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AdolphWagner Bird GDP GNP GDP GNP Gupta Wagner

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わが国におけるワグナー仮説の再検討

―― ARDL バウンド検定アプローチによる実証分析 ――

平 井 健 之

Ⅰ.は じ め に 世紀後半,ドイツの経済学者,アドルフ・ワグナー(Adolph Wagner)は, 経済の発展とともに公共部門の規模が絶対的にも相対的にも増大するという仮 説を唱えた。ワグナーがかつてこのような仮説を導いた理由は,Bird( ) に従って次の 点に要約される。第 は,政府の行政上の機能や保護的な機能 の拡大である。工業化に伴う分業の進展は新たな公的規制や保護が必要とな り,さらに都市化の進展は法や秩序,そして経済的規制に関する公共支出の増 加をもたらすことになる。第 は,文化的・福祉的支出の著しい拡大である。 これらの公共サービスへの需要は,所得に対して弾力的であると考えられてい る。そして第 は,技術進歩や投資規模の拡大により,経済効率を向上させる ために政府が自然独占を管理するようになることである。また,鉄道のような 場合には,巨額の資本が必要とされるため,それらは政府によってのみ調達す ることが可能になるという。) このワグナー仮説をめぐる実証研究はこれまで数多く存在する。当初の実証 研究では,とりわけ各国の時系列データを用いて,政府支出と GDP(または GNP)とを関連付ける回帰式の推定により得られた弾力性の値,すなわち政府 支出の GDP(または GNP)に対する弾力性の推定値に基づき,ワグナー仮説 が妥当であるかどうかが検討されてきた。その一連の研究と し て,Gupta ) アドルフ・ワグナーによる国家活動の増大の法則に関する記述については,英語訳の Wagner( )を参照されたい。

(2)

( ),Wagner and Weber( ),Mann( ),Abizadeh and Gray( ), Ram( ),Abizadeh and Yousefi( ),Nagarajan and Spears( ),Bairam

( )等がある。しかし,上記の実証研究では,使用される時系列データが 定常であることを仮定していた。Henrekson( )は,ワグナー仮説が経済 成長と公共部門の相対的規模との長期の関係であることを指摘するとともに, これまでのワグナー仮説を支持する結果が見せかけの回帰である可能性を示唆 する分析結果を提示した。 そのため,その後の実証研究は,政府支出と GDP(または GNP)に関する 変数について,共和分検定を行い,まずこれら 変数が長期の均衡関係にあ るかどうかを分析している。また,ワグナー仮説は経済成長とともに公共部門 の規模が相対的に拡大する傾向を示すものであるため,GDP(または GNP)か ら政府支出への因果関係の成立を意味している。この点も考慮し,近年の実証 研究では,さらに政府支出と GDP(または GNP)に関する 変数が長期の均 衡関係にある場合,誤差修正モデルを推定して 変数間の因果関係の分析も行 われている。諸外国におけるその一連の研究として,Murthy( , ),

Ashworth( ),Hayo( ),Oxley( ),Hondroyiannis and Papapetrou ( ),Lin( ),Ahsan, Kwan and Sahni( ),Anwar, Davies and Sampath( ),Bohl( ),Park( ),Payne and Ewing( ),Cheltos and Kollias( ),Asseery, Law and Perdikis( ),Biswal, Dhawan and Lee ( ),Thornton( ),Islam( ),Chang( ),Chow, Cotsomitis and Kwan( ),Chang, Liu and Caudill( ),Dritsakis and Adamopoulos ( ),Iyare and Lorde( ),Narayan, Prasad and Singh(

),Iniguez-Montiel( ),Magazzino( ),Kuckuck( )等が挙げられる。

一方,わが国におけるワグナー仮説の先駆的研究として,能勢( )は, わが国の 年から 年までの長期の時系列データを使用し,弾力性の指 標に基づきワグナー仮説の妥当性を検討している。そこでは,ワグナー仮説を 支持する分析結果が示されている。また,Nomura( )は,転位効果を構 造変化と解釈し,転位効果も考慮してわが国の 年から 年までの年次 データを使用してワグナー仮説の成立を検討している。その分析結果からは,

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ワグナー仮説を支持する積極的な結論は得られていない。しかし,既述のよう に,これら従来の実証研究は,使用するデータが定常であることを仮定して いる。

そのため,単位根や共和分の検定に基づく近年の実証研究では,複数の国を

分析対象とする Bohl( )と Payne and Ewing( )が,戦後のわが国に

ついて,政府支出と GDP に関する 変数間で共和分関係は存在しないという 分析結果を示している。これに対して,同様に複数国を分析対象とする Chang

( )と Chang, Liu and Caudill( )は, 年から 年までの年次

データを使用し,わが国については,政府支出と GDP に関する 変数が長期 の均衡関係にあること,さらに GDP から政府支出への因果関係が存在するこ とから,ワグナー仮説が支持されるという分析結果を得ている。これに対し て,平井( b)は, 年度から 年度までの年度データを用いて, わが国の政府支出全体だけではなく,それを複数の支出項目に分類しそれらの 各支出項目についても,政府支出と GDP の関係を実証的に分析している。そ の分析結果からは,共和分検定と因果関係の検定に基づき,公共部門の財・サ ービス購入(政府最終消費支出と公的総資本形成の合計額)についてはワグナ ー仮説の成立が支持されるものの,政府支出の総額と GDP に関する 変数間 では共和分関係の存在は確認されなかった。したがって,わが国では,政府支 出全体としてはワグナー仮説は支持されないと結論づけられた。

ところで,Payne, Ewing and Mohammadi( )は,上記のワグナー仮説を

めぐる近年の実証研究について,次の問題を提起している。まず第 は,一部 の研究を除いては,政府支出と GDP(または GNP)に関する 変数について, 長期の関係式におけるパラメーターを明示的に検討せずに,因果関係の検定が 行われていることである。第 は,標準的な共和分検定においては,各変数が 次の和分過程!!!"に従うことを要求しているが,単位根検定の検出力の低 さがしばしば指摘されており,さらに各変数の和分の次数が同じでない可能性 が存在することである。

そのため,Payne, Ewing and Mohammadi( )は,アメリカ合衆国におけ

(4)

Pesaran, Shin and Smith( )に よ っ て 提 案 さ れ た 自 己 回 帰 分 布 ラ グ (Autoregressive Distributed Lag, ARDL)バウンド検定アプローチを適用して, 政府支出と GDP に関する 変数が長期的な均衡関係にあるかどうかを検定 し,さらに長期的な均衡関係にある場合,長期の弾力性係数の推定値を求める ことにより,ワグナー仮説の成立を再検討している。その分析からは,弾力性 の推定値に基づき,ワグナー仮説は支持されないという結果が導かれている。

ここで,ARDL バウンド検定アプローチは,Engle and Granger( )や

Johansen( )によって提案された従来の共和分検定の方法に対して,次の ような利点をもつ。まず第 に,政府支出と GDP に関する各変数の和分の次 数が 以上でなければ,あらかじめ各変数の和分の次数に関する情報を必要と しないことである。さらに第 に,バウンド検定は,ワグナー仮説に関する実 証研究のように,年次データを使用する小標本の分析においてより頑健な結果 を提示することである。 そこで,本稿の目的は,わが国の 年度から 年度までの年度データ

を用いて,Payne, Ewing and Mohammadi( )と同様の分析方法を踏襲し,

ARDLバウンド検定アプローチにより,わが国におけるワグナー仮説の成立を 再検討することである。とりわけ本稿では,平井( b)と異なり,長期に おける政府支出の GDP に対する弾力性の推定値に基づき,ワグナー仮説の検 討が行われる。 本稿の構成は,次の通りである。まず第Ⅱ節では,ワグナー仮説の妥当性を 検証するための実証モデルを提示し,それらのモデルの推定によりこれまで行 われてきたワグナー仮説の実証研究について簡単に概観する。さらに第Ⅲ節で は,本稿の実証分析で使用するデータや分析方法を解説する。そして第Ⅳ節 で,分析結果を示し,わが国におけるワグナー仮説の成立を検討する。最後 に,第Ⅴ節において結論を述べる。 Ⅱ.ワグナー仮説の定式化と実証研究 .ワグナー仮説の定式化 ワグナー仮説は経済の進歩とともに政府活動の規模が増大するという傾向を

(5)

示すものであるため,当初のワグナー仮説の検証では,政府支出と所得水準の 関係から,主に,政府支出の所得弾力性,または所得に対する政府支出比率の 所得弾力性の計測が行われてきた。これらの弾力性の値は対数線型モデルを推 定することで求められるが,そのためにさまざまなモデルが提示されてきた。 Mann( )に従って,それらは基本的に次のような対数線形式に分類される。 #$!$"#$#!$#$#$!&$ ⑴ #$ !! "# $"#$#!'#$#$!& $ ⑵ #$ !! "# $"#$#!%#$ #! "" $!& $ ⑶ #$ !! "" $"#$#!(#$ #! "" $!& $ ⑷ #$!$"#$#!)#$ # " ! " $!& $ ⑸ ここで,G ,Y ,P はそれぞれ政府支出,GDP(または GNP),人口であり, &$は誤差項である。!!"は 人当たりの政府支出,!!#は GDP(または GNP) に対する政府支出の比率,さらに #!"は 人当たりの GDP(または GNP)を 表している。 上記の定式化につい て,⑴式 は Peacock-Wiseman( )の 解 釈,⑵式 は Mann( )による修正された Peacock-Wiseman の解釈である。そして,⑶

式は Musgrave( )による解釈,⑷式は Gupta( )の解釈,⑸式は Goffman

( )の解釈である。⑴式から⑸式までのすべてが対数線形式であることを 考慮すると,$,',%,(,及び )の推定値はそれぞれ弾力性を表している。 そのため,ワグナー仮説の成立は,Peacock-Wiseman の解釈では$"",修正 された Peacock-Wiseman の解釈では '"!であることを意味する。同様に,ワ グナー仮説が成立するためには,Musgrave の解釈では %"!であるこ と, Gupta の解釈では (""であること,そして Goffman の解釈では )""である ことが求められる。)

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.ワグナー仮説の実証研究

ワグナー仮説をめぐる当初の実証研究では,とりわけ各国の時系列データを 使用して,上述のように,弾力性の指標に基づきその妥当性が検討されてい

る。その一連の研究として,例えば,Gupta( )は カ国(アメリカ,イ

ギリス,スウェーデン,カナダ,ドイツ)について,Mann( )と Nagarajan

and Spears( )はメキシコについて,そして Abizadeh and Yousefi( )

はアメリカ合衆国の の州を分析対象として,ワグナー仮説を支持する分析

結果を導いている。一方,Wagner and Weber( )は カ国を分析対象に

して各国の弾力性の値を検討しているが,ワグナー仮説を支持する十分な結果 は得られていない。さらに,Ram( )は カ国を対象として,そして Bairam( )は OECD 諸国を対象に,いずれもワグナー仮説が支持される 国と支持されない国が混在するという分析結果を示している。また,Abizadeh and Gray( )は,経済発展の段階により つのグループに分類された カ国について,時系列とクロスセクションのプールされたデータを使用し,経 済発展の中間段階にある国のグループではワグナー仮説が支持されるという分 析結果を導いている。このように,弾力性の指標に基づく当初の実証研究は上 記の他にも諸外国では多数存在する。 しかし,上記の時系列分析による一連の実証研究では,使用されるデータが 定常であることを仮定していた。もし⑴式から⑸式までの政府支出と GDP(ま たは GNP)に関する各変数が 次の和分過程!#"$に従うとすれば,それら 変数に基づく分析結果は見せかけの回帰であるかもしれない。そのため, Henrekson( )は, 年から 年までのスウェーデンの長期の時系 列データを用いてこの問題を検討し,単位根検定と共和分検定の結果から,こ れまでのワグナー仮説を支持する結果が見せかけの回帰である可能性を指摘し ) Peacock-Wiseman の解釈と修正された Peacock-Wiseman の解釈について,⑴式と⑵式 から,弾力性の係数,"と $は """!$を満たすことがわかる。同様に,Musgrave の 解釈と Gupta の解釈について,⑶式と⑷式から,弾力性の係数,#と %は,%""!#の 関係にあることもわかる。そのため,"(または %)> であることは,$(または #)!!で あることを意味する。

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た。ワグナー仮説は経済成長と政府支出との長期的な関係を示すものと解釈さ れることから,その後のワグナー仮説の検証では,まず政府支出と GDP(ま

たは GNP)に関する各変数が!!!"変数であることを確認し,それら 変数間

で共和分関係が存在するかどうかが検討されている。これにより,例えば,

Murthy( , )と Lin( )はメキシコを対象として,Ahsan, Kwan and

Sahni( )はカナダについて, 変数間で共和分関係が確認されることか

ら,ワグナー仮説を支持する分析結果を得ている。これに対して,Ashworth

( )と Hayo( )はメキシコについて,Hondroyiannis and Papapetrou( )

はギリシャにおいて, 変数間での共和分関係の存在を確認できないことか ら,ワグナー仮説が支持されないという分析結果を示している。 さらに,近年のワグナー仮説の実証研究では,ワグナー仮説は経済成長とと もに政府支出が増加するという傾向を示すため,上記の共和分検定に加えて, Grangerの意味で GDP(または GNP)から政府支出への因果関係が存在するか どうかの検定も行われている。ここでとりわけ,政府支出と GDP(または GNP) に関する 変数間で共和分関係が存在する場合,誤差修正モデルの推定に基づ く因果関係の検定が行われている。)このような分析方法により,例えば,

Oxley( )と Chow, Cotsomitis and Kwan( )はそれぞれ 年から

年までの期間と 年から 年までの期間のイギリスについて,

Park( )は 年から 年までの韓国について,Islam( )は

年から 年までのアメリカ合衆国について,Narayan, Prasad and Singh

( )は 年から 年までのフィジーについて,そして Iniguez-Montiel

( )は 年から 年までのメキシコについて,ワグナー仮説を支持

する分析結果を示している。

同様の分析方法で,この他にも,政府の支出を数種類の支出項目に分類し,

) ワグナー仮説に関する当初の実証研究においても,Sahni and Singh( ),Singh and Sahni( )や Ram( )のように,政府支出から GDP(または GNP)への因果関 係について Granger の因果性検定が行われている。しかし,近年の実証研究では,これ ら 変数間で長期的な均衡関係が存在するかどうかの分析に基づいて因果関係の検定が 行われている。

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それぞれの支出項目についてワグナー仮説の成立を検証する実証分析もある。

Asseery, Law and Perdikis( )は, 年から 年までのイラクについ

て,ワグナー仮説が支持される支出項目と支持されない支出項目が混在すると

いう分析結果を示している。Chletsos and Kollias( )は 年から

年までのギリシャを分析対象にして防衛費についてのみワグナー仮説を支持す

る分析結果を提示する一方, 年から 年までの同じくギリシャを対象

とした Dritsakis and Adamopoulos( )の分析では,ほとんどの支出項目で

ワグナー仮説の成立が確認されている。さらに,Magazzino( )は 年

から 年までのイタリアを分析対象にして長期においては利払い費でのみ

ワグナー仮説を支持する分析結果を,そして Biswal, Dhawan and Lee( )

は 年から 年までのカナダについて,平井( b)は 年度か

ら 年度までの日本について,いずれも政府の財・サービス購入において

ワグナー仮説を支持する分析結果を示している。

また,いくつかの実証研究は,複数の国を分析対象とし,各国の分析結果を 比較してワグナー仮説の妥当性を検討している。Anwar, Davies and Sampath

( )は 年から 年までを分析期間として の国を対象に,Bohl ( )は第 次世界大戦後のデータを用いて G 諸国を対象に,Payne and Ewing( )は経済発展の段階が異なる の国を対象に,Chang( )は 年から 年までを分析期間としてアジアの新興工業国(韓国,台湾, タイ)と先進国(日本,アメリカ,イギリス)の カ国を対象に,Chang, Liu and Caudill( )も同じく 年から 年までを分析期間としてアジア

の新興国や先進国を中心とする カ国について,そして Iyare and Lorde

( )はカリブ海の カ国を対象に,それぞれの国においてワグナー仮説が 成立するかどうかを検討している。これらの実証研究からはいずれも,ワグナ ー仮説が支持される国と支持されない国が混在するという分析結果が示されて いる。 一方,Thornton( )はヨーロッパの カ国(デンマーク,ドイツ,イタ リア,ノルウェー,スウェーデン,イギリス)を対象に, 世紀半ばから 年までの年次データを使用してワグナー仮説の妥当性に関する実証分析を行

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い, 世紀のヨーロッパ諸国ではワグナー仮説が強く支持されるという分析 結果を得ている。さらに,Kuckuck( )は,ヨーロッパの カ国(イギリ ス,デンマーク,スウェーデン,フィンランド,イタリア)を対象に, 世 紀半ばからの長期のデータを使用して,経済発展の異なる段階でのワグナー仮 説の妥当性を検討している。その結果,経済が発展した段階では,政府支出と 経済成長の関係が弱くなることが明らかにされている。このように,ワグナー 仮説は経済が発展している段階において強く当てはまると考えられる。 そのため,これに関連して,平井( a)は,わが国の戦前の 年か ら 年までを分析期間として,日本経済の発展段階におけるワグナー仮説 の妥当性を分析している。その分析結果は,戦前のわが国におけるワグナー仮 説の成立を強く支持している。 以上のように,ワグナー仮説の妥当性をめぐる近年の実証研究は,政府支出 と GDP(または GNP)に関する 変数が長期的な均衡関係にあるかどうか, そして Granger の意味で GDP(または GNP)から政府支出への因果関係が存 在するかどうかを検定している。)既述のように,これらの研究について,

Payne, Ewing and Mohammadi( )は,いくつかの実証研究を除いて,政府

支出と GDP(または GNP)の長期の関係におけるパラメーターを明示的に検

討せずに 変数間の因果関係の分析が行われていることを指摘している。)その

ため,Payne, Ewing and Mohammadi( )は,アメリカ合衆国について,

Pesaran and Shin( )と Pesaran, Shin and Smith( )によって提案され た ARDL バウンド検定アプローチを適用し,⑴式から⑸式までの政府支出と

GDPに関する 変数の長期の関係式に基づいて,長期の弾力性係数の推定値

) ワグナー仮説をめぐる当初の実証研究については,Dollery and Singh( )がその 内容を概観している。さらに,その後のワグナー仮説の実証研究の動向については,平 井( b)も参照されたい。また,Peacock and Scott( )は,ワグナー仮説に関す る既存研究について批判的に検討している。

) 共和分検定と因果関係の検定に基づく近年の実証研究においても,例えば,Oxley ( ),Payne and Ewing( ),Chletsos and Kollias( ),Asseery, Law and Perdikis ( ),Islam( ),Dritsakis and Adamopoulos( ),Iyare and Lorde( ),及 び Narayan, Prasad and Singh( )等は,長期の弾力性の推定値を求めて明示的に検 討している。

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を求めて検討することにより,ワグナー仮説が支持されないという分析結果を 示している。

この ARDL バウンド検定アプローチは,最近において,Samudram, Nair and Vaithilingam( ),Mohammadi, Cak and Cak( ),Babatunde( ),

及び Kumar, Webber and Fargher( )等の実証研究でも適用されている。

Samudram, Nair and Vaithilingam( )は 年から 年までのマレー

シアについて,Mohammadi, Cak and Cak( )は 年から 年まで

のトルコについて,そして Kumar, Webber and Fargher( )は 年から

年までのニュージーランドについて,政府支出と GDP(または GNP)に 関する 変数の長期の関係における弾力性の値を明示的に検討し,ワグナー仮 説を支持する分析結果を導いている。一方,Babatunde( )は, 年か ら 年までのナイジェリアについて,政府支出と GDP に関する 変数間で 長期の均衡関係が存在しないという検定結果から,ワグナー仮説が成立しない ことを示している。本稿における以下の実証分析でも,ARDL バウンド検定ア プローチを適用し,わが国においてワグナー仮説が支持されるかどうかを改め て実証的に検討する。 Ⅲ.データと実証分析の方法 .データ 本稿では,わが国の 年度から 年度までの時系列データを使用し て,前節の⑴式から⑸式までのように定式化された実証モデルに基づきワグナ ー仮説の成立を検証する。これらの つの実証モデルは,改めて表 に要約さ れている。 表 より,政府支出! "は,政府最終消費支出,公的総資本形成,及び移! 転支出の合計額からなる。ここで,政府の範囲については,一般政府(中央政 府,地方政府及び社会保障基金)だけではなく公的企業の活動も含まれてい る。また,移転支出は移転支払いと補助金の合計額からなるものとし,移転支 払いは社会保障給付,社会扶助金,及び無基金雇用者福祉給付の合計額で表さ れる。)上記の各支出項目及び GDP! "のデータは,すべて『国民経済計算年"

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報』(内閣府経済社会総合研究所)より求められる。なお,本稿の実証分析で は,各データを実質値で表示するものとし,移転支出以外の実質値のデータは 『国民経済計算年報』から得られる。一方,移転支出については,名目値のデ ータのみ利用可能であるため,Beck( )に従って,民間最終消費支出デ フレーターを使用して実質化する。民間最終消費支出デフレーターも『国民経 済計算年報』から求められる。 しかしここで,実質 GDP,民間最終消費支出デフレーター,及び各支出項 目(実質及び名目値)の各データについて,最近時点までのデータは 年 改訂の国民経済計算体系( SNA)より得られる。ところが,この SNAの データは 及して 年度までしか公表されていない。一方,国民経済計算 における SNAでは, 年度よりいずれのデータも入手することが可能で あるが,データの終期は 年度となっている。これより, SNAでは ) 政府の移転支出を政府支出に含めるべきかどうかの判断については,先行研究におい てもさまざまである。例えば,Ram( , )や Anwar, Davies and Sampath( ) 等の分析では,政府支出に移転支出を含めていない。これに対して,Hondroyiannis and Papapetrpou( ),Payne and Ewing( ),Chletsos and Kollias( ),及び Biswal, Dhawan and Lee( )等をはじめとする多くの実証研究は,移転支出(または,移転 支払い)も含めて分析している。本稿でも,これら一連の研究に従って,政府支出に移 転支出を含めることにする。 解 釈 定式化 A.Peacock-Wiseman の解釈 B.修正された Peacock-Wiseman の解釈 C.Musgrave の解釈 D.Gupta の解釈 E.Goffman の解釈 #$!$"#$#!$#$#$!&$ $"" #$!!# #$$"#$#!'#$#$!&$ '"! #$!!# #$$"#$#!%#$#!# $"$!&$ %"! #$!!# "$$"#$#!(#$#!# $"$!&$ ("" #$!$"#$#!)#$#!# $"$!&$ )"" ワグナー仮説の定式化

注:ワグナー仮説の解釈について,Peacock-Wiseman の解釈は Peacock and Wiseman( ), 修正された Peacock-Wiseman の解釈は Mann( ),Musgrave の解釈は Musgrave( ), Guptaの解釈は Gupta( ),そして Goffman の解釈は Goffman( )の定式化に基づ いている。ワグナー仮説の定式化において,!$は政府支出,#$は GDP,"$は人口,そし て &$は誤差項を表す。

(12)

SNAの内容が変更されているため,データの一貫性に問題が生じるものの, 長期にわたるデータを確保するために, 年度から 年度までの期間に おいては SNA( 暦年基準)のデータを使用し, 年度以降は SNA ( 暦年基準)のデータを用いることにする。そこで, SNA( 暦年 基準)のデータに基づき, 年度以前のデータについては,各データを 年度の SNAデータと SNAデータの比を乗じることにより接続すること とした。なお,実質値のデータ及び民間最終消費支出デフレーターは,いずれ も固定基準年方式によるものを使用する。 さらに,ワグナー仮説の⑶,⑷,及び⑸式による定式化では,政府支出また は GDP の 人当たりの変数が用いられている。これら 人当たりの各変数を 表示するための人口% &のデータは,『人口推計月報』! (総務省)から得られる。 .分析方法 実証分析ではまず,表 におけるワグナー仮説の定式化に基づいて,政府支 出を表す変数と GDP を表す変数の 変数がそれぞれ長期的な均衡関係にある かどうかを検討する。そのために本稿では, 変数間の共和分検定について, Pesaran and Shin( )と Pesaran, Shin and Smith( )によって提案され たバウンド検定アプローチを適用する。

このバウンド検定アプローチは,Engle and Granger( )や Johansen( )

のような共和分検定の手続きと異なり,和分の次数が より小さいか,または に等しい変数からなるモデルに適用される。すなわち,検定では,すべての 変数について和分の次数が同じでなければならないということを前提としてい ない。そのため,このアプローチは,事前に和分の次数を検定する際に生じる 不確実性を排除できる(Narayan, a)。 変数,&%と '%について,&%を従属変数,'%を独立変数とするとき,バウ ンド検定は次の⑹式を推定することで実行される。 $&%#!!"! "#" # $"$&%!""! "#! $ ""$'%!""%"&%!""%#'%!""#% ⑹ ここで,Δ は 階の階差演算子,&%は政府支出を表す変数,'%は GDP を表す

(13)

変数であり,"!は定数項,$&は誤差項である。これより,⑹式において, 変数間で共和分関係が存在しないという帰無仮説は !!$&""&#"!であり, 対立仮説は !"$&"#!, &" ##!である。そのため,帰無仮説を,F 統計量を用" いて検定する。 この F 統計量の漸近分布は 変数間で共和分関係が存在しないという帰無 仮説の下で非標準的であり,F 検定は,⒜データの非定常性,⒝独立変数の

数,そして,⒞サンプルサイズに依存している。Pesaran, Shin and Smith( )

と Pesaran and Pesaran( )は,検定における つの臨界値,すなわち下方

の臨界値と上方の臨界値を報告している。)下方の臨界値はモデルに含まれるす べての変数が"$!%であることを仮定しており,上方の臨界値はすべての変数 が"$"%であることを仮定している。 計算された F 統計量の値が上方の臨界値を上回る場合には,共和分関係が 存在しないという帰無仮説は棄却されることになる。このとき,政府支出を表 す変数 (&と GDP を表す変数 )&の 変数は共和分関係にあると判断できる。 そして,F 統計量の値が下方の臨界値を下回る場合には,帰無仮説は棄却され ず,(&と )&の 変数で共和分関係は存在しないと判断する。しかし,もし計 算された F 統計量の値が下方の臨界値と上方の臨界値の間にあるとすれば, 共和分検定の結果は不確定となる。 そこで,政府支出を表す変数 (&と GDP を表す変数 )&の 変数が共和分関 係にあると判断されると,次にそれら 変数間の長期の関係式におけるパラメ ーターの値について検討する。いま, 変数,(&と )&について,ARDL(p, q)

モデルは次式で示される。

% #!$$ %(&""!# #!%$ %)&!'& ⑺

) F 検定に関する つの臨界値は,サン プ ル サ イ ズ T に つ い て,Pesaran, Shin and Smith( )では T = の場合,Pesaran and Pesaran( )では T = の場合が 報告されている。さらに,Narayan( b)においても,T = から T = までのサ ンプルサイズにおける臨界値が報告されている。なお,Microfit . では つの臨界値を 直接求めることができる(Pesaran and Pesaran, )。

(14)

ここで,L は #)'#)'!"と な る よ う な ラ グ 演 算 子 で あ り,& #!%$ %#"!&"#

!&###!&!&%#%,$ #!&$ %#$!"$"#"&"$&#&である。また,#は定数項,

('は誤差項である。これより,*'の 単位の変化に対する )'の反応について

の長期の係数の推定量は,次のように得られる。 *&#$&"!&$ %&

&&"!%&! "#

$&!"$&""&"$&&&

"!&&"!&&#!&!&&%&

⑻ ここで,%&と &&は選択された p と q の値である。長期係数の標準誤差の推定

値は,Bewley( )による回帰アプローチを用いて計算される(Pesaran and

Pesaran, )。 これにより,⑴式から⑸式までの定式化に基づき,政府支出の GDP に関す る弾力性($,(,及び ))の値が より大きいかどうか,あるいは政府支出 の対 GDP 比率の GDP に関する弾力性(',%)の値が より大きいかどうか を検討することで,わが国におけるワグナー仮説の成立を検証する。 Ⅳ.分 析 結 果 本稿の実証分析では,はじめに,政府支出と GDP に関する各変数について 単位根検定を行う。既述のように,Pesaran and Shin( )と Pesaran, Shin and

Smith( )によるバウンド検定アプロー チ で は,各 変 数 が"$!%または

"$"%であることを前提にしている。すなわち,バウンド検定を実行するため

には,どの変数も"$#%でないか,または和分の次数がそれを超えていないか

を確認する必要がある。そのために,Dickey and Fuller( , )による

ADF(Augmented Dickey-Fuller)検定と Phillips and Perron( )による PP (Phillips-Perron)検定を適用する。表 には,その単位根検定の結果が報告さ れている。 表 より,まずトレンド項を含まないモデルによる検定結果を見ると,政府 支出の対 GDP 比率の変数$%!"$ $%を除いては,ADF 検定と PP 検定のいずれ の検定結果もすべての変数が"$!%であると判断される。一方,政府支出の対 GDP比率の変数$%!"$ $%は,いずれの検定結果においても "$"%変数であると

(15)

いえる。ところが,次にトレンド項を含むモデルによる検定結果を見ると, ADF 検定と PP 検定のいずれにおい て も,政 府 支 出 の 対 GDP 比 率 の 変 数 #$!!! $"を除くすべての変数が今度は ""!"であるという結果が示されてい る。これに対して,政府支出の対GDP 比率の変数 #$!!! $"は, つの検定方 法のいずれにおいても"!!"である可能性が高い。 このように,ADF 検定と PP 検定のいずれの場合も,トレンド項を含まない モデルと含むモデルでの検定結果は異なっているが,ここでトレンド項を含む A.トレンド項なし ADF 検定 PP 検定 変 数 水 準 階の階差 水 準 階の階差 #$! − . ( )*** − . ( ) − . ( )*** − . ( )*** #$$ − . ( )*** − . ( ) − . ( )*** − . ( ) #$!!! $" − . ( ) − . ( )** − . ( ) − . ( )*** #$$!! "# − . ( )*** − . ( ) − . ( )*** − . ( )* #$!!! #" − . ( )*** − . ( ) − . ( )*** − . ( )*** B.トレンド項あり ADF 検定 PP 検定 変 数 水 準 階の階差 水 準 階の階差 #$! − . ( ) − . ( )*** − . ( ) − . ( )*** #$$ − . ( ) − . ( )*** − . ( ) − . ( )*** #$!!! $" − . ( )** − . ( )* − . ( )* − . ( )*** #$$!! "# − . ( ) − . ( )*** − . ( ) − . ( )*** #$!!! #" − . ( ) − . ( )*** − . ( ) − . ( )*** 単位根検定 注:水準は各変数の水準変数, 階の階差は各変数の 階の階差変数である。単位根検定に おいて,トレンド項なしは定数項のみを含むモデル,トレンド項ありは定数項とトレンド 項を含むモデルによる検定である。検定統計量における括弧内の値は,検定におけるラグ 数またはバンド幅を示している。ADF 検定のラグ数は,AIC(Akaike Information Criterion) に基づき選択されている。また,PP 検定のバンド幅は,Bartlett kernel を用いて Newey-West 推定量に基づいている。ADF 検定と PP 検定における臨界値は,MacKinnon( )より得 られる。 *** は %水準で有意,** は %水準で有意,* は %水準で有意であることを示す。

(16)

モデルで判断すると,%&!!" $#の変数は #!"#変数,それ以外の つの各変数 は#""#であるといえよう。なお,表 の ADF 検定におけるラ グ 数 は AIC (Akaike Information Criterion)の基準に基づき選択されているが,SBC(Schwarz Bayesian Criterion)の基準を用いても同様の検定結果が得られた。そのため, 以下の分析では,表 におけるワグナー仮説の定式化に基づき, つの各モデ ルについて ARDL バウンド検定を実行し,政府支出と GDP に関する 変数が それぞれ長期的な均衡関係にあるかどうかを検討する。 ARDL バウンド検定の結果は,表 に示されている。表 より,ワグナー仮 説に関する定式化のいずれにおいても,計算された F 統計量の値は %の有 意水準で上方の臨界値を上回るため,共和分関係が存在しないという帰無仮説 は棄却されることがわかる。そのため,検定結果はすべての定式化において, 政府支出と GDP に関する 変数間で共和分関係が存在することを支持してい るとい え る。こ こ で,モ デ ル の ラ グ 数 に つ い て は,AIC,SBC,及 び HQC (Hannan-Quinn Criterion)の つの基準に基づき選択している。 さらに,表 は,これら つの基準に基づき選択されたラグ数の下で,長期 における弾力性の係数(",$,#,%,及び &)の推定結果がそれぞれ報告さ れている。)表 より,ワグナー仮説に関する つのすべての定式化において, 選択されたラグ数と長期の弾力性の推定値は, つの選択基準についてすべて ワグナー仮説の解釈 F統計量 "!$'"!'#!! A.Peacock-Wiseman の解釈 B.修正された Peacock-Wiseman の解釈 C.Musgrave の解釈 D.Gupta の解釈 E.Goffman の解釈 . ** . ** . ** . ** . ** 共和分のバウンド検定 注:F 検定の下方の臨界値と上方の臨界値は, %の水準でそれぞれ . と . , %の水準でそれぞれ . と . である。 **は %水準で有意であることを示す。

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同じである。これより,ラグ数の選択と長期の係数の推定結果は, つの選択 基準に対して頑健であるといえよう。 そこで,推定された長期の弾力性の値に基づき,ワグナー仮説の成立につい て検討しよう。表 における弾力性の推定値は,いずれも統計的に有意であ る。まず,Peacock-Wiseman の定式化では,"!"であれば,ワグナー仮説が 支持される。ところが,弾力性の推定値"は よりも小さく,政府支出は GDP に対して非弾力的であることから,ワグナー仮説は支持されないという結果が 得られる。次に,修正された Peacock-Wiseman の定式化では,ワグナー仮説が 支持されるためには,$!!であることが求められる。ところが,弾力性の推 定値は負の値であることがわかる。そのため,修正された Peacock-Wiseman の 定式化においても,ワグナー仮説は支持されない。同様に,Musgrave の定式 ) 本稿では,分析データが小標本であることを考慮して,長期の均衡関係を推定するた めに,ARDL モデルの最大ラグ数を に設定した。なお,最大ラグ数を に設定した場 合も推定を行ったが,本稿の分析結果が変更されることはなかった。 弾力性 基準 ARDL(p, q) 係数 推定値 標準誤差 A.Peacock-Wiseman の解釈 AIC, SBC, HQC ARDL( , ) " . . B.修正された Peacock-Wiseman の解釈 AIC, SBC, HQC ARDL( , ) $ − . . C.Musgrave の解釈 AIC, SBC, HQC ARDL( , ) # − . . D.Gupta の解釈 AIC, SBC, HQC ARDL( , ) % . . E.Goffman の解釈

AIC, SBC, HQC ARDL( , ) & . . 長期の均衡関係

注:ラグ数の選択基準については,AIC(Akaike Information Criterion),SBC(Schwarz Bayesian Criterion),HQC(Hannan-Quinn Criterion)の つの基準が適用されている。

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A.Peacock-Wiseman の解釈 従属変数 "#$#(!! "#$'( "#$'(!! "!$(!! "#$#( . ** . − . *** − . *** ( . ) ( . ) (− . ) (− . ) &" = . SER= . DW= . B.修正された Peacock-Wiseman の解釈 従属変数 "#$#!# '$(!! "#$'( "!$(!! "#$#!# '$( . *** − . *** − . *** ( . ) (− . ) (− . ) &" = . SER= . DW= . C.Musgrave の解釈 従属変数 "#$#!# '$(!! "#$'!# $%( "!$(!! "#$#!# '$( . *** − . *** − . *** ( . ) (− . ) (− . ) &" = . SER= . DW= . D.Gupta の解釈 従属変数 "#$#!# %$(!! "#$'!# $%( "#$'!# $%(!! "!$(!! "#$#!# %$( . ** . − . *** − . *** ( . ) ( . ) (− . ) (− . ) &" = . SER= . DW= . E.Goffman の解釈 従属変数 "#$#(!! "#$'!# $%( "#$'!# $%(!! "!$(!! "#$#( . ** . − . *** − . *** ( . ) ( . ) (− . ) (− . ) &" = . SER= . DW= . 誤差修正モデルの推定 注:"!$(!!は,誤差修正項の係数の推定値を表している。括弧内の値は,係数の推定値に 関する t 統計量の値を示している。&" は自由度修正済み決定係数,SER は回帰の標準誤 差,DW は Durbin-Watson 統計量である。 *** は %水準で有意,** は %水準で有意であることを示す。

(19)

化においても,"!!であればワグナー仮説が成立するといえるが,推定値 " は負の値であることから,ワグナー仮説は支持されない。さらに,Gupta の定 式化では,ワグナー仮説が支持されるためには,#!"であることが求められ るが,推定結果からは弾力性の値 #は より小さく,ワグナー仮説はやはり支 持されないことがわかる。 最後に,Goffman の定式化では,$!"であれば,ワグナー仮説が成立する といえる。推定された長期の弾力性 $の値は, . で をわずかに上回っ ている。しかしここで,帰無仮説を $!",対立仮説を $!"とするとき,係 数 $の t 検定を行うと,t 検定統計量の値は . となり,帰無仮説を % の有意水準でも棄却できないことがわかる。そのため,Goffman の定式化で も,ワグナー仮説は支持されないといえる。以上より,表 の つのすべての 定式化について長期の弾力性の指標で判断すると,本稿の分析期間において, わが国でのワグナー仮説の成立は支持されないと結論づけることができよう。 なお,表 には付録として,選択されたARDL モデルに関連する誤差修正 モデルの推定結果も報告されている。表 より,とりわけ誤差修正項の係数の 推定値はいずれも より小さく,統計的に有意であることが示されている。 Ⅴ.む す び 本稿では, 年度から 年度までの年度データを使用し,わが国にお けるワグナー仮説の成立を再検討した。そのため,本稿の実証分析は,ワグナ ー仮説の つの定式化に基づき,ARDL バウンド検定アプローチを適用して, 政府支出とGDP に関する 変数が長期的な均衡関係にあるかどうかを検定 し,さらに均衡関係にある場合,長期の弾力性の推定値を求めた。このバウン ド検定は,既述のように,事前に和分の次数を検定する際に生じる不確実性を 排除できるという点で有益である。本稿の実証分析からは,政府支出とGDP に関する 変数は長期的な均衡関係にあるものの,長期の弾力性の推定値よ り,わが国においてワグナー仮説は支持されないことが示された。この分析結 果は,ワグナー仮説の つの定式化だけではなく,ラグ数の選択基準に対して も頑健であった。

(20)

そこで,本稿の分析結果をわが国に関する近年の実証研究のそれと比較する

と,次の通りである。まず第 に,Bohl( ),Payne and Ewing( ),

及び平井( b)は,政府支出と GDP に関する 変数間で共和分関係が存

在しないという分析結果を導いている。一方,本稿の分析では,これら 変数 は長期的な均衡関係にあると判断された。ここで,共和分検定について,Bohl

( ),Payne and Ewing( ),及び平井( b)はともに,本稿とは異

なり,Engle and Granger( )の検定方法を適用している。そして第 に,

Chang( )と Chang, Liu and Caudill( )は,Johansen( )の検定

方法を用いて,政府支出と GDP に関する 変数が共和分関係にあり,かつ, 誤差修正モデルの推定により,GDP から政府支出への因果関係が存在すると いう検定結果を得ている。そのため,これらの結果から,わが国ではワグナー 仮説が成立すると結論づけている。しかしここで, 変数間の長期の関係式に おける弾力性の値は,明示的に考慮されていない。本稿では,長期の弾力性の 推定値を検討することで,ワグナー仮説が支持されないと判断された。このこ とは,どのような条件を満たせば,ワグナー仮説が支持されると判断するかに ついての見解が,これまでの実証研究において必ずしも一致していないことを 意味するといえよう。 ワグナー仮説は本来,経済の発展段階にある国に当てはまるであろうことを 考慮すると,ワグナー仮説が支持されないという分析結果は,Payne, Ewing and Mohammadi( )によるアメリカ合衆国についての結果と同様に,わが 国においてもとくに驚くべきことではないかもしれない。しかし,例えば,政 府の社会保障関連の支出は,近年の高齢化の進展を反映して増大する傾向にあ る。そのため,今後の課題として,政府支出を機能別に分類し,細分化された 各支出項目と経済成長との関係を詳細に分析することは依然として興味深いで あろう。 参考文献 能勢哲也,( ),『財政の計量分析』,創文社。

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