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全文

(1)

無権代理人を本人とともに相続した者が更に本人を相続した場合に おける無権代理行為の効力(松本)

︻事

実の

概要

原告︵被控訴人・被上告人︶

X I

︑ふ︑ふは︑故A

︵ 父

四八年死亡︒同二八年九月から死亡に至るまで主として火を弄

ぶことが原因で措置入院をし︑精神分裂症と診断されていた︒︶

故B︵母昭和四四年死亡︶間の子である︒昭和三五年七月ご

ろ︑母Bは︑父Aの所有する本件土地︵もと一筆の農地︶を︑

Aの代理人として訴外甲に売却した︒Bの売却行為はAから必 要な代理権の授与をなんら受けていない無権代理行為であっ

た︒原告

X I

︑ふ︑ふらは四四年三月二二日に死亡した母B

と ︑ 昭和 手続請求事件︶︵判時一三︱二号九二頁︶ 最高裁昭和六三年三月一日第三小法廷判決

四八年六月一八日に死亡した父

A

のそれぞれの地位を相続し た ︒

X I

らは甲から本件土地の譲渡を受けたYを相手に共有持分

権に基づき所有権移転登記の抹消を求めた︒

原審では︑一審と同様

X I

らが勝訴した︒その理由は以下の通

りで

ある

X I

Bの死亡したことにより本人であるAとともに相続に

よってBの履行または損害賠償の義務を承継し︑しかる後Aが

死亡したことにより同人から相続によって本件売買の目的物と

ともに無権代理行為を追認するか否かの選択権を承継取得した

五 七

無 権 代 理 人 を 本 人 と と も に 相 続 し た 者 が 更 に 本 人 を 相 続 し た 場 合 に お け る 無 権 代 理 行 為 の 効 力

︵昭和五八年︵オ︶第一三六二号所有権移転登記抹消登記

︑ ]

(2)

Yが以下の事由で上告したものである︒

破棄

差戻

0

日民集ニハ巻四号九五五頁︶︑

それ故︑相続人が無権代理人 B

死亡

当時

に︑

継するとともに︑ Bの子たる被上告人

X l ら

Bの無権代理人た

る権利義務を相続分で言えば三分の二以上承継していたもので

あって︑その後のAの死亡時には︑本人たるAの権利義務を承

A自身に帰属していたBの無権代理人たる権

利義務の三分の一の相続分を承継したものである︒従って︑被

上告人らは︑本人が死亡するという偶然的事情の発生以前に無

っ て

かりに本人がその自由な意思に基づきその死亡前に被卜

告人ら以外の第三者権利を移転していた場合には︑本件土地を

取得し得なかったことは勿論であるが︑

人の履行義務は被上告人らに残るはずである︒

って原判決によると︑被

t

告人らが本人を相続したという偶然

の事情によって不測の利益を受けることになるものと言わねば

ならない︒本人と無権代理人の双方相続した場合には︑相続の

先後関係を抜きにしてはその結論を論じられないものであっ

て︑無権代理人を相続したものがその後に本人を相続した場合

は︑無権代理人が本人を相続した場合と同様︑履行義務を拒否

できないものである︒

︻判

旨︼

しか

し︑

なお無権代理

したがって︑却

無権代理人を本人とともに相続した者がその後更に本人を相 権代理人としての腹行義務を果たすべき地位にあったものであ

五八

︐ 

-~548 (香法'90)

(3)

無権代理人を本人とともに相続した者が更に本人を相続した場合に おける無権代理行為の効力(松本)

のが相当である︒ 続した場合においては︑当該相続人は本人の資格で無権代理行為の追認を拒絶する余地はなく︑本人が自ら法律行為をしたと同様の法律上の地位ないし効果を生ずるものと解するのが相堵である︒けだし︑無権代理人が本人を相続した場合においては︑本人の資格で無権代理行為の追認を拒絶する余地はなく︑右のような法律上の地位ないし効果を生ずるものと解すべきものであり︑このことは︑信義則の見地からみても是認すべきものであるところ︑無権代理人を相続した者は︑無権代理人の法律

t

一旦無権代理人を相の地位を包括的に承継するのであるから︑

続した者が︑その後本人を相続した場合においても︑この理は 同様と解すべきであって自らが無権代理行為をしていないから といって︑これと別異に解すべき根拠はなく︑更に︑無権代理 人を相続した者が本人と本人以外の者であった場合において も︑本人以外の相続人は共同相続であるとはいえ︑無権代理人 の地位を包括的に承継していることに変わりないから︑その後 する結果になった以上は︑ の本人の死亡によって︑結局無権代理人の地位を全面的に承継

たとえ︑同時に本人の地位を承継し

たものであるとしても︑

もはや︑本人の資格において追認を拒 絶する余地はなく︑前記の場合と同じく︑本人が自ら法律行為 をしたと同様の法律上の地位ないし効果を生ずるものと解する

五 九

︻ 批

評 ︼

一無権代理行為と相続をめぐる問題では︑無権代理人を本人 が相続する

1 1 本人相続パターンと無権代理人が本人を相続す

1 1 無権代理人相続パターンとについて先例がみられる︒これ らのパターンにおける相違は︑追認拒絶権の行使について見解 を異にしており︑この点に関連して︑多くの学説の展開がみら れてきた︒なお︑これら当該無権代理行為の当事者間相互にお

いて地位の重複が生じたものである︒

ところで︑本判例では︑当該無権代理行為の直接の当事者で ない︑つまり無権代理行為の外にいたものが︑本人︑無権代理

人の死亡にともなって︑当該行為の中に組み入れられた結果︑

本人および無権代理人の地位が同一人に種なったパターンであ る︒つまり︑当該法律行為の非当事者に当該法律行為における

双方の当事者の地位が軍複したパターンである︒しかも︑まず︑

無権代理人を本人とともに共同相続し︑さらにその後︑本人を 相続することで︑無権代理人・本人の地位が同一人に承継され

たものである︵第一.一のパターンといえようか︶︒

本人相続型︑無権代理人相続型︑本件の第三型も同一人に本

人・無権代理人の地位が承継され︑重複した状態を星してくる︒

そこでは︑無権代理行為に関して︑有効・無効や︑本人・無権 代理人それぞれが持っていた追認拒絶権︑履行義務︑損害賠償

(4)

判例

民商 一巻四号一五七頁︑実方正男法学四巻七号二頁︶︑③信義則有効説︵杉之原舜民商九巻五号八七五頁︶④資格融合説︵四宮和夫判例民事法昭和一七年度四六頁︶︑などがみられる︒ここでは︑無権代理人の追認拒否権行使はありえない︒②非当然有効説は︑相続自体によって無権代理行為は当然に有効となるものではなく︑無権代理の本人の地位が無権代理人に承継されるとしたうえで︑相手方との関連において妥当な結論をえようとするものである︒すなわち︑無権代理人が共同相続人の一人として本人を相続した場合︑無権代理行為が当然有効となれば︑他の共同相続人は本人の有していた追認拒絶権などを承継するにもかかわらず︑彼らは他の共同相続人と持つ追認拒絶権を奪われることになるからである︒①共同相続を本則とする今日においては︑相続がおこったからといって無権代理行為は当然には有効とも無効ともならず︑無権代理の本人の地位が無権代理人を含む共同相続人に承継されると解する︵多数説

二 谷 口 知 平 ジ ュ リ 四

0

号二

0

八 頁

︑ 中 川 淳 民 商 五 四 巻 二 号一七五頁︵家族法の諸問題四二七頁︶︑宮井忠夫法時三八巻 三号六九頁︑平井宜雄法協八三巻二号二七一頁など︶゜②人格 承継説を基礎とし︑これに信義則の考え方を加味して︑共同相 続の場合は︑他の共同相続人の追認あるいは追認拒絶によって 無権代理行為が有効となることもあるいは無効となることもあ

六 〇

9  4~550 (香法'90)

(5)

無権代理人を本人とともに相続した者が更に本人を相続した場合に おける無権代理行為の効力(松本)

ると解す︵高野竹三郎民法の争点三

I

︱二三五頁︶゜③無権 代理行為は一種の不確定・浮動的な効力を有し︑それを確定さ せる権能は︑本人にも相手方にも認められ︑このような相手方

の権利ないし利益は︑無権代理人による本人の相続という偶然

事によって当然失われてもよいとはいえないなどから︑無権代 理人が本人を相続しても地位の混同ないしは両資格の融合は生

じることなく︑両資格それぞれに基づく権利義務が発生しある

いは承継されると解する︵幾代通民法総則ぞ六三頁︑金山正

信﹁無権代理と相続﹂民事研修一九巻四号四一頁︶︒抽象論的に

は追認拒絶権行使の可能性を論じる︒

さらに︑共同相続制との関連で︑無権代理の本人たる地位も

各共同相続人に相続分として量的に分属することになる︒そこ

で︑無権代理行為の有効・無効︑無権代理人の責任などについ

ても議論が分かれた︒①無権代理人は共同相続人の持分に対応

する分について無権代理行為の効果は相続によって有効とな り︑他の共同相続人は︑本人の地位の承継により追認・追認拒 絶 権 を 行 使 す る こ と が で き る と す る

︵ 栗 山 忍 法 曹 一 七 巻 八

号 一

0

三頁︶゜②無権代理行為が有効と解される根拠は︑無権代

理人の行為が侶義則違反の行為として非難されることにある︒

それゆえ︑共同相続の場合において︑無権代理人は追認拒絶で

きないが︑共同相続人のうち一人でも追認を拒絶すれば︑共同

II 

I. 

相続人たる無権代理人はその持分の如何にかかわらず︑無権代

理行為が無効となって︑無権代理人としての責任を負うと解さ

れる︵平井宜雄法協八三巻二号︱︱七九頁︶゜③無権代理人とと

もに本人たる地位を共同相続した他の相続人が追認を拒絶する

と︑履行の全部または一部が不能となり︑無権代理人は︑自己

の持分権または遺産分割の結果取得した財産の範囲で履和の責

を負い︑あわせて損害賠償責任を負うことになると解す︵阿部

徹・判例相続法ニニ頁︶゜④本人の有していた追認権・追認拒絶

権は各共同相続人の準共有になり︑相続人全員の同意なくして

は追認も追認拒絶もなしえない︵宮井忠夫法時三八巻三号七

一頁︶︒結局︑共同相続人の全員の同意で無権代理人の無権代理

行為を追認するか︑共同相続人の協議で遺産分割をして当該無

権代理行為の目的物を無権代理人に取得させなければ︑相手方

は有効に目的物を取得できない︵谷口知平前掲二

0

八貞

︶︒

体的事情のもとで無権代理人独自の追認拒絶権行使の可能性を

否定的に論じている︒

本人相続型︵本人が無権代理人を相続︶では︑本人の資格

で追認拒絶をすることができ︑無権代理行為は一般に本人の相

続により当然有効になるものではないとしたことから︵最高裁

昭和三七年四月一

0

日判決︶︑限定的有効説︵川添利起法曹時 報一四ー六ー九四一︑鈴木禄弥法学二八

I‑I

一 三

0 )

︑責

(6)

法時五八ー九~10八、伊束進・橋本真

︵佐藤義彦法セミ三七七ー

川高

0

︑右近健男判夕五二六ー一七一︶︑信義則を判断基準 別ジュリ

ー一ュノロ

l内田勝

ジュリ八六四

別ジュリ︱︱‑│︱五七︶︑相続人無 民商七ー六ー九七0︑田尾桃

法曹時報

てい

ない

身の利益維持のため︑信義則に照らしてもおかしくない状況に

あり︑無権代理行為の相手方保護との利益考慮をしたうえで︑

是認されるとしている︒すなわち︑追認拒絶権行使者は︑①無 権代理行為をしていない者であること︑②現に保護されるべき 利益の主体であること︑が明示されている︒結果的に︑相続人

( 1 1

本人

の追認拒絶権行使を認める︒

一方︑無権代理人が︽本人︾を相続する無権代理人相続型︵最

二小判昭和四0年六月

1八日︶では︑追認拒絶権行使を主張す る者が︑無権代理行為を自ら行なった者であることから︑無権 代理人に本人の追認拒絶権を行使させると︑相手方との間に公 平な利益考慮をなしたことにならないし︑信義則に反するとい

ぶ ノ

つまり︑無権代理人は︑相続によって取得した追認拒絶権 るとはいいがたいという︒ を行使するものであるから︑現に保護されるべき利益

E

体であ

いいかえれば︑相続人の保護される べき利益は二次的なものと評価されたうえでの判断といえよう か︒結果的に︑相続人︵無権代理人︶の追認拒絶権行使を認め 前者と比較すると︑後者の相続人は︑①無権代理行為をして

いない者であること︑とする要素に該当していない︒すなわち︑

無権代理行為の行為者自身であること︒②現に保護されるべき 利益の主体であるとはいえないこと︒①︑②の要素にまった<

, 

9~·4 552 (香法'90)

(7)

無権代理人を本人とともに相続した者が更に本人を相続した場合に おける無権代理行為の効力(松本)

あてはまらない︒その意味で両者の結論が逆の結果を兒するの

ついで︑第三型︵東京高判昭和六

0

年六月一九日 続によって本人を相続したものである︒このような場合におい

て︑判決では︑本人自らが法律行為をなしたのと同様の法律ト の地位ないし効果を生じ︑無権代理行為は当然有効となるもの と解すべきであるとし︑信義則上からも︑かかる相続人にその 相続した本人の地位を用いて追認を拒絶する余地を認めるのは 相当でないとした︒結果として︑相続人の請求は容れられなか った︒ここでの相続人は︑まず無権代理人を相続するのである から︑相続人の色彩は無権代理人の色で︑本人を相続するとさ れている︒その意味でどちらかと言うと︑無権代理人が本人を 相続する無権代理人相続型と言える︒つまり︑相続人は︑①無

権代理行為をしていない者であることには該当している︑が︑

②現に保護されるべき利益の主体であるか︑という点について は︑再転相続により相続人は本人の地位を取得するものである から︑むずかしい︒①の要素に該当するが︑②の要素には該渭 しない︒結論的に相続人は追認拒絶できず︑履行責任があると

する

同じく第三型である本件の原審である名古屋高裁︵昭和五 ︒ 五

‑10

七︶︶では︑無権代理人を相続した者が︑

︵判

夕五

ついで代襲相 は当然のことであるといえる︒

権は残されており︑

 

八・八•

0 )

判決︵判夕五ニ︱│︱四三︑判時︱

1 0

六ー八

0 )

では︑無権代理人と共同相続した相続人が︑後に本人を相 続した場合であって︑無権代理人を相続した本人と同様に信義 則に反しない限り無権代理行為を追認するか否かの選択権を持

っとして︑相続人は追認拒絶権を行使しうるとした︒本人がか

りに追認を拒絶したとしても相手方との利益考慮において信義

に反するものではないとする︒

そこで︑これらを二つの要素に関してみると︑相続人は︑① 無権代理行為をしていない者であることには該当しており︑②

現に保護されるべき利益の主体であるか︑という点については︑

本人を相続した時点で積極的に評価した結果︑該当するもので

あるとする︒

ところで︑本件では︑無権代理人を本人と共同相続し︑しか も︑その後に本人を相続した場合である︒したがって︑相続人 は無権代理行為の追認拒絶を本人の資格でする余地はなく︑本 人が自ら法律行為をしたと同様の法律

t

の地位ないし効果を生

じると判断する︒ところで︑最初の相続が生じた時点では︑本 人は無権代理人を相続するわけであるから︑本人には追認拒絶

一方で相続人は無権代理人の地位にある︒

その後に︑相続人は前述の本人の地位を承継する︒

相続人は︑①無権代理行為をしていない者であることには該

(8)

F2  F1  E  D 

B  A 

最昭六三•-~-.

名高昭五八・八

・ 1 0

0  0? 

東高昭六

O ・

六・九

相続によって承継する場合であっても同じことであろう︒

結論的には︑判例のように左記A ︑B︑型に沿った型に類型

化して処理するか︑相続人には本人・無権代理人の地位がそれ

ぞれ併存しており︑その行使について信義則を基準とするか︑

である︒私見としては︑無権代理行為の相手方から見た本人・

無権代理人側というグループに生じた事件であることと︑相続

人と無権代理行為の相手方との利益考慮という点からすれば後

者の立場を妥当と考える︒

本人が無権代理人を

無権代理人が本人を

甲が本人を次いで無権代理人を

甲が無権代理人を次いで本人を

甲が本人を次いで本人を相続した無権代理人を

甲が無権代理人を次いで無権代理人を相続した本人を

甲が無権代理人を次いで無権代理人を相続した本人を

誰が

どの

順番

で相

続す

るか

最昭四

O ・

六•-八 最昭三七•四•

1 0  

判例

六 四

0? 

行使可否 追認拒絶権

9 ‑‑4  554 (香法'90)

(9)

無権代理人を本人とともに相続した者が更に本人を相続した場合に おける無権代理行為の効力(松本)

岡本 泉久雄

ジュリ六六号一八二頁 判例演習親族相続

︵ 増

補 ︶

1

1 0

五貞

山本正憲

法経一五巻四号一︱九頁

1 0

二貞

参考文献 本件判例批評本文引用の他 水 辺 芳 郎

﹁ 無 権 代 理 と 相 続

t 現代民法学の基礎問題ド四]

右近健男注釈民法一一五巻四

0

辻 朗

﹁ 無 権 代 理 と 相 続 し 財 産 法 と 家 族 法 の 交 錯 一

: 五 貝 高 木 多 喜 男

﹁ 無 権 代 理

L新民法演習↓

有地

1 1

田 法 政 二 九 巻 四 号 一 一 九 貞 佐 藤 隆 夫 國 學 院 法 学 七 号 ご 貞

1 1̀  

r

i

六 五

参照

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