目 次
[
巻 頭 言]
透析医療の質を守るために 日本透析医会副会長 吉 田 豊 彦… 1
[
透析医療におけるConsensus Coference 2008]
CKD
の概念 大阪大学大学院医学系研究科老年・腎臓内科学 今 井 圓 裕… 3血圧・蛋白尿の管理 獨協医科大学循環器内科 松 岡 博 昭… 10
血清脂質の管理 大阪市立大学大学院医学研究科代謝内分泌病態内科学 庄 司 哲 雄 西 沢 良 記… 15
uremic toxin
の管理 名古屋大学医学部附属病院予防医療部 丹 羽 利 充… 22貧血の管理 大阪府立急性期・総合医療センター腎臓・高血圧内科 椿 原 美 治… 27
慢性腎臓病患者における電解質の管理
昭和大学医学部内科学講座腎臓内科学部門 秋 澤 忠 男 鈴 木 博 貴… 37 透析非導入とその後の治療およびケア 札幌北クリニック 大 平 整 爾… 41
[
医療安全対策]
透析機器の大規模地震防災対策とその検証
―
新潟県中越沖地震を被災して―
新潟厚生連刈羽郡総合病院透析室 山 田 勝 身 倉 持 元 長 谷 川 伸 小 林 勲… 48
大規模地震災害時の透析看護師の役割と業務体制
―
新潟県中越沖地震を被災して―
新潟厚生連刈羽郡総合病院透析室 坂 井 恵 子 倉 持 元… 53 透析液の細菌学的評価 矢吹嶋クリニック 政 金 生 人 五十嵐 洋 行… 61 診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業 虎の門病院 山 口 徹… 68
[
実 態 調 査]
第
12
回透析医療費実態調査報告日本透析医会 適正医療経済部会/同常任理事会 杉 崎 弘 章 太 田 圭 洋 大 平 整 爾 小 野 山 攻 隈 博 政
鈴 木 正 司 山 川 智 之 吉 田 豊 彦 同適正医療経済部会 鈴 木 満 小 野 利 彦 戸 澤 修 平 宮 本 孝
同常任理事会 山 㟢 親 雄… 74 北海道内の高齢者透析患者における感染症の実態
北海道高齢者透析研究会ワーキンググループ 伊 丹 儀 友 大 平 整 爾
久木田 和 丘 戸 澤 修 平 上 田 峻 弘…120 透析用血管留置カテーテルの実態調査
福岡赤十字病院腎センター 四 枝 英 樹 池 田 潔…125
[
臨 床 と 研 究]
シナカルセト発売後の副甲状腺摘出術の適応について
名古屋第二赤十字病院移植・内分泌外科 冨 永 芳 博…129
日本透析医会雑誌
Vol. 24 No. 1 2009低所得国に対する末期腎不全医療提供の可能性 横浜第一病院 日 臺 英 雄
湘南工科大学 山 下 明 泰…134
腎性全身性線維症
群馬大学附属病院核医学科 対 馬 義 人…140
広い穿刺部位を維持する肘窩二次内シャント作製法
―
表在静脈非剥離法―
大野記念病院泌尿器科 杉 浦 清 史 山 崎 健 史
杉 田 省 三 吉 本 充 和 田 誠 次…145
切迫破裂となった人工血管内シャントのグラフト動脈瘤の経験
大野記念病院泌尿器科 杉 浦 清 史 山 崎 健 史 杉 田 省 三 吉 本 充 和 田 誠 次 同内科 稲荷場ひろみ…148
[
そ の 他]
『透析医療とターミナルケア』のエッセンスと感想
岡山済生会総合病院腎臓病センター 平 松 信…151
[
各支部での特別講演]
講演抄録qqq20年度
《愛 知》 透析医は患者・社会にどう立ち向かうか
―
良質の透析・命の終焉・社会への願い―
札幌北クリニック 大 平 整 爾…156《宮 城》 透析患者における運動療法の必要性と有用性
東北大学大学院医学系研究科機能医科学講座内部障害学分野 金 澤 雅 之…158
[
透析医のひとりごと]
青森県であまり腹膜透析が受け入れられない意外な理由について
青森県透析医会(鷹揚郷腎研究所青森病院) 齋 藤 文 匡…160
小さなクリニックのささやかな国際交流
石川県透析連絡協議会(パークビル透析クリニック) 佐 藤 隆…162
[
た よ り]
千葉県支部だより 千葉県透析医会 会長 吉 田 豊 彦…164
鹿児島県支部だより 鹿児島県透析医会 会長 前 田 忠…166 常任理事会だより 日本透析医会 常務理事 山 川 智 之…169 投稿規定 175
編集後記 青 木 正…176
お知らせ
学会予定(H 21. 5月~8月) 172
平成21年度透析療法従事職員研修のお知らせ((財)日本腎臓財団) 171
今現在,日本は医療崩壊と百年に一度といわれる経済危機の真っ只中にあります.
医療崩壊は,麻酔科から始まり,小児科,産婦人科の崩壊が引き続き,現在では内科,外科から 全科にわたっています.原因は色々といわれていますが,大きく分けて三つに分けられます.すな わち「医療費抑制政策」と「新医師臨床研修制度」と「医療事故・医療訴訟」との三つです.一方,
透析医療のほうはどうなっているかとみてみますと,透析も例外ではなく,医療崩壊の兆しがみら れております.まず第一に透析医不足が深刻です.透析医不足のため,公的病院の透析室が閉鎖あ るいは縮小しています.また民間の透析施設でも,透析医が高齢化し,跡継ぎがないまま途方に暮 れているところが多く,患者が
50~60
人以下の施設では,経営的にも成り立たず順次に閉鎖して いく方向にあります.現に私の周辺でも,透析医不足と1
日1
シフトでは赤字診療部門になるため 閉鎖した公的施設が二つあり,縮小した施設が一つあります.民間施設も二つ他施設に業務引き継 ぎを依頼し止められました.透析医になり手が少ないのは,1人では病気もできず,応援医師がい ない場合は,365日中52
日(1週間に日曜日のみ)しか休みが取れない過重労働が原因と思われま す.第二に保険改定毎の透析医療費の引き下げに対する対策として,透析施設の中で唯一,経営効率 の良い無床診療所(サテライトを含む.)に患者を集中し,医療費を効率化する方策がとられてお りますが,これは患者の高齢化と合併症による収容先が不足する事態を招きました.現在,全国で 入院受け入れ先確保は深刻な問題となっており,ここでも医療崩壊が進んでおります.
次に透析医療のコストパフォーマンスについて考えてみます.透析の設備投資は,①水処理装置,
②供給装置,③ベッドサイドコンソール,④透析液排液処理装置などが必須ですが,これらをいか に効率化するかで,コストが決まってきます.すなわち
1
台のベッドサイドコンソールで何人分の 治療をできるかでコストが決まってきます.日本以外の全世界の透析は,個人用の処方透析が行わ れておりますが,わが国は,多人数透析が主体です.これは透析医療費の節約上,必然的に選択さ れてきた治療形態だと考えられます.したがって,現在主体の多人数透析以上のコストパフォーマ ンスに優れた透析方法は見当たりません.一部には,limited care unit(LCU)の保険収載をすべきだという意見もありますが,これは透析 医療の質を一気に引き下げ,荒廃させる原因になると思います.今いわれている
LCU
は老人保健3
施設や高齢者専用賃貸住宅の通院透析を助けるためのもので,昭和50
年代に家庭透析と一緒に 保険採用を要望されたLCU
とはまったく異なっています.当時のLCU
は,家庭透析とまったく同 じで,患者自身を教育し,透析の勉強をしてもらい行うものでした.すなわち,透析機械の準備,回路の設定,自己穿刺,自己返血,透析終了後の整備などを全部患者自身が行えるようにスタッフ
[巻 頭 言]
透析医療の質を守るために
(社)日本透析医会
副会長
吉田豊彦
が多大な時間と労力をかけて教育訓練した上で始めて
LCU
が成り立ちました.これに対し,現在 要望されているLCU
は,臨床工学技士または看護師がグループ透析を行うもので,本来のLCU
と はまったく違ったものです.これくらい透析医療の質を落とすものはなく,絶対に保険収載すべき ものではないと信じています.以上,深刻な透析医不足と透析患者収容施設不足の現状と,透析のコストパフォーマンスは多人 数透析が一番優れていること,および安易に
LCU
などは導入してはならないことについて述べま した.要は透析医療の質を守るためには,透析医療費をこれ以上削減されないように全力投球する ことだと思います.要 旨
慢性腎臓病は蛋白尿,血尿などの腎障害の存在,ま たは腎機能が
GFR 60 ml/min/1.73 m
2未満の状態が3
カ月以上続く病態と定義され,持続する尿異常,腎機 能低下,末期腎不全,維持透析までの広い範囲を含む ものである.CKD患者は末期腎不全に至るリスクが 高いが,心血管病を発症するリスクも高い.わが国に は約1,330
万人の透析を受けていないCKD
患者がい ると推定される.検尿と血清クレアチニン測定によるCKD
の早期発見が重要で,かかりつけ医と腎臓専門医との診療連携で早期に治療する.
1 慢性腎臓病(CKD)の定義
慢性腎臓病(chronic kidney disease; CKD)は
2002
年にアメリカのNational Kidney Foundation(NKF)
によって導入された概念である1)
.CKD
の定義は,蛋 白尿や血尿などで示される腎障害が3
カ月以上続くか,糸球体濾過量(glomerular filtration rate; GFR)60 ml/
min/1.73 m
2未満が3
カ月以上続くことと定義され,その原疾患に関しては問われない.CKDのステージ 分類は表 1, 2に示すように
GFR
で分類される.本分[透析医療における Consensus Conference 2008]
CKD の概念
今井圓裕
大阪大学大学院医学系研究科老年・腎臓内科学
key words:心血管病,蛋白尿,GFR,脳卒中,心筋梗塞
Definition, prevalence and complication of chronic kidney disease Department of Nephrology, Osaka University Graduate School of Medicine Enyu Imai
表 1 CKD の定義 以下の状態が3カ月継続する.
1. 腎障害の存在が明らか (1) 蛋白尿の存在,または
(2) 蛋白尿以外の異常病理,画像診断,検査(検尿/血液)等,で腎障害の存在が明らか.
2. GFR 60未満
以下の式から計算で求める.
GFR(ml/min/1.73 m2)=194Cr-1.094×Age-0.287×(0.739,女性の場合)
表 2 CKD のステージ分類
病 期 定 義 GFR
(ml/min/1.73 m2)
1 腎症はあるが,機
能は正常以上 ≥90
2 軽度低下 60-89
3 中等度低下 30-59
4 高度低下 15-29
5 腎不全 <15
注) 透析患者の場合にはD,移植患者の場合にはTをつける
類で問題となるのは,腎疾患の進行に重要であるとい われる尿蛋白量がステージ分類に含まれていないこと である.CKDの定義は当初,NKFの
Kidney Disease Outcomes Quality Initiatives(K/DOQI)の ガ イ ド ラ
インに掲載された.その後,Kidney Disease : Improv-ing Global Outcomes(KDIGO)に拡大され,国際腎
臓学会,国際腎臓財団連合の支援により発展して全世 界的な診断基準となり,CKDの早期発見と早期治療 ができるように,国際的な運動として行われるように なった2).
2 CKD の概念
CKD
はその定義から慢性の腎障害をすべて含み,検尿異常から腎機能低下,保存期慢性腎不全,末期腎 不全,透析まで,広く包括する概念である.従来はそ れぞれが,かかりつけ医,腎臓専門医,透析医による 点の医療であったものを線の医療とし,病診連携を円 滑に行うことを目指したものである.また,診断基準 を簡単にし,医師だけでなく,看護師,薬剤師,栄養 士,臨床工学技士,臨床検査技師などのコメディカル によるチーム医療を円滑にし,患者にも
GFR
という 共通の物差しで腎臓病を理解できるようにして,腎臓 病診療を簡素化し,標準化したことが,CKDという 概念の導入の第一の意義である.もう一つの意義は,CKD患者が末期腎不全に至る リスクが高いだけではなく,心血管病(cardiovascular
disease; CVD)により死亡するリスクも高いことを示
し,CVDの早期発見・予防を目指したことである.図 1に示すように,従来腎臓内科医が診てきた,蛋白 尿出現,腎機能低下,慢性腎不全,尿毒症から透析導 入という腎疾患の進行だけではなく,アメリカの循環 器内科医によって指摘されたように,CKDのいずれの 過程からも
CVD
により死亡する可能性が高いことが 示され,CKD患者のCVD
が注目されるようになった.この
2
点によりCKD
の概念の導入は,腎臓病診療 を,従来の腎炎治療中心から生活習慣病対策の一つの 柱へとパラダイムを転換した.実際,欧米において,CKD
の原因はほとんどが糖尿病・肥満・高血圧であ る.これらの生活習慣病を早期に発見するのに最もい いインディケーターが,蛋白尿と腎機能の低下である ことが,CKDという概念が導入されたことに関連し ていると思われる.また,患者へのメッセージも用意されており「CKD is common, harmful, but treatable」
である.
3 欧米における CKD の現状
2004
年のアメリカにおける新規に腎代替医療を必 要とする末期腎不全患者数は年間104,364
人であった.これは人口
10
万人あたり339
人であり,2003年より0.9% 減少した.アメリカにおける腎不全医療は成功
しているように見える.しかし,2004年現在,依然と して透析患者数は増加し,335,963人が維持透析を受 けている3).1999~2004
年に行われたNational Health and Nutrition Examination Survey(NHANES III)によ
ると,アメリカのCKD
罹病率は人口の13.1% であり,
ステージ別の人口は,ステージ
1
が360
万人(1.78%),
ステージ2
が650
万人(3.24%),ステージ 3
が1,550
万人(7.69%),ステージ 4
が70
万人(0.35%)と推 定されている4).1988~1994
年の同様の調査ではCKD
罹病率は10.0% であり,ステージ 1
が1.71%,ステ
ージ2
が2.70%,ステージ 3
が5.42%,ステージ 4
が0.21% であったことと比較して,アメリカの CKD
は近年増加していることが示された4)
.
腎・心臓連関については,1997年に
NKF
のタスク ホースが透析患者のCVD
による死亡率が10~30
倍 高いことを報告したのが始まりである5).この報告で
は,CKD患者は今後おこるCVD
のハイリスクグルー プであるとし,CVDのリスクの層別化の上で,適切 な治療法を示すべきであると勧告した.糖尿病性腎症 では微量アルブミン尿がCVD
発症および全死亡と関図 1 CKD の概念
これまでCKD患者は蛋白尿などの腎障害から腎機能が低下 し,さらに末期腎不全へと進行してから,維持透析になるとの 考え方が一般的であった.しかし,CKD患者の多くは循環器 疾患,心不全,心筋梗塞,脳卒中にて死亡することが明らかに なってきた.(日本腎臓学会:CKDの診療ガイドより引用)
リスク
高血圧 糖尿病 喫煙
死 亡
腎障害
尿蛋白 尿潜血
末期腎不全
〔透析〕
合併症
脳卒中 心筋梗塞
心不全
CKD 正 常
腎機能低下
〔↓GFR〕
連があり,非糖尿病性腎症の場合も顕性蛋白尿が
CVD
あるいは全死亡のリスクであると結論している.また,腎機能低下も
CVD
と,全死亡のリスクである としている.その後,2004年に腎・心臓連関に関する重要な論 文が相次いで報告された.一つは
Keith
ら6)による,CKD
患者27,998
人を前向きに3
年間調査し,CKD 患者では,CVDで死亡する患者のほうが,腎機能が 低下して腎代替療法に移行する患者数よりもはるかに 多いことが報告された(図 2).この調査により,
CKD
患者の問題は末期腎不全への移行ではなく,CVD
であることが明らかになった.同年
Go
らによって,カリフォルニアのサンフラン シスコ周辺のHealth care system
に加盟する20
歳以 上の112
万人のデータを約3
年間追跡して,腎機能別 のCVD
発症率を解析した報告がなされた(図 3)7).
この報告では,MDRD式によって計算したGFR
の低 下とともにCVD
発症率が上昇し,CKDはCVD
の明 らかなリスクであることが示された.4 わが国の CKD の現状と CVD 合併症に関する 疫学調査
2007
年のわが国の慢性維持透析患者数は27.5
万人 であり,毎年3.6
万人が新しく透析に導入されてい る8).透析患者数は過去 30
年毎年増加し,その予備 軍であるCKD
はきわめて多いと推定されていた.日 本腎臓学会でのCKD
に対する取り組みは2005
年よ り開始された.CKDの実態を把握するためには,ま ずは日本人の有病率を推定することが重要であると考 え,そのためには日本人のGFR
を正確に推算できる 推算式を作成することが必要であると結論された.こ のためにプロジェクト「日本人のGFR
推算式」を企 画して,2007年に約800
名のイヌリンクリアランス を測定し,この結果に基づいて作成したのが,以下に 示すGFR
推算式である9).
推定
GFR
(ml/min/1.73 m2)=194Cr-1.094×Age-0.287 (女性の場合×0.739)図 2 GFR 別の心血管病による死亡および末期腎不全発症率 米 国 一 般 住 民(15≦GFR<90 ml/min/1.73 m2)27,998例 に おける腎機能と生命予後,腎死(透析移行+腎移植)の発症率 を検討した.追跡期間は66カ月間,もしくはイベント発症
(死亡もしくは腎死)である.(文献6より引用,改変)
0 10 20 30 40
50 CVDによる死亡 末期腎不全
CVDによる死亡 もしくは腎死
60―89
GFR(mL/min)
蛋白尿 60―89 30―59 15―29
(−) (+)
(%)
図 3 腎機能(GFR)別の死亡率,心血管事故数および入院数
1996年1月~2000年12月の期間中に,サンフランシスコの湾岸地区に在住する20歳 以上のHMO保険加入外来患者1,120,295例の血清クレアチニン値からGFRを算出し,試 験期間中におけるイベント発症を検討した(平均観察期間2.84年,平均年齢52歳,男女 比9:11).(文献7より引用,改変)
≧60 45―59 30―44 15―29 <15 総死亡―相対危険度
GFR(mL/min/1.73m2) 1.0 1.2
1.8 3.2
5.9
≧60 45―59 30―44 15―29 <15 総入院―相対危険度
GFR(mL/min/1.73m2) 1.0 1.1
1.5 2.1
3.1
≧60 45―59 30―44 15―29 <15 心血管事故―相対危険度
GFR(mL/min/1.73m2) 1.0 1.4
2.0 2.8
3.4
0 5 10 15
0 10 20 30 40
0 50 100 150
100人1年あたり 年齢補正あり 100人1年あたり 年齢補正あり100人1年あたり 年齢補正あり
さらに
2005
年に,全国の11
カ所で行われた健康診 断の約60
万人のデータを,新しい日本人の推算式を 使用して再度CKD
の罹病率を推定した.その結果を 表 3に示す.国際分類によるCKD
ステージ1~5
ま での患者は約1,330
万人と推定される.この多くは高 齢者であり,70歳代の30%,80
歳代の50% が CKD
である(図 4).
日本人の腎機能の低下速度を推定するために,10 年間の間隔をあけて
2
回血清クレアチニンを測定した 人のデータを約12
万人分集め,日本人における10
年 間のGFR
低下速度を推算した.その結果,GFR 50 ml/min/1.73 m
2未満は,腎機能の低下が約2
倍速くなる ことが明らかとなった10).特に 60
歳代以下では腎不 全へと進行する可能性が高くなる(図 5).また,蛋
白尿が陽性の場合に腎機能低下速度は2
倍以上になる(図 6
,
表 4).この GFR 50 ml/min/1.73 m
2未満を本 来のCKD
として捉えるべきで,その人口が約320
万 人いると推定される.蛋白尿陽性の患者約270
万人を 加えると,約600
万人がわが国においてわれわれが対 象とすべきCKD
患者数である.わが国の一般住民に対する疫学調査からも腎・心臓
連関が報告されている.これまでに
CKD
患者の心血 管病のリスクについて四つの大きな調査がなされてい る.一つは久山町の研究11)であり,40歳以上の住民2,634
名に対して12
年間の追跡調査を行い,CKD患図 4 CKD ステージ 3 以上の年齢別人口比
GFR 60 ml/min/1.73 m2未満のCKD患者数を示す.高齢者 にCKDは多く,70歳代では約30%,80歳代では約50% が CKD患者である.
0 10 20 30 40 50 60 70
20―2930―
3940―
4950―
5960―
6970―
7980― 0 10 20 30 40 50 60 70
20―2930―
3940―
4950―
5960―
6970―
7980―
50―59 40―49
<40
男性(N=240,594) 女性(N=333,430)
年 齢 年 齢
(%) (%)
GFR(ml/min/1.73m2)
頻 度
表 3 日本の CKD 患者数 CKD 1 61万人(0.6%)
CKD 2 171万人(1.7%)
CKD 3 1,074万人(10.4%)
CKD 4 19万人(0.2%)
CKD 5 5万人(0.05%)
尿蛋白陽性 or GFR 50未満 591万人(5.7%)
CKDの患者数を,2005年に全国11の都道府県にて行われた574,024人 の健康診断データより,日本人のGFR推算式により推定した.
表 4 GFR 低下速度の比† GFR前値
(ml/min)
年 齢(歳)
40~49 50~59 60~69 70~79
30~39 7.1 4.2 3.8 3.2
40~49 2.6 2.7 2.0 1.6
50~59 1.3 1.4 1.3 1.2
† 男女の平均.GFR 60~69 ml/minの低下速度を1とする.
図 6 GFR の初期値と GFR 低下速度
健康診断で血清クレアチニン値を10年間の間隔を空けて,2 回測定したデータより計算した進行速度は,GFRの初期値に よって大きく異なる.GFR初期値が低値であると,次の10年 間で腎機能はさらに進行する.(文献10より引用)
0 2 4 6 8 10 12 14
GFR低下(ml/min/10年)
40―49歳 50―59歳 60―69歳 70―79歳 尿蛋白(−)
尿蛋白(+)
30―39歳
p<0.0001
p<0.01 p<0.0001 p<0.0001
図 5 尿蛋白と GFR 低下速度との関係
健康診断で血清クレアチニン値を10年間の間隔を空けて,2 回測定したデータより計算した,日本人の平均のGFR低下速 度は0.36 ml/min/1.73 m2/yearである.尿蛋白陽性者ではGFR 低下速度が2倍に増加する.
GFR前値
GFR低下速度の比
1 2 3 4 5
40―49歳 50―59歳 60―69歳 70―79歳
50―59ml/min40―49ml/min 30―39ml/min
年 齢
者において有意に
CVD
イベント増加が報告されてい る(図 7).
茨城県の
40
歳以上の健康診断データによる追跡調 査12)では,男性30,764
名,女性60,668
名を10
年間追 跡して,CVDによる死亡をイベントとして追跡して いる.この研究ではGFR
はMDRD
推算式で推算し ており,やはり日本人の係数を掛けずにGFR 60 ml/
min/1.73 m
2未満をCKD
と定義している.腎機能低 下,蛋白尿ともにCVD
死の有意なリスクファクター であり,両方が合併する場合には,男性で相対リスク は2.15
倍,女性では4.00
倍にもなると報告されてい る(図 8).
NIPPON DATA 90
13)は,1990年にランダムに選択 された30
歳以上の男女10,956
名を10
年間追跡したものである.CVDによる死亡率は
1.20
倍に増加する ことが報告されている.大迫研究14)は,1,977名を平 均7.76
年追跡して腎機能と虚血性心疾患,脳卒中,全死亡との関連を調べている.その結果,Ccr 40 ml/
min
未満の場合には脳卒中と全死亡の有意なリスクが あること,ならびに蛋白尿は心血管病および全死亡の リスクファクターであることが示された(図 9).
わが国の
CKD
の現況を図 10にまとめた.わが国 の成人人口1
億人の中のCKD
各ステージの推定人口 を示す.特にステージ3
に含まれる患者は1,100
万人 であり,管理のためのリスク層別化が必要である.特 に,蛋白尿の有無が腎機能低下,CVD発症に強く関 連するため,ステージ3
についても蛋白尿の評価を組 み入れたリスク層別化が必要であろう.また,わが国図 7 久山町研究:CKD の有無別にみた心血管疾患の累積発症率
40歳以上の久山町第3集団,男性1,110名,女性1,524名を12年間(1988~2000年)
前向き調査.脳卒中,心筋梗塞の既往歴を有する者を除き,CKDの有無別に心血管病累 積発症率を求めた.なお,ここでのCKD(+)はGFR<60 ml/min/1.73 m2の症例を指し ている.(二宮利治,他:綜合臨牀,55;1248-1254,2006より引用)
00 10 20 30 40 50
2 4 6 8 10 12
(%)
心血管病累積発症率
観察年数(年)
00 10 20 30 40 50
2 4 6 8 10 12
(%)
心血管病累積発症率
観察年数(年)
Log rank p<0.01 Log rank p<0.01 12年累積発症率
35.6%
CKD(+)
12年累積発症率 22.0%
CKD(+)
12年累積発症率 CKD(−)7.8%
12年累積発症率 12.0%
CKD(−)
男 性 女 性
図 8 茨城県の住民健診:蛋白尿の有無と腎機能による心血管事故死の相対危険 1993年から実施された茨城県住民健診の結果(40~79歳の男性30,764名,女性60,668 名).調整因子(年齢,高血圧カテゴリー,喫煙,アルコール摂取,糖尿病,総コレステ ロールの5分位レベル,HDL-C,BMI)で補正した値.(文献12より引用)
0 1 2 3
UP(−)
GFR≧60 UP(−)
GFR<60 UP(+)
GFR≧60 UP(+)
GFR<60 UP(−)
GFR≧60 UP(−)
GFR<60 UP(+)
GFR≧60 UP(+)
GFR<60
0 1 2 3 4 年齢で調整 5
多因子で調整
年齢で調整 多因子で調整
相対危険 相対危険
(GFR<60,蛋白尿(−)の群を1とした時)
女 性 男 性
では,腎炎から末期腎不全に至る患者がまだ年間約
8,000
名いる.生活習慣病のみならず,腎炎対策も従来通り必要であると思われる.
このような観点から,かかりつけ医から専門医への 紹介は以下に示す項目のチェックが必要であり,慢性 腎炎と生活習慣病の両方の早期発見と早期治療を目指 すことが必要である.
① 蛋白尿が
0.5 g/day
以上の場合② 血尿と蛋白尿が両方とも陽性の場合
③ 腎機能が
50 ml/min/1.73 m
2未満の場合 5 今後の課題CKD
という概念が導入されてから,腎疾患の診療 が変化しつつある.従来は末期腎不全への進行をいか に阻止するかが主題であったが,現在ではCVD
発症 の最大のリスク因子としてCKD
が重要であると捉え られるようになった.一般住民にCVD
が起こるリス クに関しては調査がなされつつあるが,CKD患者に どの程度CVD
が起こり,どの程度のリスクになるか に関してはデータがない.特に,CKDステージ3
に 関して,尿蛋白の量に応じたリスク層別化が必要であ ると思われる.また,国際的な基準であるGFR 60 ml/
min/1.73 m
2がCVD
のリスクなのか,腎臓学会で腎 機能低下速度が速くなる事実から提唱する50 ml/
min/1.73 m
2,あるいは 40 ml/min/1.73 m
2がリスクで あるのかはまだ不明である.これらについては,現在 行われている日本CKD
コホート研究(CKD-JAC)15)の成果が期待される.
また,CKD患者の
CVD
発症をどのように予防する かについてはその具体的な戦略はなく,今後の大きな図 9 大迫研究:腎機能別に見た総死亡,心血管病,脳卒中 による死亡のリスク
1,977名を平均7.76年追跡して腎機能と心血管死,脳卒中,
全死亡との関連を調べた.腎機能の低下により,総死亡,脳卒 中の相対リスクは増加する.年齢,性別,血圧,BMI,喫煙,
降圧薬,CVD,高コレステロール血症,糖尿病で補正.(文献 14より引用)
0 1 2 3 4 5 6
RerativeRisk
全死亡 虚血性
心疾患 脳卒中
5.3
2.3
<40 40―70 Ccr
70< <40 40―70 Ccr
70< <40 40―70 Ccr
70<
3.1 1.9 ns
ns
図 10 わが国の CKD の現状と対策
わが国の成人人口は1億人である.各CKDステージの患者数を示す.矢印の大きさは 各ステージ間で移行する可能性の高さを示す.それぞれのステージで進行しないようにす る対策が必要である.
CKD 5
透 析 移 植 合併症治療
腎代替療法の 教育 透析導入準備 合併症検査/
治療 腎不全教育 腎機能改善/
進行 遅延のための 治療
慢性腎炎
腎障害の原因 検索 腎障害を緩解 させる治療 腎障害進行の 危険因子軽減 糖尿病
高血圧 メタボリック症 候群 家族歴
腎障害(+)
腎機能正常〜
軽度低下
CKD 3
腎機能中程度 低下
CKD 4 腎機能高度低下
末期腎不全
232万人
1074万人 19万人
5万人
維持透析28万人
健常者 総合的で十分
なESRD治療 合併症治療 腎移植の推進
健診システム
地域医療連携システム
専門医診療
新規導入3.6万人
心血管疾患(CVD)死亡 総人口1億人
(20才以上)
CKDハイリスク群
CKD 1,2 CVDの危険増大
課題である.さらに
CKD
患者に対するCVD
の介入 試験は行われていない.レニン・アンジオテンシン系 阻害薬の使用による確実な降圧療法,血清脂質のコン トロール,血糖コントロール,メタボリック症候群の 治療,低蛋白食療法などを包括的に治療することが有 効かどうかを確認する介入試験が,厚生労働省の腎臓 病戦略研究として企画され行われている.これらの研 究の成果が期待される.文 献
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要 旨
CKD
は心血管疾患のリスクとして最近注目されて いる.CKDでは高血圧や蛋白尿を伴うことが多いが,高血圧と蛋白尿も
CKD
の促進因子であると共に心血 管疾患のリスク要因である.一方,高血圧と蛋白尿の 適切な管理がCKD
の促進と心血管疾患の発症を抑制 することが臨床試験では明らかにされている.高血圧 と蛋白尿の管理には生活習慣の修正(食塩ならびに蛋 白質の摂取制限)に加えて,ACE阻害薬やARB
など のRA
系抑制薬を中心として厳格な降圧薬治療を行う 必要がある.はじめに
血圧の上昇は脳,心,腎障害のリスクであるが,蛋 白尿もまた,腎障害進展のリスクのみならず心血管疾 患のリスクであることが示されている.一方,血圧と 蛋白尿の管理が腎障害の進展を抑制し,心血管疾患を 予防することも臨床試験によって明らかにされている.
また,わが国では透析患者数は増加の一途をたどって いるが,適切な血圧管理により予後が改善されること が期待される.ここでは主に腎障害例における血圧と 蛋白尿の管理について概説する.
1 リスクとしての血圧
100
万人以上を対象とした観察研究によると,血圧 は収縮期血圧で115 mmHg
以上から,拡張期血圧は75 mmHg
以上から高くなればなるほど脳血管障害死亡や虚血性心疾患死亡が増加することが示されてい る1)
.また,末期腎不全に関しては,正常高値血圧
(130~139/85~89 mmHg)のレベルからリスクにな ることが,海外のみならずわが国からも報告されてい る(図 1)2, 3)
.
[透析医療における Consensus Conference 2008]
血圧・蛋白尿の管理
松岡博昭
獨協医科大学循環器内科
key words:生活習慣,降圧薬治療,ACE
阻害薬,アンジオテンシンII
受容体拮抗薬Management of blood pressure and proteinuria
Department of Hypertension & Cardiorenal Medicine, Dokkyo University School of Medicine Hiroaki Matsuoka
図 1 血圧値別の ESRD 発症リスク 年齢,BMIにより補正.(文献3より引用)
重症高血圧 中等症高血圧
軽症高血圧 正常高値血圧
正常血圧 至適血圧 0.1 0.2 1.0 2.0 10
(n=46,881)男性
0.1 0.2 1.0 2.0 10
(n=51,878)女性
図 2 健診時蛋白尿の程度と ESRD 発症率 (文献4より引用)
0 5 10 15
累積発症率︵%︶
健診後の期間(年)
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11121314151617
蛋白尿±蛋白尿−
蛋白尿≧3+
蛋白尿2+
蛋白尿1+
2 リスクとしての蛋白尿
蛋白尿は排泄量が多いほど末期腎不全のリスクにな ることがわが国から報告されている(図 2)4)が,蛋白 尿はまた,心血管疾患発症や心血管死亡,あるいは総 死亡のリスクであることも示されている5~7)
.さらに
一般住民を対象とした調査においては,微量アルブミ ン尿のレベルであっても,蛋白尿が心血管死亡のリス クとなることが報告されている8).
3 血圧と蛋白尿
血圧と腎臓は密接な関係にあり,血圧が上昇すると 腎臓の障害をもたらし,腎臓が障害されると血圧が上 昇するという悪循環をもたらす.血圧の上昇が腎障害 をきたし,蛋白尿の増大をもたらすが,夜間血圧が低 下しない
non-dipper
や早朝高血圧が蛋白尿に関与して いるとの報告もあり9, 10),24
時間にわたる血圧の管理が 蛋白尿や腎障害の進展抑制に重要であると考えられる.4 血圧と蛋白尿の管理の重要性
1) 生活習慣の修正
血圧と蛋白尿の管理には生活習慣の修正がまず重要 である.血圧に対しては特に,食塩の制限(6 g/日 未満)
,肥満があれば減量(BMI
で25
未満),規則的
な運動(1日30
分程度の等張性運動を週に3~4
日),
節酒(エタノールで20~30 ml/
日未満),禁煙などが
勧められる.蛋白尿に対しては,食塩や蛋白質の過剰 摂取が輸入細動脈を拡張させ,糸球体内圧を上昇させ て蛋白尿を増大,また腎障害を促進させるので食塩の 制限(6 g/日未満)に加えて蛋白制限(0.6~0.8 g/kg/日)を勧める必要がある.
2) 降圧薬治療
高血圧と蛋白尿はいずれも腎障害ならびに心血管疾 患のリスクであり,降圧と蛋白尿の抑制が腎障害の進 展を抑制し,心血管疾患も予防することが示されてい る.降圧薬治療が普及していなかった
1950
年代の報 告では,高血圧症例500
例(平均年齢52
歳)におけ る検討で,蛋白尿を伴う症例は42%,腎障害を伴う
症例は
18% にみられ,それぞれの平均生存期間は 5
年と
1
年であることが報告されている11).したがって,
血圧と蛋白尿の管理には降圧薬治療がきわめて重要で
あるといえる.
降圧薬治療としては,レニン・アンジオテンシン
(RA)系抑制薬であるアンジオテンシン
II
受容体拮抗 薬(ARB)およびACE
阻害薬は降圧作用を示すとと もに,蛋白尿の抑制効果のあることが明らかにされて いる.左室肥大を伴う高血圧患者を対象にARB
であ るロサルタン,あるいはβ遮断薬であるアテノロール をそれぞれ基礎薬とした群に割り付けて行われたLIFE
12)では,心血管イベントの抑制はARB
群でより 顕著であった.LIFEのサブ解析としてアルブミン尿 の減少と心血管イベントを検討したところ,試験中の アルブミン尿の減少は心血管イベントの抑制をもたら すことが示されている5).ARB
は,2型糖尿病を対象 とした無作為介入試験において,微量アルブミン尿の 段階から顕性蛋白尿への移行を用量依存性に抑制する ことが,海外ならびにわが国においても報告されている(図 3)13, 14)
.一方,ACE
阻害薬は1
型糖尿病性腎症,あるいは非糖尿病性腎疾患において,蛋白尿や腎 障害の進展を抑制することが示されている15~17)
.わ
れわれも,ACE阻害薬ならびにARB
が非糖尿病性腎 疾患において,蛋白尿ならびに腎障害の進展を抑制す ることを報告している18, 19).
周知のごとく,RA系抑制薬は輸出細動脈に作用し て細動脈を拡張し,糸球体血圧を低下させて降圧とは 独立した長期的な腎保護作用を示すと考えられている.
一方,通常の
L
型Ca
チャネル拮抗薬は,輸入細動脈 を拡張させて糸球体内圧を高める方向に作用するので,Ca
拮抗薬の腎保護作用は降圧に依存するとされてい る.しかしながら,RA系抑制薬によるアルブミン尿 の抑制作用や末期腎不全への進展抑制作用にも降圧が図 3 2 型糖尿病性腎症における顕性腎症への移行に関する Kaplan-Meier 曲線
(文献14より)
0 3 6 9 12 15 18 21 24 27 30 49.9%
p<0.0001 RRR : 66%
NNT : 3.012 22.6%
16.7%
p<0.0001 RRR : 55%
NNT : 3.663
追跡期間(月)
0.8 0.6 0.4 0.2 0
プラセボテルミサルタン40mg/日 テルミサルタン80mg/日
移行率
重要であり,降圧が十分に得られない症例では,RA 系抑制薬のこれらの腎保護作用が明確ではなくなるこ とを示唆する報告がなされている20)
.腎障害患者を対
象とした臨床試験の成績をまとめて検討すると,腎機 能(糸球体濾過値;GFR)の減少の速度は厳格な降圧
の管理によって鈍化させうることが示されている(図 4)21).また,蛋白尿の多い症例(3 g/日以上)ほど厳
格な降圧がGFR
の減少を抑制することが報告されて いる22).
厳格な降圧のためには併用療法が必要である.腎疾 患を伴った高血圧においては
RA
系抑制薬が第一選択 の降圧薬であるが,RA系抑制薬で十分な降圧が得ら れない場合には,病態により利尿薬かCa
拮抗薬を併 用することが勧められている.周知のごとく,Ca拮 抗薬にはL
型Ca
チャネルのみを選択的に阻害するも のと,L型Ca
チャネルのみならずN
型Ca
チャネル やT
型Ca
チャネルを阻害するものとがある.アムロ ジピンはL
型Ca
チャネルを選択的に阻害するが,シ ルニジピンはL
型に加えN
型Ca
チャネルを阻害し,シルニジピンによる
N
型Ca
チャネルの阻害は腎糸球 体の輸出細動脈を拡張し,糸球体内圧を低下させるこ とが報告されている.CARTER
研究23)は,RA系抑制薬の投与を受けてい る慢性腎疾患患者339
例を,アムロジピン追加群(160例)とシルニジピン追加群(179例)に無作為に 割り付け,1年間追跡した研究である.図 5に示すよ うに,尿中アルブミンの排泄量は,アムロジピン群で は増加したのに対し,シルニジピン群では減少し,そ の差は有意であった23)
.一方,エホニジピンは L
型とT
型両方のCa
チャネルを阻害し,腎臓に対しては輸出細動脈を拡張し,副腎に対してはアルドステロン分 泌を抑制することが報告されている.
われわれはスポット尿で
30 mg/dl
以上の蛋白尿を 示す慢性糸球体腎炎患者21
例を対象(血清クレアチ ニンは男性で1.3 mg/dl
以下,女性で1.1 mg/dl
以下 を対象とした)に,エホニジピンあるいはアムロジピ ンをクロスオーバー法により4
カ月にわたり投与し,血圧,GFR,尿蛋白,血漿アンジオテンシン
II
とア ルドステロン濃度に及ぼす影響を検討した24).血圧は
両群で同程度に推移し,GFR
も両群で差がなかったが,尿中の蛋白排泄量はエホニジピン群で有意に低値
(1.7±1.5対
2.0±1.6 g/g
クレアチニン,p=0.04)で あった.また,血漿アンジオテンシンII
濃度は両群で 差がなかったが,アルドステロン濃度はエホニジピン 群で有意に低値(52±46対72±48 pg/ml,p=0.009)
であった.したがって,エホニジピンにもシルニジピ ンと同様に降圧とは独立した腎臓の保護作用のあるこ とが示唆される.また,エホニジピンは副腎に直接作 用してアルドステロン分泌を抑制している可能性があ るが,エホニジピンの蛋白尿抑制作用にアルドステロ ンの低下が関与しているかどうかについてはさらなる 検討が必要である.
「CKD診療ガイド
―
高血圧編―
」25)では,CKDを伴 う高血圧治療における第一選択薬はRA
系抑制薬であ るが,第二選択薬としてCa
拮抗薬を併用する場合に は輸出細動脈を拡張し,蛋白尿抑制効果のあるものを 考慮すると記載されているので,シルニジピンやエホ ニジピンが併用薬として好ましいといえよう.5 透析患者の血圧管理
わが国の透析患者数は増加の一途をたどっているが,
図 4 腎疾患患者を対象とした臨床試験における 達成血圧レベルと腎機能低下速度との関係 (文献21より)
130/80
0 97
−2
−4
−6
−8
−10
−12
−14
95 100 105 110 115 120 平均血圧(mmHg)
糸球体濾過率の減少(mL/分/年) 無治療高血圧
130/85
mmHg 140/90
mmHg
図 5 CARTER におけるアルブミン尿の変化 (文献23より引用,改変)
アムロジピン群
(n=160)
シルニジピン群
(n=179)
(%)
p<0.01
尿中アルブミン/尿中クレアチニンの変化
−30
−20
−10 0 10 20 30
心血管疾患死亡が透析患者の死因の半数近くを占めて いる.慢性維持透析患者における心血管イベントのリ スク因子としては,年齢,血圧,左室肥大,糖尿病な ど多くの因子が関与していると考えられている.しか しながら,透析前の収縮期血圧と死亡率を検討した成 績では,収縮期血圧は低いほど死亡のリスクが高いと の報告もある(図 6)26)
.また,脈圧の増大が死亡の
リスクを高めるとの報告もある.透析患者では血圧以外のリスク要因の関与が大きく なるので,血圧と長期予後との関連に関しては確たる エビデンスがないというのが実情である.一般的には,
透析歴が早期の症例で血圧が低値の場合には生命予後 は不良であり,透析歴が長期の場合には血圧が高値の 場合に生命予後は不良であるといえよう.
RA
系抑制薬が透析患者の心血管イベントを抑制す るとの報告があるが,われわれも慢性血液透析患者にACE
阻害薬を投与しプラセボと比較したところ,非降圧量の
ACE
阻害薬が左室心筋重量係数を減少させ,左室拡張能を改善することを観察している27)
.したが
って,RA系抑制薬が慢性維持透析患者の長期予後を 改善させる可能性があるが,このような症例における 血圧管理のあり方についてはさらなる検討が必要と思 われる.最後に,CKDにおける血圧管理の要点については,
「CKD診療ガイド
―
高血圧編―
」25)で示されているも のを表 1, 2に示す.文 献
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(文献26より引用)
<110 110―
119 120―
129 130―
139 140―
149 150―
159 160―
169 170―
179 180―
透析前収縮期血圧(mmHg)
0 1 2 3 4 5 6 7 8
補正なし 補正1 補正2
死亡のハザード比
表 1 CKD における降圧の要点(1)
・ 降圧目標は収縮期130 mmHg未満かつ拡張期80 mmHg未満 である.
・ 降圧薬は原則としてRA系抑制薬(ACE阻害薬かARB)を 優先する.
・降圧目標達成には多くの場合,多剤併用が必要である.
・降圧と同時に尿蛋白を減少させることを目指す.
(文献25より引用)
表 2 CKD における降圧の要点(2)
・ RA系抑制薬投与時には血清クレアチニンの上昇や高K血症 に注意する.
・生活習慣の改善のうち,降圧面では特に減塩が重要である.
・CKD進行に関与するリスクを総合的に管理する.
・ CKDにおける降圧の意義はCKD進展の抑制とCVD発症の 予防にある.
(文献25より引用)