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ソーシャルワークに関する試論(3)

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《研究ノート》

保安職業従事者とその家族への ソーシャルワークに関する試論(3)

一米国のMilitarySocialWorkの現状と養成課程を参考に−

田中 顕悟

(2)

78鹿児島国際大学福祉社会学部議集第36巻第4号

研究ノート

保安職業従事者とその家族への ソーシャルワークに関する試論(3)

一米国のMilitarySocialWorkの現状と養成課程を参考に−

田 中 顕 悟

和文抄録:本研究では、前稿「保安職業従事者とその家族へのソーシャルワークに関する試論(1)

(2)」に引き続き、保安職業従事者(特に自衛官)とその家族を対象としたソーシャルワークに関し、

jVASWSta"damIslbrSbcノョノWbI3kRmc雄ewf的SEIWbeMembe心咋tEm"S&mejrRam雌sを題

材に論考を行った。その結果、彼らへのソーシャルワークの展開に際しては、アメリカのMilitarySocial Workの知見を参考としながらも、わが国独自の理論構築を行う必要があることを指摘した。また、そ の際に彼らを取り巻く環境要因としての「国内・国際情勢」「組織」「任務」の影響と、彼らの身体的・

心理的・社会的側面に影響を及ぼす「職業文化」の特性に関する視点を保有したソーシャルワークの 展開が必要であることを提言した。

キーワード:保安職業従事者・MilitarySocialWork・MilitarySocialWorker 1.序論

1 − 1 . は じ め に

これまで、「保安職業従事者とその家族へのソーシャルワークに関する試論(1)(2)」(以下、前稿)では、

アメリカのMilitarySocialWorkの定義等の集約ならびにjV5ASWSZandardSibrSbcjaノWbr9AErz2ctjbewth SBrvjbeMemberaVe舵、"S,&meir鹿、雌sの「(1)Introduction・Definitions・GuidingPrinciples・Goals」

および「StandardsfbrProfessionalPracticel〜6」をもとに、MilitarySocialWorkの全体像について整理を 行った。その結果、我が国では十分な実践・研究活動が見られない保安職業従事者(特に自衛官。以下、本研 究において保安職業従事者と表記する場合は、自衛官を表すものとする)とその家族を対象としたソーシャル ワークに関し検討を進める際には、先ず何よりも彼らが所属する職業集団の環境とその特徴ならびに任務の内 容の固有性等を十分に把握・理解する必要性があることが推究された。

そこで本稿では前稿に引き続き、jV5ASWSza"dardslbrSbcjaノWbr9kEmc比ewj的SEIWbeMembe心 Vetem"S&nheir鰯、雌sを題材とし、特に「Standard7〜12」の概要の整理をすすめ、前稿までの総括と

して保安職業従事者とその家族へのソーシャルワークの試論を展開する。

1−2.研究対象と研究目的

本研究は、前稿と同様に、総務省の「日本標準職業分類」を参考とし、昨今の保安職業従事者を取り巻く国

内外情勢の著しい変動と、それに伴う自衛隊という職業の場における任務の内容の変化がもたらす隊員とその

家族の生活への影響を考慮した際に、生活の全体性と継続性に着目し、かつ人間と環境の接点に介入するソー

(3)

田中顕悟:保安職業従事者とその家族へのソーシャルワークに関する試誇(3)79

シャルワークを基盤とした体系的な支援システムの構築について検討を進める必要性が十分にあると考え、「日 本標準職業分類」の「F保安職業従事者」のうち「自衛官」とその家族を研究対象として措定した。

そこで、「日本標準職業分類」では本研究の対象である保安職業従事者を「国家の防衛、(略中)などの仕事 に従事するもの」と規定していることから、既にアメリカでは「国家の防衛」に関わる職業集団いわゆる

「Military」に所属する人々(ここでは特に兵士本人とその家族等)へのソーシャルワーク(MilitarySocial Worko以下、MilSW)の実践が展開され、なおかつ大学院において専門職(MilitarySocialWorkero以下、

MilSWer)が養成され、既にMilitaryに配属されている状況に着目し、その実践・養成に関わる知見ならびに 知識・技術等を明らかにし、将来的にそれらの我が国おける保安職業従事者とその家族に対する支援への活用 等について試論を展開することを目的とした。

1−3.本研究の構成と研究方法

本研究では、上記の研究目的にそって次のような課題を設定した。

l)アメリカのMilSWとMilSWerの養成が、理論・実践的見地からソーシャルワークの一領域としての固有性 を有していることを確認する。

2)l)を基盤に、NationalAssociationofSocialWorkers(全米ソーシャルワーカー協会、以下NASW)が 発刊しているjVASWSzzmdardsibrSbcjaノWbrkErzIc比ew伽SbrW℃eMembeIs,I/bzem"s&Their RIm雄sを元に、MilSWの展開に伴いMilSWerに修得が期待される知識・技術及び全体像について整理を

行い、我が国におけるそれらの活用の可能性について論考を行う。

研究方法は、研究目的・研究課題にそって、MilSWの概要・実践状況・支援対象およびMilSWerの養成体系 に関わる文献・資料ならびにMilSWに関わる機関がWeb上で公開している資料・情報等を活用した。

また、2011‑2012年に筆者がアメリカのMilSWerの養成課程がある大学院での講義等に参加し得た資料等を 参考にした。その中でも特に、NASWが刊行しているjWlSWSta"dardsjbrSbcjaノWbrk没r計aC此ewfthSerW℃e MbmberaVetem &Their鹿、雌sに着目し、MilSWの固有性等について整理・分析を行うことで、我が国

の保安職業従事者とその家族への支援に際し活用可能な示唆を得ることを狙いとした。

なお、本報告は文献・資料による研究であり、参照した文献の存在・出典を明示するとともに、先行研究が 示す知見と自らが明らかにした知見を区別し論考を行った。

Ⅱ 本 論

Ⅱ−1.ノVASWS掴"ぬmls/brSDc陶ノWbノォPケz『c施eしWiソ7sen"beA"embeノSl/eねノ臼"&&777e〃Faノ77"Ves の全体像

前稿に続き、NASWが作成・公開している、MilSWerの養成にかかわる方針ならびにサービスの基準および 実践者へのMilSWに関する継続した教育・トレーニングにかかわるプログラムのためのガイドラインである MlSWStandardsjbrSbcノョノWbKkRmc雄ew的SerW℃eMembers,I/eだ、"S&Z1hejr鹿mjI/es(以下、ガイ

ドライン)をもとに論考を行う。

本研究で、このガイドラインを題材に論考を進める根拠としては、本研究の対象が保安職業従事者とその家 族であるように、本ガイドラインでもその対象を「ServiceMembers」(兵士本人。以下、SM)と「Veterans」

(退役軍人。以下、VT)及び「TheirFamilies」(家族)としているためである。

また、この「Standards」に関しNASWは、ソーシャルワーカーが提供すべきサービスを示すベンチマーク ならびに新人および熟練したソーシャルワーカーにとっての「ツールキットの役割を担う」(NASWPractice

&ProfessionalDevelopment)ものであるとしている。

そこで本稿では、このガイドラインで示されている項目の内、「(2)StandardsfbrProfessionalPractice」の

中 で も 「 S t a n d a r d 7 . P r o f e s s i o n a l D e v e l o p m e n t 、 S t a n d a r d 8 . S u p e r v i s i o n , L e a d e r s h i p , E d u c a t i o n , a n d T r a i n i n g ,

(4)

80鹿児島国際大学福祉社会学部論集第36巻第4号

S t a n d a r d 9 . D o c u m e n t a t i o n 、 S t a n d a r d 1 0 . I n t e r d i s c i p l i n a r y L e a d e r s h i p a n d C o l l a b o r a t i o n 、 S t a n d a r d 1 1 . C u l t u r a l Competence、Standardl2Advocacy」(NASW2012:26‑37)の概要について整理を行い、保安職業従事者と その家族へのソーシャルワークの試論を展開する。

Ⅱ−2.「(2)StandardsforProfessionalPractice」の概要

「StandardsforProfessionalPractice」の各項目の基準についてNASWは、「個々のソーシャルワーカーが提 供すべきサービス内容ならびに受けてきた専門教育内容やこれまでの経験そして雇用状況に即して、その適用 を判断することが望ましい」・「基準の記述順序はその重要度の順位を反映していない」(NASW2012:13)と

している。以下、各項目の概要を抜粋・整理する。

Standard7.ProfessionalDeveIopment(基準7.専門性の向上)

本項では、SM・VTとその家族と活動するソーシャルワーカーは、jVGASWSta"dams CbI]tinumg pmf9ssjひ"aノ団ucatjbn(NASW2002)と州の必要要件に従い、継続的に専門性を深める個人的義務があると

している。また、ソーシャルワーカーが彼らと共に活動をするシステムは複雑かつ変化する場合があるため、

そのシステムに関する理論ならびに実践知識、そして心理社会的・医療的・精神と行動にかかわる医療サービ スに関するネットワークに精通していることが必要不可欠であるとしている。

また、本項目に関する解説の要旨として、効果的な支援活動を展開するためには、最善または最新の実践モ デルおよび自らが働くシステムの変化について熟知している必要がある、としている。ソーシャルワーカーは、

兵役と関連した健康と行動上の健康問題が、SM・VTの戦闘経験あるいは戦闘に関連した活動に従事したこと が時間的経過により変化することと、それらの健康と行動上の健康問題に特化した、研究と根拠に基づいた治 療に関した情報に精通している必要があると指摘している。さらに、この目的を果たすため、ソーシャルワー カーは教育や研修を通じ継続的に自らの業務を改善し、こうした知識を同僚にも広めるよう努める必要がある としている。

Standard8.Supervision,Leadership,Education,andT1raining(基準8.スーパービジョン、リーダーシッズ教育、研修)

本項では、SM・VTとその家族と活動するソーシャルワーカーは、この集団に直接的・間接的に影響する個 人、集団、組織と共に、教育、スーパービジョン、管理、研究エフオートについてリーダーシップを発揮する 義務がある、としている。

本項目に関する解説の要旨として、新人のソーシャルワーカー、または新たにこの領域の支援活動に転向し たソーシャルワーカー、そしてその能力を深めつつあるソーシャルワーカーに、教育や研修、指導の機会を提 供するだけでなく、その専門知識やコンサルテーションを、個人、集団、組織に提供することが必要としてい る。さらに、可能であれば熟練したソーシャルワーカーは、ソーシャルワークの教育機関やコミュニティの継 続学習の場と協働し、軍とVTのソーシャルワークのプログラムを公的にサポートし、この専門分野への関心を 高め奨励するとともに、実習中のソーシャルワーカーや研修医、学生へのスーパービジョンの他、ソーシャル

ワークという専門職とソーシャルワークの介入の有効性を証明する必要があるとしている。

Standard9.Documentation(基準9.記録)

本項では、ソーシャルワーカーには、SM・VTとその家族とのソーシャルワーク・サービスの記録の種別を 提示すると共に、その作成・管理上の留意点について整理している。また、そこには支援目標に応じ、クライ アントとクライアントシステムのアセスメントや支援に適切な情報・クライアントのソーシャルワークの関わ

りと結果・立法に関する管理上の規則と方針が反映される必要があるとしている。

本項目に関する解説の要旨として、明確で簡潔に整理された記録は、質の高いソーシャルワーク・サービス を保証するものであり、ソーシャルワーカーや他の専門家、クライアントとのコミュニケーション方法として 役に立つとしている。

Standard10.lnterdisciplinaryLeadershipandColIaboration(基準10.学際的なリーダーシップと連携)

ソーシャルワーカーは、SM・VTとその家族に対するサービスの包括的な提供に向け、様々な研究分野にか

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田中顕悟:保安職業従事者とその家族へのソーシャルワークに関する試論(3)81

かわる組織間の協力を深めるよう努めるべきである。ソーシャルワーカーはそのクライアントと関連する地方、

州、連邦の組織と提携して働く必要があり、このような連携を可能とするのは、相互の尊敬・情報の共有・効 果的なコミュニケーションであるとしている。

本項目に関する解説の要旨は次のように整理される。

多くの学問分野にまたがるチームのリーダーかつメンバーとしてソーシャルワーカーは、その業務分野の総 合的な目標と目的・課題を自覚し、クライアントや家族、その他関係する専門家と組織にそれらを説明する必 要がある。また、チームアプローチの一環として、ソーシャルワーカーに求められる能力は以下のように整理

される(NASW2012:31‑32)。

・所属している機関や組織・グループの使命と機能を理解する。

・他の関連する専門家および組織の役割を理解する。

・他の専門分野や機関と適切にコミュニケーションを行い、協力し協働で支援を行う。

・クライアントの幸福に関わる可能性がある個人や組織とのコミュニケーションを進め、クライアントを励

まし支える。

・ソーシャルワークの役割と責任をチームの他のメンバーに明確に説明でき、かつ確実に伝えられているよ うにする。

・各協働組織の役割と責任が明確に説明でき、かつ確実に伝えられているようにする。

・クライアントの情報を敬意を持ちつつ客観的な方法で伝え、クライアントの守秘とプライバシーを守る。

・リーダーシップと意思決定の役割について協働する。

.SM・VTとその家族のニーズと関連した内容の領域においては、専門知識の分野を明確にする。

Standard11.CulturalCompetence(基準11.文化的能力)

ソーシャルワーカーは、SM・VTとその家族に関係するとされる歴史・伝統・価値観・システムについての 専門的な知識を向上させ続ける必要がある。またソーシャルワーカーは、jWlSWS dardsjbrCu/tumノ Cbmpete"cemSbcja/WbI今ArRrlac此e(NASW2001)に精通し、これに従って行動する必要がある。

また、本項目に関する解説の要旨は次のように整理される。

SM・VTとその家族の生活が多様化していることから、ソーシャルワーカーには、SM・VTとその家族が、

彼らが関わるMilitaryという組織・部署の特性としての専門的な文化がどのように影響しているかを重視し、そ れに関する知識を継続的に取得し統合することが重要である。また、MilitaryとVTの文化と、こうした文化が 民間コミュニティとどのように相互に作用しているのかについて探求し、その偏見や俗説、固定観念を解消す る。さらに、クライアントの兵役に関する差別または偏見の可能性および人種や民族性・出身国・年齢・宗教・

性的指向・政治的信条・結婚歴.あるいは精神的または身体的障害等が、他の形の差別や偏見と同様の影響や 結果をもたらす可能性があることを認識する必要がある。

さらに、ソーシャルワーカーは個人と職業上の文化の両者を考慮する必要があるとし、それはクライアント がソーシャルワークを認識しアクセスする方法に影響を及ぼす可能性があるとしている。また、文化がこうし た決定や経験にいかに影響するのかを理解しているソーシャルワーカーは、ケアをより適切に調整することが できるとしている。さらに、jWlSWSta"daI9dsjbrCuノtumノCbmpeZe"CymSb ノWbrⅥrPmc此e(NASW 2001)によれば、文化的能力と文化に敏感であるためには、①倫理観と価値観。②自己覚知.③異文化知識.

④異文化スキル.⑤サービスの提供.⑥エンパワーメン卜と権利擁護.⑦多様な従事者.⑧専門教育.⑨言語

の多様性.⑩異文化リーダーシップ、が必要であるとしている。

Standard12.Advocacy(基準12.権利擁護)

本項目では、ソーシャルワーカーにはSM・VTとその家族のニーズと利益を擁護する責任があるとしている。

また、本項目に関する解説の要旨は次のように整理される。

ソーシャルワーカーは、全ての人々が基本的なヒューマンニーズを満たし、十分に成長するために必要な資

源・雇用・サービス・機会に確実に等しくアクセスできるようにすることを擁護する(NASW2008)。また、

(6)

8 z 鹿 児 島 国 際 大 学 福 祉 社 会 学 部 論 集 第 3 6 巻 第 4 号

ソーシャルワーカーには全てのクライアント、特にミクロおよびマクロレベルの両方で、公民権を奪われたか、

非常に傷つきやすいクライアントのニーズを擁護する特別な責任がある。ソーシャルワーカーはサービスを妨 げるものを特定し、積極的にそれらの障害を解消するよう努める。質の改善を擁護する責任は、ソーシャルワー カーが業務上の役割の拡大、リーダーシップ・プログラムの発展、新しい専門家の指導者として行動する義務 を意味する。さらに、SM・VTとその家族の支援活動に従事するソーシャルワーカーは、以下の事項を実践す る(NASW2012:36‑37)。

①クライアントとその家族が自分たちのケア目標を話し合い、ケア・システムを通じて協議すること支援す る。

②SM・VTとその家族の自己の権利擁護を可能とする、フォーマル・インフォーマルなコミュニティ資源を 効果的に活用することを支援する。

③クライアントの視点からケアの障害とニーズを特定し、すぐに利用が可能ではない資源とサービスをはっ きりさせる。

④クライアントが、自分自身の最高の擁護者となり自分のために擁護できるようクライアントと活動する。

⑤クライアントにとって、可能な限り最高のサービス提供と擁護システムを提供するため、外部組織や機関 との協働作業にかかわり構築する。

⑦SM・VTとその家族とのソーシャルワークに影響する裁判所判決や予算決定・法律・規則・規制と政策.

そして手続きを把握し、可能な場合はフィードバックを提供する

⑧クライエントにとって重要な訴訟や新政策・法律の制定・政策を支援するため、地方・州・連邦政府レベ ルでの協力者を把握する。

⑨政治的重要課題を理解すると共に、選出議員の地位を守る。

⑩政府のヒアリングと説明会に参加、あるいはこれらの内容を把握し、可能な場合は証言や解説を行う。

⑪ミクロ・マクロレベルからの、あるいは「事例から原因へ」としての権利擁護について理解する。

⑫職業上の役割の拡大、リーダーシップ・プログラムの発展、新しい専門家の指導を行う。

⑬広報者として、クライエントに固有なニーズとソーシャルワークの重要な役割について、教育関係者・報 道関係者・専門家・政策決定権者・その他の利害関係者を教育する。

⑭予算の検討が、専門職や彼らにどのように影響するかを理解し、必要に応じてソーシャルワークサービス の予算調達を強化することを提言する。

⑮専門職の役割におけるSM・VT等への支援の限界についての理解。

⑯クライエントや専門職に影響を及ぼす関連ニュースや最新動向について最新情報を入手する。

Ⅱ−3.考察

以上、本研究は三部構成によりNASWのガイドライン等の知見を題材とし、先ずはアメリカのMilSWと MilSWerの養成が理論・実践的見地からソーシャルワークの一領域としての固有性を有していることを確認し た 。

しかしながら、これらの知見はいずれも過去・現在のアメリカにおけるMilSWの実践・研究活動を基盤とし たものであるため、我が国の保安職業従事者とその家族へのソーシャルワークの展開については、本研究で明 らかとなった知見を基盤に、保安職業従事者とその家族を取り巻く情勢および環境等を考慮した、独自の理論 構築を行う必要があると考える。

一方、平成28年3月29日の「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を

改正する法律・国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関

する法律」の施行等の影響による、保安職業従事者とその家族を取り巻く状況ならびに自衛隊という職業の場

における任務の内容の変化は不透明であり、その変化が隊員の任務上のリスクの増大に直結するとは断言でき

ないながらも、将来的な彼らの生活への影響を無視することはできないと考えられる。

(7)

田中顕悟:保安戦業従事者とその家族へのソーシャルワークに関する試論(3)83

さらに、保安職業従事者の家族への支援に関する動きとして、2017年5月には、陸上自衛隊、自衛隊家族会 及び隊友会が「隊員家族の支援に対する協力に関する協定書」'を締結した他、これまでに既に複数の自治体と 自衛隊の駐屯地・基地との間で、留守(隊員)家族支援に関する協定が締結されており2,必要に応じ家族への 支援が行われている状況を鑑みると、予防的な見地からも彼らの生活の全体性と継続性に着目し、人間と環境 の接点に介入するソーシャルワークを基盤とした体系的な支援システムの構築について検討を進める必要性は

十分にあると考えられよう。

その際に必要となる視点の一つを示したものが「図l保安職業従事者と家族の生活課題への視点」である。

これは、ソーシャルワークの従来の実践視点に加えて、本研究で整理を行ったNASWのガイドラインの視点 を参考に、保安職業従事者とその家族へのソーシャルワーク実践に際しては、彼らを取り巻く環境要因である

「国内・国際情勢」「組織(防衛省・自衛隊全体と各隊員が配属されている駐屯地・基地等を指す)」ならびに保 安職業従事者が従事する「任務」の影響を考慮する必要があることを整理したものである。

さらに、ガイドラインの「StandardlLCulturalCompetence(基準11.文化的能力)」で示された「文化」を 自衛隊という「職業・職場」に固有の「職業文化」としてとらえ、それが保安職業従事者とその家族の身体・

心理・社会的側面とそこに生じる「複合的な生活課題」に影響を与えている構造を勘案し図表化した。

保安職業従事者と家族の生活に多大な影響を与える「任務」は、国内・国際情勢(安全保障環境の変動なら びに国内・国際政治の動向)からの影響が主であると考えられるが、加えて彼らが配属されている駐屯地およ

国内・

国際情勢

保安職菓従事者 家 族 保安職菓従事者

家 族

化 職 菓 文 化 職

任務

組織

ぴ基地(現在では、国際平和協力活動等における海 外での基地も含む)等のある地域社会との関係性に

よる影響も含まれると言えよう。

なお、この国内・国際情勢の変化は突発的に生じ ることもあり、それは彼らの任務に影響を与えるだ けでなく、家族の生活にも様々な変化をもたらし、

場合によってはそこで生じる生活課題への対応が必 要となる。また、その国内・国際情勢の影響を受け ながらも任務を遂行する「組織」である自衛隊、つ まり陸・海・空自衛隊の有する機能は固有のもので あり、そこでの任務の内容ならびに平素の訓練等も 異なっているため、その根底にある「職業文化」も 各組織において固有のものと言える。この「職業文 化」は、彼らの「身体的・心理的・社会的側面」に 重大な影響を与えていると考えられ、それは彼らが

重 大 な 影 響 を 与 ・ え て い る と 考 え ら れ 、 そ れ は 彼 ら が 図 1 保 安 職 業 従 事 者 と 家 族 の 生 活 課 題 へ の 視 点 ( 箪 者 作 成 )

所属する「自衛隊」という「組織」に特有のもので

あり、必然的にそれは平時および有事の「任務」とも大きな関連性を有していると推考される。

以上のことから、保安職業従事者とその家族を取り巻く「国内・国際情勢」「組織」「任務」は相互に影響を 及ぼす関係性を有しているとともに、彼らの「身体的・心理的・社会的側面」は、それらの複合的な影響の結 果、時として様々な生活課題に直面することになると考えられる。そのため、保安職業従事者とその家族への ソーシャルワークについては、これらの関係性への理解を深めるための視点の保有と、彼らをとりまく環境下 において彼らが直面する可能性のある生活課題への支援活動に際して必要とされる、専門的な知識ならびに支 援技術が求められると言え、そのためには保安職業従事者とその家族へのソーシャルワークに特化した養成・

研修プログラムの構築が必要になると考えられる。

(8)

84鹿児島国際大学福祉社会学部稔集第36巻第4号

Ⅲ . 結 論

我が国を取り巻く国内外の安全保障環境ならびにそれに関連した保安職業従事者とその家族を取り巻く国内 外の情勢は、戦後70年強の経過の中でも類のない局面にあると言えよう。そして、それらは将来的に自衛隊と いう組織体制およびそこでの任務に関連する法的基盤にも大きな影響を及ぼす可能性は否定できず、その結果 如何によっては、将来的に彼らの生活に何らかの変動を与える可能性も推測される。

そのため、ソーシャルワークの機能の一つである「予防的機能」の観点からも、現時点ではわが国では十分 な実践・研究経過が蓄積されていない保安職業従事者とその家族へのソーシャルワークに関し、アメリカの MiliSWの知見を基盤とし、わが国独自の理論構築ならびに展開について検討を進めていく必要性は十分に認め

られよう。

以上のことから、本研究でこれまで論考を重ねてきた事項を基盤に、我が国の保安職業従事者とその家族へ のソーシャルワークについては、現段階では以下のように整理される。

①保安職業従事者が所属する「組織」における「任務」の内容ならびに職業環境が、本人とその家族の生活 に及ぼす影響を考慮した支援が必要であると考えられ、その際に彼らの生活の全体性と継続性に着目し、

人間と環境の接点に介入するソーシャルワークを基盤とした体系的な支援システムの構築は有用であると 考えられる。

②保安職業従事者とその家族へのソーシャルワークの展開においては、彼らを取り巻くミクロ・メゾ・マク ロシステムを十分に理解・把握するとともに、特に刻一刻と変化する「国内・国際情勢」および安全保障 環境・政治変動が彼らの生活に与える影響を理解および考慮する必要があると考えられる

③保安職業従事者とその家族の支援に関わるソーシャルワーク専門職は、彼らの任務上および日常生活に大 きな影響を与えている「職業文化」を十分に理解すると共に、その影響を考慮した支援を展開する必要が ある。

保安職業従事者が所属する組織が担う任務の内容ならびにその職業環境は、我が国ならびに他国の安全保障 環境および政治変動の影響を大きく受けるものであり、それは彼らの生活において様々な生活課題の発生につ ながる可能性もある。その生活課題の解決に際しては生活の全体性・継続性の視点に基づき、人間がその環境 と相互に影響しあう接点へ介入するソーシャルワークは有用であると考える。

特に、彼らの身体的・心理的・社会的側面が不統合状態となる要因のひとつが、保安職業従事者自身の任務 に起因する可能性もあるため、彼らへのソーシャルワークの展開においては、その任務の内容と職業環境・組 織体系ならびにその根底にある職業文化が、彼らの生活にどのような影響を与えているかについて十分に理解 し、ソーシャルワークの専門的知識・技術を活用する必要があると言えよう。そのためにも先ずは、彼らの生 活実態および彼らを取り巻く情勢・環境の把握に努めるとともに、それに即した我が国独自のソーシャルワー

クモデルと専門職の養成・研修プログラムの構築が必要と考えられよう。

現代社会では、人々が直面する生活課題は多様化を極め、さらに複雑化・重複化していることは言うまでも ない。それらに対して、より柔軟かつ即応的に対応できる専門性および機能を有しているものがソーシャルワー クであると考える。今後は、本研究で論考を展開した保安職業従事者とその家族へのソーシャルワークだけで なく、より広い視点から様々な職業生活の場にかかわる人々とその家族へのソーシャルワークの展開について 検討を進める必要があると考える。

付記

本研究は独立行政法人日本学術振興会科学研究助成事業(科学研究費補助金)の(研究課題番号:26590124

挑戦的萌芽研究)の成果の一部である。

(9)

I11Il1顕悟:保安職業従事者とその家族へのソーシャルワークに関する試論(3)8ラ

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陸上自衛隊(2017)陸上自衛隊、自衛隊家族会及び隊友会による隊員家族の支援に対する協力に関する中央協定締結式について(http://

w w w j k a z o k u k a i 、 o r j p / 2 5 0 ‑ K a z o k u s i e n n / C h u o u k y o u t e i 、 p d f 2 0 1 7 年 1 2 月 2 0 日 検 索 ) .

2017年5月18日に、陸上自衛隊、自衛隊家族会及び隊友会の3者間において、隊貝家族の支援に対する協力に関して中央協定が締結さ れた。これは関係部外剛体等から家族支援に関する協力を受ける施策で、東11本大震災における家族支援の教訓から実効性のある家族 支援を行うために開始されたものとされる。中央協定の締結により、3者間の連挑を深め各部隊における家族支援の充実を図り、より 実効性の高い家族支援施策が推進されるとしている。(陸上自衛隊2017)

2 自 治 体 と 自 衛 隊 の 駐 屯 地 ・ 基 地 と の 災 害 派 遣 時 等 に お け る 留 守 家 族 支 援 協 定 は 複 数 見 ら れ 、 一 例 と し て 、 御 殿 場 市 ・ 裾 野 市 ・ 小 山 町 と 富士・滝ヶ原・板妻・駒門の各陸上自衛隊駐屯地(2011年)、東根市と陸上自衛隊神町駐屯地(2015年)、北海道夕張郡長沼町と航空自 衛隊長沼分屯基地(2014年)、綾瀬市と第4航空群(2015年)、千歳市と東千歳・北千歳駐屯地(2012年)、登別市と幌別駐屯地(2013年)、

留萌市と留萌駐屯地(2013年)、美幌町と美幌駐屯地(2013年)、恵庭市と南恵庭・北恵庭・烏松駐屯地(2013年)などが見られ、留守

家族の介護・子育て支援などに関する情報提供や、中には、夫婦で夫婦の隊貝の場合、駐屯地内の臨時託児所に保育士などが助言・指

導または保育士の派巡等が行われている。

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86鹿児島国際大学福祉社会学部蓋集第36巻第4号

AConsiderationofSocialWOrk

f b r S e c u r i t y W O r k e r s a n d t h e i r f a m i l i e s ( 3 ) .

B a s e d o n t h e p r e s e n t s t a t e o f t h e M i l i t a r y S o c i a l W O r k

andthetrainingcourseoftheUnitedStates

KengoTANAKA

I n t h i s r e s e a r c h , a s t u d y w a s c a r r i e d o u t u s i n g t h e i ' N A S W S t a n d a r d s f b r S o c i a l W b r k P r a c t i c e w i t h S e r v i c e M e m b e r s , V e t e r a n s & T h e i r F a m i l i e s 側 t o e x a m i n e s o c i a l w o r k , s p e c i f i c a l l y i n r e g a r d t o S e c u r i t y w o r k e r s ( p a r t i c u l a r l y S e l f D e f e n s e F o r c e M e m b e r s ) a n d t h e i r f a m i l i e s , a n d c o n t i n u e s t h e w o r k o f t h e p r e v i o u s m a n u s c r i p t : ' ' A C o n s i d e r a t i o n o f S o c i a l W b r k f b r S e c u r i t y W b r k e r s a n d t h e i r f a m i l i e s ( 1 ) . ( 2 ) ' ' ・ A s a r e s u l t , w h e n d e v e l o p i n g s o c i a l w o r k f b r t h e m , i t w a s p o i n t e d o u t t h a t i t i s n e c e s s a l y t o b u i l d o u r o w n t h e o I y b a s e d o n t h e k n o w l e d g e o f M i l i t a r y S o c i a l W O r k i n t h e U n i t e d S t a t e s , A l s o , a t t h a t t i m e , i t w a s p r o p o s e d t h a t i t i s n e c e s s a r y t o d e v e l o p s o c i a l w o r k w i t h a p e r s p e c t i v e t h a t c o n s i d e r s t h e s p e c i a l c h a r a c t e r i s t i c o f ' ' b u s i n e s s c u l t u r e ' ' a f f l e c t i n g t h e i r ' l p h y s i c a l , p s y c h o l o g i c a l , a n d s o c i a l a s p e c t s , ' ' a l o n g w i t h t h e i n f l u e n c e o f t h e ' 1 . o m e s t i c a n d i n t e m a t i o n a l s i t u a t i o 、 , i i i ' O r g a n i z a t i o n , ! ' a n d i ' m i s s i o n l ' a s e n v i r o n m e n t a l f a c t o r s s u l T o u n d i n g t h e m .

K e y W O r d s : S e c u r i t y w o r k e r s M i l i t a r y S o c i a l W O r k M i l i t a r y S o c i a l W b r k e r

参照

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