

つの観点から検討する.3つの観点とは,

(1)最適資本構成にシミュミレーション型企業評価モデ

0.82 10 15.48 8.68 -12.21 -4.91 1.97E-05 3.76 0.82 7 11.91 4.88 -10.66 -2.81 6.81E-05 3.38 0.79 7 14.95 7.67 -10.05 -3.80 3.11E-07 0.02 0.77 17 9.88 6.96 -4.21 -1.40 4.72E-05 4.77 0.74 18 10.53 8.29 -6.91 -2.94 3.27E-05 5.01 0.66 25 15.81 9.49 -11.27 -4.70 3.34E-06 4.04 0.65 45 10.96 13.91 -5.88 -4.73 2.23E-05 7.40 0.64 34 11.19 15.20 -6.29 -4.72 4.15E-05 6.28 0.58 25 10.59 11.66 -4.90 -2.78 2.03E-05 5.26 0.56 32 9.63 10.35 -4.99 -3.57 2.06E-05 5.02 0.55 21 11.93 7.28 -4.92 -2.19 1.32E-05 4.62 0.54 9 10.29 4.69 -5.19 -1.56 1.27E-05 2.52 0.53 32 10.68 11.31 -6.22 -3.97 3.57E-05 5.09 0.50 21 10.66 5.99 -4.71 -1.89 3.86E-05 3.08 0.44 10 9.42 2.79 -5.07 -1.03 1.47E-05 2.05 0.42 52 11.02 12.43 -4.55 -2.93 6.32E-06 5.79 業種 R2 サンプル数 β (t値) β1 (t値) β2 (t値)

不動産 繊維 精密機器 医薬品 その他製品 輸送用機器 化学 食料品 サービス 小売 陸運 鉄鋼 機械 建設 非鉄金属 電気機器

表 5 回帰分析結果(説明変数2個:モデル23)

不動産 0.89 10 15.78 10.42 -10.29 -4.43 1.92E-05 4.34 -5.60 -1.95 繊維 0.83 7 14.39 2.32 -11.71 -2.41 7.00E-05 3.05 -2.35 -0.45 精密機器 0.94 7 18.73 10.39 -5.80 -2.62 2.51E-05 1.78 -8.69 -2.79 医薬品 0.82 17 8.67 5.93 -6.28 -2.10 4.56E-05 4.98 3.17 1.86 その他製品0.74 18 10.12 5.28 -6.98 -2.87 3.23E-05 4.70 0.51 0.29 輸送用機器0.67 25 16.79 8.05 -11.34 -4.69 3.19E-06 3.72 -0.79 -0.80 化学 0.65 45 11.61 11.29 -6.39 -4.75 2.20E-05 7.27 -0.34 -0.98 食料品 0.65 34 10.50 9.69 -6.37 -4.75 4.22E-05 6.32 0.54 0.88 サービス 0.60 25 9.94 8.76 -5.03 -2.84 2.10E-05 5.33 0.83 0.96 小売 0.57 32 10.06 9.47 -4.34 -2.71 2.08E-05 5.04 -0.56 -0.86 陸運 0.60 21 7.90 2.61 -1.59 -0.52 1.35E-05 4.89 2.22 1.56 鉄鋼 0.62 9 7.07 1.83 -4.60 -1.37 1.34E-05 2.64 3.83 1.01 機械 0.63 32 8.50 7.16 -7.27 -4.92 3.49E-05 5.47 3.60 2.66 建設 0.50 21 10.85 3.60 -4.80 -1.71 3.85E-05 2.96 -0.13 -0.08 非鉄金属 0.55 10 3.69 0.63 -4.77 -0.99 1.80E-05 2.38 6.50 1.17 電気機器 0.42 52 11.03 10.39 -4.55 -2.65 6.32E-06 5.70 -0.01 -0.01 業種 R2 サンプル数 β0 (t値) β1 (t値) β2 (t値) β3 (t値)

表 6 回帰分析結果(説明変数3個:モデル4,5,6)

0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0

不動産 繊維 精密機器医薬品

その他製品輸送用機器

化学食料品サービス

小売 陸運 鉄鋼 機械 建設 非鉄金属電気機器

1.5% 3% 4.5%

図 4 モデル0に基づく最適負債比率

0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0

不動産 繊維 精密機器医薬品

その他製品輸送用機器

化学食料品サービス

小売 陸運 鉄鋼 機械 建設 非鉄

金属 電気機器

1.5% 3% 4.5%

図 5 モデル1に基づく最適負債比率

0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0

不動産 繊維 精密機器医薬品

その他製品輸送用機器

化学食料品サービス

小売 陸運 鉄鋼 機 建設

非鉄金属電気機器

1.5% 3% 4.5%

図 6 モデル2に基づく最適負債比率

0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0

不動産 繊維 精密機器医薬品

その他製品輸送用機器

化学食料品サービス

小売 陸運 鉄鋼 機械 建設 非鉄金属電気機器

1.5% 3% 4.5%

図 7 モデル3に基づく最適負債比率

(8)

ルを用いることの影響,(2)利用する回帰モデルの違い が最適資本構成に与える影響,(3)運用と調達の年限に 関するマッチングの有無が最適資本構成に与える影響,

3

点である.

(1) 最適資本構成にシミュミレーション型企業評価モデ ルを用いることの影響

最適資本構成にシミュミレーションを用いることの意 義を確認するためには,シミュレーションの有無を除く 他の要因は同じであるモデルを比較すればよい.ここで は,

(2)

(3)

の観点から最も精度が悪い場合と最も精度 が良い場合においてシミュレーションの有無による影響 を確認する.前者の場合としてモデル

0

とモデル

1

との

比較を,後者の場合としてモデル

4

とモデル

6

との比較 を行う.このためには,図 4と図 5の比較,図 8と図 10 の比較を行えばよい.

モデル

0

とモデル

1

とを比較した場合,モデル

0

では 陸運業において最適負債比率が

0.75

0.85

と極めて大 きな値となっているのに対し,モデル

1

では

0.6

程度の 水準となっている.これは,3.3(3)に示したように,シ ミュレーションによる利回りサンプル毎にもとめた最適 負債比率をサンプル数に応じて加重平均したものを最適 負債比率としたことの効果が現れていると考えられる.

モデル

4

とモデル

6

との比較では,株式リターンのシ ナリオが

1.5%

の場合に特に現れるが,モデル

4

の最適 負債比率はモデル

6

の最適負債比率よりも僅かながら高 い値を示している.これは,3.3(1)で示した利回りのモ デル化による影響が反映された結果である.BB格の社 債利回りの平均回帰性により,この格付けの負債コスト は,

2002

3

月末時点

(

モデル

6

を利用する場合

)

の負債 コストよりも

2003

年度における負債コストが低く推定 されるからである.

(2) 利用する回帰モデルの違いが最適資本構成に与える 影響

利用する回帰モデルの違いが最適資本構成に与える影 響を検討するために,モデル

1,モデル 3,モデル 5

に 基づく平均最適負債比率(それぞれ,図 5,図 7,図 9に 表示)を比較する.これらのモデルは,採用される回帰 モデルに違いがみられるが,何れのモデルにおいても運 用と調達の年限に関するマッチングは無く,また,シミ ュレーションを行うものである.図 7と図 9は何れの業 種においても概ね同じ程度の最適負債比率を与えている が,図 5の最適負債比率はこれらとは異なり,少し低い 値となっている.

図 5の最適負債比率が図 7や図 9から異なるが,図 7 と図 9にはそれほど大きな差がみられない理由としては,

表 4〜表 6で確認したように,格付けを推定する際に負 債比率のみを説明変数として用いた単回帰モデルの説明 力が極めて低いのに対し,フリーキャッシュフローを説 明変数として追加すれば回帰モデルの説明力が飛躍的に 向上したこと,また,更に説明変数として総資本回転率 を加えても回帰モデルの説明力はそれ程向上しなかった ことが考えられる.最適負債比率の導出を目的とする場 合には,格付けのモデル化は,負債比率とフリーキャッ シュフローの

2

つの財務指標のみを説明変数として用い た

2

重回帰モデルでもそれほど不具合はみられないこと がわかった.

(3) 運用と調達の年限に関するマッチングの有無が最適 資本構成に与える影響

運用と調達の年限に関するマッチングの有無が最適資 本構成に与える影響を検討するために,モデル

4

とモデ

0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0

不動産 繊維 精密機器医薬品

その他製品輸送用機器

化学食料品サービス

小売 陸運 鉄鋼 機械 建設 金属

電気 機器

1.5% 3% 4.5%

図 9 モデル5に基づく最適負債比率

0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0

不動産 繊維 精密機器医薬品

その他製品輸送用機器

化学食料品サービス

小売 陸運 鉄鋼 機 建設

金属 電気機器

1.5% 3% 4.5%

図 10 モデル6に基づく最適負債比率 0.0

0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0

不動産 繊維 精密機器医薬品

その他製品輸送用機器

化学食料品サービス

小売 陸運 鉄鋼 機械 建設 金属

電気 機器

1.5% 3% 4.5%

図 8 モデル4に基づく最適負債比率

(9)

5,つまり図 8

と図 9を比較する.これらのモデルは,

回帰モデルとして

3

重回帰モデルを利用し,シミュレー ションを行うものである.図 8と図 9との比較により,

業種を問わず図 8の最適負債比率が図 9のものよりも相 当高いことが読み取れる.

この理由は,次のように考えられる.3.2(2)で述べた ように運用と調達のマッチングを考慮する場合,負債を

1

年,7年,10年,20年の年限によって調達することに なる.安全利子率とクレジットスプレッドには共に期間 構造が存在するため,その和として表現される社債利回 りに関しても表 2の格付けマトリクスにみられるように 期間構造が存在し,年限が長くなるに従って社債利回り

(負債コスト)は高くなる.モデル 5

では運用と調達のマ

ッチングを考慮しないため,負債コストは全て格付けマ トリクスの

10

年の部分を採用している.これに対し,

モデル

4

では,負債年限に応じた社債利回りを採用して いる.よって,

1

年での調達割合が比較的多い業種にお いては,モデル

4

で採用される負債コストはモデル

5

で 採用される負債コストよりも大幅に低下し,これを反映 して最適負債比率は大きく上昇することとなった.

(4) 現状の負債比率は適切か?

ここでは,企業の負債比率が現状,本研究で提案した 手法,中でもモデル

4

により求めた最適負債比率と比較 してどのような水準にあるかを検討する.表 7は,株式 市場リターンのシナリオ別に,各業種に属する企業のな かで現在の負債比率が最適負債比率よりも低い企業数を まとめたものである.括弧内はその企業数の割合をパー セントで表示したものであり,平均最適負債比率は業種 内企業の最適負債比率の平均値を示したものである.表 7の括弧内の値が

50

を下回る場合は,現在の負債比率 が最適負債比率よりも高い企業が多い業種を示し,逆に

50

を上回る場合は,現在の負債比率が最適負債比率よ

りも低い企業が多い業種を示す.

表 7によると,不動産,繊維,小売,陸運,鉄鋼,建 設等の業種では現在の負債比率は最適負債比率よりも高 いこと,逆に,医薬品,精密機械,非鉄金属などの業種 では現在の負債比率が最適負債比率よりも低いことがわ かる.このような業種毎の現状認識に加えて,表 7に掲 載した業種毎の平均最適負債比率が業種内企業の最適負 債比率の参考値となり,今後,企業が最適な資本構成を 模索するうえで何らかのヒントとして役立てば幸いであ る.

5. まとめと今後の課題

米国においては,加重平均資本コストを利用した企業 価値評価モデルに基づく最適資本構成の議論が実務レベ ルにおいても盛んになされているのに対して,日本にお いて,このような検討はこれまで殆どなされることはな かった.そこで,本論文では,企業価値評価モデルを用 いて日本における最適負債比率を実際に求め,現状の負 債比率が最適負債比率と比較してどのような水準にある かを検討した.また,企業価値評価モデルに関しては,

既存モデルの問題点等を指摘したうえで,それらの改良 方法とモデルのフレームワーク自体に関する

1

つの拡張 を提案した.

分析結果によると,不動産,繊維,小売,陸運,鉄鋼,

建設等の業種では現在の負債比率は最適負債比率よりも 高いこと,逆に,医薬品,精密機械,非鉄金属などの業 種では現在の負債比率が最適負債比率よりも低いことが わかった.

本研究では,企業の最適資本構成を企業価値最大化の 観点から検討したが,業種特有の事情や社会的貢献など はここでの企業価値評価には組み込まれていない.今後 の課題としては,このような数量的に取り扱いにくい要

平均最適負債比率 平均最適負債比率 平均最適負債比率

不動産 3 0.77 0 ( 0%) 0.77 0 ( 0% ) 0.77 1 ( 33% )

繊維 2 0.75 0 ( 0%) 0.75 1 ( 50% ) 0.88 1 ( 50% )

精密機器 5 0.73 2 ( 40% ) 0.73 2 ( 40% ) 0.73 4 ( 80% )

医薬品 11 0.73 10 ( 91% ) 0.75 10 ( 91% ) 0.75 10 ( 91% )

その他製品 9 0.73 3 ( 33% ) 0.78 4 ( 44% ) 0.78 4 ( 44% ) 輸送用機器 15 0.71 6 ( 40% ) 0.78 8 ( 53% ) 0.83 8 ( 53% )

化学 24 0.78 12 ( 50% ) 0.82 17 ( 71% ) 0.83 17 ( 71% )

食料品 12 0.69 8 ( 67% ) 0.73 8 ( 67% ) 0.73 8 ( 67% )

サービス 11 0.68 6 ( 55% ) 0.76 8 ( 73% ) 0.80 8 ( 73% )

小売 12 0.76 4 ( 33% ) 0.84 5 ( 42% ) 0.86 6 ( 50% )

陸運 6 0.78 2 ( 33% ) 0.78 2 ( 33% ) 0.83 3 ( 50% )

鉄鋼 3 0.80 1 ( 33% ) 0.80 1 ( 33% ) 0.80 2 ( 67% )

機械 14 0.78 7 ( 50% ) 0.78 10 ( 71% ) 0.81 10 ( 71% )

建設 13 0.61 2 ( 15% ) 0.59 2 ( 15% ) 0.66 2 ( 15% )

非鉄金属 7 0.74 5 ( 71% ) 0.81 7 (100% ) 0.84 7 (100% )

電気機器 32 0.65 22 ( 69% ) 0.70 29 ( 91% ) 0.78 29 ( 91% )

企業数 企業数 企業数

株式リスクプレミアムのシナリオ 業種

業種に属す サンプル

企業数 1.5% 3.0% 4.5%

表 7 モデル4に基づく最適負債比率と現在の負債比率との比較結果

(10)

因を加味したうえで最適資本構成を検討する枠組みを提 案することである.

元データには必ずしも

48

通りの社債利回りが存在す るわけではない.そこで,欠損データを穴埋めするため,

まず,格付け毎に社債利回りとして

Y a bT

c

(ここで,

Y

は,社債利回り,Tは年限,a, b, cは,パラメータ) の関数形を与え,社債利回りが存在する年限から最小

2

乗法によりパラメータを推定したうえで,欠損している 年限のデータを穴埋めした.次に,格付けに+,−があ るものに関しては,無いもののデータに基づいて線形補 間した.

参考文献

[1] Miller, M. and F. Modigliani. (1961). “Dividend Policy, Growth and the Valuation of Shares,” Journal of Business,Vol.34: 411-443.

[2] Bradley,M., Gregg A. Jarrel and E. Han Kim(1984). “On the Existence of an Optimal Capital Structure: Theory and Evidence,” Journal of Finance,Vol.39: 857-878.

[3]

松浦克巳(2002),「日本企業の財務行動は合理的か−増 資と負債に関する分析−」『金融の新しい流れ 市場化 と国際化』日本評論社

pp.163-185.

[4]

松浦克巳・竹澤康子・鈴木誠(2000),「90年代における 上場企業の負債行動」『証券アナリストジャーナル』

Vol.38,No11,pp.72-85.

[5]

岩村充・福澤恵二

(1995)

,「日本の企業経営における資 本構成の意義と実際」『証券アナリストジャーナル』

Vol.33,No11,pp.13-23.

[6]

A.ダモダラン(2001),コーポレート・ファイナンス 戦略と応用,東洋経済新報社.

[7] Cox,J.,J.E.Ingersoll,andS.A.Ross,“A Theory of the Term Structure of the Interest Rates, Econometrica, 53, (1985), pp.385-407.

[8]

東京大学教養学部統計学教室編

(1991),『基礎統計学Ⅰ

統計学入門』,東京大学出版会.

+

=

参照

関連したドキュメント

The main novelty of this paper is to provide proofs of natural prop- erties of the branches that build the solution diagram for both smooth and non- smooth double-well potentials,

Keywords: continuous time random walk, Brownian motion, collision time, skew Young tableaux, tandem queue.. AMS 2000 Subject Classification: Primary:

Related to this, we examine the modular theory for positive projections from a von Neumann algebra onto a Jordan image of another von Neumann alge- bra, and use such projections

We shall see below how such Lyapunov functions are related to certain convex cones and how to exploit this relationship to derive results on common diagonal Lyapunov function (CDLF)

σ(L, O) is a continuous function on the space of compact convex bodies with specified interior point, and it is also invariant under affine transformations.. The set R of regular

Then it follows immediately from a suitable version of “Hensel’s Lemma” [cf., e.g., the argument of [4], Lemma 2.1] that S may be obtained, as the notation suggests, as the m A

For example, in local class field theory of Kato and Parshin, the Galois group of the maximal abelian extension is described by the Milnor K-group, and the information on

Sierpi´ nski gasket, Dirichlet form, Kusuoka measure, measurable Riemannian structure, geodesic metric, heat kernel, Weyl’s Laplacian eigenvalue asymptotics, Ricci curvature