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土壌の物理性

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142cover7 (2019-07-01 13:38)

土壌の物理性 第 142 号 令和元年 7 20 日発行(年 3 回発行) 昭和 45 7 31 日 学術刊行物承認 ISSN 0387-6012

土壌の物理性 2019 年 7 月 Journal of the Japanese Society of Soil Physics

土壌物理学会

Japanese Society of Soil Physics

第142号

(2)
(3)

土壌の物理性

142

号 

2019

7

目 次

巻頭言

足立泰久

. . . 1

寒冷地 · 凍土特集 研究ノート

凍結をともなうオホーツク網走地域の農地における土壌水分の季節 変動の特徴

鈴木伸治

·

佐伯ともみ

·

伊藤博武

·

渡邉文雄

. . . 5

総 説

北海道における土壌凍結の農業への利活用を支えた観測手法と観測 結果

広田知良

. . . 13

解 説

地盤凍結工法のための凍上試験

釘﨑佑樹

·

大石雅人

. . . 25

土粒子

土壌調査

·

分類

·

情報の研究からみた土壌物理性の情報

神山和則

. . . 35

会務報告

. . . . 37 編集後記

. . . . 41

表紙写真の説明

(上左)東京農業大学網走寒冷地農場における冬季(2月)の降水量,地温,体積含水率,マトリックポ テンシャルのモニタリング調査.詳しくは,今号掲載の「凍結をともなうオホーツク網走地域の農地に おける土壌水分の季節変動の特徴」をご参照ください.(上右)断熱作用のある雪を氷点下の条件下で縞 状に除雪や再集積させて土壌凍結を促す「雪割り」と(下右)圧雪によって雪の熱伝導を高めて土壌凍結 を促進させる「雪踏み」.詳しくは,今号掲載の「北海道における土壌凍結の農業への利活用を支えた観 測手法と観測結果」をご参照ください.(下左)稲荷山黄土と(下中)藤森粘土を用いた一軸凍上試験.

供試体中の凍結面に平行に入った多数の黒い筋は,凍結面へと吸い寄せられた水が氷の層(アイスレン ズ)として析出したもの.詳しくは,今号掲載の「地盤凍結工法のための凍上試験」をご参照ください.

(4)
(5)

第 17 回( 2019 年度)

 土壌物理学会賞(論文賞)候補の推薦(公募)について

土壌物理学会では,下記の要領で学会賞候補(推薦)を公募いたします.

学会賞種類:論文賞

対 象 論 文: 2018 (平成 30 )年度に「土壌の物理性」 (第 139 , 140 , 141 号)に掲載された 論文(original paper)

推 薦 期 限: 2019 (令和元)年 8 月 30 日(金)必着

推薦書に必要事項をご記入いただき,学会事務局( [email protected] )までお送り下さ い.推薦書様式は,学会ホームページ「学会賞」タブ http://js-soilphysics.com/prz  下部の “ 論 文賞推薦書 ” をダウンロードしてご記入願います.

表   彰: 2019 (令和元)年 10 月 26 日(土)  2019 年度大会にて

(6)

日 時: 10 月 26 日(土) 9:00 17:45

場 所:筑波産学連携支援センターつくば農林ホール(つくば市観音台 農林研究団地内)

参加費: 3,000 円(要旨集代として.ただし,学生会員は無料(大会当日に学生会員の入会手

続を行った場合を含む))

シンポジウムのプログラム,情報交換会,昼食弁当の申し込み方法等は, 8 月 16 日までに土 壌物理学会ホームページ( https://js-soilphysics.com/conf )上に掲載します.

1. 開会 · 事務連絡 つくば農林ホール  9:00 9:10 2. 第 61 回シンポジウム

テーマ「土壌 · 水環境のサステナビリティとコロイド界面現象」

総合司会 小林政広 副会長 · 大会実行委員長 森林研究 · 整備機構森林総合研究所

(第 1 部) つくば農林ホール  9:10 10:50

(1)導入講演 土壌 · 水環境のサステナビリティに関わるコロイド界面科学の可能性 足立泰久 会長 筑波大学生命環境系 

  

( 2 )多雪重粘土地帯の水田転換畑における懸濁物質およびリンの暗渠流出 鈴木克拓 農研機構中央農業研究センター

  

(3)雨滴測定から見えてくる葉や枝での雨の振る舞い

南光一樹 森林研究 · 整備機構森林総合研究所

(第 2 部) つくば農林ホール  15:30 17:45

( 4 )農用地における有害化学物質の汚染対策と土壌コロイド界面現象の関わり 牧野知之 東北大学大学院農学研究科

(5)機能性微生物が関与した鉱山跡地 · 自生植物の重金属耐性機構 山路恵子 筑波大学生命環境科学研究科

   

総合討論 司会  小林幹佳 筑波大学大学院生命環境科学研究科 赤羽幾子 農研機構農業環境変動研究センター 3. 土壌物理学会総会 つくば農林ホール  11:15 12:15

総会では,土壌物理学会賞(論文賞)の授与を行います.

(7)

4. ポスター · セッション 第 4 , 5 , 6 会議室  13:15 15:15 ポスターは, 13:00 までに所定の位置に掲示してください.

発表者は,

::::::::::::

学会員のみとします.土壌物理学会発表要領に基づいて作成した発表要旨

( A4 , 2 ページ( 200 字程度の研究紹介を含む) , pdf 形式)を,学会ホームページ( https://js- soilphysics.com/conf )へアップロードして下さい.

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

8 月 26 日( 2 ヶ月前)受け付け開始,

::::::::::::::::::::::::::::

9 月 26 日(1 ヶ月前)締切です.

5. 企業展示 第 4,5,6 会議室 (展示ミニ紹介 つくば農林ホール  10:50 11:05)

6. 情報交換会 レストラン 自然味工房(筑波ハム)  19:00 21:00 7. 大会会場への交通手段

· JR 常磐線牛久駅西口 4 番乗り場から関東鉄道バス「谷田部車庫行」,「筑波大学病院 行」, 「生物研大わし行」のいずれかに乗車,「農林団地中央」で下車.

· つくばエクスプレスみどりの駅から関東鉄道バス「農林団地循環」に乗車,「農林団 地中央」で下車.

· つ く ば エ ク ス プ レ ス つ く ば 駅 か ら つ く バ ス 南 部 シ ャ ト ル に 乗 車 ,「 農 林 団 地 中 央 」で 下 車 .く わ し く は ,筑 波 産 学 連 携 支 援 セ ン タ ー HP を ご 覧 く だ さ い . http://www.affrc.maff.go.jp/tsukuba/top/outline/access.html

問い合わせ先 :

2019 年度土壌物理学会大会実行委員長 小林政広

〒 305-8687  茨城県つくば市松の里 1  森林研究 · 整備機構森林総合研究所

電話 029-829-8228 E-mail: [email protected]

8. 農業農村工学会土壌物理部会研究集会(土壌物理学会 共催)

日 時:10 月 25 日 (金)  午後

場 所:つくば農林ホール(つくば市観音台 農林研究団地内)

テーマ「土壌 – 根 – 植物 – 大気:根圏の水 · 物質動態と作物モデル(仮)」

話題提供者 (予定)

中野聡史  農研機構農業環境変動研究センター 信濃卓郎  北海道大学大学院農学研究院

坂井 勝  三重大学大学院生物資源学研究科

問い合わせ先:農業農村工学会土壌物理研究部会事務局

〒113-8657  東京都文京区弥生 1-1-1

東京大学大学院農学生命科学研究科生物 · 環境工学専攻 環境地水学研究室 西村 拓,濱本昌一郎

TEL 03-5841-5350 , 5351   FAX 03-5841-8171 E-mail: [email protected]

Web : http://www.jsidre.or.jp/dojou/

(8)

土壌物理学会事務局 時下ますますご健勝のこととお慶び申し上げます.当学会の会費は学会会則第 5 条に定めら れていますように,所定の期日までに納めていただくこととなっております.各位におかれ ましては,今年度(令和元年度)の会費を納入していただきたく,お願い申し上げます.ご多 忙の折りとは存じますが,9 月末日までに入金していただきますよう,宜しくお願い申し上げ ます.

1. 会費の区分は,正会員 5,500 円,シニア会員 3,000 円,学生会員 3,000 円,賛助会員 22,500 円,講読会員 7,500 円となっております(学会会則第 5 条).

2. 同封の振替用紙をご利用のうえ,会費をご入金ください.なお,誠に恐れ入りますが,手 数料は各自でご負担ください.

3. 会員登録データ等の変更は,通信欄にご記入ください.

4. 前年度未納の方につきましては,今年度分と併せてご入金ください.また,通信欄には その旨ご記入ください.

5. すでにご入金済みの場合は,お手数ですが送金月日と送金方法をお知らせくださいます よう,お願いいたします.

6. 何かご不明の点等ございましたら,会計幹事の西脇までご連絡ください.

問い合わせ先 :

土壌物理学会事務局(会計幹事)

〒300-0393 茨城県稲敷郡阿見町中央 3-21-1

茨城大学 農学部 地域総合農学科 西脇淳子

電話 029-888-8591 E-mail: [email protected]

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「土壌の物理性」閲読者氏名の公表とご協力へのお礼

土壌物理学会編集委員会

学会誌「土壌の物理性」は, 1959 年(昭和 34 年)の創刊以来,今号で 142 号を迎えます.

「土壌の物理性」の編集 · 発行に際しては,とりわけ閲読者の方に多大なご協力をいただいてい ます.

土壌物理学会編集委員会では,閲読者への謝意を表すべく,ここに 2017 2018 年度(平成 29 30 年度)に閲読をお引き受けいただいた方の氏名を公表(五十音順 · 敬称略)致します.

今後とも,編集業務へのご支援,ご協力を賜りますよう,お願い申し上げます.

飯山 一平 加藤 千尋 北川  巌 小島 悠揮 小林 幹佳 三枝 俊哉 坂井  勝 澤本 卓治 清水真理子 鈴木 伸治 塚本 康貴 中川 進平 中野 恵子 中村 和正 中村 公人 中村 貴彦 丹羽 勝久 橋本  聖 橋本 洋平 早川  敦 原田鉱一郎 笛木 伸彦 宮丸 直子 宮本 英揮 武藤 由子 森  裕樹 矢崎 友嗣 弓削こずえ 渡辺 晋生

注) 投稿原稿と依頼原稿を対象とする.但し,「土粒子」「書評」およびシンポジウム   総合討論の紹介原稿は除く.

(10)
(11)

J. Jpn. Soc. Soil Phys.

土壌の物理性 No. 142, p.13 (2019)

二元論を超えて

  — 基礎を固めて展開しよう —

足立泰久

1

2019年4月より会長に就任しました足立です.正直に申し上げますが,私はこれまでの経緯から本会に対して は完全に積極的であったとは申しあげられません.しかし,引き受けた以上,石黒前会長の方針を継承し一生懸 命やる所存です.新会長として,というよりはむしろ一会員として,私のことをご存知ない方々に,まず個人的 な遍歴について紹介させていただき,改めて考えたことにいくばくかの抱負を加え,挨拶にしたいと思います.

土壌物理学という言葉を知った学部学生のころを振り返りますと,大学院の入試の前に,「土壌物理も勉強しな いと」と,指導教員にもらしたところ,「そんなものは勉強しなくていい」ときっぱり言われたことを思い出しま す.学部学生にとっては生協の書籍に並んでいる八幡敏雄先生の「土壌の物理」,山崎不二夫先生の「農地工学

(上,下)」,土壌物理研究会編「土の物理学」などが,農業土木を主張する貴重な教材だったわけですが,指導教 員の発言で,私はこの界に「土」と「水」いう二元論があることを学んだのだと思います.そのころ,土の研究 室に入った友人たちは,蒸発とか,伝熱とか,凍結とか,溶質移動とか,いわゆる土壌物理学の実験を喜々とし てやっているように見え,生のデータをとって研究する姿がすこしまぶしく見えたように記憶します.しかし,

明確な意識も持たずろくに勉強をしていなかった自分の意識は漠然とですが,研究者というよりは技術者,エン ジニアリングの方向に向いていたように思います.その後,石油プラントのエンジニアリングの会社に就職し,

建設工事やプロセス機械の仕事を始めましたが,技術開発を日常的に伴う設計現場ではAPI(American Petroleum Institute(米国石油協会))やANSI(American National Standards Institute(米国国家規格協会))で蓄積されてい る技術の標準仕様書が整備されており,その基礎にはエンジニアリングサイエンスと呼ぶべき長い年月の試行錯 誤の結果作られた膨大な知識体系があることを知りました.おそらく,標準仕様書は農林水産省では設計基準に 相当し,思考錯誤は農業現場の経験や農林水産省の研究機関や大学で行われている研究に対応するものだと思い ます.入社後間もなくUpstreamと呼ばれる会社の新規分野の講習会に2週間缶詰めにされ,石油資源の探査,掘 削,回収法などについて体系的に学ぶ機会がありました.日本には石油資源が殆どないので,石油メジャーと呼 ばれる巨大資本が背後にあるUpstreamに関する技術に触れる機会はあまりありませんが,石油を水に置き換え

るとUpstreamの基礎は,地下水の電気探査法,プリュームの形成のメカニズム,移動のシミュレーション,不飽

和帯の移動現象,移流分散,多孔質体中での界面置換など結びつき,それらは数学的構造から農業土木や土壌汚 染の基礎と共通するものだと直ぐ理解できました.企業での技術者としての経験は決して長いものではありませ んでしたがそこでの様々な経験を通し,修士論文で農業土木試験場の大井節男さんから指導を受けた畜産廃水,

集落排水,さらには公害防止に関する自然を相手にした思考錯誤から抽出されたコロイドの凝集に関する研究が かけがえなく大切なものであることを確信するようになりました.再度,基礎を固めることを決断して博士課程 に進学しました.博士課程に入学してからは,研究よりも流体力学,偏微分方程式,乱流,物理化学のテキスト を読んで理解し演習問題を解くだけのセミナーを組織することに多くの時間を費やして過ごしていましたが,博 士修了時にはタイミングよく筑波大学の助手に採用してもらうことができました.

助手になりたての時分は授業のオブリゲーションは3学期制の2学期に開講されていた週1回の水理実験だ けで,今にして思えば天国のような贅沢で自由な時間の使いかたをさせていただきました.因みに当時のつくば は研究学園都市とは言え,まだ陸の孤島のような状態で,構内にもいのちの電話の張り紙が目立っていたように 記憶します.しかし,不便で少し寂しい状況ではあったけれども,研究学園都市の中での結束の機会は今より あったのではないかと思います.私たちは毎週茨城大学農学部の黒田久雄さん,中石克哉さんとひたすらアトキ ンスの問題を解くだけの勉強会をつづけ,ラテックスの合成法を教わりにいった界面化学の古澤邦夫先生は,先 生が土曜日に行っていたセミナーに「是非出るように」と,私を誘ってくださいました.古澤先生は東京教育大 学光学研究所でタングステン酸ゾルが示す虹彩色を解析し,DLVO理論を実証し学位を取得された方ですが,セ

1筑波大学大学院生命環境科学研究科

(12)

ミナーには,化学の学生さんだけではなく,物質工学系の先生やその学生さん,電総研,計量研,化技研など工 業技術院の研究者やつくばに居を構える民間企業の研究者も参加していました.古澤先生は特にOverbeek先生 のお弟子さんであるワーヘニンゲン農業大学のLyklema先生を大変尊敬されており,国際会議に来日された先 生を私に紹介してくださいました.コロイド科学を学ぶだけならば,他にもいろいろな選択肢がありましたが,

農業大学で研究室を主催されているというノスタルジックな思考も働いて,在外研究員の順番が回ってきたとき

Lyklema先生のもとへ留学することにしました.

Lyklema先生のラボ(ラボは日本の大学の研究室よりは大きく小さな学科程度の単位)はかつてBolt先生が

教授をされていた土壌化学のラボと同じ建物で入口を挟んで反対側に位置し,その建物の南側には食品物理の

Walstra先生のいるビルがあり,それぞれの研究室と共同で博士課程の学生を指導するPh-Dプロジェクトも行わ

れていました.また,その他にも紙パルプ,微生物,タンパクの吸着などと交流しているPh-Dプロジェクトも あり,コロイド界面化学の視点を通してラボには農業大学の様々な情報が集まっていました.当初は,博士課程

のPh-D Studentが20名,スタッフを入れると50名を超す陣容でその活気に圧倒されましたが,後にオランダの

研究室がすべてこうではなく,その状態はLyklema先生がユトレヒトのVan’t Hoff研究所から赴任して25年か け,花開いたものであることを知りました.研究課題は電気二重層の緩和や高分子吸着などコロイド分散系と界 面科学の基礎理論的なものから,土壌,食品,紙パルプ,微生物,などへの応用を扱ったものに大別はできまし たが,両者に明確な境界はなく,むしろ応用と基礎が入り乱れながら走っていたようにとれました.ワーヘニン ゲンでは,偶然にも同じ在外研究員で留学中であった元会長の波多野先生にお会いしました.教会広場のカフェ で農業大学がワーヘニンゲンに立地した理由(ここを中心に自転車で行ける半径10 kmの円を描くとその中でオ ランダの典型的な土壌類型を網羅できるためであること)や,ワーヘニンゲンには土壌地質,土壌化学,土壌物 理などsoilを冠するラボがいくつもあること,この周辺の地下水汚染は過放牧によるものだが,関連する研究は レーザーによる空気中のアンモニアの物理的な測定原理から疫学調査に至る総合的なスケールで行われているこ と,そうした背景には農業が外貨を稼ぐ産業に位置づけられ食糧自給率300 %があること,などを語りあって教 えていただいたことが印象に残ります.波多野先生は一つの基礎があればそれを中心にあらゆることに扇を拡げ るように展開するとオランダのサイエンスを表現されましたが,まさにその通りだと思いました.ただ,ワーヘ ニンゲンでの私にとっての最大の収穫は日本で勉強した乱流の知識(彼らにないもの)がコロイド界面科学の中 で本質的に役に立つことを確証できたことと,農学部にコロイド界面科学の専門研究者集団があることの有益性

(我々にないもの)をまのあたりに見たことではないかと思います.

1年足らずの滞在で,タイムマシンに乗るかのようにまたつくばに戻ってきましたが,数学演習の授業が増え たくらいで相変わらず自由な時間が残っており,大学院に進学してくれた学生たちと物理化学の勉強のセミナー をして過ごすことができました.私にとってアトキンスは3度目になりましたが,3度目にしてとうとう量子力 学まで網羅でき,その時は一緒にやった若い学生さんのエネルギーのすばらしさを実感したと言えます.高価な 機械はなくても,やる人と場所と時間があることが重要で,物が少しずつそろっていくプロセスを感動しながら 経験することが如何に大事なことか,身を持って学んでいたのではないかと思います.また,つくばでは,同世 代に農工研に石黒宗秀さんや安中武幸さん,原口暢朗さんがおられ,ことあるごとに集まってセミナーをするこ とができました.特に思い出に残るセミナーは,溝口勝先生のよびかけで,亡き石田智之先生,藤井克己先生ら 何人かであすなろセミナーというコロイドの集まりを開始し,それは大きな志があったにも関わらず1回で終 わってしまったこと,乾燥地研究センターに滞在されていたイスラエルのScheinberg先生を岩田進午さんがつ くばに呼んでくださりセミナーをし,その夕方は岩田さんの家でごちそうしていただいたこと,夏の暑い盛りに ERATO(Exploratory Research for Advanced Technology(新技術事業団戦略的創造研究推進事業))の永山タンパ ク集積プロジェクトの研究員だったブルガリアの物理学者2名を招いて濡れに関する難解な内容の勉強会を2日 間かけてやったこと,そのときにあつまった学生さんと招待者の食費は大林組の杉本さんに工面して出していた だいたこと等です.自分で組織しておきながら,どこまで内容を理解できたかははなはだ怪しいのですが,これ らの非公式な自己流の活動は,昨年本誌にも紹介しましたリサーチユニットのサマースクールへ発展し,コロイ ド界面の研究グループ形成につながる大切な肥やしになったと言えます.

土への転機は2003年ごろに訪れたと思います.筑波大学で土のグループの2人の助教授の先生が相次いで転 出し,土の物理学20回の講義をいきなり持つようなりました.また,時を同じくして農業土木学会で特集にと りあげていただいていた講座「土のコロイド現象」が科研費の力も借りて出版される運びとなり,宮﨑毅会長に 書評をお願いに行ったら「足立君,土壌物理学会に入りなさい.」とおっしゃられ,私は2つ返事で「はい」と 言って,晴れてこの会の一員になりました.

そのころの私の宿題で最も大きかったものは,ワーヘニンゲンのKoopal先生に依頼されていた,国際会議「環 境汚染におけるコロイド界面現象と界面科学の取組み」(IAP(Interface Against Pollution))を開催することでし た.我々のグループは日本のコロイド界面化学に地盤があるわけではないし,我々の分野はお金持ちの企業と関

(13)

巻頭言 3 わっているわけでもないし,そのプレッシャーはかなり大きいものとなっていました.しかし,相談に伺った大 井節男さんは「可能だと思うしやる意味がある」と賛同され,明確な方向性と国際会議開催のノウハウを示して いただきました.我々は複数あるコロイド科学関係の学会に出かけて行って環境の特集の企画をし,農業土木学 会をはじめ応用分野では基礎的なコロイドのシンポジウムをやり,微生物学や資源工学の先生に賛同を呼びか け,5年ぐらいかかりましたが少しずつメンバーをかき集め,会の形を作っていくプロセスを経験しました.土 壌微生物学の服部勉先生に来ていただいて講演をしていただいた時,先生が研究者の駆け出しだった時を振り返 り,「土壌学の本にも微生物学の本にも自分の知りたいことが書いてなかった.」と言って講演をはじめられたこ とを思い出します.こうしたセミナーを繰り返し,必死にやりましたが,関係した皆の協力でとうとう手作り感 丸出しの素晴らしい京都会議(IAP2008)を開催することができました.この会議には土壌学や土壌物理学の分 野の方も多く参加していただきましたが,その後の環境面における界面科学の方向性をコロイド界面科学に関わ る様々な分野の方々と共有できたことが,主催した我々にとって大きな成果になったと思っています.その後,

私の活動の軸足はコロイド界面科学の方にシフトしていましたが,研究の当初に設定していた実際の環境問題へ の応用展開についてはまだ道半ばの状態です.このことについては,10月のシンポジウムでまた触れる機会を持 ちたいと思っています.

さて,冒頭に述べた二元論ですが,「水」と「土」以外にも,科学と技術,実学と虚学,化学と物理,などいく つものパターンがあります.分析のスタートは分けることから始まり,物事の理解には区別が必要,秩序を作る という意味では,二元論は不可避なプロセスと思います.しかし,一つの元の中心にいるとその心地良さにある 種のテリトリーの意識を産みだし,やがて分裂の危険をはらんでいくことも事実です.言うまでもなく物事は多 種多様であり,中間的な状況の中から新たな個性が生まれてきます.学会はそのような多様で多彩な個性と価値 観に基づく活動があってはじめて成り立ちます.現在,日本の大学を,研究中心の大学と,技術者養成,地域密 着型など教育中心の大学に二元的に分けようという動きがあります.もし,本当にこのような二元論で大学が塗 りつぶされれば,地方大学における研究はますます厳しいものになってしまう可能性があります.一方,研究中 心の大学にあっても,成果論文の数を競うことがエスカレートしていけば,ScienceやNatureなどから遠いとこ ろにある我々の分野はどこか隅っこに追いやられてしまう危険性すらあります.

ただ,このような危機を悲観するような声は聞こえてこない訳ではありませんが,私自身はそれほど悲観する 必要はないと思っています.むしろ大事なことは,将来を見通し,今何をなすべきかを自分たちできちんと考え て実行することだと思います.それができれば,外部からの揺さぶりはある種の風景のようになり,掻い潜って いくことができます.幸い,土壌物理学会は60年に及ぶ歴史を持ち,これまでも数多くのユニークな研究を蓄 積しています.学会誌は審査体制が確立されており,ウェブページによってオンライン化もなされています.こ れらは先人の努力の賜物ですが大きな財産です.また,土壌物理そのものが環境と生命が織りなす不均一系の科 学の問題そのものであり,そのテーマはサイエンスとしても今日的に大変魅力的な内容として捉えることができ ます.今世紀末には百億人を超すと言われている人類の食糧生産を支えるためにも,土壌物理が現在関わってい る問題一つ一つに深い視点から解答を出して行く必要があります.ただし,それらは未来進行形の問題なので,

実行することができなければ単なる潜在性にすぎません.潜在性を表に引き出すために二つのことが必要だと思 います.一つは,会員それぞれが今持っているコンテンツを形にしていくことです.その一部は60周年記念の 出版事業という形で実現できると思います.これから,準備して呼びかけますができるだけ多くの会員に参画し ていただければと思います.もう一つは,現在日本に学びに来ている留学生への対応です.これは,ポスター発 表などで英語対応を積極的に配慮することで十分可能と判断しています.オーストラリアの友人の研究室を訪ね たとき,先方の教授が中国の内情を非常に詳しく分析し,優秀なPh-D Candidateをスカウトする秘策や,教育の 評価規準(何人の博士を育てたかではなく何人の留学生を自国のスタッフとして定着させたか)を説明されたこ とが記憶に残ります.単に論文の本数だけを評価規準にしていてはこのような国際的競争に勝つことは到底出来 ないと思うので,やがて今の評価の基準も次第にこういう方向に動いていくと考えられます.少なくとも10年 後彼らが母国に帰り,一人前の研究者になったとき大きな見返りとなって帰ってくることに責任感をもって対応 する必要があります.

このようなことで方向性が示せる2年間にしたいと思っています.どうかよろしくお願いします.

(14)

true TDR 土壌水分センサ

工学会にて年間技術 革新賞を受賞 (2017)

CACC-SEN-TDR315L

ブレークスルーテクノロジーにより、従来大型のシステムでしか可能ではなかった真のTDR測定方式 を小型なセンサーの中に凝縮しました。事実、このコンパクトなセンサーから生の波形データを取得 (*)できます。

体積含水率(0-100%) 土壌バルクEC(0-5dS/m) 地温(-20-50℃)

比誘電率 計測項目

デジタル(SDI-12) 出力

本体200L*553W*19Hmm 150mmロッド

440g(10m cable) サイズ・重量

TDT 土壌水分センサ

CACC-SEN-TDT

TDT(Time Domain Transmissometry)方式の土壌水分センサーです。メンテナンスフリーなので、長 期間の連続観測が可能。消費電力が非常に小さく、コストパフォーマンスに優れているので多点、

無人観測にも適しています。データロガーから生の波形データの取得(*)も可能です。

体積含水率(0-100%) 土壌バルクEC(0-5dS/m) 地温(-20-50℃)

比誘電率 計測項目

デジタル(SDI-12) 出力

本体200L*533W*15Hmm 150mmロッド

440g(10m cable) サイズ・重量

¥44,000(税抜)

¥34,000(税抜)

*波形の取得を含めた計測にはCampbell社データロガーをおすすめします (弊社Webサイトにてサンプルプログラム公開中)

シンプルロガー

C-CR300 ¥152,000(税抜) 取得波形例(TDT)

本社:東京都豊島区池袋4-2-11 CTビル6F TEL 03-3988-6616 FAX 03-3988-6613 札幌営業所:札幌市東区北22条東8丁目4-5 TEL 011-711-9921 FAX 011-711-9922

クリマテック株式会社

自然計測のシステムインテグレータ

http://www.weather.co.jp

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J. Jpn. Soc. Soil Phys.

土壌の物理性

No. 142 p.511 (2019)

凍結をともなうオホーツク網走地域の 農地における土壌水分の季節変動の特徴

鈴木伸治

1

· 佐伯ともみ

2

· 伊藤博武

3

· 渡邉文雄

1

Characteristics of seasonal changes in soil water in an agricultural field in Okhotsk-Abashiri region with soil freezing

Shinji SUZUKI1, Tomomi SAEKI2, Hirotake ITO3and Fumio WATANABE1

Abstract: Agriculture in Okhotsk-Abashiri region, Hokkaido, Japan has been led by large-scale upland farm- ing systems, and seasonally frozen soil has occurred in this area. Recently, there is a concern that the hydrolog- ical environment in this region has been changing due to changes in both rainfall and snowfall patterns associated with climate change. In the current study, continuous mon- itoring of soil water movement was undertaken in an up- land field in this region during the period from July 2011 to June 2012. Particularly, this study focused on clarify- ing characteristics of the soil water movement caused by soil freezing-thawing and infiltration of snowmelt water.

Dielectric water potential sensors were used for measur- ing soil matric potentials to derive water flux at deeper soil depths. The annual maximum soil frost depth was 0.28 m. The maximum surface soil water content was ob- served immediately after surface soil melted. The magni- tude of downward water flux at a depth of 0.40 m recorded in early April (freezing period) was higher than the mag- nitude recorded in June (non-freezing period) with large amount of rainfall. Changes in soil water content at deeper layer due to the soil freezing and snowmelt water infiltra- tion were similar to changes of soil water content result- ing from drying followed by rainfall infiltration in non- freezing period. Further, it is revealed that all snowmelt water (116.5 mm) infiltrated into the soil without ponding before the frozen soil layer melted. The results suggest that the soil frost with a depth of 0.28 m observed in the cur- rent study was insufficient to impede the infiltration of the snowmelt water associated with high porosity of the soil.

Key Words: frozen soil, dielectric soil water sensor, soil water flux, soil water dynamics, snowmelt infiltration

1Department of Bioproduction and Environment Engineering, Faculty of Regional Environment Science, Tokyo University of Agriculture, 1-1-1 Sakuragaoka, Setagaya-ku, Tokyo 156-8502, Japan. Corresponding au-

thor: 鈴木伸治,東京農業大学地域環境科学部生産環境工学科.

2Kobe City Oce, 6-5-1 Kano-Cho, Chuo-ku, Kobe 650-8570, Japan.

3Department of Northern Biosphere Agriculture, Faculty of Bioindus- try, Tokyo University of Agriculture, 196 Yasaka, Abashiri-shi, Hokkaido 099-2493, Japan.

2018914日受稿 201926日受理

1. はじめに

北海道の東部に位置し,オホーツク海に面するオ ホーツク網走地域は,日本有数の大規模農業地帯であ り,国内の作物生産への寄与が大きい.この地域は,

年降水量が日本で最も少ない地域の1つであるが,近 年,5∼8月の干天発生回数の増加が報告されていると ともに(早野ら, 2001),将来的にも,無降雨日の日数 が増加する可能性が示されている(気象庁, 2017).一 方で,時間雨量や日雨量の大きい雨の頻度が増加して いるとの報告がある(杉山·佐渡, 2006;中村ら, 2009). またこの地域は寒冷で,冬季には土壌が凍結し,かつ 積雪がある.土壌が凍結すると,透水性が低下するた め融雪水の浸透が抑制される(Hardy et al., 2001; Iwata et al., 2010a).しかし近年では,気候変動の影響が冬 季にも及び,オホーツク網走地域を含む道東地方では 凍結深が減少し,凍土層の消失日が早期化してきてい る(Hirota et al., 2006;原田ら, 2009).そのため凍結が 及んでいない下層に,より多くの融雪水が浸透するよ うになった(Iwata et al., 2010a; Iwata et al., 2010b).オ ホーツク網走地域では,融雪期の浸透水中の硝酸態窒 素濃度が1年のうちで最も高くなる傾向が報告されて いることから(鈴木·志賀, 2004),上記のような気候 変動は,水文環境の変化を通した環境負荷流出の増大 にも結び付くことが懸念される.今後,気候変動に対 応した適切な栽培方法や土壌管理,施肥管理を検討す るためには,浸透水量の定量化を含む,年間を通した 水分動態の特徴を明らかにする必要がある.

筆者らは,オホーツク網走地域の畑圃場において,

凍土のマトリックポテンシャルを地温から算出し,ま た未凍土では誘電水ポテンシャルセンサを用いること によって,マトリックポテンシャルの通年観測を行っ た(鈴木ら, 2014).その結果,凍土層の発達によって,

上向きの水移動が2∼3か月にわたって続くこと,表

(16)

層では,土壌が凍結することによって,非凍結期より もマトリックポテンシャルがはるかに低下(乾燥)す ること,下層土(凍結が及ばない深さ)では,凍結期の 上向きの水移動(深さ0.35∼0.45 m)によって,非凍 結期で無降雨日が連続する時期と同等,ないしはそれ よりも乾燥することが明らかになった.そこで本研究 では,これらの観測体制に体積含水率の観測と水移動 量の解析を加えることにより,土壌の凍結と融解,お よび融雪水の浸透が,気候変動下における農地の土壌 水分量の変化や土壌中の水移動にどのような特徴をも たらすのかを明らかにすることを目的とした.

2. 試料および方法

2.1観測区の概要と観測機器

観測は,東京農業大学網走寒冷地農場(N 4355’ 09”, E 14423 ’06”, Alt. 12 m)で行った.本圃場はなだら かな丘陵地となっており,観測区を丘陵の頂上に設け た.土壌は淡色黒ボク土であり(伊藤ら, 2008),土性 は壌土∼埴壌土,間隙率が0.54∼0.61 m3m−3,飽和 透水係数が10−4cm s−1程度の排水性の比較的良好な 畑地である(鈴木ら, 2014).観測区において,降雨量

(TR525M, Texas Electronics, Inc.),地温(熱電対),体 積含水率(CS616, Campbell Scientific, Inc.),マトリッ クポテンシャル(MPS-1, Decagon Devices, Inc.)を測定 した.体積含水率以外の観測は,鈴木ら(2014)に記 述した通りである.2009年7月18日に,観測区の中 央に土壌断面を設け,深さ0,0.05,0.15,0.25,0.35,

0.45 mに熱電対を,深さ0.05,0.15,0.25,0.45 mに CS616を,また深さ0.35 mと0.45 mにMPS-1をそれ ぞれ水平方向に埋設した.これらのセンサをデータロ ガー(CR10X, Campbell Scientific, Inc.)に接続して1 分毎に測定し,地温と体積含水率,およびマトリック ポテンシャルについては10分毎に平均値を,また雨量 については積算値を記録した.2011年10月13日から

は,深さ0.35 mにもCS616を埋設した.気温と相対湿

度は別途,データロガー付き温湿度センサ(TR-3100, TR72-Ui, T&D)によって1時間間隔で計測した.土壌 断面を埋め戻した後,地表面が水平になるように整地 し,観測区からの表面流出及び周囲からの流入を防ぐ ため,測器を埋設した個所を囲む1 m×1 mの周囲を

0.15 m程度盛土した.TR525Mは転倒ます式雨量計で

あり,冬季の降雪水量を測定する事が出来ない.その ため,11月から翌年4月までの間は,小倉(1999)を参 考に,(i)日平均気温が0C以下,(ii)日平均気温が0

∼2Cで,かつ相対湿度が50∼90 %,(iii)日平均気温 が2∼4Cで,かつ相対湿度が50∼70 %,(iv)日平均 気温が4∼5Cで,かつ相対湿度が50∼60 %,のいず れかの場合は,ロガーに雨量計の出力値が記録されて いても降雪によるものとみなし,降雨に含めなかった.

CS616による体積含水率の測定と,MPS-1によるマト

リックポテンシャルの測定については,センサを埋設 した深さから攪乱土を採取して持ち帰り,実験室内に

てセンサの較正を行った.CS616については,センサ の出力値(反射波の周期,単位はµs)と体積含水率の 関係を求めて3次の曲線で近似した.MPS-1について は,テンシオメータと比較することによって,指数部 分をセンサの出力値(電圧)の3次式とした指数関数 で近似した(鈴木ら, 2014).Decagon Devices(2008)

には,MPS-1のマトリックポテンシャル測定の上限値

が−10 kPaと記載されているが,本研究では較正の結

果,現地で観測されたMPS-1の出力値660∼820 mV に対応するマトリックポテンシャルは,−60∼ −2 kPa であった.

観測期間中,観測区を裸地として管理した.本研究 では,2011年7月∼2012年6月に得られたデータに ついて検討した.

観測区では積雪深の連続観測を行わなかったが,観

測区から2.2 km離れた網走市音根内地区における日

本気象協会北海道支社のマメダスデータを引用した.

年に数日ずつ,観測区周辺の積雪深を定規で測定した ところ,音根内マメダスデータの積雪深より0.02 m程 度少ない値であった.また積雪深を測定する際,岩田

(2010)を参考にして積雪水量の測定も行った.内径

57 mm,長さ600 mmの塩化ビニール製の円筒を,観

測地点近傍で雪の上面から鉛直に挿入し,雪をこぼさ ないように引き抜いたのち,円筒内に採取された雪を ビニール袋に入れて密封した.雪の質量と体積から雪 密度を算出し,積雪深から積雪水量を算出した.観測 期間中,0C以下の地温が連続的に観測されていた期 間を凍結期,そのほかの期間を非凍結期とした.地温 の鉛直分布において,0Cをまたぐ深さの地温を直線 で結んだ際,0C以下となる範囲を凍土として凍結深 を求めた.

2.3凍土層下層の水フラックスの定量化

後述するように,最大土壌凍結深は0.3 m程度で あった.そこで深さ0.40 mの水フラックスq0.40(cm s−1)を,以下のバッキンガム·ダルシー式により求 めた.

q0.40=−k(θ0.40)×(ψ0.35−ψ0.45

z +1 )

(1) ここに,k(θ0.40)は深さ0.40 mにおける不飽和透水係 数(cm s−1)で,同深さの体積含水率θ0.40(m3m−3) の関数である.ψ0.35とψ0.45はそれぞれ,深さ0.35 m

と0.45 mのマトリックポテンシャル(cm)であり,∆z

は2点間の距離(=10 cm)である.q0.40が正のとき,

水移動は上向きであることを示す.θ0.40は深さ0.35

mと0.45 mで測定した体積含水率の算術平均とした.

k(θ0.40)は,One-Step法(Doering, 1965)によって求め るとともに,以下のMualem-van Genuchtenモデル(van Genuchten, 1980)によって推定した.

k(θ0.40)=ksS

1

e2

( 1−(

1−Sem1 )m)2

(2)

(17)

研究ノート:凍結をともなうオホーツク網走地域の農地における土壌水分の季節変動の特徴 7

Fig. 1 深さ0.40 mの水分特性曲線と不飽和透水係数.

Matric potential and unsaturated hydraulic conductivity at a depth of 0.40 m as a function of soil water content.

Se= (θ−θr) (θs−θr)=(

1−(−αψ)n)−m

(3)

m=1−1

n (4)

ここに,ksは飽和透水係数(cm s−1),Seは有効飽和度

(無次元),ψはマトリックポテンシャル(cm),αと nはフィッティングパラメータ,θrは残留体積含水率

(m3m−3),θsは飽和体積含水率(m3m−3)である.そ のため2012年6月28日に,観測区近傍から深さ0.40 mの不攪乱土と攪乱土を採取した.不攪乱土は容積50

cm3と100 cm3のステンレス製円筒容器を用い,それ

ぞれ8個および6個ずつ採取した.50 cm3の不攪乱土

はOne-Step法による不飽和透水係数の測定に供試し,

100 cm3の不攪乱土は,飽和透水係数の測定および水

頭法(0∼ −200 cm)と加圧板法(−500,−1,000 cm)

による水分保持特性の測定に供試した.さらに,攪乱 土を用いて遠心法(−3,200,−8,000 cm)によっても水 分保持特性を測定し,不攪乱土の結果と合わせて水分 特性曲線を求めた.式(3)において,θs とθrはそれ ぞれ,毛管飽和状態およびマトリックポテンシャルが

−8,000 cmにおける体積含水率とした.αとnは,水 分特性曲線における実測値と推定値の差の二乗和が最 小になるように決定した.

2.4凍結期間の水収支の算出

地表面を境界とする水移動が鉛直一次元で生じてい るものと仮定し,凍結期間中の水収支を以下のように 検証した.

In=SafterSbeforeFf (5) ここに,In,S,Ffはそれぞれ,凍結期間中の地表面 への浸入量,凍結期間前後の地表から深さ0.40 mまで の土壌水分貯留量,凍結期間中の深さ0.40 mの積算水

フラックスであり,単位はすべてmmである.S は,

深さ0.05,0.15,0.25,0.35 mで測定した体積含水率 が,それぞれの深さの上下0.05 mの体積含水率を平均 する値であると仮定し,以下の式から求めた.

S =∑

θ×h×103 (6)

ここに,∑

θは深さ0.05,0.15,0.25,0.35 mで測定し た体積含水率の和(m3m−3),hは各深さの体積含水率 が代表する土層の厚さ(0.10 m)である.式(5)のS

の添え字beforeとafterは凍結開始直前と融解直後を

示す(後述).またFfq0.40を積算することによって 求め,下向き(系からの浸透)が負である.雪面から の蒸発は,一般に極めて小さいために考慮しなかった

(Hayashi et al., 2005; Hirota et al., 2009).

3. 結果

3.1不飽和透水係数

深さ0.40 mにおける,水分特性曲線と不飽和透水係

数(k(θ0.40))をFig. 1に示す.One-step法によって求 めた実測値は限られた範囲(体積含水率0.33∼0.38 m3 m3)での値であったが,Mualem-van Genuchtenモデ ルによる推定値(式(2))とよく一致した.また一般 に,不飽和透水係数と体積含水率との間にはヒステリ シスがほとんど無いとされていることから(Hasegawa and Sakayori, 2000),本研究では,式(1)中のk(θ0.40) にはMualem-van Genuchtenモデルによる推定値(式

(2))を採用し,深さ0.40 mにおける水フラックスq0.40 を算出した.

3.2土壌の凍結と土壌水分の季節変動

Fig. 2に,降雨量,日平均の気温,積雪深,凍結深,

日平均の地温,日平均の体積含水率(深さ0.05 mと

0.45 m),深さ0.40 mの水フラックス(日単位で積算)

を示す.なお水フラックスについて,文章中では符号

(18)

の代わりに「上向き」,「下向き」と表記し,絶対値の 大きさで評価する.

12月中旬に凍土層が形成され始め,4月の上旬に凍 土が融解した.最大凍結深は0.28 m,凍土層内で観測 された最低地温は−1.2C(深さ0.05 m)であった(Fig.

2d, e).本観測区の凍結深は,2009∼2010年,および 2010∼2011年も0.3 m程度であった(鈴木ら, 2014).

一方で本農場では,2000∼2001年および2001∼2002 年に,観測箇所によりばらつきはあるものの,0.4∼0.7 mの凍結深が観測されていたことから(荻野ら, 2002;

荻野ら, 2003),近年の土壌凍結深は過去よりも非常に 少ない.

凍結開始後,2012年3月16日まで,深さ0.40 mで は上向きの水移動が続いたが,その量は非常に少なく,

最大でも0.03 mm d−1であった(Fig. 2g).3月16日 の時点で,土壌凍結深は0.26 m,凍土層内の最低地温 は−0.2C(深さ0.15 m)であったが(Fig. 2d, e),そ の翌日より,日平均気温が上昇して0Cを上回るよう になり,融雪の始まりとともに深さ0.40 mで下向きの 水フラックスが観測されはじめた(Fig. 2b, c, g).こ のときの融雪水の浸透に伴う下向きの水移動は5月10 日まで続き,総量は106.5 mm,最大値は11.7 mm d−1 であった(Fig. 2g).この大きさは,6月17日に観測

された46 mmの降雨時の下向き水フラックス2.1 mm

d−1(Fig. 2g)よりもはるかに大きかった.消雪日以

降,2012年6月上旬に水移動が上向きに転じたが,そ の大きさは凍結期間中と同様に,極めて小さいもので あった(Fig. 2g).

土壌凍結期間中,深さ0.05 mは凍土層内に相当す る.土壌が凍結しても,凍土内の土壌水の一部は液体 の様態を保って存在する(これを不凍水と呼ぶ).本 研究で使用したCS616は液状水の体積割合に比例した 出力値を示すため(Mohammed et al., 2013),凍結期間

中,深さ0.05 mの体積含水率はゼロにはならない.

凍土層消失間際で,上述した下向きの水フラックス の最大値が観測された2012年4月4日,深さ0.05 m の体積含水率が0.42 m3m−3となった(Fig. 2f).これ は表層の融解と,継続した融雪水の浸透によるものあ るが,非凍結期で最も多くの雨(88.2 mm d−1)を記録 した2011年9月2日を含む,2011年8月15日から同 年9月30日の多雨時においてさえ,土壌水分量がこ の値を超える事はなかった(Fig. 2a, f).

深さ0.45 mの体積含水率は,12月上旬から3月上旬 にかけてゆっくりと減少した後,融雪水の浸透に伴っ て増加に転じ,2012年3 月17日から4 月4日にか けて,0.41 m3m−3から0.46 m3m−3に増加した(Fig.

2f).非凍結期の多雨時における同深さの体積含水率 は,2011年9月2日の降雨によって0.42 m3m−3から 0.45 m3m−3に増加していたことから(Fig. 2f),下層 では多量の降雨が見られた時と凍土層融解期の土壌水 分量の変化が類似した.

3.3凍結期間の水収支

深さ0.40 mでは,凍結が始まる直前は水移動がほと

んどなく,凍結が始まった2011年12月13日から下 向きの水移動が観測される2012年3月17日まで,合

計で1.6 mmの土壌水が上向きに移動した(Fig. 2g).

下層から凍土層に取り込まれた水分量は非常にわずか であったといえる.

観測の結果から,凍結開始直前と融解直後の日付を それぞれ2011年12月12日および2012年4月12日 とすると,Sbefore,Safter,FfはそれぞれTable 1に示す 値となり,Inは114.4 mmとなった.一方,2012年3 月16日に測定した積雪水量は116.5 mmであり(雪密 度0.33 Mg m−3,積雪深353 mm),Inはこの値にほぼ 等しかった.Fig. 2に示す通り,2012年4月11日に は音根内マメダス地点では積雪がなく,観測区におい ても凍土層が消失していた(地表面温度が0C以上で あった)ことから,積雪は残っていなかったものと考 えられる(Fig. 2c, d, e).さらに前述の通り,凍土の表

Fig. 2 降水量(a),気温(b),積雪深(c),凍結深(d),地温 (e),体積含水率(f),積算水フラックス(g)の経時変化.

Time series of rainfall (a), air temperature (b), snow cover thick- ness (c), frost depth (d), ground temperature (e), volumetric soil water content (f), cumulative water flux at a depth of 0.40 m (g).

(19)

研究ノート:凍結をともなうオホーツク網走地域の農地における土壌水分の季節変動の特徴 9

Table 1 凍結期間中の浸入量(In),凍結期間前後の土壌

水分貯留量(S),凍結期間中の積算水フラックス(Ff).

地表面から深さ0.40 mまでを対象とする.添え字before afterは凍結開始直前(20111212日)と融解直後

2012412日)を示す.

Amount of infiltration during soil freezing period (In), soil wa- ter storage between surface and 0.40 m before (Sbefore; 12 De- cember 2011) and after (Safter; 12 April 2012) soil freezing, cumulative water flux at a depth of 0.40 m during soil freezing period (Ff).

In Sbefore Safter Ff

mm

114.4 132.5 162.0 −84.9

層が融解した際に,深さ0.05 mの体積含水率が著しく 増加したものの(Fig. 2f),間隙率(0.61 m3m−3)の 70 %未満であったことから,融雪による湛水は生じて いなかったものと考えられる.また本研究では,観測 区の周囲に畝を設けて地表面流出と系外からの流入を 防いだ.以上のことより,融雪水は,その全量(116.5 mm)が湛水せずに,凍土層が完全に融解するまでの間 に土壌に浸入したと考えることができる.

4. 考察

1年を通した水分動態の観測の結果,表層の土壌水 分は融解直後が1 年で最も湿っていることが明らか になった.また融雪水の浸透が,非凍結期間の多雨時 よりも大きな水フラックスをもたらした.さらに,土 壌の凍結·融解と融雪水の浸透に伴う下層の土壌水分 の変化が,非凍結期の連続した無降雨による乾燥とそ の後の降雨による変化と同等のものであった.これら の特徴は,既往の研究(Hirota et al., 2009; Iwata et al., 2010b)と矛盾しない.道東地方における排水性が良 好な畑圃場としての典型的な水分動態であったとい える.

従来,道東地方では,融雪水が地表で停滞し,表面 流去することによって,河川への土砂や水質負荷の流 出が懸念されてきたが(秀島ら2002;鵜木ら, 2003),

本研究では,融雪水が湛水することなく浸透した.岩 田ら(2011)は,十勝地域における凍結深と融雪水の 浸透水量の詳細な観測結果をもとに,凍土層下層への 融雪水の浸透が凍結深に強く依存すること,またこれ は,凍結深の増加に伴って,透水間隙の連続性が氷に よって切断される確率が増えるためであることを述べ た.前述の通り,本研究の観測区を設けた網走寒冷地 農場において,過去には0.4∼0.7 mの凍結深が観測さ れていたことから,本研究の結果は,凍結深が減少し たことによって,融雪水の浸透に対する凍土の抵抗が 弱まったことを表している.加えて,黒ボク土の特徴 を反映し,浸透した融雪水を保持できる間隙が多かっ たことも,湛水が生じなかった要因として挙げられる.

Yanai et al.(2017)はまた,十勝地域の畑圃場を対象 に,融雪期間中の深さ0.50 mの下方浸透量(In f,mm)

が融雪水量(SnowMelt,mm)に占める割合(r,無次 元)について,最大土壌凍結深Dmax(m)の関数とし て以下のモデル式を提案した.

r= In f

SnowMelt = 1

1+exp(−4.3+14.9Dmax) (7) 本研究で得られた凍結深の最大値(0.28 m)を上式 のDmax に代入すると,rは0.53となった.一方で,

In fSnowMeltを本研究の実測値から求め,rの算出 を試みた.すなわち,

In f=|F0.40| −∆θ0.45×h×103 (8) ここに,F0.40は融雪期間中(2012年3月17日∼4月 8日)のq0.40の積算(mm),∆θ0.45は融雪期間前後の 深さ0.45 mの体積含水率の増加量(m3m3)である.

SnowMeltを前述の116.5 mmとしてrを求めると0.67 となり,Dmaxより求めた値よりも大きいものとなっ た.Yanai et al.(2017)が対象とした土壌は,本研究の 観測区と同様に排水性の良い淡色黒ボク土であった.

しかし凍土は,固相,氷,不凍水,気相の4相系であ り,不凍水の体積割合は一般に,土壌の種類や土性に よって異なるとともに,0C近傍では温度のわずかな 上昇に伴って急激に増加する(Suzuki, 2004; Watanabe

and Wake, 2009).その結果として,氷の体積割合の温

度による変化は0C付近で著しい.本研究では,融 雪が始まる直前の凍土層内の最低地温は−0.2Cと0

Cに近かったこと,また母材や土性の違いから,融雪 水の浸透に対する氷による阻害の影響が緩和されてお り,浸透水量(In f)の割合が相対的に大きくなったも のと考えられる.このことが,Dmaxを用いてYanai et

al.(2017)のモデル(式(7))より求めたrと,本研

究で観測されたIn fSnowMeltを用いて求めたrと の相違の一因となったものと推察される.

5. おわりに

本研究では,冬季に土壌が凍結し,積雪のあるオホー ツク網走地域の畑圃場を対象に, 土壌水分量の変化や 土壌中の水移動の通年観測を行い,凍結期の水収支の 評価を試みた.観測区では,土壌が凍結しても融雪水 の浸透を阻害するほどの凍結深にはならず,融雪水が 湛水せずに,凍土層の融解前に土壌中に浸入した.本 研究の観測結果は1事例を示したに過ぎないが,同じ 道東地方にある十勝地域での事例に比して,同一の凍 結深でも融雪水が相対的に浸透しやすい傾向にあるこ とが示唆された.これに伴って,1年のうちで体積含 水率が最も高くなるのは,融解直後の表層の土壌であ ること,深さ0.40 mにおける下向きの水フラックスの 最大値は,融雪水が浸透する際にもたらされること,

(20)

下層の土壌水分の変化が,凍結期と非凍結期で類似し ていることが明らかになった.

以上のことが,凍結深が近年減少傾向にあるオホー ツク網走地域の畑圃場における,水分動態の特徴であ ると結論できる.

本研究でマトリックポテンシャルを測定した誘電水 ポテンシャルセンサ(MPS-1)は,現在では生産が終 了しており,入手できるのはその後継機種であるが,

センサのキャリブレーションを慎重に行うことによっ て,凍土層下層の水移動について連続的に,また定量 的に観測できることが示された.

謝辞

本研究の一部は,科学研究費補助金(若手研究(B),

課題番号 20780178 および基盤研究(C),課題番号

17K08008)と,東京農業大学大学院高度化推進事業の 補助を受けた.また本研究の遂行にあたって,宮本伸 夫氏の協力を頂いた.さらに高橋悟名誉教授より,原 稿に対して貴重な助言を賜った.これらの方々と,マ メダスデータを提供いただいた日本気象協会北海道支 社,およびその使用許可をいただいたJAオホーツク 網走に記して謝意を表します.

引用文献

Decagon Devices (2008): MPS-1 Dielectric Water Potential Sen- sor Operator’s Manual. Version 2.0, pp. 24. WA.

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Fig. 2 Hirota et al. ( 2005 )で構築した大気−積雪−凍結土 壌の相互作用が観測できるシステム.
Fig. 4 多試験区 · 大規模な観測体系のデータ管理と高度な
Fig. 8 厳冬期における雪割り後の乾燥した凍結土壌の畑(左)と雪割り後に土壌凍結したまま,融雪期に湛水状態に なった畑(右). た.ただし,土壌凍結深と融雪水の土壌への浸透割合 について,厳冬期に,一時的に気温の急上昇で降雨が 生じて,その後消雪して再凍結が進んだ場合は,通常 の年と異なった.すなわち,降雨後の気温の低下で多 量の雨水が地表面付近で凍結することで,土壌凍結深 が 0.1 m 台と比較的浅くても,融雪水の浸透が抑制さ れた例もあった. また,積雪 · 土壌凍結がある条件の方が,土壌水分 量
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