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競走馬の強さの分析と 馬券ポートフォリオ問題

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(1)

卒業研究論文

競走馬の強さの分析と 馬券ポートフォリオ問題

学籍番号 12D8101016J

秋田 貴成

中央大学理工学部情報工学科 田口研究室

2016

(2)

i あらまし

本研究では対戦成績に基づく Bradley-Terry モデルを用いて競走馬の強さについて論ず る.また,リターンの期待値(回収率)を確認した上でリスクの低減を考えた馬券の組み合 わせについて論ずる.

まず,過去の競走馬の対戦成績から,Bradley-Terry モデルを用いて各競走馬の「強さ」

を推定して,求めた競走馬の推定値と実際の競走馬の成績を比較して評価を行う,

続いて,本研究ではリターンの複数の期待値と組み合わせてリスクの低減を考えた馬券 におけるポートフォリオ最適化問題についても論ずる.馬券を投資の対象とすることによ って,2次計画問題として定式化して,最適解を求める.

キーワード:Bradley-Terryモデル,ポートフォリオ,線形計画問題

(3)

ii

目次

第 1 章 はじめに ... 1

第 2 章 強さをはかる ... 2

2.1 Bradley-Terry モデル... 2

2.1.1 「強さ」について ... 2

2.1.2 BT モデルの意味 ... 3

2.2 勝ち数の分布と尤度 ... 4

2.3 「強さ」の推定 ... 5

2.3.1 推定量に関する注意 ... 7

第 3 章 利用データとその使用方法 ... 10

3.1 競走馬のレースに関するデータ... 10

3.2 BT モデルにおけるデータ ... 10

第 4 章 競走馬の分析 ... 12

4.1 BT モデルによる分析 ... 12

4.1.1 近年のレース結果から ... 12

4.1.2 年度別にみた強さ ... 13

4.1.3 G1 レースに勝つための指標 ... 13

第 5 章 競馬におけるポートフォリオ ... 18

5.1 ポートフォリオ最適化問題 ... 18

5.1.1 オッズについて ... 18

5.2 期待値と分散 ... 18

5.3 馬券的中の共分散を計算する ... 21

6章 おわりに ... 27

6.1 まとめ ... 27

6.2 今後の課題 ... 27

謝辞 ... 28

参考文献 ... 29

(4)

1

第 1 章 はじめに

スポーツには様々な種類のものがある.個人で記録を競うもの,何人かで争って勝負を 決めるもの,チーム間で争って勝負を決めるもの等々,内容やルールは千差万別である が,どのようなスポーツについても,プレイヤーの実力と共に偶然的要素である運が入 る.スポーツの面白さとは偶然的要素である運があることも魅力の1つであると思う.

スポーツの中にある偶然的要素は確率の概念を用いることによって,数学的にとらえる ことができる.つまり,確率的な「モデル」を想定して,スポーツの記録を分析すること によって,実力を運から離して考えることが出来る.

そこで,スポーツのデータについて,統計的分析を行う.本研究では競走馬のレースを 対象とする.競走馬のレース結果を対象にした理由として,データが豊富に存在するにも 関わらず,実際には直観による予想が主で統計的分析があまり深く行われていないと感じ られたためである.今回は2006年から2015年までの中央競馬で行われた10年にわたる データを使用する.

競馬には着順を予想して,その当たりによる配当を得るといった賭け事が存在する.そ こで用いるのが馬券である.馬券にはあらかじめ各競走馬の人気の指標となるオッズとい うものが存在する.オッズはその競走馬を含む馬券がいかに購入されたかで決定される.

つまり,オッズという情報からその馬券の的中する見込みを知ることができる.

今回はそのあらかじめ得られる情報のひとつである各馬券のオッズから,リターンの期 待値とリスクを求めることによって,少しでも回収率を見込んだ馬券の組み合わせについ ての評価を行う.

(5)

2

第 2 章 強さをはかる

テニスやサッカーのように,2人あるいは2つのチームが対戦する多くのスポーツにおい ては,リーグ戦などのように互いに何回か対戦をし,その結果に基づいて各チームの「強さ」

を決めることがよくある.そこで本章では,合理的に個人または,各チームの強さを決める ことが出来るBradley-Terryモデル[1]について説明する.

2.1 Bradley-Terry モデル

2.1.1 「強さ」について

「強さ」というものを考えたときに,一般に,スポーツにおいては「強い」方が必ず勝つ とは限らない.実際「強い」はずのチームが負ける「番狂わせ」がなく,一方がつねに勝つ ものと決まっていれば,ゲームの興味はなくなってしまうだろう.したがって,あるチーム が「強い」ということは,そのチームが必ず勝つということではなく,そのチームの勝つ「確 率」が大きいことを意味すると考える.そこで,勝敗の確率を問題とする.

いま,全部でmチームが互いに何回か対戦するものとし,そのうちのチームiがチーム j に勝つ確率を,

pij (i j;i,j1,2,,m) (2.1) と表す.ここでは引き分けはないものと仮定すると,

1

ji

ij p

p (i j) (2.2)

が成り立つ.

さて,対戦結果に基づいて「強さ」を計ることを考える前に,これらの確率から「強さ」

というものが一義的に定められるための条件について議論しておく.というのは,たとえば

3

m として,

13 31

32 23

21 12

2 1 2 1 2 1

p p

p p

p p

(2.3)

という関係が成り立つ場合は,チーム21より強く,32よりも強く,13より強 い,いわゆる「三すくみ」の状態になって,3チーム間の「強さ」の順序さえ簡単には決め られなくなってしまうからである.

(6)

3

実は,各チームの「強さ」が一義的に定められるためには,それらの確率の間に単に上記 のような不等式が成立してはならないというだけでなく,より強い関係が成り立たなけれ ばならない.そのための自然な条件として考えられるのは,各チームに対応してm個の「強 さ」となる量1,2,,mが存在して,全てのi jの組み合わせに対し,確率pijが,

j i

i

pij

(i j) (2.4)

と表されるものと想定する.あるいは,同じことであるが,

j i ji ij

p p

(i j) (2.5)

が成立するものと想定することである.このとき,iはチームiの「強さ」を表すものと解 釈できる.この想定は,Bradley and Terry(1952)によるもので,Bradley-Terryモデル

(以下,BTモデル)と呼ばれる.

2.1.2 BT モデルの意味

BTモデルを導くには,いろいろな考え方があるが,そのひとつは次のようなものである.

いま,チームi jが「勝負」を決めるのに,直接には対戦せず,別のチームkとの対戦結 果によって決めることにする.つまり,チームi jに勝つことを「i j」と表すことに して,ikk jならば,i jに「勝った」ものとし,ikk jならば,j

iに「勝った」ものとする.また,ikjkまたはikj kのときは「引き分 け」として,同じことを,「勝負」がつくまで続ける.

このとき,チームi jに「勝つ」確率と「負ける」確率の比はpikpkj : pkipjkであるか

ら,結局,チームi jに「勝つ」確率は,

jk ki kj ik

kj ik

p p p p

p p

(2.6)

となる.

さて,チームi jkの間に「カモ・苦手」関係がないということは,i jが直接対 戦したときi jに「勝つ」確率が,このようにkを介してi jの「勝負」を決めるとき

i jに「勝つ」確率に等しいことを意味するものと考えられる.つまり,このときには,

jk ki kj ik

kj ik

ij p p p p

p p p

(2.7)

すなわち,

(7)

4

jk ki

kj ik ji ij

p p

p p p

p (2.8)

という関係が成り立つ.

いま,すべてのi jkについて上記の関係が成立するものとすれば,

mi im

i p

p

(i 1,2,,m1) m 1 (2.9)

とおくとき,すべてのi j (i j)について,

j i jm mi

mj im ji ij

p p

p p p p

(2.10)

が成立する.こうして,式(2.5)が得られる.

式(2.5)はまた,

kj ik ji ki jk

ijp p p p p

p (2.11)

と書き直すことができる.この式は,3チームがそれぞれ1回ずつ勝負したとき,i j k

j k iという形の「三すくみ」が起こる確率が等しいことを意味している.もし 本当に「三すくみ」的な状況があればこれらの確率の一方が他方より大きくなる.したが って,式(2.11)はそのような状況がないことを意味する.

2.2 勝ち数の分布と尤度

mチームの間で,何回か試合が行われたとき,その結果から各チームの「強さ」iを推

定する問題を考える.いま,チームijの間の試合数をnij(nji)とし,i jに対する勝 ち数を確率変数

Xij (i j;i,j1,2,,m) (2.12) で表す.引き分けはないものと仮定したから,

) (i j n X

Xij ji ij (2.13)

となる.

ここで,Xij2項分布B(nij,pij)に従うものとすれば,

(8)

5

ijxij jixji

ji ij

ij ij

ij p p

x x x n

X ! !

Pr ! (xij 0,1,,nij) (2.14)

となる.したがってそれらの同時確率は,



j i

x ji x ij ji ij

ij ij

ij

ji

ijp

x p x m n

j i j i x

X ! !

, ! , 2 , 1 ,

;

;

Pr (2.15)

と書かれる.

さらに,BTモデルが成り立つときには,式(2.15)は,



m

i t i j

i

n j ji i

ij ij j i

n j i

x j x i ji ij

ij ij

ij

i ij

ij ji ij

x x

n x x m n

j i j i x X

1

1

!

!

!

!

! , !

, 2 , 1 ,

;

; Pr

           

(2.16)

となる.ここで,

m

i j

ij

i x

t (2.17)

はチームiの総勝ち数である.

式(2.16)を未知母数 (1,2,,m)の関係とみなすとき,それを尤度(関数)と呼ぶ.

未知母数に関係のない部分をconst.とおき,あらためて確率変数を含む形に書けば,いま の場合の尤度は,



m

i T i n

j i

i ij

1 j

i

const.

L (2.18)

となる.つまり,この場合の尤度は個々のXijを明示的に含まず,各チームの 総勝ち数

m

i j

ij

i X

T (2.19)

だけの関数として表される.換言すれば,BTモデルのもとではT1,T2,,Tmが十分統計

量となる.逆にT1,T2,,Tmが十分統計量となるのはBTモデルが成り立つ場合に限ると いうことも証明できる.すなわち,この場合に各チームの「強さ」を求めるためには,試合 数のほかには各チームの総勝ち数を知ればいいことになる.

2.3 「強さ」の推定

「強さ」 (1,2,,m)の推定に最尤方程式を用いる.つまり,式の尤度を最大に

(9)

6

する (1,2,,m)を求めて,に対する推定量とする.

ところで,式(2.4)のpijの値はを定数倍しても変化しないから,iの値を一義的に定 めるためには何らかの基準化が必要となる.そのために,kを適当な定数として,

k

m

i

i

1

(2.20)

とおく.

この場合の最尤方程式の解はラグランジュの未定乗数法によって定められる.すなわち,

式(2.18)の対数(対数尤度)を,

const.

log log

log

1

i j

j i

ij i

m

i

i n

T L

l (2.21)

とし, をラグランジュ乗数とすれば,

0

1

m

i i i

k

l

(2.22)

0

1

m

i

i k

l

(2.23)

より,

) , , 2 , 1 ( ˆ 0

ˆ

ˆ n i m

T

i

j i j

ij i

i

   

(2.24)

k

m

i

i

1

ˆ (2.25)

が得られる.

ここで,

j i

i

pij

ˆ ˆ ˆ ˆ

(i j;i,j1,2,,m) (2.26) とおけば,式(2.24)から,

i j

i ij ij

i n p

T ˆ ˆ (i1,2,,m) (2.27) となる.これをすべてのiについて加えれば,

(10)

7







j i

ij

i i j

i

ji ij ij j i

ij m

i i

k n

p p n n T

   

    ˆ ˆ ˆ

1

(2.28)

となり, 0となることがわかる.したがって,最尤方程式は,

i j

i j i

i

ij T

n

ˆ ˆ

ˆ (i1,2,,m) (2.29)

k

m

i

i

1

ˆ (2.30) となる.

この方程式を解くには,次のようにするのが簡単である.式は,

i i i

j i j

ij ij

n T

n ˆ ˆ ˆ

(i1,2,,m) (2.31)

と書くことができるので,2(0) (0)

) 0 ( 1 ) 0

( ˆ ,ˆ , , ˆ

ˆ m

を適当な1組の初期近似値として,

まずこの左辺の和に対する近似値

i

j i j

ij i

r n

) 0 ( ) 0 ( )

0 (

ˆ

ˆ

(i1,2,,m) (2.32) を計算する.そして,

) 0 ( ) 1

ˆˆ ( i

i

i r

T

(2.33)

とおいて,式を満たす新しい近似式ˆi(1)を次式によって求める.

m

j j i i

k

1 ) 1 ( ) 1 ( )

1 (

ˆˆ ˆ ˆˆ

(i1,2,,m) (2.34)

式(2.32)~(2.34)を,ˆi(k)(i1,2,,m)の値が収束するまで繰り返すことでを推定でき

る.

2.3.1 推定量に関する注意

まず,nij= 𝑛,つまり,すべてのチームが同じ回数だけ対戦する場合について注意してお

こう.このときは式(2.29)から

(11)

8 Ti− 𝑇𝑘=𝑛(𝜋̂𝑖− 𝜋̂𝑘)

𝜋̂𝑖+ 𝜋̂𝑘 + ∑ 𝑛(𝜋̂𝑖− 𝜋̂𝑘)𝜋̂𝑗 (𝜋̂𝑖+ 𝜋̂𝑗)(𝜋̂𝑘+ 𝜋̂𝑗)

𝑗≠𝑖,𝑗≠𝑘

が得られる.この右辺は(π̂i− 𝜋̂𝑘) ×(正の量)という形であるから,πiの大きさの順序は勝敗 Ti,あるいは勝率 Ti

𝑛(𝑚−1)の順序と同じになる.したがってこの場合は,勝敗で順位を決める

ことは合理的であると考えられる.

これに対してnijが一定でないときには,強さπjの順位は必ずしも勝率による順位と一致 しない.このことは当然であって,強いチームと多く対戦したチームは勝ち数が多くなく ても,必ずしも弱いことにはならないはずである.しかしながら,この場合でもどの相手 に勝って,どの相手に負けたかは問題にする必要がなく,それぞれの相手との試合数のほ かの総勝数だけで強さが求められることになる.だから番狂わせや金星は考慮にする必要 がない.それは,もし総勝数とそれぞれの相手との対戦数が一定ならば強い相手に勝った ということは,他方では弱い相手に負けたことを意味するので,当チームが強いことには ならないからである.

次に,全勝や全敗のチームがある場合についてふれておこう.いま,チーム1 が全勝だ ったとすれば,x1i= n1j (𝑗 = 2,3, … , 𝑚)であるから,

∑ 𝑛1𝑗= ∑ 𝑥1𝑗= 𝑇1

𝑚

𝑗=2 m

j=2

となる.したがって,方程式(2.29)がi = 1で解をもつためには,n1j> 0のチーム,つまりチ ーム1と対戦したすべてのチームjについて

π

̂1 𝜋̂1+ 𝜋̂𝑗= 1

すなわち,π̂j= 0が成り立たなければならない.このとき,式(2.29)の第j方程式が解をも つためには,Ti= 0となる必要がある.つまり,全勝のチーム1と対戦したチームすべて全 敗でなければ,方程式(2.29)は解をもたない.特に,チーム1と対戦したチーム同士が対戦 していれば解は存在しない.したがって通常の状況では,全勝のチームがあるときは各チ ームの強さは決定できないことになる.

一方,チーム1が全敗だったとすれば,Ti= 0,したがって式(2.29)からπ̂1= 0となる.さ らにこのとき,式(2.29)は

(12)

9

∑ 𝑛𝑖𝑗 𝜋̂𝑖 𝜋̂𝑖+ 𝜋̂𝑗

= 𝑇𝑖− 𝑛𝑖𝑗 (𝑖 = 2,3, … , 𝑚)

j≠i,j≠1

と書き直される.つまり,全敗のチームがあるときには,そのチームの強さは0 であり,

それ以外のチームの強さの計算においては全敗に対する勝利は無視される.

(13)

10

第 3 章 利用データとその使用方法

本研究で使用するデータは,中央競馬で行われたレースのレース結果データとオッズデー タであり,日本中央競馬会の公式データ配信サービスである JRA-VAN が配布しているデ ータを用いる.

3.1 競走馬のレースに関するデータ

競走馬の分析をするにあたり,競走馬のレース結果をデータとして用いる.今回,2006 年から2015年までに中央競馬[2]で行われたレース結果のデータを入手することができた.

1レース分のデータから得られるデータは,レース名,レースの開催年月日,場所,レース 距離,全着順,枠番,馬番,人気,全競走馬名,全騎手名,タイム,オッズなどであり,そ の一例を表3.1に示す.

3.2 BT モデルにおけるデータ

以上のデータを用いてBTモデルによる「強さ」の推定を試みたいわけだが,BTモデル は一対比較法であるので,1レースに2頭以上が同時に出走するレース結果をそのまま利用 することはできない.

そこで,各レースの出走馬の名前と着順さえあればどの馬が何着か分かるので,多数ある データの中から競走馬名と着順だけを取り出す.そして,一対比較の対を作るために,各競 走馬の中から 2 頭を取り出す全組み合わせを考える.その全組み合わせに対して一対比較 をそのレース結果で行うことになる.

3.1 入手可能な競争データの一例(2015111日天皇賞秋)[3]

(14)

11

3.1の例でいうと,ラブリーデイ対ステファノス,ラブリーデイ対イスラボニータ,ラ ブリーデイ対ショウナンパンドラ,…,サトノクラウン対ヴァンセンヌという様に,出走馬 数n = 18,n 2C = 153通りの一対比較を行う.そして,競走馬ごとに,自分自身以外の対戦 相手との勝ち数と負け数をカウントし,n × nの対戦成績表を作る.そのようにして得られ た各競走馬の対戦成績から「強さ」の推定を行う.

ここで,2歳重賞レースに出走した競走馬と,重賞レース経験が少ない3歳馬は強さの計 算から除外した.レースには2歳馬限定,3歳馬限定,3歳馬以上,4歳馬以上のレースが あるが,2 歳馬には 3 歳馬以上の競走馬とレースを行うことがなく,接点がないことにな る.このため,2歳馬と3歳以上の競走馬は間接的に対戦することもないので,BTモデル が成立しないと考えられるからである.

また,強さの推定を行う上で,何頭か全勝の競走馬が現れる場合と全敗の競走馬が現れる 場合があった.しかし,2.3.1で述べたようにBTモデルでは全勝馬が現れた場合には強さ を計算することができない.また,全敗馬も同様に強さの推定値は0となってしまう.そこ で,すべての馬に対して,11敗した架空のdummy馬を用意し,全勝,全敗馬の処理を 施した.この操作の結果,dummy馬以外の対戦成績も変わらず,すべての競走馬の強さを 推定することができる.

(15)

12

第 4 章 競走馬の分析

本章では,第2章で説明したBTモデルを用いて競走馬の強さを推定する.直接対戦して いなくても間接的に強さを比較できるというBTモデルの特徴を利用して,年度を通した強 さ推定を行う.

4.1 BT モデルによる分析

競馬におけるコースには芝,ダート,障害があるが,本研究では芝のみを対象にした.こ れは,芝をコースとしたレースが最も多く,出走馬も多いことによる.また,芝に出走する 競走馬はダートには出走せず,またその逆も然りのためこれもまた間接的にも対戦するこ とがないのでBTモデルが成立しないと考えたためである.

4.1.1 近年のレース結果から

ここで,入手できたレース結果の中で3.2のデータに関する条件,4.1で説明したコース に関する条件の下,2015年の重賞レースに出走経験のある競走馬の対戦結果から強さを,

BTモデルを用いて推定した.上位100頭の強さの値を表4.1に示す.

4.1 によると,強さ推定値第 1 位は強さ推定値 9.834078 でゴールドアクターとなっ た.ゴールドアクターは競馬の目玉のレースでもある有馬記念を制した馬である.2015 度の成績はG1こそ1勝だが,4戦全勝と負けなしで実際にも強いと認識できる馬である.

2位は強さ推定値7.470509でドゥラメンテであった.骨折をして後半レースに参加する ことはできなかったが,500万下の1着から始まり,その後G1である皐月賞,東京優駿を ともに1着で2連勝と底が見えない競走馬である.第3位は強さ推定値6.012632で年度代 表馬と最優秀短距離馬を受賞,6戦全勝し,G13勝と強さを見せつけたモーリスとなっ た.

上位10頭に注目してみると,3歳馬が3頭,4歳馬が5頭,5歳馬と7歳馬が1頭ずつ であった.馬によってタイプはあるだろうが,一般には 4~6 歳までにピークを迎えるとい われている.こうしたなかで,8頭もが4歳以下であった.2015年度は若い馬が台頭して きており,特に,重賞レースで6戦中53着以内に入賞しているリアルスティールや,

G12勝しているミッキークイーン,また,G1で負けを知らないドゥラメンテ,これら 3歳馬は今後の競馬界を引っ張る新しい競走馬とも期待できる.

また,求めた強さの順位は必ずしも勝率とは一致しないことに注意されたい.例えば,モ ーリスはG13勝し6戦全勝と勝率も100%となっているが,第3位である.これは3 馬が強い年で,1 負こそあったが 3歳限定レースなどでその強い馬達にも勝った第 2位の

(16)

13

ドゥラメンテが評価されたためである.これは間接的にも強さを推定できるBTモデルの特 徴である.

4.1.2 年度別にみた強さ

今度は年度別に推定した強さを比較してみる.2006 年度から 10年間に及ぶ各年度の上 10頭の強さを表4.2示す.

各年度の1位を見てみると,やはりどの馬もG1を制した名だたる競走馬ばかりである.

中でも2006年度のディープインパクトが強さ推定値32.70405と圧倒的な強さである.実 際にこの年のディープインパクトの成績は,失格となった凱旋門賞を除いて G1 4 勝,

G21勝,なんとすべて1番人気の全戦全勝であった.

また,ウォッカに着目してみると,2007年度の10位から2008年度に3位,2009年度 1 位と年々ランキングと強さ推定値を上げており,ウォッカの成長が見て取れる.実際 にもウォッカは2007年に日本ダービーの1勝,2008 年に安田記念,天皇賞(秋)の2勝,

2009年にヴィクトリアマイル,安田記念,ジャパンカップの3勝している.

4.1.3 G1 レースに勝つための指標

競馬の最高峰のレースであるG1.そこで勝つためにはどの程度の強さが必要なのか,こ こで考えてみる.ここで2011年から5年間でそれぞれG1を制した競走馬の強さを表4.3 に示す.

あるレースにおいて比較してみると,例えば有馬記念では平均値7.3697と全G1レース の中でも圧倒的に高い値をだしており,G1最高峰のレースである有馬記念を制するにはそ の年度の最強クラスの馬でなければ勝てないということがわかる.4番人気で平均値とは程 遠い2014年度のジェンティルドンナの1.44という値は結果的には有馬記念において番狂 わせの優勝だったとも捉えることができる.

全体的に強さの平均値を見ると,各G1レースによってかなりばらつきがあることが分か る.中には,その年の最強クラスの馬が制して平均値を底上げしてしまっているレースもあ るが,ヴィクトリアマイル,エリザベス女王杯,桜花賞,オークス,秋華賞といった牝馬限 定のレースの平均値が全体的に比べて低いことがわかる.これは,人間でも一般に女性の方 が男性より力が弱いように,牝馬は牡馬に比べて弱いといわれているが,こうした数値から もそういったことがわかる.これは牡馬のG1レースである皐月賞,日本ダービー,菊花賞 と比較しても,平均値の違いは明らかで,牝馬は牡馬に比べて弱いということがはっきりと わかる.また,その中でも2012年度ジャパンカップ,秋華賞,オークス,桜花賞で優勝し たジェンティルドンナは牡馬と比べても,決して弱いとは言えない.

では,G1レースに必要とされる最低の強さはどれくらいか.平均でみるとヴィクトリア

マイルの0.2376であるが,4歳馬以上の牝馬でなくては出走できず限定されている.次の

NHKマイルカップも3歳馬のみのレースと限定されている.では,次はどのレースであろ

(17)

14

うか.天皇賞(春)の 1.0961 であるが,レース距離が 3200m と長距離のレースとなってい る.競走馬には性別など距離適性というレース毎の得意不得意がありそうなので,一概に G1 レースに必要とされる最低の強さを断言することは難しい.どうやら平均値の低い G1 レースは,条件があったりそこに出走してくる競走馬の数も全体的に少なかったりするの で,平均値も低くなると考えられる.

(18)

15

4.1 2015年度の強さ 上位100

順位 競走馬名 強さ 順位 競走馬名 強さ

1 ゴールドアクター 9.834078 51 アンドリエッテ 0.367798 2 ドゥラメンテ 7.470509 52 トーホウジャッカル 0.359197 3 モーリス 6.012632 53 ロサギガンティア 0.35903 4 ミッキークイーン 2.654638 54 ラストインパクト 0.355835 5 リアルスティール 2.618609 55 エキストラエンド 0.353014 6 サトノアラジン 2.17025 56 ディアデラマドレ 0.352324 7 ラブリーデイ 1.852896 57 リアファル 0.342862 8 エイシンヒカリ 1.671597 58 カレンミロティック 0.341298 9 エアロヴェロシティ 1.634614 59 カムフィー 0.341089 10 イスラボニータ 1.617042 60 スピルバーグ 0.340171 11 ディサイファ 1.424839 61 ダコール 0.336132 12 ステファノス 1.39578 62 クラレント 0.33167 13 ミトラ 1.283911 63 クルミナル 0.330473 14 ロゴタイプ 1.271366 64 トーセンスターダム 0.329815 15 キタサンブラック 1.161243 65 トーセンビクトリー 0.324412 16 ヌーヴォレコルト 1.128098 66 ブライトエンブレム 0.324263 17 フィエロ 1.095784 67 スマートレイアー 0.322463 18 マリアライト 1.039606 68 サンライズメジャー 0.308655 19 アンビシャス 0.887666 69 ヴェラヴァルスター 0.307013 20 フルーキー 0.814254 70 ベルーフ 0.303888 21 サトノラーゼン 0.812183 71 ヒストリカル 0.303501 22 ショウナンパンドラ 0.804473 72 パッションダンス 0.299625 23 サウンズオブアース 0.779686 73 タッチングスピーチ 0.299286 24 キズナ 0.758899 74 ジュンツバサ 0.294817 25 デニムアンドルビー 0.752769 75 コウエイオトメ 0.290352 26 ビッグアーサー 0.739719 76 ファタモルガーナ 0.281333 27 エアソミュール 0.644811 77 ルージュバック 0.280551 28 ホッコーブレーヴ 0.592741 78 シベリアンスパーブ 0.280242 29 アルビアーノ 0.59161 79 ストレイトガール 0.280073 30 ラキシス 0.557378 80 ケイアイエレガント 0.273661 31 タンタアレグリア 0.536279 81 メイショウカドマツ 0.264221 32 ウイングチップ 0.526927 82 グランデッツァ 0.263396 33 ダノンプラチナ 0.518145 83 カレンブラックヒル 0.254729 34 フェイムゲーム 0.456786 84 ウインバリアシオン 0.24846 35 グランシルク 0.454683 85 プロモントーリオ 0.247251 36 ゴールドシップ 0.444797 86 ウインリバティ 0.244658 37 マイネルフロスト 0.431482 87 クインズミラーグロ 0.237865 38 カフェブリリアント 0.418432 88 ダンスディレクター 0.237228 39 トゥインクル 0.414364 89 レッドデイヴィス 0.233563 40 アイスフォーリス 0.410715 90 アースソニック 0.226672 41 クイーンズリング 0.407843 91 スーパームーン 0.218848 42 ミュゼエイリアン 0.397295 92 サクラゴスペル 0.214153 43 ウリウリ 0.393944 93 ナカヤマナイト 0.205708 44 サトノクラウン 0.388644 94 クラリティスカイ 0.205522 45 ヴァンセンヌ 0.384909 95 ダービーフィズ 0.20372 46 ワールドエース 0.377969 96 ミッキーアイル 0.202942 47 アドマイヤデウス 0.374703 97 アルフレード 0.19704 48 マキシマムドパリ 0.374119 98 アースライズ 0.192659 49 レーヴミストラル 0.369473 99 トーセンレーヴ 0.192614 50 アルバート 0.368158 100 サトノノブレス 0.185407

参照

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