児童における物語文の効果的な読解方略に関する研究 一 心 情 曲 線 を 活 用 し た 「 読 む こ とJ の 学 習 を 中 心 に 一
学校教育専攻 授業開発コース 遠 藤 由 美 子
I 問題と目的
読書の時間に自分の選んだ本を最後まで読み 通すことができない児童の姿が教室ではみられ る。読解力の低下が叫ばれる昨今、「読めない
・読まなしリ児童には、「読むことJが第ーと 考える。そこで、児童が主体的に「読むことJ に取り組むための方略として心情曲線学習法を 国語科の授業に導入し、研究を進めることにし た。
本研究では、以下の 2点を明らかにすること を目的とした。
① 発達段階と心情曲線学習法の有効性の関係 を明らかにし、実践に生かせる知見を得る。
② 物語文読解に及ぼす心情曲線の効果を授業 実践を通して検討し、授業における心情曲線 の活用法を検証する。
E 研 究 の 方 法
1 .心情曲線の利用可能性の検討(研究1) 心情曲線のワークシート記入時の困難点と心 情曲線を活用した授業についての意識を調査す るために大学院生 11名を対象に模擬授業を行 った(研究 1‑1)0 その結果、小学校の授業で導 入するときに留意する点が明らかになった。
① 登場人物の心情を考えさせる場面を予め設 定しながらも、学習者の取り組みにあわせて 柔軟に対応できるように配慮する。
② 心情の位置を表すためにグラフに補助線や 言葉など入れる。
指 導 教 員 小 野 瀬 雅 人
心情曲線が利用可能な学年を明らかにするた めに、 1年生から 4年生まで計 82名(I年生 18 名,2年 生22名,3年 生24名,4年生 18名,各 lク
ラス)に向ーの「心情曲線をかく問題」と「心 情曲線から読み取る問題」を実施した(研究 1‑ 2)。その結果、内容的にも時間的にも効果的な 学年は、 5年生からであることがわかった。
2.
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心 情 曲 線j を 利 用 し た 物 語 文 読 解 指 導 法 と授業設計(研究2‑1)研 究1を踏まえ、 5年生の国語科教科書から、
以下の点を考慮して「注文の多い料理店」を指 導教材とした。
① 文脈のすじを項目的におさえやすい場面が 多い。
② 心情がプラス(よい感じ)側とマイナス(悪 い感じ)側に変化する流れである。
③ 正しい読み取りができていなければ、心情 の位置が明らかに間違いである場面がある。
④ 比較的長い文章である。
3.
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心 情 曲 線Jを利用した物語文読解指導の 実践とその効果の検討(研究2‑2)心情曲線学習後に心情曲線に対する児童の意 識(感想、)を小学5年 生 36名を対象に調査し分 析を行った結果、以下のことが明らかになった。
① 個別学習後の よかったところの感想"で
「自分のベースでかけるjが一番多かったこ と等から、主体的な学習に適した学習法であ る白
‑54一
② 「気持ちの変化がわかるJ
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振 り 返 り が で ③ 児童は、心情曲線をかき進めたり、かいた きる」等の感想、より心情曲線が物語理解のためのメタ認知的活動の道具となっているD
③ 態度面での否定的な感想、が全くなく、「ま た 使 い た いJ
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楽しかったj の感想、から好意 的に心情曲線学習法が受け入れられたことが わかる。④ 「理由をつけるのが難しいJという感想に 対しては、児童が直感的な思い込みだけでな く、理由も考えて心情の位置を決めようと悩 んだ結果と考えられる。心情曲線を活用して 読解を深めていくためには、心情の位置を決 めた理由や想、いもワークシートに書き込んで いくことが重要であり、「理由をつけること ができる」ようにすることが今後の課題にな るあろう。
⑤ 心情曲線を「望ましいパターン」でかいて いる児童も「望ましくないパターンJ でかい ている児童も「因ったところの感想Jの記述 個数では有意差がないことより、「望ましく ないパターン」の児童も記入に際しては、特 に困つでいなかったことが考えられる。この ことより、大多数の児童は、スムーズに心情 曲線を記入することができたことが推察され る。
心情曲線の活用法とその効果をまとめると、
以下のようになった。
① 心情曲線を国語科の授業の開始時にみるこ とで、前時までの振り返りがしやすく、スム ーズに授業を始めることができ、授業時間を 効果的に使うことができる。
② 個別学習で心情曲線を記入し、それをもと に一斉学習やグ、ループ学習につなげることで 他の考えを知り、自分の考えをひろげたり深 めたりすることができる。
ところをみたりすることで、物語理解のため のメタ認知的活動の道具として使っている。
④ 心情の位置を決めた理由や想いをワークシ ートに記入させることによって、作業の時間 差や読解能力の個人差に対応することができ
る。
⑤ 児童のかいた心情曲線で、児童の実態を把 握することができ、児童に沿った授業をする ことができる。また、形成的評価や総括的評 価としての資料となる。
⑥ 心情の位置を記入するという作業をしなが ら物語を読み進むため、物語の最後まで読む ための意識が続きやすい。そのため、「読め ない・読まないj児童も「読むことjに主体 的に取り組むようになる。
E 今 後 の 課 題
本研究では、物語文の効果的な読解方略とし て心情曲線を活用したが、心情曲線が児童の読 解力を高めているかについては、今後検討を要 する課題がいくつか明らかになっているo 以下 に課題となる点を挙げる。
① 心情曲線は、心情をグラフに表す手法であ るので、児童が読み取った登場人物の心情の 複雑さを正確に表せない場合が考えられる。
そのことによって、児童によっては読み取り が浅いもののまま留まってしまう場合が考え
られる。
② 研 究2‑2で、児童のかいた心情曲線と読解 カを比較して分析したが、読解力として捉え る資料をさらに質・量ともに確保する必要が ある。
③ 心情曲線学習法が回数を重ねることにより 児童の意識や読解力がどのように変化してい
くかを検証する必要がある。
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