氏 名 山田 雅俊 授与した学位 博 士 専攻分野の名称 工 学
学位授与番号 博甲第 6638 号 学位授与の日付 2022年 3月 25日
学位授与の要件 自然科学研究科 応用化学専攻
(学位規則第4条第1項該当)
学位論文の題目 Industrial Asymmetric Hydrogenation Processes for Chiral Drug Substances
(キラル医薬品の工業的不斉水素化反応プロセス)
論文審査委員 教授 菅 誠治 教授 坂倉 彰 教授 三浦 智也
学位論文内容の要旨
Chapter 1では、キラル医薬品開発の定義について記述し不斉水素化反応を利用した医薬品製造プロセスの
例を示した。その中で、高価な不斉触媒の使用量を低減し製造コストを削減することは企業研究において重 要であること、また不斉触媒をファインチューニングし、性能の高い触媒系を構築することで従来のプロセ スの工程短縮を実現したり難易度の高い反応を進行させたりすることでプロセスの生産性に寄与できるこ とを示した。Chapter 2では、2型糖尿病治療薬として開発されていたFasiglifamのキラル中間体合成におい て、基質品質の洗練化や不斉触媒を被毒する溶存酸素量を極限まで低減させることで不斉触媒の長寿命化に 成功し、触媒スクリーニングから見出した比較的不安定で高価であった不斉触媒の使用量を0.005 mol% (s/c
20000)まで低減することに成功し、基質400 kgスケールでの製造で実証したことを示した。Chapter 3にお
いても2型糖尿病治療薬として上市されているAlogliptinの不斉合成プロセス開発について記述した。従来 法では高価な原料が製造原料費の約 70%を占めていたが、極めて安価な原料を使用する新規な不斉水素化 反応プロセスを開発し得られた光学活性な中間体を代替することで後のHoffmann転位を利用してAlogliptin に誘導することが可能であった。本法は、原材料費ベースで約半分のコスト削減効果があった。Chapter 4で は、不斉水素化反応において多用される不斉ホスフィン配位子合成の有用な中間体である第二級ホスフィン ボラン錯体(SPB)の新規な合成法について記載した。開発した方法は、対応する第二級ホスフィンオキサ イドをボラン(BH3)のみで還元、錯形成が一気に進行し簡便にSPBを取得できる方法でBH3の添加方法が ポイントであった。Chapter 5 では、不斉水素化することが難易度の高い基質とされる四置換エナミンの反 応において新たに見出した不斉触媒、炭酸カリウムおよび水素からなる活性種が高エナンチオ選択的な反応 成績を与えることを記載した。Chapter 6では、過敏性腸症候群治療薬として期待されたTAK-480の光学活 性なヘキサヒドロピロロキノリン環中間体を一気に不斉水素化反応を経由する新しいドミノ反応によって 構築できることを見出し、推定反応機構を記載した。最後に、Chapter 7に光学活性アミンの合成に有用な不 斉還元的アミノ化反応(DARA)に関する報告を記述した。ケトンから直接的に目的のアミン体が得られる DARAは、産業上有用な技術であるものの多段階反応となるため開発が難しいが、医薬品のビルディングブ ロックとして有用な6置換2-アセチルピリジン類を基質とした高エナンチオ選択的DARAを開発すること に成功した。
論文審査結果の要旨
申請者はキラル医薬品を合成するための工業的な不斉水素化プロセスに取り組み,高価な不斉触媒の使用量 の低減や,不斉触媒をファインチューニングする方法開発などを通じて,合成プロセスの高度化が生産性に大 きく寄与できることを示した。
具体的には,2型糖尿病治療薬として開発されていたFasiglifamのキラル中間体合成において,基質品質の洗 練化や不斉触媒を被毒する溶存酸素量を極限まで低減させることで,不斉触媒の長寿命化に成功し,触媒スク リーニングから見出した比較的不安定で高価であった不斉触媒の使用量を0.005 mol% (s/c 20000)まで低減する ことに成功した。この触媒系で基質400 kgスケールでの製造ができることも実証した。また,同じく,2型糖尿 病治療薬として上市されているAlogliptinの不斉合成プロセス研究では,極めて安価な原料を使用する新規な不 斉水素化反応プロセスを開発し,原材料費ベースで約半分のコスト削減する方法を見出した。さらに,不斉水 素化反応において多用される不斉ホスフィン配位子合成の有用な中間体である第二級ホスフィンボラン錯体 の新規な合成法を見出し,この手法に基づいて不斉水素化において難易度の高い基質とされる四置換エナミン の反応において,新規不斉触媒反応系を見出した。さらに,不斉水素化反応を経由する新しいドミノ反応によっ て,過敏性腸症候群治療薬として期待されたTAK-480を合成するための光学活性なヘキサヒドロピロロキノリ ン環中間体を一気に合成できる手法を見出した。併せて,光学活性アミンの直截的な合成に有用な不斉還元的 アミノ化反応(DARA:ケトンから直接的に目的のキラルアミン体を得る方法)にも取り組み,6置換2-アセチ ルピリジン類を原料とした高エナンチオ選択的DARAによるキラルアミンの合成法の開発にも成功した。
以上のように,山田氏の研究成果は当該分野として顕著であり,博士の学位を取得するに十分であると判断 する。