福岡市天神地区における商業施設間の空間的連鎖関係の分析
関根智子・牟田浩二・高阪宏行・斎藤参郎・中嶋貴昭・山城興介
Analyses of Trip-chaining among Retail Facilities in Tengin Area, Fukuoka City
Tomoko SEKINE, Koji MUTA, Hiroyuki KOHSAKA, Saburo SAITO, Takaaki NAKASHIMA, and
Kousuke YAMASHIROThe purpose of this study is to analyze spatial linkage among retail facilities (stores and buildings) using the trip chaining data of shopping behavior in urban center of Fukuoka City surveyed by Fukuoka University Institute of Quantitative Behavioral Informatics for City and Space Economy. As the results of analyses, it becomes clear that Zone 1 of the Tenjin underground center attracts the most shoppers. It is also seen that there is a kind of hierarchy organized by trip- chaining among department stores and major retail buildings located in Tenjin area. While Mitsukoshi and Daimaru-Elgara are positioned at higher level in the hierarchy, Matsuya Ladies and Fukuoka Shoppers are at lower level.
Keywords
:トリップ連鎖(trip chaining), 買物行動(shopping behavior), 空間連鎖(spatiallinkage),
福岡市(Fukuoka City)1 はじめに
福岡大学都市空間情報行動研究所による「福 岡都心部における消費行動調査」では、外出行 動調査データを収集している。まず、このデー タの内容について説明する。調査は、
2006
年7
月10
日(土)と7
月11
日(日)に行われた。調査地点としては、福岡都心部の天神地区で8 地点、川端地区で2地点、キャナルシティで
1
―――――――
関 根 〒
156-8550
東 京 都 世 田 谷 区 桜 上 水3-25-40
日本大学文理学部地理学科Tel:03-5317-9721
地点、博多駅で1地点の合計
12
地点を選定し、調査表に通行者の外出行動を記入してもらい、
データを取得した。データ取得数は、919 サン プル(人)であった。
調査表には
16
の質問項目がある。その中で、福岡都心部での回遊行動をみるため、立ち寄っ た場所、目的、支出金額、経路、順番を調査し ている。立ち寄った場所としては、大きく交通 施設と商業・サービス施設に分けられ、事前に
389
地点がリストされている。外出行動調査デ ータは、自宅から出発し自宅に戻る形式をとり、自宅の
2
回のカウントを含め最長で34
地点を記録している(斎藤・中嶋・栫井,1999)。
本研究では、上記の
12
の調査地点の内、博 多駅の1調査地点を除く天神地区とその周辺の11
の調査地点で収集した回遊行動データを用 いて、天神地区とその周辺地区での商業施設(店 舗、商業ビル)間の空間的連結を分析する。商業施設間の空間的連結を捉えるために、外 出行動調査データの中から、店舗と商業ビルを 抽出した。すなわち、上記の商業・サービス施 設の内、商店、飲食店、公共施設、宿泊施設、
病院、娯楽施設、商業ビル、商店街を取り上げ た。商業ビルの場合には、商業ビルの名称が広 く知れ渡っており、その名称でデータが記録さ れている場合、商業ビルを利用したとした。そ れに対し、商業ビルの名称ではなく、その中に 入っている商店名で記録されている場合、商店 の利用とした。また、デパートなどの大型店舗 や商業ビルでは、利用した階数までも細かく記 録されているので、階数は考慮しないような処 理を行った。その結果、商業施設として立ち寄 った場所のリストは上記の
389
地点から110
地 点へと減少した。2 単一ストップトリップと多ストップトリ ップの構成割合
外出行動調査で取得された
919
の各外出行動 データに対し、利用する商業施設数(すなわち、自宅を除き訪れた店舗・商業ビル・商店街の数)
を求め集計したところ、図1のようになった。
図1
1
回の外出行動で利用する商業施設数の 分布1
施設のみを訪れる単一ストップトリップが201
人と最も多くみられるが、その構成割合は 意外と低く、21.9%であった。2施設、あるい は、3 施設と少数の施設を訪れる多ストップト リップは、約30%を占めており、単一ストップ
トリップと合わせると、ほぼ半数を構成してい る。それに対し、4 施設以上とかなり多くの商 業施設を訪れる多ストップトリップは43.5%
も占めており、意外に多かった1)。
919
人の利用商業施設総数は3601
である。一人当りの利用施設数を求めると
3.9
であった。したがって、自宅を出発してから帰宅するまで に、商業施設を平均4箇所訪れていることにな る。
3 商業施設の利用者数
商業施設ごとに利用商業施設総数
3601
を集 計し、それらの利用者数をみてみよう。図2a では、商業施設の利用者数を地図化している。本図においてまず注目されるのは、那珂川左岸 の天神地区において、多くの利用者を集めてい る商業施設が多数群化していることである。そ れに対し、その東約
1
キロに位置する那珂川右 岸のキャナルシティと、北東約1
キロに位置す る同じく右岸の川端地区でも、利用者を集めて いる商業施設がみられるが、群化している施設 数は少ない。図2a 商業施設の利用者数の分布
表
2
では、利用者数が多い施設をまとめてい る。最も多く利用されているのは、天神地下街 であり、天神地下街ゾーン1が400
人、同ゾー ン2と同ゾーン4がそれぞれ300
人台、同ゾー ン3が200
人台と続き、上位を占めている。次 いで、三越、ソラリアプラザ、大丸とデパート と大型商業ビルが続き、200
人台を集めている。岩田屋本館、天神コア、ソラリアステージが
100
表
2 商業施設の利用者数
商業施設 利用者数 天神地下街ゾーン 1 400
天神地下街ゾーン 2 397 天神地下街ゾーン 4 357 天神地下街ゾーン 3 273 三 越 266
ソラリアプラザ 240
大丸 205 岩田屋本館 168 天神コア 138 ソラリアステージ 118
イムズ 81 岩田屋新館 78 オーパ 68 マツヤレディース 61
大丸エルガ−ラ 61 福岡ショッパーズ 58
ビブレ 52
図2b 天神地区における商業施設の利用者数 の分布(拡大図)
人台、イムズ、岩田屋新館、オーパ、マツヤレ ディース、大丸エルガーラ、福岡ショッパーズ 専門店街、ビブレは
50
人以上であり、これら が多くの利用者を集めている商業施設である。図2bは、天神地区の拡大図であり、天神地 区における商業施設の利用者数の分布を示して いる。利用者数
300
人以上(紫)の天神地下街 の三つのゾーン(北から順に、ゾーン2、ゾー ン1、ゾーン4)を中核に、東に隣接する大丸 から時計回りに三越、ソラリアプラザ、天神地 下街ゾーン4と200
人台の施設(ピンク)が周 りを囲んでいる。また、利用者数100
人台(薄 ピンク)の天神コア、ソラリアステージ、岩田 屋本館は北東から南西にかけて並んでいる。50 人〜100人未満(橙色)の施設は、それら全体 を取り囲むように周辺に立地している。天神地 下街の東側に多く見られ、北から順に、福岡シ ョッパーズ、マツヤレディース、ビブレ、イム ズ、大丸エルガーラである。それに対し西側は、岩田屋新館の一つである(表2参照)。
4 回遊行動からみた商業施設間の空間連鎖 表3(省略)は、他施設への総発地数(行総 計)と他施設からの総着地数(列総計)とがい ずれも
40
以上をもつ商業施設間のO−D表を 示している。施設はID番号で表しており、ト リップ連鎖数が10
以上のセルは、彩色表示さ れている。O−D表で各施設の列総計(最下段)の欄は、他施設からの流入者数の総計を示す。
各施設の行総計(右端)の欄は、他施設への流 出者の総計を表す。
表3のようなO−D表から連鎖関係を直接に 読み取ることは難しいので、図4は、トリップ 連鎖数が
10
以上の連鎖関係を地図化したもの である。天神地区でのトリップ連鎖関係は、天 神地下街の4
つのゾーン間で強い。特に、ゾー ン1(建物9)が南北とともに東西からも広い 範囲から人々を集めその中心的存在である。ま た、ゾーン2(同4)も南北のゾーンに囲まれ ていることから、多くのトリップ連鎖数を有している。それらに比べ、両端のゾーン4とゾー ン3(同3)は連鎖数が少ないが,ゾーン4(同
14)では東西のデパートからかなりの流入がみ
られた。第
5
位に、流入連鎖数が100
人台の三越(同13)が現れる。天神地下街ゾーン4から 50
人台、ソラリアプラザ(同
12)と天神地下街ゾー
ン1から20
人台、大丸(同15)、岩田屋本館(同
11)、ソラリアステージ(同8)から 10
人台、客が入店してくる。ソラリアプラザと岩田屋本 館は、三越の西側に位置しており(図4参照)、
その方面からの入店が意外に多いのが注目され る。三越は
6
箇所から広く人々を集めており、天神地下街ゾーン1に次いで中心的存在である と考えられる。
第
6
位に、流入連鎖数が100
人台のソラリア プラザが現れる。天神地下街ゾーン1から30
人台、三越とソラリアステージから20
人台、岩田屋本館から
10
人台と、商業ビルの中では最も多くの隣接する施設から利用客が流入して いる。第
7
位は大丸で、80
人台の流入連鎖数を もつ。天神地下街ゾーン4から70
人台、三越 から10
人台の人々が流入する。なお、ソラリアプラザと大丸は三越からも
10
以上の流入連鎖があるので、三越とソラリアプ ラザあるいは大丸の相互間で客の出入りがあり、客の利用関係は対称性をもっている(図4で緑 の矢印で示されている)。それに対し、岩田屋本 館とソラリアステージは三越から
10
以上の流 入連鎖をもたないので、三越へは客を送るが三 越からはそれに見合った客が来ない。このよう な利用関係は非対称的であり、店舗間には従属 関係があると言える(図4で青と赤の矢印)。こ のことから、店舗間は、トリップ連鎖関係を通 じ、一種の階層(ヒエラルキー)を構成してい ると考えられる(Kitamura,2004, 518-522)。
注)
図4 天神地区における店舗間のトリップ連鎖 関係
1)外出行動に関わる用語として、トリップ
trip、
ジャーニーjourney、トラベル
travel
がある。トリップは、交通を測定する基本単位である
(Black, 1981, p.62-63)。この用語は、ある地点
から他の地点へと(例えば、1 街区を)移動す るというような場合に利用される。ジャーニー という用語は、通勤(journey to work)や買物 など自宅を出て自宅に帰る外出行動の全体の行 程を指している場合に用いられることが多い。トラベルもジャーニーと類似した用語である。
参考文献
斎藤参郎・中嶋貴昭・栫井昌邦(1999):消費 者回遊行動からみた大規模再開発による都心 部の構造変化に関する実証的研究,地域学研 究,Vol.29,No.3,107-130.