一般投稿論文
平成 20 年度国民健康・栄養調査に
「朝バナナダイエット」ブームが与えた影響
大貫 裕二
(沖縄振興開発金融公庫) [email protected] 平成 20 年度(以下 2008 年とする。)国民健康・栄養調査の脂肪エネルギー比率は、前後年に比べて一 時的な特異な低下が観察される。調査実施期間に流行していた「朝バナナダイエット」が影響を与えた ことを示した。調査環境の予期せぬ事由に影響を受けたにも関わらず、検討が行われてこなかった事例 の一つである。 朝バナナダイエット提唱者1)の薦める方法をモデルとし実施率を推計した。推計結果は脂質摂取量を 減らす一方でバナナを食べない者がいたことを示唆する。朝食欠食率にも影響が示唆される。 テレビ報道によるダイエットブームが定量的な栄養調査で把握された事例として、調査機関による個 票を用いた再分析が期待される。統計家の行動基準にのっとり、調査実施者の説明責任について論じた。 キーワード: 国民健康・栄養調査、朝バナナダイエット、統計調査、調査環境の影響、 統計家の行動基準 1 .研究の目的 厚生労働省国民健康・栄養調査の脂肪エネルギ ー比率は、2008 年に前後年に比べて一時的な特異 な低下が観察される(内閣府[2015])。図 1 に性 別の結果を示す。本論文では、第一に 2008 年調査 実施期間に流行していた「朝バナナダイエット」 がこの現象に影響したことについて検討する。 第二に「朝バナナダイエット」の提唱者によるダ イエット法をモデルに、性別・年齢階級別のダイ エット実施率を推計する。第三に統計家の倫理基 準に照らして、調査実施者の統計調査結果に関す る説明責任について検討する。 2 . 朝バナナダイエットブームが影響を与えたこ とに関する仮説の検証 2. 1 家計調査日別購入額の検討 総務省家計調査では、調査世帯に毎日家計簿を つけることを依頼しており、日々の品目別家計支 出額が公表されている。国民健康・栄養調査の食 品摂取量調査は「 11 月の 1 日(日曜・祝日を除 く)」を調査日としている。 図 2 に家計調査による 2007 年,2008 年,2009 23 25 27 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 男性 女性 図 1 脂質エネルギー比率(%)の推移年の 9 月から 11 月のバナナの世帯あたり家計支出 額を示す。朝バナナダイエットブームが一気に拡 大するきっかけとなったテレビ番組2)放映直後に、 それまで 2007 年とほぼ同様だったバナナの世帯あ たり家計支出額が急増していることが観察される (矢印)。具体的には 2008 年 9 月 20 日に前日 19 日 の 15.58 円から 20.30 円に 30.3%増加している。 2008 年 9 月 20 日から 2008 年 11 月 30 日時点まで のバナナ購入額は 2007 年の同時期より平均 7.0 円 上回っており、2009 年の同時期より平均 5.1 円上 回っている。この額は 2007 年 9 月 20 日から 2007 年 11 月 30 日までのバナナの平均購入額 10.1 円の 69.3%及び 2009 年 9 月 20 日から 2009 年 11 月 30 日までのバナナの平均購入額 12.0 円の 42.5%に あたる。 これらのことから、「朝バナナダイエット」ブー ムで 2008 年 11 月には、バナナの家計支出額が急 増し、翌 2009 年 11 月には 2007 年 11 月より水準 は高いものの、2008 年 11 月からはかなり減少し ていることがわかる。 2008 年 11 月のバナナの家計購入額は 2007 年及 び 2009 年の同時期に比べて多かったことが確認で きる(〇印)。このことから、年次調査である国民 健康・栄養調査に、調査時期の短期的なバナナの 消費状況が影響していることが示唆される。 2. 2 東京都卸売市場統計による確認 2008 年 9 月 19 日のテレビ番組放映直後には、 「店頭からバナナが消えた」という報道がなされて いる。需要の急増により、価格が高騰するケース も考慮する必要がある。東京都卸売市場統計[各 年]により、出荷量と価格について確認した。出 荷量は 2008 年 8 月の取引量を 100 とすると、9 月 が 105、10 月が 109、11 月が 107、12 月が 95 であ る。番組放送日の含まれる 9 月に 5%増加した後、 11 月まで 8 月の水準を上回っていたが、12 月には 8 月より減少している。季節性を取り除くために、 2008 年の 2007 年に対する前年同月比で比較する と、7 月は前年より 2.6%減、8 月は 2.7%減であ るのに対して、9 月は前年より 0.2%減、10 月は 0.8%減と前年並みに一時的に回復している。11 月は 2.7%減、12 月は 6.6%減と再び減少の程度 が大きくなっている。ブームであっても出荷量は 前年より一貫して減少している。 平均取引価格は 2008 年 8 月の 139 円から、9 月 には 147 円、10 月には 170 円まで値上がりした後、 11 月には 154 円に、12 月には 134 円に低下してい る。これらの情報から、10 月には 8 月より 31 円 図 2 9 月から 11 月のバナナ支出額(円)
値上がりしていたものの、11 月には 8 月に比べて 15 円の値上がりにとどまっており、2008 年国民健 康・栄養調査の調査時点では、「店頭からバナナが 消えた」という状況にはなく、消費者が望めば購 入したい分だけ、それほど高くない価格でバナナ が購入できる状況であったことが示唆される。 2. 3 バナナ摂取量の確認 家計調査の結果が数量×価格の名目購入額であ ったのに対して、直接数量を確認することができ る資料は、国民健康・栄養調査の食品別摂取量そ のものである。図 3 に、一人当たりバナナ摂取量 の調査年別推移を示す。2008 年調査における 11 月のある 1 日のバナナの摂取量の平均値は 2007 年 調査における 11 月のある 1 日のバナナの摂取量の 平均値より 4.5 g 増加しており、かつ 2009 年調査 における 11 月のある 1 日のバナナの摂取量の平均 値は 2008 年調査より 2.1 g 減少している(厚生労 働省[2011])。 以上の結果から、朝バナナダイエットブームに 関する番組の放送によりバナナ摂取量は一時的に 増加し、2008 年国民健康・栄養調査に影響を及ぼ していることが確認できた。 0 5 10 15 20 19 90 19 92 19 94 19 96 19 98 20 00 20 02 20 04 20 06 20 08 20 10 20 12 20 14 g 図 3 一人当たりバナナ摂取量の推移 3 . 朝バナナダイエットブームによる影響、栄養 摂取量の検討 3. 1 脂質摂取量の減少 脂肪エネルギー比率は、脂質によって摂取され るエネルギー量を分子とし、糖質・タンパク質・ 脂質によって摂取される総エネルギー量を分母と した比率である。総エネルギー摂取量の性別の経 年推移を図 4 に示す。総エネルギー摂取量は 2007 ~ 2011 年には穏やかな減少傾向にある。 1600 1650 1700 1750 1800 2000 2050 2100 2150 2200 男性 女性(右軸) 図 4 総エネルギー摂取量( Kcal ) 図 1 に示された脂質エネルギー比率の急激な変 化が総エネルギー摂取量変化に起因するとすれば、 2008 年には前・後年と較べ一時的に増加している はずである。ところが図 4 にはそうした傾向は認 められない。このため脂質エネルギー比率の急激 な変化は、脂質摂取量の変化が主な要因であるこ とが示唆される。 図 5 に年齢階級別脂質摂取量の 2008 年と 2009 年の対前年差を示す。 1-6 7-14 15-19 20-29 30-39 40-49 50-59 60-69 70-2008 -3.5 -3.5 -5.7 -2.1 -3.7 -2.6 -2.2 -1.1 -1.3 2009 0.1 0.7 3.8 1.6 2.5 2.7 1.4 1.3 -0.8 -8 -6 -4 -2 0 2 4 6 g 図 5 年齢階級別脂質摂取量の対前年差 脂質摂取量がすべての年齢階級で2008年に2007
年より減少している。70 歳以上階級のみが 2008 年及び 2009 年の 2 年連続で減少しているが、その 他の年齢階級では 2008 年に減少した後、2009 年 に増加している。つまり、2008 年に特異的に減少 がみられる。この結果から、脂質・エネルギー比 率の 2008 年における特異的な減少は、脂質の減少 によることが確認できる。 3. 2 脂質摂取量を性・年齢階級別に推計する方法 2008 年版国民健康・栄養調査では、性別・年齢 階級別食品摂取量のデータは、食品を数品目づつ まとめた食品群ごとに公表されている。このため、 食品別の性・年齢階級計の食品摂取量データ、 2012 年の性別・年齢階級別食品摂取量のデータを 用いて、RAS 法により 2008 年の性別・年齢階級 別食品摂取量の推計を行った。 RAS 法は国民経済計算において、2 次元のクロ ス表の列計、行計が明らかである一方、個別セル の値が不明である場合に、個別セルの値が示され た基準年データを初期値として、列方向及び行方 向に計をセル値から交互に計算し、指定された列 計及び行計との比率の逆数をセル値に乗じて、列 方向及び行方向の一方についてセル値の計が指定 値と一致するよう修正することで、列計及び行計 が指定値に次第に一致するよう収束する性質を利 用して、不明なセル値を推計する手法である。 RAS 法では、セル値の自由度が列計及び行計の 制約式の数を上回るため、求められた解は唯一の 解ではなく、多数ある解の一つである。基準年に おける状態からの変化が大きくないという仮定の もとに、この操作によるセル値の結果が妥当性を 持つと判断する。RAS 法の詳細については Stone et al. [1942]を参照されたい。 今回は、性別・年齢階級別を列方向、食品別を 行方向とし、性・年齢階級計を列計、食品群計を 行計として推計を行った。 国民健康・栄養調査においては 2012 年にこの 2 次元表に関するセル値までの詳細な表章が行われ ており、このデータを基準年データとして利用した。 3. 3 脂質摂取量が減少した食品・増加した食品 表章に基づいて確認できる性別・年齢階級別の 合計値については、2008 年に前年より脂質摂取が 減少した食品は、パン類(菓子パンを除く)、豆 腐、納豆、種実類、牛肉、ハム・ソーセージ類、 鶏肉、チーズ、発酵乳・乳酸菌飲料、その他の乳 製品、マーガリン、バター、植物性油脂、その他 の菓子類、マヨネーズ、補助栄養素・特定保健用 食品である。 2008 年に前年より脂質摂取量が増加した食品は 米、バナナ、ケーキ・ペストリー類、その他の調 味料である RAS 法による性別・年齢階級別食品摂取量での 推計結果は次の通りである。全 18 セル存在する性 別・年齢別階級のうち、2008 年に増減したセル数 が 11 以上である食品を、減少したものと増加した ものの順に食品群順に示す。 【減少したもの】 パン類(菓子パンを除く):16 階級で減少。 豆腐:12 階級で減少。 納豆:12 階級で減少。 種実類:12 階級で減少。 牛肉:18 階級で減少。 ハム・ソーセージ類:16 階級で減少。 チーズ:17 階級で減少。 発酵乳・乳酸菌飲料:17 階級で減少。 その他の乳製品:17 階級で減少。 マーガリン:14 階級で減少。 バター:14 階級で減少。 植物性油脂:13 階級で減少。 その他の菓子類:11 階級で減少。 マヨネーズ:17 階級で減少。 【増加したもの】 米:13 階級で増加。 バナナ:17 階級で増加。 ケーキ・ペストリー類:11 階級で増加。 その他の調味料:16 階級で増加。 いずれの食品も性別・年齢階級別計の傾向と一
致している。 4 .朝バナナダイエット実施率の推計 4. 1 朝バナナダイエットと脂質摂取量の關係 朝バナナダイエットでは、朝食をバナナ単品と する一方、昼食・夕食についてはいつも通りとす ることを推奨している。このため、朝バナナダイ エットを実施することによって、朝食がバナナの みになり、昼食・夕食についてはダイエット開始 前と変化が無い食事モデルにより考察する。 バナナの脂質含有量は、厚生労働省食品成分表 によれば 100 g 当り 0.1 g と僅少であるため、朝バ ナナダイエット実施前には朝食で摂取していた脂 質摂取量が朝バナナダイエット実施者では 0 に減 少するとモデル化する。 朝バナナダイエットの実施の有無にかかわらず、 朝食を摂食しない者(以下、朝食欠食者とする。) が存在する。朝バナナダイエットの実施による脂 質摂取量の減少効果は、朝食欠食者を除いた、朝 食を摂食する者(以下、朝食摂食者とする。)を対 象として考察する必要がある。 4. 2 朝食での脂質摂取量の推計 性別・年齢階級別の一日における朝食での脂質 摂取率は高田ら[2015]から得られる。この結果 は朝食欠食者も含んだ平均であり、朝食摂取者の みでの比率を推計する必要がある。 瀧本[2018]は、2012 年調査の 20 ~ 39 歳の男 性 1,851 名、女性 2,012 名(妊婦・授乳婦除く) のデータを用い、男性の朝食欠食者(男性の 13.5 %)及び女性の朝食欠食者(女性の 7.4%)の脂 質摂取量が朝食摂食者に比べて男性で 14.5%、女 性で 12.0%低いことを示した。この結果を利用し て、朝食摂取者のみでの一日における朝食での脂 質摂取率を推計する。 瀧本[2018]のサンプルは 20-39 歳の身長・体 重データのある者に限定しており、2012 調査に表 章されているサンプルの男性で 66.3%、女性で 64.7%にあたる。このサンプルを 20-29 歳と 30- 39 歳の 2 階級に分割する。男性・朝食欠食有の年 齢の中位数が 30 歳であることから、2 つの年齢階 級に全サンプル数-1 の半数ずつを割り振り、中位 数にあたる 1 を 30-39 歳階級に割り振る。女性・ 朝食欠食者の中位数が 28 歳、男性・朝食摂食者及 び女性・朝食摂取者の中位数が 33 歳であることか ら、中位数が含まれる階級に全サンプル数の半数 を振り分け、残る半数については、各年齢に均等 に配分することで推計した。この推計結果に基づ き、20-29 及び 30-39 の性別・年齢階級別の朝食 欠食の無い者の朝食での脂肪摂取比率を推計した。 次に、これらの年齢階級以外での朝食摂食者の 朝食での脂肪摂取比率を推計する。 瀧本[2018]では、朝食欠食者が朝食摂取者よ り脂質摂取量が 0.1 g 以上多い品目として、即席 中華めん、植物性油脂、ケーキ・ペストリー類、 その他の菓子類、肉類(ハム・ソーセージ類を除 く)を男女共通して挙げている。総計すると、こ れらの品目摂取により、男性、女性とも 2.1 g の 脂質を朝食欠食者が朝食摂食者より多く摂取して いる。これらは、20-39 歳の朝食欠食者が朝食欠 食分をこれらの品目の摂取で補う行動を取ってい る可能性を示唆する。例えば、「間食で即席中華め んやケーキを食べる」、「昼食・夕食で大量の焼き 肉を食べる」などである。こうした、朝食欠食者 の食生活は単身生活等による若い時期特有のもの であり、40 歳以上の年齢階級においては、朝食を 欠食する場合にも健康を考慮した食生活に改善さ れていることが見込まれる。一方、20 歳未満の年 齢階級については、養育者による食事バランスの コントロールが期待される。 そこで、仮に朝食欠食者がこれらの品目につい て、朝食摂取者と同量まで摂取量を減少した場合 の脂質摂取量を求めて「生活改善ケース」と名付 け、20-39 歳階級以外の男女の朝食摂食者の朝食 での脂肪摂取比率の推計に利用した。 朝食欠食率については、59 歳までの年齢階級に ついては、2012 年調査の朝食欠食者と錠剤のみ摂 取者3 )を朝食欠食者と同じ脂質摂取量とみなし、
60 歳以上の高齢者については、瀧本他[2015]の 朝食「無」の朝食欠食者と錠剤のみ摂取者との差 異をサンプル数に応じて比例配分して、朝食欠食 者と同じ脂質摂取量とみなした。 小中学生の食生活については、国民・健康栄養 調査よりも詳細な調査結果が利用可能である。日 本スポーツ振興センター[2011]は、小中学生の 給食のある日、無い日(土曜日)別に、朝食欠食 者・摂食者別に朝食・昼食・夕食・間食・夜食別 の脂質摂取量を示している。朝食摂食者の給食の ある日、無い日の平均を単純平均した後、2010 年 の人口推計の日本人人口の小 3、小 5、中 2 の人口 比により加重平均した結果を 7 ~ 14 歳階級の値と して利用する。 以上の結果を総合した、性・年齢階級別の朝食 摂食者における、一日の脂質摂取量に占める朝食 での脂質摂取量の割合「朝食における脂質摂取率」 を表 1 及び図 6 に示す4)。 表 1 性・年齢階級別朝食における脂質摂取率 年齢階級 男性 女性 1 - 6 歳 22.2% 21.0% 7 -14 歳 22.2% 21.9% 15-19 歳 18.5% 20.4% 20-29 歳 18.8% 19.8% 30-39 歳 18.3% 21.0% 40-49 歳 19.3% 21.3% 50-59 歳 20.3% 22.1% 60-69 歳 25.2% 25.6% 70 歳以上 27.7% 26.8% 4. 3 朝バナナダイエット実施率の推計 (1) 簡易モデル 2007 年調査から 2008 年調査への脂質摂取量の 減少が、すべて朝バナナダイエットの実施による ものと仮定して、朝バナナダイエットの実施率を 推計した。 2008 年の脂質摂取量の 2007 年摂取量に対する 伸び率が朝バナナダイエット実施率と脂質摂取者 の 1 日摂取量に対する朝食での摂取量の比の積に 相当する。ここで、1 日の脂質摂取率は 100%、す なわち調査対象者全員が調査日に脂質を何らかの 形で摂取すると仮定した。この仮定は断食などの 特殊な事情が無い限りは妥当であると判断した。 他の個別食品の摂取データを利用しても同様の推 計は理論的には可能であるが、調査対象者に占め る食品摂取者の比率に関するデータが得られない ため、推計は困難である。 2008 年の平均脂質摂取量× 2008 年の標本数= 2007 年の平均脂質摂取量× 2007 年の標本数×( 1 - 朝バナナダイエット実施率)+(2007 年の平均脂 質摂取量-朝食での平均脂質摂取量)×標本数×朝 バナナダイエット実施率という関係から、標本数 が 2007 年と 2008 年で変化しないと仮定する5)と、 2008 年の対 2007 年平均脂質摂取減少率=朝バナ ナダイエット実施率)×「朝食における脂質摂取率」 が導かれる。 表 2 にこの簡易モデルによる 2008 年調査実施時 表 2 性・年齢階級別朝バナナダイエット実施率(%) ― 簡易モデル ― 年齢階級 男性 女性 1 - 6 歳 20.6% 55.3% 7 -14 歳 22.7% 26.7% 15-19 歳 31.8% 57.0% 20-29 歳 15.2% 24.5% 30-39 歳 36.9% 28.0% 40-49 歳 37.6% 8.7% 50-59 歳 21.8% 13.7% 60-69 歳 11.5% 5.7% 70 歳以上 12.1% 8.3% 0 5 10 15 20 25 30 1-6 7-14 15-19 20-29 30-39 40-49 50-59 60-69 70-男 女 図 6 朝食における脂質摂取率(%)
における性・年齢階級別朝バナナダイエット実施 率の推計値を示す。 大貫[2019a]における推計から、前述の 15-19 歳女性の「朝食における脂質摂取率」の変更に伴 い、朝バナナダイエット実施率の推計値も 44.4% から 57.0%に変更となった。 以上が大貫[2019b]における推計結果である。 4. 4 朝バナナダイエット実施率の推計 (2) 朝食摂食者モデル 簡易モデルでは、朝食欠食率をモデルに含めず、 サンプル数も 2007 年と 2008 年で同様と仮定した。 実際にはこれらのデータを得ることが可能である。 そこで、これらのデータを反映し朝バナナダイ エット実施率を推計する。朝食欠食者の 1 日の脂 質摂取量は、20-39 歳の男女については瀧本[2018] の結果により、その他の年齢層については 3.2 の 「生活改善ケース」の結果を利用した。朝バナナダ イエット実施率は、朝食接触者のみに対して、2008 年の対 2007 年平均脂質摂取減少率=「朝バナナダ イエット実施率」×「朝食における脂質摂取率」 が成立するものとして求めた。これを朝食摂食者 モデルとする。表 3 と図 7 に性・年齢階級別の全 体に占める朝食摂取者のうち朝バナナダイエット 実施者の比率を示す。 簡易モデルに比べ大幅に低い結果となった。こ れは男性では 2008 年の朝食欠食者率が 2007 年に 表 3 性・年齢階級別朝バナナダイエット実施率(%) ―朝食摂食者モデル― 年齢階級 男性 女性 1 - 6 歳 5.73% 14.41% 7 -14 歳 6.19% 7.40% 15-19 歳 5.83% 13.79% 20-29 歳 2.06% 5.12% 30-39 歳 7.04% 6.53% 40-49 歳 7.75% 2.13% 50-59 歳 5.09% 3.72% 60-69 歳 3.80% 1.86% 70 歳以上 4.59% 2.74% 比べて高いためであり、女性では朝食欠食者を除 いたことで、朝食摂食者の脂質摂取量の低下の度 合いが大幅に低下したことによる。表 4 に単身世 帯の割合による影響を調整した後の性・年齢階級 別の朝食欠食者率を大貫[ 2019a ]より示す。朝 食摂食者モデルの推計ではこの調整後の朝食欠食 者率を用いた。 表 4 性・年齢階級別朝食欠食者率(%) 年齢階級 男性 女性 2007 2008 2007 2008 1 - 6 歳 0.0% 0.5% 0.0% 0.9% 7 -14 歳 0.8% 1.6% 2.1% 1.5% 15-19 歳 9.3% 12.1% 5.2% 4.7% 20-29 歳 17.2% 22.0% 12.8% 13.7% 30-39 歳 13.9% 14.3% 5.7% 8.1% 40-49 歳 7.9% 11.0% 3.4% 3.3% 50-59 歳 5.4% 6.0% 3.1% 2.7% 60-69 歳 2.6% 2.5% 1.2% 1.3% 70 歳以上 1.7% 1.6% 0.8% 1.7% 4. 5 バナナ摂取量による結果の検証 2008 年の性・年齢階級別果物類の摂取量、バナ ナ摂取量、バナナ以外の果物類の摂取量、2012 年 の性・年齢階級別バナナ摂取量に基づき RAS 法 により推計した 2008 年の性・年齢階級別バナナ摂 取量推計値を表 5 に示す。 表 3 及び表 5 より、仮に朝バナナダイエット実 施者以外は一切バナナを摂取しないとした場合の、 0 5 10 15 20 1~ 6歳 7~ 14 歳 15 ~ 19 歳 20 ~ 29 歳 30 ~ 39 歳 40 ~ 49 歳 50 ~ 59 歳 60 ~ 69 歳 70 歳以上 % 男性 女性 図 7 朝バナナダイエット実施率推計値
朝バナナダイエット実施者の 1 日あたりバナナ摂 取量を求める。表 6 に結果を示す。 表 6 性・年齢階級別朝バナナダイエット実施者の バナナ摂取量( g ) 年齢階級 男性 女性 1 - 6 歳 239 g 88 g 7 -14 歳 160 g 114 g 15-19 歳 175 g 56 g 20-29 歳 276 g 264 g 30-39 歳 126 g 156 g 40-49 歳 146 g 684 g 50-59 歳 301 g 621 g 60-69 歳 593 g 1366 g 70 歳以上 554 g 822 g 表 6 の結果は、朝バナナダイエット実施者以外 は一切バナナを摂取しないという極端な仮定に基 づくものであるため、朝バナナダイエット実施者 がかなり多くのバナナを摂取するとしても不自然 ではない。一方、バナナ 1 本の重量が 100 g 程度 であることからすると、バナナ半分程度の摂取量 である女性・15-19 歳年齢層については、朝バナ ナダイエット実施率が過大に推計されていること を示唆する。 実際に朝バナナダイエットでは、バナナを無理 に食べることを推奨せず、ごはんやアメを摂取す ることも認めており、テレビ番組でもその点が視 聴者に伝えられている。つまり、バナナを摂取せ 表 5 性・年齢階級別バナナ摂取量推計値( g ) 年齢階級 男性 女性 1 - 6 歳 13.7 g 12.7 g 7 -14 歳 9.9 g 8.4 g 15-19 歳 10.2 g 7.7 g 20-29 歳 5.7 g 13.5 g 30-39 歳 8.9 g 10.2 g 40-49 歳 11.3 g 14.6 g 50-59 歳 15.3 g 23.1 g 60-69 歳 22.5 g 25.4 g 70 歳以上 25.4 g 22.5 g ずに、食事の摂取をしながら、朝食の脂肪摂取量 を朝バナナダイエットと同様に減少した者が存在 することが示唆される。 また、表 4 に示した朝食欠食率についても、2007 年から 2008 年にかけて上昇した性・年齢階級につ いては、朝バナナダイエットの実施者が増えたこ とによる影響が示唆される。例えば、朝食を準備 する母親がバナナだけを朝食として提供するのに 対して、朝食を摂取しないなどの行動が起こった とすれば、朝食欠食率は上昇する。 5 . 統計調査報告における利用者への情報提供の 責任 5. 1 統計調査報告における利用上の注意 2008 年国民健康・栄養調査における脂質摂取量 の低下は以上のように「朝バナナダイエットブー ム」の影響を受けているにもかかわらず、これま で、調査報告書等において、統計利用上の注意を 払うべきことは言及されてこなかった。意図せざ る一時的要因による調査への影響といえども、調 査実施者は十分な分析の上、利用者に対する適切 な情報提供が求められる。 ここでは、計量生物学会の定めた「統計家の行 動基準」に照らして、本事案について検討する。 5. 2 計量生物学会「統計家の行動基準」 佐藤ら[2014]によれば、日本計量生物学会は、 2013 年に「統計家の行動基準」を学会基準として 採択、公表している(佐藤ら[2013])。 本事案と最も関連が深いと考えられる部分は、 「Ⅲ.行動基準」「2.業務を適正に行う」「(4)成果 を公表・説明する:得られた成果は、客観的な立 場から公表する。思い通りの結論が得られなかっ たことを理由に公表を控えることはしない。デー タは有限であり、得られた結論にも限界があるこ とを自覚し、不確実性を他者にも説明する。成果 は、できる限り広い範囲に公表するが、特定の集 団などが不利益を受けないことを検討するなどの 配慮をする。また、結論が誤って解釈されたり誤
用されないように努め、誤用に気づいた場合は正 すよう努める。」である。 5. 3 本事案に関する誤用の事例と説明不足の事例 本事案については、脂肪摂取量が 2008 年のみ朝 バナナダイエットブームという短期的な変動の影 響を受けているにもかかわらず、長期トレンドと しての脂肪摂取量の判断に用いている例が見出さ れた(田中ら[2010]及び柴田[2013])。 また、内閣府消費者委員会事務局からの聞き取 りによれば、内閣府[ 2015 ]の公表にあたって、 2008 年の脂質エネルギー比率の特異な低下の理由 を厚生労働省健康局健康課栄養指導室に問い合わ せたところ、「理由はわからない」との回答であっ た。 こうした事例は、2008 年国民健康・栄養調査が 朝バナナダイエットによる短期的な影響を受けて いることに関する説明が十分になされていないこ とを示している。 5. 4 個票による再分析の必要性・有効性 本研究では、個票を利用することができなかっ たため、国民健康・栄養調査の公表結果のみを用 いて分析を行った。 国民健康・栄養調査の食品摂取量調査は、調査 段階では、「朝食」「昼食」「夕食」等に分けた調査 を行っており、個票データでは「朝食」のみを対 象とした分析が可能であるが、集計結果では食品 ごとの「朝食」のみを対象とした公表はなされて いない。「朝バナナダイエット」ブームの影響を分 析するためには、「朝食」のみを対象として、2007 年、2008 年、2009 年の食品摂取量にどのような変 化がみられるか、また、「朝バナナダイエット」で 推奨されているように、昼食・夕食の食品摂取は 影響を受けていないかを個票データを用いて分析 することが有用と考えられる。調査実施機関によ る今後の再分析の実施が期待される。 6 .結論と今後の展望 2008 年国民健康・栄養調査の結果は、同年の朝 バナナダイエットブームの影響を受け、脂質摂取 量が特異に低下していることを家計調査の日別調 査結果等及び、国民健康・栄養調査そのものの分 析を通じて明らかにした。 性・年齢階級別の朝バナナダイエット実施率を 提唱者のダイエット法に基づき推計した。バナナ の摂取量により検証したところ、女性 15-19 歳年 齢階級では摂取量が少なかったが、他の性・年齢 階級ではほぼ妥当な結果であった。女性 15-19 歳 年齢階級ではバナナに代わってごはんやアメを摂 取していることが示唆される。朝食摂食率も男性 の 50 代以下、女性の 20 代、30 代で増加しており、 影響が示唆される。 2008 年国民健康・影響調査の結果が、短期的な 影響を受けた結果となっていることについて、こ れまで利用上の注意がなされてこなかったことを 指摘し、それによる統計の誤用が生じている例を 示した。 統計家の行動基準に照らして、今後このような 誤用が生じないよう、個票を用いた再分析が実施 されるべきことを指摘した。 注 1) はまち。[2008]朝バナナダイエット,ぶんか社(ISBN: 978-4-8211-0971-5 )によれば著者の「はまち。」(本 名:渡辺仁)が「朝バナナダイエット」の提唱者で、 著者の配偶者である渡辺澄子が「朝バナナダイエット」 の考案者とされている。本論文では本書の提唱する朝 バナナダイエット法に基づき記述する。 2) TBS 系「ドリーム・プレス社」2008 年 9 月 19 日夜放 送。女性タレント 8 人が出演する 4 時間のダイエット 特別番組。森公美子さんは「朝バナナダイエット」に 挑み、毎朝食はバナナと水だけという生活を 1 か月半 続けたところ、7 キロも減量に成功した。 3) 朝食に錠剤のみを摂取する者。他に果物のみ摂取する 者が表章されるが、ここでは朝食摂食者に分類した。 4) 大貫[2019a]における推計では、15-19 歳女性の「朝 食における脂質摂取率」において、「女子大学生の食事 調査」を利用した。本論文の推計では大貫[ 2019a、 p. 54 ]表 9.10 の結果を採用した。採用の理由は次の 2 点である。「女子大学生の食事調査」の結果(26.2%)
が男性(18.5%)と大きく乖離すること。「女子大学生 の食事調査」は累計 60 名のサンプル数であるのに対し て、表 9.10 の結果はサンプル数 570 名であること。こ の結果 15-19 歳女性は 20.4%とした。 5) モデルを簡略にするための仮定である。 引用文献 ◦内閣府[2015]トランス脂肪酸に関するとりまとめ http://www.cao.go.jp/consumer/doc/150520_houkoku_ honbun.pdf(2017-11-3 参照) ◦大貫裕二[2019a]平成 20 年度国民健康・栄養調査の脂 肪エネルギー比率に「朝バナナダイエット」ブームが与 えた影響(放送大学 2018 年度卒業研究)ISBN: 978-4- 9910763-0-5 https://drive.google.com/file/d/1ZWtKQbnrTG0sRPPR byXJClq8HV1gYfGt/view?usp=sharing(2020-8-14参 照) ◦厚生労働省[2011],国民健康・栄養の現状 ― 平成 20 年 国民健康・栄養調査報告より http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/eiyou/h20-houkoku.html(2017-11-3 参照) ◦東京中央卸売市場(各年)市場統計情報(月報・年報) http://www.shijou.metro.tokyo.jp/torihiki/(2017-12-14 参照)
◦ Stone, R.; Champernowne, D. G.; Meade, J. E. [1942] “The Precision of National Income Estimates.” The Review of Economic Studies, vol. 9, no. 2, 111-125 ◦高田和子,瀧本秀美[ 2015 ]食事の特徴に関する研究, 古野純典「国民健康・栄養調査を活用した生活習慣病の 対策に資する研究 厚生労働科学研究費補助金 厚生労 働科学特別研究研究事業平成26年度総括・分担研究報告 書」 https://mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NIDD02. do?resrchNum=201405034A(2017-11-14 参照) ◦瀧本秀美,高田和子,猿倉薫子[2015]若年男女の朝食 欠食者の栄養素・食品群摂取、身体状況、及び生活習慣, 古野純典「国民健康・栄養調査を活用した生活習慣病の 対策に資する研究 厚生労働科学研究費補助金 厚生労 働科学特別研究研究事業平成26年度総括・分担研究報告 書」 https://mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NIDD02. do?resrchNum=201405034A(2017-11-14 参照) ◦日本スポーツ振興センター[2011]児童生徒の食事状況 等調査委員会 平成 22 年度児童生徒の食事状況等調査報 告書 https://www.jpnsport.go.jp/anzen/anzen_school/tyosa kekka/tabid/1491/Default.aspx (2017-12-6 参照) ◦大貫裕二[2019b]平成 20 年度国民健康・栄養調査の脂 肪エネルギー比率に「朝バナナダイエット」ブームが与 えた影響(社会・経済システム学会第 38 回大会予稿集) ◦佐藤恵子,岩崎学,菅波秀規,佐藤俊哉,椿広計[2014] 統計家の行動基準の策定 ― 背景と今後の課題,計量生 物学,Vol. 35,No. 1,pp. 37-53 ◦佐藤恵子,岩崎学,稲葉由之,菅波秀規,佐藤俊哉,中 村隆,前田忠彦,椿広計[2013]日本計量生物学会 統計 家の行動基準 http://www.biometrics.gr.jp/news/all/20131118-2.pdf (2019-7-9 参照) ◦田中幸久,岡野淳,関根一則,野村蘭,湯浅麻奈美,米 久保明得,清水精一(2010 )日本人の脂肪摂取と肥満, オレオサイエンス,vol. 10,no. 10,35-44 ◦柴田博(2013)高齢者の脂肪摂取と健康,オレオサイエ ンス,vol. 13,no. 1,17-23
The effect of Morning Banana Diet Boom on 2008
National Health and Nutrition Survey
Yuji ONUKI
The Okinawa Development Finance Corporation
Abstract:
The fat energy ratio in the 2008 National Health and Nutrition Survey conducted as an annual survey is observed to have a temporary and singular decrease compared to the previous and subsequent years. The analysis of the daily purchase price of bananas in the household survey and the wholesale price of bananas in the Tokyo Metropolitan Wholesale Market Statistics shows that the “morning banana diet” that was popular during the November survey period affected this phenomenon. This is one of the cases that the statistical investigation was affected by an unexpected cause of the investigation environment.
Assuming that the decrease in lipid intake in the 2008 survey compared to the 2007 survey was due to the morning banana diet, the morning banana diet implementation rate by sex and age group was estimated, using the breakfast intake as a percentage of the daily lipid intake. Considering the diet method recommended by the advocators of the morning banana diet as a model, it was assumed that the morning banana diet implementers would have zero dietary fat intake at breakfast. Since the National Health and Nutrition Survey Report only shows the amount of nutrient intake per day, we used the research results by special estimation using individual results. Examining the results by banana intake by sex and age group, banana intake was too little in women aged 15-19 years, which suggests that some people did not eat bananas while reducing their lipid intake. The advocators of the morning banana diet recommended eating rice and candy without sticking to bananas, which suggests that they followed them. The rate of skipping breakfast also increased in males aged up to 50s, and in females aged 20s and 30s, which suggests an effect of banana diet boom.
As a case where the diet boom by TV coverage was quantitatively grasped by the nutrition survey, reanalysis using individual results by the research institute is expected. From the view pint of the Statisticians’ standards of conduct, the accountability of survey conductor is pointed out.
Keywords: National Health and Nutrition Survey, morning banana diet, Statistical survey, influence of survey environment, Statisticians’ standards of conduct.