Author(s)
辻, 真喜; 八木, 永; 濱里, 孝志; 玉城, 愛香; 金子, 哲
Citation
南方資源利用技術研究会誌 = Journal of the society tropical
resources technologists, 31(1): 1-10
Issue Date
2016-05-31
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/24249
Key words : Biomass, bagasse, hemicellulose, hemicellulase, xylan
1.はじめに
環境問題への配慮から、低炭素社会を目指したバ イオマス利用の必要性が増している。図1に示す ように、我々の身の回りのあらゆるものは、化石資 源を原料とし、多くのCO2を排出しながら供給さ れている。この石油化学リファイナリーこそが、我々 人類に便利で快適な生活をもたらしている基盤であ る。従って、温室効果ガスの排出抑制や石油依存型 社会からの脱却をバイオ燃料に頼る潮流は、バイオ マス利用の本当の必要性を些か誤った方向性に導い ているといえる。石油が使えなかった古代、人類は 総 説 琉球大学 農学部 亜熱帯生物資源科学科 糖鎖科学研究室Aim to use unused resources
Maki TSUJI, Haruka YAGI, Takashi HAMAZATO, Aika TAMAKI, Satoshi KANEKO
Department of Bioscience and Biotechnology, Faculty of Agriculture, University of the Ryukyus
真喜、八木 永、濱里 孝志、玉城 愛香、金子 哲
未利用資源の利用へ向けて
沖縄県中頭郡西原町字千原1番地 CO2 CO2 分留 エネルギー 製品 化学製品 素材 ー 化石資源利用型 ー CO2 抽出 糖化 糖類 燃料 その他 エネルギー 製品 化学製品 素材 バイオマス CO2 ー バイオマス利用型 ー 図1 化石資源利用型とバイオマス利用型の比較 (参照:一般財団法人バイオインダストリー協会HP) 南方資源利用技術研究会誌,Vol. 31 No. 1, 1∼10, 2016バイオマスを食し、バイオマスで作った衣服を着し、 バイオマスで作った家に住んでいた。こうした昔の 生活に戻ることがバイオマス利用を促進する確実な 方法である。しかしながら、我々の生活に関わる多 くのものが石油化学によって作り出されている現代 では、やはり、同じものをバイオマスより作り出す 以外にバイオマスの利用を実現させる方法は無いと 思われる。我々は、バイオマスの主要な成分であり ながら、これまであまり注目されてこなかったヘミ セルロースの利用技術を開発することが、石油化学 リファイナリーに匹敵するバイオマスリファイナ リーを実現させる と考えている。 本稿では、バイオマスに含まれるヘミセルロース に焦点を当て、筆者らがこれまで行ってきた研究を 紹介したい。
2.バイオマスとは?
バイオマスは、生物(bio)と量(mass)に由来 する造語である。「再生可能な生物由来の有機性資 源で化石資源を除いたもの」と定義されており、廃 棄物系バイオマス、未利用バイオマス、資源作物(エ ネルギーや製品材料とすることを目的に栽培される 植物)の3つに大別されるが、その主体となるもの は、年間生産量約1,500−2,000億トンといわれる 植物細胞壁である。地球上に最も多く存在し、地球 が存在する限り持続的に再生可能なバイオマス資源 である植物細胞壁は、光合成によって植物が大気中 のCO2を固定した有機物であることから、化石資 源とは異なり、燃焼させても大気中のCO2量を増 加させないカーボンニュートラルな特質を有してい る1)。 世界に目を向けると、ブラジルやアメリカではサ トウキビ搾汁液やトウモロコシ種子を利用したバイ オエタノール生産が盛んに行われている。しかし、 これらは食料と競合する原料であることが問題視さ れており、サトウキビバガスやコーンストーバー、 更にはスイッチグラス2,3)やススキを含む多年生の 草本4,5)といった食料と競合しない原料からのバイ オエタノール生産技術の開発が急務となっているが、 まだまだ実現が困難であるのが現状である。 沖縄県において、最も豊富に存在するバイオマス 資源はサトウキビバガスである。しかしながら、沖 縄本島では、年々サトウキビ生産が落ち込み、製糖 工場の稼働率が下がっており、本年より本島の製糖 工場が1箇所に統合されるなど、厳しい状況にある。 こうした状況に対処するためにも、バガスを原料と する新産業を創出することが極めて重要な課題であ り、バガスの付加価値を高めることができれば、サ トウキビの増産につながることが期待できる。植 物細胞壁は、主にセルロース、ヘミセルロースお よびリグニンから構成され、それぞれの成分を約 1/3ずつ含むが、これまでのバイオマス研究におい て、ヘミセルロースの利用には焦点が当てられてこ なかった。筆者らの研究室においては、手つかずの 状態にあるヘミセルロースの利用を目指し、研究を 行っている。3.ヘミセルロースの利用
ヘミセルロースは、水や低濃度のNaOHに不溶 で4∼5%NaOHに溶ける植物細胞壁性の多糖であ り、その最大の特徴は、ホモ多糖類であるセルロー スとは異なり、ペントースを中心としたヘテロ多糖 であること、植物種・成長段階・部位により構造が 異なることである。最も賦存量の多いヘミセルロー ス成分であるキシランは、主に五炭糖であるキシ ロースを主鎖とし、アラビノース、グルクロン酸、 フェルラ酸、アセチル基などで修飾された構造をし ている。ヘミセルロースには、ヘミセルロースの特 性を生かした利用法が存在すると考えられるが、現 在のところ、ヘミセルロースの有効な利用技術は開 発されておらず、既存のバイオマス利用技術ではヘ ミセルロースを利用することは困難である。既存の バイオマス利用技術開発はセルロースのみの利用を 目指し、希硫酸や水熱処理によりヘミセルロースを 単糖にまで分解する方法が採用されている。結果と して、発酵原料として利用しにくい五炭糖を多く含 む複数の糖の混合物やヘミセルロースの過分解に よって生じるフラノールなどの発酵阻害物質が生成 されるという問題が生じる6-8)。加えて、バイオマ スの前処理技術や脱リグニン技術の開発もまた、未 利用資源の利用へ向けて不可欠なものであるといえ る。フェノール系ポリマーであるリグニンは、ヘミ セルロースとともにセルロースの周囲を覆うことで 植物細胞壁に強度を与え、植物体を保護する役割を 担っている。植物細胞壁多糖とリグニンの架橋は強 固であり、ヘミセルロースを分解するうえで大きな制限を与える9)。従って、ヘミセルロースを有効利 用するためには、その多種多様な構造を理解し、そ の特性を生かした利用法の開発が必須である。その ためには、従来の化学的な処理法ではないヘミセル ロースの利用を前提とした前処理技術の開発、加え て、非常にヘテロな構造を、唯一、均一なものへと 変換可能な「酵素」をもって対処することが絶対要 件である。酵素は分子構造の違いを極めて厳密に識 別し、選択的に反応を行う生体触媒であることから、 種々の酵素がヘミセルロースの分岐構造をどのよう に認識し、どのような分解産物を生成するかを詳細 に解析することが必要であり、ヘミセルロースに対 する認識特性が異なる酵素を数多く えておくこと が重要である。
4.ヘミセルロース分解酵素
上で述べたように、ヘミセルロースはヘテロ多糖 であるとともに多くの分岐構造を有するため、その 酵素分解は側鎖により大きく制約を受ける。しかし ながら、ヘミセルロース分解酵素(ヘミセルラー ゼ)の側鎖認識特性を十分に理解している研究者は 少なく、またヘミセルラーゼの側鎖認識機構を詳細 に解析できる研究者は世界中を見てもほとんどいな い。ここでは、キシランの分解に関与する酵素の側 鎖認識機構を中心に、著者らのこれまでの取り組み を紹介したい。 日 下 部 ら に よ り 見 出 さ れ たStreptomyces olivaceoviridis E-86のキシラナーゼ(EC 3.2.1.8) は、キシランの分岐に対する基質特異性が詳細に解 析されていた10-14)。興味深いことに、図2に示す ように、アラビノースが側鎖の場合とグルクロン 酸が側鎖の場合で、生産されるオリゴ糖の主鎖の長 さと分岐の位置に違いがある。そのメカニズムを解 明するためには、基質と結合した酵素の立体構造 を解明することが必須であるが、アミノ酸配列や 立体構造の情報が全くなかったことから、本酵素 (SoXyn10A)の遺伝子のクローニングと結晶構造 解析を行った15,16)。X線結晶構造解析により1.9Å の分解能でインタクトなSoXyn10Aの構造が解明 された。SoXyn10Aの結晶に様々な糖をソーキン グし、本酵素がどの様に基質を認識しているかにつ いて調べた17,18)。触媒ドメインに結合したキシロ オリゴ糖の結合様式から、本キシラナーゼは5個 のキシロースを認識するポケット(サブサイト -3 ∼+2)を有していると考えられた。アラビノフラ ノース側鎖を有するオリゴ糖(A1X2)や4-O-Me -グルクロン酸の側鎖を有するオリゴ糖(GUX3)と の結合構造では、アラビノフラノース側鎖を持つキ シロース残基はサブサイト -2の位置に結合してい たのに対し、4-O-Me-グルクロン酸の側鎖を有す るキシロース残基はサブサイト -3の位置に結合し ていた(図3)。アラビノース側鎖はα-1,3-結合で あり、主鎖のキシロースと並行方向に伸びるために アラビノース側鎖を有するキシロース残基が障害を A1X2 GUX3 A1X3 図2 S. olivaceoviridis E-86由来GH10キシラナー ゼの分解産物より得られる分岐オリゴ糖 Vol. 31 No. 1, 2016生じることなくサブサイト -2に入ることができる が、サブサイト -2に位置するキシロースの2位水 酸基は酵素の内側方向に伸びるために立体障害が 起こり、α-1,2-結合した4-O-Me-グルクロン酸側 鎖を有するキシロース残基はサブサイト -2には入 れないと考察された。この結合様式は、SoXyn10A がキシランを分解したときに生産するオリゴ糖の構 造を反映するものであり、SoXyn10Aにより特定 の構造をした側鎖を有するキシロオリゴ糖が生産さ れるメカニズムが解明された。 糖加水分解酵素は、そのアミノ酸配列に基づい てファミリー分類されている19)。キシラナーゼは 糖加水分解酵素ファミリー(GH)5、8、10、11、 30に分類されているが、GH10以外のキシラナー ゼ については、こう した 詳細 な基 質認 識機 構の 解析がなされていないため、GH5、GH8、GH11、 GH30等について、今後、立体構造に基づいた詳細 な解析が必要である。 次に、キシラナーゼの機能改変にも挑戦した20)。 これまでに構造の明らかになっているGH10キシ ラナーゼの構造とSoXyn10Aの構造を比較すると、 SoXyn10Aの5個のサブサイトの内、サブサイト -3∼+1は非常に構造が保存されているが、サブ サイト+2の構造はそれぞれの酵素に特異的である ことが判明した。このことから、酵素の基質特異性 を決定しているのはサブサイト+2の構造であると 考えられた。そこで同じGH10に属し、立体構造 が明らかになっているCellulomonas fimiのCex
(CfXyn10A)とSoXyn10Aのキメラ酵素を構築す ることとした。CfXyn10Aをキシロオリゴ糖やキ シランに作用させると酵素分解産物や反応速度に SoXyn10Aと違いが見られた(図4)。CfXyn10A とSoXyn10Aの基質結合クレフトの構造を比較す ると、SoXyn10Aにはサブサイト+2の部分に余 分なループが存在するが、CfXyn10Aにはそれが 存在しない為、サブサイト+2の構造と酵素特性 の相関が示唆された。面白いことに、GH10キシ ラナーゼの立体構造を見ると、触媒ドメインは基 質結合クレフトに沿った境界で大きな2つの塊に 分 か れ て い る(図5)。SoXyn10Aの サ ブ サ イ ト +2のループ側の塊をCfXyn10Aに置換した変異 体 で あ るFC-14-15( 図5に 示 す SoXyn10Aの 左側部分をCfXyn10Aに置換した変異体)を構築 し、親酵素であるSoXyn10AおよびCfXyn10Aと 共に特性の解析を行った。構築したキメラ酵素は、 SoXyn10AとCfXyn10Aの中間的な性質を有して いたが、サブサイト+2置換の効果は顕著であり、 キメラ酵素がサブサイト+2を使う反応様式の場合 には、サブサイト+2が由来するCfXyn10Aと同 様の性質を示した。キシロオリゴ糖の分解速度、分 解パターンの何れもキメラ酵素がサブサイト+2を 使用するキシロテトラオースより長鎖の基質の分 解においてCfXyn10Aと一致したが、サブサイト +2を使用しないキシロトリオースの分解について はSoXyn10Aと一致した(図4)。その結果として、 キメラ酵素は分解物にキシロースを生産するキシロ トリオース、キシロテトラオースおよびグルクロノ キシロテトラオース等の基質に対する活性の弱い方 +2 +1 -1 -2 -3 +2 +1 -1 -2 -3 A B 図3 S. olivaceoviridis E-86由来GH10キシラナーゼの分岐オリゴ 糖認識の様子 A:4-O-メチル-グルクロノシルキシロトリオース結合構造 B:アラビノシルキシロビオース結合構造
の性質のみを両方の親酵素から継承したことになり、 キシランに作用した際に親酵素よりキシロースを生 産しない性質を獲得した。 以上の様に、酵素の立体構造や基質との結合様式 を解析し、酵素の基質認識部位を改変することによ り、酵素の基質特異性を改変可能であることが示さ れた。機能性を有するオリゴ糖製造の際に、こうし た手法を生かすことが可能である。 キシランの側鎖に作用する酵素として、α-L-ア ラビノフラノシダーゼ(EC 3.2.1.55)がある。α -L-アラビノフラノシダーゼは、GH 3、43、51、 54および62に分類されている。著者らは前述の S. olivaceoviridis E-86由来のGH10キシラナー ゼ の 分 解 産 物 で あ るA1X2、A1X3(図2)に対す る種々のアラビノフラノシダーゼの活性を評価し た21-27)。興味深いことに、多糖中に見られる側鎖 の結合様式と同じ分岐を持つA1X3には作用でき ないものが存在すること、つまりはこうした基質 を用いて解析を行うことで、多糖に作用できる酵 素とできない酵素を判別できる可能性が示された。 後に多くのアラビノフラノシダーゼの遺伝子がク ローニングされ、著者らが解析した酵素は、今日の GH51とGH54に分類されることが明らかとなっ たが、これらのファミリーの酵素については、ファ ミリーに特徴的な側鎖認識機構を明確に定義する ことは困難であることが示唆された。その一方で、 図4 GH10キシラナーゼのオリゴ糖の切断頻度 A B C 図5 ファミリー10キシラナーゼのキメラ A:SoXyn10A B:FC-14-15〔キメラ酵素(N末端側SoXyn10A-C末端側CfXyn10A)〕 C:CfXyn10A Vol. 31 No. 1, 2016
GH62に分類されるアラビノフラノシダーゼの側 鎖認識メカニズムを詳細に解明することに成功し た28)。GH62ア ラ ビ ノ フ ラ ノ シ ダ ー ゼ は、 ア ラ ビノキシランに特異的に作用し、他のアラビノー ス含有基質にはほとんど作用しないことが知られ ていたが29-31)、酵素の立体構造が解明されてお らず、そのメカニズムは不明であった。そこで、 Streptomyces coelicolor A3(2) 由 来GH62 ア ラ ビノフラノシダーゼ(ScAraf62A)を調製し、そ の基質認識メカニズムを詳細に解析した28)。本酵 素(ScAraf62A)は、アラビノース側鎖を有する 小麦アラビノキシラン、トウモロコシ外皮アラビノ キシラン、スペルト小麦キシラン等のキシランから アラビノースを遊離するが、アラビノキシランと同 じα-1, 3-結合のアラビノース側鎖を持つアラビナ ン(主鎖はアラビノフラノースがα-1, 5-結合した もの)には作用しなかった。結晶構造解析の結果、 ScAraf62Aの活性部位は少なくとも5残基のキシ ラン主鎖を認識するクレフトと、そのクレフトの底 に側鎖のアラビノースを認識するポケットを有する ことが示された(図6)28) 。ScAraf62Aの構造と アラビナンの構造との結合モデルを作製したところ、 本酵素がアラビナンに作用しない理由を説明するこ とができた。アラビナンは、アラビノースがα-1,5 結合した主鎖にα-1,3-結合でアラビノース側鎖が 存在する。この側鎖アラビノースが本酵素のサブサ イト -1位のアラビノース結合ポケットに収まるよ うにアラビナンの構造モデルを本酵素の基質結合ク レフト上のキシロオリゴ糖に重ねたところ、アラビ ナン主鎖のねじれた構造はScAraf62Aの基質結合 クレフトへフィットできず、ScAraf62Aは基質結 合クレフトの構造によってアラビノキシランと他の アラビノース含有多糖との識別を行っていることが 示唆された。クレフト周辺に位置するアミノ酸に変 異を導入した変異体酵素の解析により、本酵素はク レフト構造によってキシラン主鎖を認識することで、 アラビノキシランに特異的に作用することが示され た28)。 キシラン分解とは離れるが、アラビノース残基は、 アラビノキシラン以外にもアラビノガラクタンやア ラビナン等の様々な多糖の構成成分として植物細胞 壁に広く分布するため、アラビノフラノシダーゼの 基質特異性を正確に理解するのは困難である。一連 のアラビノフラノシダーゼの基質特異性解析におい て、結合様式の異なるメチル -O-α-L-アラビノフ ラノシル -(1→2)-α-L-アラビノフラノシド、メ チル -O-α-L-アラビノフラノシル -(1→3)-α-L -アラビノフラノシドおよびメチル -O-α-L-アラビ ノフラノシル -(1→5)-α-L-アラビノフラノシド を有機合成し32)、酵素の基質特異性解析を行って きたが、その過程で、非常に厳密な基質特異性を有 する酵素を見出した27,33)。本酵素は、α-L-(1→5) -結合した基質に特異的に作用し、α-L-(1→2 )-結合およびα-L-(1→3)-結合した基質には作用し ないことから、エキソ -1, 5-α-L-アラビノフラノ シダーゼと命名した27)。結晶構造解析及び変異体 酵素を用いた解析により、本酵素はエンド型の1, 5-アラビナナーゼと類似した基質結合クレフトを 有するが、サブサイトの -側にエンド型酵素にはな いループ構造が存在し、このループによってポケッ ト状のサブサイト -1が形成されることでエキソ型 の反応を行うこと、およびサブサイト -1∼+2を 持ち、3残基のアラビノフラノースが結合できるク レフト様の基質結合部位を有することで1, 5-結合 した基質のみが結合できる環境を作り出し、基質の 選択をしていることが明らかとなった34)。 種々の微生物のゲノム遺伝子配列の解読が極めて 容易になった現在では、上述の様な地道な研究の重 要性が増してきている。自前で調製した市販されて いないオリゴ糖を用いて、個々の酵素の性質を詳 細に解析していけることが我々の最大の強みであ る。我々が世界で初めて存在を証明した酵素である β-L-アラビノピラノシダーゼ35)は、個々のの酵素 図6 ファミリー62 α -L- アラビノフラノ シダーゼの基質認識部位の構造
の性質を詳細に解析する意義を示す良い例である。 我々はタイプⅡアラビノガラクタンを分解できる 一連の酵素の探索を行っていたが、S. avermitilis が主骨格となるβ-1,3-ガラクタンおよびβ-1, 6 -ガラクタンを分解する酵素を有することから36,37)、 アラビアガムを炭素源として、本菌の培養を行った。 菌体外に生産された粗酵素に含まれる活性を網羅的 に測定したところ、これまで存在が確認されていな いβ-L-アラビノピラノシダーゼ活性が最も高いこ とを見出した。そこで、本酵素を精製し、遺伝子の クローニングを行ったところ、本酵素がGH27に 分類されるアミノ酸配列であることが判明した。驚 くことに、本酵素のアミノ酸配列は、別の活性を有 するα-ガラクトシダーゼのアミノ酸配列と極めて 高い相同性を示すものであった。本酵素のX線結 晶構造解析を行い、立体構造を解明したところ、α -ガラクトシダーゼの立体構造とほとんど同じであ り、基質認識に関わるアミノ酸においてただ一残基 の違いが確認されただけであった(図7)。α-ガラ クトシダーゼではアスパラギン酸(D52)である部 位が、β-L-アラビノピラノシダーゼにおいては同 じ酸性アミノ酸であるグルタミン酸(E99)に置換 されていた。このアミノ酸(E99)をアスパラギン 酸に変えた変異体酵素(E99D)は、α-ガラクト シダーゼ活性が上昇し、低下したβ-L-アラビノピ ラノシダーゼ活性を上回った。この様に、たった一 つのアミノ酸が酵素の基質特異性を決定しているこ とが証明された。こうした微妙なアミノ酸配列の違 いは、現在主流のバイオインフォマティクスによっ ては絶対に見出すことができないものである。情報 が れかえる現在において、このβ-L-アラビノピ ラノシダーゼ発見の例は、質の高い酵素の特性解析 の重要性を浮き彫りにするものである。
5.おわりに
我々の研究室は、琉球大学において2015年1月 より新たにスタートした。上述の研究基盤を生かし、 亜熱帯という沖縄の特徴にマッチした研究を行って いく予定である。成果はこれからであるが、我々の 目指しているものを幾つか紹介したい。 まず、沖縄県に最も多く存在する未利用資源であ ると考えられるサトウキビバガスの有効利用法の開 発である。沖縄県は日本一のサトウキビの生産県(年 間約68万トン、H25、H26、沖縄県農林水産部) であるため、廃棄物として副生されるバガスの有効 利用法を確立することが求められている。そこで、 強力な酵素を得るため、バガスを分解できる有用な 微生物の探索を行っている。サトウキビの植付け時 には、サトウキビ残渣を土壌に鋤き込むことから、 サトウキビ畑よりバガスの分解に適した菌が得られ ることが期待できる。沖縄各地のサトウキビ畑から 土壌をサンプリングし、バガスを溶解する菌のスク リーニングを行っている(図8)。結果として、サ トウキビ畑由来土壌にはバガスを分解できる菌が存 在し(図9)、現在、これらの菌を単離し、同定を行っ ているところである。同時に、バガスに含まれるヘ ミセルロース成分を有効に活用できる技術を構築す るため、ヘミセルロース由来の機能性オリゴ糖を開 D52 E99 B 図7 ファミリー27 β-L-アラビノピラノシダーゼと α-ガラクトシダーゼの基質認識部位の構造 A:α-ガラクトシダーゼ B:β-L-アラビノピラノシダーゼ Vol. 31 No. 1, 2016発することを目指している。腸内細菌に対するオリ ゴ糖の生理活性を評価することを目的とし、バガス からキシロオリゴ糖の調製を行っている。 また、海に囲まれた島嶼県という環境に着目し、 海水中に生息する微生物の収集やオキナワモズク等 の海藻に含まれる多糖の分解酵素生産菌のスクリー ニングにも着手している。近い将来、目的の菌が得 られることを期待している。 多くの島々から成る沖縄県は、亜熱帯気候である とともに海に囲まれた独特の自然環境を持ち、これ までに多くの新規な微生物や有能な微生物が探索さ れている。我々は、この沖縄の環境を最大限に活か し、世界に誇れる研究成果をあげることを目指して いる。
引用文献
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