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Sustainable Development(SD)が獲得した「権威」の源泉 : グローバル・ガヴァナンスの視座から

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Academic year: 2021

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(1)Sustainable Development(SD)が獲得した 「権威」の源泉 −グローバル・ガヴァナンスの視座から−. The Origin of the Universally Authorized Concept “Sustainable Development” : From the Viewpoint of “Global Governance” Makoto EZAWA. Post Graduate Student: Graduate School of Environment and Information Sciences, Yokohama National University. 横浜国立大学大学院 環境情報学府     博士課程後期 . 江澤  誠. ABSTRACT  The concept “Sustainable Development (SD)”, which was advocated by the World Commission on Environment and Development (Brundtland Commission) in its report Our Common Future, has strong influences on worldwide environmental policies, as well as the paths of science and culture developments and our daily life, as the key concept to solve the global environmental problem. Nevertheless, it has not been fully investigated how and why the concept SD won such remarkable popularity and authority. In this doctoral dissertation, the question is studied and answered from the political scientific viewpoint of “global governance” (including “epistemic community” and “soft law” concepts), instead of the conventional methodology of giving emphasis on immanent interpretations, such as “contents” debates.. 1. 背景と目的.  ブルントラント委員会によって提唱された SD がこ のように大きな権威を獲得した要因は那辺にあるので.  ストックホルム会議の開催から 11 年後、1983 年. あろうか。SD という概念に関しては多くの研究がな. 12 月の第 38 回国連総会において、 地球環境問題に. されており、コンテンツに着目するなどの様々な視点. ついての提言を行う独立委員会の設置が採択された。. からの解釈が存在するとはいえ、SD という概念がな. 委員会は環境と開発に関する世界委員会と称され、. ぜこのように権威を獲得したかについての研究は未だ. 1984 年 5 月から活動を開始している。 委員長にはノ. 十分とはいえない。今日 SD が大きな影響力を発揮し. ルウェーの元首相ブルントラントが就任し、委員会は. ているからには、その理由を十分に明らかにすること. ブルントラント委員会と呼ばれるようになった。. が求められている。.  ブルントラント委員会は 1987 年 4 月に報告書 Our. 2. SD が権威を獲得した要因 . Common Future(1) を国連に提出し、 委員会としての大 方の使命を終えたが、 国連総会で採択された報告書 Our Common Future はその後の世界の環境政策に多大.  本論文では、ブルントラント委員会の提唱した SD. な影響を与えることとなった。報告書は「Sustainable. が権威を獲得した要因を次の 2 つの位相に分類する。. Development( SD)」 という概念を提唱しており、 そ. Ⅰ.コンテンツ&アクセプタンス. の定義は「持続的な開発とは、 将来の世代の欲求を. Ⅱ.インスティチューション&インキュベーション(2). 充たしつつ、現在の世代の欲求も満足させるような開.  Ⅰのコンテンツとは、ブルントラント委員会の提唱. 発」とされている。. した SD の内容であり、SD 概念に関しては多くの先.  ブルントラント委員会の提唱した SD は、爾後、地. 行研究がなされ、様々な視点からの解釈が存在する。. 球環境問題解決策のキーワードとして、 国際的な政.  Ⅰのアクセプタンスとは、ブルントラント委員会の. 策立案の場から市民生活の場に至るまで、 様々な場. 提唱した SD が、悪化する地球環境と混迷する地球環. で様々な影響を与えている。さらに、SD の概念はこ. 境問題のなかで、どのように受け入れられてきたかと. のような環境政策の域を超えて、現代社会を描出する. いう「受容」の問題である。その「受容」の実態を見. キーワードにもなっており、現代の科学と思想に大き. ると、SD は地球サミットに至る、あるいはそれ以後. な影響を与えている。. も含めた地球環境政治の流れのなかにおいて、リオ宣.  このように環境面、思想面、そしてまた、日常的に. 言、 アジェンダ 21、 ローカル・ アジェンダ等に関連. 様々な分野で多岐にわたって大きな影響を与えている. して受容されてきた。. SD という概念には、国際条約のような明確な法的拘.  そして、 Ⅱのインスティチューション&インキュ. 束力がないにもかかわらず、地球的規模での規範、す. ベーションこそブルントラント委員会そのものであ. なわち、時代のパラダイムになった感がある。. り、 ブルントラント委員会以前に既に素朴なかたち. 63. Sustainable Development(SD)が獲得した 「権威」の源泉             −グローバル・ガヴァナンスの視座から− .

(2) 3.方法論. で存在し、 未完成の状態で喧伝されていた SD(例え ば、MSY、MAC、 経済思想、 環境活動家の主張等) を、 文字どおり「孵化」( incubation) させた「制度」.  SD の研究において従来最も重要視されてきたのは. (institution)である。. Ⅰのコンテンツ&アクセプタンスであった。つまり、.  すなわち、ブルントラント委員会より前の SD 概念. コンテンツ&アクセプタンスについては、様々な先行. とブルントラント委員会より後の SD 概念には相当. 研究があり、それらは確かに有用な解釈ではあるが、. の開きが存在している。 例えば、 ブルントラントは. SD の権威性の解明に十分応えているわけではない。. 1986 年にブリストル市において、SD の概念を核とし.  ブルントラント委員会を「インスティチューショ. た講演を行っているが、その講演によって SD が権威. ン」や「インキュベーション」として捉え、SD が獲. を獲得したわけではなく、ブルントラントが委員長を. 得した権威の源泉の対象に見据えての本格的な研究は. 務めたブルントラント委員会という「制度」を経由す. これまで行われてはこなかった。 本論文の主張は、. ることによって SD は権威を獲得したのである。ブル. 「最も重要なのは、Ⅱのインスティチューション&イ. ントラント(の講演) によっては得られなかった権. ンキュベーション、すなわちブルントラント委員会そ. 威がブルントラント委員会によって得られたというこ. のものの外在的研究であり、それが SD の権威を高め. とは、両者間に権威を醸成した「孵化器」の存在が必. る主要な源泉となった」 というものである。 なぜな. 要であり、それこそブルントラント委員会という「制. ら、 「権威」は「内容」ではなく「送り手」に深く関. 度」である。このブリストルでの講演とブルントラン. わっているからである。. ト委員会に関する件は、ブルントラント委員会をイン.  コンテンツやアクセプタンスの問題を捨象ないし軽. スティチューション&インキュベーションとして捉え. 視するものではもとよりないし、ましてやそれらの重. られ得る典型的な例である。. 層的な重要性も認識しているが、それらの多くの局面.  本来、時系列で見れば、Ⅱのインスティチューショ. に関わる問題は他の研究に譲り、本論文では、SD の. ン&インキュベーションがあって、Ⅰのコンテンツが. 権威の源泉としてはこれまで研究の行われてこなかっ. あり、 それらの帰結としてⅠのアクセプタンスがあ. た、インスティチューション&インキュベーション機. る、というべきであろうが、ここでは SD の権威の獲. 能としてのブルントラント委員会を研究の中心に据え. 得の要因という観点から分類しており、Ⅰのコンテン. る。その論考作業を経て、初めて、SD が権威を獲得. ツ&アクセプタンスは既に研究の及んでいるところ、. した十分な根拠を示し得るものと考える。 . Ⅱのインスティチューション&インキュベーションは.  その具体的な研究方法とは、ディシプリンとしては. 未だ研究の及んでいないところ、という見方が可能で. 環境政治学、国際関係論を融合させた学際的な方法論. ある。. であり、分析の枠組みとしては、国際政治・社会に関.  本論文の研究が SD の「権威」に関するものである. わる3つのキーワード−グローバル・ガヴァナンス、. からには、権威がいかなるものかを常に意識して論を. 認識共同体、ソフト・ロー−である。. 進めなければならないが、「権威によるコミュニケー.  そして、認識共同体は政策形成論の、ソフト・ロー. ションにおいては、誰が語ったのかというメッセージ. は国際法の、それぞれのアプローチからの概念として、. の送り手の資格が重要であって、語られた事柄の内容. グローバル・ガヴァナンス概念のなかに包含され得る. の当否がいちいち問われることはない」(. と見ることができる。従って包括的な分析概念として. 3). というこ. とを提示しておきたい。. はグローバル・ガヴァナンス論を用いることとなる。.  ブルントラント報告書の提示した SD に関しては、.  グローバル・ガヴァナンス論は便宜的に分ければ、. 開発を認めかつ環境保全に努めるというその主張が自. 認識的あるいは分析的な枠組みとしてのグローバル・. 己撞着であるとか、政策の具体性に欠け、対症療法の. ガヴァナンス論と規範的に捉えられるグローバル・ガ. 彌縫策の域を脱してはいないとかいわれることがある. ヴァナンス論になる。. が、先に示した「権威」についての解釈によれば、中.  規範的に捉えられるグローバル・ ガヴァナンス論. 身は問題ではなく、送り手、この場合はブルントラン. は、特にグローバル・ガヴァナンス委員会がその例と. ト委員会のありようが重要なのであって、仮に SD が. して出されることが多く、現実の国際政治・社会のな. コンテンツにおいて具体性に欠け、自己撞着であって. かでいかに「グッド・グローバル・ガヴァナンス」を. も、大きな権威を獲得するのは驚くには当たらない。. 実践・達成していくかという規範性を追究するもので. 政策なり概念が権威を持つということは、その内容に. ある。ここにおいては、規範的に捉えられるグローバ. 必ずしも根拠がある訳ではないのである。. ル・ガヴァナンス論とは違うところの、認識的あるい. 論文. 64.

(3) は分析的なグローバル・ガヴァナンス論を本論文にお. グローバル・ガヴァナンス論を見てみる。ヤングの説. ける方法論として見ることとする。. くグローバル・ ガヴァナンス論は次のような特徴を.  グローバル・ガヴァナンスという言葉が頻繁に聞か. 持っている 。. れるようになったのは 1990 年代になってからではあ.   「最も広い概念として「制度」があり、それは「 (公. るが、それ以前からも使われていたのであり、土屋大. 式・非公式の)ルールあるいは約束事の集合で、社会. 洋は次のようにグローバル・ガヴァナンスに「ルーツ」. で何がどう行われるかを規定したり、そこに参加する. があると述べている 。. 個々人の役割を定めたり、それらの役割を担う者同士.  「グローバル・ガバナンス論は、既に述べたように. の相互作用をガイドする」ものをいう。この制度の1. 特に冷戦後の状況を意識した認識枠組みである。しか. つに「ガバナンス・システム」があり、それは「ある. (6). (4). し、過去の議論と断絶されているわけではない。ここ. 社会集団のメンバーに共通の関心事について、集団的. では、グローバル・ガバナンス論のルーツとして、 「ア. 選択を行うための特別な制度」である。そして、ガバ. ナーキーな社会」論と国際レジーム論を取り上げるこ. ナンス・システムの1つに「レジーム」があり、それ. とにしよう。 」. はガバナンス・システムよりも「限定された問題領域.  また、同様のことは、大芝亮・山田敦の次の記述に. 群、あるいは単一の問題領域を扱う」 。そしてさらに狭. も見ることができる 。. い意味で、フォーマルな事務局や予算を持つ実体的な. (5).  「1つはグローバル・ガバナンスを分析概念とする. 「組織」 (その1つが政府)があるものと定義される。 」. アプローチで、これはさらに、(a)リアリストのいう.  ヤングのグローバル・ガヴァナンス論からも明らか. 「アナーキー」を別の角度から捉え直そうというアプ. なように、レジームはグローバル・ガヴァナンスに包. ローチと、 (b)リベラリストのいう「レジーム」の概. 含される。従って、ブルントラント委員会と SD が環. 念を発展させるために提示されたグローバル・ガバナ. 境問題のなかでも深遠なテーマである地球環境管理の. ンスとに区別できる。」. 問題を内在させているからには、本論文で採用すべき.  従来、秩序を担保するものとして暗黙知的に政府と. 方法論は、 「単発的」で狭い「レジーム論」ではなく、. いうものを考えていた。すなわち、政府があって初め. その外側の、 レジームを包含する「グローバル・ ガ. て秩序が保たれ、逆に政府がなければ秩序も存在しな. ヴァナンス論」ということになるのである。. いという論理が有力であった。しかし、政府がなくと.  また、グローバル・ガヴァナンスはその「ルーツ」. も、一定の秩序が保たれている。実際、国際社会には. として、また「アプローチ」として、リアリズムもリ. 国際政府はないが、ある何らかの秩序が存在している. ベラリズムも包含しているのであるが、本論文が方法. ことに注目したのである。また、逆に政府が存在して. 論として用いるグローバル・ガヴァナンス論は、リベ. いても、秩序が保たれているとは思えない社会は、世. ラリズムである。なぜなら、本論文で分析の枠組みと. 界中に少なくない。こうして、世界はアナーキーでは. して用いている、認識共同体やソフト・ローは、リベ. あるが、何らかの制度化された社会として捉えること. ラリズムの流れのなかにあるからである。. ができると、ローズノーらは見るのである。.  まず、渡辺昭夫・土山實男の、グローバル・ガヴァ.  同じリアリズム系統のアプローチをとる理論家とし. ナンスについて述べた次の文章において、認識共同体. ては、イギリス学派の重鎮の1人であるヘドリー・ブ. がリベラリズムをルーツとするグローバル・ガヴァナ. ルの存在がある。ブルのガヴァナンス論は、経済的観. ンスであることを確認したい 。. 点からの思索に乏しいといわれることもあるが、 ア.  「リベラル制度論とよばれる国際政治学のひとつの. ナーキーな国際社会においても秩序が主権国家の活動. 到達点として、グローバル・ガヴァナンスを位置づけ. の「結果」として自然発生的に得られるとしたのは、. ることができる。この学派に合流する理論としては、. 「神の見えざる手」によって市場には一定の均衡が生. 1980 年代にリベラル理論の中心的概念としてもては. じるとした経済学の分野における考え方と呼応する面. やされた国際レジーム論、そして、それと前後して論. もある。これに対しローズノーらは、ガヴァナンスに. じられるようになった専門的知識を持った集団の役割. おける秩序は自然発生的に得られるものではなく、. を重視する「エピステミック・コミュニティ」論など. 「意図」 をもってしないと得られない、 としている。. である。これらはみなもともとはリアリズムを批判す. ローズノーらは秩序を得るためには秩序への志向性が. る形で登場したリベラル理論派の国際政治学である. 存在していなければならない、としているのである。. が、結果的にこれらが総合されて新しい概念としての.  次に、先に分類したうちのリベラリズムの思潮に沿. グローバル・ガヴァナンスをうんだ形となっている。 」. うレジーム論に立つ理論家として、オラン・ヤングの.  また、 ソフト・ ローに関しては、 例えば Porter,. (7). 65. Sustainable Development(SD)が獲得した 「権威」の源泉             −グローバル・ガヴァナンスの視座から− .

(4) Gareth・Brown, Janet, Welsh が次のように指摘してい.  分析・ 研究の対象であるブルントラント委員会は. る 。. 「賢人会議」として捉えることができ、賢人会議は国. (8).  「農薬の貿易や(バーゼル条約に先だつ時期の) 有. 際政治におけるアクターの 1 つである。それは、新し. 害廃棄物の貿易のような地球環境問題については、非. いアクターの発見でもある。さらに、 「ブルントラン. 拘束的行動規範及びガイドラインがあった。これは地. ト委員会」は「認識共同体」としての性格を有してい. 球環境政治においてソフト・ ロー( soft law) と呼ば. ることも明らかにしていく。. れるものであるが、これも程度の異なる効果をもった.   「権威」は多義性を持った言葉ではあるが、先に見. レジームと考えることができる。」. た定義によっても、 「権力」とは相違して、威嚇や暴.  そして、 (国際) レジーム論が「リベラル理論の中. 力を伴ったものではない。ブルントラント委員会とそ. 心的概念としてもてはやされた」のであるからには、. の提唱した SD を考察してみると、威嚇や暴力と不可. ソフト・ ローもリベラリズムの流れのなかにあると. 分な権力によってではなく、ガヴァナンス、認識共同. いって差し支えないであろう。. 体、賢人会議、ソフト・ローなど、 「合意」と関わり、.  多様なグローバル・ガヴァナンス論のなかで、本論. また志向する概念を基本として「権威」が発生してい. 文が分析の枠組みとして用いるグローバル・ガヴァナ. るとみることができる。そういった「合意形成」は、. ンス論は、リアリズム、リベラリズム双方が認めてい. 地球環境問題解決の必須条件である。. る最大公約数ともいうべき、「ガヴァメント」 と「ガ.   そ し て、 地球環境問題 に 関 す る 独立委員会 を ス. ヴァナンス」は相違しているということ、すなわちガ. ウェーデンなどの北欧諸国が立案した際、立案者は、. ヴァナンスは必ずしも政府によらなければならないわ. この独立委員会設置の案件を国連総会で採択するこ. けではなく、政府があるからといって良いガヴァナン. と、さらに委員会の報告書についても国連総会で採択. スが得られるのでもない、 という社会認識を前提と. することを意図していた。 実際そうすることによっ. し、そのなかで、地球環境問題に関して SD が権威を. て、ブルントラント委員会ならびに SD は高度の権威. 獲得した要因の究明にあたって、 従来の「コンテン. を持ったソフト・ローとして機能することとなった。. ツやアクセプタンス」では捉えきれないが、「インス. また、ブルントラント委員会はアナーキーな国際社会. ティチューションやインキュベーション」、すなわち. において、安寧と秩序を求めるグローバル・ガヴァナ. 認識共同体なり、ソフト・ローを包含するところのグ. ンス概念の顕現化を、SD という概念を通して行った。. ローバル・ガヴァナンス概念を援用すれば、SD の権. すなわち地球環境問題の解決と密接な関係にある南北. 威性はより明確に捉えられるということを拠り所とし. 問題解決への貢献である。そのような視点に立てば、. ているのである。. ブルントラント委員会の生みの親ともいうべきナイロ ビ会議の再評価が導き出される。. 4.研究内容. 5.論文の構成.  SD に関して、 まず環境経済学を中心とした先行研 究のリビューを提示する。 次に、 ブルントラント委.  全体を2部構成とし、第1部ではブルントラント委. 員会が日本の提唱によって設置されたとされる時代、. 員会と SD に関するいわば情報の提示を行う。そこに. 1970 年代から 80 年代にかけて、日本は世界の環境政. おける情報としては、SD 概念の研究リビューにとど. 策のイニシアティブをとることができたのであろう. まらず、ファクト・ファインディングとしての情報を. か、という問いに対しては、ブルントラント委員会設. 数多く提示している。. 置の経緯の検証を行った。ナイロビ会議当時の環境庁.  第2部においては、第1部において得られたブルン. 国際課長に対するインタビューを行い、種々の文献で. トラント委員会の諸相をもとに、国際関係論の分析枠. その証言内容について精査するとともに、その整合性. 組みとしてのグローバル・ガヴァナンス、認識共同体、. の担保として、地球環境外交のカウンターパートの1. ソフト・ローなどの諸概念を用い、SD がいかにして. 人である当時のスウェーデン政府担当課長との間での. 権威を獲得してきたかを解明している。. 何度かの往復書簡によって、環境庁国際課長の証言と. 6.独自性. の整合性を検証し、齟齬のないことを確認した。すな わち、ブルントラント委員会の立案と活動を主導した. (1)SD 研究における方法論の斬新性。. のは、日本ではなくスウェーデンなどの北欧諸国であ り、従来定説となっていた史実の訂正を行った。. 論文.  SD の概念は従来から存在していた概念を、ブルン. 66.

(5) トラント委員会が近代的な概念に「孵化」させたもの. これらの状況にもかかわらず、ナイロビ会議は、ナイ. といえる。その SD 概念は多大な権威を獲得している. ロビ宣言の採択など、ストックホルム会議の成果を絶. が、その要因の分析・解明において従来とは異なる方. やさない役割を果たした。そして、特に強調したいの. 法論を用いた。すなわち、従来の SD 研究の主な対象. は、ナイロビ会議において地球環境問題に関する独立. はその概念の分析であったが、それとは異なる、環境. 委員会(ブルントラント委員会)の設置が提唱され、. 政治、国際関係論のアプローチからの分析を行った。. SD の源となったことである。SD が今日地球環境問. 具体的には、グローバル・ガヴァナンス、認識共同体、. 題ばかりでなく、科学と思想全般に多大な影響を与え. ソフト・ローなどを分析の枠組みとし、権力よりも権. ていることからも、ナイロビ会議の与えた影響は他の. 威、ガヴァメントよりもガヴァナンスが有効となり得. 会議のそれに劣らない。ナイロビ会議の再評価を提起. る地球規模の環境政策において、SD が普遍性を獲得. する所以である。. し、今日の権威を獲得した源泉を追究した。これによ (6)ファクト・ファインディングとそれに基づく史実. り、SD 研究は新たな重層性を得ることとなった。. の訂正を行った。 (2)賢人会議を国際関係論のうえでのアクターの1つ.  ナイロビ会議当時の環境庁国際課長、環境外交のカ. として捉えた。. ウンターパートの1人であったスウェーデン政府担当.  ブルントラント委員会をはじめとするブラント委員. 課長の証言から、地球環境問題に関する独立委員会の. 会・パルメ委員会などの賢人会議(独立委員会)を、. 立案は、日本ではなくスウェーデンを中心とする北欧. 国際社会のなかのアクターの1つであると捉える新し. 諸国によって行われたことを明らかにした。. い認識を提示した。. 7.結論. (3)ブルントラント委員会は認識共同体的性格を有す る独立委員会であるとの認識を示した。.  ブルントラント委員会の提唱した SD という概念が.  ブルントラント委員会は、独立委員会として、開発. 権威を獲得した要因は、 そもそも独立委員会を立案. と環境をめぐって対立していた途上国と先進国の融. したスウェーデンなどの戦略に既に現れている。すな. 和に顕著な功績を残し、また SD という概念の提唱に. わち、地球環境問題に関する独立委員会を立案するに. よって地球環境問題の解決に多大な功績を残した。そ. 際し、その委員会設置の採決を国連総会で行うことに. の背景・要因として、ブルントラント委員会が認識共. よって、 委員会を UNEP と同格の国連機関として機. 同体的性格を有していたことが挙げられる。. 能させ、そのことにより最高の権威を期待できるソフ ト・ローとすることに成功した。また、ブルントラン. (4)ブラント・パルメ・ブルントラント各委員会間の. ト委員会は認識共同体的性格を有しているばかりでな. 関係に新しい視点をもたらした。. く、先行して設置されたブラント委員会・パルメ委員.  ブラント・ パルメ・ ブルントラントの 3 委員会が. 会との関係においても認識共同体的性格を有してお. 別々に組織された独立委員会であるのは論を待たない. り、地球環境管理の領域において政策提言を行うアク. が、その性格は実質的に3つの委員会が1つの大きな. ターとして機能していた。. 委員会であり、3つの委員会はその大きな委員会の1.  アナーキーな国際社会において、地球環境問題に関. 部会といった性格を有していたことを明らかにした。. して国際的な合意を得るには、ガヴァナンスの作用が 求められる。 グローバル・ ガヴァナンス、 認識共同. (5)ナイロビ会議の再評価を行った。. 体、ソフト・ローなどの作用によって、ブルントラン.  ナイロビ会議に対する評価はストックホルム会議や. ト委員会自体も、提唱された SD も、地球環境政策ば. 地球サミットと比較すると相対的に低い。. かりにではなく今日の科学及び思想へのきわめて強い. しかし、ストックホルム会議や地球サミットが、環境. 影響力と普遍性を獲得し、時代のパラダイムの変容に. に対する関心の高まりのなかで開催されたのに比べ、. 関わっているといえるのである。. ナイロビ会議は 1973 年、79 年の 2 度にわたるオイル ショック後の経済環境下で開催された。また国際政治. 注. のうえでは、 東西デタント期の終結とサッチャー、. (1)World Commission on Environment and Development. レーガンの登場による冷戦への揺り戻し(いわゆる新. (1987) Our Common Future, Oxford university press, 大来. 冷戦) 、 という困難な政治状況下での会議であった。. 佐武郎監修( 1987)『環境と開発に関する世界委員会. 67. Sustainable Development(SD)が獲得した 「権威」の源泉             −グローバル・ガヴァナンスの視座から− .

(6) 現在』一藝社 p.77。.  地球の未来を守るために』福武書店。 (2) インキュベーションという言葉の原義は孵化のこと. (5) 大芝亮・山田敦(1996)「グローバル・ガバナンスの. であるが、今日この言葉は多様な局面で使用され、例. 理論的展開」『国際問題』No.438 1996 年 9 月 財団法. えば中小企業論においては新しい事業の生成を援助. 人日本国際問題研究所 pp.3-7。. する「起業支援」を指している。本論文では、この「企. (6) 大芝亮・山田敦 前掲論文 p.7。. 業支援」の意味を援用して SD が権威を獲得するにあ. (7) 渡辺昭夫・土山實男(2001) 「序章 グローバル・ガヴァ. たって「孵化器」 の役割を果たした要因をインキュ. ナンスの射程」渡辺昭夫・土山實男編『グローバル・. ベーションと呼ぶこととする。. ガヴァナンス』東京大学出版会 p.3。 . (3) 川崎修( 1998)廣松渉・子安宣邦・三島憲一・宮本. (8)Porter, Gareth.・Brown, Janet, Welsh. (1991) Global. 久雄・佐々木力・野家啓一・末木文美士編『岩波哲学・. Environmental Politics, Second Edition, Westview Press. 思想事典』岩波書店 p.441。. Inc. , 細田衛士監訳( 1998)『入門地球環境政治』有斐 閣 p.20。. (4) 土屋大洋(2000)「グローバル・ガバナンス」岩崎正 洋・植村秀樹・宮脇昇編著『グローバリゼーションの. 論文. 68.

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